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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※本来の予定より若干遅れての掲載になります。
 御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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 ―見れば見るだけ、この空間はあの忌まわしい小学校とそっくりすぎて、
確認の為に敷地内を歩いているだけで不快感が湧き上がってくる。
 校舎も、体育館もグラウンドも…周囲に見える光景ですら何もかもが同じだった。
 しかも、目の前には桜の花が見事に咲き誇っている。
 今の時期なら、まだ咲き始めでしかない筈なのに…こんな所までがあの日と
同じである事に、眼鏡は軽い憤りを覚えていった。
 
「何故…あの男はこんな舞台を用意したんだ…。あまりにもこれは手が込み
過ぎている…」
 
 あの男が何を意図して、画策しているのかがまったく読めない。
 だからこそ眼鏡は酷く苛立ちを覚えていた。
 あの満開の桜が舞う日…自分は消えたくなる程の衝撃を覚えた。
 その出来事を鮮明に思いだし、克哉は遠い目を浮かべていった。
 
「紀次…」
 
 瞼の裏に無理矢理笑いながら、顔をクシャクシャに歪ませて泣いていた
親友の面影を思い出す。
 あんな風に知らないうちに彼を苦しませていた事に気づかなかった
自分を許せなかった。
 自分が傍にいたことで、ありのままの自分でいる事にあんな風に苦痛を
覚えさせていたというのなら、いっそ自分などこの世からいなくなって
しまえば良いと願った。
 
「お前があの日、泣かなければ…あんな風に苦しそうに事実を告げたり
しなければ…俺はお前を、憎めたのにな…」
 
 そう、笑いながらあの事実を告げただけならば…自分はきっと相手を
憎んで報復するだけで終わった。
 自分を消そうとまでは、もう一つの心を生み出すまでには
至らなかっただろう。
 無条件で信じていた期間が長かったからこそ、あの涙を見た時…憎しみよりも、
罪悪感の方が勝ってしまった。
 
―だから、消えたいと思った。自分がいる事で…彼を苦しませるぐらいなら、
痕跡もなく消えたいと願った。その心がきっと…あの弱くて情けない自分を
生み出したのだろう…
 
 目の前で桜が舞い散っていく。
 その風景を眺めていきながら…今から15年前に起こった忌まわしい
出来事を振り返っていった。
 煙草を口にくわえていきながら、眼鏡は物思いに耽っていった。
 
「感傷、だな…」
 
 あれから長い年月が流れている。
 Mr.Rが解放の為の眼鏡を携えてもう一人の自分の前に現れ…そして
目覚めてから、二年余り。
 あの当初に胸の中に宿っていた黒い衝動や、この世の全てを憎んでいるような…
そんな闇は、いつの間にか自分の中から失せていた。
 自分はもう、そんなに長く保っていられない。
 本来は仮面だった方の人格がこの世界に居場所と、大切な人間を得て…
本人格であった自分が、影となって消えていく。
 それなのに…今の自分には、その現実に怒りすら覚えなかった。
 一種の達観と諦念にも似た想いが胸の中に去来していく。
 自分の居場所は、どこにもない。
 愛する人間も、大切だと思える場も…あの眼鏡を得て解放された短い期間で、
自分は何も得ることは出来なかった。
 
(正直…俺はお前を、見下していた…。情けなくて弱い奴だと、甘くて軟弱な
性格をしていて何も成す事が出来ない性格だと…。だが実際は、逆だった…。
俺が甘さと見下していたものは…お前の優しさであり、それがきっと…
お前の周りに多くの人間を惹きつけていった…)
 
 認めたくなかった事実が、何故か今なら素直に受け入れられた。
 自分になくて、もう一人の佐伯克哉にあったもの。
 それはきっと情けや、情と呼ばれるものだ。
 確かにそれが度を過ぎればズルい人間につけ込まれたり
優柔不断などに繋がるが…傷ついて弱った時に優しくして貰ったり、
労られる事で人はその人間を信頼する。
 人の痛みに共感して、耳を傾けながら相槌を打つ。
 本当に苦しんでいる時、傷ついた者が求めているのはそんな単純な行為だ。
 そして自分にはそれが出来ず、もう一人の自分には当然のように行える。
 それが、自分とあいつの差なのだろうか…? そう考えた瞬間、
子供の頃の自分が…胸の中で泣いているような気がした。
 
―もし、あの日の自分が…誰かに傷を打ち明ける事が出来たら、もしくは…
あいつみたいなお人好しが、こちらの傷を労ってくれていたら…これだけ長い期間、
自分は眠り続けていたのだろうか…と思った。
 
 馬鹿馬鹿しい、と思った。
 けれど…長い年月がすでに過ぎ去った今は何もかもが遠くて…憎しみの
感情すら、輪郭を失いつつある。
 自分を消したいとすら思った後悔の念も、相手を殺したいとすら思った
憎悪すらも…15年という年月を経れば塵芥へと変わっていくのだろうか。
 
「なあ、どうして…俺達はこんな結末を迎えてしまったんだ…?」
 
 そして自分の心の中で、あの日の痛みがすでに鈍くしか感じられなくなり…
遠いものになったからこそ、眼鏡は一つの疑問を覚えていく。
 自分を殺せば良かったのだろうか?
 出来るのに出来な振りをして何か一つぐらい相手に優位に立たせるように
していけば、あの別れは起こらないで済んだというのか…?
 そう考え始めた瞬間、もう一人の自分と御堂の関係が鮮明に頭の中に
浮かんでいった。
 
―その瞬間に、自分の中で一つの答えが導き出されていく
 
 バラバラだったパズルのピースが、あの二人の在り方を思い出しただけで
一瞬にして自分の中で組み上がっていく。
 その瞬間、喉の奥から笑いが漏れていった。
 滑稽だったし、痛烈なものすら感じた。
 自分と、澤村の関係。
 もう一人の自分と御堂との関係。
 それはまるで鮮やかなコントラストのように真逆で、正反対のものだった。
 
「…そうか、そうだったんだな…。だからあいつが生きて、俺は…今、こんな
有様になった訳か…」
 
 胸の中に悔しさのようが浮かんでいくが、同時に納得しつつあった。
 今まではどこかで認めたくない気持ちがあった。 
 受け入れたくない、反発する気持ちが存在していたからこそ…あがき
続けていた部分もあった。
 だが、見えてしまった以上は何もかもがどうでも良くなった。
 
「…はは、無様だな。何て事はない…あの頃の俺は人を見抜く目も、傍に
置くべき人間の選択もどちらも、間違えていただけか…」
 
 何もかもを享受してそう呟いた瞬間に、大量の桜の花びらが鮮烈に
風に舞っていく。
 それは花吹雪と形容するに相応しい光景だった。
 そのせいで一瞬、全ての視界が霞んで何もかもが覆い隠されていく。
 眼鏡は目に埃や花びらが入らないように庇う為に腕を眼前に翳して庇っていった。
 そしてその花の吹雪が収まった後、其処に立っていたのは…。
 
「紀、次…」
 
 視界の向こうに一人の男が立っていく。
 因縁深き存在が、一日たりとも忘れることの出来なかった苦い思い出の
主が其処にいた。
 
「何で、君がこんな所に…?」
 
 相手はどうしてこんな場所に自分がいるのか、目の前に克哉が立って
いるのか理解出来ないといった顔だった。
 
(丁度、良い…全ての因縁を…ここで終わらせよう…)
 
 そう決意して、眼鏡はトラウマの主と対峙していく。
 謎多き男が誂えた舞台の上で、そうして最後の一幕が開始しようとしていたー

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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