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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 これは10月11日に発行する新刊「SIREN」の
冒頭部分、試し読みになります。
 この最初の部分以降はエロばかりの内容になるので
ご了承下さい。

 鬼畜覚醒した眼鏡克哉と、そんな眼鏡に堕とされる克哉の
お話になります。
 良ければ、イントロダクションに当たる部分だけでも
見てやって下さいませ。
 それでは失礼します。

追記 新刊表紙、70%程度色塗り完成。

 
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 とりあえず10月11日発行予定の新刊の
表紙線画のみになります。
 本文の方は現在、タイトル候補が二つあって
まだどっちかに決めかめているので保留。
 本日の夜までには決めますので、その時点で
初めの方だけ本文も掲載させて頂きます。
 朝の時点では線画のみの掲載になります。
 興味のある方だけ「つづきはこちら」を
クリックしてやって下さい~。

※桜の回想は、もう少し時間を取って掲載していきたいので一旦、間を置いて
こちらを連載開始させて頂きます。(5~6話程度の長さの予定です)   
  
この話は2009年の日付設定で執筆されています。
  そして鬼畜眼鏡R経過前提です。 
  Mr.Rが絡んでくるのでなかなか不可思議なことが起こりまくる予定です。
  この三点を予めご了承の上、お読みくださいませ(ペコリ)

 
 
 ―愛しい人と再会して、会社を設立して一緒に運営するようになってから
丸八ヶ月が過ぎようとした頃。
 佐伯克哉はある事で真剣に悩んでいた
 
 9月22日、愛しい人の誕生日の一週間前。
 もう間近に迫っているというにも関わらず、彼にしては珍しく御堂に対して
何を贈って良いのか決めかねていた。
 正式に恋人関係になってから初めて迎える、大切な人の誕生日。
 その日ぐらい何かを相手に贈りたいと…ごく自然に思ったからここ数日、
ずっと考え通しだったのだが…いまいち、思考回路は順調とは言えなかった。
 しかもその一日ももうじき終わろうとしている。
 初めてのシルバーウィークの真っ最中。
 この長い連休を御堂と過ごしながら、克哉なりに必死に考えていた。
 今、御堂は入浴中で克哉の目の前にはいない。
 だからこそ余計に、来週贈るべきプレゼントを何にしようかその考えで満たされ
てしまう訳だが…一番良いのがなかなか浮かばなかった。
 
(…あいつに俺が贈りたいものと言ったら、真っ先に浮かぶのは指輪だがな。
だが…それはまだ早い気がする。せめて二人で運営しているアクワイヤ・
アソシエーションを一年は無事に持たせてもう少しが軌道に乗せてからにしたい…)
 
 そう、克哉の気持ち的にはすでに御堂と生涯添い遂げたいとすら思っている。
 だが、まだ自分が定めている目標にまで全然到達していない。
 御堂は彼にとってもっとも愛しい相手であると同時に、追いつきたいと思っている
目標でもあり、対等に並びたいと望んでいる存在がある。
 
―だからまだ途中経過でしかない段階でプロポーズを兼ねて指輪を
贈るのは早計だと思った。
 
(意味を込めて指輪贈るなら、胸を張れるだけの成果を出してからにしたい…。
これは俺のプライドだけどな…それは、譲りたくない…)
 
 だが、それを除くと御堂に相応しいプレゼントは何か…思い浮かぶものが
あまりない。
 御堂の生まれ年でもあるヴァンテージワインでも、と思ったが…彼が喜びそうで、
克哉が今求めている水準の代物は運悪く手に入らなかった。
 ワインを愛好している相手に贈るならば、日常で飲めるような代物では
物足りないだろう。
 最高級と言われる銘柄で、彼の生まれ年の物。
 だが、そんな希少品と言われる代物は一ヶ月前から手を尽くしているが
一向に見つかる気配はない。
 克哉が希望している水準の物は、すでに愛好家やバイヤーの手に渡って
しまって簡単には流れて来ないレベルの代物ばかりだ。
 毎日、マメにネットに接続して調べているが…一向にチャンスに恵まれなかった。
 そのおかげでもうじきリミットを迎えてしまいそうだった。
 
「指輪、ワイン…あいつに贈りたいと思うものはそれぐらいしかないんだがな…。
なかなか上手くいかないものだ…」
 
 どうせプレゼントするなら、同時にサプライズになる物の方が良い。
 相手を驚かせて、楽しませる事が出来そうな品か場所…。それを彼なりに
探しているのだが、これだ!と思えるものは見つからないままだった。
 
「くそっ…このままではタイムリミットを迎えてしまうな。中途半端な物を贈ったり、
連れていくような真似はしたくないのに…」
 
 苦渋に満ちた表情を浮かべながら呟いていくと、克哉は革張りの大きな
ソファに腰を掛けながら、煙草に火を点けて…紫煙を燻らせていった。
 
―それなら、良い場所を紹介しましょうか…?
 
「っ…!」
 
 唐突に窓の方から、聞き覚えのある声が耳に届いて…克哉は
慌ててそちらに視線を向けていく。
 其処には長い金髪と漆黒のコートをなびかせた、妖しい男が立っていた。
 言わずと知れた、Mr.R…時々克哉の前に前触れもなく現れる謎多き男だ。
 不審さと胡散臭さに掛けては右に出る者はいない程で、現れる度に
難解な言葉掛けと、不吉な予感を与えて去っていくという行動を繰り返している。
 今の眼鏡を掛けた克哉が十数年ぶりに解放されるキッカケを与えてくれた
存在でもあるのだが、基本的に彼は決してこの男を信用してはいなかった。
 
(…というか、こいつはどこから出て来たんだ…? このマンションの住居
区域はオートロック式の上、ここは最上階の筈だぞ…?)
 
 克哉が自分の会社と住居を構えたこのビルは都内の一等
地にある上にセキュリティ関連も万全である筈だった。
 普通の人間なら、無断でこうやって室内に入って来るのは
不可能の筈なのである。
 しかし目の前の男は、ごく当たり前のような顔をして存在しているのを見て、
克哉は一つ…気づいた事があった。
 
(…冷静に考えれば、コイツを普通の人間に数える方が愚かだったな…)
 
 そう自分に言い聞かせて、体制を立て直していく。
 しかしその表情は、極めて不機嫌そうかつ…偉そうなものであった。
 
「…一体どこから湧いて来た、という件は不問にしておいてやる…。しかし、
一体どこに俺たちを案内するつもりだというんだ…?」
 
―…そうですねぇ。ちょっとしたアトラクションを楽しむことが出来る場所…
とでも申しておきましょうか…?
 
「アトラクション…だと?」
 
―えぇ、ちょっとした趣向を凝らしてありましてね…。この鍵を使用します…
 
 克哉が怪訝そうな眼差しでそう問いかけていくと…男は唐突に懐から一本の鍵を
取り出して彼の前に見せていった。
 
「…何だ、その鍵は…?」
 
―そうですね、魔法の鍵とでも申しておきましょうか…? 貴方と、最愛の人を
非日常の世界へと…お連れする為のね…
 
「魔法の鍵だと…馬鹿馬鹿しい。おとぎ話の世界でもない限り…そんなものは
有り得ない。それにその鍵で、何が出来るというんだ…?」
 
―貴方が承諾して下さるなら、この鍵を使用する場所に…御堂様の生誕日に
お二人をお連れして差し上げましょう。まさに其処は非日常…いえ、幻想空間
そのもの。退屈極まりない日常生活内では決して味わえない娯楽と、
エキセントリックに満ちた素晴らしい場所です。サプライズとしては…
恐らくそれ以上のものは望めないでしょう…
 
 男はまるでセールストークか何かのように実に流暢に
言葉を並べ立てていく。
 だが、熱っぽく語れば語るだけ…胡散臭さもまた増大していった。
 
「だから遠回しな言い方はこれ以上しなくて良い…。これを使う場所は
どういった所なのかだけ簡潔に話せ」
 
―そうですね…とある古城の中に、沢山の鍵穴が並べられている空間があります。
その鍵穴にこの鍵を差し込むことによって…様々な趣向を凝らされた素晴らしい
部屋へと誘われる事でしょう。しかし…鍵は五回使えば、壊れてしまいます。
 何十個もある鍵穴から…果たしてどのような部屋に辿り着くか…実に
ワクワクしませんか…? スリルと高揚を求めるならば…試されてみるのも一興ですよ…?
 
 男は実に楽しそうにこちらに薦めてくる。
 その言葉を聞いて、克哉は考えあぐねいていた。
 
―こいつの言葉を本当に信じて良いのか…?
 
 克哉の中には、Mr.Rの言葉に激しく警戒している部分があった。
 この男が善意だけでこちらにこんな話を持ちかけてくるとは到底思えない。
 何らかの裏か、別の意図が隠されているに間違いなかった。
 訝しむような顔を浮かべていきながら克哉が考え込んでいくと…男は、
ねっとりと甘い声音でこう呟いていった。
 
―嗚呼、一つ言い忘れておりました。数ある部屋の中には…貴方様が心の奥底に
秘めて隠していらっしゃる欲望を満たす為の素晴らしい部屋が…幾つも
用意されています。きっとその部屋を引き当てたなら…ご満足して頂けると思いますよ…?
 
「…素晴らしい部屋、だと…?」
 
―えぇ、途方もなく。貴方の好みにぴったりだと思いますよ…
 
「ふむ…」
 
 その言葉を聞いて、少しだけ興味が湧いていく。
 実際に辿り着いた部屋のどれかを使う使わないは置いておくことにして…
今の発言を聞いて少しだけ試してみても良い、という風に心が傾き始めていった。
 
「…とりあえず鍵は渡しておいて貰おうか。実際に使うかどうかはまだ
判らないがな…。気が向いたなら試してみても良い…」
 
 そう克哉が答えた瞬間、男は愉快そうに微笑んでいった。
 
―えぇ、必ずやお気に召して頂けることでしょう…
 
 そうして男はそっと克哉の手のひらに豪奢な装飾が施された
銀色の鍵を手渡していく。
 瞬間、ほぼ同時に背後の扉がガチャと開く音が聞こえていった。
 
「克哉…今、上がったぞ…待たせたか…?」
 
「あ、ああ…」
 
 とっさに御堂の声がした方向を振り向いていく。
 そしてすぐにハっとなった。
 今、自分の前にはあんな胡散臭い男が立っているのを御堂に
見られる訳にいかない。
 だが、御堂は無反応のままだった。
 
「…? どうしたんだ克哉?」
 
「い、いや…何でもない」
 
 そう答えて、黒衣の男が立っていた方角を見やっていくと…其処には何も
存在しなかった。目を離していたのは本当に一瞬。
 その間に男は煙か何かのように…跡形もなく消えていた。
 
(ど、どこまで人外なんだ…あの男は…)
 
 流石にこれは克哉も言葉を失いかけたが…今更、あの男の非人間的な部分を
どうこういっても仕方がない気がした。
 
「…克哉、様子が変だぞ…? それで、君もシャワーを浴びてくるのか…?」
 
「ああ、すぐに戻ってくる。少し待っていてくれ…」
 
 そう答えて、相手の唇に小さくキスを落としていく。
 手の中にある鍵を悟られないようにしながら…平静を取り繕っていき、
静かに御堂の脇を抜けていった。
 そして浴室の手前、脱衣室まで辿り着いていくと…ドっと疲れが出た。
 
「…魔法の鍵か…。あんな男の言葉を真に受けて良いものか…」
 
 そう呟きながら、克哉は手のひらの上にある…銀色の美しい鍵をそっと眺めて、
暫く考え込んでいったのだった―
 
 
 
 こんにちは、土曜日辺りから扁桃腺が腫れてここ数日、
夜はヘバっていた香坂です。
 それでも昨日、気合で夜の内にアップしようと一本
仕上げましたら…。

 アップしようとした時間帯がサーバーメンテナンス中でした(涙)

 朝七時に終わるっていうので、7時2分ぐらいにアクセスして
もし出来たら今日はバス一本遅らせてでもアップして出て行って
やるわ! とか思っていたんですが7時5分過ぎてもアクセス出来ないので
おとなしく諦めたら更新したのが日付変更間際になりました。
 本当にこんなオマヌケな管理人ですみません(汗)

 後、桜の回想…ちょっとまだ頭の中でラストまでの道筋がピシっと
見えて来ないので少し時間頂きます。
 ラストはどうするかは決まっているけど、今…アップした分から、其処に
至るまでの経緯が頭の中で組み上がりきっていないので。
 少し時間取って、しっかり見えた頃辺り(来週辺りから)取り掛からせて貰います。
 という訳で御堂さん誕生日ネタになるメガミドの『魔法の鍵』開始しますよ~!
 当分、アップするものがまた前後したり…新刊の製作情報をチョコチョコアップしたり
していくと思われます。
 けど、出来るだけ更新して行きます! イベントが終わればまた落ち着いて
いきます。今週は目を瞑ってやって下さいませ。

 水曜日は会社が休みなので、出来るだけこの一日でガツンと新刊の製作の方を
進めたいです!
 ではん! 
 とりあえず本日、別ジャンルの方の原稿関係は
無事に完成して送信しました!
 つか、マジで間に合って良かったです。
 …今週はPCエラーが起こって、二日ロスが出た為に
色んな予定が押してしまって、9月29日の御堂さん誕生日も
当日にはちょっと無理でした…(くう)

 とりあえず一段落ついたので10月11日の新刊と、
連載、それと御堂さん誕生日関連のSSもアップしていけたらと
思っています。
 …平行してやっているので、ちょっと飛び飛び掲載に
なっていますがご了承下さい。

 後、スプレーオンリーの新刊は克克のエロが濃い目の話で
行こうかなって思っています。
 現在、誠意製作中です。
 表紙等も線画や本文等が仕上がりましたら、サイトの方に
掲載させて頂きます。
 本日はちょっと原稿書く方を優先しますので今夜はこの辺で。
 イベント情報の方も連載の合間に随時、掲載させて頂きます。ではでは~!
※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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 ―太一と本多が喫茶店ロイドで黒服の男たちに襲撃を受けているのと
ほぼ同じ頃、御堂孝典もまた自らの執務室にいる時に突然男たちに
囲まれる処だった。
 それが未然に阻止されたのは思っても見なかった来訪者の手に
よってだ。
 御堂は今、目の前で起こっている事がとても現実の事とは思えなかった。
 あまりに非現実過ぎて、いっそ夢だと思いたかった。
 だがそんな状況の中…金髪の謎めいた雰囲気を纏った男は愉快そうに
微笑みながらこちらに声を掛けていった。
 
―大丈夫ですか、御堂孝典さん…?
 
「…………」
 
 御堂は何も言えなかった。
 不信感と警戒心を相手に対して抱いているからだ。
 誰でもこんな光景に出くわしたら幾ら相手に助けられたからと言って
素直に歓迎する訳にはいかないだろう。
 現在、御堂の眼前には巨大な植物が部屋の中心で蠢いてその触手を
男たちに絡ませて自由を奪っている。
 首筋や胴体、四肢の至る処に直径一センチぐらいの太さの蔓が絡まり…
彼らの意識も同時に奪っていた。
 その為についさっきまで突然扉を蹴破って室内に入り込んで御堂を
取り囲んでいた男たちはぐったりとしていて、完全に意識を失って
いるようだった。
 一瞬、死んでいないかどうかが心配になったが…微かに息づかいや、
胸元が上下している様子から意識を失っているだけだと判断していった。
 まさかそんな物に襲われるとは男たちも予想していなかったのだろう。
 半狂乱になりながら、彼らは悲鳴を挙げまくっていた。
 
(一体…これはどんな状況なんだ…? 私は起きたまま夢でも
見ているのか…?)
 
 紛れもなく御堂は起きている。
 だが、こんな異常な出来事を目の当たりにして…彼は思考回路が
停止しかけてしまっていた。
 日頃は頭脳明晰、明確な判断力のあるリーダーと評される男性であっても、
現実に起こる訳のない出来事を体験している最中は凍り付いてしまうものである。
 
―これは夢ではありませんよ。れっきとした現実です。これは単純に貴方に
身の危険が迫っていたから…私のペットに頑張ってもらっているだけです
からお気になさらずに…
 
「…これを、気にせずにいろというのか…?」
 
 セックスの趣味以外は基本的に常識人の御堂にとってはとても男の言葉を
鵜呑みにして、気にせずにいるなどという芸当は出来なかった。
 
―えぇ、邪魔者を排除するという目的の為に行った事ですから…。貴方に
何かあれば、克哉さんが悲しみますからね…
 
「…君は克哉とどういった知り合いなんだ? こんな異常な芸当を平然と
する輩とは決して私は関わっていてもらいたくないのだが…」
 
―随分な謂われようですね。まあ、それくらい私に向かって言える方で
なければ…今はしなやかで強くなられた克哉さんに相応しいパートナーとは
言えませんからね…
 
 そうして黒衣の男は不適に微笑んだ。
 一見すると美しいと形容しても差し支えない笑顔だったが…最早御堂には
相手がそんな顔をしようとも胡散臭くしか見えなかった。
 
「話をはぐらかすな。ちゃんと答えろ…。君は一体、克哉とどういう関係なんだ…?」
 
 目の前の男は友人や同級生、仕事上の付き合い、親戚等…どの関係に
当てはめてもしっくりいかないような気がした。
 男の纏う空気は明らかにカタギの人間のものとは大きく異なっている。
 Mr.Rもまた、御堂からのその問いかけにどう答えていいものか軽く
首を傾げているようだった。
 二人の間に沈黙が落ちていく。
 そして強い意志を込めて、御堂の紫紺の双眸が男を睨みつけていく。
 
「…貴方も、なかなかの素材ですね…御堂孝典様…」
 
「質問に答えろ、と私は言った筈だ。関係のない事を持ち出して逃げるのは
いい加減止めてもらおう…」
 
「判りました。じゃあお答えしましょう…強いていうなら、克哉さんの
古い友人と言った処ですね…」
 
「友人、だと…?」
 
 まさかそんな答えが帰ってくるとは思っていなかっただけに
御堂は言葉を軽く失い掛ける。
 逆にこちらのそんな反応を見て、男は満足そうな笑みを
浮かべて言葉を続けていった。
 
―えぇ、私と克哉さんが初めて出会ったのは15年前…あの人が
小学校を卒業した日の事です。大切な人間に裏切られて傷ついた瞳を
浮かべていた彼を…つい放っておけず、その苦しみから逃れさせる為に
手を貸してしまいました。
それが…佐伯克哉さんと私の出会った日に起こった出来事です…
 
「小学校の、卒業式…?」
 
 その単語に、御堂は何かが引っかかって違和感を覚えていく。
 二週間前から様子がおかしくなり始めて、徐々に昔の事を思い出した
克哉の口からも、何度も出ているキーワードだった。
 
「…一体、その日に何があったというんだ…? 傷ついている克哉を
放っておけなかっただと…?」
 
 今の御堂にとって、克哉は最愛の人間だ。
 何人もの相手と今まで付き合って来たが…本気で一生添い遂げたいと
願うほど夢中になり、自分から同棲しようとまで切り出した相手は
彼一人だけだった。
 だから、それが15年も昔の出来事であったとしても…彼が悲しんでいたと
いうのなら、聞き捨てならなかった。
 
―佐伯克哉さんはその日に、大切な人間から長きに渡る裏切りの事実を
告げられました。心からその相手を信じていたからこそ…少年だった頃の
彼にはその体験は耐え難く、それまでの自分の全てを否定する程の
出来事となってしまわれたのですよ…
 
「っ…!」
 
 その言葉を聞いた瞬間、御堂の中で符号が一致していく。
 二週間前、自分のマンションの入り口に立っていた克哉の親友だと名乗る男と、
相手を覚えてないと必死に言い張る克哉の姿。
 そして自分の実家に戻った時に、ある程度のことは思い出したと言っていた。
 
(まさか…記憶喪失、という奴なのか…?)
 
 御堂はその時、ごく自然にその考えに至っていった。
 もし澤村と名乗ったあの男がかつての克哉の大事な人間=親友だとしたら、
その裏切りのショックで記憶が欠落して、思い出せなくなったとしたら…。
 
(そうだと考えれば全てがしっくり来る…。だが、記憶喪失などそう
起こりうるものなのだろうか…?)
 
 ドラマや映画、物語の世界においては記憶喪失という設定は
決して珍しくない。
 物事の確信に触れる謎を持った人物を序盤の方に出しながらごく自然に
物語に出演させられる便利な設定だからだ。もはや『お約束』とすら
言って良いものだ。
 だが自分の身近な人物…恋人がそんな体験をしていたというのを
妖しい男に聞かされて少なからず御堂はショックを受けていた。
 
―ふふ、信じられないという顔をされていらっしゃいますね…ですが、
御堂孝典さん…貴方が今、推測された通りですよ…。今の佐伯克哉さんは
『記憶喪失』された事で引き起こされたペルソナ…。貴方が愛している
克哉さんは、本当の克哉さんが眠っている間…身体を守っているだけの存在。
本質の方が目覚めれば消える筈の儚い存在でした…。なのに貴方との出会いが
その本来辿るべき運命を変えてしまった…。影の方が表に立ち、光が押し込められる
形となった…。私は、その間違った道筋を正したいのですよ…
 
 その瞬間、Mr.Rが浮かべた表情にゾッとした。
 あまりに綺麗で恐ろしい冷笑だったからだ。
 それでも、男が語った内容は決して御堂には聞き捨てならなかった。
 当然だ、最愛の人間を否定されるような事を言われれば恋人としては
決して許せる訳がないからだ。
 
「…そちらは…私の克哉を、彼が生きている事を間違いだと
言うつもりなのか…?」
 
―さあ、どうでしょうね…?
 
「…しかも君の言いようでは、まるで克哉が二重人格者みたいな…」
 
 と言い掛けて、御堂は言葉を止めていった。
 「二重人格者みたいな言い方ではないか」と相手に言おうとした
瞬間…彼との出会いの場面を思い出していく。
 
(あの時、本多君と私の処に乗り込んで来た時…眼鏡を掛けた瞬間、
克哉はそういえば別人みたいになっていなかったか…?)
 
 それは今の御堂にとっては二年半近く前の出来事だ。
 紆余曲折があって結ばれて、今の克哉と接しているうちに彼が眼鏡を
掛けている間…別人のような行動と言動を取っていたその記憶も遠くなっていた。
 その事を思い出した時に、御堂の顔が心なしか蒼白になっていった。
 
―…どうなされました? 貴方は今…何を言い掛けたんでしょうか? 
言わないのでしたら、続きは私の方から言わせて頂きましょうか…?
 佐伯克哉さんがまるで二重人格者みたいな言い方ではないか、
貴方はそう言いかけたのではありませんか…?
 
「くっ…! そう、だ…」
 
 図星を突かれて、御堂が言いよどんでいく。
 対照的に男は愉快そうに微笑んでいた。
 そして大仰に拍手をしてみせる。酷く芝居掛かっている動作のようだった。
 
―やっと貴方もその回答に辿り着かれたようですね。そう
…貴方の最愛の存在である佐伯克哉さんは…二つの異なる魂を一つの身体に
宿している。光と影のように、もしくは黒と白のように…相対していながら、
正反対の性質を持った二つの心を同時に宿しています…
 
「嘘、だ…」
 
 確かに一時、自分もそう疑った時期もあった。
 けれど二重人格なんて、それこそドラマや漫画、映画の中にしか
存在しそうにないものだ。
 それが、よりにもよって一番大切な人間がそうであるという事実が
御堂を打ちのめしていった。
 
―それが事実である事は、恐らく以前から薄々と貴方は気づきつつあった。
けどそれを目を逸らしていただけに過ぎない…。違いませんか? 御堂孝典さん…?
 
 男はたおやかに微笑みながら、ジリジリと御堂を精神的に追い詰めていく。
 薄々と気づいてはいながら、目を逸らしていた事実の数々を白日の下に晒しながら…。
 男の言葉に認めたくなかった。
 だが、恋人関係になってから関係を安定させたくて追及せずにいたことを
突きつけられて…適当なことを言ってやり過ごす事は御堂には出来なかった。
 だから苦渋に満ちた表情を浮かべながら「その通りだ…」と小さく呟いた時、
黒衣の男は満足そうに微笑み…片手を挙げて、唐突に御堂を己の作った
仮初の空間にゆっくりと誘い始めていったのだった―
 
 
 とりあえずどうにか別ジャンルの原稿の
清書&編集作業も終わって、明日の休みでコメントも
完成させればこっちの方は終了します。
 後は友人の分の写植等(原稿を頼んだ相手、フォトショップを
持っていないのでこっちでやると約束した)を終わらせれば
OKかな~と。
 平行して、来週のイベント用の原稿もボチボチ書き始めて
おります。
 …例のごとく、恐らく色んなことが抜け落ちていますが。
 一つのことに熱中すると、周りのことが見えなくなるというか…
事務処理能力に著しく欠けている部分が香坂にはあります。
 ここら辺が自分でも本当にイヤンです。ご~め~んな~さ~い!
 後、リンク報告をコメントにしてくださった方、ありがとうございます。
 
 桜の回想26は今夜から明日に掛けてアップ出来るように
頑張りまっす!
 全30話とか以前言っていたけど、恐らく32~35話ぐらいの長さに
なると思います。
 鬼畜眼鏡Rのビジュアルファンブックも発売したし、其れを読み込んで
改めて判ったデーターとか情報も織り交ぜられるなら取り込んで
自分に出来る範囲で書き続けていきたいと思っています。
 今月末にはとりあえずこのサイトも丸二周年を迎えます。

 職場の方では今週からまた新しい作業が始まって…それで
連日筋肉痛でちょっとヘロヘロな日々ですが…エアー
サロンパスを上手く使って切り抜けております(笑)
 近況はこんな感じです。
 それでは、この辺で失礼しまっす!

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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         21     22  23 24


 都内の某所。
 夕方過ぎになると殆ど人通りがなくなる住宅街の傍の、
とある施設の近く。
 眼鏡を掛けた方の佐伯克哉は、車に肘をついて軽くもたれ掛かっていきながら、
たった今…かつて親友だった男に電話を掛けて幾つかの連絡事項を告げていくと
静かに携帯の電源を落としていった。
 Mr.Rに手配してもらったメタルグリーンに塗装されたカローラの車内に入り
運転席に腰をかけていくと、彼は溜息を吐いていった。

(…澤村、お前はあのお人好しの『オレ』の事を出し抜くつもりだったのだろうが…
お前の筋書き通りにはさせてやらない。また卑怯な手段で俺に勝ろうとして
いる限りはな…)

 瞳の奥に強い憤りを秘めていきながら、彼は助手席に座っている片桐を
見遣って行った。
 相手が安らかな寝息を立てて眠っている姿を見て、眼鏡は安堵の表情を
浮かべていく。
 片桐に関しては間一髪だった。
 自分が駆けつけるのがもう少し遅かったら澤村の部下の男たちに
拉致されてしまっていただろう。
 
「…少し癪だがな…今回ばかりはあの胡散臭い男に助けられてしまったな…」

 片桐は本日の正午過ぎにキクチ本社から、そう遠くない位置にある
取引先に一人で出向いていた。
 その帰り道…日中でも殆ど人通りのない公園の敷地内を歩いている最中に、
三人の男達に囲まれたのだ。
 その公園は今の時期ぐらいから緑が生い茂り始めて、外部からは草木に
覆われて見通しが悪くなる。
 片桐自身は日常で良く通っていたから自覚はなかっただろうが…張り込んで
誰かを拉致するには絶好のポイントだったのだ。
 Mr.Rが周囲に妖しい香を炊き込める事で…自分以外のその場にいた
全員が深く眠り込んでしまい、特に片桐に関しては効果が絶大で結局6時間
あまりも眠り続けてしまっていた。
 自分に対して殆ど効果が出なかったのは…どうやら任意で効果が出る者と
出ない者をあの男には分ける事が出来るらしい。
 以前から謎が多い男だと思っていたが…其処まで人間離れした事を平然と
やられてしまうと最早何も言えなくなってしまう。
 このカローラも足がつかない手段で確保してきた盗難車だという。
 今日一日使用するだけなら問題ないと言ってキーを渡された訳だが…
こう言ったことを可能にするツテがあるのが本当に謎で仕方なかった。

(まあ、そんな事はどうでも良いか…。あの男がどれだけ常識はずれの事を
しようが、人外だろうが役にさえ立ってくれるならそれで良い。…だが、
片桐さんをどうするかだな…)

 澤村側にこの車の事はまずバレていないだろうが、意識を失っている
相手を一人この車内に残して離れるのは気が引けてしまった。
 本多や太一、そして御堂にももう一人の自分が会社で使っている携帯を
使用して警告文や、指示の類を出してある。だから…彼らを人質にして交渉を
有利に進めようとする澤村の野望は阻止出来ている筈だ。

(まったく…お前は本当に変わっていないな…澤村。また卑怯な手段を
使って俺を叩き潰して…お前は何を得るというんだ…?)

 無意識の内に彼は銀縁眼鏡を押し上げる仕草をしていきながら…
溜息を吐いていった。
 本当はもう一人の自分が、あいつに狙われていようがどうでも
良いはずだった。
 あいつはこちらの踏み込んで欲しくない領域までズカズカと
入り込もうとしていた。
 そんな奴を本当なら助ける道義などこちらにはない。
 けれど澤村に、例えもう一人の自分が良いようにされて打ち負かされるのは
不快だと感じてしまった。
 だから仕方なく手を貸すことにしたのだが…やはり気持ちがモヤモヤしていく。
 その瞬間、携帯に一通のメールが着信していった。

「…澤村からの返事だろうな」

 そう確信して、メールの文面に眼を通した瞬間…彼は驚きを隠せなかった。
 
「あのバカ…どこまでお人好しなんだ…」

 差出人とタイトルを見ただけで彼は苦々しく舌打ちしていった。
『ありがとう』と、そのメールには書かれていた。

ー片桐さんの件は本当にありがとう。お前がオレを助けてくれるなんて
思ってもみなかったから、嬉しかったよ

 そう短く締めくくられた文面を見て、複雑な想いが湧き上がっていく。
 それともあいつは、昨晩こちらが部屋を荒らしたことに気づいて
いないのだろうか。
 そんな筈はない、無くなった物を参照すればこちらが昨晩…写真を
回収する為に忍び込んだことくらいはすぐに判ることだろう。
 それでも、こちらに対して平然と『ありがとう』と告げてくるもう一人の自分の
神経が信じられなかった。
 どこまでお人好しなら気が済むのだろうか…。

「ん、んんっ…」

 もう一人の自分からのメールを読んで考えて込んでいる間に…助手席で
眠ったままだった片桐がゆっくりと眼を覚ましていく。

「…ふぁ…あれ、もしかして…佐伯君、ですか…?」

「…やっと目覚めたみたいですね。片桐さん」

 どうやら、今のメールの着信音をキッカケに長らく意識を失ったままだった
片桐が目覚めたようだった。
 うっすらと開かれた眼差しはまたトロンとしていて、夢の世界を漂っているようだ。

「…あの、ここはどこ、ですか…? それに僕はどうしていたんでしょうか…。
何故、こうなっているのか状況が良く掴めないのですが…」

「それは…」

 眼鏡にしては珍しく、どう答えようかと言葉に詰まっていった。
 直前に起こった出来事を伝えるか否か、とっさに迷ってしまったせいで
暫しの沈黙が降りていく。

(適当に誤魔化すか…? 問題のない範囲でだけ正直に答えておくか…
どちらにすれば良いんだ…?)

 こちらが架空の事情を伝えてやり過ごすか否かで考え込んでいる間、
片桐も必死に記憶を探っていた。

「あっ…思い出し、ました…。そういえばさっき…見知らぬ男の人たちに
囲まれてしまって、本当に困ってしまって…後、もう少しで車に押し込められて
浚われる直前に、妙に甘くて不思議な香りがして…意識がスゥーと遠くなった…
其処までは、思い出しました…」

「…………」

 片桐が直前の記憶を詳しく思い出してしまった事で彼は言葉を
閉ざすしかなかった。
 ここまで思い出されてしまったら付け焼き刃の嘘は通用しなくなる。
 だから覚悟して、事情の一部を相手に説明することにした。もう少し考える
時間があるならともかく、口からでまかせを言うくらいなら多少は事情を話した方が
良いと判断していった。

「…片桐さん、すみません。今…俺の方は少し厄介な奴に逆恨みを
されていましてね…。それで、恐らくこちらに睨みを効かせる為に貴方を
拉致しようとしたのでしょう…。面倒な事に巻き込んでしまって申し訳ない…」

「逆恨み…ですか? 佐伯君は一体何をしたんでしょうか…?」

「…俺も詳しい事は知りませんですけどね。去年手がけたビオレードの
パッケージを、御堂部長に提案を持ちかけて俺が材質とデザインを変えるように
提案し、それが通った事が引き金みたいですけどね…。人づてに聞いた話
なのでどこまで信憑性があるのか判りませんですけどね…」

 眼鏡の方は、Mr.Rが頼んでもいないのにベラベラと澤村の事を語って
聞かせてくれる為にある程度の所までは把握していた。
 そう、澤村がしようとしている事は脅迫であり…決して正当とは
言えない行為だ。
 それを阻止する為に、今回だけはこうして自分が現実に現れて色々と
動いた訳である。

「…そう、なんですか…。佐伯君、大変だったんですね…。精一杯仕事を
したのに、それで恨まれてしまうなんて…。パッケージの件は本多君から
以前聞いた事があるんですけど、御堂部長に提案されて全力で取り組んで
必死に考案したから直前で採用されて…其れが通ったと聞きました。
それだけ、君は真剣に仕事をしただけなのに…」

「いや、俺は…」

 と言いかけて、それ以上何も言えなくなった。
 その採用された一件は自分は関わっていない。
 『オレ』が御堂の期待に応えようと努力しただけの話で…こちらがこんな風に
片桐に労られる謂われはない。
 なのに片桐は慈愛に満ちた表情を浮かべながら…予想してもいなかった
言葉を向けてくる。

―けど、君がどんな状況になっていようとも…僕も本多君も佐伯君を大切に
想っています。巻き込まれたとしても迷惑だなんて想っていませんから…。
むしろ、そんな人に負けないで欲しいですから気にしなくて大丈夫ですよ…

 さっき、自分と澤村との確執に巻き込む形になって…でこの人は複数の男に
囲まれて拉致されそうになった。
 それがどれだけこの人は不安に思ったのか、怖かったのか想像すれば
容易に判る筈だ。
 なのに…そんな状況に陥ってもこの人はこちらに「気にしなくて良い」と
微笑みながら伝えてくる。
 その瞬間、チリリと胸の奥に痛みが走った。

(これが、仲間…か…)

 そう、実感した瞬間に認めたくないが…もう一人の自分に強い
嫉妬を覚えてしまった。
 小学校時代、自分が孤立した時…誰も味方になどなってくれなかった。
 唯一の仲間だと信じていた人間にさえも陰で裏切られていた。
 なのにもう一人の自分は…自分が侮って見下している方の人格は
とばっちりを食らう事になっても離れる事のない人間関係を築き上げている。
 それを今の片桐の言葉で実感していった。
 何と言えば良いのか、判らなくなってしまった。
 これ以上、片桐の顔をまともに見ていられなくなり…彼はそっと
ドアを開けて外に出ていく。

「佐伯君…? もしかして、今の言葉…君の気分を害してしまった
のでしょうか…?」

「…関係ありませんよ。ちょっと外の空気を吸いたくなっただけですから…」

 そうして、眼鏡は目の前に広がる光景を眼を細めて見遣っていった。

(まったく…あの男は。本当に皮肉に満ちているな…。良くこんな所を
見つけだしたものだ…)

 そうして、彼はフェンスの向こうに広がる敷地内を眺めていく。
 初めて来た筈なのに、妙に懐かしささえ感じられた。
 そう…彼が車を停めているのはとある小学校の裏手の道路だった。

―ここならば貴方が過去と決別するのに絶好のロケーションとなる筈です…

 そういってこの車にはナビが設置されていて、片桐を救出した後に真っ直ぐに
ここに向かった訳だが…ここに訪れた時、言葉を失いそうになった。
 
―ここはあまりに、彼が通っていた小学校に似ていたからだ

 建物の外観も、体育館やプールなどの配置も…何もかもが
思い出したくもないあの学校とまったく一緒だった。
 確かに小学校なら、児童が帰った後なら身を隠すには絶好の場所になる。
 目の前の風景を眺めていきながら…彼は逡巡していった。

(いい加減、過去を吹っ切るべきなんだろうな…)

 忌まわしい地に良く似た場所を見つめていきながら…彼は
ごく自然にそう思っていく。
 少しずつ、彼が過去と決別する為の舞台が整い始めていることを
感じていきながら…彼は煙草の先に火を灯して、肺の中を紫煙で
満たしていったのだったー
 

  昨日アップした『桜の回想』、手違いでリンクが
ダブっている状態になっていたのを修正したのと、
ワード文書で1P程度分、加筆させて頂きました。

 そしてとりあえず別ジャンルのアンソロジー原稿も
本文は仕上がりました。
 後は文体整えて提出するだけです。
 軽い報告、添えさせて頂きました。
 では本日もこれから仕事、行ってきます~!
※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
                    10  
         11  12  13  14 15  16  17   18 19  20
         21     22  23

―あの日からずっと、胸の中から消えない罪の意識がある。
  
   桜の時期になると、その古傷が疼いて…半分、正気を
失いかける。
 それでも表面上は何でもない顔をして日常を送っている。
 だが、淡い色の花びらが舞う姿を見る度に心がざわめいて
落ち着かなくなる。
 
(…この時期はいつもそうだ。あれから15年も経っているのに…どうして
僕は桜が咲くと、こんな不快な思いをし続けるのだろう…)
 
 
 澤村紀次は現在、クリスタル・トラスト本社の彼に宛がわれている
執務室の中で一人で待機していた。
 部屋と言ってもあまり広いものではない。
  役職の人間に宛がわれるのに比べれば随分と慎ましいものだ。
 だが、若くして個室を与えられるぐらい澤村なりに入社してからここ数年努
力し続けてきたのだ。この部屋こそ…彼がこの会社内でそれなりの功績を
挙げてきたという証でもあった。
 だが、今の彼は…この部屋をもしかしたら失うかも知れない、というぐらいに
社内でも評価が下がりつつある。
 それに焦りを覚えているせいもあるのだろう。
 何もせずに待つ、という状態だからこそ余計な感傷が入り込んでしまって
いるのかもしれなかった。
 
(君の事を考えると、どうして…真っ先にあの日のことばかり思い出して
しまうんだろう…。僕らは小さい頃からずっといたのに。その他の記憶は
遠く霞んだようになって…いつだって思い出すのは、あの決別の日のことばかりだ…)
 
 その事に軽く苛立ちながら、澤村は腕を組んで…指先をトントンと
叩く仕草をしていった。苛立っている人間特有の癖だ。
 部下たちに指示を出して片桐、本多、太一、御堂の元にそれぞれ
向かわせていた。
 そして佐伯克哉にとって大事な人間を人質に取って、商談を有利に
進めるつもりだった。
 澤村としては全員が捕獲出来なくて、たった一人で良い。
 今の佐伯克哉にとってアキレス腱となりうる親しくて身近な人物を確保
出来れば、こちらの勝利は揺るぎないものになる筈だ。
 
(君自身は知らないだろうけどね…君がMGNに関わってから僕が
手掛けた仕事は全て失敗か、パっとしない結果に終わっているんだ…。
君が関わっている限り…常にMGNと対抗商品ばかり作っている会社は
さんざんな結果に終わるだろう…。ここで巻き返しをしなければ…
会社での僕の立場も危うくなってしまう…)
 
 澤村は自分に与えられたディスクの椅子に腰をかけながら
部下たちからの連絡を待った。
 ソワソワして落ち着かない気持ちをどうにか沈めようと目を閉じて
深呼吸をしていく。
 なのに、心は落ち着く所か…一層ざわめいていくばかりだった。
 
 
「君さえいなければ…何もかもが上手くいくんだ。昔っから
本当に目障りなんだよ…!」
 
 そう吐き捨てながら、澤村は深く椅子に腰を掛けながら
溜息を吐いていった。
 今、澤村が担当している主な仕事は…MGNの機密情報を調べだして、
MGNと対立している会社にその情報を流すことと…対立している会社に
手を貸して、MGNの現在の地位から引きずり下ろすことだった。
 去年MGNが発売したビオレード…それを調べさせて、クリスタル・トラストに
息が掛かった会社に非常に似た商品を先に発売させてMGNの方に
痛手を与える筈だった。 だが澤村が直前に得た情報は、佐伯克哉のせいで
全て無駄になってしまったのだ。
 本来の予定ではガラス製の美しいデザインの容器で発売する筈だった
商品が…佐伯克哉が考案したペットボトルでの容器で発売することと
なってしまったのだ。
 その一件のおかげで、似たデザインの商品をぶつけてこちらが先行発売して、
MGNの新商品を潰すというプランが根本から崩されてしまったのだ。
 結果、澤村のクライアントからの評価は散々なものとなり…この一年間は
特に社内でも扱いが非常に軽くなってしまった事を実感していた。
 
(僕が再び返り咲く為には…君をあの時のように潰さなければならない…!
 君がいる限り、絶対に僕は上手くいかない…。去年、僕が味わった
苦渋を今度は君が味わう番だよ…!)
 
 澤村自身、その感情が逆恨みである事は薄々と判っていた。
 佐伯克哉は去年のビオレードの一件で、こちらにそれだけの損害を
与えたその事実を知らないだろう。
 しかし彼はいつだってそういう存在だった。
悪意でこちらを傷つけた事など一度もない。
無自覚に劣等感を与えるという形で…彼は澤村を脅かし続けていた。
 だが、それでも恨まなければ…彼にも煮え湯を飲ませなければ
気持ちが収まりそうになかった。
 共に多くの時間を過ごしていた幼い頃、いつだって佐伯克哉は
自分の前を歩いていた。
 そんな彼に憧れて目標にした事もある。
 たった一つでも彼に勝るものを作りたくてがむしゃらに
努力した時期もあった。
 けれど勉強、スポーツ、習い事、そしてゲーム…全ての事において
彼は常に自分よりも好成績を叩き出していた。
 小学校低学年の頃はそれでも、ただ憧れるだけだった。
 しかしそれが何年にも及ぶようになった時…次第と心の中に
黒い染みが広がっていった。
 小さな頃は優秀で何でも出来る彼の一番の親友であった事が何よりも
誇らしかっのに、ある時期からは…彼の存在が自分の劣等感を酷く
刺激している事に気づいた。
 それでも彼が自分を信用してくれていたから、必要としていたから
ずっと抑え続けていた。
 
―本当に心底嫌いな人間だったらあれだけ長い間、嘘をついて
傍にいることなど出来ないから…
 
 だが、小学校の高学年に差し掛かる時期にはそれも限界を迎えて…
結局、無自覚でこちらの心を痛めつけてくれた相手に対しての静かな
報復を開始していったのだ。
 心の奥底では、全て…嫉妬からその恨みが発生している事は判っている。
 だが、彼はあまりに弱く…その本心に直視する勇気をずっと持てないでいた。
 自分よりも遙かに実力が勝る者を前にして…自分が努力して相手を
追い抜くか、もしくは相手を貶めて失墜させるか。
 澤村は常に後者を選んでばかりいた。
 佐伯克哉だけではなく、目障りな人間はいつだってそうやって排除し続けた。
 役に立つ、有益な人間だけしか近づけないようにした。
 無能でこちらの足を引っ張るような人間とは線を引いて絶対に
深く付き合わないようにしてきた。
 だが、彼は気づいていない。正しい手段で相手に勝つように努力
しなければ自分の実力はいつまで経っても伸びてくれず…貶めて人に
勝っていても、必ず限界が来ることを。
 努力する人間は、常に前を見据えることの出来る人間は強い。
 小学校時代の頃から、佐伯克哉は何の努力もなしに『何でも出来る』
のではなく…観察して、影で反復練習を繰り返し続けて…『すぐに出来るように
する努力』を欠かさなかった事に彼は気づいていなかったし、
見えてもいなかったのだ。
 心のどこかではその事に気づいている。
 だが、あの小学校の卒業式の日から15年間…彼は絶対に真実を
直視しようとしなかった。
 目を逸らして…人のせいにして、自分の罪を意識しないように生きていた。
 
―それでも桜の時期だけはその出来事を鮮明に思い出し、心はいつも
苦しみを訴えていた
 
 あの日の、親友だった少年が本当に悲しそうな顔をする…その場面が
幾度も幾度も、澤村の心を抉り続ける。
 愉快だった筈なのに、目障りな奴に自分が勝った瞬間である筈だったのに…
どうしてあの日の自分は泣いてしまっていたのか、どうしても自分で
理解出来なかった。
 
「…くそ! 早く連絡の一つも寄越せば良いのに…。まったく、無能な
部下を持つと苦労する…!」
 
 澤村は言わば、現時点では司令塔のようなものだ。
 全体に指示を出して、結果が出るまでは自分では迂闊に
この場からは動けない。
 だからこそ…こんなにも、忌々しい桜の幻影が襲い掛かってくる。
早く佐伯克哉を打ち負かして、こんなものから解放されたかった。
 だがイライラしながら暫く待機した後、彼の元に次々と寄せられた報告は…
青ざめるようなものばかりで、特に最後の電話を取った時、彼は怒りのあまりに
蒼白になり…全身を大きく震わせていったのだった―
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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