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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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2009度のクリスマス小説。
  克克ものです。ちょっとサンタクロースの逸話を
  ネタに使っているので宜しくです。
  微妙にヒヤっとする描写もあったりしますのでそれを
 了承の上でお読み下さい。コミカル、ギャグ要素も有。

  白と黒のサンタ       

―自分ばかりがドキドキさせられてしまって、少し腹立たしかった

 ムスっとした様子で克哉はもう一人の自分が纏っているのと
対になっているデザインである、白いサンタクロースの衣装に
身を包んでいた。
 彼の方は、黒い衣装に身を包んでいる。
 デザイン自体は街中でこの時期に、沢山の人間が着ているので
見慣れているものだったが…克哉が強い違和感を覚えたのは
何よりもその色だった。

(…どうして赤じゃないんだろう…?)

 サンタクロースの衣装といったら、赤と白で構成されている
デザインのものが殆どだ。
 白と黒のサンタ衣装なんて、克哉は殆ど見かけたこともなければ
聞いた事もない。
 それにどうしてもう一人の自分が、自分と関わっている人たちに
プレゼントを配りに行こうという発想をしたのかも良く判らない。
 耳に届くのは結構大きなアイドリングとエンジンの音。
 
「…しかも、用意してある車は真紅のフェラーリだし…。車をこんなに
わざわざド派手な物にしなくても…」

「ん? 何か言ったか…?」

「ううん、別に…独り言だよ…」

 そういって高速で流れていく窓の外の風景を眺めていった。
 何というのだろうか…自分と一緒の顔として、似たようなデザインの服を
今は身につけているにも関わらず…もう一人の自分には妙にこの
赤いフェラーリが似合っていた。
 こういうゴージャスそうな車も、こちらの自分が運転していると妙に
様になるというか。
 克哉自身は免許は持っているが…自分で車を所有していなければ
ハンドルも何年も握っていないので完全にペーパードライバー状態である。
 自分の方がこの状態にも関わらず何でもない顔で運転している相手を
見るとちょっとだけ嫉妬の感情が湧き上がってくる。

(まあ…今更こいつに劣等感とかそういうのを抱いたって
無駄だって事は判りきっているんだけどね…)

 窓際に軽く肘をつけて、頬杖をついていきながら克哉は…
ただ風景と、窓ガラスに微かに映っているもう一人の自分の
残影を眺めていった。

(…オレがここ数ヶ月、どんな想いで過ごしていたか何て…きっと
こいつには判らないんだろうな…)

 どうして、自分の中にこの男に会いたいと思う気持ちがあったのか
克哉自身にもその感情が、何と言われる類のものなのか自覚がなかった。
 会えて嬉しい、と思う部分もあるのに…なかなか素直になることも出来ず。
 結局、少し不機嫌な顔をしながら相手に応対していた。
 チラっと相手を見つめていくと…どこまでも平常心で、克哉と会えてどう
思っているのかというのがまったく読み取れなかった。

「…オレばかりが悩んでいて、バカみたいだ…」

 そんなことを呟いている内に周囲の風景が変わっていった。
 どうやらこの辺りは高級住宅街のようだ。
 克哉が住んでいる場所も一応住宅街に位置しているが…其処とは明らかに
立てられている建物の類が異なっている。
 大きな敷地に、立派な家ばかりがズラっと並んでいる処を見ると…
この近くに住んでいるのは金持ちや、上流階級と言われる人達で
ある事は一目瞭然だった。
 だが、克哉自身にはまったく見覚えがなく、初めて来る場所だ。
 相手が車に取り付けられているナビを眺めて、小さく呟いていった。

「…そろそろ目的地だな」

「…なあ、一体お前は何処に行くつもりなんだ…?」

「…今夜は俺達はサンタクロースだと行っただろう? プレゼントを配る相手の家に
行くだけの話だが…?」

「えっ…? けど、ちょっと待てよ…。お前、誰にプレゼントを配りに行く
予定なんだよ…」

「…覚えていないのか? 亜紀とか言ったあの金髪の子供だ。一度俺が存分に
可愛がってやったな…」

「はっ…?」

 その瞬間、克哉の脳裏に…ある朝の記憶が鮮明に蘇っていく。
 そうだ、あの例の眼鏡を掛けた翌朝…自分はホテルのベッドに寝ていて…
隣には整った容姿をした高校生ぐらいの少年が裸で寝ていた。

(ここ…! もしかして、あの子の家だっていうのか…! どうしてこいつが
そんなのを知っているんだよ…!)

 事実を聞かされた途端、克哉の胸にはモヤモヤした感情が湧き上がっていった。
 それが何と言われる感情なのか、自覚したくなかった。
 必死になって抑え込んで…なんでもない顔を浮かべていくと、何でもないような
顔をしてもう一人の自分が言葉を続けていく。

「さて、夜は短い。モタモタしていたら全員分にプレゼントなど配れなくなって
しまうぞ…。さあ、行くぞ…『オレ』…」

「ちょ、ちょっと待てよ…! 待てったら…!」

 克哉がグルグルと考えている間に、相手は大きな袋を肩に担いでさっさと
家の中に入っていこうとしていた。
 克哉もまた慌ててその背中を追いかけていく。

(一体…今夜はどうなってしまうんだよ~!)

 克哉は心から叫んでいきながら、それでも…もう一人の自分を追いかけて、
一緒に家の中へと足を踏み入れていったのだった―


 
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  ※2009度のクリスマス小説。
  克克ものです。ちょっとサンタクロースの逸話を
  ネタに使っているので宜しくです。
  微妙にヒヤっとする描写もあったりしますのでそれを
 了承の上でお読み下さい。コミカル、ギャグ要素も有。

  白と黒のサンタ     

―意を決して自分の自室に足を踏み入れていくと…今朝、出かけに
確かに全部消した筈の電灯が煌々と灯っていて明るかった。
 一歩歩く度に自分の身体が緊張で震えているのが判った。
 何故、自分の住んでいる部屋の中を歩いているのにこんなに
気を張らなければいけないのだろうか。

(まったく…本当にMr.Rは毎回、ロクな事をしないよな…)

 先程、唐突に電話掛けてきた相手に対して心の中でブツブツと
文句を言いながら克哉はリビングの方へと進んでいった。
 その瞬間、芳醇なブランデーの香りが鼻腔を突いていき…
目の前に広がっている光景に呆然となった。

「……はっ?」

 克哉はつい、マヌケな声を漏らしてしまう。
 それぐらい、それは想像していた光景からかけ離れていた
ものであったからだ。
 まず、部屋の様相が今朝の時点と大きく変えられていた。
 リビングの中心には巨大なクリスマスツリーが飾られ、ドライアイスに
水を入れて発生するような白い煙が部屋中を覆っていた。
 そして何色もの明かりがスポットライトのように煙に当てられて
クリスマスツリーの周りにオーロラのような幻惑的な光が生まれていた。
 ツリー自体も太陽と月、靴下やステッキ、小さなヒイラギの飾りに
白いフワフワの綿、色のついた銀紙が張られた玉や星飾りなど
実に豪奢なくらいに下げられて…眩いばかりのイルミネーションで
飾り付けされていた。

―自分の部屋がクリスマステイストに知らない間にクリスマステイストに
内装を変えられてしまっているのを見て克哉はアッケに取られていく。

「な、何だこれはー! 一体オレが今朝家を出た後に何があったんだー!!」

 思わず叫んだ瞬間、不意に背後から肩を叩かれた。
 振り返ると其処には…克哉と同じダーク系の色で纏められたスーツに
赤いネクタイをしているもう一人の自分の姿が其処にあった。
 久しぶりに見る相手の顔は相変わらず嫌味なぐらいに自信に
満ち溢れていた。 

「…まったくうるさい奴だな。せっかく一人で寂しくクリスマスを過ごすお前の
為に準備をして待ってやったのに…その言い草は何だ…?」

「へっ…? あ、『俺』? な、何でお前が部屋にいるんだよ!」

「…たった今言ったばかりだぞ。寂しいクリスマスを過ごすお前の為に
こんなに豪華な飾りをしつらえて待っていてやったのに…帰って来るのは
遅いわ、喜ぶ前に叫びだすわ…まったく張り合いがない奴だな…」

「は…へっ? こ、これ…お前がわざわざ用意したのか…?」

「ああ、あの男に全部用意をさせたがな…。とりあえず綺麗に飾りつけたのは
俺の手柄だ。少しは感謝しろよ…?」

 物凄く偉そうな態度であったが…もう一人の自分がわざわざこうして
自分の為に準備をして待っていてくれた事に…じんわりと嬉しさがこみ上げてくる。

(相変わらず偉そうな態度なのがちょっとムカっとするけど…それでも、誰とも
会えないで一人で過ごす虚しいクリスマスよりも…ずっと良いかも…)

 さっきまでその侘しさを感じ捲くりの状態だったからこそ…例えどれだけ
傲岸不遜な態度でも、もう一人の自分の顔が見えて良かったと口には出さず
こっそりと思っていった。

「う、うん…感謝するよ。けど、凄い光景だよな…。この白い煙はもしかして
ドライアイス? 何かステージとか結婚式の披露宴以外でこんなに大量に
出ているのを初めて見たよ…」

「いや、Mr.Rが…あの男が手を翳したらその煙が発生して一時間ぐらいは
そのまま変わらずにいるんだが。…一体何だろうな、それは…」

「はっ…?」

 いきなりそんな奇怪な事実を聞かされて克哉は再び目を剥いていく。
 何というか確かにあの謎多き男性ならそれくらいの事は朝飯前で
やってのけるのかも知れないが…手を翳しただけで煙を発生させて
それが変わらずに存在し続けるというのはますます穏やかな話ではない。

(わ、話題変えた方が良いかも…。あの人の事はまともに考えたら
こちらが負けになる気がするし…)

 そうして苦笑しながら周囲を見回していくと…不意にもう一人の自分に
見つめられているのに気づいた。

「あっ…」

 たったそれだけの事で顔が火照ってしまっている自分が何か
おかしかった。
 だが、何かそれ以上のリアクションをされる前に唐突に触れられるだけの
キスを相手に落とされてしまう。
 久しぶりに触れる柔らかい唇の感触に、言葉を失いかける。
 啄ばむように優しく何度も落とされるキスなどこの相手から初めて
された為に…甘い感情がジワリと湧き上がって、抵抗することも
出来なくなってしまう。

「な、何…?」

「今夜は…クリスマスの前夜だな…」

「そ、そうだね…」

 ねっとりと何とも形容しがたい空気が二人の間に流れていく。
 初めて流れる甘いムードだった。
 克哉の心臓はドキドキと早鐘を刻んでいき、放っておいたら破裂して
しまいそうな感じだ。

「…クリスマスはどんな風に過ごすかお前に希望はあるか…?」

「そ、そんな事…急に言われたって、思いつかないよ…?」

 心なしかいつもよりも相手の声音さえも優しいので、余計に強く突っぱねる
ことが出来ないで腕の中に閉じ込められてしまう。
 頬と鼻先にもキスを落とされて、思わずうっとりと仕掛けてしまう。

(ううっ…! オレ、何…こいつ相手にドキドキしているんだよ!)

 心の中でそう突っ込みたくなったが、相手から与えられる感覚の全てが
心地良くてそれに浸っていたくなった。

「…なら、俺のやりたいように過ごして良いな…」

「う、うん…良いよ…」

 少し迷ったが、多分この流れならセックスになだれ込まれると半ば読めて
いたので…小さく克哉は頷いていった。
 抱かれることにまったく抵抗がない訳ではないが、この相手との行為は
半端ではない快楽が伴うことをすでに克哉は知っている。
 だから覚悟して頷いていったが、次の瞬間…予想もしていなかった
展開になっていく。

「そうか…なら、お楽しみの前に一仕事をするぞ。お前も手伝え…」

「はぁ…?」

 するといきなり甘く絡んでいた腕が解かれて、相手の身体も離れていく。
 克哉がその流れに呆然となっていると…いきなり何かを投げつけられた。

「わっ!! わわわっ!」

 克哉は慌てた声を出してそれを受け止めて…またびっくりする事になった。
 投げつけられたのは白い服だった。
 これは一体なんだろうと疑問に思っていると。

―なら、今夜は俺と一緒にプレゼントを配りに行くぞ…。たまには
サンタクロースの真似事も悪くないだろう…

 そう少し離れた位置から告げてくる相手の手には…自分と対になる
デザインをした、黒い衣装が存在していたのだった―


  2009度のクリスマス小説。(年跨ぐかも知れませんが…)
  克克ものです。ちょっとダークなサンタクロースの逸話を
  軸に使っているので宜しくです。
  コミカルだけどちょっとヒヤっとする記述がある雰囲気の
話に仕上げる予定~。

  白と黒のサンタ   

 ―克哉が通話ボタンを押すと、其処からは予想もつかなかった
声が聞こえてきた。

『こんばんは~! 一日早いですがメリークリスマス! ですね…。
お久しぶりです、お元気でしたか?』

「…っ? Mr.R! ど、どうして…?」

『おやおやせっかく久しぶりに再会したというのに実につれない返事ですね。
私はこうして貴方に出会えて、心から嬉しいというのに…』
 
 克哉がこうしてMr.Rと電話で会話するのは初めての経験だったが、
こういう形でも相手の芝居がかった口調や内容は一切変わらなかったのに
驚きだった。

(どうしてこの人…こんなにも存在のすべtが胡散臭いんだろう…?)

 心の底から思って、そう突っ込みたかったが話の流れを根本から
崩すような気がして、辛うじてその言葉を飲み込んでいった。

「…それで、オレに一体何の用ですか…?」

『明日はクリスマスですからね。…せっかくこうして貴方と再会出来た
お祝いに本日はささやかなサプライズをお部屋に用意させて頂きました。
 何も通知しないでおいたら…貴方が警察なんて無粋なものに連絡をして
私が立てたお膳立てを全てダメにされてしまう可能性があると思ったので
こうして伝えさせて貰いました…』

「…サプライズ…?」

『えぇ、必ず貴方に驚いて貰える事は確信しています…』

 自信たっぷりに相手がそう口にしたのを聞いて…申し訳ないが克哉は
猛烈な不安を感じていった。

(Mr.Rからのサプライズ…ううっ、一体どんなとんでもない物を
今度は用意してくるっていうんだよ…!)

 克哉はそんな心の叫びを、ギリギリの処で飲み込んでいった。
 限りなく不安だ。
 嬉しさよりもそっちの方が先立つのが本音だったが、それでも周りの
人間の空気や機微を読み取る性格の克哉にとっては、やはり正直に
口に出すことは出来なかった。

「…一体、何を用意したんですか…?」

『おや…それを予め貴方に教えてしまったらサプライズになりませんでしょう?
心配しなくても貴方に危害を加えるようなものは用意していないとだけ伝えて
おきましょう…。それだけでも少しは違いますでしょう…?』

「えぇ…まあ…」

 克哉は曖昧に頷いて、言葉を濁していった。
 相手が口を開けば開くだけ黒いインクの染みのようなものが克哉の
心の中に広がっていったのだが、それを声には出さないように努めた。

「さあ…私との長話はこれくらいにして、そろそろ…ご自分の部屋へと
向かって下さい。貴方が私からの贈り物に満足することを祈って
いますよ…」

「あ、ちょっと待って下さい! もう一つだけ聞かせて…あっ!」

 克哉がふと浮かんだ疑問を相手に問いただそうとした矢先には
通話は唐突に途切れていった。
 克哉はその場で呆然となるが…すぐに気を取り直していった。

「あぁ…一方的に掛けて語り捲くって、こちらから質問をしようとした
途端に切るんだもんな…。電話の仕方まで神出鬼没でなくって良いじゃないか…。
さて、どうしようかな…」

 克哉は半ば途方に暮れながらも…どうにか気を取り直して改めて
自分の部屋を見ていった。
 もしかして自分の部屋から見えた先程の人影はMr.Rで…
部屋からこちらの携帯に掛けて来たのだろうか?
 泥棒とかが勝手に入られたら大変だが、あの男性の場合は本当に
何でもない顔をしてこっちの部屋に入ってくるぐらいの芸当は朝飯前に
こなしてしまう印象がある。

「…部屋にいるのはMr.Rなのか…? それなら、警察に通報しないで
部屋に上がっても…平気、かな…・?」

 自信なさげに克哉は呟いていくが…その瞬間、冷たい夜風が住宅街を
勢い良く吹き抜けていったので猛烈な寒さを覚えていく。

「寒っ…! ううっ、いつまでも悩んでいても仕方ない…! こんな処で
迷い続けて風邪を引くのも何かバカらしいし…! そろそろ行こう!」

 今の冷たい風を受けて、ようやく克哉は決心していった。
 そうして恐る恐るながら自分の部屋の方に向かって足を進めていった。
 階段を使用して自分の部屋があるフロアまで辿り着くと、自然と克哉の
顔も強張っていく。

「ううっ…一体何が用意されているんだろ…」

 部屋の鍵をカバンから取り出しながら、克哉は不安そうに呟いていく。
 だが、ここにいつまでも突っ立っていても身体が冷えるだけだ。
 キュッと唇を噛み締めて、決心して…克哉は鍵を使って開錠して
ドアノブに手を掛けていった。
 カチャリ、と小さな音が耳に届いていく。

「よし、行こう!」

 そうして克哉はゆっくりと自分の部屋の扉を開いて、慎重な足取りでリビングの
方へと向かっていったのだった―
 ※ちょっと最近プレイしたゲームの中に
白と黒のサンタという話題が出たのでつい
克克に当てはめて思いついた話です。
 やっぱり白と黒! と言ったらコントラストも
あるし…この二人だろ! という感じのクリスマスネタです。
 たまには克克書かんと調子が狂うので始めます。
 そんな感じですが、宜しく!!

―なあ、知っているか? サンタクロースに纏わる話の中には
とても悲しいものがあるって…例えば…

 クリスマスを前日に控えたある夜、克哉はトボトボと一人…
帰路についていた。

(あ~あ、明日にはクリスマスか…。今年ももうじき終わりだよな…。
今年も一人で過ごすのかな…オレって…)

 大学時代に最後の彼女と別れてから、一人ぼっちでクリスマスと
大晦日を過ごすことなんて慣れっこになっていた筈なのに
今年に関しては若干の寂しさを覚えてしまっていた。
 当然、そんなのは感傷であるという事は自分でも判っているが…
人肌に何度か久しぶりに触れてしまったことで、侘しさはひとしおだった。

(今年は本当に…色々あったよなぁ…)

 先月末には無事にプロトファイバーの営業が終わって、状況も
落ち着いているから…振り返る余裕もあるが、今年の秋の初めから
つい最近まではそれこそ克哉にとって天地がひっくり返るような
出来事が目白押しだった。
 Mr.Rと出会い奇妙な眼鏡を渡されてからの数ヶ月間は
本当に色々なことがあった。
 秋紀という少年と目覚めたら一夜を過ごした形跡があったり…
長年親友だと思っていた本多に迫られたり、太一に思いがけず告白
じみた発言を言われたり、片桐に妙に意識されてるっぽい態度を取られたり、
御堂に執着されている? と思われるような発言をされたりと…
どうして今まで色事に殆ど縁がなかったのに同性の相手とばかり
微妙なことになっていた。

(まあ…その原因の殆どはあいつのせいなんだけどな…)

 つい、もう一人の自分の顔が不意に浮かんで…克哉は軽い苛立ちと
羞恥を覚えていった。
 この微妙な状況は、もう一人の自分が周囲にいる人間にチョッカイを
掛けたからというのは判っているのだが…やはり、ちょっと腹立たしかった。
 本気でどうしようと思うのは…何故か克哉自身も相手の毒牙に
掛かって…同一人物同士であるにも関わらず、抱かれてしまったのだ。
 しかも二度もだ。
 だから相手の顔を思い浮かぶとどうしても克哉は羞恥を覚えてしまうのだ。
 あの生々しく、おかしくなりそうなセックスを思い出すだけで…頬が
火照って心臓が壊れてしまいそうだった。
 思い出した瞬間、閑散としている住宅街を歩いているにも関わらず
カッカっとなるようだった。

(あいつの事なんて考えたって仕方ないのに…。そもそもまともな
関係じゃないし…クリスマスにわざわざあいつが来てくれるなんて…)

 そんな事、ある訳がない。
 あいつにそんな甘ったるい行動は似合わないと心から思った。
 歩きながら色んなことを逡巡している内に…いつの間にか克哉は
自宅のマンションの前に辿り着いていた。
 そして自分の部屋を、半分諦めモードで眺めていくと…。

「っ…?」

 その瞬間、克哉は信じられないものを見た。
 自分の部屋に明かりが灯り、しかも…人影らしきものがフっと
横切っていくのを確かに目撃してしまったのだ。
 克哉はパニックになりかけていく。
 確かにオートロック式のマンションのようにセキュリティが
万全な処に住んでいる訳ではない。
 だが克哉は今朝は間違いなく電気を消して、鍵をキチンと掛けて
家を出ていった筈だ。
 その記憶に間違いはない。
 それなのにこうして…誰かが部屋に入り込んでいる事実に
驚愕を覚えていた。

「だ、誰が勝手に上がりこんでいるんだよ…!もしかして、空き巣か
何かかな…! それだったら携帯電話を取り出さないと…!」

 もし空き巣だった場合は克哉一人で手が負えない可能性がある。
 万が一の事を考えて警察に一声掛けておいた方が良いだろうと
判断して慌てて携帯を手に取ろうとした瞬間、着信音が聞こえた。

「どわわわっ!」

 タイミングがタイミングなだけに克哉は素っ頓狂な声を出していく。
 だが、自分の部屋から着信がある事実に気づいていくと、恐怖すら
覚えていきながら…克哉は暫く悩んでいった。

(一体オレの部屋から誰から…電話が掛かっているんだ…?)

 その事に暫く悩み、十回程度コール音が夜の住宅街に響き渡っていく。
 正直、出るのが怖いという想いがあったが…このままでは埒が明かない。

「いいや! とりあえず出よう。まずどうするか考えるのはそれからだ…!」

 そうして克哉は勇気を振り絞って…通話ボタンにそっと押して、
電話に応対していったのだった―
※この話は以前に高速シャングリラ様が発行した
「克克アンソロジー1」に寄贈した作品です。
一定期間をすでに経ているのでサイトで再掲載を
させて頂きました。
 この点をご了承の上でお読み下さいませ。 

 慰撫(いぶ)      

 克哉が再び目を覚ました時には、自分の身体は相手の腕の中に
すっぽりと納まっていた。
 すぐ間近に彼の寝顔があったので起きた直後は少し驚いてしまったが…
久しぶりに感じる人の体温に、ホウっと溜息をついていく。
 
(あったかくて…気持ち良い…)
 
 初夏とはいえ、まだ夜は冷える時期だ。だからこそ…触れ合う
肌の暖かさが快い。
 腕枕をされた状態で、モゾモゾと軽く身動きしていきながら…そっと
相手の頬を愛しげに撫ぜていった。
 
「今夜は、ありがとうな…」
 
 小さく、今は眠っている相手に向かって告げて…その頬にキスを
落としていった。
 強引な所も多かったけれど、暖かい食事と優しく相手に撫ぜ擦られながら
夢中になって抱かれている内に、自分の胸の中にあったモヤモヤは
霧散してしまっていた。
 こちらの愚痴や、起こった事の顛末なんて詳しく聞こうともしなかった。
 それなのに…こんなにも胸が晴れやかになるなんて、不思議な気がした。
 
(そういえば…どこかの本に書いてあったな…。手って、凄い癒し効果があるって…)
 
 そう、手当てという言葉の語源になっている通り…人の手には、他者を
癒す力が込められている。落ち込んでいる相手を抱き締めたり、頭を撫ぜ
擦ったり、背中をポンポンと叩いたり…そういった他愛無い動作によって
手を触れさせることによって人の心は大いに癒されるものなのだ。
 今夜の愛撫は、いつもと若干違っていて…こいつの手は、とても優しかった。
 それが心地よくて、胸がポワっと暖かくなって…多分、単純な快楽と違う
領域で自分は感じてしまったし…確かに安らぎを覚えたのだ。
 
(いつもは…一方的に感じさせられて、意識を失くしているっていう方が
正しいけど…今夜は本当に気持ちよくて、安心出来て…つい、寝ちゃったんだもんな…)
 
 行為の最中に、フっと意識が消えてしまった事を少しだけ申し訳なく
思いながら…克哉は相手の唇にそっと小さくキスを落としていった。
 ほんの少し触れ合わせるだけで、ジィンと痺れるような心地良さが走っていく。
 それをもっと味わいたくて…つい、唇をこちらから押し付けていくと…。
 
「わっ…!」
 
 ふいに、相手の腕が動いて…いきなり捕獲されてしまった。 
 吐息が掠めるくらいの至近距離に眼鏡の顔がある。室内の明かりは
豆電球くらいしか灯っていなかったけれど…ボッと再び克哉の顔が
真紅に染まっていった。
 
「…こっちが寝ている間のオイタはそれくらいにしておけ…。じゃなければ
ゆっくりと眠る所じゃなくなるぞ…?」
 
「うっ…それは、ちょっと困るかも…。一応明日も仕事だし…」
 
「なら、大人しくしておけ…今夜は俺が傍にいてやるから…」
 
「いて、くれるの…?」
 
 相手の言葉に驚きながら、つい聞き返してしまう。もう一人の自分は
いつだって…ヤルべき事をヤったらさっさと克哉の前からすぐいなくなって
しまうのが基本で…自分が寝て起きてからも姿があった試しがなかった。
 
「あぁ、特別サービスだ。夜明け頃までいてやるさ…だから、安心して眠れ…」
 
 そう言いながら男の方からもこちらの唇を啄ばむように口付けていった。
 そのまま…その薄い唇が滑って…額の方にも口付けを落とされていく。
 それは外国映画とかで良く見る、安眠を願うおまじないだ。それを自覚した途端
…妙に気恥ずかしくなって憮然となりながら克哉は答えた。
 
「ん、そうだね…。少なくとも朝まではいてくれる…と思うと、ちょっと嬉しいかも。
…あの、今夜は…本当に、ありがとうな…凄い、癒されたから…」
 
 再び意識をまどろみの中に落としていきながら、克哉はそっと呟いていく。
 こちらが瞼を閉じていくと…相手の空いている手が、こちらの背中全体を
撫ぜていくように幾度も滑り続けていった。
 それはこちらの荒んだ心を慰めてくれる、暖かさに満ちた手だった。
 まるで大切なものを慈しむかのように、どこまでも優しく撫ぜられて…
胸いっぱいに幸福感が広がっていくようだった。
 
―おやすみ。またな…『俺』
 
 またいつか、こうして会える日を心のどこかで強く願いながら…克哉は
そっと目を閉じて眠りの波に身を委ねていく。
 こちらの意識が途切れる寸前まで、眼鏡は優しく背中を擦り続けてくれていた。
 その心地良さに身を委ねていきながら…克哉は静かに、落ちていく。
 どこまでも深く、そして甘い眠りの中へと―
  
 

※この話は以前に高速シャングリラ様が発行した
「克克アンソロジー1」に寄贈した作品です。
一定期間をすでに経ているのでサイトで再掲載を
させて頂きました。
 この点をご了承の上でお読み下さいませ。 

 慰撫(いぶ) 


もう一人の自分があれだけ自信たっぷりに言い切っていただけあって…
用意された夕食は大変に美味であった。
 炊き立てのホカホカと湯気を立てているご飯、ワカメと大根の味噌汁。
湯豆腐をメインにして…ほうれん草の胡麻和えに、鰹の刺身。そして豚肉と
タマネギの炒め物と…オーソドックスな和食ながら栄養バランスが
考えられた品々だった。
 
「…すっごく、美味しかった。ご馳走様…」
 
 殆ど会話もなく向き合って食事を取っていたが…満足げにそう呟きながら
克哉は箸を置いていった。
 
「…気に入ったようだな」
 
「うん、とても…。正直、お前がこんなにご飯作るの上手いだなんて…
想像もしていなかったよ」
 
「…お前、俺を誰だと思っている? これくらいなら…朝飯前の事だ。ま…
少しは気分が浮上したみたいだな。さっきよりも顔が穏やかになっている…」
 
「ん、そうだね。やはりお腹がいっぱいになったからかな…? 本当に
ご馳走様、『俺』…後片付けはせめてオレがやるな…」
 
「そうだな、片付けくらいはお前の方でやって貰おうか…」
 
 事実、空腹な状態だと人間はネガティブな方向に傾きやすいものである。
満腹感に浸るだけでも随分と緩和されるものであった。
 一旦食卓から立ち上がっていくと…克哉は食器の類を片付け始める。
 もう一人の自分も床から立っていくと…棚の方を探り始めていった。
バタン、と冷蔵庫を何度か開閉したような音と…カラン、と何か硬いもの
同士がぶつかりあう澄んだ金属音みたいなのが微かに耳に聞こえていった。
一瞬…何をしているんだろうと不思議に思ったが、それ以上は
追求しないようにした。
 
 カチャカチャカチャ…。
 
 食器同士が擦れ合う音と、水音だけが室内に響き渡っていく。
 他愛無い一時。こんな風に互いに背中を向けながら…台所に立って
何かをやるなんて…本当に奇妙な感じだ。
 
(これじゃ…まるで、新婚みたい…って、何を考えているんだ…オレはっ…!)
 
 自分の考えについ真っ赤になってしまって、うっかりと皿をすべり
落としそうになってしまう。
 
「わわっ…わわわわっ…!
 
慌てて受け止めて寸での処で落下は回避出来たが、相手には思いっきり
不審そうな眼差しで見つめられていく。
 
「…お前、一体何をやっているんだ…?」
 
「いや、皿を落としそうになって…」
 
「…お前は本当にドン臭いな。それしきの作業で何で手元を狂わせるんだ…?」
 
(つい、変な事を考えてしまったからだよ…)
 
 と心の中で呟いたが、賢明にも彼はその言葉を飲み込むことにした。
 本日はたまたま親切な態度を取っているが…基本的にもう一人の自分は
意地悪で、人の揚げ足を取るのが大好きそうな男なのである。
 迂闊な事を口にしたら絶対にそれをネタにからかってくるに違いない。
 そんな確信があったからこそ…克哉は余計な事を言わないことにした。
 
「…お前がいるから、妙に緊張してしまったからだよ…。何か、一人暮らしが
長かったから…こんな風に誰かと後片付けをするなんて、ずっと無かったし…」
 
 代わりに別の理由を打ち立てながら、洗ったばかりの食器を…流水に晒して、
泡を丁寧に落とし始めていく。
 妙に…もう一人の自分を意識してしまっている自分がいた。
 
 ドキン、ドキン…ドキン、ドキン…。
 
 心臓の音が微かに、早くなり始める。そんな自分が信じられなくて…
キュッと唇を噛み締めていくと…。
 
「えっ…?」
 
 フイに、背中全体が暖かく包み込まれていく。最初は何が起こったのか
把握が出来なかった。だが…自分の胸元に相手の腕を回されて、ギュっと
強めに抱き締められていくと…ガラに無く身体が強張っていく想いがした。
 
「えっ…な、何…? 『俺』…?」
 
 声が上ずって、つい狼狽してしまう。何が起こったのかまったく把握出来ないで
いると…突然、首筋に鋭い痛みが走っていった。
 
「痛っ…一体、何を…?」
 
 相手にどうやら、首筋に吸い付かれたらしい。その現実を把握していくと…
克哉はぎょっとなって背後の相手の方へと向き直っていった。
 
「別に…? 少し気まぐれを起こしただけだが…?」
 
 だが男は平然と言い返しながら、こちらの首筋をペロリと舐め上げていった。
 
「っ…!」
 
 克哉は咄嗟に声を抑えていく。だが…身体が大きく震えてしまうのだけは
どうしても止められなかった。一瞬だけ男の指が怪しくこちらの胸元を探って、
突起を服越しに刺激していくと…ピクン、と克哉の肩は大きく震えていった。
 
(もしかして…また、今夜も…?)
 
 以前にもう一人の自分と邂逅した時は、彼に良いように犯されまくった。
 もしかしたら今夜も同じ結果になるかも知れない…そんな考えが過ぎって、
身体を硬くしていくと…ふいに抱擁は解かれて、克哉は解放されていった。
 
「…えっ…?」
 
 またもや信じられない想いで、つい驚きの声を漏らしてしまう。振り返ると…
男はこちらに背を向けたまま、寝室の方へと向かい始めていった。
 
「終わったら来い…お前に一杯、振る舞ってやるよ…」
 
 傲然とそう言い放ちながら、彼はあっさりと…部屋の奥に消えていく。
 あっさりと腕の中から解放された事に克哉は呆然となりながら…ボっと火が
点きそうな勢いで顔を真っ赤に染めていった。
 
「…まったく、あいつ…何だって言うんだよ…! こちらをからかって…
遊んでいるのか…?」
 
 悔しそうに呟きながら、克哉は一先ず洗い物を終えようと手を動かし続けていた。
 その間…彼は、耳まで深い朱に染め続けていた―
  
 ※現在、体調だの別ジャンルの原稿等でぶっちゃけ
新しいの書き下ろす余裕ありません。
 という訳でとりあえず以前にアンソロジーに寄贈して
すでに一定期間を経てサイトに掲載許可を得ている
作品を掲載させて頂きます。
高速シャングリラ様が主催した 『克克アンソロジー1』に
寄贈させてもらった作品です。
 すでに手に入れて読んだことがある方は
本当に申し訳ございません。
 

『慰撫 -イブ-』
 
                         
―はあ
 
 深い溜息を突きながら、佐伯克哉は今夜も帰路についていた。
 トボトボトボ…と実に覇気のない重い足取りで、自分のアパートへ続く
道のりを歩いて向かっていく。
 今夜の克哉の気分は最悪だった。
 本多と協力して、バイアーズとの契約も正式に結んで…プロトファイバーの
売り上げ目標も無事に達成してから早半年。
 季節はいつの間にか初夏を迎え、木々も青々しく繁るようになっていた。
 だがどれだけ生命力に満ち溢れた光景も、今の克哉には何の感慨も与えない。
 彼の胸の中には本日、自分がやってしまった失態の事だけで大部分を
占められてしまっていた。
 
(いつまでも落ち込んでいても仕方がないって判っているんだけどな…)
 
 以前なら、本日やったレベルの失敗など日常茶飯事の事だった。
だが現在は社内での八課の評判も上がり、克哉自身も以前と違って自信が
かなりついてきた頃だ。自信がついてからの失敗、というのは時に大きな影響を
与えるものだ。
 
(本多か…片桐さん辺りにでも、話を聞いて貰えれば良かったんだろうけどな…)
 
しかしこういう日ほど間が悪いもので、克哉一人だけキクチ本社から遠い会社に
営業で向かい、そのまま直帰するというスケジュールだったので到底二人と
会えそうになかった。
それに現在、八課全体の評価が上がってきたおかげで…彼らも自分の仕事で
多忙を極めている事が多くなっているのだ。
たかが自分が落ち込んでいるせいで…そんな彼らを終業後に呼び出してまで、
こちらの愚痴を聞いて貰うなどと言った図々しい事を出来る訳がなかった。
 
「こんな日は…自宅で一人酒でもするかな…」
 
 週末の夜に、そんな真似をするなんて侘しすぎると自分でも思うが…克哉は
元来、人見知りが激しい性分だった。
 知らない人間に囲まれた空間で、一人きりで飲んで楽しむ事など到底出来ない。
 それなら自分が安心できる場所でゆったりと酒を嗜んだ方が気持ちは
静まりそうであった。だが…それも少しだけ寂しいと思う気持ちもあるのも本当で…。
 
「…何か、今夜はおかしいな。何でこんなに、人恋しくなってしまっているんだろ…」
 
 そんな自分に苦笑していきながら、アパートの前へと辿り着いていった。
 だがその瞬間、違和感を覚えた。
 最初は見間違いだと思ったが…少し冷静になってから、ゆっくりと部屋の
窓の数を数えて確認していくと…間違いないようだった。
 
「…どうして、オレの部屋の明かりが点いているんだ…?」
 
 家族と同居していたり…誰かと同棲している身分なら、帰宅時に部屋に
明かりが灯っていても何も不思議ではない。
 だが自分は正真正銘、一人暮らしである。
 そして彼は光熱費の節約の為、朝出る時は余程遅刻スレスレの時以外は…
家を出る前に電気を消したか必ず確認するように心がけている。
 自分は今朝、間違いなく電灯の類は消して行った筈だ。それなのに…
煌々と部屋の電気が点けられているのは不可解な事、この上なかった。
 
(合鍵を持っているのなんて…管理人さんくらいしかいない筈だし。確かに
二階のベランダから出入りは出来なくはないけど…どうして、だろう…?)
 
 それに自分にはあまり親しい友人、知人の類はいない。
 栃木に住んでいる両親たちも、連絡もなしに勝手に自分の家に上がりこむ
ような真似をする人達ではなかった。
 
―じゃあ、今…自分の部屋にいるのは一体誰だろう…?
 
 幾ら考えても、そんな行為をしでかしそうな人物に心当たりはなかった。
 その分だけ…明かりが灯されている事実が余計に不気味に思えて仕方がなくて。
 もしかしたら空き巣の類だろうか…? そんな不穏な考えもチラリと頭を
過ぎっていったが…一先ず、様子を見てみる事にした。
 
(本当は警察に通報か何かをした方が良いかも知れないけれど…現時点では、
単なるオレの電気の付け忘れかどうか判別つかないしな…)
 
 深く溜息を突きながら、一旦様子を伺おうという結論に達し…ゆっくりと
アパートの階段を昇っていく。そうして部屋の前に辿り付くと…自室の前に
立っているというのに、いつになく緊張してしまった。
 ドアノブに手を掛けると、やはり鍵は掛かっていない。尚更不可解だった。
 電灯の消し忘れだけならともかく…同じ日に、鍵の掛け忘れまでやるなど…
朝が余程遅刻寸前の時以外にやる事とは思えない。
 どうしようか…と迷いながら部屋の中に入っていくと。
 
「…やっと帰ったか。飯の準備は出来ているぞ…」
 
 と、鍋掴みを両手に装備しながら…大きな土鍋を持っている自分と
同じ顔をした人物にいきなり遭遇していった。
 
「はあ?」
 
 予想外の光景に、一瞬克哉は呆けて硬直していく。
 一体これは何だというのだろうか?
 何故、前触れもなくもう一人の自分が其処にいて…キッチンに立って
食事の支度などしているのだろうか?あまりに異常な場面に突然
出くわした為に…克哉はリアクションすらまともに出来なくなってしまっていた。
 
「…何をボーと突っ立っている。わざわざ俺が…お前の為に夕飯の支度を
している事がそんなに驚く事か?」
 
「お、驚くに決まっているだろ! 何でいきなり…人の部屋に上がり込んでいるんだよっ!」
 
 しかももう一人の自分はキチンと緑のエプロンを着用していた。
 たまに自炊をする時に克哉自身が愛用している品だ。それを身に纏いながら…
『俺』がこちらを出迎えてくれるなど考えた事もなかったので克哉はびびりまくっていた。
 
「…お前が落ち込んでいる気配を感じてな。それで元気付けてやろうと…一時間
ほど前からこうしてやって来て夕飯の準備までしてやったというのに…大した
言い草だな『オレ』」
 
「えっ…? そ、そうなの…?」
 
 思ってもいなかった返答をされて、克哉は驚きを隠せなかった。
 
「あぁ…俺はそれなりに親切な性分だからな。とりあえず…今夜は湯豆腐を
メインに、簡単にだが飯を作っておいた。そこにボーっと突っ立っていないで
そろそろ上がったらどうだ? せっかくの夕飯が冷めるぞ」
 
「あ、ああ…判った。今…上がるよ」
 
 この部屋の本来の住居人は克哉である筈なのだが、もう一人の自分が
あまりに堂々としているので知らぬ間に仕切られてしまっていた。
 夕食を用意してあった…という言葉に嘘はないようで、部屋に上がった瞬間…
プーンと良い香りが鼻腔を擽っていった。
 匂いを嗅いだ途端、現金なもので…さっきまでは落ち込んでいて空腹など
感じる余裕もなかったのが嘘のように腹の虫が鳴り始める。
 
グゥゥゥ…。
 
 はっきりと相手に聞こえるぐらいに大きな音で、腹が鳴っていくと…
恥ずかしさの余りに死にたくなった。
 
「わわっ…」
 
「…本当にお前の身体は正直だな。しっかりとその音…聞こえたぞ?」
 
 ククッと喉の奥で笑いを噛み殺しながら、眼鏡が呟いていく。
 それだけで克哉は居たたまれない気分になってしまった。
 
「まあ、俺が作った夕食を堪能するんだな。…それなりにお前の舌を
満足させる出来栄えだろうからな…」
 
「う、ん…楽しみにしている…」
 
 不安半分、期待半分と言った感じで克哉は頷いて見せた。もう一人の
自分の手料理を食べるなど初めての経験だから…少々、怖い部分が
あるけれど…同時にどれくらいの腕前であるのか興味が湧くのも事実だったからだ。
 
「あぁ、期待していろ。きっとお前も気に入るぞ…」
 
 そうして…自信満々に男は微笑んで見せる。何故か克哉は…一瞬だけ、
その表情に見惚れてしまったのだった―
 
 本日はちょっとメールのフォルダー整理を
していたらひょっこりと出て来た克克話を
アップしておきます。
 メールで即興で書いたものだったので
アップし損ねていた模様。
 良かったら読んでやって下さい。
 ちょっと短めの…本当にSSって感じの
お話です。


 仕事が丁度終わった直後、もう一人の自分から突然のメールが来た。
 最初はとても驚いたけど…嬉しくて。
 慌ててあいつが指定したバーへとオレは足を向けていった。
 
 其処はとてもシックで落ち着いた雰囲気のバーだった。
 スツールに腰を掛けて、あいつがグラスを傾けている。
 その様は正直、悔しいぐらいに様になっていた。
 
―来たか。待ちくたびれたぞ
 
 傲岸不遜な口調であいつがオレの方を見つめてくる。
 冷たい綺麗なアイスブルーの双眸。
 それについ、視線が釘付けになった
 
―何の用だよ…。こんな、突然呼び出して…
 
 不満そうにオレが問いかけると、あいつは喉の奥で
愉快そうに笑った
 
―俺がお前を呼び出す理由なんか、たった一つだろう…? ついて来い。
この近くに部屋は取ってある…
 
 あいつは、オレがついてくる事は当然のことのようにサラリと
そう言い放っていった。
 一瞬、ムっと来たけれど…そもそも、こいつはいつだって気まぐれに
しかオレの前に姿を現さなくて。
 ここで袖になんてしたら、それこそきっと…次に会えるのはいつになるか
まったくわからないから…
 
―判ったよ
 
 オレは素直に頷くしかなかった
 
 指定されたホテルは、そのバーの本当に近くにあった
 部屋に入った瞬間、あいつは玄関先でいきなりオレを抱こうと仕掛けて
来たけれど、せめてベッドで抱かれたいと思って自分からそっちに
向かっていった
 
―随分と積極的だな
 
 オレと同じ顔の造作をした男が、愉快そうに笑った
 
―オレをそんなに、からかってばかりだと…死ぬよ?
 
 こいつはきっと、オレの中にある熱い想いに気づかない
 …放っておけば、こいつもオレも纏めて焼き尽くすぐらいに激しい
炎のような感情。
 
 ―こんなに、オレはお前のことを好きなんだよ?
 
 ベッドの上にうつ伏せになりながら、鋭い視線であいつを見つめた
 やっぱり睨んだぐらいじゃ、『俺』の余裕たっぷりな態度は解けない
 
―強い目だな。言いたい事があるのなら…はっきりと口に出して
伝えたらどうなんだ?
 
 そう言いながらシュル、と音を立ててあいつが酷く色っぽい仕草で
ネクタイを外して、ベッドに乗り上げて来た。
 
―口に出したら、茶化されたり安っぽい想いになりそうだから…
言わないよ…
 
 そう答えて、あいつの首筋に腕を回していく。
 言葉なんて、とても儚くて安っぽい。
 そしてどれだけ期待したって、オレが望んでいる言葉を優しく
囁いてくれるような奴でもない事は良く判っている。
 
―その分、オレを激しく抱いて…愛して…
 
 だから遠まわしに、そんな言葉で気持ちを伝えていく。
 
―あぁ、お前を存分に愛してやるよ。今夜もな…
 
 そうして深く深く、唇を重ねられていく。
 …こういう言い回しでしか「愛してる」と言ってくれない酷い男。
 けれど、何故だろう。
 それでもオレにとっては…こいつに強く惹かれてしまっている
 
―だから、何も考えられないぐらいに今夜もお前でいっぱいにして欲しい
 
 そんな気持ちを伝えるように、オレはベッドの上で…『俺』にそっと
身を委ねていったのだった―
 
 
 先日、グッコミで発行した無料配布本…イベント自体に
来られた方が少なかったみたいなので、今回はサイトの方にも
掲載させて頂きます。
 無料配布本の方は、GO! GO! HEAVEN!5の方にも
受かっていたら持っていってこっそり残りを配布させて貰おうかな、と。
 とりあえず克克の縁日絡みの話というか、無駄にバカでエロいというか
眼鏡が微妙に策略家というかそんな感じの話です。
 投稿する際に文字数が多すぎます、とエラーが発生して
しまったので二回に分けて掲載させて頂きます。
(こちらは後編に当たります)

 前編のリンク内容はこちら↓

 スイート☆バナナ 

 興味ある方だけ、「つづきはこちら」をクリックして続きを読んで
やって下さいませ(ペコリ)
 先日、グッコミで発行した無料配布本…イベント自体に
来られた方が少なかったみたいなので、今回はサイトの方にも
掲載させて頂きます。
 無料配布本の方は、GO! GO! HEAVEN!5の方にも
受かっていたら持っていってこっそり残りを配布させて貰おうかな、と。
 とりあえず克克の縁日絡みの話というか、無駄にバカでエロいというか
眼鏡が微妙に策略家というかそんな感じの話です。
 投稿する際に文字数が多すぎます、とエラーが発生して
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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