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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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 都内の某所。
 夕方過ぎになると殆ど人通りがなくなる住宅街の傍の、
とある施設の近く。
 眼鏡を掛けた方の佐伯克哉は、車に肘をついて軽くもたれ掛かっていきながら、
たった今…かつて親友だった男に電話を掛けて幾つかの連絡事項を告げていくと
静かに携帯の電源を落としていった。
 Mr.Rに手配してもらったメタルグリーンに塗装されたカローラの車内に入り
運転席に腰をかけていくと、彼は溜息を吐いていった。

(…澤村、お前はあのお人好しの『オレ』の事を出し抜くつもりだったのだろうが…
お前の筋書き通りにはさせてやらない。また卑怯な手段で俺に勝ろうとして
いる限りはな…)

 瞳の奥に強い憤りを秘めていきながら、彼は助手席に座っている片桐を
見遣って行った。
 相手が安らかな寝息を立てて眠っている姿を見て、眼鏡は安堵の表情を
浮かべていく。
 片桐に関しては間一髪だった。
 自分が駆けつけるのがもう少し遅かったら澤村の部下の男たちに
拉致されてしまっていただろう。
 
「…少し癪だがな…今回ばかりはあの胡散臭い男に助けられてしまったな…」

 片桐は本日の正午過ぎにキクチ本社から、そう遠くない位置にある
取引先に一人で出向いていた。
 その帰り道…日中でも殆ど人通りのない公園の敷地内を歩いている最中に、
三人の男達に囲まれたのだ。
 その公園は今の時期ぐらいから緑が生い茂り始めて、外部からは草木に
覆われて見通しが悪くなる。
 片桐自身は日常で良く通っていたから自覚はなかっただろうが…張り込んで
誰かを拉致するには絶好のポイントだったのだ。
 Mr.Rが周囲に妖しい香を炊き込める事で…自分以外のその場にいた
全員が深く眠り込んでしまい、特に片桐に関しては効果が絶大で結局6時間
あまりも眠り続けてしまっていた。
 自分に対して殆ど効果が出なかったのは…どうやら任意で効果が出る者と
出ない者をあの男には分ける事が出来るらしい。
 以前から謎が多い男だと思っていたが…其処まで人間離れした事を平然と
やられてしまうと最早何も言えなくなってしまう。
 このカローラも足がつかない手段で確保してきた盗難車だという。
 今日一日使用するだけなら問題ないと言ってキーを渡された訳だが…
こう言ったことを可能にするツテがあるのが本当に謎で仕方なかった。

(まあ、そんな事はどうでも良いか…。あの男がどれだけ常識はずれの事を
しようが、人外だろうが役にさえ立ってくれるならそれで良い。…だが、
片桐さんをどうするかだな…)

 澤村側にこの車の事はまずバレていないだろうが、意識を失っている
相手を一人この車内に残して離れるのは気が引けてしまった。
 本多や太一、そして御堂にももう一人の自分が会社で使っている携帯を
使用して警告文や、指示の類を出してある。だから…彼らを人質にして交渉を
有利に進めようとする澤村の野望は阻止出来ている筈だ。

(まったく…お前は本当に変わっていないな…澤村。また卑怯な手段を
使って俺を叩き潰して…お前は何を得るというんだ…?)

 無意識の内に彼は銀縁眼鏡を押し上げる仕草をしていきながら…
溜息を吐いていった。
 本当はもう一人の自分が、あいつに狙われていようがどうでも
良いはずだった。
 あいつはこちらの踏み込んで欲しくない領域までズカズカと
入り込もうとしていた。
 そんな奴を本当なら助ける道義などこちらにはない。
 けれど澤村に、例えもう一人の自分が良いようにされて打ち負かされるのは
不快だと感じてしまった。
 だから仕方なく手を貸すことにしたのだが…やはり気持ちがモヤモヤしていく。
 その瞬間、携帯に一通のメールが着信していった。

「…澤村からの返事だろうな」

 そう確信して、メールの文面に眼を通した瞬間…彼は驚きを隠せなかった。
 
「あのバカ…どこまでお人好しなんだ…」

 差出人とタイトルを見ただけで彼は苦々しく舌打ちしていった。
『ありがとう』と、そのメールには書かれていた。

ー片桐さんの件は本当にありがとう。お前がオレを助けてくれるなんて
思ってもみなかったから、嬉しかったよ

 そう短く締めくくられた文面を見て、複雑な想いが湧き上がっていく。
 それともあいつは、昨晩こちらが部屋を荒らしたことに気づいて
いないのだろうか。
 そんな筈はない、無くなった物を参照すればこちらが昨晩…写真を
回収する為に忍び込んだことくらいはすぐに判ることだろう。
 それでも、こちらに対して平然と『ありがとう』と告げてくるもう一人の自分の
神経が信じられなかった。
 どこまでお人好しなら気が済むのだろうか…。

「ん、んんっ…」

 もう一人の自分からのメールを読んで考えて込んでいる間に…助手席で
眠ったままだった片桐がゆっくりと眼を覚ましていく。

「…ふぁ…あれ、もしかして…佐伯君、ですか…?」

「…やっと目覚めたみたいですね。片桐さん」

 どうやら、今のメールの着信音をキッカケに長らく意識を失ったままだった
片桐が目覚めたようだった。
 うっすらと開かれた眼差しはまたトロンとしていて、夢の世界を漂っているようだ。

「…あの、ここはどこ、ですか…? それに僕はどうしていたんでしょうか…。
何故、こうなっているのか状況が良く掴めないのですが…」

「それは…」

 眼鏡にしては珍しく、どう答えようかと言葉に詰まっていった。
 直前に起こった出来事を伝えるか否か、とっさに迷ってしまったせいで
暫しの沈黙が降りていく。

(適当に誤魔化すか…? 問題のない範囲でだけ正直に答えておくか…
どちらにすれば良いんだ…?)

 こちらが架空の事情を伝えてやり過ごすか否かで考え込んでいる間、
片桐も必死に記憶を探っていた。

「あっ…思い出し、ました…。そういえばさっき…見知らぬ男の人たちに
囲まれてしまって、本当に困ってしまって…後、もう少しで車に押し込められて
浚われる直前に、妙に甘くて不思議な香りがして…意識がスゥーと遠くなった…
其処までは、思い出しました…」

「…………」

 片桐が直前の記憶を詳しく思い出してしまった事で彼は言葉を
閉ざすしかなかった。
 ここまで思い出されてしまったら付け焼き刃の嘘は通用しなくなる。
 だから覚悟して、事情の一部を相手に説明することにした。もう少し考える
時間があるならともかく、口からでまかせを言うくらいなら多少は事情を話した方が
良いと判断していった。

「…片桐さん、すみません。今…俺の方は少し厄介な奴に逆恨みを
されていましてね…。それで、恐らくこちらに睨みを効かせる為に貴方を
拉致しようとしたのでしょう…。面倒な事に巻き込んでしまって申し訳ない…」

「逆恨み…ですか? 佐伯君は一体何をしたんでしょうか…?」

「…俺も詳しい事は知りませんですけどね。去年手がけたビオレードの
パッケージを、御堂部長に提案を持ちかけて俺が材質とデザインを変えるように
提案し、それが通った事が引き金みたいですけどね…。人づてに聞いた話
なのでどこまで信憑性があるのか判りませんですけどね…」

 眼鏡の方は、Mr.Rが頼んでもいないのにベラベラと澤村の事を語って
聞かせてくれる為にある程度の所までは把握していた。
 そう、澤村がしようとしている事は脅迫であり…決して正当とは
言えない行為だ。
 それを阻止する為に、今回だけはこうして自分が現実に現れて色々と
動いた訳である。

「…そう、なんですか…。佐伯君、大変だったんですね…。精一杯仕事を
したのに、それで恨まれてしまうなんて…。パッケージの件は本多君から
以前聞いた事があるんですけど、御堂部長に提案されて全力で取り組んで
必死に考案したから直前で採用されて…其れが通ったと聞きました。
それだけ、君は真剣に仕事をしただけなのに…」

「いや、俺は…」

 と言いかけて、それ以上何も言えなくなった。
 その採用された一件は自分は関わっていない。
 『オレ』が御堂の期待に応えようと努力しただけの話で…こちらがこんな風に
片桐に労られる謂われはない。
 なのに片桐は慈愛に満ちた表情を浮かべながら…予想してもいなかった
言葉を向けてくる。

―けど、君がどんな状況になっていようとも…僕も本多君も佐伯君を大切に
想っています。巻き込まれたとしても迷惑だなんて想っていませんから…。
むしろ、そんな人に負けないで欲しいですから気にしなくて大丈夫ですよ…

 さっき、自分と澤村との確執に巻き込む形になって…でこの人は複数の男に
囲まれて拉致されそうになった。
 それがどれだけこの人は不安に思ったのか、怖かったのか想像すれば
容易に判る筈だ。
 なのに…そんな状況に陥ってもこの人はこちらに「気にしなくて良い」と
微笑みながら伝えてくる。
 その瞬間、チリリと胸の奥に痛みが走った。

(これが、仲間…か…)

 そう、実感した瞬間に認めたくないが…もう一人の自分に強い
嫉妬を覚えてしまった。
 小学校時代、自分が孤立した時…誰も味方になどなってくれなかった。
 唯一の仲間だと信じていた人間にさえも陰で裏切られていた。
 なのにもう一人の自分は…自分が侮って見下している方の人格は
とばっちりを食らう事になっても離れる事のない人間関係を築き上げている。
 それを今の片桐の言葉で実感していった。
 何と言えば良いのか、判らなくなってしまった。
 これ以上、片桐の顔をまともに見ていられなくなり…彼はそっと
ドアを開けて外に出ていく。

「佐伯君…? もしかして、今の言葉…君の気分を害してしまった
のでしょうか…?」

「…関係ありませんよ。ちょっと外の空気を吸いたくなっただけですから…」

 そうして、眼鏡は目の前に広がる光景を眼を細めて見遣っていった。

(まったく…あの男は。本当に皮肉に満ちているな…。良くこんな所を
見つけだしたものだ…)

 そうして、彼はフェンスの向こうに広がる敷地内を眺めていく。
 初めて来た筈なのに、妙に懐かしささえ感じられた。
 そう…彼が車を停めているのはとある小学校の裏手の道路だった。

―ここならば貴方が過去と決別するのに絶好のロケーションとなる筈です…

 そういってこの車にはナビが設置されていて、片桐を救出した後に真っ直ぐに
ここに向かった訳だが…ここに訪れた時、言葉を失いそうになった。
 
―ここはあまりに、彼が通っていた小学校に似ていたからだ

 建物の外観も、体育館やプールなどの配置も…何もかもが
思い出したくもないあの学校とまったく一緒だった。
 確かに小学校なら、児童が帰った後なら身を隠すには絶好の場所になる。
 目の前の風景を眺めていきながら…彼は逡巡していった。

(いい加減、過去を吹っ切るべきなんだろうな…)

 忌まわしい地に良く似た場所を見つめていきながら…彼は
ごく自然にそう思っていく。
 少しずつ、彼が過去と決別する為の舞台が整い始めていることを
感じていきながら…彼は煙草の先に火を灯して、肺の中を紫煙で
満たしていったのだったー
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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