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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―彼と過ごしたたった十一日間が、まるで夢のようにすら
今の御堂には感じられていた。
 
 本日も日付変更間際に御堂は帰宅していた。
 克哉がいなくなった日から、失ってしまった何かを埋めるように御堂は
仕事に熱を入れて余計な事を考えないようにした。
 彼と出会うまではそうすれば、大抵の事はどうでも良くなった。
 しかし…今はそれだけ仕事に熱中するようにしても何かが虚しかった。
 胸の中に空虚なものがあることを感じていきながらカードキーを自分の部屋の
前のカードスロットに通していく。
 
(あの日から今日で丁度…一ヶ月が経ってしまったな…)
 
 ふとそんな考えが過ぎりながら…御堂は自分の家の扉を潜っていった。
 室内の明かりは全て落とされていて真っ暗だった。
 一人暮らしをしているのだから以前は当たり前だと思っていた光景。
 しかし今の御堂は帰宅した時に…明かりが灯っていないか密かに期待
するように変わってしまっていた。
 
―おかえりなさい御堂さん…
 
 一瞬、そんな幻聴が聞こえて…御堂は自嘲的な笑みを浮かべていく。
 もしくはただいま、でも良い。
 毎日のように帰宅した時に、克哉の姿がないか期待しては裏切られ
続けている。
 
「…ふっ、本当に私らしくないな…。彼と過ごしたのはたった十一日間だというのに…
こんなに、私は弱くなってしまったのか…?」
 
 御堂は苦笑しながらソファに腰を掛けて、ネクタイを緩めていく。
 深く溜息を吐きながら…ただ克哉の事だけを考え続けていく。
 
―必ず、貴方の元に帰ります…!
 
 そう、叫ぶように彼は何度も訴えていた。
 あの出来事を思い出す度に、胸が潰れそうに苦しくなった。
 アレは何度も夢だと思いこもうとした。
 だが間違いなく御堂が目覚めた時には傍らにいる筈の…その前の晩に
抱き合って傍らにいる筈の克哉の姿は跡形もなく消えてしまっていた。
 まるで最初からいなかった人間のように…煙のようにその存在を消してしまった。
 
―オレは亡霊のようなものですから…
 
 彼は何度も、自嘲的に御堂の前で呟いていた。
 これでは本当に幽霊みたいではないか。
 自分が拒絶すれば消えてしまうと言っていた。
そうやって強引にこちらの生活に踏み込んできて…心の中に入り込んできて、
それでこんなにも自分が必要とする頃になって消えてしまうなんて卑怯
過ぎると思った。
 
「克哉…克哉…」
 
 あの出来事があってから、御堂は無意識の内に彼の名前を呼ぶ時…佐伯君
ではなく、下の名で呼ぶように変わっていた。
 彼を想っているのだと自覚した時から、自然とそうなっていた。
 あんな別れ方はズル過ぎる。
 こうなっては絶対に…克哉の事を忘れる事など出来ない。
 あんな奇妙な場所に一人で残されて、果たしてどんな目に遭わされているのかと
考えるだけで『不安』で胸がいっぱいになり…気が苦しそうだった。
 
「…こんなに、私の中はいつの間にか君の事でいっぱいになってしまっている…。
今。どうしているんだ…。それだけでも、知りたい…。君に、逢いたいんだ…」
 
 その事を考えるだけで目元が潤んでいくのが判る。
 こんな事で泣きそうになるなんて自分でも女々しいと思う。
 だが…御堂の中ではそれだけ佐伯克哉という存在は特別なものに
なってしまった。
 彼にまつわる事だけはすでに冷静に受け止める事が出来ない。
 仕事をしている間だけは意識の外に追い出す事が辛うじて成功しているが…
一人になれば考えるのは彼の安否と、いつ帰って来てくれるのか…
その事だけが占めていた。
 
―御堂さん…
 
 はにかむような克哉の笑顔が、脳裏に鮮明に蘇っていく。
 嗚呼、あの表情を愛しいと感じるようになったのはいつの頃からだろうか。
 
―貴方が好きです…
 
 はっきりと口に出して言われた訳ではなかった。
 けれど傍にいた時にその想いを、肌でずっと感じ続けていた。
 結局強引に転がり込んだ克哉に対して強く出れず、追い出す事が叶わなかったのは…
彼からこちらへの強い好意が伝わってきたからだ。
 朝食を必死に作ってくれている姿。
 おかえりなさい、と笑顔で迎えてくれた時の事を思い出し、それだけで切なくなる。
 
(私はいつの間にか…こんなにも、君の事を…)
 
 傍にいた時は気付けなかった。
 あの生活がどれだけ脆い基盤の上に成り立っていたのかを。
 こんなにもあっけなく砕け散り、御堂の日常はまた以前のものに戻ってしまった。
 だが…克哉に出会ってしまったせいで彼の意識は大きく変化してしまった。
 
―君のいない生活がひどく虚しく感じられるんだ…
 
 どれだけ心の中で願っても、求める人間に届く訳ではない。
 それくらいの事は判っていても、この想いを押しとどめる事は出来なかった。
 
「君に、会いたい…」
 
 そして御堂が真摯な想いを込めて、そう呟いた瞬間…唐突に視界が
歪んでいったような気がした。
 
「…? 何だ、今のは…?」
 
 御堂は一瞬、自分は酔いでも回ったのだろうかと思った。
 しかし今夜はアルコールの類は一滴も口にしていない。
 元々ワインを愛飲する習慣があった御堂だが、克哉がいなくなってから一人で
飲むとヤケ酒に近くなり、通常よりも多く飲んでしまう事に気づいたから近頃は
控えるようにしていた。
 だが気になって目を凝らしてもう一度、空間が歪んで見えた方を見つめていくと
不意に声が聞こえていった。
 
―御堂さん…
 
 その声を聞いた時、最初は幻聴かと疑った。
 だがとっさに御堂は叫んでしまっていた。
 
「克哉…!」
 
―嗚呼、やっと貴方にオレの声が届いたんですね…! 御堂さん、オレを
呼んで下さい…もっと…!
 
「ああ、判った…克哉、克哉…!」
 
 御堂が名前を呼ぶ度に、目の前の空間に光の粒子が集まっていく。
 最初の頃は儚かった輝きが、御堂が克哉の名前を呼ぶ度に力強いものへと
変わっていった。
 そうしてついに成人男性程の大きさになり、少しずつ輪郭がはっきりしたものに
なっていく。
 まるで映画の中にある特撮場面か何かのようだ。
 目の前の空間がどんどん歪んで、ついに人影が生まれていく。
 
(これは一体…どういう帰り方なんだ…!)
 
 心の中でそう突っ込んでしまったが、そうしている内に目の前に一人の
男性が現れていく。
 その姿は間違いなく…御堂が待ちこがれている存在、そのものだった。
 
「克哉…!」
 
 そうして、はっきりと具現化していくと同時に力一杯御堂は彼の体を
引き寄せていく。
 腕の中には紛れもないしっかりとした質感があった。
 今、抱きしめている克哉は幻ではなく…確かにその体は暖かく質量を
持って存在していた。
 
「克哉、克哉…」
 
「随分と長く待たせてしまってすみませんでした…」
 
「…嗚呼、随分と待ったぞ。けど君がこうして帰って来てくれたのなら
それで良い…」
 
 そうして御堂はそっと克哉に向かって顔を寄せていく。
 彼の方もまたそれに逆らわなかった。
 心の中では彼に聞きたい事が渦巻いていた。
 けれど今は…純粋に彼が自分の元に帰って来たその喜びを噛みしめようと思った。
 
(やっと…君をこうして抱きしめられる…!)
 
 そうしみじみと感じていきながら…ごく自然に唇が重なり、柔らかい弾力と
かすかな温もりがそこから伝わってくる。
 そして克哉は泣きそうな表情を浮かべながら、うれしそうにこう呟いていく。
 
―ただいま、御堂さん…
 
 その一言を聞いた御堂は、愛しい存在を骨が軋むぐらい強く抱きしめて
応えていったのだった―
 
 
 




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 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
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─目の前で出口が白く輝いているのが視界に飛び込んでくる
 
それはこの奇妙な空間から抜け出す為の…本来なら彼らの希望に繋がる処。
しかし今は何よりも御堂と克哉を打ちのめす要因になっていた。
 
─この扉を潜れるのはどちらか一人だけ
 
その現実が二人の前に重くのしかかっている。
御堂は言葉を失い、立ち尽くすしかなかった。
こんな場所から一刻も早く立ち去りたい。
だが自分が逃れる為には克哉を置き去りにしなければならず、克哉を
逃がす為には自分が残らなければならない。
 
(…どっちも出来る訳がない…!)
 
御堂はふと自分たちの前に立ち塞がる眼鏡を掛けた方の佐伯克哉をみやっていく。
先程まではこちらからの拒絶の言葉を聞いて怒りで身体を震わせていた男は、
今では余裕を取り戻し…愉快そうな笑みを浮かべていた。
それが御堂の神経を大いに逆撫でしていく。
 
(…この男の思い通りになるのだけは絶対に御免だ…!)
 
だから御堂は自分のすぐ傍らにいる克哉の手を強く握りしめていく。
この手を離したくなどなかった。
他の人間にこれ以上、指一本だって触れさせたくなかった。
相手と手を繋ぎながら…自分はすでに克哉に強烈な独占欲を抱いている
ことを心底実感していく。
克哉はさっきから深く項垂れて一言も言葉を発していない。
彼が何を考えているかは御堂には判らなかった。
だが今の御堂にはとても相手の考えまで推測して読み取る余裕など
ありはしなかった。
 
(こうして私達がここにいる以上…どこかに必ず他の出口は存在している筈だ…。
彼と二人で必ず一緒に帰って見せる…!)
 
心の中で葛藤していきながらも御堂は自分の中で回答を導きだしていく。
 
「佐伯君、他の出口を探そう! こうして私達がここにいる以上…入って来た
入り口もまた同時に存在している筈だ!」
 
「………………」
 
だが克哉は先程までと同じく、俯いているだけで一言も言葉を発さない。
 
「無駄だ…お前達二人は間違いなくその扉を通ってここに来ている。他の出口を
探しても徒労に終わるだけだぞ…?」
 
「うるさい…そんなのはやってみなければ判らない!」
 
  惑わされるものか、と思った。
 相手の言葉に、この状況に悲観したら負けだと思うからこそ大声で叫んで
打ち消そうと試みていく。
 だが、たった今…眼鏡が語ったのは紛れもない事実だった。
 知らない間に御堂と克哉は、Mr.Rが幾重にも張り巡らせた罠に
掛けられていた。
 巧妙かつ、的確に二人の中途半端な抵抗などでは簡単に翻す事が出来ない
状況に追い込まれている事に御堂はまだ気づいていなかった。
 だが、それらを全て打ち壊す為の道筋が…沈黙を続けている克哉の中で密かに
組み上げられている事をその場にいる誰も気づく事はなかった。
 
(絶対に…彼と二人で帰ってみせる…!)
 
 御堂はこの状況になって、紛れもなく自分は克哉を愛し始めている
事実を思い知らされていった。
 さっき、他の男達に手首を拘束された状態で愛撫を施されていた克哉の姿を
見て胸が焼き切れそうなぐらいな強烈な嫉妬を覚えていった。
 他の男になど二度と触れさせたくなかった。
 自分だけが戻る選択をすれば、彼を必然的にここに置いていく事になる。
 そして彼を誰の手にも触れないようにすれば…その場合は自分が
此処に残る事になる。
 其処まで考えた時、ゾワっと悪寒を感じていった。
 どちらの場合でも、冗談ではないと思った。
 だから御堂は二人が脱出する為の道を模索する、探し出していく…それ以外の
道を選ぶ事は考えられなかった。
 だが、その瞬間…御堂のそんな甘い考えを見透かし、嘲笑うかのようなメッセージが
静かにアナウンスされていく。
 
―嗚呼、一つ申し上げておきますが…当店の出入り口は其処以外はありません。
何分、地下に在りますからね。地下奥深くにあれば早々出入り口を作るのは
大変ですから。ですから…この場所以外に二人で脱出出来る場所があるなど
甘い考えは早急に捨てて下さいませ…。後、このような苦痛に満ちたルールを
出した以上…この扉を潜って脱出された方の身の安全は保証させて頂きます…。
ですが、残された方がどのような事になるかは…まあご想像にお任せ致しますけどね…
 
 其れは、残された方を犠牲にするのだと…暗に言っているようなものだった。
 相手を愛しいと思えば思うほど、これはあまりに残酷すぎる選択だった。
 愛しい存在を残さない限り、この場から脱出出来ない。
 そんな選択を突きつけられたら…迷わない人間などいない。
 事実、御堂の胸は甘い希望を打ち砕かれて…今にも張り裂けそうな
ぐらいに痛み始めていた。
 
(私が、残るしかない…。もう、彼を二度と…誰にも、触れさせたくない…!)
 
 一週間前、自分が不在の時に…何者かに克哉が犯されていた夜の記憶が
鮮明に蘇っていく。
 今なら判る、あの日…克哉を好き放題にした相手が…目の前に立っている
眼鏡を掛けた方の佐伯克哉である事を。
 克哉を残せば、彼はまたこの男に犯されるというのならば…自分は…!
 其処まで覚悟を決めた瞬間、御堂は唐突に…強烈な力で腕を引かれていった。
 
「佐伯君…!」
 
「……っ! 来て、下さい!」
 
 さっきからずっと押し黙ったままだった克哉はそう叫んで行くと同時に…白く
輝く扉まで御堂の腕を引きながら真っすぐに向かっていく。
 其れはまったく迷いの感じられない動作だった。
 
「っ…!」
 
 突然の克哉の行動に、眼鏡もまた言葉を失わざるをえなかった。
 だが、すぐに克哉に向って男は叫んでいった。
 
「…何を考えている! 其処から出れるのはお前達の内の一人なんだぞ!」
 
「嗚呼、判っているよ…だから、こうするんだ!」
 
「うわぁ!」
 
 そして克哉は全力で御堂の身体を突き飛ばした。
 その行動に誰もが言葉を失い、茫然となっていく。其れは…その場にいない
Mr.Rすらも例外ではなかった。
 白い光の中に御堂の身体が吸い込まれていく。
 だが…御堂とて、素直に飲み込まれる訳には行かなかった。
 確かに現実には猛烈に帰りたくても…克哉をこんな場所になど残したくなかった。
 残された彼がこの場所でどんな扱いを受けるか、想像するだけで全身の
血液が沸騰するぐらいの憤りを覚えていった。
 物凄い力でもって御堂の身体は扉の奥に吸い込まれそうになっていた。
 だが…其れに抗うべく、御堂は扉の縁に指を掛けて掴まり…どうにか留まっていく。
 
(気を抜いたら…扉の奥に吸い込まれてしまいそうだ…! だが、此処で
私がこの扉を潜って脱出してしまったら…彼が…!)
 
 御堂は己の持てる力の全てを掛けて、食い下がっていく。
 だが其れを見つめる克哉の目はとても穏やかだった。
 
「…先に、帰って下さい…! 必ずオレはこのゲームに勝って、貴方の
元に帰りますから…!」
 
 そして力強く克哉は言い放っていく。
 その目には一切の迷いがなかった。其れが余計に…御堂と、彼らの背後に
いた眼鏡を困惑させていく。
 
「バカな事を言うな…! 君をこんな場所に…一人でおいていける訳がない…! 
君を残して、どうして一人で帰れると言うんだ…!」
 
「いいえ、帰って下さい…! 逆に貴方が此処に残ったらオレはこのゲームに
負けるしかなくなる…! 勝つには…この方法以外なく、同時に貴方が帰った
時点でオレは王手をかける事が出来るんですよ…」
 
「っ…!」
 
 その瞬間、御堂は確かに見た。
 一瞬だけ克哉の口元に暗い…どこか歪んだようなものを感じさせる
笑みが浮かんだのを。
 其れは今まで彼が見てきた克哉の表情の中で最も異質と呼べる類のものだった。
 
(一体いつ…彼は王手など、掛けたんだ…?)
 
 御堂には、其れが見えなかった。
 彼が一体…この勝負に勝つ為にどんな手を…いつの間に打っていたのか。
 其れは現時点では誰よりも勝つ事に貪欲になっていた克哉だけが
見出していた道筋であり、棋譜でもあった。
 その場にいた誰も、克哉が考え出して打った手がどんなものなのか見えない。
 同時に其れはRが提示したルールを確実に踏んでおり、確かに勝利条件を
満たす為の手であり…本来なら追い込まれる筈だった状況を引っくり返す
だけの威力があった。
 否、最後に土壇場で追加された条件を、克哉は瞬時に反撃に生かす
道筋を見出したのだ。
 だから克哉の表情ははったりではなく…確かに自信に満ち溢れ、その瞳には
力強い色が浮かんでいる。
 
「デタラメを言うな…! お前がいつ、王手を掛けたというんだ…!」
 
「はったりなんてオレは一切言っていない…! そして反則も何もしていない…!
 オレは間違いなくお前達が提示したルールに乗っ取った上ですでに勝利条件を
満たしている…。だからオレが此処に残っても、オレがお前に屈さずにいれば…
オレの勝利は確定する…!」
 
「戯言を…! はったりを言うのは大概にしろ! 見苦しいぞ…!」

「残念だね『俺』…オレは事実しか、言っていないよ…」

「…くっ…!」

 克哉の余裕のある笑みを見て、眼鏡が本気の憤りを感じながら
舌打ちをしていった。
 後ろで眼鏡が吠えていく。
 だが克哉の力強い笑みは、揺るがない。
 
「だから…信じて待っていて下さい。オレは必ず…貴方の元に帰ります…。
時間はかかってしまうかもしれないけれど…必ず!」
 
「っ…!」
 
 そして克哉から、力強く口づけを交わされていく。
 瞬きをする程の僅かな間、二人の唇が重なり…柔らかい感触を感じていくと
同時に再び、克哉は目いっぱいの力を込めて御堂の身体を突き飛ばしていく。
 途端に御堂の身体は白い光の中に吸い込まれて、この場から
消えさそうとしていた。
 彼の…この悪夢のような空間に取り残される事になる克哉の姿が
グングン遠くなっていく。
 
「克哉、克哉…!」
 
 初めて、下の名前で彼を呼んで…必死の形相で指を伸ばしていく。
 自分ひとりでなんか、帰りたくなかった。
 
(君と一緒でなければ…意味がないのに…! もう、私の心には君がこんなにも
存在しているのに…どうしてこんな、残酷な事をするんだ…!)
 
 心の中でそう訴えかけながら…御堂は懸命に手を伸ばす。
 だが彼のそんな努力も虚しく、克哉の姿は遠くなっていくだけだった。
 奇妙な浮遊感を覚えていく。
 其れはまるで深海から緩やかに地上に上っていくような感覚だった。
 
「克哉―!」
 
 そして御堂は愛しい存在の名前を絶叫しながら呼んでいった。
 瞳には大粒の涙が浮かんでいる。
 こんな風に我を忘れて取り乱した事など…ここ数年、まったくなかったのに。
 理性も何もかもが吹っ飛び、ただ彼を呼び続けていく。
 そして彼の姿が完全に消えて見えなくなり…白い光に包みこまれた瞬間、
御堂は確かに彼の声を聞いていった。
 
―オレはもう…貴方のものです。だからオレが帰るのを信じて…待っていて下さい…
 
 其れは祈るように真摯な、克哉の最後の言葉。
 御堂は涙線が壊れてしまったのではないかというぐらいに…ポロポロと涙が
零れていくのを感じていった。
 
(克哉、克哉…克哉ぁ!)
 
 そして御堂の心の中にはただ一人…克哉の事だけで満ちていく。
 それ以外の事など、何も考えられない。
 得体の知れないMr.Rや…もう一人の克哉の存在も。
 あの部屋に倒れこんでいた本多、片桐、太一、秋紀の存在すらも…何もかもが
どうでもよくなり、克哉の事以外考えられなくなっていく。
 
(一日も早く…戻って来てくれ! お願いだから…どうか、どうか…!)
 
 そうして御堂は祈りながら、眩い光に包まれ…意識を閉ざしていく。
 
―そして翌朝、彼は自室で裸で目覚めていく
 
 その傍らには…昨晩、確かに自分の隣にいた筈の克哉の痕跡は…何一つ、
残されておらず…そしてその朝を境に、佐伯克哉の姿は再び煙のように、
初めから存在していなかったのように儚く消えてしまったのだった―
 
 




※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
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 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
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 ―御堂をその背に庇いながらもう一人の自分と対峙して睨み合っている最中、
克哉は脳裏に…本来いた世界の眼鏡を掛けた佐伯克哉を鮮明に思い出していく
 
 それは時間にすれば本当に僅かなもの、走馬燈と呼ばれる類の
ものに近かった。 
 猛烈な勢いを伴って…かつての世界の記憶と、様々な想いが喚起されていった。
 
 
(そう…あいつだって、最初はロクな奴じゃなかった…! 自分の思い通りに
ならないからといって終いには御堂さんを監禁して、廃人寸前まで追い込んだ…。
そういう、どうしようもない奴だった…)
 
 鮮明に想い描くのは目の前にいる男と同一の存在、元の世界にいた眼鏡を
掛けた佐伯克哉の事ばかりだった。
 克哉は最初、御堂を犯した辺りからそれが自分の別人格がやった事だと
認めたくなかった。突き詰めれば自分の罪である事を受け入れたくなかった。
 その想いが…克哉から徐々に肉体の主導権を奪っていく事となった。
 御堂を監禁してから、筆舌しがたい行為を繰り返している時は見てられなかった。
 否、見たくなかったし…あまりに御堂に対して申し訳が無さすぎて…克哉は、
罪の意識に押しつぶされ…そんな日々が続いている内に、いつの間にか克哉は
肉体の主導権を失い…ただ世界を傍観しているだけの存在となった。
 
―やめろ、やめろ…もうやめてくれぇ!!!
 
 どれだけ克哉が叫んでも、眼鏡を掛けた克哉の御堂への陵辱行為は止まらなかった。
 克哉には止めることも出来なかった。
 己の無力感を思い知り、そんな奴と同じ肉体を共有していることに耐えられなくなった。
 現実から目を背けたい一心でいた。
 
―ごめんなさい、ごめんなさい! ごめんなさい御堂さん!! 御堂さぁん!!
 
 どれだけ詫びても、御堂に届かない。
 そうして嘆けば嘆くだけ、御堂に対しての罪悪感が増せば増すだけ…自分の存在が
弱々しく儚いものになっていくのを感じていった。
 苦しくて苦しくて、毎日のように繰り返される御堂への酷い行為に、
申し訳なさだけが降り積もっていく。
 そうして…眼鏡はついに、御堂を廃人寸前にまで追い込んでしまった。
 
―そしていつしか、克哉は亡霊になっていた
 
 誰からも必要とされず、何一つ出来ず…存在を知覚されることすらないただ
其処にいるだけ。
 心だけが消えずに残り続けているだけの儚いものに成り果てていた。
 だがある日、もう一人の自分は過ちに気づいて自ら御堂を解放して…
彼の前から姿を消した。
 心の中で御堂を想いながら、相手の為にならないと思って己の想いを
かみ殺して生きていた。
 そんな彼が御堂と再び再会して、別人のように変わっていくのを克哉は
静かに見守っていた。
 どれだけ彼が、御堂を愛しているのか。
 そして御堂も同じ気持ちを抱き…いつしか彼らは信頼出来るパートナー同士
となって堅い絆で結ばれるようになった。
 そしてもう一人の自分は…御堂の愛を得てから、別人のように輝くようになった。
 そうなってから…克哉は彼の存在を眩しく、同時に憧憬と尊敬の気持ちすら
抱くように変わっていった。
 
―そんな彼らを羨ましいと思う反面、克哉の中にはいつだって自分も御堂に
愛されたいという願いが渦巻いていた
 
 その事実を思い出し、克哉は鋭い眼差しで…自分の敵となるもう一人の
自分を睨みつけていった。
 そして…絶対に負けないとばかりに、決意を込めて口にしていく。
 
「…この人を一途に、真摯に見つめないお前なんかに…絶対に御堂さんを
渡さない! 渡すものかっ!」
 
 克哉が明確な意志を持って宣言すればするだけ、眼鏡の双眸は冷たく冴え渡り…
こちらの心を凍てつかせるようだった。

(これは…そうだ! 御堂さんの愛を得る前のあいつの目も…こんな風に
冷たく、人を物かなにかのようにすら見ていなかった…!)

 克哉は鏡を通して、何度かしか元の世界にいた頃のもう一人の
自分の眼差しを見たことがない。
 だが、猛烈な懐かしさと…嫌悪感を覚えていく。
 元にいた世界の記憶をこんなにも鮮明に思い出してしまったのは…もしかしたら
御堂を陵辱して、自分に屈服させようとしていた頃の半身と同じ目の
輝きをしているからかも知れなかった。
 それでも克哉は一歩も引かず、キッと強い眼差しでその目を見つめ返していった。
 口元に凶悪な笑みが刻まれていく。
 それを見るだけでこちらの心は凍り付いてしまいそうなぐらいに底知れぬ
恐ろしさを感じさせる表情だった。
 だが、克哉はこれがこの男との最終ステージというのなら決して怯む
訳にはいかなかった。
 まさに火花が散りそうなぐらいに激しい視線での攻防が無言のまま
繰り広げられていく。
 背後に庇われている御堂もまた…無言のまま二人の様子を見届ける事
しか出来なかった。
 一度は、この男に克哉は一方的に犯されてしまっている。
 その時の惨めさや悔しい気持ちが、弱気な心を呼び起こしそうになる。
 その度に克哉は唇を強く噛みしめて耐えていく。
 
(ここで負ける訳にはいかない…!)
 
 そう思ったからこそ、克哉は禁句を放ってしまった。
 本来いた御堂だけを愛して高みに上り詰めようとする克哉に憧れたからこそ、
その彼を押し退けてまで自分が生きる事を選択出来なかった。
 だが、この世界のもう一人の自分は違う。
 そう感じたからこそ、相手を激高させるには充分な一言を克哉は不用意に放ってしまった。
 
『一人の人間を愛してその想いを貫く強さがないお前の為なんかに…絶対に
身を引いてやるものか! オレは本来いた世界ではもう一人の俺が心から
御堂さんを一途に愛しているのが判ったからこそ亡霊の立場を享受したんだからな…!』
 
 其れは、克哉の世界での眼鏡を掛けた佐伯克哉と…目の前にいる彼を比較して、
明らかに劣っていると言っているに等しい発言だった。
 その言葉が放たれると同時に眼鏡は電光石火の勢いで一歩踏みだし、風を
切る音を響かせていった。
 
 ヒュッ…!
 
 何かが鋭く空を切る音が確かに聞こえていく。
 
「あうっ…!」
 
 いつの間にか、もう一人の自分の手には乗馬鞭が握られていた。
 その顔には酷薄な表情が刻まれている。
 冷酷な眼差しにゾッとするものを感じつつも、克哉は背後の御堂に鞭の一撃が
決して及ばないように、一歩も引く気配を見せなかった。
 彼の気丈な態度が、逆に眼鏡の心を余計に苛立たせていく。

「其処をどけ…!」

「…っ! 絶対に、嫌だ!」

 ビリリ、と相手の怒号で空気が震えたのを感じた。
 同時に鋭い一撃がまた克哉の胸元に浴びせられていく。
 電撃に打たれたように、克哉の体が大きく跳ねてよろめきそうになるが…
唇を噛み締めて、踏ん張ってどうにか耐えていった。

「御堂さんは、傷つけさせない! お前なんかには絶対に…!」

「何を…!」

 克哉の口からそう放たれた瞬間、再び鋭く鞭がしなり始めた。

「危ない…!」

 だが、三度目の攻撃は…とっさに克哉を突き飛ばし…代わりに
御堂が受けていった。

「くあっ…!」

「御堂さん!」

 跳ね飛ばされた克哉はすぐに体制を戻して、御堂のすぐ傍へと
駆け寄っていく。
 そして二人はお互いに相手を庇うようにして抱き合って…眼鏡に
向き合い始めていく。
 二人とも裸で何の武器も持ち合わせていない状態だった。
 だが御堂の方から強く手を握られていく。
 痛いぐらいに強く握り締められていることが…逆に克哉の心に
勇気を与えてくれていた。

(この人を…絶対にあいつに何か渡したくない…!)

 心の底から、そう思った。
 其れは祈るような真摯さすら感じさせる切実な願い。
 同時にドロリ、と黒い染みのような独占欲すら覚える。

―この人を誰にも触れさせたくない…!

 その想いが更に増していく。
 だからこそ心の底から…この状況を打開する為にはどうすれば良いのか
考えていく。

(此処はいわば…Mr.Rとこいつのフィールドだ…! どうにかしてこの場所から
脱出しないと…いや、御堂さんだけでも…!)

 克哉と御堂は相手をジっと見つめて、眼鏡もそれに鋭い視線で
睨み返して応えている。
 息が詰まるような膠着状態が延々と続いていく。
 色々と考えを巡らしてこの状況を覆す為の手段を模索していくが…
簡単には思い浮かばない。
 時間の感覚が次第に判らなくなっていく。
 不用意な行動は、致命的になりかねないと…眼鏡の隙のない様子から
本能的に察していく。
 当然、御堂と協力して挑めば…一対二という状況ならばこちらが
勝つことは充分可能だ。
 しかし同じ室内に…今は強制的に眠らされていると言っても
本多、片桐、太一、秋紀の四人が倒れている。
 そして何より…彼を主と称えている…Rの存在がある。

(単純な腕力だけだったら…例えあいつが乗馬鞭を…武器の類を
持っていても御堂さんと協力すればどうにかなる…。けど、Rは…
あの人だけはどう出るか判らない…)

 御堂も、同じ事を考えているのだろう。
 それぞれの顔には真剣なものが浮かんでいる。
 暫く睨み合った後に、眼鏡がゆっくりと口を開いていく。

「…先程の発言を訂正しろ。お前の物言いは…お前がいた世界の『俺』に…
この俺が劣っていると…そういう風にしか聞こえなかった。そんなふざけた
発言を認めてやる気はない…」

「…訂正はしない。実際にオレは…共にあった向こうの世界の『俺』の
為なら消えても仕方ないと思うけど…お前の為に消えてやろうとは
絶対に思わないから…」

「何だと…!」

「…お前は、この四人を捨てられない。それ処か…俺や御堂さんまで
同時に手に入れようとしている。それは逆に…一人の人間を一途に見つめて
向き合うことを放棄しているようなもの。対等な人間関係を築き上げずに…
力で屈服させて無理やり心を服従させる…そんな形でしか相手を得られないのだと
自ら証明しているようなものだ。そんな奴に…オレの大切な人は絶対に渡さない、
渡したくない…!」

「ほほう、なら…貴様に何が出来るというんだ。丸腰で何も服一枚
纏っていないようなみずぼらしい奴に…どんな抵抗が出来るのか
俺に見せてみろ…!」

「…その必要はない!」

 二人の克哉の口論がヒートアップしていく中、御堂はそれを
さえぎるように叫んでいく。
 その剣幕に二人は一瞬、言葉の応酬を止めて御堂に注目していく。

「私は、彼を…眼鏡を掛けていない、この十一日間傍にいた方の
彼を選ぶ! 傲慢で四人もすでに手に入れている誠実じゃない男のモノに
強引にさせられるなど冗談ではない! それで君らのゲームは終わりだ!
さあ、とっとと幕を下ろして…私と彼を元の世界に返したまえ!」
 
 それは御堂らしい、実にきっぱりとした物言いだった。
 その発言は彼らがやっているゲームを強制的に終わらせることが出来る
ほどの威力を持った鶴の一声に等しいものがあった。
 眼鏡はその一言に、衝撃と怒りを覚えてワナワナ震えていく。

―だが、そんな展開を許さないのは…この空間の支配者であり、
ゲームマスターでもある…Rだった

『その一言は…ルール違反ですよ御堂孝典様…。この方と
ろくすっぽ会話することもなく…良く知りもしない状態で勝手に
独断で決めてせっかくのゲームを一方的に終わらせるのは
身勝手ではありませんか…!』

「…うるさい。人に断りなく勝手にそんなゲームを開始している方が
無礼だし、私は身勝手だと考える。そして私には…これ以上、
そんなゲームを続ける義理はない。早く私と彼を…元の世界に返してくれ!」

 御堂は一歩も引く様子を見せなかった。
 その気丈さこそ、この人が本来持っている意思の強さの現われだった。
 だが…このゲームを仕切る男はそんな彼の行動と発言を決して
許しはしなかった。
 だからこそ…全てをひっくり返す、残酷な言葉を放っていく。

―ええ、なら…あなたがここでゲームセットだと言い張り、これ以上の
ゲームを放棄するというならば…その行動のペナルティはあなた方に
払って頂きます。現実に返して差し上げるのは…どちらか一人。
そして片方は…この場に残って、我が主と全力で戦って頂きます…。
どれくらいの時間が掛かるか判りませんが…その残された方の心が
決して揺るがなかったら、あなた方の勝利となります…。
さあ、どちらが残るのを選択されますか…?

「なっ…!」

「えっ…!」

「ほほう…?」

 突然、切り出された提案に御堂と克哉は叫び始めていく。
 代わりに眼鏡の方が面白がって、愉快そうに微笑んでいった。
 Rから提示された内容は…彼らにとっては残酷極まりない内容だった。
 そうして…部屋の奥の扉がゆっくりと開け放たれる。

―扉の奥は白く輝き、其処を潜れば現実に戻れることを示していく

 だが戻れるのは一人という事実が、二人を打ちのめしていく。
 片方だけが帰り、残り一人は…ここに残らなければならない。
 そうして彼らはお互いの顔を見つめあい、言葉を失って立ち尽くしていった―

 

※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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  ―自分と御堂の間にある壁の全てを壊したかった

 御堂を助ける為なら、何も怖くなかった。
 例えもう一人の自分でさえもあの人に勝手に触れる事
なんて許せなかった。
 だから克哉は、それぞれの部屋の間にあったマジックミラーに盛大に
角に飾ってあった鎧の肩を抱くようか格好になり、己の全体中を掛けて、
遠心力の勢いをつけてぶつけていく。
 腕力だけでは動かせない物でも、自重と勢いを持ってすれば
それぐらいは可能になる。 

ピシィ!

 そしてマジックミラーに大きなヒビ割れが出来れば、克哉は甲冑が
持っていた大剣を手にとっていく。
 バスタードソードと呼ばれる形状の物を両手で持って構えて、そのヒビ割れに
向かって勢い良く叩きつけるようにして腕を振りおろしていった。

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 克哉の気合いの声が部屋中に木霊した。
 同じ部屋にいた本多の方は克哉の様子に毒気を抜かれ、太一の方は
もう一つの甲冑の手にあった槍を持ち…克哉がマジックミラーを破壊
するのを手伝っていく。

「克哉さん!」

「うん、ありがとう…太一!」

「お礼なんていいって! 俺は今…猛烈にそうしたいんだからさ!」

「うんっ!」

 つかの間、眼鏡を掛けた方の克哉の支配が解けて…自分が親しくなった方の
彼に対して助力していく。
 これは太一を調教してからあまりに日が浅すぎることが原因で起こった事だった。
 太一がここに招かれて、支配を受けてから一週間程度しか経っていない事と…
強烈な家で育ってきた事により…太一は元々強い自我を持っていた。
 一ヶ月以上も眼鏡を掛けた方の克哉に支配されていた本多の方は克哉の涙を
みても手を止める程度で、愛しい主の事を容易に裏切って手を貸すことは出来ない。
 もし眼鏡を掛けた方の克哉にこのゲームの勝利を脅かしてしまう要素があったと
したら、最後のターゲットである御堂に手を出す前に…もう少し太一の心を完全に
支配する為の時間をそれなりに掛けるべきだったのだ。


―この事態を招いた最大の要因は眼鏡の『慢心』だった

 彼はこのゲーム、自分が勝利する事を疑わなかった。
 だから事態をひっくり返す程の要因を見落としてしまった。
 五十嵐太一という存在を。
 本来なら眼鏡を掛けた克哉とは結ばれる未来がない人間への支配をあまりに
短い期間で切り上げて、次のターゲットである秋紀に手を伸ばしてしまった事。
 ここに連れて来た一週間という期間中に、太一に重点的に時間と情熱を
注いだのが最初のたった三日程度しかなかった為に…決死の想いを抱く
克哉に予定調和を破壊されていく。
 完全に太一の中にある、克哉への潜在的な気持ちを消すには…そんな短い
期間では足りなかったのだ。
 眼鏡がその事に気づいた時点ではすでに遅かった。
 鏡の向こうにいた眼鏡と御堂は、二人の苛烈な勢いに押されて言葉を失い…
その様子を呆然と眺めている。


 パリィィィィン!

 そして彼らを隔てていた壁は、克哉と太一の手によって打ち砕かれていく。
 その瞬間に細かい鏡の破片が周囲に舞い散っていった。
 僅かな光を持ってキラキラと輝き、同時に側にいた二人の肌に細かい傷を
幾つか刻んでいく。
 だが御堂を助けたいという気持ちが勝っている克哉はそれぐらいのことでは
怯む気配を見せなかった。
 克哉をともかく助けたいという想いに駆られた太一もまた同様だった。
 盛大な音を立てて、障壁だったものは壊されて一人ぐらいなら身体を屈ませれば
通れる態度の大きさの穴が穿たれていった。

「何故、こんな事になる…?」

 眼鏡は正直、もう一人の自分の剣幕に押されていた。
 死ぬ物狂いの様子に、本来なら自分の領域に御堂ともう一人の自分を招いて…
こちら側が優位に立っていた筈なのにそれを覆されてしまった気分になった。
 御堂もまた、毒気を抜かれたような表情で隣の部屋の様子を眺めていた。

「御堂さん! 大丈夫ですか!」

 克哉が慌てて駆けつけて…そして眼鏡から、相手を庇うように立ち塞がる。
 両手にはバスタードソードをしっかりと握り締めながら、愛する人を我が身を盾に
して庇うその姿は…まるで古代のコロッセウムで戦う闘士さながらであった。
 だが、その瞬間…また更に非現実な出来事が目の前で起こっていく。

サァァァァ…

 まるで砂が流れ落ちるような音を立てながら…克哉と太一が鏡を破壊する為に
使用した大剣と槍が砕けていく。
 そして砂のようにサラサラと音を立てて…瞬く間に消えていった。
 この展開には克哉も言葉を失っていく。

―ここは我が王が支配する場所。この方を目の前にして…そのような物騒な物を
突きつけるような無作法な真似は私が許しません…。そのような物を使わず、我が身と
己の叡智だけでこの状況と向き合って下さい…

「くっ…!」

 そして再び、室内に姿こそ見えないが…鮮明にRの声が響き渡っていく。
 同時に…もう一つの大きな変化が起こっていく。

「はうっ…」

「うぉ…」

「わっ…」

「くっ…克哉、さん…!」

 その場にいた…本多、片桐、秋紀…そして克哉に協力してくれた太一の四人が
一斉にまるで糸が切れたかのように…呻き声を漏らして、その場に崩れ落ちていく。

「っ…!」

 残された二人の克哉と、そして御堂の三人はその光景に言葉を失っていく。
 予想もしていなかった展開が続いて、誰もが言葉を失っていくと…また、この場所を
仕切るかのようにRの声だけが木霊していく。

―さあ、二人の佐伯克哉さんのゲームの方も佳境に入られたようですね…! 
これが最終ステージです。今から…それぞれが全力を持って、御堂孝典さんの心を
捉えて…己の存在をこの人の中に刻み付けて下さい…。そして、その心を完全に
手に入れられた方が…このゲームの勝者となります!

「なっ…!」

 先程、眼鏡の口から言われた時は全力で嘘だと突っぱねたゲームという単語が
再び繰り返されていく。
 御堂の中に猛烈な不快感が湧き上がり…訴えかけるように克哉を見つめていく。
 
(嘘だと言ってくれ…佐伯君!)

 そう…半ば祈るような気持ちで。
 だが克哉は振り返った瞬間、心から申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

「…すみません、御堂さん…。オレが…もう一人の俺と貴方を奪い合うゲームを
していたのは事実です…。けど、このゲームの磐上にまず上がらなければ…
オレは貴方と一緒に過ごす時間を持つチャンスすらなかったから…」

「そ、んな…」

 克哉と過ごした十一日間が、ゲームに過ぎなかったと言われたようで御堂は
打ちのめされていった。
 ショックのあまり、まともに頭が働いてくれない。
 聞きたいことはいっぱいあるのに口と舌が上手く回ってくれない。
 そうして御堂が口を閉ざしている間に…もう一人の克哉が動き始めていく。

「…お前たちの会話は終わったようだな。そう…これは俺の最後の獲物である御堂、
お前をこいつと取り合うゲームだ。すでにこれは最終ステージといって差し支えない。
まずは俺がどれだけコイツよりも優れて魅力的かというのを身を持ってお前に
教え込んでやる。其処を退け…オレ!」

「嫌だ! お前には指一本だって御堂さんを触れさせない! オレが絶対に守る!」

 克哉の顔に、絶対的な意志が宿っていく。
 誰にも御堂を傷つけさせない、目の前の傲慢なもう一人の自分にだけは
決して好きにさせないという強固な意志がその表情から感じられた。
 その姿に確かに…真摯な想いを御堂は感じていく。

(…そうだ、君の想いだけは…決して、嘘じゃない…!)

 十一日間、どれだけ彼がこちらを想っていたか…御堂はずっと見てきた。
 いつの間にか、こちらもその気持ちに応えたいと思い始めた。
 だからこそ…ついさっき、彼を抱こうとしたのではないか…。
 御堂は己のその気持ちに気づいて、水を浴びせられたような心境になった。

「ほほう…本来お前がいた場所では『俺』に負けて…亡霊に過ぎなかった
お前に何が出来るというんだ? お前は所詮負け犬に過ぎず…御堂の
心を完全に手に入れるには役不足というものだ。お前ごときが俺に勝てると
本当に思っているのか…!」

「嗚呼…当然だ! お前には絶対に負けない! この人を…一途に見ることもせずに
奴隷の一人に加えようとしか思っていないお前なんかには絶対に渡すもんか!
オレが、亡霊に成り下がったのは…本来いた世界の『俺』が心から御堂さんを
愛してその為に努力を続け、己を磨く努力を怠らず…そして自分が犯した罪も
心から悔い改めていたからだ。そういう…『俺』だからこそ、オレは亡霊で
ある立場を享受した…! だから、だから…!」

 双方の克哉の口から、御堂にとっては理解不能な会話が立て続けに
飛び出していく。
 其れを理解するよりも早く、ともかく展開だけが流れていく。
 もう事態を把握していない御堂に配慮したり、事実を隠す余裕などない。
 全力で眼鏡と向き合い、決して負けないようにする為で精一杯だ。
 そして克哉は己の魂から、叫んでいった。

―この人を唯一の愛しい存在と見ないお前なんかには絶対に
オレは負けない! この人は…オレにとって世界で一番、大切な…
愛しい人だから!

 そして御堂は…克哉からの体当たりの赤裸々な告白を聞いていく。
 だがその次の瞬間、眼鏡を掛けた佐伯克哉の目が…ゾっとするぐらいに
恐ろしく、冷たいものに変わっていくのを…御堂は、克哉の背中を
通して確かに見たのだった―

 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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 薄暗い室内に、三人の男の荒い息遣いだけが響いていく。
 ベッドシーツの上には、克哉の白い肌が艶かしく蠢き、本多と太一の
欲情を更に刺激していった。


―はあ、はあ…いやだぁ! 止めてくれぇ…!

 本多には上から覆い被さられる形で、胸の突起を執拗に弄られて…
太一には執拗にフェラチオをされ続けている。
 長く攻められているせいで耐えられなくなり…すでに一度、太一の
口の中で放ってしまっていた。
 その時点でこの二人に犯されるのを覚悟したが、克哉の奥まった
箇所に手を伸ばすことなく…同じ行為が繰り返されている。

(どうして、だ…? 違和感を、感じる…!)

 即物的な快楽を与えられているせいで、まともに考えを纏めることが
出来なかった。
 しかしこの状況でこの二人が最後までこちらを犯さない事が克哉には
不思議であり…同時に、強く引っかかっていることでもあった。
 
「あっ…んんっ…やぁ、止めてぇ…太一…! んあっ…!」

「克哉さん…すげぇ、可愛い…。マジで、このまま…抱きたい…」

 太一の口腔で、達する直前まで克哉のペニスが張り詰めていくと…太一は
フェラを止めて一回、熱っぽく呟いていく。
 だがすぐに頭上から、本多の制止することが聞こえていった。

「馬鹿…止めろよ。まずは…俺らの主が味わってからじゃなきゃ駄目だって
きつく言い渡されているだろう…。俺だって、ヤリたいけどな…我慢しろよ…」

「判っているよ…ああ、でもマジで感じている克哉さんって色っぽいよなぁ…」

「そ、その気持ちは…判る、けどよ…」

 ようやく、執拗に克哉を攻め続けていた二人が僅かな間だけ手を止めて
言葉を交わし始めていく。
 その瞬間、愛撫の手が止まったおかげで…ちょっとの間だけキチンと
考える事が出来た。

(二人の目に、オレを求めている欲望の色がある…もしかしたら、これなら…)

 二人の事は克哉だって嫌いではない。
 本来居た世界でも、それなりに親しい間柄だったのだから。
 けれどやはり御堂を早く助けたいし…この戒められている手錠をどうにか
しなければどうしようもない。
 
(この手錠だけでも…外して貰わないと…御堂さんを助けることも
出来ない…)

 その時、少しでも出口が何処にあるかだけでも掴もうと部屋の様子を
眺めて…克哉はいつの間にか、鏡が透けていて…隣の部屋の状態を
確認する事が出来るようになっていた事に気づいていく。
 それは目覚めた時は間違いなく鏡だったが、この二人に攻められて
いる間に機能が切り替わっていた為だった。

「御堂、さん…! それに、『俺』…! 片桐さんに、確か秋紀って子まで…!」

 そしてマジックミラーの向こうで御堂が片桐と秋紀に両足を抑え付けられて
自由を奪われ…そんな彼に対して、もう一人の自分が迫っているのに
気づいていてもたってもいられなくなった。
 もうなりふりなど構っていられない。
 克哉は覚悟を決めて…一世一代の大勝負を仕掛けていく。

―もうやるしかないんだ…!

 そうして、思考回路も意識も何もかもを切り替えていった。

「本多ぁ…太一、手が、痛いよぉ…擦れて、凄く…」

 克哉はその瞬間、哀れみを誘うような声を漏らしていった。
 そうして…痛くて泣いているのだと一目瞭然になるように表情を
作っていく。

「か、克哉さん…だ、大丈夫…!」

「克哉、そんなに…痛いのかよ…。涙まで、浮かべちまって…」

 二人の前で克哉は一度だって泣いたことはなかった。
 かつての自分は人に極力関わらないように…迷惑を掛けないように、
同時に弱みの類を見せないように生きてきたから。
 だからこそ突然、涙を見せた事で二人の動揺を誘うには充分だった。
 元々…この二人は潜在的に、眼鏡を掛けていない方の克哉により
惚れている部分があった。
 佐伯克哉に抱かれたいではなく、抱きたいという欲望を胸の底に
持っていた二人なだけに…克哉の涙によって、暫し…この時だけでも
優先順位が変わっていく。

「うん…痛いよ。血が、出るかも…せめて、これ…外して、くれよ…」

「えっ…そ、それは…」

「………」

 克哉の懇願に、本多はどうしようかと大いに迷いを見せて…太一は
無言になっていく。
 太一の目に、さっきまでと異なる意思らしきものを感じ始めて…
克哉は涙を浮かべた瞳で、真っ直ぐに見つめていく。

「太一…お願いだよ…。オレを、自由に…して…」

 そうして克哉は手錠を掛けられた不自由な手で、股間に顔を埋めている
体勢の太一の髪に…指を絡ませていく。
 その瞬間、変化が起こった。

「克哉…さん…」

 そして太一の様子に変化が起こっていく。
 さっきまで蕩けて催眠か何かでも掛けられているような澱んだ瞳をしていた太一の
目に…光が戻っていく。
 同時に、微かな金属音が耳に届いていった。

カチャリ…

 そして克哉の戒めは外されていく。

「ありがとう…太一…」

 そうして、自分を自由にしてくれた太一にそっと抱きついて…頬にキスを
落として感謝していく。
 本多はその様子を呆然と眺めていたが…少しして正気を取り戻していくと
しっかりと克哉を押さえ込みに掛かっていく。だが…。

 ドガァ!!

 太一が今度は、高速で本多の腹部にボディブローをかましていく。
 それはほんの僅かな時間、この場からの支配から逃れた太一が
与えてくれた…最大のチャンスでもあった。
 ありがとう、と感謝の言葉を伝えたからこそ…太一は、強烈な支配から
逃れて…克哉の味方をしていく。

(あっちの部屋に行く為には…あの扉を使うしかないのか…。
けど、鍵が掛かっていたらどうしようも…)

 起き上がり、再び部屋の様子を眺めていく。
 部屋の奥には大きな克哉の身長ほどもある大きな鎧が持っている
槍と剣が目に入った。
 扉とは正反対の位置にあるそれに…克哉の意識は釘付けになっていく。
 瞬間、活路を彼は確かに見出していった。

(こうする方が確実だ…!)

 そして彼は、鎧の方へと駆け出していく。
 胸の奥には一刻も早く御堂を助け出してこの場から逃げ出す。
 その事だけしか存在していなかった―

  ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
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―あんたは何も知らないようだから簡単にまずは説明してやろう。
 俺ともう一人のオレはな…ゲームをやっているんだ。
 それぞれの命運を掛けて…あんたの心をどちらが捉えて、射止めることが
出来るかという…そういうゲームをな…

「っ…! 嘘だ…! でたらめをいうな…!」

 傲慢な男から語られた事実は、御堂は認めたくなかった。
 克哉と過ごした十一日間が、汚されてしまったような…そんな不快感を
覚えたからとっさに否定していく。

「…ふ、やはりあんたは強情だな…。素直には認めはしないか…」

 そういって、眼鏡が不遜に呟いた瞬間…室内に大きな変化が起こっていく。
 御堂と克哉はクラブRに招かれた時、別々の部屋に分かたれていた。
 だが、彼らは知らない。
 それらの部屋を境目にある鏡が…マジックミラーであった事を。
 スイッチ一つで切り替えられ…お互いの部屋の様子を透かしてみることが
出来る構造であることをまったく知らなかった。
 いや、目覚めたばかりのときはいきなり見知らぬ場所で目覚めたことに
混乱していて、部屋の内装や…どうして壁の一面だけが鏡になっていたのか
疑問に思う暇すらなかったという方が正しいだろうか。
 もう一人の佐伯克哉がゲームの内容を語ろうと口を開こうとした瞬間、
カチっと音が立ち…鏡だった壁が、突然隣の部屋の様子を映し出していった。

「っ…!」

「…ほう、これもあの男の趣向か…」

 核心に触れる内容を御堂本人に語る直前、隣の部屋で克哉が
二人の男に組み敷かれてもがいている姿が映し出されていた。
 声や会話までは鏡で隔てられているせいで聞こえない。
 克哉は裸の状態で、両手首に手錠を掛けられていた。
 胸の突起やペニスなどをガタイの良い男と赤毛の青年にそれぞれ
攻め立てられていて…必死に喘いでいる姿が見えて…御堂は
胸の中に怒りが宿っていくのが判った。

「佐伯…! それに、どうして二人同時に…!」

 今、御堂の目の前には眼鏡を掛けた傲慢な克哉が。
 鏡の向こうには…必死にもがいて、泣きながら抵抗している克哉の
姿が同時に存在している。
 あまりの衝撃的な事実に、思考回路がショートしかけた。
 
『いやだぁ…!! やめてくれ! 本多! 太一っ…!』

 鏡の壁は、普通の大きさの声は遮断するが…叫び声だけは
微かにこちらの部屋にも通していった。
 その声を聞いて、御堂は弾かれたように立ち上がっていく。

―これ以上、他の男に触れられることなど許せない…! 彼は…彼は…!

 その怒りのままに立ち上がろうとした途端に、四本の腕に…いつの間にか
押さえつけられていた。

「っ…! 邪魔するな…離、せ…!」

 だが、自分の右足にしがみついている人物の姿を見た瞬間…御堂は
言葉を失っていく。
 左足にまとわりついている金髪に緑の瞳をした少年らしき人物には
殆ど見覚えはないし…名前も知らない。
 もしかしたら街中のどこかで何度かすれ違ったことぐらいはあるかも知れないが…
他人といっても差支えがなかった。
 だが、反対側にいる人物は違う。
 彼は…間違いなく、片桐稔…プロトファイバーの営業をキクチ・マーケティングが
担当していた期間、御堂と一緒に仕事をしていた男性だった。

「片桐君…! どうして、ここに…!」

 その瞬間、先程の克哉の叫びの中に…『本多』という名前が含まれていた事に
気づいていく。
 失踪した筈の片桐と本多は、ここにいたというのか?
 御堂はその事実に気づいた途端…今、自分がいる場所に猛烈な不気味さを
覚えていった。

「…お久しぶり、ですね…御堂部長…。相変わらず貴方はとても綺麗で…
雄雄しい、ですね…僕にはないものですから…とても羨ましい、ですよ…」

「へえ、この人…御堂さんっていうんだ…。これから、僕らの仲間になるんだから…
ちゃんと、覚えておこうっと…」

「な、何を言っているんだ…君達、早く離してくれ! 私は向こうに行かなければ
ならないんだ…!」

 彼らの発言に動揺を覚えつつ、必死にもがいてその腕から逃れようと
暴れていく。
 だが…少しぐらいの抵抗ではしっかりとしがみつかれた腕から解放
されることは叶わなかった。

「…おいおい、せっかく来たんだ。そんなにつれないことばかり言うなよ…。
向こうの部屋ではあいつの方もお楽しみの最中なんだ…。あんたも
楽しんでいったらどうだ? こいつらの味も…なかなかのものだぞ…?」

 味、というのが何を指しているのが一目瞭然だけに…御堂は更に
苛立ちを募らせていった。
 
「断る! 私は…他の男を抱くつもりも、遊ぶ気もない!」

 きっぱりと言ってのけた瞬間、部屋の空気がいきなり…密度が濃くなった
ような気がした。

―やはり貴方は…強情な方ですね。ですが…それでこそこの方の最後の
獲物たる資格があるというもの…。強い意志を持っている方の心を打ち砕いて
屈服させる方が…よりやりがいがあるでしょう…。
さあ、我が王よ…この方に、貴方の手で従う悦びを与えて差し上げて
下さいませ…

「ふざ、けるな…!」

 唐突に室内にMr.Rの声が響き渡って御堂は怒号を挙げていく。
 しかし…エキゾチックな香りが更に強まると同時に…頭の芯がしびれた
ようになって、身体の自由が効かなくなっていった。
 甘い誘惑に、全てを委ねたくなりそうだった。
 だが…鏡の向こうにある、腹立たしい光景が…御堂の正気を辛うじて
保させてくれていた。

「…さて、そろそろ…あんたの方も楽しむ時間だ。今まで…あんたが
知らなかった快感と悦びを…その身体に教え込んでやるよ…御堂」

 そう不穏なことを呟きながら…王座に座っていた眼鏡を掛けた克哉は
ゆっくりと立ち上がり…御堂の元へと歩み寄っていったのだった―

 

 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―オレは、向こうにいた頃…自分なんて消えても良いと思っていた

 紆余曲折を経て結ばれた眼鏡を掛けた方の自分と御堂は時々衝突 
しあいながらもゆっくりとお互いを信用するようになっていた。
 かつての親友だった澤村と再会し、苦い経験をした事がどこか不安定だった
彼ら二人の関係を安定させることに繋がっていた。
 関係が強固になってからの二人を、内側で克哉は眺め続けていた。
 その姿はひどく眩しくて、同時に強烈に憧れた。
 そうなってから初めて克哉はそれまでの…自分が主導権を握っていた頃に
していた生き方を心から悔いたのだ。

―誰も傷つけず、自分を殺す生き方は…代わりに何も得られない生き方だったのだと

 己の過ちを自覚した時にはすでに遅かった。
 御堂の目には…眼鏡を掛けて、確固たる意志を取り戻したもう一人の
自分しか映っていない。
 今更、自分が表に出ても気味悪がられるだけだ。
 あまりに彼と自分は違いすぎるから。
 彼ら二人の関係が、安定したからこそ…克哉は思ったのだ。
 自分はもう、いらない人間なのだと。
 少なくとも御堂にとって、この世で一番大切なのは眼鏡を掛けた方の
自分であることを痛烈に感じていたからこそ、日々…こんな想いを
強めていった。
 こうなってからは、自分のことを認めてもらおうと考えることすら
おこがましいことに、気づいてしまった。

―だから誰からも必要とされない、亡霊のような存在に過ぎないことを
嫌でも自覚せざる得なかった…

 それが、新たな世界でMr.Rに提示されたゲーム磐に参加する直前に、
克哉が強烈に感じていた事だった―

            *
 
「いやだぁぁぁ…!」

 遠くから、克哉の絶叫が聞こえてくる。
 その声を聞いて御堂孝典は意識を取り戻していく。
 目覚めた場所は…まるで貴族の使用している部屋のような雰囲気を
まとっていた。
 いつの間にか天蓋つきのベッドの上に横たえられていたようだ。
 シーツの手触り一つ取っても上質のものであり…天井にはシャンデリアが
キラキラと輝いていた。
 まるで迎賓館のような装いに、御堂は言葉を失っていく。

「私は一体…どうしてしまったんだ…?」

 先程まで確かに自分の部屋で克哉と抱き合い、そして結ばれる直前まで
いったのに…どうして自分はこんな場所に、裸でいるのだろうか。
 その事に疑問を覚えつつ…周囲を見渡して状況を確認していくと…部屋の隅に
一人の男が存在していた。

「佐伯、君…?」

 そしてその姿を見て、御堂は強烈な違和感を覚えていく。
 豪奢な椅子の上に座っていた人物は確かに…佐伯克哉だった。
 だが彼の纏っている空気はさっきまでとはまるで別人のものだった。
 傲慢だとか、傲岸不遜といった表現がぴったりくるような笑みを口元に浮かべ…
まるでこちらを値踏みするような不快な眼差しを向けてくる。
 それはさっきまで…心から愛しいと思って抱いていた存在とは大きく
かけ離れていて、一体何が起こったのかと心の底から御堂は訝しげに思っていった。

「やっと目覚めたか…御堂。良い格好だぞ…」

「佐伯、君…? 一体ここは、どこなんだ…! どうして私はこんな場所に…!」

「ここは俺の支配する場所、俺だけの為に存在する空間だ。やっと…お前を
この地に招くことが出来たな…。俺と顔を合わせることもなく、もう一人のオレと
お前が結ばれようとするから…それではフェアではないと判断して、
一度ここに来て貰った…。もう一人のプレイヤーである俺のことを
をまったくお前が知ることなく…あっさりとゲームセットを迎えてしまったら…
俺にとって不利なことこの上ないからな…」

「フェアではない…それに、ゲームセットってどういう意味だ…?
君は一体、何を言っている…?」

 相手の口から飛び出す単語に、御堂は強烈な違和感を覚えていく。
 まったく予想もしていなかった出来事と展開が続いているせいで、混乱が
更に深まっている。
 御堂の困惑の表情に、眼鏡は一瞬…目を瞠っていったが…すぐに
大声で笑い始めていく。
 嘲笑とも感じ取れる笑い方に、御堂は目の前の相手に対して不快感を
高めていった。

「はは…はははははっ!」

「何がおかしい! それに君は何様だ…! 人を裸にしておきながら自分は
王座に座って王者でも気取っているのか! しかも訳が判らないことばかり
言って…さっきまでの態度と大違いではないか!」

「くくっ…あんたはまったく気づいていないのか。俺の態度が違う訳を…!
その言葉でよ~く判った。あいつはあんたに対して…何も打ち明けて
いない状態で…セックスをして勝利を得ようとしていたんだって事がな…」

「なっ…!」

 何故、セックスをすることが勝利に繋がるのか。
 それに…今の言い方ではまるで、目の前の佐伯克哉と…さっきまで
自分が抱こうとしていた彼は別の人間のようではないか。
 その事に疑問を覚えていきながら…傲慢な態度の相手を見つめていくと
ニヤリ、と男は笑っていった。

「訳がわからないといった顔をしているな…。それなら、教えてやるよ…。
あんたに、俺ともう一人のオレがやっていたゲームの内容をな…」

 そして、十一日間…克哉が結局言い出せずにいたゲームの内容を、
もう一人の佐伯克哉は御堂に伝え始めていったのだった―


 

  ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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  さっきまで確かに御堂の寝室で、強く抱き合い…そして結ばれる
直前だった筈だった。
 だが、唐突にMr.Rの声が二人の脳裏に響き渡った途端に
彼らの意識は揃って赤い天幕に覆われた部屋へと招かれていった。
 エキゾチックな香の匂いが部屋中に充満していた。
 さっきまで確かに自分の身体の上に存在していた御堂の身体は
まるで煙のように消えうせていた。
 革張りのソファの上に気づけばうつ伏せで克哉は横たわっていた。
 
「ここ、は…? 一体…?」

克哉はフラフラになりながら周囲を見渡していった。
 ここが赤い天幕で覆われているのは仄かに灯っている明かりのおかげで
辛うじて分かるが…どこか薄暗いせいか、詳細まではっきり室内の様子を
把握することは出来ない。
 だが、この場所には彼には確かに見覚えがあった。
 ここはMr.Rが運営している店の一角であり…本来自分がいた世界では
消滅寸前だった彼が…一番最初に目覚めた場所でもあった。

「ど、どうして俺はここに…! さっきまで確かに御堂さんと抱き合っていた筈なのに…!」

 濃厚な香の匂いに頭の芯からクラクラしそうだった。
 体中に力がはいらずに、この場で力尽きてまどろみの中に浸って
いたい欲求が猛烈に湧き上がってくる。
 周囲を見渡せば何人かの人間の息遣いがしっかり耳に届いている。 
 それが一層、こちらの緊張を高めていき…さっきまで胸の中を満たしていた
幸福感は瞬く間に消え失せてしまった。

「一体…何が、起こったんだよ…! それに御堂さんはどこに行ってしまったんだよ…。
なんであの人の姿が見えなくて…オレ一人だけがここにいるんだ…!」

 そう呟いて、徐々に意識が覚醒していき…克哉はベッドから慌てて起き上がって
愛しい人の姿を探そうとしていった。
 だが、身体を大きく動かした途端に…思考がぼやけていた時は気づかなかった
物の存在に気づいていく。

 ジャラ…

 金属の擦れ合う音が、耳に届いて一気に顔色が蒼白になっていく。

「何かに、繋がれてる…?」

 そう、克哉の手首には手錠が掛けられて…両手の自由が奪われて
しまっていた。
 手先は確かに動かせるのだが、手錠の真ん中にある鎖の長さは
短く…これではかなり行動が制限されてしまうだろう。
 いつの間にこんな物を掛けられてしまったのか。
 早くどうにかしようと思って、鍵を探し始めるのと同時に…ほんのりと
灯っていた明かりが一斉に落とされていく。
 瞬間、室内に充満していた香の匂いが更に濃密なものへと
変わっていくような錯覚を覚えていく。

「っ…!」

 そして、闇の中に蠢く二つの人影に…克哉は一気に組み敷かれていった。

「な、何が…起こっているんだ…! うわっ…!」

 克哉が困惑していると同時に、二人の人物の手によって羽交い絞めに
されていく。
 手足が拘束されているというハンデがあるのとまだ身体の自由が効かないせいで
満足に抵抗することすら出来ない。
 最初は誰に組み敷かれたのか把握出来なかった。
 だが…彼らが口々にこちらの名前を呼んでいくと同時に、その二人が誰なのかを
克哉は一気に悟っていく。

「克哉ぁ…ああ、本物だ…お前が、確かにいる、ぜ…」

「克、哉さ…ん…ああ、眼鏡…掛けてない方の克哉さんだ…すっげ…
懐かしくて、涙出そう…」

「本多っ…! それに…太一…? 何で、そんな…格好…! ああっ…!」

 ようやく目が慣れて来て、二人の姿をおぼろげながらに見えてくると…
克哉は驚愕の声を漏らしていく。
 彼らは裸に限りなく近い姿で、辛うじて局部だけが隠されている際どい
ボンテージの服を身にまとっていた。
 身体のあちこちには鞭か何かで打たれたらしい傷跡がいくつも刻み
こまれていて痛々しい程だった。
 だが…克哉が彼らの様子に気づくよりも早く…二人の手はこちらの胸の
突起や下肢に伸ばされていて、的確に快楽を引きずり出し始めていった。

「待って、くれよ…! こんな、の…んんっ…!」

 克哉が問いかけるよりも早く太一の唇がこちらの言葉を強引に
塞いでいった。
 熱い舌先が忍び込んで、思考が早くも溶けそうになっていく。

(…何で、こんな事に…! あいつは…そして御堂さんは! 一体…
どうなってしまっているんだよ…!)

 心の中でその疑問を渦巻かせていきながら、克哉は彼らの手管に
翻弄されていく。
 そして…挿入こそはされなかったが…四本の手が執拗にこちらの
敏感な箇所を攻め立て続けていた。
 そして…二人同時の攻めは、克哉が一度達してしまうまで執拗に
繰り返され…克哉はベッドの上で腰をくねらせる他、今は術がなかった―

 
 
 

 

 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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 ―いつから自分の中にこんな想いが芽生えたのか
御堂自身にもはっきりと判らなかった

 克哉から告白を受けた時、胸の中に湧き上がった衝動のままに
相手の身体を抱きしめて貪り始めていた。
 同性の相手、しかも以前はむしろ嫌悪していた相手に対してこんな
感情を抱くようになった事に自分でも驚いていたが…今、思えば一週間前に
克哉が何者かに犯されていた日から、御堂の心境は少しずつ変わっていたのだろう。

ーあの日、御堂は不快感と同時に克哉に対して独占欲に近いものを
抱いていたことに薄々気づいていた

 克哉がこちらに対して特別な感情を抱いていることなど一緒に過ごすように
なって数日もすれば判りきっていた。
 最初はむしろその想いを疎ましくすら感じていた。
 だが食事を用意して、御堂がキチンと食べると本当に嬉しそうにしたり…
必死になってこちらを補佐しようともの凄いスピードで仕事を覚えている姿を見て、
少しずつ彼に対しての評価と感情は変わり始めていった。

(それに…その目だ…君のその真摯な眼差しが…私を変えていったんだ…)

 目は時に…言葉以上に雄弁に気持ちを伝える。
 まるで大地に水が吸い込むように、彼の真剣な目を見ているうちに御堂の
心も少しずつ引き寄せられていった。
 再会してから十一日、二週間にも満たない短い期間のうちに…知らぬ間に
御堂の中に、彼への想いは育っていった。
 だから、自分は…。

「佐伯…君を、抱くぞ…」

 頭の中が沸騰して、葛藤する感情と激しい欲望でグチャグチャに
なりかけている。
 荒い呼吸を繰り返していきながら丹念に、相手の内部を指先で
解し始めていた。
 余計な事を努めて考えるようにしていたのは、克哉を必要以上に
傷つけない為だ。
 相手の中で手応えの異なる部位を探って見つけだし…其処を責め立てて
いる内に、自分の下にいる克哉の身体は怪しくくねり始めていった。

「んん、んんんんっ…!」

 一刻も早く相手の中に入って思うままに貪りたいという欲求をどうにか
押し殺して…御堂は執拗に克哉の隘路を開き続けていく。
 自分の欲望のままに無理やり挿入しないのは、相手に対して気遣う感情が
御堂の中で育っているからだ。
 それに男同士のセックスは、受ける方には甚大な負担が掛かることを御堂は
知っている。
 だから必死に我慢して…己を受け入れさせる準備だけに意識を集中していく。

「はっ…くっ…んんっ…」

 自分の腕の中で克哉がシーツを必死に掴んで、与えられる感覚に
耐えている姿が酷く扇情的に映った。
 身体全体が、赤く染まって…泣きそうな顔を浮かべられるとこちらの
嗜虐心も刺激されていく。
 早くこの身体を思うがままに犯したい。
 そんな雄としての衝動が御堂の中で高まって、気が狂いそうな
勢いで渦巻いている。

「苦しい、か…?」

「い、え…大丈夫、です…! それよりも、早く…貴方と…繋がりたい、です…」

「ああ、私も、だ…」

「…っ! うれ、しい…」

 その瞬間、心から歓喜の表情を浮かべた克哉が可愛かった。
 きっと最後まで抱いてしまえば…もう逃げられないと判っていたが、
そんな事よりも今はただ…克哉が欲しかった。
 それ以外のことは考えられなかった。

「佐伯…!」

 そうして相手の足を大きく広げて、己のペニスを相手の蕾に
宛がっていく。
 腰を沈めて中に押し入ろうとした瞬間…克哉が必死にその衝動に
耐えようと身構えているのが判った。
 そして相手の中についに先端が侵入した瞬間、唐突に頭の中に
一人の男の声が響き渡っていった。

―おやおや、もう一人のプレイヤーが貴方の前に現れる前に
ゲームセットになるのはつまらないですね…。残念ですが、
ここで終わってしまったら、私にとっては興ざめです…

「っ…!」

「Mr、R…?」

 その声は、克哉にも聞こえていたようだ。
 彼が恐らく、その男性の名前らしきものを呟いた瞬間…御堂は
つい困惑の表情を浮かべていく。

「今の、声は…?」

「御堂さん、にも…聞こえた…んですか…?」

 お互いにベッドの上に折り重なるような格好で見つめあいながら、
今…頭の声に響いた声に対しての疑問を高めていく。
 瞬間、ぐにゃり…と周囲の景色がゆがむのを感じていく。

「な、なんだ…? 何が起こっているんだ…!」

 視界が、歪んでグラグラと大きく揺さぶられているような感覚が
走っていく。
 唐突に意識が遠くなり、全ての感覚が断ち切られていった。

「さ、えき…!」

 必死になって相手の手を掴んでいく。
 だがすでに意識がシャットアウトするのはどう抗っても
耐えられそうになかった。

「御堂、さん…!」

 最後に克哉の泣きそうな声を聞いていく。
 だがそれに返事する間もなく…御堂の意識は唐突に闇の中に
堕ちていき…そして、静かに謎多き男の領分へと
招かれてしまったのだった―

 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
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─御堂の腕の中は胸が詰まりそうになるぐらいに熱かった
 
 ようやく勇気を振り絞って御堂に己の気持ちと望みを伝えた途端に強い力で
引き寄せられたものだから克哉は言葉を失っていく。
 
「み、御堂さん…?」

 自然と声が掠れて、動揺しきったものになってしまう。
 だが御堂の腕の力は更に強まってしまい、克哉は一層混乱していく。
 まさか御堂からすぐにこんな反応が返ってくるとは予想していなかっただけに…
すでにこうしているだけで心臓が破裂しそうになってしまっていた。
 
(ど、どどどどどうしよう…! まさか御堂さんからこんな反応が返ってくるとは
予想していなかったから…どうすれば良いのか判らない…!)
 
 頭の中はパニックになっててまともに考えることすら出来ない。
 身体を硬直させてその熱烈な抱擁を受ける他なかった。
 そうしてなすがままになっている間に、御堂がこちらの瞳を
真摯な表情で見つめて来た。普段は冷徹な光を称えた眼差しの奥に
確かな欲望の色が宿っている事実に気付いて言葉を失っていく。

「あっ…」

 御堂の心境がこの11日間でどんな風に変わったのか、人の心を
呼ぶ術を持たない克哉には判りようがない。
 けれど…この双眸を見れば判る。
 今、この人は自分のことを求めてくれているのだ。
 そのことを自覚した途端…克哉の背筋に甘い痺れが走っていった。

(貴方も…今は、オレと同じ気持ちでいてくれているんですか…?)

 そう問いかけたくて、けれど御堂に荒々しく唇を塞がれてしまって…
言葉を紡ぐことが出来ない。
 こちらの何もかもを奪いつくすような濃厚な口付けだった。
 熱い舌先が何か別の生き物のようにねっとりとこちらの舌に絡み付いて、
執拗に御堂の口腔で擦りあわされていく。
 
「ん、んんんっ…はっ…」

 もう言葉など今はいらないと、その行動で伝えられてしまっているようだ。
 頭の芯がクラクラして、ただ御堂から与えられる刺激だけに
意識が集中していく。
 乱暴に服を脱がされ、ベッドに組み敷かれていくと…自分の身体の上に
覆いかぶさる御堂の姿は、一匹の美しい獣のようにすら見えた。

「佐伯君…今は、何も言うな…。言葉は、邪魔だ…」

「は、はい…判りました、御堂さん…」

 小さく頷いている内に首筋に顔を埋められて、いくつも色濃く
痕を刻まれていく。
 そうされていく度に、すでに自分という存在は御堂の所有物になったような
甘い錯覚を感じていく。

(貴方の、好きなようにして下さい…! オレはずっと、心のどこかでは
御堂さんにこうされることを望んでいたんですから…!)

 そうして強い力で相手の背中にしがみついていく。
 いつの間にかお互いに全裸になり、お互いの下肢には欲望の証が
しっかりと息づいている。
 御堂の吐息すら、今は荒くなって…熱を帯びているのを目の当たりにして
克哉はゾクゾクと背が震えていくのを感じていった。

(御堂さんが…オレを見て、欲情している…)

 たったそれだけの事で克哉の身体も熱くなり…更にペニスが
硬く張り詰めていった。
 御堂の手がこちらの両方の胸の突起に伸ばされていく。
 すでに興奮して硬くしこったものを同時に刺激されて…克哉は
堪らず腰を捩じらせていく。
 何もかもがもう一人の自分に無理やり抱かれていた時と、身体の反応が
異なっていた。
 無理やり快楽を引きずり出されていくセックスと、心から望んでする行為とは
ここまで違うものなのだと克哉は驚いていく。

―嗚呼、オレは…こんな事すら知らないまま…ずっと生きていたんだ…!

 御堂を好きだからこそ、些細な愛撫にすら身体は歓喜を覚えている。
 これが…心から想っている人とするセックスなのだと、二十数年間生きてきて
やっと克哉は体感していく。

「御堂、さん…御堂、さん…もっと…オレに、触れて…下さい…」

 御堂の手がこちらの胸を暫く執拗に弄っていくと、腰を淫靡にくねらせて
いきながら熱に浮かされたように克哉が呟いていく。

「ああ…そう、させて貰う…だが、君は思っていたよりも感度の良い
身体みたいだな…どこに触れても敏感に反応している…」

「やっ…お願いですから、言わないで…下さい…あっ…!」

 克哉が羞恥で顔を真っ赤にしていくと、御堂の手がこちらの性器に伸ばされていった。
 すっかり硬く張り詰めてしまったモノを扱かれると…胸を刺激されていた時とは
比べ物にならないストレートな快楽が襲い掛かって来た。
 あっという間に先端から大量の先走りを滲ませ、扱いている御堂の手を
濡らし始めていく。

 グチャ・・・ヌチ…ネチャ…

 自分のペニスから響く粘質の水音に、耐えられないとばかりに眉をしかめて…
その感覚に耐えていく。
 克哉自身には自覚がなかったが、それが御堂の欲望を更に焚き付けていった。

「そろそろ…こっちも準備、するぞ…」

「あっ…はっ…?」

 ペニスを刺激していた御堂の指先が、ついに奥まった箇所に伸ばされて
一瞬すくんだような表情を克哉は浮かべていく。
 だが御堂が確かにこちらを求めてくれていると今は確信出来る。
 怖くないといったら嘘になるが、克哉はこのチャンスを逃したくなかった。
 少し時間を置いてから…コクン、と頷いてみせた。

「貴方の好きに…して、下さい…」

「ああ、そうさせて貰おう…」

 そうして御堂は枕元にあったローションを手に取っていくと…其れを
手のひらの上にたっぷりと取って…克哉の後蕾に指を挿入しながら
塗りつけて…己を受け入れさせる準備を施し始めていったのだった―


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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