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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※本日は、突発SSを掲載させて頂きます。
 連載中の話、少々難産中なので(苦笑)
 後、克克に自分自身が飢えた!(正直に)

 …という訳で自給自足というか、自分の萌え補給の為に
本日は書かせて頂きました。
 かっつかつ~!!(何か物凄く自分の趣味に走ったの読みたくなった!)


―気づけば、俺の周りには誰もいなくなっていた

 眼鏡を掛けたままの人生を生きる事にしたが、恋人と言える存在も
信頼出来る存在も出来ることなく…目の前の仕事をただこなすだけの
空虚な日々を送っていた。
 実力が認められてMGNに好待遇で招かれて、忙しい日々に
謀殺されようとも胸の中に巣食う何かは決して満たされることはなかった。

 自分のマンションの自室。
 冷たいある月夜、一人…紫煙を燻らせながら、思案に耽る。

(…俺は本当に、こんな下らない日々の為に生きているのか…?)

 愛だの、恋だの…そんな言葉に踊らされて、誰かと甘ったるい関係を
築き上げることなど何の意味があるのだろうか?
 そう思って、誰かを犯すことはあっても…信頼したり、心を預ける
事などして来なかった。
 その結果…今の俺の傍には誰もいない。
 本多でさえも、あまり連絡してこないようになった。
 MGNに移籍したばかりの頃は…それでも頻繁に誘いのメールを
受信することもあったが、煩わしいと思って断り続けている内にあの
しつこい男ですら、俺に接触をしなくなった。
 窓際に立ちながら、静かに紫煙を肺の奥まで吸い込んでいく。

―どうして…今更、俺は寂しいなどと思っている…?

 他人など、自分のペースを乱すだけの存在だ。
 必要があるなら…利用出来る価値のある時だけ優しくして
関わってやれば良い。
 そういうスタンスで誰とでも付き合った。
 傷つくのが嫌で…「特別な存在」など誰も作らなかった。
 かつて親友面をして、俺の傍らにいた男。
 あんな仕打ちを土壇場で受けるぐらいなら…誰も信じらない方が
マシだと思った。
 だからあの謎の男から受け取った眼鏡の力を借りて、俺自身が蘇って
からも…決して、誰とも深く関わることがなかった。
 
―自らで選んだこと、それなのに…どうして…今、俺は…この静寂を
今更空しいなどと思っているんだ…?

 いつもなら、多くの仕事を抱えているおかげで考える暇などない。
 だから見過ごしていたことだった。
 しかし今夜に限っては定時を迎える頃には…ここ数日以内に自分が
こなすべき仕事は予め終えてしまっていたので、久しぶりに…佐伯克哉は
物想いに耽れる時間を得てしまっていた。

「…暇というのは厄介だな。忙しい間は考える必要もなかったことが
後から後から溢れてくる…」

 その事実に苦いものを覚えて、男は舌打ちしていく。
 自分一人で生きればそれで良い。
 どこまでも自分の思うがままに、そのペースを貫き続けて…自分が
成したいことを達成していく。
 それで良いではないか。なのに…どうして、今夜に限っては、それが
こんなにも空虚に思えてしまうのだろう…?

―それはね、お前が…自分を理解してくれる誰かを欲しているからだよ…

 ふいに、声が聞こえた。
 目の前の漆黒のガラスに…鏡のように、眼鏡をかけていない方の
もう一人の自分の顔が浮かんでいく。

「…お前、は…?」

 驚きを隠せないまま、瞠目していく。
 鏡の中の克哉は…儚く笑いながら、そっと顔を寄せていった。

―寂しいんだろう? ねえ…『俺』…

 甘やかな表情と声を浮かべながら、優しくもう一人の自分が顔を寄せて…
瞳を閉じて迫ってくる。
 まるで何かに操られているかのように…こちらからもガラスに顔を近づけて
そっと冷たい表面に唇を重ねていく。
 現実には触れ合えない存在同士の、幻のようなキスだった。

「…どうして、そんな下らないことを言う…?」

―下らなくなんてないよ。だって…オレはお前の一部…お前の心の中に
存在しているんだから…誰よりも、その心を知っているんだよ…

「黙れ…」

 慈愛に満ちた表情で、瞳を細めていくガラスの中の克哉の存在に
酷くイライラしてしまった。
 こんなにもはっきりと見えるのに、こいつは…直接触れ合えない。
 手を伸ばしても…ただ、うっすらと雫を浮かべている冷たい硝子の
感触だけしか感じられない。
 
「…それ以上、戯言を続けると…犯すぞ…?」

―出来るものなら、やってみても良いよ…?

 実に艶めかしい表情を浮かべながら、克哉は返答していく。
 苛立って仕方なかった。
 どうしてこう…挑発的で、可愛くないことをこいつは口にするのだろうと感じた。
 けれどガラスの向こうの相手の姿はどこまでも透明で、其処に見えるのに
決して直接触れ合うことが出来ない。
 温かい肌の感触を、体温を欲しているのだと…もどかしさを感じて
いる内に嫌でも判ってしまった。

「…どうせ俺の前に出るなら、こんなまどろっこしい真似をしないで…
直接、出てくれば良いだろう…?」

―…だって、それをしたら、お前はきっとオレを犯すだけで
終わるだろうからね…。メッセージを伝えたいなら、この方が
セックスに流されないで済む…

「…なら、聞かせて貰おうか…。お前はどういう意図で…俺の
前にこうして現われたんだ…?」

 そう問いかけた瞬間、克哉は消えそうに儚い表情を
浮かべていく。
 泣きそうな、危うい顔だった。
 それを見た瞬間…眼鏡は、言葉を失い欠けていく。

―オレは、お前の傍にいるよ…。どんな時も、お前の中で…
見守っているから…それを、忘れないで…

 ガラス越しに掛けられる、いじらしい一言。
 その時に嫌でも…自分の心は寂しかったのだと思い知らされる。
 冷たいままであったなら、心も体も冷え切っていたことなど見過ごして
しまっていただろう。
 その言葉に温もりが、情があったからこそ…彼は、気づかざるを
得なかった。
 目を逸らし続けていた自分の本心に…。

「お前、は…」

 それ以上の言葉は、続かなかった。
 ただ…水面にさざ波が立つように、確かに今の一言は彼の心を
揺さぶっていた。

―なら、来いよ…俺の傍に…

 憤りを覚えながら、そう訴えていく。
 その瞬間…ガラスから彼の姿はあっという間に消えうせて…

「あっ…」

 相手の姿が見えなくなった事に、目を見開いていく。
 しかし…次の瞬間、ごと…と何かが落ちていった。

―それは赤い石榴だった

 甘酸っぱい豊潤な香りが…鼻孔を突いていく。
 それは…自分の願いを叶えてくれたのだという、証で
あるような気がした。

「…これを、齧れというのか…?」

 その実を自嘲的に眺めていきながら…男は苦笑していく。
 孤独に飢えた夜、もう一人の自分がこちらに手を差し伸べていく。
 他者と交われないどうしようもない人間。
 最後に手を差し伸べたのが…もう一人の自分など、情けないような
どこまでもナルシスティックなものだと思ってしまった。

 胸を焦がす、寂寥と孤独。
 それを癒してくれるなら…良いと思うのに、それでも眼鏡は
少しためらいながら思案していった。

「まるで禁断の果実だな…」

 聖書の中に出てくる、アダムとイブが楽園を追放されるキッカケと
なった果実。
 人に知恵を与える果実の存在が、ふと頭に蘇った。
 もう一人の自分の具現化。
 それを犯して、心と体と満たそうとする行為。
 現実に有り得ない逢瀬をそれでも願う様は…本当に禁忌を
犯すかのようだ。
 誰もいないから、あいつに縋るなど…情けないと思う反面で、
どうしようもなく人の熱さを欲しているのも事実だった。

―その果実を手に持ちながら考えていく。
 そして男は、その禁断の実を齧っていった

 その瞬間、背後に自分を包み込む体温を感じていく。
 無言で痛いぐらいに力を込めて抱きしめられていく。

『オレを欲してくれて…ありがとう、俺…』

 そして何故か、もう一人の自分はそんな風に礼を述べていった

「どうして…礼を言う…?」

『必要とされるのが、嬉しいからだよ…』

 そしてまた、儚い顔を浮かべながら克哉は笑っていく。
 それを見ていると落ち着かない気分になっていくので…眼鏡は
問答無用で、窓際にもう一人の自分の身体を押し付けて…問答無用と
ばかりに性急に、行為へと持ち込んでいった。

―そして克哉は、そんな不器用なもう一人の自分を強く抱きしめていく

 寂しいと、自覚出来ない。
 人に甘えたり、心を打ち明けたり出来ない…そういう性分の男を少しでも
楽にしてやりたくて、自らの身体を捧げていく。

―オレを抱くことで…少しでもお前が楽になるのなら…それで、良い…

 彼は他者と交わって生きていくにはあまりに人づきあいが下手すぎるし、
自分もまた、彼としか関わらない存在となり果てた。
 けれど、どんな形でも必要とされるなら…それで良いと、克哉は思った。

 誰とも関わらない生も、必要とされないのは本当の意味での孤独だから。
 ならたった一人だけでも、例え身体だけでも欲してくれる存在がいるのは
ずっとマシだと思う。
 人には…他者に与えて、喜びを覚える部分がある。
 ささいなものでも他の存在に何かを与えられる限り、人の心は満ちるし…
救いもまた存在するのだから。

―今だけでも、オレを欲して…

 そう、献身的な気持ちになりながら…克哉は、一時…もう一人の自分に
温もりを与えていく。
 
―お前をずっと見守り続けているから。誰よりも…お前の傍で…

 言葉にしない想いをこめていきながら、克哉は強く強くその背中を抱きしめて…
激しい情欲へと、身を委ねていったのだった―
 
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 ギリギリまで考えたけれど、20日分は
お休みさせて頂きます。
 
・連載を25~30回の範囲で終わらせたい
・判り易く情報を整理させたい
・その上で読み手の予想を出来るだけ裏切りたい

 …この三つを出来るだけ満たしたいので少し
時間下さいませ。
 勢いで書きすすめることは出来るけど、もうちょい
練り込みたいので。
 そういう訳で20日分は休みます。
 
  後、現在GENOウイルスに関して相当に騒がれているので自分の方でも
調べてみたんですが…私が使用しているPCはVISTAなので、よっぽど
変な操作をしない限りはVISTAでは感染しないらしい。
(現時点ではVISTAユーザーでの感染報告はないとの事)
 一応、自分の方でもこのページを見てざっと知識を頭に入れておきました。

 GENOウイルスまとめ

 …一応、ここに書いてある対策はこっちの方ではやっておきました。
 チェックも試してみたけれど、今の処…当サイト&PCは感染して
おりませんので報告させて頂きます。
 今後も感染しないように、注意していく予定です。

 XPが三月に壊れた時は号泣したものだけど…その一件なかったら
VISTAがOSのPCをメインに使うことなかったから、もしかしたら
怪我の功名だったのかも知れません(苦笑)
 とりあえずこの件を報告させて頂きます。では~。

 
 4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。

 

 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                            10
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  ―悪魔が書いたシナリオは、ここまでほぼ狂いなく進行していた

 巻き込まれた存在の平穏を願ったからこそ、言いなりになった
平凡な方の佐伯克哉。
 記憶を封じられて…反発しながらもこちらの思う通りに動き続ける
御堂孝典。
 一夜のショーは、そんな彼らの儚い望みを打ち砕く為に用意された
舞台に他ならなかった。

―怒りを、哀しみを…純度の高い感情をそのまま剥き出しのまま
ぶつけあいなさい。平穏な日常よりも、己の欲望のままに生きた
方が遥かに充実して、愉しい日々を送れる筈ですから…

『不当』に命を奪われた御堂孝典の心の断片が、この奇妙な空間に
足を踏み入れたからこそ…ざわめいていく。

―舞台の袖に立つ御堂の瞳が…狂気の色を孕んでいく

 どれだけ強い暗示を掛けても、決して消え去ることのない純度の高い
憎悪が…彼の身体を突き動かそうとしていた。

「はっ…ぁ…」

 それでも、ギリギリの処で御堂は堪え続ける。
 殆ど…正気である方の彼の心は、今は激情に押し流されてしまって
消えつつあった。
 けれど獣のような衝動に負けたら、人として終わりのような
気がしたので…顔全体に脂汗を浮かばせながらも最後の執念で
耐えていった。

―おやおや、強情な方ですね…。意識を失ってでも、なお…
己の欲望から抗いますか…

 十字架に磔にされている佐伯克哉は…今は気を失っている。
 胸の中心に、炎を押し当てられたのが余程の衝撃らしかった。
 Mr.Rは慈しむように、完全に意識を失っている克哉の頬を撫ぜて
いくと…少しだけ困った顔を浮かべていく。

(…意識を取り戻すまで、もう少し時間が掛かりそうですね…)

 ほんの数分程度の時間なら良いが、このまま十字架に繋いだまま意識を
失われ続けたらショーを観覧する人間の熱気が冷めてしまう。
 そうなったら興ざめも良い処だ。 
 御堂が獣のように、気を失った彼を求めてるのが…彼の書いた筋書きの筈
だったのに…それが上手く行かず、軽く舌打ちをしていく。

(…何かが、私の書いた筋書きから狂い始めているのですか…?)

 そうだ、佐伯克哉という存在は…そういう部分がある。
 常に…自分の書いた筋書きを、心地よく裏切ってくれるような…不確定な
要素を常に内包している。
 Rは…右手を挙げて、店内の人間に静かに合図を出していく。
 やや複雑な指先の動きを見せて…万が一、不測事態に陥った時用の
次の演目の準備をさせていった。
 可愛らしい猫が、一匹捕獲出来たので…それを愛でるショーを
見せれば間は繋げるだろう。

―御堂孝典は、爪先を肌に食い込ませていきながら…抗い続ける

 意識を失ってもなお、最後のプライドを…己の矜持を守ろうとするかの
ような鬼気迫る何かがあった。
 その姿に…Rは、どうしてあの人がここまでこの存在に強く執着を
したのか…その理由を垣間見た気がした。

(普通の人間ならば…とっくの昔に、己の中の衝動に負けておられる筈…)

 舞台に暗幕が敷かれていく。
 観客達は、新たなショーが開かれるに思ったに違いない。
 けれど…克哉は気を失い、御堂もまた…自分の思った通りに動かないので
あったならば…予定通りに、御堂が克哉を激しく犯す…今夜の目玉となる
ものを開催出来ない。
 その事実に…初めて、常に余裕の笑みを浮かべ続けていた男の顔に焦りの
ようなものを浮かばせていった。

(一体、どこで…狂ったのですか…? 私は完璧に布石を敷いてきた
筈なのに…?)

 Rは克哉の身体を両手で抱きあげながら…一旦、御堂がいる方と反対の
舞台袖に退去していく。
 その途端に…男は信じられないものを目の当たりにしていった。
 
「っ…!」

 それは滅多に驚くことのない謎めいた男が…心の底から動揺して、驚愕を
覚えた瞬間だった。

「…お前は、そいつを…どうするつもりだ…?」

 目隠しをされて、意識を失ってぐったりしている…克哉を見ながら…
予想外の存在は冷たく言い放っていく。
 その強い威圧感に、威厳。
 何もなかったら、心の赴くままにひれ伏したいとさえ願う…麗しき存在が
瞳に強い怒りを湛えていきながら…其処に立っていた。

「ど、うして…貴方が…!」

 それが、男にとって最大の予想外の出来事だった。
 あれだけ呼びかけても決して応えることがなかった彼が…こんなに早くに
目覚めるなど、思ってもみなかったのだ。
 彼の心は、あちらの世界に存在していた方の彼の心は…いや、どちらの
ものであっても絶望に打ちのめされて、その心は死にかけていた筈だ。
 なのに…今、目の前にいる彼の瞳にはそのような儚さは感じられない。
 誰よりも強く瞳を輝かせながら、其処に存在している。

「…御堂が、生きているのなら…俺は、謝らないといけない…。この店の
中に…あいつの、気配を感じた…だから…だ…!」

「まさ、か…そんな、事が…」

 予想外だった。
 御堂孝典を闇に落として楽しむ為にこの場に招いたというのに…
それが彼の覚醒を促して、こんなにも早く目覚めさせてしまう結果を
招くとは考えもしなかった。

「どけ!」

 本気の怒りを込めて、佐伯克哉が叫んでいく。
 その怒号に、空気が激しく震えていった。
 ビリビリビリとその激しい声に…空気が震えて、その場が揺るがされる。

「えっ…?」

 その声に、意識を失い続けていた…哀れな子羊になる筈だった克哉も
目ざめていった。

「無様だな…。随分と浅ましく、情けない姿をしているじゃないか…『オレ』…」

「ど、どうして…『俺』が…ここに!? 何で、こんなに早く目覚めて…!」

「どうでも良い。どけ…俺の邪魔をするな…!」

 そういって、彼はRと克哉の脇をすり抜けて…御堂の姿を探そうと
試みていった。

「駄目だ! そんな身体で…勝手に動いたりしたら…」

 たった今まで、克哉は意識を失っていたので状況など知りようがなかった。
 けれど…彼が自分の脇を通り過ぎた瞬間に、本能的に嫌な予感を覚えた。
 それは虫の知らせと呼ばれるものだったのかも知れない。
 
「行くな! 行っちゃダメだ!」

 とっさに克哉は裸のまま、視界が利かない状況でも無我夢中でもう一人の
自分の足へとしがみついていく。
 だが、そんなものなど存在しないかのように眼鏡を掛けた方の克哉は…
力強く足を進めていった。
 その瞬間、空気が凍るような気がした。

「…佐伯っ!」

 その瞬間、別人のように低く唸るような声で名を呼んでいく御堂の声が
聞こえていった。
 足跡が半端じゃなく大きく反響していく。
 その音だけで判る。御堂がどれだけ怒りを覚えているのか、激しい感情を
抱いているのか…本能的に察していった。

―ダメだ、このままじゃ…!

 御堂は、咄嗟に…すぐ傍の床に転がっていた蜀台を手に持って…
構えたまま…眼鏡を掛けた方の克哉に突進していった。
 蝋燭を刺して固定する部分が、鋭い凶器となって輝いている。
 こんなもので刺されたら、ただで済む訳がない。
 克哉はそれが全て、見えていた訳じゃなかった。
 けれど…物凄く嫌な予感がしたから、更に強くもう一人の自分の足へと
しがみついていって…彼の身体を本能的に引き倒していった。

「駄目だぁ! 御堂さん…! 貴方はこの世界でも…同じ罪を犯したり
なんかしたら…ダメです! その手をもう…二度と汚さないで下さい!!」

 本気の祈りを込めながら、克哉は叫んでいく。
 その瞬間…御堂の瞳に、一瞬だけ正気が戻り…。

「っ…どうして、君が…二人、いる…?」

 その声で揺さぶられて…あまりに衝撃的な光景を目の当たりにして…
ようやく、正気を取り戻しつつあった御堂の姿が其処に会った。

「御堂、さん…?」

「御堂…あんた…は…」

「ど、うして…」

 そうして、御堂はまるで…糸が切れた糸のようにその場に崩れ落ちていく。
 咄嗟に眼鏡は、相手の元に全力で駆けよって…身体を支えていく。

―まったく…どうして、貴方が関わると…こうこちらの筋書き通りに物事が
進まなくなるのでしょうね…

 その一連の出来事を眺めて、しみじみとRは呟きながら…今夜の自分が
予定していた愉快なショーは…完全に、眼鏡を掛けた方の佐伯克哉が目覚めて
しまったことで完全に壊されてしまった事実を…思い知らされていったのだった―
 
 4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。

(納得行かず一回書き直ししたので、予定より掲載時間遅れました。すみません
ついでにいうと…R×克哉要素も今回若干混じっているので苦手な方は
注意して下さいませ)

 
 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                            10
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 ―ステージ上には、目隠しをされた佐伯克哉が十字架に括りつけられて
ライトアップされて…闇の中に浮かび上がっていた

「…どうして、彼が…?」

 白い布地に目元を覆われているので、100%本人だという確証はない。
 けれど…ほぼ、間違いないという気持ちもあった。
 舞台の袖から…こんな妖しい場所で開催されるステージに彼が
参加している事を目の当たりにして、御堂は衝撃を隠せなかった。
 とても…こんな世界に関わりがあるような人種には見えなかったからだ。

「…今夜だけの特別ゲストですよ。あの人の望みを叶えて差し上げた対価と
して今宵…当店の他のお客様を愉しませて貰うようにお願いしましたので…。
 ですが、とても綺麗でしょう? あの人は本当に良い素材ですので…
幻想的な演出を施させて頂きました…」

「あれが、幻想的だと…?」

「えぇ、様々な色の光に照らされて…あの均整の取れた白い肢体が
闇の中に浮かび上がる。そして…覆われた目元と、幾重にも張り巡らされた
鎖は…束縛と従順をイメージしております。まさに天界に住まう…穢れを
知らない天使のようではありませんか? 己に課された運命の全てを知らず
目の前の言葉を疑うことなく受け入れて…そして、翻弄されていく。
そういったイメージで…今宵のセッティングをさせて頂きました…」

「…実に悪趣味だな」

 男が歌うようにうっとりと言葉を紡いでいくのに対して…御堂は明らかに
嫌悪感を相手に覚えていく。
 だが…淡い赤、青、緑の三色の光に照らされ…オーロラのように折り重なる
中に浮かび上がる佐伯克哉の姿は…確かに、美しかった。
 十字架に括りつけられている姿は、まるで多くの教会に設置されている
神の子の姿のようだ。
 聖なるものと、妖しい色気が同意する姿に知らず…目が釘付けになっていく。

「随分な謂われようですね…では、少々時間を差し上げますから…その間に
ステージに上がられるかどうかを決めて下さい。…これから始まるショーが
終わるまでの間に…参加を決めて下さらない場合は…当店の他のスタッフが
あの人を存分に可愛がる事になります…」

「…本当に、そちらの正気を疑う処だな…。いきなり、こんな場所に招いて…
衆人監視の中で、舞台の上でセックスをしろなんていう非常識な人間が
この世にいるとは思わなかった…」

 とびっきりの皮肉と悪意を込めながら言葉を紡いでいくが…黒衣の男は
ニッコリと笑うだけだった。

「…それは褒め言葉と受けとっておきますよ…」

 そう言い捨てながら…男は自ら舞台に上がっていく。
 瞬間…ザワっと空気が変わっていく。
 だが、安っぽいストリップ劇場の観客達のように…安易にはやし立てたり
ヤジを飛ばしたりはしなかった。
 
「こんばんは…今夜は当店、クラブRにお越しに頂いてありがとうございます…。
これより、今宵限定の特別なショーとして…一人のこの純粋そうな青年が
深い快楽によって闇に堕ちていく様を皆様にお見せしたいと思います…」

 そうして…ミスターRが克哉の後ろに静かに立っていく。
 黒い服を着た男が…銀色の盆の上に豪奢な細工が施された三又の蜀台を
そっと差し出していった。
 其処から一本、赤い蝋燭を引き抜いていくと…ミスターRはそっと佐伯克哉の
胸元を炙っていき…。

「うっ…あっ…」

 その熱気に耐えきれず、佐伯克哉はうめき声を漏らしていった。

「…今宵のショーは…死からの再生をイメージしております…。それでは
皆様、存分に楽しんで下さいませ…」

 そうして…ミスターRの手が克哉の下肢にねっとりと絡まっていきながら…
胸元に熱い蝋がポタリ、と垂らされていく。
 赤い蝋は、彼の白い肌に落とされると…血のように固まっていく。
 奇妙に…扇情的な光景だった。

「ひっ…あっ…!」

 熱い蝋と、黒い革手袋に包みこまれた男の掌の感触が交互に佐伯克哉に
襲いかかっていく。
 胸の突起に、中心に…ポタポタ、と血のように赤い蝋が落とされて…
皮膚の上で固まっていく。
 徐々に近づけられているせいで、克哉の身体はビクビクと大きく震えて…
その熱さに必死に耐えているようだ。
 手の中に収められている彼のペニスが…熱いぐらいに張り詰めていき…
怒張しているのが舞台の袖から見ていても十分に判る。 

「…見て下さい。この…厭らしい身体を…。熱い蝋を落とされて、こうして
皆様に見られているだけで…こんなにも浅ましく己の欲望を滾らせて
いらっしゃる…。ほら、もっと彼の媚態を眺めてやって…下さいませ…
皆様に見られれば見られるだけ、己を解放して…どこまでも深い
悦楽に堕ちていかれる事でしょうから…」

 男がそう舞台で述べていくのと同時に…さらに場の空気は濃密で
妖しさを増していった。
 いつしか、静寂に包まれたその空間には…観客達の荒い息使いと
佐伯克哉のあえぎ声、そして…彼の性器から零れる淫靡な水音
だけが響き渡っていった。

「あっ…ああっ! ふっ…やっ…!」

「実にイイ声を上げられますね…こういった舞台に立つのが初めてとは
思えないぐらいですよ…。ほら、こんなにも厭らしく私の手の中で…
蜜を零されて…。本当に淫乱な身体をなさっておりますね…」

「ひっ…やっ…い、言わないで…下さい…!」

「駄目ですよ…貴方のその欲望に忠実な、浅ましい姿で…この場にいる
全てのものを魅了して下さいませ…」

「やっ…あぁぁー!!」

 男の手が一層、淫猥に克哉のペニスへと絡みついていくと…
彼は耐え切れずに、ビクビクビクと全身を痙攣させていく。
 胸元の赤い蝋の塊はいつしか、赤い十字架のように広がり…
中心に刻みこまれていた。
 蝋燭は最初の頃は30センチぐらいの距離だったのに対して、
気づけば10~15センチぐらいの間近に迫っている。
 蝋燭を肌に落とす場合は、30センチ以上離すのが確かセオリー
だった筈だ。あまり近い距離で蝋を落とすと火傷する可能性が
極めて高くなるからだ。
 そうしている間に…演出の光は、時々妖しく点滅を始めて…
舞台の上は闇の中にうっすらと浮かび上がる感じに仕上がっていた。
 周囲が薄暗くなった分だけ…白く輝く佐伯克哉の存在だけが
くっきりと強調されていくようだ。

―気づけば御堂は、その舞台に釘付けになってしまっていた

 佐伯克哉が身悶え、切羽詰まった声を漏らしていく度に御堂の心の
奥底に眠っていた嗜虐心が呼び覚まされていくようだった。
 心臓は妙に荒く脈動を繰り返し…呼吸も忙しいものになっていく。
 アドレナリンが、興奮して大量に分泌されていくような感覚。
 ドクドクドク…と米神が、頸動脈が…手のひらが荒く波打っていくのが
自分でも判ってしまう。

「ひっ…いぁ! あぁ…ああぁ、あっー!」

 そして、グチャグチャという水音が一層濃くなっていくのと同時に
一際大きく、佐伯克哉は啼いていった。
 その瞬間、ペニスから勢いよく白濁が放たれ…胸の中心に赤い
蝋燭をジュっと押し付けられていく。

「ひぃあーー!!」

 耐えきれずに、あられもなく佐伯克哉は高い声で叫んでいく。
 哀れな獲物が追い詰められて、断末魔を発しているようなその光景に…
御堂の雄は、酷く刺激されていった。
 元々…御堂の中には強い嗜虐心が眠っている。
 エリートとして日中、過ごしている彼からは排除されている部分。 
 それが…今、目の前で繰り広げられているショーをキッカケに…
呼び覚まされていった。
 頭がクラクラして、眩暈がする。
 この店の中に充満している…エキゾチックで蟲惑的な香りが…
こちらの理性を、奪ってしまっているのかも知れない。
 身体全体が、欲情して熱くなっていた。
 
「…何を、馬鹿げた事を…!」

 だが、ギリギリの処で欲望を抑えていく。
 あんな男の言いなりになって…他の人間が見ている前で同性を
犯すなど…もし、外部に知られてしまえば…今までの社会生命を
脅かす程のスキャンダルにもなりかねない。
 だから…必死になって欲望を抑えて、この場から立ち去ろうとした。
 しかし…男が言った一言がどうしても気になってしまう。
 自分が抱かなければ、何人もの男に犯されると。
 そのセリフを思い出した瞬間に…ザワザワと心が落ち着かなくなっていく。
 
―私を………した、男が……など、自業自得…だ…

「えっ…?」

 自分の無意識が、何かを呟いていった。
 それは普段の日常では潜んで隠されてしまっている御堂の無意識の部分。
 奥に潜んで、見失いがちになる…本音。
 己の中に、暗い目をした自分が浮かび上がる。本気で佐伯克哉を憎んでいる自分。
 
―良いザマだ…そんな、扱いこそ…あの男には…相応しい…

 それは、もう一人の御堂の姿だった。
 本気であの男を憎み…殺したい程までに思い詰めている闇の部分。
 それが唐突に目の前に現われて…御堂は言葉を呑んでいった。
 今の彼からは消されてしまった記憶の断片。だが深層意識に沈んでも…
どれだけ強い暗示を施されても…憎悪は、完全に消えることはない。

―あいつが、私の全てを奪ったんだからな…! 長年築き上げてきたものも、
周りの信頼も、私自身の命すら全部…! だからあんな男はどうなろうが…
知った事か…!

「お前、は…」

 目の前に、もう一人の御堂がいた。
 実体はない、恐らく自分だけにしか見えていない存在。
 だがその瞳に、恐ろしくて目を背けたいぐらいの激しい憎悪が宿っている。
 あまりの光景に、言葉を失う。

―これは一体、何だ…?

 爛々と瞳だけが、憎しみで輝いている己の姿に…恐怖すら覚えた。
 御堂が何も言えず、茫然と立ち尽くしていると…憎悪の塊となっている
もう一人の自分は、ふと何かを考え付いたものだった。

―だが、あの男に…一度ぐらい、私が受けた屈辱を与えてやるのも…
悪くないかもな。何人もの男にグチャグチャにされるというのも愉快だが…
復讐、というのも…悪くはない…

「何を、言っている…?」

 あまりにも恐ろしい顔で、もう一人の自分が言うものだから…御堂は
蒼白になりながら、呟いていく。

―お前は、忘れられて幸せだな…。あれほどの目にあって、平凡な日常を
変わらず送れているそのおめでたさが逆に羨ましくもある。
 だが…私は、決して忘れられない…。お前が忘れても、命すらも奪われた
私は…この憎しみを消すことなど出来ない…。
 あの男さえいなければ、私はこんな目に遭うことも…死ぬことすら
なかった筈なのだからな…!

 激情のままに、もう一人の御堂が叫んでいく!
 頭の芯が、電流に打ち抜かれたような衝撃が走っていった。
 半透明の、恐らく自分にしか見えていないであろう…憎悪の化身となった
御堂の身体が自分に重なると同時に…それが、御堂の全てを乗っ取っていった。

―私の気の済むままにさせて貰おう…これは、私の正当な権利であり…
復讐だからな…!

 そうして、自分の心の中でもう一人の御堂は嗤っていく。
 まるで気が触れたように、正気など失ってしまったかのように。
 あまりのどす黒い心に、吐き気すら覚える。
 剥き出しの憎悪がこれほどまでにおぞましく…恐怖を覚えるものである
事を…思い知らされた気がした。

「や、めろ…!」

 必死になって、御堂は叫んでいく。 
 だがもう…激しい負の感情に支配された方の彼には、その声は
届くことがなかった。

―そうして、御堂の意識は闇に呑まれていく

 そして彼は…朦朧としながら、これから広げられる一幕を前に…
傍観者という立場となってしまったのだった―




 ちょっと遠方の友人たちに会いに、大阪へと
旅立たせて頂きました。
 16日夜遅くに出立して、自宅に帰るのが18日の朝になりますので
17日分はお休みさせて頂きます。

 ギリギリセーフだけど、とりあえず去年の暮れに事情あって
延期になっていた本の製本に間に合った…。
(別ジャンルだけど)

 何かいっぱいいっぱいな日程ですが、これから夜行バスにて
飛び立って参ります。
 無事に帰って来るように祈ってやってて下さい。
 18日分は、よっぽど体調を崩していない限りは普通に
掲載すると思います。ではでは~。
4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                            10
                                                        11  12  13  14  15

 ―謎の男の後に続いて、御堂が辿りついた場所は…繁華街の外れ。
 薄暗く、人が滅多に訪れそうにない…どこかうらぶれた界隈だった。
 物陰から何かが飛び出して来そうな雰囲気がする。
 街灯も何個か途切れたり、壊れたりしているものが存在しているせいか
明かりが差していない部分も多く…それが一層、空気を重いものにしていた。

(随分と治安が悪そうな場所だな…本当にこんな場所に足を踏み入れて
大丈夫なのだろうか…?)

 常にエリートとして、人生の表街道を歩き続けてきた御堂にとっては
このような怪しい場所に今まで用がない限りは訪れた経験がない。
 それでも知りたいことがある以上、こちらの立場は決して強い
ものではない。
 黙って、黒衣の男の後をついて行く他なかった。

「御堂様…こちらですよ。この角を曲がった処にある突き当たりの
青い階段をゆっくりと下っていって下さいませ…」

「青い、階段…?」

 御堂が確認する為に反芻していくと、間もなく男の姿が風のように
スウっと消えていく。
 慌てて周囲に四線を張り巡らせていくと…コツコツ、という靴音が
確かに男が言っていた階段の方から聞こえていった。
 まるで奈落か、地獄にでも繋がっていそうな長い階段だった。

(…本当に、ここに足を踏み入れて私は大丈夫なのか…?)

 男を見失いたくなければ、追いかけるしかない。
 けれど…御堂は一回、息を大きく呑んでその場に佇んでしまった。
 頭の中で何度も警鐘が鳴り響いていく。
 だがここで臆して尻尾を巻いて立ち去るのも悔しかった。
 
「…ええい、私らしくもない。いつまでも立ち止まったままでいて
何になるというのだ…!」

 暫く葛藤している間に、そんな自分に苛立ちを覚えて早足で
その階段を下り始めていく。
 瞬間、頭の中にノイズのように奇妙な光景が一瞬だけ
浮かび上がっては消えていく。

・血まみれの自分の手

・涙を流す青い双眸

・妖しく笑う金髪の男

・完全に満ちた月

・そして…


 最後に見た、映像だけは信じがたいものを感じて
それ以上の認識を止めていく。
 まただ、佐伯克哉やあの男に接すれば接するだけ
何か虚飾が剥がれていくような気がする。

―御堂様。そろそろショウが始ります。入られるようなら
お早めにお願い致します…

 御堂が階段の途中で固まっていると、奥の方から微かに
男の声が聞こえていった。
 頭が酷く痛んでズキズキする。
 何かが、垣間見えては消えていく。
 それは一瞬の儚い白昼夢のようであり…幻ともいえる断片。

「あぁ、今から向かおう…」

 そうして御堂はついに階段を下りきって…赤い天幕が覆う
店内へと足を踏み入れていった。

「ようこそクラブRへ。貴方様のご来店を心から歓迎致します」

 そして黒衣の男は、恭しくこちらに頭を下げていく。
 そして…ゆっくりと踵を返して御堂を案内していった。

「それではこちらについて来て下さいませ…」

「あぁ…」

 ずっとこの男のペースで動かされるのは酷く癪であったが…ここで
妙に反抗的になっても仕方ない。
 とりあえず従ってその後へと続いていった。
 クラブR店内には妖しい東洋の香のようなもので満ち足りていて
ただ息をして立っているだけで頭の芯が痺れてしまいそうだ。
 ベルベッドのように鮮やかな赤で満たされた空間。
 倒錯的であり、同時に酷く官能的でもあった。
 そうして後に続いていくと…カーテンの向こうが大きく
開けている空間へと辿りついていった。
 どうやら舞台の袖のようだった。

「さあ…これが今宵のショーにおいて…貴方様に用意された
特等席ですよ…」

「なっ…! 何だと…! こんな処に私を立たせて、一体
どうするつもりなんだ…!」

 この位置は特等席と言いながら、思いっきり出演者側の
場所だった。
 ただの観客ならば舞台の外の座席を宛がわれるだろう。
 ようするに…ここに立て、ということはショーの出演者側になれと
いうのとほぼ同義語だった。

「お静かに…これから、実に貴方にとって濃密で愉しい一時を
提供致します…。ですから、貴方は黙って…観客である私たちを
愉しませるべく…今宵の哀れな生贄を、貴方の欲望のままに踏み躙り…
犯して下さい。そうなされば…貴方の知りたくて仕方ないことの一つを
対価として…お支払いしましょう…」

「な、んだと…? そんな異様なものに私を参加させると言うのか!
 ふざけるな! これ以上貴様の戯言に付き合うつもりはない! 
帰らせてもらう!」

 御堂は半端ではなく激昂した。
 こんな得体の知れない男になど、やはりついてくるべきではなかったのだ。
 肩を怒らせて、御堂はそのまま立ち去ろうとした。

「…少々お待ちを。貴方が気が進まないようでしたらそのまま
帰られても結構です。ですが…舞台の上に立つ…今宵の哀れな子羊の
顔だけでも拝んでみては如何ですか…? 案外、貴方の知っている
顔が立っているかも知れませんよ…?」

「…私の知人に、このような怪しい店に好んで立ち去るような輩はいない」

「えぇ、貴方のように清廉潔白な方ならば当店には好んで入ってくるような
事はないでしょう。けれど…今夜、貴方はこうしてこの場にいる。
趣味でなくても、何か理由があれば…ここにイレギュラーとして足を踏み入れる
ぐらいの事はありえると思いませんか…?」

 そうして男は愉快そうに笑っていく。
 この存在の甘言になど乗ってしまったら、引き返せなくなりそうな気がした。
 しかし…物凄い嫌な予感がする。
 好奇心と、反発心が再び御堂の中でぶつかりあっていった。

(きっと見てしまったら引き返せないような気がする…)

 そう思うのに、このまま目を逸らして立ち去ってしまったら取り返しの
つかないことになりそうな気がした。
 複雑な感情が渦巻いて、どうすれば良いのか判らなくなる。

「…貴方がお相手にならない場合は、子羊は何人もの男に好き放題に
弄りものにされる運命が待っております…」

 そして、もし知り合いの誰かであったならば…決して聞き捨てすることが
出来ない一言が、男の口から放たれていく。
 それが抗う限界だった。

「くそっ!」

 この男の思い通りになってしまっていることが悔しかった。
 けれどついに…重いカーテンを、禁断の扉にも等しいそれを
明け放って、舞台の上を覗いてしまった。

「嘘、だ…」

 その光景を見て…御堂は現実を一瞬、認識したくなくなった。
 けれどそれは認めたくなくても…事実だった。

「どうして、お前が…」

 御堂は力なく呟いていく。
 …その存在は虚ろな瞳をしながら、裸で…十字架に鎖で括りつけられて
眩いばかりのライトに照らし出されていた。

―それはまるで、一枚の絵画のように美しく…そして、残酷さも
滲ませた…ゾっとするような。光景だった。
4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
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 ―自分は果たして、何をやっているのだろうかと思った。

 疑問ばかりが浮かんだ昨日と違い、本日は驚くぐらいにいつもと
変わらない一日が過ぎていった。
 当然、昨日の午後に起こった地震の余波のようなものは多少はあった。
 一部、電話線やライフライン等が老朽化していた地域などでは
多少の混乱等はあったみたいだが…昨日の午前中に起こった出来事の
不可解さを思えば…御堂にとっては微々たるものだった。
 そして己のやるべき業務を終えて、御堂はMGNからそう遠くない位置にある
例の公園の入口に立っていた。
 ここが…今朝、送信されたメールの主が指定してきた場所だった。

「確か…この公園の中央のベンチの前、だったな。…どうして、こんな
場所を指定してきたのか…理解に苦しむが…」

 御堂は待ち合わせの場所に立った時点で、不吉な想いを抱いていた。
 この風景には見覚えがあった。
 …二日前に見た悪夢で、自分が佐伯克哉を刺した場所に近かった。
 そう…少し離れた処に樹木が生い茂った場所があって、その裏手に確か
自分は隠れていて…。

「…何を、考えているんだ…。あれは単なる夢の…筈、だろう…」

 其処まで思い出した時点で、必死になって頭を振って否定していく。
 この二日間、どれぐらい…そんな行為を繰り返してきたのだろうか。
 夢だと思い込みたい自分と、薄々と現実ではないかと恐れている自分と…
異なる意見を持つ自分が、ずっとせめぎ合っているような感じだった。
 公園に灯る街灯は、煌々としていて…すでにとっぷりと日が暮れて
薄暗くなっている敷地内を眩いぐらいに照らし出していく。
 
―何故、この場所をわざわざ相手が指定してきたのかが気になった

 まるで自分が見た夢の内容を見透かされているようだ…と感じた瞬間、
闇の中から何かが浮かび上がってくる。

「っ…!」

 とっさに身構えていく。
 だが相手はこちらのそんな反応などお構いなしに…いきなり現われては、
あっという間に距離を詰めていった。

「こんばんは~」

「…はっ?」

 そして極めて能天気な声で、笑顔で挨拶されていって…御堂は
呆気に取られていった。
 その時になって、突然現れた人物に何となく見覚えがあるような気がしたが…
具体的に思い出せなくて、御堂は難しい顔を浮かべていく。

(…この男、以前にも会った事があったか…?)

 何故、この二日間…こんなにも記憶の欠落とか、何かが思い出せなくなっていることが
多くなってしまっているのだろうか。
 しかし…こんなに妖しい雰囲気を纏いつつ、能天気そうに声を掛けてくる人間など
絶対に顔を合わせていたら忘れられそうにないと思うのだが…。

(一体いつ、私はこの男と会ったんだ…?)

 空白を埋めたくて、こんな得体の知れない男からの誘いに勇気を出して
乗ってみたというのに…また一つ、自分の中から何かが欠けている現実に
気づかされて、御堂のモヤモヤは一層深くなっていく。

「私からの誘いに…乗って頂いてありがとうございます。御堂孝典様。
まさか…こんなにすんなりと来て頂けるとは思っていなかっただけに…
実に嬉しく思いますよ…」

「あぁ、宜しく…」

 相手は満面の笑みを浮かべていたが、御堂はこの時点でどうしてこんな男からの
メールに乗ってしまったのだろうかと早くも後悔し始めていた。
 本当に、氏素性の判らぬ相手からの突然のメールにこうして応えるなど…
慎重な自分らしからぬ行動であった。
 けれど…この男の誘いの文章の中に「佐伯克哉さんに関して、知りたいことが
ありましたら…」と記されていた。
 その一文が、どうしても無視し切れずに…結局、訝しみながらも御堂は
ここまで来てしまったのだ。

「さあ…それなら、早速向かいましょうか。私について来て下さいませ…」

「えっ…?」

 しかも相手は挨拶をすると同時に、早くも踵を返して歩き始めていく。
 唐突な事態に、御堂はついていけなくなった。
 まだロクに言葉も交わしていなければ、何の情報の交換もしていない。
 その状態でいきなり「ついて来い」と言われようとも…こちらはどう対応
して良いのか判り兼ねた。

「待て! いきなりメールを送って…ついて来いなど言われても、素直に
はいそうですか…などと出来る訳がないだろう!」

 そして御堂は耐え切れずにそう訴えていくと、憎たらしいぐらいに胡散臭くて
爽やかな笑顔を浮かべながら男は言い切っていった。

「判りました。その場合は交渉は決裂という事で。このまま私は立ち去らせて
頂きますね~」

「待て! そんなのでお前は本当に良いのか!」

 あまりにもあっさりと言い切られてスタスタと早足で男はその場から
立ち去ろうとしたので…御堂は慌てて相手を引きとめてしまった。
 しかしそれこそ、こちらの性格を把握した上での相手の戦略であったことなど
この時点の御堂には知る由もない。
 相手の袖を掴んで、引きとめてしまった途端に…男は我が意を得たり…と
言った感じで愉しそうに微笑んでいった。

(しまった…!もしかして、罠だったのか…?)

 その顔を見て瞬間的に御堂は身構えていくが…すでに相手の術中というか
ペースにすっかりハメられてしまっていた。

「…あのメールに書いた通りですよ。貴方が…佐伯克哉さんに強い興味を
抱いているというのなら…これから、私に付き合って下さいませ。其処で…
最高のショウを貴方にお見せいたしましょう…」

「それを見ることに、何の意味があるんだ…?」

「…貴方が知りたいことの断片を、其処で確実に得られるでしょう。私から
言えることはそれだけです…」

 そして男はどこまでも妖しく嗤(わら)う。
 背筋が凍りつくような…そんな笑みだった。

「…判った。一応付き合おう。だが…くだらないものだったり、虚言だったと
判断した時は…立ち去らせて貰う。それで構わないな」

「えぇ、それで構いませんよ。それでは…案内いたします」

 そうして男は、金色の長い髪をなびかせていきながら…御堂を
ゆっくりと自分のテリトリーへと案内していく。
 彼はこの時、幾重にも張り巡らされた運命へと…知らぬ間にこの男に
誘導されていたその事実を、今は知る由もないまま…黙ってその後を
静かについていったのだった―




 

  本日、若干体調が優れないので休ませて頂きます。
  明後日には遠出するので、一応大事を取って…という事で。
  暇を見て、15日分はキチンと書きますのでご了承下さい。

  とりあえず体重を落とそうと色々やって3キロ落ちたは良いが…
そのせいで温度差にメッチャ敏感になっております。
 就職活動用にちょっとスーツを買ったので、せめてそれが格好良く
着れるぐらいまでには身体絞りたいです。
 現在、体質改善中。

 …と気持ちは前向きなのに、身体がまだついてってないのが…
切ないんですけどね(苦笑)
 少なくとも就職活動期間中に、家にいる時間が長いからと言ってこれ以上
太るのだけは断固阻止! というのが今回の目標。
 現在の香坂の変化は、毎日一緒にいる家族には気づかれないけど
何週間ぶりに会う人だと、「ちょっと痩せたかな?」と思われる程度です。
 出来ればそれを維持するか、もうワンランク下げるたいっす…。

 後、ちょっとした近況。
 やっとフォトショップを色々弄って、トーンを貼ったり…レイヤーの構造を
理解して色塗りがキチンと出来るようになって来ました…。
 以下に、ここ最近で…私が作業したものをちょこっと貼っておきます。
 別ジャンルの絵(PC持っていない友人の絵を香坂が代わりに
色塗りしたり、加工したもの)と香坂が自分で描いたイベント用のカットです。
 興味ある方だけ、「つづきはこちら」で見てやって下され。

4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                           10
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―御堂の見ている長い夢は、まだ終わってくれなかった

 己の葬儀を連想させる白い夢から暗転して、彼は光が一片も射さない
暗黒の世界へと突き落とされていく。
 例えていうならば、黒い夢。
 自分以外の存在を全て拒みそうな、漆黒の闇。
 人が本能的に暗黒を嫌うのは、その中に身を浸すことで見たくない
本心を見つめざるを得なくなるからだという。
 その中に…ユラリ、と自分以外の人影を見て…恐怖と、安堵という相反した
感情を覚えていく。

「誰だっ!」

 相手に向かって、誰何の問いを投げかける。
 だが…影は応えない。無言のまま立ち尽くすのみだった。

「応えろ! お前は…何者だ! 名前ぐらい名乗ったらどうなんだっ!」

 もう一度…問いかけて、数歩だけ自ら歩み寄っていく。
 恐れの気持ちは当然あった。しかしこんな場所で遭遇した存在が一体誰なのか
知りたいという想いの方が遥かに勝っていたからだ。
 そして黒い影の方に近づいた瞬間…闇の中に、一人の人物の姿がゆっくりと
浮かび上がっていく。

―今度は眼鏡を掛けた方の佐伯克哉が目の前に現われていった

 お互いに着慣れたワイシャツと、スーツズボンだけを身にまとっている
ラフな格好だった。
 こちらに気づくと…どこか儚い笑顔を浮かべて…涙を静かに流していく。
 先程の、眼鏡をかけていない方の彼も似たような顔を浮かべていた。
 けれど口角が若干上がっていることで…それは辛うじて笑顔であった事に
御堂は気づいていく。
 透明な涙。けれどそれに伴う感情は…さっきとは大きく意味合いが
違っていることに御堂は察していく。

「生きて、いた…」

 彼は、そう力なく呟いていった。
 そう口にした瞬間…彼は、とても重い何かから解き放たれたような…そんな
嬉しそうな表情を浮かべていた。

「あんたが…生きて、いて…くれた…」

 そう何度も繰り返しながら、男は涙を流し続ける。
 歓喜の涙、だった。

「佐伯、君は…」

 突然、相手がこちらがこうして生きていることに心からの喜びを覚えて
いるのに気づいて…戸惑いを覚えてしまった。
 そのまま身動きが取れないでいると…ふいに、こちらの身体を抱きすくめ
られていく。
 息が詰まるような、切ない抱擁だった。
 男の体温を、何故か不快と思わなかった。
 相手の腕の中に包み込まれるような…そんな感覚を覚えて、御堂の躊躇いは
一層深くなっていく。

―どうして彼が、こんな風に泣くのかが良く判らなかった

 自分は決して、彼に対して優しい態度など取った試しなどないのに。
 深く関わったことなど…今まで…。
 其処まで考えた途端、鋭い胸の痛みを覚えていく。
 それは深く封じ込められていた重い記憶の扉に、ほんの僅かな隙間が
生じた瞬間
だった。
 一瞬…走馬灯のように、自分と佐伯克哉との間に何が起こったのかが
頭の中に駆け抜けていく。
 信じがたい、記憶だった。こんなことが本当に起こったのか…とっさに
認めたくなかった。

「嘘、だ…こんな、の…」

「御堂…」

 抱きしめられていればいるだけ、自分にとっては受け入れがたい認めたくない
屈辱の体験が蘇る。
 相手の腕を拒もうと、力を懸命に込めていく。
 必死にもがいた。けれどそれ以上に…克哉のしがみつく腕の力の方が
遥かに強かった。

「今、だけで…良い…。こうして、あんたを…感じさせてくれ…」

「何で、そんな事を言う! 離せ! 離してくれっ!」

 佐伯克哉は、泣きながら…御堂を抱きしめ続けた。
 自分に対してこんな悪辣極まりない事をした男に、これ以上くっついてなど
いたくなかった。
 胸の中に、憎悪が蘇っていく。殺意が、込み上げてくる。
 ここにナイフがあったなら、きっと躊躇することなく…相手の心臓に刃を
突きたてているだろう。それほど、強い感情が胸の中に湧き上がる。

「…あんたを目の前で失って…俺はやっと気づいたんだ…。あんたに対して、
酷いことをしてしまった自覚がある…。けれど、俺は…あんたを好きだったから
どうにかして…手に入れたかったから、愚かな真似を…してしまった…」

 けれど、相手が力なくそんな事を呟いた瞬間…御堂は、驚きのあまりに
身体の力を抜いてしまった。
 今、何を言われたのか正しく認識するのを一瞬拒んでしまっていた。
 
「佐伯…君は、一体何を…言っている…?」

 信じたくない、という気持ちが…御堂から全ての感情を奪っていく。
 呆けたように力なくそう告げていくが…彼の瞳からは、涙は伝い
続けていく。

「…すまなかった」 ―ごめんなさい…―

 二人の、異なる佐伯克哉の声が重なって頭の中で共鳴していく。
 それが、呼び水となって…御堂は思い出していく。
 夢の中だけとしても、一時の事に過ぎなくても…忘れがたい出来事を。
 思い出してしまったら、平穏に日々を過ごせなくなってしまうのは確実な
記憶なのに…それでも御堂は、呼びもどしてしまった。

「君、たちは…どこまで、私を…振り回せば、気が済むんだ…」

 気づけば、御堂も泣いていた。
 相手の腕の中に、収まり続けながら…自らも気づけば、抱き返していた。
 お互いにプライドが邪魔をして、泣き顔を見せあうことはなかった。
 けれど確かに相手の温かさを感じ取っていく。
 そうだ、何度もこの男に犯された。その間は決してこんな風に…体温を心地よいと
感じたことなど一度もなかった。
 たった一言の謝罪の言葉、そして想いを告げる言葉が…御堂の頑なな
心を少しだけ溶かしていく。
 
―君のことなど、嫌いになれれば良いのに…

 きっと心の底から憎むことが出来れば楽になる。
 この存在を殺してしまえば解放されると思った。
 だから自分は…そこまで考えた途端に、重い扉が再び立ち塞がって
それ以上を思い出すのを無意識に拒んでいった。
 けれど…己の中に在ったのは果たして、純粋な憎しみだけだったのだろうか?
 相手を憎み、忌避したり嫌悪するだけの感情だけであったのか?
 ふと御堂は疑問に感じていって…そして。

―何かを、彼の腕の中で見出した気がした…

 どのような類の想いのものなのか、まだ判らない。
 眼鏡を掛けた佐伯克哉は…酷く切ない顔を浮かべていた。
 お互いの瞳が、微かに涙で濡れている…そんな表情。
 気づけば顔がごく自然に寄せられて、口づけを交わしていた。
 そういえば今までにも、何度かこの男に口づけられたことがあった事を
思い出していく。
 それはこちらの肉欲を煽られ、こちらの全てを奪い屈伏させる為だけの
傲慢なものだった。
 けれど…この触れ合うだけのキスは、今までのものとは意味合いが
異なっているように感じられた。

(どうして…私は、彼の腕も…口づけも、拒めないんだ…?)

 御堂は立ち尽くしながら、そう自問自答していく。
 何かを与えられたような気がした。
 こちらの中に、負の感情以外のものを呼び起こす優しいキス。
 初めてこの男から、自分は何かを与えられたような…そんな気がした。
 判らない、判らない…判らない!
 頭の中がグチャグチャで、何も考えられなくなる。
 彼という存在が理解出来ない。どうして…ここまで、自分という存在の心を
ここまで掻き回すのだろうか!
 永遠にも思われる、永い口づけ。
 其れから解放されて、目の前の佐伯克哉をふと見つめていくと…彼の姿が
徐々に透明に近くなっていた。
 まるでホログラフのように、闇の中に淡く浮かび上がっているその様子に
叫び声を挙げそうになった。

「佐伯、待て…!」

 必死になって繋ぎ留めなければ…二度と会えなくなってしまうような
そんな気がした。
 あんな仕打ちをした相手の顔など、もう見たくない筈なのに…目の前で
消え行ってしまいそうになった時、御堂は必死になって相手の腕を掴んで
引き止めようとしてしまった。
 けれどそれも儚く、空を切っていく。
 そして今まで見たことがないくらいに、柔らかい笑みを浮かべていきながら…
男はこう告げていった。

―あんたがどんな形でも、この世界に生きていてくれて…本当に、良かった…

 再び、心から嬉しそうな顔で…透明な笑顔を浮かべて、佐伯克哉の
姿は幻のように掻き消えていく。
 どこまでも深い闇の中…自分一人だけが取り残されていく。
 憎い相手の筈だった。けれど…最後に、そんな言葉を残されたことで…
それ以外の感情が、御堂の中に生まれ始めていく。

「佐伯…どう、して…」

 君を素直に憎ませてくれないのだろうか。
 本当に、心からその事で恨みたいぐらいだった。
 二つの白と黒の夢が…御堂の中に、今までとは違った感情を呼び覚ましていく。
 夢とは…一時、強く思い合う人間同士の心を反映して、映し合うことが
あるという。
 お互いの中にどんな類の感情であれ、強い感情を相手に抱いていたからこそ…
このような奇妙な夢を見たのだろうか? それとも…。

「どうして、私の心を…君という存在は…ここまで、掻き乱すんだ…?」

 虚空に向かって、御堂は呟いていく。
 その瞬間…一夜の、永い夢は終わりを告げた。
 急速に覚醒へと向かい、御堂の意識は現実に引き戻される。

―瞼を開ければ、其処にはいつもと変わらない日常が横たわっているように
感じられた

 全身にうっすらと汗を掻いている。
 これで二日続けて、夢にうなされたことになった。
 一日ぐらいならどうにでもなるが、二日連続になると…身体は疲労で
どこか鉛のように重く感じられた。
 時計の針は朝五時を少し過ぎたぐらいを指している。
 いつもの自分なら、さっさと起床してやるべきことを始めている。
 けれど…今朝に限っては、そんな気になれなかった。

「…もう少しだけ、横になっているか…」

 会社を休む訳にはいかない。
 自分がこなさなくてはいけない業務は山のように存在しているのだから。
 だからもう30分か一時間だけでも、身体を横にして休めて…一日を乗り切れるような
処置をとることにした。
 恐らく深くは眠れないだろうが、人間…横になって瞼を閉じているだけで多少は
疲労は回復するものなのだ。
 そう考えて…暫く横になっていくと、ふいに枕もとでメールの着信音が聞こえた。

「こんな早朝に…メール、か…?」

 朝五時にメールを寄こすなど、よほどの緊急事態か…相手の生活リズムが
崩れているかのどちらかだろう。
 一瞬、確認するかどうか迷ったが、緊急の連絡かも知れない可能性を考慮して
一応手を伸ばして携帯を取り、文面を確認していく。
 次の瞬間…御堂は難しい顔を浮かべながら、力なく呟いた。

「…どうして、次から次へと…理解出来ないものばかりが、やって
来るのだろうか…」

 その内容を見て、御堂は更に疑問が膨らんでいくのを実感していった。
 其れは自分にとって、面識のない…アドレスを交換しあっていない
謎の人物からのものだった。
 しかし…あのような夢を見た直後の御堂からしたら、決して無視することが
出来ない内容が記されていた。

―過ぎたる好奇心は、時に身を滅ぼすキッカケにもなりうる

 そのような言葉が、脳裏に浮かんでいったが…モヤモヤと、疑問ばかりが
膨らんでいってすっきりしなかった。
 
―虎穴に入らんば、虎児を得ずとも言うな…

 暫く考えて、御堂は覚悟を決めていく。
 それはいつもの彼ならば、一笑にふして決して相手にする事はなかっただろう。
 だが連日…二日続けてみた夢の謎を解きたい、知りたいという感情の
方が勝って…彼はその誘いに乗ることを決意させてしまった。

―それによって、彼らにとって予想もしていなかった運命の歯車が
大きく動き始めてしまったことに…この時点では、御堂は気づく
事は出来ないでいたのだった―
 
 

4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                           10
                                                        11  12


―御堂はその夜、夢を見ていた

 奇妙な一日が終わり、やっとの想いで夜遅くに自室で就寝に就くと…明け方頃から
再び夢を見始めていた。
 普段、常に深い眠りに誘われているおかげで…夢とは無縁の筈なのに、
二日連続でこうして長い夢を見るなど…随分と珍しいことだった。
 
 自分は気づけば朽ち果てた…所々に眩い白い光が注ぎ込んでくる教会の
中に一人で佇んでいた。
 雰囲気的に、長い時間…人の手が入っていない場所のようだった。
 それでも奥の方にイエス・キリストの像と…ボロボロの祭壇が置かれていることで
辛うじてここが教会である名残が残されていた。
 天井や壁には何か所か大きな穴が空いているせいで、其処からジワジワと
侵食が続いている。
 それでも降り注ぐ鮮烈な光が、その荒れ果てた空間を酷く厳かなものに変えていた。

(…ここは、教会か…?)

 それはどこまでも白が埋め尽くしている空間だった。
 光がここまで…場を神々しく見せるなど、今までの人生の中で目の当たりに
したことは殆どなかった。
 祭壇の前に…一人の白い服を着た青年が立っている。
 最初は…光が目を焼いていたせいで、シルエットのみしか認識出来なかったが
その眩しさに慣れていくと…それは、間もなくして佐伯克哉だと判った。
 御堂は言葉を失いながら…彼の背中を見守っていく。
 白いアルバと言われる祭礼用の服装に身を包みながら…彼は祭壇の
方に向かって跪き、祈りを捧げていく。
 チングリムと呼ばれる腰紐や、ストラなどの身分を表す肩章も何もつけていない。
 基礎となる白い祭礼服だけを身につけたその姿は…余分なものがないだけに
逆に清らかに映った。

―背後から見ているだけなのに、酷くそれは神聖な光景のように思えた

 彼はこちらを振り返ることなく…一心不乱に、何かに祈りを捧げている。
 その姿に…御堂は言葉もなく、後ろから眺めつづける。
 声を掛けることすらも…出来ないぐらい、彼は真剣な様子だった。
 どれくらいの時間、自分たちはそうやって重い沈黙の中で無言で佇んで
いたのだろう。
 ふいに、真剣な声音で佐伯克哉が高らかに告げていった。

―どうか…安らかに眠って下さい…御堂さん

 その一言を聞いた瞬間、御堂は雷で貫かれたような衝撃を覚えていく。
 厳粛な空気を破るように、早足で祭壇の方へと向かっていく。
 祭壇の奥には、一つの大きな棺があった。
 朽ち果てた教会にはそぐなわないぐらいに…棺の中には色鮮やかな
花で埋め尽くされている。
 そして…その中に眠っていたのは…紛れもなく、自分だった。

「っ! …これはっ!」

 こちらが必死になって叫ぶ。
 けれどまるで…御堂の事など見えていないように、眼鏡をかけていない
佐伯克哉は呟いていく。

―貴方の魂が憎しみに囚われぬよう、少しでも安らかに天国へと召されるように…
心から、祈ります…

 そうして、御堂はその横顔を見つめる中…克哉は再び、祈りを捧げていく。
 頬に一筋の涙が伝っているのを見えた。
 あまりに真摯で…純粋な様子に、御堂は言葉もなく立ち尽くしていく。
 棺の中には…生気をすでに失った自分の亡骸が、胸の辺りで手を組みながら
横たわっている。
 まるで自分の葬儀に立ち会っているかのような、奇妙な錯覚。

「私はこうして生きている! どうして…そんな、事を…!」

 声の限り、御堂は気づけば叫んでいた。
 そうなって初めて…佐伯克哉は彼の存在を認識していく。
 その瞳に浮かぶのは憐れむような眼差し。

―いいえ、貴方がこうして亡くなっているのも…また真実なんです…

「嘘だ! それならどうして私は生きているんだ!」

 自分はまだ死んでいない、と御堂は確信していた。
 だが…それでも、佐伯克哉は首を横に振って否定していく。

―貴方が生きている未来も、死んでいる未来も…同時に存在している

 そして、意味不明な言葉を彼は紡いでいった。
 御堂にはその一言に込められた意味が、どうしても理解出来なかった。

「君は一体…何を言っているんだ…?」

 自分はこうして、ここにいるのに…彼の瞳にあるのは憐憫と言われる感情だけ。
 透明な涙を流しながら…彼はまっすぐに御堂に対峙していく。

―貴方の魂が、憎しみから解放されて…あるべき姿を取り戻すことを…オレは
心から祈ります…

 そして、どこか悲しそうな声で…彼はそう告げていった。

―憎しみは、人の心を歪めます。強い憎悪は、目を大きく曇らせます。
本来は輝いている筈だった貴方が、それによって…自らの手を汚すまでに
堕ちてしまったことがオレには悲しかった…ですから…

 そして彼は、そっと瞼を伏せながら口にしていく。

―全てを忘れて、貴方にどうか平穏を。俺(オレ)という存在を忘れて…
どうか、元通りの日常へ戻って下さい。それが…オレ達が出来る、貴方に対しての
唯一の贖罪であると…思いますから…

 彼が涙ながらに告げた瞬間、光が一層鮮やかに満ちていく。
 眩しくて目を開けていられなくなる。
 御堂は思わず…両腕を身体の前に掲げて、己の目を守った。
 そうしている間に…この場を構成していた、教会が…光の粒子へと徐々に
変わって崩れ落ちていく。
 世界は輪郭を失い…ただ、白い光だけで覆い尽くされようとしていた。

「待て! 君は…どうして、そう一方的なんだ! 私には…君に、どうしてそんな
事を言うのか…その疑問すら、投げかけさせてはくれないのか!!」

 声の限りに叫んで、訴えかけていく。
 だが世界の崩壊は決して止まらない。
 そうして世界はグニャリ…と奇妙に歪んで、光の代わりに黒い闇が瞬く間に…
全てを食らい尽くしていった。

「うわっ!」

 ふいに、足場の感覚がなくなっていく。
 そして光満ちる世界から、一転して…奈落の底へと御堂は突き落とされた。
 どこまでもどこまでも、深い場所へと堕ちていく。
 平衡感覚の全てが狂わされていくような感じだった。
 そして…気づけばまっ暗い闇の中に一人で、立っていた。

―其処は暗闇で覆い尽くされた空間だった

 光が一遍も存在しない、不毛な世界。
 その世界で、御堂が何かを見出そうと必死になって周囲を見渡していくと…
暫くして、一人の人影が…その闇の中にポツンと立っているその事実に
気づいていったのだった―
 
 
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香坂
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趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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