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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 御堂と克哉のイチャイチャ話。
 九月にちなんで月見を二人でする話です。
 ノマが微妙にエロい子です(笑)

 月夜の恋人  

 湯上りに浴衣を纏っている克哉の身体を掌で弄って、御堂は
恋人を見た時に一瞬感じた違和感の正体に気づいていった。
 
(どうりで…微妙にラインがおかしかった訳だ。まさか下着を
履かないで…浴衣を直接纏うとはな…)

 克哉は意識的に浴衣をぴったりと合わせないで、多少タボつくように
着ていたのと…性器が通常の状態だったから気付かなかった。
 だが…こうして相手の身体を掌で辿り、その事実に気づいていくと…
どうしようもなく御堂の雄の部分が刺激されていった。

「…まさか、下着をつけないで浴衣を着てくるとはな…。大浴場から
ずっとこの格好で来たというのなら…君は大層な淫乱だな…」

「いや…孝典、さん…言わないで…下さい…」

 御堂の言葉に、克哉は目を伏せて顔を真っ赤にしながらフルフルと
震えて…そう懇願していく。
 だがそんな仕草でさえも、こちらの心を大きく煽っていくだけだ。
 男は愉快そうな笑みを浮かべて…更に言葉で弄っていった。

「いいや…言わせて貰おう。まさか…君がこんなに大胆な事をするとはな…。
ならこの浴衣の裾を巻くっていけば、君の恥ずかしい場所がそのまま
暴かれてしまう訳だ…」

「ふっ…あっ…そう、です…」

 グイ、と克哉の腰を掴んでこちらに強引に引き寄せていく。
 するとビクン、と相手の身体が大きく跳ねていき…呼吸が徐々に乱れて
いくのを感じていった。
 僅かに開かれている口元から覗く赤い舌が何とも艶めかしく…
こちらの男心を煽っていく。
 
(…君の今浮かべているその顔…凄くそそるな…)

 その舌先に引き寄せられるように御堂は強引に唇を重ねていった。
 クチャリ…という水音を立てながら、唇が重ねられてお互いの舌が
濃厚に絡まり合っていく。
 舌を出し入れする度にグチャグチャと淫靡な水音が響き渡り…セックスを
しているかのような錯覚すら覚えていく。
 
「ふっ…ううっ…」

 克哉は身をよじらせて、くぐもった声を漏らしていく。
 それでも…御堂は容赦してやらず、唇を一足先に…貪るように
犯していった。
 そうしてキスをしていきながら…さりげなく、窓際に克哉を誘導していく。
 ガラスの向こうには見事に整えられた庭が広がっている。
 すでに日は暮れて薄暗く、客室の前を通る人間など滅多にいないだろう。
 それでも…克哉の身体を強引に大きなガラスに押し付けていくと…ゆっくりと
浴衣を脱がし始めていった。

「た、孝典さん…何、を…?」

「今夜はまずはここで君を犯してあげよう…。布団に行ったら、君は
綺麗な月を…見損ねてしまうだろう…?」

「そ、そんな…! こんな処でしたら…誰に、見られてしまうか…?」

「別に見られても構わないだろう? 君がどれだけ貪欲で浅ましいか…
他の人間に見られていると思えば、更に燃えるんじゃないのか…?」

「そ、そんな事…ひ、あっ…!」

 強引な力でガラスに身体を押し付けられて、克哉は必死にもがいていく。
 しかし…御堂の腕からは逃れる事は叶わなかった。
 割り開かれた襟元と裾から…それぞれ御堂の手が侵入して胸の突起と
ペニスに手を添えられて愛撫を始められていってしまう。
 最初は優しく、そして硬さを帯びていくのと同時に徐々に強くなっている
的確な愛撫に、克哉の性感帯は素直に反応していってしまう。
 熱っぽい吐息が、更に乱されたものになる。

「あっ…は…う、ううんっ…!」

 そうして腰が砕けそうになってしまいながら…抵抗すら奪われて
御堂の為すがままになっていった。
 窓の外には、見事な庭園と…満月よりも少しだけ欠けてしまった月が
煌々と輝いている。
 それが妙に意識されて…克哉は、ゾクゾクと身体を震わしていった。

(まるで…月に、見られているみたいだ…)

 そう意識した途端、克哉の背筋に背徳の喜びが広がっていくようだった。
 自分が感じていて見られる姿を、他の人間に見られる。
 其れは途方もなく恥ずかしさが伴うが…同時に、普段は隠されている
克哉の中の被虐性を強く刺激していく。
 窓ガラスの冷たさと…自分を閉じ込める御堂の身体の熱さの対比が
更に彼の心を大きく煽っていく。

―最愛の人に犯されて、貫かれて貪られる…

 すでにその抱かれる喜びを散々教えられてしまった身体は…
その事を期待するだけで大きく震えて、歓喜し始めていた。

「あっ…やだぁ…孝典、さん…駄目…」

「何が、駄目なんだ…。こんなに、硬くしている癖に…」

 そして、裾をまくり上げられて…ドクドクと息づいているペニスを
握りこまれていく。
 チラリとその様子を自分でも見て、更に恥ずかしくなって耳まで
真っ赤にしていった。

「恥ずか、しい…! はっ…あああっ!」

 そう呟きながら…御堂の手は更に淫靡に、的確にこちらの快楽を
引きずり出していった。
 激しく熱を帯びた動きになる度に…克哉の性器ははちきれんばかりに
なっていき、あっという間に性を吐きだしていく。

「随分と早いな…。お愉しみは、これからだぞ克哉…?」

「はっ…んん、孝典、さん…」

 御堂の言葉に、甘い声で応えていく。
 そして…ガラスに手をついて腰を相手に就きだすような淫らな格好をしながら
ついに大きく浴衣の裾を捲くられてて…克哉の背中から臀部に掛けてが
相手に晒されていったのだった―

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※久しぶりの短編の連載です。
連載の展開に詰まってしまったので気分転換に書いたもの
ですので良かったら見てやって下さい。
 全部で2~3話程度の長さの話です。イチャラブです。
 ちょっと過ぎましたが…15夜ネタになります。ご了承ください。

―お月見をしませんか?

 九月の満月の夜を少し過ぎてしまってから…克哉は恋人である御堂に
そう声を掛けていった。
 最初はどうして十五夜当日に声を掛けなかったのが疑問に思って
相手に尋ねてみたら、こうした答えが返って来た。

―だって満月の夜は貴方は凄く忙しそうだったから…。それなら少し
落ち着いた頃にと思いましたから…

 そういじらしい事を頬を微笑ませていきながら答える恋人を心から
愛しく思いながら…御堂は、満月から三日程度過ぎてから出された
恋人のその申し出を承諾していった。
 だが…どうせなら、雰囲気を愉しみたいと思い…御堂は急遽、都内の
川べりにある一軒の古風な旅館を手配していった。
 交通の便がイマイチ悪く、車がなければとても辿りつけないような位置に
あるその宿は…山の中にあるせいか、見晴らしは抜群で。
 川のほとりにはススキ野原が広がっていて、窓からその光景を眺めるだけで
お月見をするのに相応しい雰囲気が漂っていた。
 部屋の窓から望める展望も…四方が豊かな緑に囲まれていて外れの方に
あるとは言え…ここが同じ東京とは信じられないぐらいにのどかな雰囲気が
漂っていた。

(そろそろ…克哉が来る頃だな…)

 仕事上がり、業務を一段落をさせてから浚うように恋人をこの
宿に連れて来た。
 そして一緒に温泉に入りたいという欲求を辛うじて抑えて…それぞれ
一人ずつ入る形にしていった。
 急な予約だったから室内風呂がついている部屋は確保出来なかったし、
一応他の客の目もあるから…一緒に入るのは控えておいたのだ。
 克哉の裸を見ていたら、性的な悪戯を仕掛けないでいられる自信が
なかったからだ。
 そんなギリギリのスリルを楽しみたい欲求もあったが、一応御堂は
社会的な地位もある人間である。
 誰に目撃されて、キャリアに傷つく要因になるか判らないので…
一緒に風呂を入るのは断念したのだ。
 今夜の目的は、あくまで月見であり…そして一緒に克哉と過ごす事だ。
 けれどこうやって…愛しい相手が風呂から上がってくるのを待つというのも
なかなか新鮮な気分になれた。
 御堂の方は先に入浴を終えて、宿側が用意してあった白生地に藍色の
風が流れるような文様のある浴衣に袖を通して…縁側に腰を掛けて
静かに待っていた。

「遅いな…」

 そう御堂が呟くと同時に、入口の扉が小さく開いていった。
 そして浴衣姿の克哉が姿を現していく。

「お待たせしました孝典さん…。ちょっと良い湯でしたから、つい
長湯をしてしまったので遅くなりました…」

「ああ、君の方はゆっくりと温泉に浸かっていたのか。普段は私と同じ
シャワーだけで済ましているのに珍しいな」

「えぇ、自宅ではそうしていますけど…たまには湯船に浸かるのも良いと
思いましたし…その…」

 途端に、克哉は頬を染めて赤らめていく。
 モジモジして言い淀んでいる様子を見て、御堂は何となく察していった。

(恐らく私を焦らして…苛めてもらいたい、と言った処だろう…。フフ、
やはり私の克哉は淫らで…悪い子だな…)

 その恥じらいの表情を見た途端、御堂の悪戯をしたい欲求が頭を
もたげていった。
 だがその時、微妙に違和感を覚えていく。
 克哉が足を擦り合わせてモジモジしている動作と、浴衣のラインが
何故か妙に気になったのだ。

「その…何、なんだ? キチンと言わないと…判らないな…」

「えっ…それは、ちょっと! それよりも…孝典さん。一緒に月見を
しましょう…。最近、本当に忙しい日々が続いていましたから…たまには
息抜きするのは必要な事ですしね!」

 克哉は顔を真っ赤にしながら、少し御堂から距離を取ろうとしていった。
 だが御堂はそれを許さず、恋人の方に間合いを詰めていこうとする。
 しかしそれでも、軽やかに克哉は離れていこうとする。
 そうして…緩やかに窓際に誘導されていくと、満月から少し欠けた形の
月が…煌々と藍色の闇の中に浮かび、輝いていて…それを背景にして
克哉が妙に艶めいた表情を浮かべていった。
 それはまるで、絵画の中のワンシーンのように美しく御堂の心を
乱していった。
 克哉を腕の中に閉じ込めたい、そう切に願って御堂は…窓際で
恋人の身体を抱きすくめていく。

「あっ…」

「やっと…捕まえられたな。ふふ、浴衣姿の君は凄く色っぽいぞ…」

「…そんな事言ったら、孝典さんだって…その凄く…セクシーです…」

 浴衣には普段のスーツ姿にはない、何とも言えない色香が漂っている。
 僅かに覗く肌が、動作によって揺れる布の動きが…キチンと整えられている
衣類にはない雰囲気を生み出すのだろう。
 御堂の、息遣いを感じて…克哉の吐息もまた少し乱れていくのが判った。

「孝典さん…お月見、を…団子、用意して…あったんですけど…その…」

「あぁ、それも悪くないな。けど…団子よりも今は、君を食べたいかな…」

「そ、そんな…」

 恋人の言葉に、克哉はまた更に赤くなっていく。
 もう数えきれないぐらいの夜を共にしてきたというのに…未だに
恥じらいを失わない彼が、御堂には愛しくて仕方なかった。

「…今夜は、貴方と一緒に月見をしたくて…勇気を出して、誘いを掛けたのに…」

「月見なら、ここでも出来るだろう? それに良く…花より団子というが、今の
私は団子よりも…私の華を、愛でたい気分だ…」

「ん、はっ…」

 そんな言葉を耳元で囁かれながら…熱い吐息を吹き込まれて、襟元を
乱されながら胸の突起を背後から弄られてしまっては…克哉としては
もう抗える筈がない。
 御堂から与えられる快楽を、強烈な感覚はすでに身体に覚え込まされている。
 だからまるで条件反射のように、あっという間に胸の突起は硬く張りつめて…
相手の指をはじき返していった。

「ふっ…あっ…孝典、さん…」

「克哉、触れるぞ…」

 そうして御堂はゆっくりと…愛しい恋人の浴衣を乱して、触れ始めていく。
 だが少しして大きく目を見開いていきながら驚きの声を漏らしていった。

「…っ! これ、は…!」

 そうして言葉を漏らした次の瞬間、欲情で目を滾らせて…獣になった
御堂の顔が…其処に存在していたのだった―

※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

 恋人の条件                       10 
          11   12 13

―ツゥルルルル…ツゥルルルル…

 御堂は昼休みを過ぎてから、執拗なぐらい何度も克哉の携帯に
コールしてしまっていた。
 今は仕事時間中で、専念しなければならない事は山積み状態で
あるのに…どうしても、克哉の声を聞くまでは何であっても集中
出来ない心境に陥ってしまっていた。
 執務室の自分の椅子に座りながら、携帯に登録された「佐伯克哉」
という番号に掛け続けていく。
 気づけば発信履歴はその名前だけで埋め尽くされてしまっていたが…
それでも克哉に繋がる気配を見せなかった。

(克哉…本当に一分…いや、30秒で良い。君の声が聞ければ…
それで良いんだ…)

 そう思った瞬間、御堂の脳裏に昨晩の甘い時間の記憶が猛烈な
勢いで再生されていく。

―あんなにも佐伯克哉が甘い肉体を持っていた事など、今まで
考えた事もなかった

 昨晩、酷く甘い匂いを彼に感じてからの自分は、本当に気が狂ってしまった
かのようだった。
 それまであまり親しくなかった相手を追い掛けて、公園という屋外の場所で
あんな風に激しく犯すなど…正気の沙汰ではない。
 けれど、まるで理性のタガが彼に関してだけは壊れてしまったかのように…
昨日、佐伯克哉を前にしている間は制御出来なくなってしまっていた。
 どこまでも彼が欲しくて仕方なくて、その衝動のままに彼を犯した。 
 一度達してもまだ足りなかった。二度目を迎えても飢えは更に強まって
いくような気がした。

(一晩で五回も求めるなど…どんな相手にだって今までした事がない…)

 御堂とて、それなりにセックスの経験を積んでいる。
 なのに昨日の自分は…まるで快楽を知ってしまったばかりのサルのような
状態だったではないか。
 その事に気づいて自嘲的な笑みを浮かべていく。

「克哉…」

 そう、名前を呼ぶことさえ…酷く甘いもので心が満たされていくような
気分になった。
 そして何十回目のコールになっただろうか。
 もう無為な事になりつつあり、機械的にリダイヤルボタンを押した瞬間…
ついに、通じていった。

「っ…!」

 もう無駄かと諦めようとした矢先だったので御堂は瞠目して…どんな
声が聞こえるか耳を澄ませていった。

―あっ…ん…イイ…もっと、苛めてぇ…あ…ふっ…

 その声がうっすらと聞こえた瞬間、御堂は頭が真っ白になった。
 それは紛れもなく情事の時の声だったから。
 状況が把握出来ず、茫然とするしかない。
 だが声は更に続いていく。

『………………』

 もう一人、どうやらいるようだった。
 だがそちらの人物の声は遠すぎて、何を言っているのかは聞き分ける
事が出来なかった。
 しかし、克哉と違う声の主が電話の向こうにいる。
 それだけは…はっきりと感じ取ることが出来た。
 そしてこちらが聞いていることなど向こうは全く気付いていないだろう。
 昨晩、散々弄って聞いた克哉の甘い声が絶え間なく漏れていく。
 もう、聞き間違いなどではない。
 この電話の先で…克哉は誰かに抱かれているのだ。

―昨晩、あんなにも自分が求めて刻みつけたと言うのに…!

 御堂は電話を壊してしまうのではないかと思うぐらいに強く強く握りしめていく。
 もう何も複雑な事は考える事が出来なくなっていた。
 怒りを通り越して、感情すら凍ってしまうような感覚がした。
 唐突に通話が切れてツーツーという音が耳に届いた頃、御堂の顔には
酷薄な笑みが浮かんでいた。

「…昨晩、あんなにも私が抱いたというのに…そのすぐ後で、他の男を
受け入れるぐらい…君は淫乱だというのか…」

 そう呟いた途端、御堂は冷酷な笑みを浮かべていった。
 恋は人を狂わせる。
 昨晩、自覚したばかりの想いはその事実を知った途端に変質して…
彼を鬼に変えていく。

―許せない。あっさりと他の男を受け入れた君も、今…君を抱いている
男も、どちらも…!

 そして、御堂は心が酷く荒れ狂うのを感じても今はそれを切り捨てて
どうにか仕事に向かっていく。

―心の中で、こちらの想いを踏みにじった克哉にどのようなお仕置きを
与えてやるか、凶暴に考えていきながら…

※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

 恋人の条件     

―どうしよう、あいつに嫌われちゃったのかな…
 
 克哉は資料室のディスクに突っ伏しながら、頭の中でずっとグルグル
している事に振り回されて…深い溜息を吐いていた。
 今朝の眼鏡の怒りは、好きという単語を克哉がついポロリと口にした事が
キッカケのようにしか、感じられなかった。
 だからこそ克哉は出社しても、どうしてもその事が頭から離れてくれなかった。
 本日のコンディションは限りなく最悪に近くて。
 昨晩、何度も激しい行為をされた肉体は…腰は重いわ、あちこちの普段
使っていない筋肉がギシギシと早くも悲鳴を挙げているわ、とても満足に
働けるものではなかった。

(ううう…凄く身体のアチコチが痛い。全く、週末ならともかく…平日に
突然現れて好き放題やるなよ。おかげで、こっちは今日…働くのすら
辛い状態になっているんだぞ…)

 心の中で思いっきりもう一人の自分に対しての文句を盛大に思い描きながら
克哉はどっかりと椅子に座り、机の上に身体を伏せる格好で軽く目を閉じて
休んでいった。
 しかし…セックスが原因で、仕事に支障を出して営業八課の仲間たちに
迷惑を掛けるのはどうかと思ったので、どうにか全気力を振り絞って
克哉は業務に辺り、午前中は何とか乗り切れた。
 だが、午後二時に差し掛かった辺りで流石に限界を迎えて、こうして
少し休む事にしたのである。
 それでも15分程度、身体を休めたら…また仕事に戻るつもりだったが、
こうして作業を止めると、余計な事ばかりが頭の中に浮かんできて…
それが一層、克哉を苛んでいった。

「…あいつに、恋しているなんて…認めたくないけど。けど…この胸の
モヤモヤはそれ以外に当てはまりそうにないんだよな…」

 相手に会いたいと思ってヤキモキしたり。
 顔を思い描くだけで何となく暖かい気持ちになったり。
 触れられるとドキドキしたり、照れくさい気持ちになったりと…これらの
症状をひっくるめるとそれ以外に該当するものはなかった。
 それが余計に克哉の心をズーンと沈めて、落ちこませていった。
 何でよりにもよって、自分と同じ外見をした存在に対して恋など
しなければならないのか。
 そんな自分の感情を認めたくないという気持ちもまた強かったが…
相手にその気持ちを否定され、怒られてしまったという痛みだけは
どれだけ打ち消そうとしても心の底からなくなる事はなかった。

(…次、いつ会えるのかな…)

 ふと、そんな考えが過ぎってつい涙がこぼれそうになった。
 今までこんな風に…次、もう一人の自分がいつこちらの前に来てくれるのか
望んだ事はなかった。
 けれど想いを自覚したら、まるで泉のように胸の底から…気持ちが
溢れて来て、止まる事はなかった。

「会いたい、よ…」

 今朝、会えたのに…あんな風に機嫌を損ねたまま、次いつ現れるかを
心待ちにしなければならないのだろうか。
 そう考えた瞬間、さらに否定的な感情が胸の奥から湧きあがってくる。

―今朝の事で機嫌を損ねて、もう自分の前に来てくれなかったら
どうしよう…

 普段だったら、ここまでネガティブな感情に支配される事はない。
 相手の心中は、克哉には理解出来ない。
 ただ…今朝のやりとりを思い出す限りでは、自分が『好き』だと言ったから
怒ったようにしか感じられなくて。
 相手にとっては自分の想いなど煩わしいものでしかないのだろうかと
思うと…本当に辛くて堪らなくなってきた。

(いつ、次は会えるんだろ…それまで、この胸の奥に溜まったモヤモヤを
抱え続けなきゃいけないのかな…?)

 苦しくなれば、なるだけ…相手の熱を求めて、身体の奥で何とも言えない
燻りが生まれていく。
 其れを吐きだしたくて仕方なくなって…克哉は無意識のうちに己の股間に
手を伸ばしていく。

(こら、止めろ…。今は就業時間中なのに…)

 理性が、ギリギリのところで無意識の行動を止めようとする。
 しかし…この出口のない逡巡から、一時だけでも解放されたいという
欲求の方が勝っていき、克哉は…スーツズボンのフロント部分を寛げて
その部分から手をしのび入れていく。
 まだ柔らかさを保ったままのペニスは、相手の事を思い描いて軽く
触れただけであっという間に硬度を取り戻していく。
 
(一度…抜いてからじゃないと、モヤモヤして…集中して仕事に
取りかかれそうにない…情けないな、オレ…)

 苦笑していきながら、出来るだけ素早く達して気持ちを切り替えようと
自らの性器を克哉は扱きあげていく。
 興奮するのは、簡単だった。
 昨晩から今朝に掛けて、もう一人の自分がこちらに対してどんな事を
したのかを思い出すだけで…充分なおかずになったから。

「ん…んんっ、『俺』…!」

 このやりきれない感情も、疼きも全て吐きだしてリセットしたかった。
 その一心で克哉は自分のモノを必死に慰めていく。
 射精感はすぐに訪れていった。
 克哉の頬は真っ赤に紅潮し、吐息も荒く…瞳も艶っぽく潤んだ状態に
なりながら追い上げられていく。
 そして絶頂を迎えようとした次の瞬間、予想もしてなかった事態が
起こっていく。
 
 ガチャリ…

 その音を聞いた瞬間、克哉は冷や水をぶっかけられた気分になった。

「っ…!」

 だが、もうギリギリまで追い上げられた身体は止められなかった。
 そうして…扉の向こうに現れた相手に克哉は自慰をして達する己の浅ましい姿を、
思いっきり見られる形になってしまったのだった―

 

 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―そして御堂と克哉が結ばれてから三ヶ月はあっという間に過ぎていった

 そして現在の彼はMGNに再び在籍して、まだ日が浅いながら周囲の
人間に早くも御堂の右腕として信任されるようになっていた。
 御堂は克哉が姿を消していた一ヶ月間は、古くからの友人である四条を
抱き込んで突然の事故に巻き込まれた事により出勤できなくなっていたという
形にしておいてくれた。
 不慮の事故に巻き込まれたことによる休職ならば、一ヶ月姿が見えなくても
風当たりはそんなに強くはない。
 その事実を知った時、御堂は自分が帰ってくるのを心から信じて待ってくれて
いたことを実感し、泣きそうなぐらいに嬉しかった。
 ただし御堂はそのような犯罪スレスレの無茶な行為を友人に強要した代償に
半端じゃなく高いワインを何本か四条に進呈することになってしまった訳だが。
 その為にMGNへの復帰は容易で、帰宅した日から二週間ほど経過した日から
再び職場復帰する事が出来た。
 名実ともに公私共に御堂のパートナーとなってからの日々は充実していて、
まるで夢か何かのように瞬く間に過ぎていった。
 
(あの人と結ばれた日から今日で三ヶ月か…)

 ふと、ある日の帰り道に克哉はしみじみとその幸福を実感していった。
 かつて元いた世界では誰にも存在を認識されず、ただ静かに
消えゆく存在だった
頃の面影はすでに彼にはない。
 御堂に愛され、職場でもすでに必要な人材と認められている彼は…現在は
自信に満ち溢れた顔をするようになった。
 今日は午後から取引先の会社に出向して克哉一人で担当に当たっていた為に
久しぶりに徒歩で帰路についていた。
 最寄り駅から歩き、御堂のマンションに向かう道筋は大半が住宅街であるせいか
夜は静まり返っている。
 落ち着いた街灯と微かな生活音ぐらいしか存在しない夜道を克哉は早足で進んでいた。

(思ったよりも遅くなってしまったな…。きっと今日は孝典さんが夕飯の準備を
してくれているだろうから早く帰らないと…)

 今日の出先は都内の外れに位置するので、御堂はこちらを気遣って本日の
夕飯当番はこちらがやると申し出てくれて、克哉も素直にそれに頷いていた。
 だがせっかく大切な人が作ってくれたというのならば出来るだけ暖かい内に
一緒に食べたい。
 その想いが克哉の足を早めていき、少しでも近道をしようと大きな公園の敷地を
抜けて出ようとしていった。
 其処はかつて克哉がMGNの営業担当をしていてもう一人の自分について
悩んでいた頃、何度か立ち寄ったことのある場所だった。
 この公園だけはまるであの時から時間が止まってしまったかのように…
佇まいを変えていなかった。

「ここ、変わっていないな…」

 そしてMr.Rに出会ったベンチの前を通りかかると、つい懐かしくなって
足を止めていった。
 もうあの銀縁眼鏡を受け取った日からどれぐらいの月日が流れたのか正確に
計る事は不可能になっていた。
 そう…本来いた世界ではプロトファイバーの営業を担当した時から克哉が
こっちの世界に移動するまで二年半程度経過しているが…今、身を置いている
世界は来た当初は営業担当してから大体三ヶ月程度が過ぎていて、それから
四ヶ月ちょっとが経過しているので…あの眼鏡を受け取った日から十ヶ月あまりが
過ぎている事になる。
 二つの世界で過ごした時間を考慮すれば克哉にとっては三ヶ月程度、だが実際に
この世界では十ヶ月あまりが経過している事を考えるとつい頭がこんがらがって
しまいそうだ。

「あれから、オレにとっては三年以上過ぎた訳か…」

 そうしてつい遠い目を浮かべた途端に、辺りの木々が激しくざわめき始めていく。

(…ここで、あの人と出会ってあの眼鏡を渡されたことが全ての発端なんだよな…。
その事で本気で苦しんだり、悩んだこともあった。けど…其れがなかったら、
今のオレの存在も幸せも何もかもを否定する事になる…)

 克哉がそう考えた瞬間、急に強い風が吹き抜けて周囲の木々を
ざわめかせていった。
 一瞬にして不穏な気配が辺りに漂い始めていく。
 ゾワっと悪寒めいたものを感じ、周囲の気配が一瞬にして濃密なものへ

と変わり始めていく。
 この気配には何度か覚えがあった。
 その事を自覚した途端、そっと背後から声を掛けられていく。

ーこんばんは、お元気に過ごされているようで何よりです…佐伯克哉さん

 そして歌うように言葉を紡ぐ、黒衣の男がゆっくりと藍色の闇の中から
浮かび上がっていく。
 さっきまでそこには確かに人などいなかった筈なのに…瞬く間に姿を現し、
悠然とした笑みを浮かべていた。
 そのことに軽く驚きもしたが、だがすぐに気を取り直して対峙していく。
 何となくここに来た以上、この男性と顔を合わせる事は必然のようにすら
感じられたから…

「えぇ久しぶりですね。三ヶ月前に貴方の店から解放されて以来ですから…」

「はい、それ以後…貴方は実に充実した日々を送られているようですね。
御堂様との生活はどうでしょうか?」

「とても幸せですよ。色々なことがああったけれど…今となってはあのゲームの話を
持ちかけてくれた貴方に心から感謝したいです。そのゲーム盤の上に乗る事が
なければ、こうして御堂さんと一緒に暮らす未来もなかったでしょうから…」

 克哉はあくまでもにこやかに微笑みながら相手と応対していく。
 その様子に少しだけ溜息を付いていきながら、Rは返答していった。

「…やれやれ、貴方はあのゲームを経てとても強くなられたみたいですね…。
本来ならば我が王に充実に従う者を手に入れる狩りの過程を楽しんで貰うために
やった事が、貴方の幸福に結びついて…あの方を打ちのめす結果に終わるとは
予想もしておりませんでした…」

「はい、オレも当初はとても勝てるとは思いませんでした。だってゲームマスターで
ある貴方は完全にもう一人の俺寄りに傾いていましたから。だからオレには油断する
余裕なんて一欠片もなかった。…今、思い返すとオレはがむしゃらにならざるを
得なかったから…だから奢りによって生じる隙をついて勝つことが出来た
のだと思います…」

「…ご謙遜を。私があの時に出したどちらか一人しか抜け出せないように仕向けた時…
本来なら貴方たち二人を足止めして攪乱させる為に用意したルールの穴を即座に
見つけだして…貴方は結果的に御堂様の心を得ることに成功させた。その判断力と
冷静さは素直に賞賛するに値することですよ…」

 そう告げながら、Rはいつものように心中を察するのが困難になる妖しげな
微笑みを浮かべていく。
 この世界に訪れたばかりの頃、ゲーム開始当初の頃はこの心中を読みとれない笑顔で
すらどこか怖かった。
 だが今の克哉には臆することなく接することが出来るようになっていた。

「…オレは、どうしてもこのゲームに勝利して…御堂さんと一緒に生きる未来を掴み
とりたかったから。恐らくその真剣さが、あいつと俺の違いであり…そしてこの結果に
結びついたんだと思います…」

「えぇ、貴方は本当に真摯といえる程ひたむきで…あの方よりも真剣にゲームに
当たっていた。驕りこそ、我が主が負けてしまった原因に結びついていると私は
良く存じております…。ですから、一度出たゲームの結果に物言いをつけるような
真似は致しません。貴方はその幸運をしっかりと噛みしめて、味わいながら生きて
いかれれば良いと思います…。恐らくそんな貴方の前に今後私が姿を現すことは
二度とないと思いますからね…」

「えっ…」

 にこやかに微笑みながらRはサラリと決別の言葉を口にしていった。
 その発言に克哉は軽く目を見開いていく。

「…私が関心を持ち、関与するのはまだ可能性が固まっておらず…様々な未来を
選び其れを予想するのが困難な貴方だけです。今の貴方の未来はすでに御堂様の
手を取るという形で定まってしまっております。すでに未来が確定している貴方には
私には用がありませんから…。ですから、私は他の世界でまだ様々な可能性を持つ
貴方を観察しに向かいたいと思います…。ですから、この世界に生きている貴方と
顔を合わすのは今夜以降、二度とありませんよ…」

「そうですか。なら最後に…オレに最後の可能性を与えて下さって感謝します。
ありがとう…どうかお元気で」
  
 相手から決別を伝えられても一切動揺することなく、心からの感謝の気持ちを
伝えていくと…男は瞠目していった。

「…やれやれ、本当に貴方はお人好しな方ですね。たまにこちらの毒気を
抜かれてしまいますよ…。ですが、どうかお忘れなきよう…。私は貴方の
傍に常に存在する影…。関与する事がなくなっても貴方の行く末を
静かに見守っておりますよ…。貴方を観察する事が、私にとっては…
唯一、この退屈という猛毒から救ってくれる最大の薬なのですから…」

「えっ、それはどういう意味、ですか…?」

「…今の言葉の意味は、ご自分で考えて下さい。では…御機嫌よう…」

「ああっ…!」

 そして一瞬の内に、黒衣の男の姿はあっという間に闇に溶けて…
完全に消えてしまっていた。
 まるで本物の幽霊か何かのように…その存在の痕跡を一切残すことなく…
Mr.Rはこの世界の克哉の前から永遠に姿を消していった。

「…いなくなっちゃった…。あの人の神出鬼没はいつもの事なんだけど…
本当に人間なのか疑うよな…。よっぽどあの人の方が亡霊だよ…。
…オレという佐伯克哉という人間に取り憑いたね…」

 そう、彼の方が本当の意味でのGHOSTなのかも知れない。
 克哉は何となくそう感じていった。
 未来の確定した貴方に興味がないと言いつつ、それでも自分の行く末を
静かに観察しているとも言った。
 それにゾワっと悪寒めいたものを感じていったが、すぐに克哉は気を取り直して…
再び帰路についていく。

(…もしかしたら、誰かと幸福な未来を紡ぐ事だけが…あの人の関与から
抜けられる唯一の方法なのかも知れない。そして本来この世界にいた
鬼畜王として覚醒した眼鏡を掛けた俺はクモの巣に掛かった獲物のように
あの人に絡め取られて…オレと共に生きていた、御堂さんとの未来を
得た『俺』は…今のオレのようにあの人の魔の手から逃れられたかも知れないな…)

 まるでそれは、エデンの園でアダムとイブをそそのかして知恵の実を
食べさせて、二人を追放させる原因を作った蛇のようだ。
 甘い誘惑で人を堕落させ、そして道を踏み外させる。
 その存在に軽く戦慄を覚えていきながらも…克哉は気を取り直して御堂が
待つ彼の部屋へと急いでいった。

「帰ろう、オレの家に…あの人の待つ処に。もう…どんな誘惑が来ても
オレの気持ちは変わる事はないから…」

 そう自分に言い聞かせて駆けながら御堂のマンションに急いでいった。
 Rと立ち話をしている内に結構な時間が過ぎてしまっていたらしく…ふと
時計を見てぎょっとなった。

「うわっ…! もうこんな時間だ! 御堂さんをこれ以上待たせる訳には
いかない! 早く帰らないと!」

 そうして大慌てで全力疾走を始めて帰宅していった。
 全身がびしょ濡れになるぐらいに汗まみれになりながら…帰宅していくと
すでに夕食を用意されていて食卓に座って待っていてくれた御堂に深い感謝を
覚えていった。

「遅かったな。夕食が冷めてしまったぞ。まあ…君がちゃんと無事に帰ってきたのなら
それで良いが。おかえり、克哉」

「ああああ、本当に遅れてしまってすみません! せっかく貴方が夕食を
手づから作ってくれたのに! 本当にごめんなさい!」

「いや、良い。君がこうしてちゃんと私の元に帰って来てくれるだけで…
充分だからな。ほら、早くスーツを脱いでくると良い。その間に温め直しておくから」

「は、はい…ありがとうございます…!」

 そういって慌てて自分の部屋に向かって着替えていこうと思った。
 だが、それよりも先に今はどうしても御堂に言いたい言葉が浮かんできたので
ピタリ、と足を止めていく。
 
「…どうした、克哉。着替えに行かないのか…?」

「いえ、貴方に今…伝えたい言葉がありまして…」

 先程、Rと話したせいだろう。
 胸の中に湧き上がる不安に負けない為に、どうしても伝えたかった。
 だから突然その場に立ち止まった克哉に怪訝そうな視線を御堂が向けていくと…
克哉は朗らかに笑いながら、こう告げていった。

『オレの想いを受け入れて下さってありがとうございます。愛してくれて
ありがとうございます。貴方がオレの気持ちを受け入れてくれたから…
今、オレはこんなに幸せになれました。本当にありがとうございます』

「っ…!」

 それは克哉の胸の中にずっと在りながら、照れくさくて伝える事が
出来なかった感謝の気持ち。
 率直な想いを突然ぶつけられて御堂は驚いていったが、すぐに参ったと
いうように苦笑していく。

「…まったく、君という奴は。そんな事を言われたら…これだけ空腹だと
いうのに抑えが効かなくなりそうだな…」

「えっ…!」

 そして瞬く間に御堂から間合いを詰められて、腕の中にきつく抱きしめられていく。
 この腕の熱さに心も熱くなっていきながら…二人はごく自然に唇を
重ね合っていった。

―この人の腕の中が、今の克哉の大切な居場所だった

 その幸福を決して忘れないように。
 失う事がないように…祈るような気持ちを込めていきながら…
克哉の方からも愛しい人の身体をしっかりと抱きしめ返して、
深い口づけに答え始めていく。

『愛しています…孝典さん…』

 そう心から実感しながら、克哉は腕に力を更に込めてしがみついていった。

―己の肉体と、心をしっかりとこの世界に根ざしていきながら…
彼は亡霊から、人間に戻れたその幸福な今をしっかりと噛みしめて
いったのだった―

 





 

 

現在連載中のお話のログ

  ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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 ―昔の、この世界に来る前の夢を見ていた
 
 御堂の腕の中に抱かれ、安堵したからだろうか。
 それは今まで見たかつての世界の夢の中で一番穏やかで
優しいものだった。
 二人で作った会社のオフィスの上に存在する、もう一人の自分の部屋の中で
彼らは革張りのソファの上でくつろいでいた。
 御堂が端っこに腰を掛けて、眼鏡がその太股の辺りに仰向けで横たわっている。
 そして克哉はそんな二人の様子を少し離れた位置から眺めていた。
 まるで、幽霊のように自分の存在は知覚される事なく…傍観者の立場でその様子を
眺めている形になった。
 
「…疲れているんだな、克哉…」
 
「んっ…」
 
 御堂の膝の上で、もう一人の克哉は穏やかな笑みを浮かべてまどろんでいた。
 そこには無条件の、傍らにいる存在への信頼感が滲んでいた。
 仕事中の彼はいつだって張りつめていて…側に人を寄せ付けない雰囲気を纏っているが、
今…御堂の膝の上で寝そべっている彼は安堵しきっていた。
 無防備な恋人の姿を見て、御堂は呆れたように…けれど優しい笑みを浮かべていく。
 
「…まったく、君にも困ったものだな…。こんなデカい図体をして人の膝の上に堂々と
寝ているものだから…いい加減、足が痺れて来ているんだぞ…」
 
「んっ…うっ…」
 
 まるで動物を撫でてやるように…優しく眼鏡のくせっ毛を梳いていってやる。
 その表情と動作の一つ一つに、慈愛が満ち溢れていた。
 かつては二人のその様子を見てて心が痛んだが…今は、平常心に近い心境で
克哉は眺めていく。
 幸せそうな二人、そこには自分が付け入る隙などこれっぽっちも存在していない。
 かつてその膝に抱いている男の中に、克哉という人格が存在していた事など…きっと
こちらの世界の御堂は知らないままだろう。
 それが以前は途方もなく悲しかったけれど…今は新たな世界の方で御堂に
必要とされている。
 そのおかげで心はひどく穏やかだった。
 
(あ~あ、御堂さんの前で安心しきっちゃって…。本当にこの人の前で無防備な姿を
晒すようになったな…)
 
 これは彼らが恋人同士になってどれくらいの時間が過ぎた頃の光景なのか
克哉には判らない。
 けれど克哉はずっと彼らの様子を傍観者の立場で見守り続けていた。
 澤村と再会したばかりの頃はまだ恋人同士になってから日が浅く…興したばかりの
会社も軌道に乗る以前のことだった。
 あの頃の彼らはまだお互いに遠慮があって、こんな風に過ごせることはなかった。
 御堂は呆れながら、其れでも膨大な仕事をこなしている克哉を自分の膝の上で
休ませていってやる。
 その様子を見届けながら、克哉は心の中でそっと呟いていった。
 
―さようなら、御堂さん…
 
 本来いた世界の、愛しい人に向かってそう告げていくと少し近づいて…眠りこけている
もう一人の自分の顔を覗き込んでいった。
 かつての半身の安らいだ顔を見て、克哉は愛しさを覚えていく。
 
―今思い返せば、きっと自分は…彼のことも好きだったことを思い出していく
 
 其れは御堂への恋慕の想いとは違う感情だったけど、確かに克哉は…御堂と
再会し愛を育んだ彼をいつしか大切に想うようになった。
 最初は嫌いだったし、自分のもう一つの姿であることを認めたくなかった。
 けれど愛しい人の為に変わり続けていくことを選び、理想に向かって共に
歩んでいる姿を見て…克哉は応援したくなったのだ。
 
(オレが亡霊である立場を受け入れたのは…もしかしたら、オレもお前の事が
好きだったからかも知れないな…)
 
 其れはもしかしたら肉親を想うような感情だったのかも知れない。
 兄弟を案じるような気持ちがもしかしたら一番近いのだろうか。
 彼と御堂と再会するようになってから、克哉は一度も表に出ることはなかった。
 その行動の真意は…今思い返せば、彼の恋の邪魔をしたくないという気持ちが
あったからだろう。
 
―どうか幸せにね、俺…
 
 そして初めて、心からそう想って相手の幸福を願っていく
 
 かつては嫉妬や反発心に駆られて、決して言う事ができなかった一言。
 けれど今の自分には、自分を愛してくれる御堂が傍らにいるから。
 だから克哉は過去を振り切り、憎しみや嫉妬から自分を解き放つ為にそう
祝福していった。
 彼らの幸せそうな顔を見ても、今は胸が痛む事はなかった。
 かつては自分だけが置いてけぼりにされているような、仲間はずれにされて
しまっているような疎外感を覚えていた。
 だから見ているのが辛かったのだが…今は、凄く穏やかな心境でその様子を眺めていく。
 無防備な姿で御堂の傍で寝ている眼鏡を、克哉は愛しげに眺めていった。
 
(お前は…本当に変わったよな…)
 
 其れは自分の半身であり、共に生きていた眼鏡に向かってしみじみと
そう感じていく。
 御堂を廃人寸前まで追い詰めた頃とは本当に別人で…憑き物が取れたかのように、
今の彼は柔らかくなっていた。
 陽だまりの中、二人は優しい時間を紡ぎあっていく。
 今の克哉は其れを見て…心から良かったと、小さく微笑んでいた。
 
(きっとオレがいまいる世界の『俺』と、御堂さんを凌辱していた頃のお前は同じような
ものだったのかも知れない…。けど、お前は其処で過ちに気付いてこの人を
解放した…。それがきっと、大きな違いになったんだ…)

 克哉は、思い出していく。
 クラブRに残る事を選択して、心を潰されるような行為を強要されていた時…
最後に支えたのはきっと御堂への想いと、そして…この世界のもう一人の自分に
憧れる気持ちだったのだと。

―目の前の俺は、こちらの世界の俺とは違うのだ…

 その境界性を引いていた。
 それがギリギリの処で克哉を護る防波堤となった。
 優しくなった眼鏡の為なら自分が消えても良いと思った。
 この二人の恋を邪魔したくなかったから。
 けれど…鬼畜王として君臨して人の心を思いやらなくなった彼の為に
自分は決して消えてやろうとは思えなかった。
 其れを思い出し…克哉はそっと目を伏せていく。
 
「バイバイ…」

 小さくそう呟いた途端に、世界はゆっくりと白く染まり…光の中に
消えていった。
 過去にしがみついても、何も生み出さないから。
 だから祝福を最後に与えて、克哉は彼らと決別していく。
 その時、自分を呼んでくれる声にやっと気づいた。

『克哉…克哉…』

 これは、自分が愛しいと思っている御堂の声だ。
 その声を便りに、克哉はゆっくりと意識を浮上させていった。
 深海の底から海面に上がったような気分を味わいながら、静かに瞼を開けば
其処には先程まで激しく抱き合った御堂の優しい顔が存在していた。

「あっ…」

「おはよう克哉…やっと目覚めたか…?」

「はい…おはようございます、孝典さん…」

 そうして朝の挨拶を交わし合いながら、そっとおはようのキスをお互いに交わし合っていく。
 しみじみとこの人と結ばれる事が出来た喜びを噛みしめて、愛しい人を見つめていった。

「…どうした? そんなに私をジっと見て…」

「いえ、夢みたいだなって思いまして…。こうして、本当に貴方の元に帰って来て…
こんな一時を過ごす事が出来る事がこんなにも幸せなんだって噛みしめているんです…」

「そうか、だが…これは夢じゃない。これは確かに現実で…そして君はこれからも
ずっと私の傍にいるんだ。良いな…」

「はい、孝典さん…」

 そうして力を込めて抱きしめられていく。
 その抱擁にあまりに熱が込められていた為に軽く痛みを覚えたが…今の克哉には
その感覚すら愛おしかった。

(ここが…今のオレの世界。そして…これからもずっとこの人の傍で生きていくんだ…)

 そう実感した途端、かつての頼りなかった頃の自分が凄く遠いものに感じられた。
 もう自分は亡霊なんかなじゃない。
 御堂の傍らで生きる事を許された一人の人間なのだ。
 
「良い返事だ。…だからその言葉を決して忘れるな。…もう二度と、いなくなったり
するんじゃないぞ…」

「はい、約束します…。これからもずっと貴方の傍にいます…。死が二人を分かつ
その時まで…」

 そうして克哉は愛しい人の頬を優しく撫ぜていく。
 お互いの視線がぶつかりあい、吐息すら感じられる距離で…二人は戯れのように
相手の肌に触れ合っていた。
 今、確かに存在している事を…目の前の出来事が夢でない事を確認しあう為に。
 そして克哉は、ずっと言いたくて言えないでいた一言を言う決意を固めていく。
 心から幸せそうな笑みを浮かべていきながら…誓いの言葉のように恭しく…
その言葉をやっと紡いでいく。

『心から貴方を愛しています…孝典さん…』

 その一言を聞いた途端、御堂からきつく抱きしめられる。
 そして同じ言葉を返されていく。

『ああ、私も同じ気持ちだ。君を愛している…克哉…』

 紆余曲折を得て、やっと大切な人からその一言を聞く事が出来た時…克哉は
感涙の余り、涙をこぼしていく。
 この瞬間に命が終わっても悔いがないぐらいの充足感を覚えた。

―そしてこの朝より、彼らの新しい関係は始まっていく

 様々な試練を経た事で、彼らの間には絆と言われるぐらいに強固な関係が
確かに築かれていったのだった―

 
 
 
 
 



 

※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―激しい行為の果てに克哉は意識を手放し、次に目覚めた頃には
窓の外は白く輝き始めていた
 
 その清冽で淡い光を感じていきながら、克哉は覚醒していく。
 瞼を開けばすぐに愛しい人の体温と、優しい人の眼差しにぶつかっていく。
 夜の藍色の帳が静かに開いて、太陽が再び空に上がり始めた直後の柔らかい光は、
世界を暖かく包み込んでくれているようにすら感じられる。
 すでに夜明けの頃を迎えているのに気づいて、克哉はゆっくりと目を開いていった。
 
(夢、じゃない…オレは確かにここに帰って来れたんだ…)
 
 その事に心から感謝していくと、自分の身体が思ったよりもさっぱりしている
事に気づく。
 さっきまでの激しい行為でお互いの汗と体液まみれになっていた筈なのに、
寝起きは案外爽やかだった。
 もしかしたら意識を失っている間に御堂が身体を拭いて清めてくれたのかも…
と思い当たるとまた顔が赤らむ思いがした。
 
「嗚呼、やっと目覚めたのか…激しく抱きすぎてしまったな。身体は大丈夫か…?」
 
「あ、はい…何とか平気です。それに…ずっと貴方にこうされる事をオレも強く
望んでいましたから…」
 
「そうか、随分と可愛い事をいうな。そんな事を言われたらあれだけ君を抱いた
ばかりなのに…また欲しくなってしまうな…」
 
「えっ、あ…えっと、みど、いや…孝典さんが望むなら構いませんけど…」
 
 御堂からサラリと挑発的な言葉を投げかけられて、克哉はカァっと顔を赤くしながら…
しどろもどろになって返答していく。
 その様子が妙に可愛らしく感じられて、御堂は軽く吹き出していく。
 さっきまでまるでベッドの上では娼婦のように淫らになってこちらのあらゆる要求に
応えていた癖に…素に戻ればこんな一面も見せるのだから、本当に観察してて
飽きなかった。
 
「…まったく、これ以上私を煽らないでくれ。それに…君が欲しくて堪らないという
気持ちはどうにか落ち着いた。今は…君に聴きたい事がある。それに対して…
答えてくれるか?」
 
「っ…! そう、ですね…。貴方からしたらオレが現れて以来…訳の判らないこと
ばかり続いていたんですから。判りました、聞いて下さい…。今なら、大抵のことは
隠さずに答えられますから…」
 
 先程までのどこか気だるげで甘い空気は一瞬にして消えて、代わりに張りつめた
ような緊張感が生まれ始めていく。
 目の前の御堂の瞳が柔らかい色から、真摯なものへと変化していった。
 そして御堂はずっと疑問に思っていた事を幾つか克哉に問いかけていった。
 其れに克哉も包み隠さず、正直に答えていった。
 
 もう一人の自分と行っていたゲームが、御堂の心をどちらが手に入れるかを
競った内容である事も。
 佐伯克哉は二つの心を持っていて、本来なら傲慢で自信に満ちあふれた心と、
自信がなく控えめに生きている人格が一つの身体に宿っている事を。
 そして御堂の元に身を寄せてから四日目の夜、この部屋に侵入して克哉を犯したのは
もう一人の自分である事を。
 Mr.Rが手引きをした為にこのマンションのセキュリティなど一切関係なく忍び込む
事が可能であった事を。
 自分が別の世界から…本来いた世界は、眼鏡を掛けた方の佐伯克哉と、
御堂孝典が結ばれていた事を…。
 そして自分が今、御堂の側にいられるのは…そのゲーム盤に上がる事を
選択したからだと。
 そうしなければ自分たちがこうして出会う事がなかった事実を克哉は静かな
口調で伝えていった。
 一通りの事を説明し終えるのにあっという間に一時間以上が経過してしまい…
気づけば窓の外ではすっかり陽は昇りきってしまっていた。
 そして大体の事情を聞き終える頃には御堂の顔には困惑が浮かんでいた。
 克哉自身もこれらの話が荒唐無稽極まりないという自覚があったから
苦笑するしかなかった。
 
「…これが、大体の事情です。以前…貴方の側にいた間に語らなかったのはきっと…
あの場所に招かれる前の段階で話していてもきっと信じて貰えないだろうと
思いましたから…」
 
「そう、だな。確かに…あの場所に突然招かれた事と、眼鏡を掛けた方の
佐伯克哉と君が一緒に存在しているのをこの目で見ていなかったら…
きっと信じられなかっただろう…」
 
 御堂もまた、何故克哉が今まで詳細を語らなかったのかようやく
得心がいった。
 確かに幾つかの奇妙な体験をする以前なら御堂はきっと頭から彼の言葉を
否定していただろう。
 克哉はそれが判っていたから…だから御堂には正直に言わずに言葉を
濁しているしかなかった。
 だから今の御堂の答えは予想通りのものであり…苦笑を浮かべていく。
 
「…えぇ、オレも信じてもらえると思っていませんでしたから…。だからズルイと
判っていても…色々な事情は伏せた状態で貴方の元に身を寄せるしか
ありませんでした…。下手に本当の事を言って、それで頭がおかしいとか
疑われてしまったら…貴方の傍にいられなくなったらオレは負けるしか
ありませんでしたからね…」
 
「…ゲーム、か。君と私が出会ったキッカケが…彼らにとっての遊戯の一環で
しかなかったというのは…確かに衝撃だった。確かに其れを最初の頃に
聞かされていたら…君を私は受け入れなかったかも知れないな…」
 
「…でしょうね。正直、プレイヤーであるオレでさえも…そういう形で貴方の心を
もう一人の俺と奪い合うのに抵抗がありましたから…。けど、オレには…とりあえず
そのゲーム盤に乗らない事には…可能性は何も存在しなかった。自己弁護しても
みっともないだけですが…その事で貴方が怒りを覚えているのなら、オレは甘んじて
其れを受けますから…」
 
 御堂がゲームの内容を知ったのは、クラブRに招かれてからの事だ。
 その時点でもかなりの不快感を覚えた。
 そしてそんなのは嘘だと必死に否定しようとした。
 あの奇妙な場所での一連の出来事が津波のように御堂の脳裏に鮮明に蘇っていく。
 
―必ず勝って貴方の元に戻りますから…!
 
 その最後の言葉が不意に思い出されていく。
 御堂は其れを思い出した時…ずっと心の中に引っ掛かっていた最後の疑問を
思い出していった。
 そうだ…ゲームをしていたのならば…いつ、そのゲームは終わったのか。
 勝敗はどういう形でついたのか、いつ…彼の勝ちは確定したのか…その事に
気づいて御堂は目を瞠っていく。
 
「…克哉、君にいくつか聞いて良いか…?」
 
「はい…オレに答えられる事でしたら正直に包み隠さずに言います」
 
「…君と、もう一人の君は私の心を奪い合うゲームをしていると確か言ったな…。
それなら、そのゲームの勝敗はいつ…どのタイミングでついたんだ。其れに
どうして…君はあの時、自信満々そうでいられたんだ…。今、思い返せば…君は、
あのタイミングですでに勝つ事を確信していただろう…? それはどうしてなんだ…?」
 
 其れは最大の謎だった。
 一体どのような形で勝敗が決まり、克哉はあの時点で確信出来たのか。
 ようやく自分の胸につかえていた最大の疑問を思い出して…御堂は険しい顔を
浮かべていく。
 その時、克哉は柔らかく微笑みながら答えていった。
 
『答えは簡単ですよ…。このゲームの勝敗は、どんな形でも良いから…貴方の心を
満たした方が勝利になる訳です。…なら、あの場面でオレが残れば強烈に…オレの事を
刻みつける事が出来る。不安や後悔、そういった負の感情であっても…もう一人の
俺の事など考えられないぐらいに満たされたなら…オレは勝利条件を満たした
事になるでしょう…?』
 
「っ…!」
 
 その答えを聞いた瞬間、御堂は底知れぬ畏れのようなものを目の前の
存在に抱いていった。
 あの時、Rが告げた残酷な選択。
 すぐ眼前に出口があるのに…片方だけしか抜ける事が許されない現実に
御堂は打ちのめされていた。
 だから彼はどこかにあるかも知れないもう一つの出口を探そうとしていた。
 どちらか片方だけが取り残されるなんて耐えられなかったから。
 どうしても二人一緒に帰りたかったからそうしようとしていた。
 否、それ以外の考えなど浮かばないていた時に…彼はそこまで考えていたのだ。
 御堂が言葉を失っていれば…克哉は自嘲的に笑みを浮かべていきながら…
更に言葉を続けていった。
 
「…あの時、Mr.Rはオレと御堂さんがすでに両思いである事を思い知っていました。
だからあの人は…オレ達が相手を置いて自分だけ逃げるような真似は出来ないと
思ったからあのような条件を急遽、付け足したんですよ。そしてオレは其れを
見逃さなかったんです。アレは御堂さんにとっては絶望を与えたかも知れないけれど…
オレはあの人が驕っていた為にやった過ちを見逃さなかった。だから勝つ事が
出来たんですよ…」
 
「ちょ、ちょっと待ってくれ…その過ちというのは一体なんなんだ…っ!」
 
「…あの扉を潜って脱出した方には彼らは手を出さないという条件です。即ち、
あの条件を出した時に…貴方を脱出させる事が…唯一、オレ達が勝利条件を
満たす最大のチャンスだった訳です…。Rはオレたちが相手を置いて自分だけ
脱出するような利己的な真似は愛し合っているから出来ないと踏んで…あぁいう事を
言ってきたんです。だからほかの出口を探そうと、二人で出れる場所を探すという
決断を下すと思いこんでいたから…あんな条件を出した訳です。そして…あの場で
決断せずに、他の出口を探していたら…オレ達は二人とも捕まり、ゲームに
負けるしかなかったんです…。そう、クラブRには…あの人が言った通り、
あの出口一つしか存在しませんでしたから…」
 
「何っ…! そ、それは…本当なのか。なら…私が他の出口を探していたら
確実に負けていたという事なのか…?」
 
「…残念ながら、その通りです…」
 
「っ…!」
 
 こうして説明されて、御堂はあの時の甘い考えの通りに実際に行動を
起こしていたら…と想像したらゾっとした。
 今思い返せば…あの時の御堂は見知らぬ場所に招かれて、異常な体験を幾つか
重ねていたおかげでとても冷静とは言い難い状態だった。
 克哉を誰にも渡したくなかった。その気持ちに囚われていたからこそ…視野が狭くなり、
物事の裏側までは判らなかった。
 否、御堂は事情もまったく知らない状態であの場に突然招かれたせいで…静かに
混乱していたのだ。
 だからこそ真実を明かされれば己の愚かさを悔やむ気持ちが生まれていく。
 唇から血がうっすらと滲むぐらい噛みしめて、爪が掌に食い込むぐらいに
強く握りしめた。
 だが克哉はそんな愛しい人を優しい眼差しで見つめていき…その拳にフワリと
己の指先を重ねていった。
 
「…御堂さん、どうか自分を責めないで下さい…貴方はオレと違って、あの時点では
裏側の事情を何も知らなかった。Mr.Rやもう一人の俺がどんな性格をしているのか…
そういった情報すらない状態で、正しい判断なんて出来る訳がないんですから…」
 
「…判っている。あの時点の私はあまりに無知で…後、もう少しで負けるしかない道を
選ぼうとしていたんだからな。こうして…再会出来たなら、君の判断が正しかった事の
証明になる事は判っている。だが…」
 
 それでも、克哉が他の男に…例えもう一人の佐伯克哉だとしても他の人間に
抱かせてしまった事が悔しかった。
 それ以外の道はなかったと判った今でも…理性では判っていても感情が
ついていかない。
 だが克哉はそんな愛しい人の心情を見透かしていきながら…優しく穏やかな声で
御堂が言おうとしていた内容を代弁していく。
 
「…貴方が、きっと…その事でやり切れない思いに満たされるのはオレは最初から
判っていました…。オレがいつ戻ってくるかの不安、どうなっているかの心配…
そして全てを聞かされた時の嫉妬と後悔…オレは其れで貴方の心が徐々に
いっぱいになり、『もう一人の俺』の事など最終的に吹っ飛んでしまう事を…
読んだ上であの行動に出ました。貴方が責めるべきは自分ではない…オレを、
責めるべきなんです。そんな貴方が苦しむと判っている手段を躊躇せずに
取ったオレを…貴方は責める権利があるんですから…」
 
「そんな、事…出来る訳がない…」
 
 全てを聞かされて、どんな想いで克哉がこちらを必死に突き飛ばしたのを
知った今は…何故、彼を責める事が出来ようか。
 振り返ればもしかしたら別の手段や道が存在していたと思うかも知れない。
 だが…現実に決断を迫られた時に、最良の判断をとっさに出来る人間は
そういない。
 そう御堂は判っているのだ。
 
―克哉は勝つ為に最良の行動を迷わず取った事を…
 
 だから今、こうして自分たちは再会する事が出来たのだと…最終的に二人揃って、
こうしてこの部屋に戻ってくる事が達成出来た事も判っている。
 なのに…何故、こんなにも胸の中に…御堂の心をも焼きつくしかねない嫉妬の
炎が渦巻いているのだろう。
 息を吐くだけでジリジリと胸が焦げそうなぐらいのどす黒い感情が
宿っているのが判る。
 
「君がどれだけ、苦しい想いをして決断したのか…それが判るのに、何故…君を
責める事が出来るんだ。あの状況で、自分が残ると言う事がどういう事なのか…
この身体に残った痕を見れば、充分に伝わってくるのに…」
 
「…御免なさい。こんなにも貴方を苦しませてしまって…。オレと出会わなければ、
こんな想いをさせなくて済んだのに…」
 
「そんな、事はない…! 君と出会わなかったら良かったなんて私は少しも思わない…! 
こんな風に嫉妬を覚えた事も、誰かを欲しいと願ったのも…帰って来て欲しいと
切に願ったのも…今まで、君以外に誰一人だっていなかったのだから…!」
 
 克哉の目には、いつしか涙が浮かんでいた。
 御堂のこの苦しみは、自分と出会った為に…Rともう一人の自分とのゲームに
巻き込んでしまったが為に起こった事だと思うと…申し訳なくて、静かに頬に
冷たいものが伝い始めていった。
 克哉は愛しい人の背中に腕を回して縋りついていく。
 そして呪文か何かのように…幾度も『ごめんなさい』と繰り返していく。
 謝った処で自分の罪が消せる訳ではない。
 御堂の心を得る為に、自己犠牲めいた事をした。そうやって…自分はこの
ゲームに勝利をした。
 其れはきっとこの人の心を抉り、深く傷つけた事だけは…決して忘れては
いけないのだと思った。
 
「君を…君を、私は…本当にいつしか…愛しいと思うようになった。こんなにも一人の
人間を手放したくないと、誰にも渡したくないと独占欲を抱いた事すら…君が初めてだ。
だから…今、私はどうしてもやりきれない…。徐々に自分の中で折り合いをつけて
いくしかないって判っているがな…」
 
 御堂が疲れたように微笑んでいく。
 そんな大切な人に向かって、克哉はそっと頬を撫ぜていった。
 指が触れた個所から…御堂の体温と頬の感触が伝わってくる。
 こうしてお互いに一緒にいられる事、それがどれだけ幸福な事か…其れを得る為に、
どれだけこの一カ月…この人を苦しませてしまったのだろう。
 大粒の涙が、ポロポロと溢れていった。
 泣いてどうにかなる訳じゃないって判っていても…どうしても止まらなかった。
 
「…ごめん、なさい…それでも、どんな事をしてでも…オレは、貴方の傍にいたかった。
愛されたかったんです…。其れが、我儘だと判っていても…その願いを…オレは、
叶えたかった…」
 
「…其れは、どうしてだ…?」
 
「…本来、オレがいた世界では…もう一人の俺と貴方が結ばれて、一つの会社を
興していました…。お互いに信じあい、理想に向かって真っすぐと歩んでいく姿が
眩しくて…そんな二人にオレは憧れていた…。そして…オレもいつしか…貴方に恋を
していたんです。けれど…本来いた世界では、貴方の目は…もう一人の俺だけに
注がれていたから。オレの存在は邪魔でしかなく…静かに消えゆくのが最良だと
判っていても…愛されたいと強く願い続けていた。貴方に、オレだけを見て欲しかった…。
他の世界で…まだ、あいつと恋に落ちていない貴方と実際に…望むような関係に
なれるかなんて保証はなかったけれど…オレは何もしないままで、諦めたくなかった…!
 亡霊のように消えてしまいたくなかった…! たった一度で良い! 真剣に想い想われる
関係を…貴方と、どうしても築きたかった…! その欲をどうしても抑えられなかったんです…!」
 
 そして堰を切ったように克哉は己の想いを口に出していった。
 身勝手極まりない、エゴの塊のような心情の吐露。
 綺麗事など全てかなぐり捨てた本音を、正直に口に出していく。
 瞬間、御堂は克哉の身体を強く抱き寄せて…噛みつくような口づけを落としていった。
 その荒々しさに眩暈すら覚えて…その熱さに、陶然となる。
 先程聞いた彼が…こうして御堂の元に来た経緯と、そして…彼が初めて自分の
前に現れた日に…拒絶しようとした途端に半透明になった事を思い出していく。
 
―オレは亡霊に過ぎませんから…
 
 あの日、自嘲的に言った克哉の姿を思い出していく。
 どんな想いを抱いて、彼が自分の元に来たのか…知った今となっては、ただ…
切なさと愛しさといじらしさだけを覚えていく。
 
「君は…もう、亡霊じゃない…! 二度と、そんなものに戻さない…! 私の腕の中で
こんなにも君は温かく…確かに存在している。君は、生きている…そしてこれからも
私の傍にいて一緒に過ごしていくんだ…良いな!」
 
「孝典、さん…」
 
 その一言を聞いた時、また新たな涙が伝い始めていった。
 けれど其れは先程とは違い、嬉しくて感極まって流したものだった。
 歓喜の滴が溢れて止まらない。
 愛しい人にこうして自分の存在を認めて貰える事…其れは何て、心を
満たす事なのだろうか。
 
「ありがとう…ありがとうございます…孝典、さん…オレを、受け入れてくれて…
本当に、…」
 
「…そんな事は礼を言う事じゃない。もう…君は私のものだ。だから二度と…
私の元から離れるな。死が二人を分かつその時までな…」
 
「は、はい…!」
 
 その言葉は西洋風の結婚式の誓いの言葉の常套句だった。
 其れを聞いた瞬間、克哉の胸に熱いものが込み上げていく。
 
「…二度と、他の人間に肌を許すな。例えもう一人の君であったとしても…
これ以後はどんな事情であっても許すつもりはない。良いな…」
 
「はい、誓います…。もう二度と、貴方以外に抱かれません…全身全霊を掛けて、
貴方だけを…愛します…」
 
「良い返事だ…その言葉、決して忘れるな…」
 
「はい…」
 
 御堂の表情に、剣呑なものが宿っているのが見てとれた。
 だが…克哉は決して目を逸らさず、真摯に見つめ返していった。
 そうして…目を焼くような真っ白い光が満ちる中…二人の唇は重なり合っていく。
 神聖な誓いを交わしあっているかのように…儚い口づけを交わしあい、
強く抱き合っていった。
 其れは仮初の誓いであったが…離れている間、ずっと抱えていた不安を解きほぐす
だけの力があった。
 ようやく…ずっと胸に重石のようにあった負の感情が氷解していく。
 張りつめていたものが緩んでいくと…やっと二人の間に安らかな眠りを得たいという
欲求が生まれ始めていった。
 抱き合っていると…ゆっくりとまどろみ始めていき。
 
「…すみません、安心したら…何か、眠気が…」
 
「…心配するな、私もだ。けど…やっと、これで眠れそうだ。…さっき君が意識を
失っている間は私はとても寝れそうになかったから。寝たら君が消えてしまうような
気がして…だからずっと起きていたんだがな。もう君は…何処にも行かないだろう…?」
 
「はい、これからもずっと貴方の傍にいます…」
 
「ああ…」
 
 その瞬間、御堂は本当に嬉しそうに微笑んでいった。
 克哉は其れを眩しそうに見つめていきながら…そっと瞼を閉じていき、愛しい人の
腕の中で深い眠りへと落ちていったのだった―
 
 
 



  

 

 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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 ―克哉の方から積極的に唇を重ねられて、息苦しくなるぐらいに情熱的な
口づけを交わされていく

「ふっ…」

「はっ…ぁ…」

 口づけを解いた頃にはお互いの口元から銀糸が伝い、
悩ましい吐息が零れていった。
 明るい蛍光灯の下、革張りのソファの上に横たえられている克哉の…
無数の情事の痕跡に嫉妬を覚えていく。
 
(まだ私が君を一度だってキチンと抱いていないのに…例えもう一人の君とはいえ、
他の男がこんな風にしたなんて…許せない。許したく、ない…!)

 御堂の胸に焦がすような想いが湧き上がってくる。
 それは猛烈な独占欲であり、克哉への恋慕だった。
 キスと抱擁だけしかまだしていない段階なのに、すでに克哉の胸の
突起は赤く色づいている。
 其れに指を這わせていきながら御堂は大きく足を開かせていって…己の身体を
割り込ませていった。

「…もうこんなに此処を堅くさせているとはな…。やはり私の予想通り、君の感度は
かなり良い方みたいだな…」

「やっ…そんな、事…言わないで下さい…」

 散々、他の男に好き放題にされていた筈なのに…そんな一言とこちらの
視線だけで克哉の顔は耳まで真っ赤に染まっていく。
 その生娘のような反応に、御堂は更に嗜虐心を煽られて執拗に胸の
尖りを責め立て始めていく。

「何をそんなに恥ずかしがる…? 私は先程から事実を言っているだけだぞ? 
ほら、さっきまで指に吸いつくようだった此処が今では私の指を弾かん

ばかりになっているぞ…?」

「ん、ふっ…」

 目の前で克哉が感じている姿を見ている内に、嫉妬よりも情欲の方が
徐々に勝り始めていく。

(正直、君に聞きたい事は山のようにある…。だが、今は君を抱きたい…。
いや、征服して私の痕跡を刻みつけたい…。他の人間がつけた痕なんて、
完全にそうやって消してしまいたい…)

 だから御堂は、今は様々な疑問を克哉にぶつけて問い質すよりも
彼を抱く方を優先していく。
 そうしなければまた腕の中にいる存在が遠くに行ってしまうような焦燥感を
覚えているかも知れない。
 御堂の愛撫は次第に大胆さを増していき…薄い胸板全体を揉みしだくような

動きに変わっていく。

「んんっ…うぁ…御堂、さん…」

「…孝典、と呼べ…。私はさっきから、すでに君を…克哉と呼んでいる…」

「ん、は…はい、孝典、さん…」

 御堂の手によって確かに快感を覚えている中、愛しい人から下の名前で呼ぶ
許可を貰えた事によって…克哉は綻ぶように笑みを浮かべていく。
 その表情の変化はまるで…長い間蕾のままだった美しい花が徐々に
咲き始めるかのようだった。
 御堂はこの時、克哉のここまで柔らかい笑顔を始めて見たせいで…余計に
情欲が強まっていくのを感じていった。

「…君、この体制で…その顔は…反則だぞ…」

「えっ、そんな…自分ではどんな顔をしているかなんて判りませんから…んぁ!」

 御堂の言葉に羞恥の顔を浮かべていきながら、克哉は身悶えていく。
 こちらの痴態に相手も興奮しているのか、御堂の吐息が荒く忙しいものへと

変わっていく。
 そうしている間に一旦愛撫の手を止めていき、勢い良く自らのシャツを脱ぎ去り、御堂は上半身を晒していく。
 その姿に克哉もまた強い情欲を煽られ、下半身のモノがズボン生地の下で一層
張りつめていくのを自覚していく。

(御堂さんがまだ…オレが乱れる姿を見て欲情してくれている…)

 その事実に克哉は安堵と歓喜を覚えていった。
 一ヶ月前のあの時、ああすればほぼこちらが勝利する事に克哉はいち早く
気づいて、実行に移した。
 けれどその事に一抹の不安も覚えていない訳ではなかった。
 あの場に残れば、必然的に他の人間と関係する事になる事は最初から
覚悟の上だった。
 それが判っていたからこそ、絶対に御堂を置いて自分一人だけがあの場所から
逃げ出すという選択肢だけは存在しなかった。
 けれどそれでも、他の人間に抱かれた事で御堂に愛想を尽かされてしまったら…
という恐れがまったくなかった訳ではないのだ。
 目の前の御堂の表情に複雑な色が浮かんでいるのが判った。
 克哉の肉体には至る処に、クラブRにいた頃に行われた様々な行為の痕跡が
色濃く残っている。
 きっと、それが完全に癒えて消えてくれるまでにはそれなりの時間が掛かってしまうだろう。

「くっ…ここにも、残っているのか…!」

「ごめん、なさい…」

 そして御堂の手が克哉のズボンに掛かり、下着ごと引きずり下ろしていくと
無数のキスマークや、赤黒い痣、そして鞭で打たれたり引っかかれたような傷跡も現れていく。
 性器もまた先端部分が赤く腫れ上がり、散々弄られた証が色濃く残っている。
 一枚、一枚衣類を剥いで余計なものを取り去っていく度に…この一ヶ月、

克哉が酷い目に遭っていた痕跡ばかりが現れていく。
 それを見て御堂は悔しくて苦しくて…泣きたくなった。
 克哉の目の前で愛しい人の顔が歪んでいく。
 だから少しでもそれを和らげたいと願いながら克哉はぎゅっと御堂の

背中を抱きしめていく。
 そして静かな声で告げていく。

「…体の傷は必ず癒えます。ですから、これから…オレの身体に貴方を
刻みつけて下さい…。今、身体に残っている痕を上書きして無くしてしまうぐらいに…」

「ああ、そうさせてもらおう…」

 克哉がそう口にした途端に御堂の瞳に嗜虐的な色が濃くなっていく。
 そうしてまだ赤黒い首筋のキスマークに己の唇を這わせて強烈に吸い上げていく。
 その瞬間、かなりの痛みが伴ったが克哉は御堂の身体にきつく抱きついたままだった。

「はっ…ううっ…!」

 それは確かに苦痛であったけれど、同時に甘い陶酔感を確実に呼び起こしていた。
 そうして御堂は克哉に己の所有の証を刻みつけていきながらついに
下半身の衣類を全て脱がせ、大きく足を開かせていく。
 眼前に晒されたペニスもアヌスも…散々弄られたせいで赤く腫れていた。
 だが御堂は胸に湧き上がる嫉妬心を敢えて押さえず、枕元のローションを
手に取ると、克哉の下肢にたっぷりと冷たい液を落としていった。

「冷たっ…!」

「我慢しろ、直に熱くなる…」

 そうして克哉の蕾に指を挿入していくと、内部を軽く解すように蠢かして…

感じるポイントを的確に刺激し始めていった。

「ふっ…うっ…あっ…」

 前立腺を擦りあげられる度に、克哉の唇から甘い声音が零れ始めていく。
 その姿に酷く煽られて、御堂の瞳に再び剣呑な光が宿り始めていく。

(一ヶ月前、抱いた時よりも…妙に艶っぽくなっている気がする…)

 あの晩、腕の中に抱いた克哉の反応はどこかぎこちなくて

初々しいものだった。
 だが今、ベッドの上に組み敷いている彼の反応はどこかこなれた
ものに変わっていた。
 挿入間際に唐突に意識を失い、そして気づけばあんな奇妙な場所に
招かれてしまっていた。
 今夜はもう、邪魔されたくなかった。キチンと克哉を抱いてしっかりと感じたかった。
 だから少し性急に愛撫を施し、そして指を引き抜いていくと…正常位の
体制になり、己の剛直を相手の菊座に当てがい、グイっと腰を沈めていく。

「くっ…きつい、な…」

「ん、すみません…けど、オレは大丈夫ですから…今夜は最後まで…」

「ああ、そのつもりだ…。今度こそ、君をキチンと抱く…途中で止めて
やる気などまったくない…!」

「ああっ!」

 そうして御堂は一気に己のモノを克哉の中に収めていった。
 瞬間、繋がった箇所から引きつれたような痛みを覚えていったがそれ以上に…
克哉の胸の中は幸福感で満たされていった。

(やっと御堂さんと…繋がる事が出来た…!)

 この時をどれだけ待ちわびた事だろう。
 克哉の目にうっすらと歓喜の涙が浮かび始めていく。
 お互いに加減する余裕などまったくなかった。
 こうやって繋がり合い、確かに結ばれる事をずっと願い続けていたのだから。
 突き上げる御堂の腰使いも、其れを受け入れる克哉の動きも双方、
息もつかせないぐらい早く激しいものだった。
 お互いの荒い呼吸と肉を打ちあう音がリビング内に響き渡る。
 
「んあっ…はっ…ううっ…んんっ…!」

「克哉…! 克哉…!」

 双方ともに狂おしい気持ちを抱いていきながら、夢中で相手を
求めあっていく。
 いつしか二人の肌にはびっしょりと汗が浮かび上がり、体中が
赤く染まり始めていく。
 体中が敏感になっているせいか、御堂も克哉も直ぐに登りつめていく。
 一度目の解放は、すぐに訪れていった。

「っ…くっ…!」

「ああっ…うぁっ…!」

 そうして、全身を強張らせていきながらお互いに一度達していく。
 しかしまだ二人の飢えが満たされる事はなかった。

―こんなものでは全然足りない…!

 其れは二人共、強烈に感じていた。
 達した後、直ぐに御堂自身が硬さを取り戻していくのを見て…
克哉はゴクリと息を呑んでいく。
 そして淫蕩な笑みを浮かべながら、強請っていった。

『今夜は…オレを壊すぐらい、激しく抱いて下さい…!』

 その言葉を聞いた時、御堂は満足げに微笑みながら…
再び行為を開始していき。
 そして夜明けまで二人は激しくお互いを貪り合って
いったのだった―


 


※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―やっと貴方の元に帰って来れました… 
 
 御堂の力強い腕に包まれながら克哉は、その喜びを深く噛み締めていた。
 どれだけこの一ヶ月間、此処に帰って来れることを待ち望んでいた事だろう。
 
(御堂さん、御堂さん…御堂さん…! 貴方にもう一度会いたいってどれだけ
オレが想っていた事か…! 絶対に貴方にもう一度会いたい。その気持ちが…
ずっと、挫けそうになった時にオレを支え続けてくれたんです…! やっと、
貴方の元に帰って来れたんですね…オレは…!)
 
 ただ抱き締められているだけで感慨深いものが湧き上がり…同時にジワっと
涙が溢れてしまいそうになる。
 克哉はどれくらいの期間、自分がクラブR内で過ごしていたのか時間の
経過をまったく知らない。
 あの場所にはカレンダーも、時間の概念も存在しなかったから。
 一日がいつ終わっていたのかも克哉には知る術がなかったし、御堂と離れてから
どれくらい経過したのか克哉には判らなかった。
 けれど永遠に続くのではないかと、何度も絶望に陥ったことがあった。
 望まぬ行為を強要されて心が折れそうになってしまった事だって
数え切れないぐらいあった。
 けれど克哉は、絶対にこの腕の中に帰りたかった。
 その想いを…息が詰まるぐらいにきつく御堂に抱きしめられていきながら
思い出していく。
 
「御堂さん、御堂さん…! ああ、どれだけ貴方に会いたいとオレが想っていたか
判りますか…。再びこの腕の中に抱き締められる日を夢見て、やっと…叶う日が
来てくれたんですね…」
 
「ああ、そうだ克哉…私も君が帰って来てくれる日をどれだけ願っていた事か…。
これが夢ならどうか、醒めないでくれ…!」
 
「んんっ…。!」
 
 そうして二人は互いの歯がぶつかりあってしまうような不器用で、勢いに
任せたキスを交わしていく。
 カチっと小さく音が立ったが…すぐに御堂はキスの角度を変えて深く唇を重
ね合わせて…熱い舌先を絡ませあっていく。
 お互いの呼吸すら奪い尽くしてしまいそうな情熱的なキスに、すぐに体温が
上がって…身体の奥に生まれた欲望が煽られていくのが判った。
 そうして御堂が克哉を押し倒すと同時に二人分の体重が掛かって、ソファが
ギシっと軋み音を立てていく。
 蛍光灯の明かりが灯る中、鮮明にお互いの姿が照らし出されいるが…強く
正面から抱き合っている格好のせいで表情は良く見えなかった。
 
(貴方の元にこうして帰れるまで、本当に長く感じられました…。けど、オレは
信じていましたから…。貴方の元に必ず帰れると…。ああする事で確実に、
勝利を得ることが出来ると言い聞かせていたから…どんな事をされても
耐えられたんです…)
 
 この腕を、克哉も離したくなかった。
 だから強くこちらからも御堂の体を抱きしめ返していく。
 ドクンドクンとお互いの鼓動が早くなっているのを実感していく。
 ただ抱き合っているだけでお互いの息遣いが荒くなり、体温がジワっと
上がってくるのが判った。
 
「御堂、さん…」
 
「克哉…」
 
 お互いに語りたい事、聞きたい事はいっぱいあった。
 だが今は言葉すら邪魔だった。
 息が出来なくなるぐらいに力を込めて相手の体をきつく抱きしめ合う。
 革張りのソファの上に押し倒されると、身長180cmを越える大の男の体重が
掛かったせいだろうか。
 先程よりも更に大きな音を立てた事で克哉は少しヒヤっとなりつい案じて
いきながら問いかけていく。
 
「あの…寝室に、行きますか…?」
 
「いや、ここで良い。ベッドに移動する時間すら…今は惜しい…」
 
「あっ…」
 
 そうしている間にワイシャツのボタンを外されて裸の胸を露出させられていく。
 途端に克哉の顔に狼狽が生まれていく。
 
「あ、あの…」
 
「っ…!」
 
 克哉が慌てて隠そうとしたがすでに遅かった。
 肌蹴たシャツから見える肌…そう、首筋から鎖骨に掛けて無数の
痕跡が刻まれていた。
 キスマークの他に、鞭で打たれたようなミミズ腫れや細かい裂傷まで
ある事に気づいて、御堂が息を飲んでいく。
 
(その、痕は…! 君が、あいつに好き放題された証なのか…! やはり、
君は…この一カ月、決して平和に過ごしていた訳では…なかったのか…!)
 
 先程まで熱に浮かされてきた想いが、一気に現実に引き戻されていく。
 克哉が姿を消していた一ヶ月間、果たしてどのような行為を繰り返しされて
きたのか想像するだけで…憤死しそうになる。
 憤りによって御堂の拳は、全身はワナワナと震えて…強く握りこんだ手の甲
からは血管すら浮かびあがっていた。
 その様子を見て克哉は、己の迂闊さを心から後悔していた。
 
(…しまった…この身体の痕を見て、御堂さんがどう思うか…それを失念
してしまっていた…。本当に馬鹿だ、オレは…!)
 
 克哉もまた、御堂のその反応を見て…苦い顔を浮かべていった。
 明かりが消えた状態ならば、気づかれずに済んでいたかも知れない。
 克哉もまた、御堂の元にやっと帰る事が出来た喜びが強すぎてその事を
まったく考慮していなかった。
 クラブRで過ごした日々の痕跡がこの肉体に色濃く刻まれている事を。
 其れを見て御堂がどう思うか、その事を失念していた己を呪いたくなった。
 
「克哉、それは…」
 
「………貴方の想像した通りです。けど、他の男にされたものではなく…もう一人の
俺に刻まれたもの。それならオナニーをしているのと何も変わらない。オレは、
そう思って過ごしていました…」
 
「そうかも、知れないが…くっ…!」
 
 目の前で御堂の顔が苦悩で歪んでいく。
 その痕は紛れもなく、克哉がこの一ヶ月決して平穏に過ごした訳
ではない証だった。
 きっと何度も抱かれて、痛めつけられるような行為を繰り返されたのだろう。
 身体に刻まれた傷や、その痕が何よりも雄弁に事実を物語っていた。
 けれど克哉は其れを、もう一人の自分だけにつけられたときっぱり嘘を言った。
 本当は他の四人とも絡まされた。
 時に本多や太一に貫かれる事があった。
 片桐や秋紀を抱かされながら、もう一人の自分に貫かれる事すらあった。
 
(けど、御堂さんに本当の事なんて言わなくて良い。抱かれたのはあいつ…
もう一人の俺だけなのだと。その嘘を信じてくれた方がきっと、御堂さんの
心の負担は軽くなる筈だから…)
 
 この身体に刻まれたものが存在する限り、何もなかったと嘘を言う事は出来ない。
 そんな事を言ったところで何の意味もない。
 だから克哉は少しでも負担にならないように嘘をつく。
 御堂はきっと、あの場所に招かれてもう一人の自分と対峙した時点で…
御堂の元に来て四日目の夜に、克哉を犯したのが彼だという事実を知った筈だ。
 それならすでにこちらをを犯していると判っている相手だけにされていたの
だと言った方が良い。
 
(真実は俺だけが知っていれば良い…貴方には一生涯、あの場所で起こった事の
詳細は言わない…。だからこの嘘を真実と思っていて下さい…)
 
 愛しい人を傷つけるだけの真実などいらない。
 ならせめて貴方の心が少しでも軽くなるように、この嘘を突き通そう。
 もう克哉は御堂の手を離さない。
 その為に、どんな陵辱も恥辱も代わりに受けても構わないと思った。
 だから克哉は歪んだ笑みを浮かべていきながら…静かに告げていく。
 
―その顔は、一ヶ月前に最後に御堂が見た暗いものを感じさせる笑みと
酷似したものだった
 
 その顔を思い出して御堂は言葉を失っていく。
 そして彼は思い知る。克哉の深すぎる情念を…。
 
「…この傷の事は気にしなくて良いです。これは…貴方を他の人間に
触れさせたくないって思ったからやった事ですから…」
 
「克、哉…」
 
 そう告げた克哉の瞳に深い闇が宿っている事に、狂おしいまでの強い感情を
感じ取って御堂は思わず息を詰めてその視線に釘付けになっていく。
 そして克哉はそんな彼から余計な考えと言葉を奪うように、再び何もかも
奪うような深い口づけを交わしていった―
 

※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―黒衣の男は主の頭を己の膝の上に乗せながら小さく溜息をついていた

 赤い天幕で覆われた部屋の中は、今は甘い香りに満たされていた。
 特殊な香を焚いたおかげだろうか、Mr.Rを除いて全ての者が深い眠りについていた。
 
(まさか…眼鏡を掛けていない克哉さんの方にここまでして
やられてしまうとはね…)

 少し苦々しく思いながらも、どうにか気持ちを切り替えて男は
事後処理に入っていた。
 この空間には一ヶ月あまり、この場に残っていた眼鏡を掛けていない方の
佐伯克哉が存在していた。
 その期間内、眼鏡とその性奴隷となった四人は全力で克哉の心を懐柔したり、
打ち砕く為に尽力し続けた。
 だが決して克哉の意志を曲げる事は出来ず、ついに今日…完全にこのゲームの
勝利条件を満たされてしまったので、Rは彼を解放したのだ。
 難癖をつけて無理矢理引き留める事は可能だった。
 だが男は…他ならぬ最愛の主君の為にそうしなかった。
 何故なら…。

「嗚呼、こんなに深く心を傷つけられてしまって…。貴方は他の者に悟られないように
していましたけど、私には判ります。あれだけの情熱を注いでももう一人の貴方の心を
手に入れる事も曲げる事も出来なかった事でどれだけ自尊心が痛めつけられて
しまったのか…。けれどそんな事で貴方が歪められてしまうのならば今は
お眠りになって下さい…。貴方が目覚める頃には苦い思い出は綺麗に消えていますから…」

 そうあやすように言葉を紡ぎ、愛しげに主たる存在の髪を優しく梳いていく。
 その場に倒れている本多、片桐、太一、秋紀の四人も軽く一瞥していきながら…
男は洗脳する為の言葉を、歌うように紡ぎ続けていく。

―此処は貴方が君臨する場所。四人の愛しい奴隷が貴方を心から慕って
おります…。そして貴方の欠けた御心は必ずもうじき埋められます…。
ですから今は眠っていて下さい…。貴方を脅かす苦い記憶が消えるまで…

 そうして主の額に優しく口づけていった。

(そう…もうじき、別の世界とこの場所を繋げて…もっと弱々しい眼鏡を
掛けていない貴方と、御堂孝典さんを連れて来ます…。それならば貴方に
屈して、そして永遠に明けない夜を貴方と紡いでくれるでしょうから…)

 Rは克哉が、勝利条件を満たした事…一ヶ月も前に宣言した事が決して
はったりではなかった事を今は痛感させられていた。
 結果、捕獲対象だった御堂の心からは一欠片も…眼鏡を掛けた方の彼は
介入することが叶わなくなった。
 其れを悟ったからこそ、脆い部分を併せ持つ主の精神に必要以上に深い傷跡を
残さない為に…あの克哉を解放したのだ。
 
―これ以上手元に残していても、最愛の主君の心は傷つけられるだけだと
悟ったからだ…

 だからMr.Rは彼を眠らせる。
 まるでギリシャ神話の中に出てくる眠りの神、ヒュプノスのように…この場にいる
全ての者にあの佐伯克哉の存在を忘却させるための深い眠りを与えていたのだ。

「忘れて下さい…全てを。あの強情な眼鏡を掛けていない佐伯克哉さんの事を
いつまでも覚えていても…貴方の心は辛くなるだけですから…」 

 何度も何度も、諭すように優しく言葉を伝えていく。
 まるで幼子をあやすように、子守唄でも聞かせてやるかのように…穏やかな
声音で、辛い記憶を手放すように促し続けていく。

「うっ…ううっ…」

 そして何度も、主は額に汗を浮かべていきながら呻き続ける。
 それは彼なりの抵抗の証だった。
 忘れろ、とやんわりと諭すRの言葉を素直に聞き入れてくれていないのだろう。
 だからこそ、延々と男は伝え続けていく。

(…判っていますよ…。貴方なりにもう一人のご自分に愛着を持って接して
おられた事は…。だからこそ、最後まで相手の心を得られなかった事は深い
傷を与えている事を…。けど、もうあの佐伯克哉さんと御堂孝典さんの間に
入り込む事はかなり厳しいでしょう…。そんな無駄な努力をさせてこれ以上
貴方を苦しませるぐらいなら…私は貴方に忘れ去らせる方を選びます…)

 其れは主君への労りであると同時に、この佐伯克哉をRが望む者へと
在り続けさせる為に必要な事だった。
 純粋な愛など、一種の暴力行為に等しいのではないだろうか。
 あの佐伯克哉は…その姿勢を見せ続ける事で、愛しい主を大きく変革させて
しまった。その影響はあまりに大きすぎて、こんな事をしなければならない
ぐらいだった。

「忘れなさい…全てを。辛い記憶など、抱いていても貴方が歪められるだけ…。
あの時のように私の手を取って、平穏を取り戻して下さい。いつまでも手に入れられなかった
存在に心を残しても…辛いだけですよ…」

 そうして男は、考えを巡らせていく。
 必ず無数に存在する可能性の中には、あっさりと陥落する眼鏡を掛けていない
佐伯克哉と御堂孝典も存在する筈だ。
 嗚呼、それと…自分が彼に介入するキッカケを作った、彼の親友辺りも
此処に招いても良いかも知れない。
 喪失など気にならなくなるぐらい、新たな存在を与えて彼をこの場に君臨
させれば良いのだ。
 そうして…Rは邪な笑みを浮かべていく。

―貴方は私の望む者にもっとも近くなった存在。貴方を誰にも渡しはしません…。
此処に繋ぎ止める為なら、私は何でもいたしましょう…

 そうして彼への強い執着を垣間見せていく。
 記憶操作や、洗脳する事にだって何の躊躇いも見せない。
 この明けない夜の中にずっと留まってくれるならば…それで良いのだ。

『貴方は永遠に私のモノです。私が貴方という存在を貪り尽くすまで…。
飽きてもういらないという日が来ない限りは…決して私は貴方を
手放す事はありませんよ…我が主…』

 そうして、誓いの口づけのように恭しく…己の膝に頭を乗せている佐伯克哉の
唇にキスを落としていく。
 愛しさと、呪縛の両方の意味を込めながら…。

―貴方を繋ぎ止める為なら、私は何でも致しましょう…

 そう呟いていくと…再び彼に呪文のように、優しく言葉を紡いでいく。
 そのRの表情は慈愛に満ちていると同時に、酷く禍々しく…天使と悪魔の要素を
両方併せ持つような…不思議な笑みをたたえていたのだった―

 

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小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
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 とりあえず読んでくれる人がいるのを
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一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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