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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※ 久しぶりのメガミドです。
眼鏡が過去にやってしまった罪を後悔し
それを考えてどうしていくかというのが
主題の話なので了承の上でお読みください。


-決して許されない罪を、かつて自分は
犯した事があった

 結ばれて、両思いになってもその出来ごとは
時々彼を苛む毒になった。
 御堂は、寛大にも自分を許して愛してくれた。
 彼に自分がした事を思い返せば、其れはどれだけ
奇跡のような幸運だったのだろう。
 真綿に包まれるような幸福な日々の中、その痛みは
いつもは胸の奥に沈んで、自覚せずに生きていられる。

―克哉、愛している

 けれど、御堂からの真っすぐな気持ちを向けられる度に
自分の中にチクリとした痛みが確かに走っていく。

―俺は本当に、あんたにこうして愛される価値のある
男なんだろうか

 自分がこんな弱気な事を考えるなんて、認めたくなかった。
 けれど二人で新しい会社を興して、その基盤を固める為に
忙殺される日々を送りながら…少しずつ、その否定的な
気持ちは静かに降り積もっていく。
 愛しさが募るからこそ、かつての罪がどれだけ愚かしく…
自分の事しか考えていなかったのを自覚させられるから。
 御堂はすでに、許してくれている。
 蒸し返して謝ったとしても、自分の自己満足に過ぎない
かも知れない。
 そう理性では判っていても、時にその古傷は疼いて…
時々、彼を眠れなくさせる。
 愛しい御堂が傍らにいない夜、佐伯克哉はそうして…
眠っている最中、起きてしまう日が度々あった。
 今夜はまさにそんな夜で、夜明けまでには程遠い
時刻に…彼は起きてしまっていた。
 部屋の明かりは全て消されて、藍色の闇がリビングを
満たしている中…佐伯克哉はゆっくりと身体を起こして
深い溜息を吐いていった。

 身体が限りなくダルイ。
 昼間、あれだけ働いているのに…泥のように眠りに
落ちたつもりだったのに。
 着替える余裕もなく、ソファで寝てしまっていた筈なのに…
午前三時という中途半端な時間に目覚めてしまった。
 帰宅して、眠ったのが丁度日付が変わる辺りだったことを
思い返せば…少し睡眠時間が足りなかった。
 自分は4~5時間眠れば問題ないショートスリーパー
タイプである事は把握していたけれど。
 やはり三時間程度、しかも途中で覚醒してしまっていては
色々と響くものがある。

「…やっぱり、あんたに無理やりにでも泊って貰う
べきだったかな…」

 そう呟きながら、克哉は指先を伸ばして…煙草とライターを
手に取っていった。
 ソファから身体を起こして、紫煙をゆっくりと燻らせていく。
 その瞬間だけ、胸の奥の痛みが少しだけ紛れていく。
 しかしすぐに…その後悔の念は、喚起されていく。

「…情けないな、今でもその事を悔やみ続けて…安眠する
事も出来ないでいるとはな…」

 御堂と、抱き合っている夜。
 傍らに彼が眠ってくれている日は…こんな痛みに
苛まれる事はない。
 むしろ普段よりもたっぷりと眠る事が出来るし、
充足感がある。
 最近、御堂を自分は求め過ぎていた。
 毎夜のように抱いても、傍にいても足りないという
飢餓感が消えてくれなかった。
 流石に連日のように求めていたら、御堂は今夜は
帰らせて貰う…とつれない回答をされてしまい、
こうして久しぶりに一人寝をしたけれど。

「…あいつがいてくれないだけで、眠れなくなるなんて…
本当に、情けないな俺は…」

 自嘲気味に呟いて、また深く煙草の煙を肺の奥に
吸いこんで、満たしていく。

「俺は、あんたに狂っているな…。あんたに欲しくて、
あんたに依存して、あんたに癒されたくて助けて貰いたくて
仕方ない…。そんな資格は、ないかも知れないのに…」

 御堂が愛しい。
 本当に心から、彼が欲しいし…絶対に手放したくない。
 その想いは一緒に働くようになってから日増しに
強くなっていく。
 其れと同時に、自分の中に少しずつ翳りのようなものが
濃くなってきて、胸の奥に重いしこりのようなものが
大きくなっていくのにも気づいていた。

「それでも俺は…あんたを、愛している…」

 なかなか言えないでいる本音をポツリと漏らしていく。
 照れくさくて、御堂を前にしてなかなか伝えられない一言。
 苦笑しながらそう呟いていけば、胸の中に御堂の面影を
静かに描いていく。

-その瞬間、フラッシュバックするかのように
かつての己の犯した罪の光景が脳裡をよぎっていく

 どれだけ彼が泣き叫んで懇願しても、酷い事を
するのを止めなかった鬼のような自分が其処にいた。
 其れを思い出す度に、克哉の胸に後悔ばかりが
広がっていく。

「御堂、どうしてあんたは…俺を、許せたんだ…?
あんな酷い事をした男を、どうして…」

 力なく佐伯克哉は呟いていく。
 其れに対しての答えは、帰って来ないで…室内に
静寂が広がっていくばかりだった。
 そして一本の煙草を吸い切ると…克哉はソファに再び
倒れ込んでいって、もう一寝入りする事にした。
 せめて後一時間ぐらいは寝ておいた方が良いと
思うから。

 けれどその夜、暫く彼は寝つけないまま…夜明けまでの
時間をモヤモヤして過ごす羽目になったのだった―
 
 
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※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』                           


―後日、嫌でも判るさ…

 ビデオカメラでお互いの情事を、御堂の合意の上で撮影した日から
二週間後。
 御堂はその言葉の意味を嫌でも知る事になった。
 帰宅後、夕食を食べ終わってからリビングでお互いに寛いでいる最中、
ふと本を読みたくなって本棚に足を向けた時に…いつもは閉じられたままに
なっている本棚の一番下の段にある棚が微かに開いていのに気づいていった。
 克哉は向こうで、夕食後の片付けをやっているので恐らく暫くこちらの
部屋に来る気配はない。
 
(どうしてこの棚が開いているんだ…? あいつはイチイチ屈むのが面倒だと、
ここに本を置く事を好まなかった筈なのに…)

 部屋の片隅に置かれている棚は、上段から中段に掛けては本棚になり、
一番下の段は左右開きの木の扉があって、その中に物を収納出来る
ようになっていた。
 ここには本棚がひっくりかえらないように日常であまり使わない
工具の類が置かれている筈だ。
 当然、滅多に使われる場所ではない。
 その事を訝しんでいきながら扉を開いていくと…其処には一枚の
DVDのケースが入っていた。
 其れを恐る恐る確認していくと、御堂は思わず言葉に詰まっていた。

「こ、この日付は…!」

 そのケースにはタイトルらしきものは一切記されておらず、代わりに
日付だけが記載されていた。
 だが…その日付は、二週間前にビデオカメラで撮影したいと強請られた
例の日付けだったのだ。
 それだけでこれが何のDVDなのか察してしまい、御堂は顔に青筋を
うっすらと浮かべていきながら一言、こうきっぱり口にしていった。

「壊そう、こんな物は存在してはいけないものだ」

 そういってDVDに力を込めていきながら感情的に破棄をしようとした
瞬間、背後から抱きすくめられていく。

「それは困るな、孝典…。その中にはあんたと俺が愛し合っている
場面がキッチリと収められているんだからな…」

「あ、あの時は流されて許可してしまったが…や、やはりこんな物を
残しておくのは嫌だ。もし誰かに見られたら…」

「これが他の人間の目に触れないように細心の注意は払っているさ…。
これは絶対に、この部屋から外に出さないようにする…。それでも駄目か…?」

「出来れば、破棄して貰いたい…。これが残っていると思うと…
酷く居たたまれない気分になるからな…」

 そういって、背後から克哉に抱きすくめられて…お互いの顔を見ないまま
睦言のようにやりとりを続けていく。
 だが、次の瞬間…御堂にとっては反則とも言える一言が紡がれていった。

『この中に残されているあんたの可愛い寝顔は…俺にとっては一生残して
おきたいぐらいの価値のある映像なんだがな…』

「っ…!」
 
 その一言が囁かれた瞬間、ゾクっと背筋に甘い痺れが走っていった。
 また、こちらの意思に反して彼の思惑通りに流されてしまう。
 その事を悔しく思いながらも…御堂は苦々しく呟いていった。

「君は、本当にずるいな…。そんな言葉を、甘い声で囁かれてしまったら…
これ以上、抗えなくなる…」

「だが、事実だ。あんたの寝顔があまりに可愛くて…つい、延々と撮影して
あの日は夜遅くまで起きてしまったからな…。あの朝、珍しく俺があんたよりも
起きて来るのがずっと遅かったのが何よりの証拠だろ…?」

「あっ…」

 そうして、あの朝に珍しく克哉の寝顔をたっぷり見た事を思い出して…
御堂の中に甘やなか感情がゆっくりと広がっていく。
 彼と自分の平均睡眠時間はほぼ一緒だ。
 だから御堂がごく自然に目が覚めた時に…克哉もすぐ目覚めるのが
当たり前なのに、あの日だけは適用されなかった。
 その事実が何を指しているのか…御堂はようやく思い至った。

「君は…本当に、バカだな…。眠る時間を削ってまで、私の寝顔を
延々と撮影し続けるなんて…悪趣味過ぎるぞ…」

「それぐらい、あんたの無防備な姿が愛しく感じられて…俺は残して
おきたかったんだよ。それでも…駄目か…?」

 そうして克哉がグイっと顔を寄せて、背後から抱きすくめられている格好でも
お互いの目線がぶつかっていく。
 アイスブルーの瞳に、真剣な色が宿っているのに気づいて…御堂は
肩を竦めながら結局、折れる事にしていった。

「…判った、この一枚だけは残しておく事を許可しよう…。けど、こんな
恥ずかしい想いをするのはもう二度とゴメンだぞ…」

「ああ、この一枚だけで良い。これだけで…俺にとっては一生の宝物に
なっているからな…」

「そうか…」

 そうして、御堂はゆっくりと克哉の顔に唇を寄せていく。
 この困った愛しい男に、自分の痕跡を残したい気持ちが再び
湧き上がってきたから。
 だから…目立つ位置につけるのは平日は極力避けていたが、それでも
この男は自分の恋人なのだという証をどうしても刻みつけたかった。
 だから…唇を重ねた瞬間、血が出るぐらいに強く歯を立てて噛みついていった。

―それは永遠にこの男は自分のものであると自己主張を示す刻印のように…

「っ…!」

 克哉もまた、一瞬眉を顰めたが同じように御堂の唇に噛みついて
同じように血をうっすらと滲ませていく。

「…今のキス、まるで何かの契約みたいだな…。これからもずっと、
離れる事は許さないと…そう、呪いめいたものすら感じる…刻印のようだ…」

「ああ、俺はそのつもりだ…。あんたを一生、手放すつもりなんてないからな…。
覚悟してくれよ…」

「望む処だ。君だって浮気したり…二度と離れたりしたら許さないからな…」

 そうしてお互いに心底愉快そうに笑っていく。
 相手に刻んだ、己の証を眩しそうに見つめていきながら…二人は抱きあい。
今夜もまた共に熱い夜を過ごしていったのだった―
現在連載中のお話のログ

※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』                         

 ビデオカメラは長い間、御堂にとっては苦い思い出がつきまとう
アイテムだった。
 かつて味合わされた絶望の日々の始まりが、無理やり強姦された場面を
克哉に撮影された事がキッカケだったから。
 けれど…彼から解放され、長い年月が過ぎて行く内にかつて抱いたいた
負の感情は自然と洗い流され…自分と克哉の関係も大きく変化していった。

―嫌な思い出を上書きしたかったのは私も同じだ…

 先程、こちらに対して撮影したいと申し出て来た克哉の表情が
夢うつつに浮かび上がったので、そう胸の中で呟いていく。
 どれだけ後悔したとしても過去を変える事は出来ない。
 けれど人間は嫌な思い出を忘れたり、他の思い出に上書きする事が
出来るのだ。
 だから許可をして…自分達が抱きあう光景を残すのを許可した。

―身体に残すだけではなく、他の媒体を用いて…自分達が共に過ごした
刻印を、この世界に残したいと思ったから…

 そんな自分の本心にうっすらと気づいていきながら御堂はそっと
目覚めて…傍らに眠る克哉を眺めていった。

「…全く、良く眠っているな…。良く考えてみればアクワイヤ・アソシエーションを
立ち上げてからずっと…君は誰よりも働きづくめになっているからな…。
少しぐらいそっとしておいてやるか…」

 御堂がこうして目覚めて上半身を起こしても、克哉が目覚めない時は…
彼が疲れきっているのだという何よりのサインである事を知っている。
 そういう時はそっとしておいてやって…あまり見る機会のない克哉の寝顔を
眺めるのが密かな楽しみでもあった。

(良く眠っているな…。こうして、君の無防備な姿を見れるようになったのは…
冷静に思い返してみると…つい最近までなかったように思うな…)

 克哉と御堂はお互い、睡眠時間は4~5時間程度で大丈夫という
タイプだし…あまり隙のある姿を人に見られたくないという意識が
共に強い方だった。
 それに克哉は未だにかつて御堂にした仕打ちに対して強い罪悪感を抱いて
いたせいか…なかなか、こちらにこうやって無防備に寝顔を晒す事は
滅多になかった。
 激しく抱きあって、御堂が意識を手放してた時は大抵…克哉は先に
目覚めてこちらの身体を気遣ってくれていた。
 それと何カ月か付き合っている内に…御堂の傍では、克哉はあまり
眠っていないというのも判って来た。
 最初の内は本当に彼の寝顔を見る事はなかったからだ。
 けれど…どうして、自分の傍で深く眠れないのか何となく理由を察した
時に、御堂は一言だけ克哉に向かってこう言ったのだ。

―たまには私の傍で、ゆっくり眠ってくれても良いだろう…?

 御堂が克哉に告げたのは、たったその一言だった。
 けれど…その言葉が引き金になったのか、それからたまにだが…
克哉は御堂の傍で熟睡するようになった。
 だからこそ御堂は良く判っている。
 お互いに過去のあの忌まわしい日々の事は口に出して蒸し返したり
しないようにしているが…こちらが思っている以上に、その後悔は
克哉の中で強い事を…。

「全く…私に酷い事をし続けた男と同一人物には見えないな…」

 ふと、今の優しくなった克哉を見ていると…かつての冷酷な目をして
こちらを弄り続けた頃の彼とは別人のように思える事があった。
 あの頃の克哉は御堂にとって、畏怖と恐怖と絶望を与えるだけの…
長年掛けて築き上げたものを破壊する忌まわしい略奪者だった。
 けれど…彼は、一旦決別する際に優しい一面を見せてから…
大きく変わったように思う。
 だからこそ御堂は彼の犯した罪を許し、こうして共にいる事を
選んだ訳なのだから…。

(だから、君は…もう過去に縛られなくて良い…。忌まわしい思い出は
こうして上書きして、少しずつ消していけば良いだけなのだから…)

 安らかな寝息を立てて、朝日を浴びて眠っている自分の恋人を
そっと見つめていきながら…御堂は、克哉の腕を軽く掴んで…
手首に赤い痕を刻みつけていく。
 流石に、その痛みによって克哉の目がうっすらと開かれていく。

「…痛いぞ、孝典。オイタにしては…それは眠っている身には
少々キツい気がするぞ…」

「ああ、起こしてしまったか…。いや、何…昨晩君は私の身体に散々
痕を残してくれたからな…。少しぐらい、そのお返しをしないと済まないと
思っただけだ…。悪かったな…」

「…いや、良い。あんたから痕を残されるなら男の勲章だからな…」

「…全く、君は本当に減らず口だな…」

 そうしてお互いにクスクス笑っていきながら、そっとキスを交わしていった。
 眩い朝の光がそっとベッドに差し込んでくる中…お互いに柔らかく笑みながら
口づけを交わしているシーンは、映画の中の一幕のようでもあった。
 お互いの髪や背中にさりげなく指先を這わせていき。
 ごく自然な感じで相手に触れ、労わり続けていく。
 たったそれだけでも…優しくて、穏やかな時間が紡がれていくようだった。
 暫くそんな戯れを楽しんでいたが…お互いに身を寄せ合って、体温を分かち合い
ながら…御堂はふと、昨日から感じている疑問を口に出していった。
 
「それで克哉…質問だが。昨晩撮影したあの映像は…一体どうする
つもりなんだ…?」

 そう問いかけた時、目の前の克哉は…悪戯っ子のようなそんな笑みを
浮かべていった。
 その表情に御堂は思わず、視線が釘付けになっていく。
 そうして…グイ、と御堂の身体を引き寄せていけば…耳元で甘く
彼は囁いていった。

―それは後日、嫌でも判るさ…

 そう意味深に微笑んでいきながら、克哉は強引に御堂の唇を
奪っていって…深い口づけをしながら、強くこちらの身体を胸の中に
抱きこんでいったのだった―

 


 


※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』                      

 ビデオカメラで御堂が自慰をして徐々に乱れていく姿を見ているだけで

興奮して、克哉の性器はすっかりと堅く張りつめていた。
 その熱く猛ったペニスを御堂の中に押し入れていくと同時に、右手に
持っていた機械を近くのサイドテーブルの上に置いていった。
 その際に真横にではなく若干の角度をつけて自分たちの後方に置く事で
自分と御堂が抱き合っているのをしっかりと収められるアングルになるよう、
意識していった。

「はっ…やはり、お前の中は熱くて…気持ちいいな…。こうしている、だけで
…とろけてしまいそうだ…」

「そ、う…いう、お前だって…凄く、熱くなっているぞ…。ふふ、それだけ先程、
の…私の姿を見てて…興奮していた、訳か…」

「ああ、その通りだ…。あんたの、あんな姿を見て…俺が、煽られないで
いられる訳が、ないだろう…」

「ふふ、そうだな…はぅ…!」

 お互いに途切れ途切れになりながら、お互いだけに聞こえるぐらいに
微かな声で睦言を紡いでいった。
 その最中に、グイっと克哉が御堂の最奥を抉るように突き入れただけで、
堪えられないというように大きく全身を跳ねさせていった。
 それを皮切りに克哉のリズムは更に大胆さを増していって、御堂を
翻弄し始めていく。

「ふっ…ああ、あっ…克哉、そんなに、激しく、したら…はっ…!」

「すまん、もう…抑えられそうに、ない…。ほら、俺たちの愛し合っている
メモリーを、今夜はしっかりと残しておこうぜ…」

「そういう、言い回し、をするな…! 余計に、恥ずかしく…ふぁ…!
 ああっ…!」

 先程まで御堂を言葉で責めている間に、克哉の方も気持ちが
高められてしまっていた。
 だから御堂の内部を深く抉り、激しく往復を繰り返すのに一切の
容赦がなかった。
 その激烈と言えるまでの性急な抽送に御堂は満足に息すら出来なくなって、
何度も胸を激しく上下させて身悶えていった。

「ふっ…うぁ…! くっ…ふぁ…!」

「ああ、凄くイイ声だ孝典…。聞いているだけで、興奮してくる…!」

「うっ…もう、これ…以上、言うな…んはっ!」

 相手の言葉に何か返したくても、すでに頭は快楽で溶けきっていて
まともに形にならなかった。
 克哉が突き上げる度に押し寄せてくる快楽の波に必死になって
耐えようと彼の身体に爪を幾度も立てていった。
 その度にこちらを抱く男の背中に刻印のように赤い筋が刻まれていき、
それが御堂の心を煽っていく。

(まるで…これが、私から与える刻印みたいだな…)

 ふと瞬間的に、そんな事を考えていった。
 先程、克哉が刻んだキスマークも…今、自分が刻んだ爪痕も
相手の身体に情事の痕跡を残す意図は…相手の中に自分を
残したいという顕示欲と、相手が確かに自分のものであるという
証を少しの間だけでも残したいという想いからだ。
 克哉が他の人間をこうやって抱く事などもう許す事が出来ない。
 自分のものであるという証を、残したかった。
 その想いで御堂は幾筋も相手の背中に爪を立てていった。
 いつもならこんなに何度も、恋人の身体を傷つけるような真似は
御堂はしない方だったが…ビデオカメラでこの光景が撮影されていると
思うと、何かを残したい想いに駆られたのだ。

―自分のつけた痕が愛しい男の身体に刻まれている処を、
画像という形で残したいと御堂も思ったから…

 それはふと思いついた衝動的な行動に過ぎなかった。
 けれど幾ら傷つけても、克哉は一瞬だけ痛みで眉をしかめていくも
止めろとは一言も発さなかった。
 そうしている間にお互いの身体から汗がびっしりと玉のように
浮かび上がっていった。
 もうお互いの息も絶え絶えで苦しそうに胸を上下させて
喘いていく。
 徐々に頭が真っ白になっていくような感覚を覚えていく。
 ようやくずっと待ち望んでいた絶頂の瞬間が迫ってくるのを感じて、
御堂は大きく身体を跳ねさせていった。

「ふっ…あっ…克哉、もう…!」

「ああ、俺も限界、だ…。だから、あんたの、中に…うくっ!」

 そうして御堂の身体をきつく抱きしめながら、克哉もついに
頂点に達して熱い精を解放していった。
 ドクンドクンと、滾るような白濁が御堂の中に注ぎ込まれていく。

「孝典…」

「ん…」

 優しい目をしながら、克哉がこちらを見つめてくる。
 その瞬間だけは、いつもは感じる男のプライドや意地のようなものが
和らいで御堂も素直に頷いていく。

「克哉…」

 そして、大切そうに恋人の名を呟いていくと…フワリと羽のように
優しいキスが落とされていった。
 其れを満足そうに受け止めて生きながら御堂は相手の身体を抱きしめて…
そうして、ビデオカメラが回されている事など忘れて暫し意識を
手放していく。

―その時の御堂はとても満足そうな顔をしていたのだった―
 

※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』                    

 レンズ越しに熱い眼差しで克哉に見られているのが
嫌ってほど伝わってくる。
 相手のワガママを聞く形で、ビデオカメラで撮影されながら御堂は
己のペニスを自ら弄っていた。
 幾ら華々しいエリート街道を邁進していた彼とて、男である。密かに自慰を
して欲求不満を解消した経験はそれなりにあったが、流石にその姿を誰かに
撮影される事は初めての体験であり、それがどうしようもなく御堂の
情欲を高めていった。

「はっ…うぁ…!」

「…はっ、孝典…良いぞ…。そんな顔を浮かべながらあんたが自らを慰めている
姿を見ていると、本当に…興奮して、くる…」

「…全く、この変態、め…くっ…!」

 口では悪態を吐いているが、御堂自身もこの状況に高ぶりを覚えて、
全身が朱に染まり始めていた。
 克哉の視線が、こちらに絡みついてくるように注がれているのを感じていく。

(視線だけで…克哉に、犯されているような気分だ…)

 かつて監禁されていた時もこちらの痴態を相手に食い入るように見られた事は
数え切れないぐらいにあった。
 けれどあの時と、今とでは大きな違いがあった。

―どれだけ意地悪な事を言っていても、今の克哉の瞳の奥には優しい色が
滲んでいるからだ

 かつての克哉は傲慢な支配者であり、御堂にとっては最悪の略奪者に
過ぎなかった。
 今まで必死になって築き上げて来たものを破壊し尽くす憎い敵であり、
その殆どを壊したのは紛れもない事実だった。
 だが、相手がこちらに労りと情を示して、解放すると言った時から…
佐伯克哉は御堂にとって、特別な存在になったのだ。
 だから、どれだけ言葉で辱められようとも…欲情しきった眼差しを
向けられても、今の御堂は恐怖も不快感も覚える事はなく…むしろ大きく
煽られていった。

―全ての行動や仕草から、相手の想いや愛をちゃんと感じられるように
なったからだ

 だから身体全体が火照るような感覚を覚えつつ、御堂は相手の前に
自らの浅ましい姿を晒し始めていく。
 いつしかペニスの先端からは溢れるような蜜がしたたり始めてこちらの
手を汚していった。
 指先を動かす度にグチャヌチャと淫猥な音が部屋中に響き始めていった。
 
「孝典、今のあんたは見ているだけで凄く興奮するぜ…。だが、もっと
俺を煽ってくれよ…。さあ、その足をもっと広げてあんたの恥ずかしい
場所を見せてくれよ…」

「ふっ…あ、判った…」

 相手の言葉に若干の抵抗を覚えたが、それでもどうにか頷いて…
躊躇いがちだが、もう少し大きく足を広げ始めて秘所がもっと見える
ように晒し始めていく。
 そうする事で相手には、力強く息づいたペニスと共に…浅ましく収縮を
繰り返している蕾も見られる事になるだろう。
 その事を自覚した瞬間、一層御堂の身体の熱は高まっていった。

「そう、良いぞ…。あんたの浅ましい口がしっかりと見えて…
凄くいやらしい画が撮れているぞ…」

「ふっ…あっ…言う、な…ん、あっ…」

 必死に頭を振って否定しようとするが…ここまで情欲を煽られて
しまっていてはすでに儚い抵抗に過ぎなかった。
 全身に、特に一番恥ずかしい場所に克哉の視線が絡みついて
来ているのを自覚すると、本気で狂いそうだった。
 だが、今の克哉は直接愛撫はせずに…ビデオカメラを構えて
こちらの姿を撮影するのみだ。
 御堂はそれをもどかしく思いながら…だが、どうしようもなく疼く
身体を少しでも慰めようと、ついに己の蕾にまで手を伸ばしていった。

「ほう…俺に言われる前に、先に自分から其処に触れていったな…。
良いな、今のあんたはAV女優も真っ青なぐらいに淫乱になって
いるみたいだな…」

「ったく…君と、言う男は…そういう、意地悪な…物言い、しか
出来ないのか…っ!」

 ついに耐えきれなくなって、御堂は欲情に瞳を潤ませていきながら
相手を睨みつけていく。
 レンズを当てていない方のアイスブルーの瞳が、愛しげに細められて
いるのに気づいて、とっさに言葉を失ってしまった。

「き、君という男は…! どうして、こんな時に滅多に見せないぐらいに…
優しい、目をしているんだ…うあっ!」

 相手にそう文句を言うのと同時に、自分のペニスに克哉の指先が
絡みついて来て御堂はとっさにくぐもった声を漏らしていった。
 自分で刺激していた時とは段違いの刺激が唐突に襲い掛かり、
間もなく相手に深く唇を塞がれていく。
 熱い舌先がこちらを蹂躙するように、情熱的で貪るように侵入してきて…
何もまともに考えられなくなる。

「はっ…もう、限界、だな…。これ以上は抑えきれない…。抱くぞ、
孝典…」

「えっ…少し、待、て…うあっ!」

 キスを解いた瞬間、克哉がそう熱っぽく呟くと同時に相手に
改めて覆いかぶされて、秘所に熱い塊が宛がわれていった。
 そして抵抗する間もなく、其処に濡れそぼった克哉の熱くて硬い
ペニスが触れると同時に…御堂の中に容赦なく押し入ってきたのだった―



 

※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』               

 ―克哉がビデオカメラを密かに買い直したのは、御堂に告げたように
過去の自分の過ちを上書きしたいという心理が生まれたからだった
 
 かつて御堂を脅迫する為の暴行シーンを撮影した機会は、御堂を解放した
直後に即座に破棄した。
 それ以後…ビデオカメラに触ったり、購入しなおそうと思うことすらなかった。
 けれど御堂と再会し、良好な関係を築いていく内に…こうして一緒に過ごしている
日々をキチンと残しておきたいという思いが生じてきたのだ。
 愛しい人間と手を取って、共に歩んでいることを…一緒に過ごす日常の
たわいない一幕を残しておきたい。
 そう考えるようになったからこそ…先日、御堂に黙って密かにビデオカメラを
購入した訳なのだが…。
 
(まさか、最初にこんな目的で使うことになるとはな…)
 
 お互いにベッドの上で生まれたままの姿になりながら…御堂に覆い被さる
格好になって、克哉は機械を片手で持ちながら撮影していた。
 レンズを向けられて、御堂が顔を真っ赤に染めている。
 首筋から鎖骨、胸元に掛けては克哉が刻んだ赤い痕が御堂の肌に
刻み込まれている。
 耳まで真っ赤に染めて紅潮している恋人の姿に、見ているだけで大きく
心が煽られていくのを感じていく。
 お互いの身体を重ね合わせていきながら、上に乗っている克哉が片手を
ついてやや背中を仰け反らせるようにしながら右手でカメラを掲げて、
撮影する格好だった。
 
「くっ…君は悪趣味、だな…。私の顔ばかり撮影して何が楽しいんだ…?」
 
「ほう、そんなに顔ばかりを映されるのが恥ずかしいか…? それなら、
あんたの恥ずかしい場所を大写しで撮影してやろうか…?」
 
 紅潮している顔ばかり延々と撮られているのが耐えられなくなって御堂が
悔し紛れにそう言うと、克哉は実に意地の悪い笑みを浮かべながら…焦点を、
御堂の腹部から局部へと移していった。
 克哉の腹部が触れている箇所にはビクンビクンといきり立った御堂のペニスが
脈動を繰り返し、うっすらと先端から蜜を滴らせていた。

「…そんな処ばかり、映すな…!」

「随分とつれない処を言うな…。俺からすればあんたの全てが愛おしいんだから、
キチンと恥ずかしい場所も残させてくれよ…。一緒に過ごす時間の全てが
かけがえのないものだと思っているんだからな…」

「…よくも、ヌケヌケと言えるものだ…はっ…」

 それでも、克哉の視線が真っすぐにこちらに向けられて…浅ましく
欲望を滾らせている部分を撮影されている事で…御堂の身体の熱は
否応なしに高まっていった。
 その紫紺の瞳は甘く蕩け始めて、欲情になって潤み始めている様に
克哉の意識は嫌でも釘付けになっていく。

(あんたのそういう顔…レンズ越しで見ても、本当にそそるな…!)

 無意識の内に舌舐めずりをしていきながら、更に嗜虐心が
煽られていくのを感じる。
 だからこそ自然に、更に相手の快楽と羞恥を煽る為の命令が
ごく自然に唇から洩れてしまっていた。

「…孝典、あんたのもっと乱れる姿を映したい…。俺がこうして見てて
やるから…自分で扱いて慰めてみろ…」

「な、何を言っているんだ…! そんな、の…」

「…あんたの綺麗な処を、残したいんだ…」

「ぐぐっ…そんな顔して縋るように頼んでくるな…! 断りづらく
なるじゃないか…!」

 そうして耳まで真紅に染めながら御堂は暫く、長考していった。
 カメラを構えられた状態で自ら、ペニスを扱いてそれを撮影されてしまうなど…
想像しただけで屈辱的だし、恥ずかしかった。
 だが…そう頼んでくる克哉の目が、あまりに真摯だった為にとっさに
突っぱね切れず…御堂はつい、相手から視線を逸らしていった。

「…孝典、駄目か…? 俺はあんたの乱れた姿をもっと撮りたいだがな…」

「ぐっ…ぬぬぬっ…!」

 それは本来、自尊心が強い御堂からしたら容易に聞き遂げられる
内容ではなかった。
 しかし克哉が真剣な瞳で見つめてくるので…その心が徐々に
揺らぎ始めていき、そしてついに渋々とながら頷いてしまった。

「わ、判った…。君が、そんなに真剣な顔をしながら頼んでくるなら…
仕方ない、が…それくらいなら叶えて、やる…」

「ああ、ありがとう孝典。…本当にあんたは最高の恋人だな…」

「だから、どうしてこういう時だけ君はそんな風に蕩けるように優しい笑みを
浮かべるんだ! 本当に性質の悪い男だな…!」

 悔し紛れに顔を紅潮させながら叫んで行けば、躊躇いがちであったが…
御堂は自ら、己のペニスに手を宛がい…欲望を一層高めていくように
自ら扱き始めていったのだった―
 
※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』            


―人間の中には、好きな人に全てを受け入れて貰いたいという願いと共に…
相手に嫌われてしまうかも知れない事は、絶対に隠しておきたいという
相反する欲求が、恋愛をすると同時に生じていくものだ

 克哉が御堂と結ばれてからずっと、ドス黒い…相手を苛めたり、
辱めたいという気持ちを抑えるようになったのは…せっかく得た
愛を失いたくないと思うようになっていたからだ。

(だが、あんたは…そんな俺のどうしようもない感情を受け止めて、
そんな事は何でもないと…そう言ってくれた。もう全て知っているんだから
今更無駄だと…。それで凄く、俺は救われた気持ちになれた…。
嗚呼、本当にあんたの心が得る事が出来て…俺は幸せ者だよ…)

 心の中からそう噛みしめていきながら、性急に御堂の服を全部
剥いていく。
 こんなに清々しい気分になったのは本当に久しぶりだった。
 愛おしくて、急きたてられるような感情に突き動かされながら
早く御堂を感じたくて、一つになりたくて…相手を全裸にしていった。

「こら、克哉…がっつくのは良いが、君もちゃんと脱げ…! 私だけ
裸なのは、嫌だぞ…!」

「ああ、判っているさ…。あんたと抱きあう時に服など邪魔なだけだからな…。
ちゃんと肌でしっかりと感じ取りたいからちゃんと脱ぐさ…」

「…いちいちそんな事を口に出して言わなくて良い…だから、
早くしろ…!」

 御堂は少し焦れたように言いながら、克哉の服を脱がすのを手伝って
ジロリとこちらを睨みつけてくる。
 そんな仕草すら凄く愛おしく感じて…克哉は相手の身体にまた
一つ、色濃く痕を刻んでいった。
 首筋や、鎖骨に…赤く刻まれていく痕を見る度に、喜びと同時に支配欲が
満たされていくのを実感していった。

「っ…! 何か、今夜は随分と私にキスマークをつけまくるな…。
あまり、つけるなと言っているだろう…? 君がそういうのを目立つ場所に
つけると…ジムで着替えしたりプールで泳ぐのも少々…恥ずかしくなって
しまうんだぞ…」

 そう、御堂は健康と体型の維持の為に定期的にスポーツジムに
通って汗を掻くようにしている。
 克哉はそれを知っているから…抱きあった時も、キスマークの
類は極力つけないように配慮していた。
 つけるにしても出来るだけ見えにくい位置にしたり…抑えたり。
 けれど今日は…そんな配慮をしたくなかった。
 嬉しくて愛おしい気持ちが溢れてくるからこそ…相手の身体に
自分の刻印をしっかりと刻みつけたくて、だから苦笑しながら
克哉は首を振っていった。

「ああ、あんたの事情を良く知っている…。だから抱きあっても出来るだけ
つけないように気をつけていた。だが…今夜はあんたが愛しくて、
同時に俺を刻みつけて、俺のものなんだって…証を残したくて仕方ない
心境なんだ…。だから、我儘と承知の上だが…許して、くれ…」

「…全く、君はズルいな…。そんな目をしながら頼まれてしまったら…
突っぱねられない、じゃないか…」

 そうして…御堂は小さく溜息を吐いて…首を横にプイと向けていった。
 その時、不意に…ベッドサイドの机の上に新品のビデオカメラの
箱が置いてあるのが目に入っていった。
 其れを見た途端、思わずビクっと怯えたような目を向けていった。

「なっ…! 何であんな処に…ビデオカメラが…?」

「っ…!」

 其れは、苦い思い出が付きまとうアイテムだった。
 かつて御堂が住んでいたマンションに初めて克哉が訪れた日…
良いワインが手に入ったからと言って、接待をすると承諾した日…
酒に一服盛られて…身体の自由を奪われて、そして強姦された
場面をビデオカメラに収められた事があった。
 御堂に気づかれた事に対して、そう呟かれた事に対して克哉は軽く
目を見開いていった。
 だが…軽く息を吐いて、正直に観念していった。

「…今夜は予想外の展開に転がっていたから、切り出し損ねて…失念
してしまっていたな…。そうだ、あれは俺が用意した。今夜…あんたと良いムードに
持ち込めたら…一緒にあれで俺達が抱きあっている場面を撮影しないか、と
持ちかける為にな…」

「なっ…君は一体、何を考えているんだ…! しょ、正気か…!」

「ああ、至って正気だね。…ま、今夜じゃなくても…来週でも、さ来週でも
あんたがこの我儘を受け入れてくれそうな、上機嫌の時にでもさりげなく
提案してみるつもりだったが、見られたなら仕方ない…。御堂、
せっかくお互いの気持ちが通い合ったのを改めて確かめられたんだ。
今夜は…良ければ、これで愛し合った事を記録しておかないか?」

「なっ…そんな、事…出来る訳が、ないだろう…! 君はかつてした事を
反省していないのか!」

「…反省しているし、悔い改めているさ。だから…今度は、脅迫する為の
ものじゃなく…ちゃんと「愛し合っている」証を残したいって動機で…
これを購入したんだがな…」

「あ…」

 そう言った、克哉の顔を見て…切なそうな、同時にこちらに対しての
愛おしさが溢れているような…そんな表情を見て、何となく意図を察して
しまったのだ。

「…そう、か…。君は、あの出来事を上書きしたいから…あれを買ったのか…?」

「ああ、そうだ…。今度は、証として…残したいと思ったからな。まあ…あんたが
どうしても嫌だっていうのなら、強要はしないがな…」

 そして、傲慢な男はこちらに選択肢を与えてくる。
 かつては一方的に犯され、そして記録を残された。
 それは御堂にとって地獄の日々の始まりを告げていたが…今の佐伯克哉は
どんな時だって、御堂に選択の自由を与えようと心掛けてくれている。
 だから…少し迷った末に、相手に強く抱きついて…その肩口に顔を埋めて、
表情を悟られないようにしながら…答えていった。

「…愛し合っている時間を、形として残す為なら…構わない…だが、
絶対に、他の人間に見せるなよ…!」

「ああ、当たり前だ…。あんたの一番綺麗でいやらしい姿を…俺以外の
人間に見せるなんてもったいない真似は絶対に、しないさ…」

「なら、良い…。好きにしろ…。君が変態で意地悪でどうしようもない男だって
知っている上で愛しているってさっき言ったばかりだからな…。受け入れてやろう…」

 そう、悪態をつきながら…こちらの我儘を受け入れてくれている御堂に
向かって克哉は、腹の底から笑いながら言った。

―ああ、本当にあんたは最高だよ…孝典! 

 そうして克哉は腕を伸ばして、箱を手に取り…ビデオカメラを取り出して、
録画の準備を施していったのだった―

 


※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』         

 さっきまでの困惑と怯えの表情が嘘みたいに、御堂は目の前で
不適な笑みを浮かべていた。
 克哉はその表情に思わず意識が釘付けになった。
 そうだ、御堂にはこういった芯の強さのようなものが存在していて…
何より自分は、彼のこういった部分に猛烈に惹かれて
しまっていたのではないか。
 御堂は先程、率直に打ち明けろと言っていた。

(だが…流石に、あんな内容をあんたに真正面から口に出して
伝えるのは少し躊躇われるな…)

 御堂の言った内容自体は、克哉にとっては喜ばしいものだった。
 だが…自分の胸の奥に秘められていたドス黒い欲望はそのまま…
自分達二人の、暗黒時代に犯した罪に直結している内容だった。
 だからこそかつての罪を悔いている今は言い難く…今まで口に出すのも
はばかられていた訳なのだ。

―あんたの申し出は物凄く嬉しいが…素直になかなか口に
出せるもんじゃないな…
 
 そう思って、なかなか言い出せずにいると…御堂が焦れてきたのか
グイっとこちらの首元に抱きついて顔を寄せてくる。
 恋人の整った顔立ちがこちらを強く睨みつけていきながら…吐息が
掛かる程間近に迫ってきたのでガラになく、胸の鼓動が大きく跳ねて
いくのを感じていった。
 紫紺の双眸が…強い輝きを宿してこちらを睨みつけているのに応えて、
克哉もまた無言で暫くそれを見つめ返していった。

「…克哉、どうしたんだ…。さっきからいきなり黙り込んでいて…
さっき、言いたい事があるなら率直に口に出せと言ったばかりだろう…?」

「ああ、あんたのそういう不適な表情に…思わず見とれていただけだ。
やっぱりあんたのそういう顔は、酷く綺麗でそそるな、と…」

「…君、絶対にそれは悪趣味だと思うんだが。私は君を挑発しているんだぞ?
 その顔が本当に綺麗に見えているのか…?」

「ああ、俺にとっては世界で一番美しく見える男の顔だからな…」

「くっ…!」

 克哉は結局、言いだせずに相手をからかう発言をする事でワンクッションを
置く事にしていった。
 普段皮肉ばかり言っている克哉の口から、こんなに率直な賛美の
言葉が紡がれる事は相当に珍しかった。
 だからこそ殆ど免疫がない御堂にとっては、耐えがたい事となってしまった。

「…! もう良い、君にそんな風に真正面から賛美の言葉を吐かれてしまうと…
どんな反応をすれば良いのか判らなくなってくる…!」

 そういって、これ以上克哉の口から褒め言葉が出る前にぴしゃりと
会話を打ち切っていった。

「…くくっ、あんたは実際は本当に照れ屋なんだな。褒め言葉にこんなに
弱いといのなら…今度からはあんたを弄るのに使えそうだな…」

「こら、克哉…それはどう考えても悪趣味だと思うぞ…!」

 想像しただけで居たたまれなくなっている自分の姿が思い浮かんだので
制止の言葉を吐き、御堂は恋人を諌めていった。
 しかし当の本人は涼しげな顔をして…更に意地の悪い台詞を吐いていくので
御堂は思わず、克哉の腕をつねり上げていった。

「っ…! 痛いだろうが…。全く、あんたは本当にこういう処はシャイだな…」

「…あっ…」

 そうして、不意を突かれる形で克哉の唇が、こちらの口元に降り注いで
柔らかく重なっていった。
 若干乾いていて、意外と柔らかい克哉の唇の弾力にそれ以上の余計な
発言は奪われてしまう。
 暫くキスを続けている内に御堂の身体から力が抜けていくのが
伝わってくる。

「はっ…ぁ…」

「孝典、そろそろベッドに行くぞ…」

 本当なら昼食を食べてからずっと働きづくめだったので何かを食べたいと
いう肉体的な欲求は確かにあった。
 しかしこうして御堂を腕の中に抱き締めて口づけを交わしているだけで…
食欲はどうでも良くなり、ともかく愛しい存在を貪りたいという欲求ばかりが
膨れ上がっていった。
 だから有無を言わさぬ強い力で相手の腕を掴んでいき…玄関から
寝室の方へと脇目も振らずに突き進んでいく。
 やや乱暴に寝室の扉を開いていけば、ベッドに早足で近づいていって…
強い力で相手の身体をシーツの上に押していった。

「っ…! 全く、もう少し優しく扱ったらどうなんだ…! 君は時々、本当に私を
大切にしているのかどうか疑いたくなるような仕打ちを平然とやるな…!」

「そんな事は言われるまでもない。俺は世界中の人間の中で一番…
お前を愛して、大切に思っている。だが、たまには…どれだけ愛おしくても
愛する人間を乱暴に扱いたくなる時だってある。それが…オスの習性と
いうものだ…」

 そうして克哉は問答無用で御堂の身体をベッドの上に組み敷いて…
首筋に赤い痕を再び刻みつけていった。
 最愛の人間の身体に、己の所有の証を強く刻みつけていく。
 たったそれだけの事で身体が歓喜に震えてしまいそうだった。

(嗚呼…俺は、あんたと過ごしたこの一年余りの時間で大きく変わる事が
出来たのだと信じ込んでいた…。けれど実際は、俺という人間の本質というのは
全く変わっていなかったんだな…)

 かつての自分は、御堂を何が何でも得ようと…彼を監禁して閉じ込めて、
数え切れないぐらいに一方的に抱いて、痛々しいぐらいに様々な傷を
その肉体に刻みつけて、彼は自分のものである事を誇示しようとしていた。
 けれど…結局は、そんな真似をしてもその時は御堂の心を得る事は
出来なかった。
 己の所有の痕を刻みつけたからと言って、欲しい人間が自分のものに
心からなってくれる訳ではない。
 自分が相手を解放したから、自由を再び与えたから…その冷却期間を
経たからこそ眼鏡と御堂は結ばれる事が出来たのだと。
 そんなの判り切っているのに、何故…自分の中には未だにこんなにも
強い欲望が宿っているのだろう。

―あんたの身体の隅々まで、御堂孝典という人間が俺のモノである証を
刻みつけてやりたい…

 そして、ベッドの上で改めて…克哉はそのどす黒い欲望を自覚していった。
 だが、一瞬だけ泣き叫んでいる頃の御堂の顔と…その悲鳴が脳裏を
過ぎって、克哉は手を止めていってしまう。
 しかし御堂は目の前の恋人のそんな微妙な変化から何かを
読み取っていったのだろう。
 ふいに…克哉の頬を両手で包み込んで、真摯にこちらを見つめていきながら
声を掛けてきた。

「…私にしたい事があるなら、今更何も遠慮をするな…。かつての君は
本当に酷くて無体な事を延々と私に強いた訳だが…忘れるなよ。
私は君にそうされても…結局は赦して、傍にいる道を選んだんだ。
多少かつてのようにロクでもない事をしようと、今更愛想を尽かしたりしないぞ…」

「っ! …な、何でその事を…?」

 御堂にだけは伝えるべきじゃないと。
 そんな資格などないと言わないではぐらかしてやり過ごそうとしていた事を
あっさりと相手から言われてしまい、克哉は面喰っていった。
 すると恋人は、フっと瞳を細めながら小さく笑って告げていった。

「…いや、確証を得ていた訳じゃないがな。だが…良好な関係を築いてから
君が時々…何かを必死で堪えているような様子を見せていたからな。
だから半分、かまを掛けてみた訳だが…やはり君がどこか躊躇った様子を
見せていた原因はその事だったのか…」

「ああ、その通りだ…。俺は、大馬鹿野郎なんでな。かつてのあんたに
あれだけ酷い事をしておきながら…その癖、未だにあんたに対してそんな
欲望を抱いて…懇願するまで責め立てて、俺の腕の中で啼かせてやりたいって
気持ちを消す事が出来ないでいる…。呆れても良いんだぞ…」

 ようやく観念して、克哉はポロリと本音を零していった。
 だが…御堂は、愉快そうに微笑んでいくと…力強くこう口に出していった。

「…全く、そんな事で愛想を尽かす程…君は私の想いが軽いものだと
思っていたのか…?」

「っ…!」

 完全に予想外の一言を言われて、ギョッと克哉は目を剥いていく。
 次の瞬間、強い力で引き寄せられて…唇を強引に重ねられていった。
 そうして脳髄が蕩けてしまうような魅惑的な口づけを交わし始めていった。
 キスによって色んなものが溶けていくのを感じていくと…御堂は唇を
離した瞬間、微かな声で囁いていった。

『今更、そんな気遣いは無用だ…。多少酷くされようとも、意地悪な姿を
再び見せたからと言って…そんなのはもう嫌って程見て来たし、君が
そういう男だっていうのを知っている。だから変な遠慮は必要ないだろう…?』

「あ、ああ…そう、だな…。もう今更隠したって、あんたには全部…
バレてしまっているんだもんな…」

 その言葉を聞いた時、途端におかしくなった。
 同時に気持ちが解放されていくような気分になって…大きな声で
気づいたら笑っていた。
 
―その瞬間、克哉は久しぶりに実にすがすがしい気持ちになって、
悩んでいた事の何もかもがバカらしく思えて来たのだった―


 



 

※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』     

 胸の奥に秘めていたドス黒い感情を自覚した途端、怒涛のように
過去の記憶が押し寄せて克哉の意識を飲みこんでいった。

 ―バシィィィ!
 
 脳裏に鋭く鞭を振るう音が鮮明に蘇っていく。
 それは嫌悪と、同時に歓喜の感情を克哉の中に
呼び起こしていった。
 
―やめろぉ…もう、やめてくれぇ…!
 
 泣きそうな、儚い声で御堂がか細くそう訴えかけていった。
そういえば御堂のこんな弱々しい声を自分は久しく聞いた事が
なかったように思う。
 
(俺はあんたがこうやって懇願の声を漏らす事に…確かにかつて、
暗い喜びを覚えていた…)
 
 脳裏に何度も何度も、以前の自分の過ちがフラッシュバックして
再生されていく。
 その度に苦々しい想いと…御堂と良好な関係を築くようになってから
封印していた衝動がせり上がってくるのを感じていった。
 荒々しい口づけを解いて、歯形をくっきりと刻んでいき…そして獣のように
無意識の内に舌なめずりをしていくと…目の前の御堂はどこか怯えたような
表情を浮かべていた。
 最近の克哉は、優しかった。
 こんな風に乱暴に貪られるような、息苦しいキスをされた事も…
思わずうめき声が漏れるぐらいに強く噛みつかれるのも、暫くなかっただけに…
困惑を隠し切れていないのが顔を見るだけで伝わってくる。

(全く…仕事中の鉄面皮のようなポーカーフェイスはどこに行ったんだか…だな…)
 
「克哉、どうして…こんな、乱暴に…するん、だ…。これでは、まるで…
前の、君のようじゃ…ない、か…」
 
「…ああ、そうだな…。今夜は…どうしても、抑えられそうにない…。久しぶりに、
凶暴な気分なんだ…。あんたに、酷い事をして…啼かせたくて、堪らないんだ…」
 
 御堂の瞳に強い怯えの感情が宿っている事に気づいて、克哉は少しの間だけ
正気を取り戻していく。
 けれど…ギリギリの処で理性で抑えても、きっと自分は小さな事をキッカケに
この衝動に身を委ねてしまう事も薄々判っていた。

「…どうして、いきなり…」

「いきなり、じゃない…。ずっと俺はこの穏やかな日常を送っている間も…
胸の奥にこういう…獣のような衝動を密かに覚え続けていた…」

「そん、な…」

 最初はMr.Rの誘惑の言葉に抵抗し続けていた。
 素直に認めたくなどなかった。
 けれど僅かな時間だけでもタガを外して、衝動のままに行動に移した途端…
暫く感じた事がないくらいの強烈な解放感を覚えた。
 だから自覚せざる得なかった。
 自分は御堂と結ばれたこの一年以上で、変わる事が出来たのだと思っていたが…
本質は何一つ、変わっていなかった。

―ただ、自分は巧妙に隠す事が上手くなっていたに過ぎなかったのだと…

 その事を自覚した途端、克哉は悔しくなって唇を噛みしめていった。

「…判った、君の話を…本音を、今夜はじっくりと聞く事にしよう…。だが、
こういった話をこれ以上…ここでするのは止めておこう…。
ベッドの方に移動しよう、続きは其処でした方が良いだろう…」

「…おい、待て…! 孝典、お前…正気か…?」

 そうして御堂は強引に克哉の腕を掴んで寝室の方に向かっていった。
 恋人の予想外の行動に、思わず声を挙げてしまったが…当の本人は
きっぱりとした口調で言い放っていった。

「ああ、私は正気だ。それでこうした方が良いととっさに判断して行動
しているに過ぎない。今の君の様子では…悠長に夕食の準備をして談笑
しながら食卓を囲む事はとても出来そうにないと思ったから最良と
思われる手段を取っている訳だが…何か文句があるだろうか?」

「…ふっ、本当に…あんたは、気丈な奴だな…」

「…そんなのは、君に監禁されていた時から判り切っている事だろう…」

「ああ、その通りだな…」

 そうしてグングンと手を引いた状態で、御堂自らが克哉を
寝室に連れ込んでいく。
 元々、御堂にはこういった気丈な一面があった。
 現在の関係では彼の方が抱かれる側ではあるが…受け身に回っている
からと言っても、硬質な意思の強さや…男性的な部分が損なわれて
しまっている訳ではない。
 先程の怯えは払拭されて、こちらの真意を問うかのように真っすぐに
見つめて来ていた。
 御堂はグイっと顔を寄せて来て…克哉の胸倉を痛いぐらいに強く
握りしめながら…吐息が掛かる程の距離でこちらの瞳を睨みつけてきていた。
 その強烈な意思が宿る視線に、こちらの魂までもが見透かされて
しまいそうだった。
 ベッドのすぐ傍らでそんなやり取りをしているせいか、二人の間には
奇妙な緊張感が生まれ始めていく。

「…孝典、さっきから俺が怖いんじゃなかったのか…?」

「ああ、あんな風に乱暴に扱われるのは久しぶりだったからな。最初は
面喰っていたが…少し冷静になったら、思い出したな…。最近は随分と
穏やかになって優しくて忘れかけていたが…君という人間は、元々どうしようも
なく酷くてロクデナシだった事をな…」

「おいおい、恋人をロクデナシ扱いするのか…随分と酷い言い草だな…」

「だが、事実だろう…? かつて君が私にした事は…筆舌しがたい程に
痛烈で、酷いものだった。…良く考えてみればどれだけ優しくなった
ように見えたって…私にあのような事をした過去が変わる訳ではない…。
全く、失念していたな…。元々、君は酷くてどうしようもない奴だって事を…
たった一年余りで忘れてしまっていたなんてな…」

「…全然フォローになっていないというか、流石に少し傷ついてきたんだが…。
まあいい、俺は実際…過去にあんたには本当に酷い事をやって来ている。
あんたが許してくれて、こちらの想いを受け入れてくれたからこうして…
一緒にいられている訳だが…孝典、お前の言う通りだ…。俺という人間の
本質がそう簡単に変わる訳がないっていうのはな…」

 そうして克哉は自嘲めいた笑みを浮かべていった。
 そんな恋人を、御堂は突き刺さるぐらいの鋭い眼差しで見据えてくる。

「…とりあえず、本音を話してみろ克哉…。私は君のパートナーであり、
こうして二人でいる間は…恋人同士だ。穏やかな関係を築くようになってから
君が何かを押し隠しているようなのはうっすらと伝わってはいた。なら…
一先ず言ってみると良い…」

「…本当に、良いのか? かつての悪夢が蘇るかも知れないんだぞ…?」

 克哉はどこか、驚いたような顔を浮かべてそう尋ねていった。
 その瞬間、御堂は強気な笑みを刻んでいく。

「…その悪夢を経た上でも、私はこうして君を選び…今も一緒にいるんだ。
何を恐れる事がある…?」

「っ…!」

 その一言を聞いた瞬間、克哉は驚愕に目を見開き…すぐに嬉しさで
僅かにだが口元を軽くほころばせて…笑みを浮かべ始めていったのだった―

 
 


※この話は結ばれて結構経過した眼鏡と御堂のお話です。
ふとした瞬間に、黒い欲望を克哉は覚えてしまい…それを
どう抑えるか、忠実になるか眼鏡が葛藤を覚えるお話です。

『刻印』  

 職場の戸締りを終えた後、御堂と共に自宅に向かう途中…
何度も、かつて自分が犯した過ちと…Mr.Rの誘惑の声が
聞こえて来た。

(うるさい…何故、今さらこんな事を思い出す…!)

 瞼の裏には、御堂を鞭で打って赤黒く痛々しい痕を愉快そうに
つけている場面が浮かんでくる。

―ほら、かつての貴方はこんなにも愉しそうに…御堂様に対して、痕を
刻んでいたんですよ…。己の所有の証をね…。それなのにどうして、
今更己の欲望を抑えなくてはいけないんですか…?

(…違う! 俺はもう…変わったんだ…! 二度とこんな真似を御堂に
しないと誓ったんだ。過去の過ちを見せつけるような真似をするな…!)

 本来なら、恋人と二人でゆっくりと過ごす週末に心を弾ませている
筈だったのに…先程から脳裏に響く声と徐々に浮かんでくる過去の
記憶のせいで克哉の心は大いに揺れまくっていた。
 
―いいえ、貴方の本質は全く変わっていませんよ…。心の奥底では、
己の証を御堂様に刻みつけたいという…強い想いが渦巻いている筈…。
あの方を引きとめたい、ずっと手元に置いておきたいという欲求が
強ければ強すぎるだけ…証が欲しいと願う気持ちもまた強い筈ですよ…

「っ!」

 其れは、図星だった。
 あまりに的確に心の奥底に沈めていた感情を突かれて…克哉は
悲鳴を上げそうになった。
 瞠目して…思わず足を止めてしまうと、後ろを歩いていた御堂が
怪訝そうに眉をひそめていった。

「…克哉、どうしたんだ…? こんな処で足を止めて…?」

「あ、ああ…ちょっと冷蔵庫の中にどれだけ食材が残っているか
気になったんでな…。つい…」

「…そんなのは毎回の事だろう。君は基本的に食べる事に執着が
ないから…冷蔵庫の中は、基本的にアルコールか、肴になりそうな物
ぐらいしかせいぜい置かれていない事などしょっちゅうだろうに…。
私も似たようなものだが、もう少しキチンとした食事をするように
心掛けないとその内体調を崩すぞ…。まあ、週末を一緒に過ごすなら…
予め一緒に買い出しに行くのも一つの手だ。先にそちらに向かうか…?」

「いや、良い。とりあえず…パンと、チーズと卵とサラダに出来そうな野菜が
何種類かぐらいはあった筈だから、明日の朝食ぐらいはどうにかなるだろう。
それよりも…早く行こう。夜は…短いからな…」

「…ああ、そうだな。モタモタしていたら確かにあっという間に朝を迎えて
しまうな…」

 御堂はどこか、いつもと様子が違う恋人に対して釈然としないものを
感じつつも…気持ちを切り替えて、彼の部屋の中に向かっていく。
 そうしていつしか御堂の方が先を行くようになり…合鍵を使って
扉を開けていけば二人は一緒に室内に足を踏み入れていった。
 電灯を点けていけば…部屋の中がまるで命が灯ったかのように
暖かさを取り戻していく。
 この段階になって…お互い、今日一日無事に仕事を終わらせて
帰ってきたのだという感慨に浸れるようになった。

「…やっと一息つけるな。…ふふ、最近仕事が軌道に乗って来たは良いが…
日中はそのせいで目が回る忙しさだしな。今日もやるべき事を片付けて
いたらあっという間に終わってしまったな…。まあ、日々充実しているから
文句言う気は全くないがな…」

「ほう、充実しているのか。確かに働いている時のあんたは輝いて
見えるからな…。ちゃんとあんたの日々を充実させている事が
出来るなら…強引にでも引き抜いて来た甲斐があったというものだ…」

「…ああ、そうだな。君に誘われた当初は正直迷いもあったが…
今は君の誘いに乗って良かったと本当に想っているよ…。
MGNの時も、知人の会社に在籍した時もやりがいのあるポストや
仕事を与えて貰っていたが…今程の充実感は確かに得られて
いなかったように思うからな…」

 そうして、御堂は思いがけずフワリ…と優しく微笑んでいった。
 いつもは硬質で隙を滅多に見せない恋人が、ふと見せるそんな表情に
克哉は釘付けになっていく。

―あんたが、欲しい…!

 その瞬間、その想いが堰を切ったように溢れていく感じだった。

「…柄にもない事を言ったな。克哉…夕食は、どうす、る…うわっ!」

 食事を作るか、それとも外食をして済ませてしまうか…そう問いかけようと
した矢先に…いきなり噛みつくように克哉に口づけられて、抱き締められて
いて…御堂は完全に面喰っていた。
 久しぶりに荒々しく、相手の舌先を奪い尽くすような…そんな感じで
唇を重ねていった。
 御堂の方は完全に混乱しきった状態に陥っていた。
 以前は確かに克哉がこんな風に強引にこちらにキスして…貪るような
キスをしてくるのは珍しくなかった。
 恋人関係になる以前など、ほぼ毎回であったと言っても過言ではない。
 けれど最近は彼も穏やかになってきたし…久しくなかっただけに…
困惑を隠しきれなかった。

「ふっ…うううっ…!」

 御堂はつい、軽く抵抗するように頭を左右に振ってしまっていた。
 呼吸すら奪われるような激しく力強い口づけに、こちらの舌先を
貪られてしまう感覚に…急激に欲望を刺激されてしまって、どうして
良いのか判らなくなる。
 そして唐突にキスを解かれていけば、久しぶりに凶暴な光を宿した
克哉の目とぶつかりあっていく。

「っ…! かつ、や…! ああっ!」

 そうして、問答無用で首筋に顔を埋められていくと…強烈な痛みが
肩口に走り抜けていった。

「克哉、痛い…止めて、くれ…!」

 だが、御堂が懇願していっても…克哉の行動は止められる事は
なかった。
 彼が唇を離していけば…肩にはくっきりと歯型が刻まれてしまっている。
 キスマークと違って、ここまでしっかりと噛みつかれてしまったら何日も
其れは残り続ける事だろう。
 
「克哉、何故…」

 そう、御堂が声を少し震わせながら問いかけていくと…克哉は、
久しぶりに凶暴な笑みをたたえながら…こちらを見つめて来たのだった―



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香坂
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趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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