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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                      10 11 12 13   14

―お前の事、好きだ…!

 そう言おうとした瞬間、克哉の脳内に何か電流のようなものが
走り抜けていった。 
 其れはこの世界に来てからずっと掛けられていた、記憶の扉を
解錠する為のキーワードになっていた事を克哉は知らない。
 独り言で言うのではなく、もう一人の自分に聞こえる形で告げる事が…
あれだけ焦がれていた克哉の記憶を取り戻す唯一の手段であった事を
彼は知らなかった。

「うっ…あああっ…!」

 耐え難いぐらいの頭痛を、味合わされて…克哉は木製の床の上に
悶え苦しんでいく。
 今までずっと閉じ込め続けていた記憶が、忘れていた事実が
何だったかを…克哉はその瞬間、思い知らされていった。
 克哉のその様子を、眼鏡は半ば茫然となりながら見守っていく。

(ついに、この日が来てしまったか…)

 予想以上に早く訪れてしまった事に、眼鏡はショックを覚えていた。
 克哉がこんなにも苦しんでいるのなら、手を差し伸べるのが筋だろうと
いうのは彼にも判っていた。
 けれど…覚悟はしていても、密かに恐れていた事態がついに来て
しまったせいで彼は硬直してしまっていた。
 だから…克哉が記憶を急激に取り戻して、苦しんでいる姿を
今は眺める以上の事が出来ずにいた。

―そして克哉は思い知る。記憶を取り戻したら、あの哀れな自分と同じような
結末を辿ると言われた言葉の意味を…

 真っ先に思い出したのは、二年にも渡る長い介護に疲れ果てた
自分の姿だった。
 恋人を刺されて、その日から意識不明状態になって長き昏睡状態に
陥ってしまった相手を待ち続けて…記憶を失って、此処に訪れる寸前の
克哉はすでに疲れきってしまっていた。

『お願いだから目覚めて、本多…お願いだよぉ…!』

 そう叫びながら、本多に縋りついている自分の姿を思い出していく。
 そしてあの日、倒れていたのは…冷たい雨の中に立っていた男と、
倒れていた男の正体も同時に思い出していく。
 松浦宏明、自分と本多と同じ大学のバレー部に所属していた…
かつてキャプテンを務めていた恋人にとって、信頼していた仲間の
一人だった。
 一体、どういった経緯でこんな事態が起こったのかまでの道筋は
今の克哉には思い出せない。
 そして詳細、どんな会話のやりとりがなされていたのかもまだ
はっきりとは判らない。
 だが、今までずっと不明なままだったパズルのピースが埋まっていくのを
感じて、克哉は叫んでしまった。

「嘘だ、こんなの…嘘、だ…! どうして、俺と本多が恋人同士に…?
それに何で、松浦が…本多を、殺し掛けたんだよ…!」

「…ついに、お前は…思い出して、しまったか…。その出来事を…」

「お前、もしかして…知っていたの…?」

「ああ、そうだ…。俺はある程度の事を大体把握した上で…お前と二人で
ずっとこの世界で過ごしていた。お前にとっては優しい、ぬるま湯のような
この場所でな…」

「やっぱり、そうだったんだね…」

 その言葉に憤りを覚えると同時に、妙に納得している自分が
存在していた。
 眼鏡の瞳の奥にあるどこか切ない輝きに克哉は察していた。
 自分に向けられた感情が愛情や好意だけではないことを
すでに薄々とは察していたのだ。
 けれど問いただしたら関係が大きく変わってしまいそうで…
だから見ない振りをしてやり過ごして部分があった。

「知ったから、どうするというんだ…? 全てを知った上でお前を抱き、
共に過ごしていた俺を憎むか…?」

「違う! 憎める訳がないじゃないか…! お前の事、こんなに…
好きになっているのに…!」

 気づけば克哉の両目から涙が浮かんでいた。
 割れるような頭の痛みと涙によって顔をぐしゃぐしゃにしていきながら、
克哉はどうにか気力を振り絞ってその場から上半身だけでも
起こしていく。

「…酷い顔だな…」

「うるさい、そんなに判っているよ…! けど、もう…見ない振りなんて、
オレは出来ない…! どうしようもなく、お前の事を想ってしまったんだ…!」

「なら、本多の件は一体どうするんだ…?」

「っ…!」

 眼鏡は的確に、克哉に取っての最大の泣き所を突いていった。
 たった今、思い出したばかりで混乱してて…この先、どうするかといった事を
考える余裕は彼にはなかった。
 どうすれば良い、と言われても…すぐに思考が切り替えられる訳ではない。
 だから声を大にして、彼は絶叫するしかなかった。

「そんなの…そんなのすぐに判る訳がない! 考えられる訳がないだろう!
オレの方が逆に聞きたいよ…! オレは、どうすれば良いんだよ!」

 克哉が記憶を取り戻す事によって、この世界に大きな綻びが生まれていく。
 彼がここ数年の出来ごとを忘却していたから、成立していたこの場所は…
永遠に決して存在する事が出来ない、元から儚い世界である宿命を
背負っていた。

―そして克哉は、泣きじゃくり続けていく…

 そんな克哉を、憐れみの眼差しで見つめていきながら…ようやく眼鏡は
躊躇いがちに、相手の方に指先を伸ばしていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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