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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―彼と過ごしたたった十一日間が、まるで夢のようにすら
今の御堂には感じられていた。
 
 本日も日付変更間際に御堂は帰宅していた。
 克哉がいなくなった日から、失ってしまった何かを埋めるように御堂は
仕事に熱を入れて余計な事を考えないようにした。
 彼と出会うまではそうすれば、大抵の事はどうでも良くなった。
 しかし…今はそれだけ仕事に熱中するようにしても何かが虚しかった。
 胸の中に空虚なものがあることを感じていきながらカードキーを自分の部屋の
前のカードスロットに通していく。
 
(あの日から今日で丁度…一ヶ月が経ってしまったな…)
 
 ふとそんな考えが過ぎりながら…御堂は自分の家の扉を潜っていった。
 室内の明かりは全て落とされていて真っ暗だった。
 一人暮らしをしているのだから以前は当たり前だと思っていた光景。
 しかし今の御堂は帰宅した時に…明かりが灯っていないか密かに期待
するように変わってしまっていた。
 
―おかえりなさい御堂さん…
 
 一瞬、そんな幻聴が聞こえて…御堂は自嘲的な笑みを浮かべていく。
 もしくはただいま、でも良い。
 毎日のように帰宅した時に、克哉の姿がないか期待しては裏切られ
続けている。
 
「…ふっ、本当に私らしくないな…。彼と過ごしたのはたった十一日間だというのに…
こんなに、私は弱くなってしまったのか…?」
 
 御堂は苦笑しながらソファに腰を掛けて、ネクタイを緩めていく。
 深く溜息を吐きながら…ただ克哉の事だけを考え続けていく。
 
―必ず、貴方の元に帰ります…!
 
 そう、叫ぶように彼は何度も訴えていた。
 あの出来事を思い出す度に、胸が潰れそうに苦しくなった。
 アレは何度も夢だと思いこもうとした。
 だが間違いなく御堂が目覚めた時には傍らにいる筈の…その前の晩に
抱き合って傍らにいる筈の克哉の姿は跡形もなく消えてしまっていた。
 まるで最初からいなかった人間のように…煙のようにその存在を消してしまった。
 
―オレは亡霊のようなものですから…
 
 彼は何度も、自嘲的に御堂の前で呟いていた。
 これでは本当に幽霊みたいではないか。
 自分が拒絶すれば消えてしまうと言っていた。
そうやって強引にこちらの生活に踏み込んできて…心の中に入り込んできて、
それでこんなにも自分が必要とする頃になって消えてしまうなんて卑怯
過ぎると思った。
 
「克哉…克哉…」
 
 あの出来事があってから、御堂は無意識の内に彼の名前を呼ぶ時…佐伯君
ではなく、下の名で呼ぶように変わっていた。
 彼を想っているのだと自覚した時から、自然とそうなっていた。
 あんな別れ方はズル過ぎる。
 こうなっては絶対に…克哉の事を忘れる事など出来ない。
 あんな奇妙な場所に一人で残されて、果たしてどんな目に遭わされているのかと
考えるだけで『不安』で胸がいっぱいになり…気が苦しそうだった。
 
「…こんなに、私の中はいつの間にか君の事でいっぱいになってしまっている…。
今。どうしているんだ…。それだけでも、知りたい…。君に、逢いたいんだ…」
 
 その事を考えるだけで目元が潤んでいくのが判る。
 こんな事で泣きそうになるなんて自分でも女々しいと思う。
 だが…御堂の中ではそれだけ佐伯克哉という存在は特別なものに
なってしまった。
 彼にまつわる事だけはすでに冷静に受け止める事が出来ない。
 仕事をしている間だけは意識の外に追い出す事が辛うじて成功しているが…
一人になれば考えるのは彼の安否と、いつ帰って来てくれるのか…
その事だけが占めていた。
 
―御堂さん…
 
 はにかむような克哉の笑顔が、脳裏に鮮明に蘇っていく。
 嗚呼、あの表情を愛しいと感じるようになったのはいつの頃からだろうか。
 
―貴方が好きです…
 
 はっきりと口に出して言われた訳ではなかった。
 けれど傍にいた時にその想いを、肌でずっと感じ続けていた。
 結局強引に転がり込んだ克哉に対して強く出れず、追い出す事が叶わなかったのは…
彼からこちらへの強い好意が伝わってきたからだ。
 朝食を必死に作ってくれている姿。
 おかえりなさい、と笑顔で迎えてくれた時の事を思い出し、それだけで切なくなる。
 
(私はいつの間にか…こんなにも、君の事を…)
 
 傍にいた時は気付けなかった。
 あの生活がどれだけ脆い基盤の上に成り立っていたのかを。
 こんなにもあっけなく砕け散り、御堂の日常はまた以前のものに戻ってしまった。
 だが…克哉に出会ってしまったせいで彼の意識は大きく変化してしまった。
 
―君のいない生活がひどく虚しく感じられるんだ…
 
 どれだけ心の中で願っても、求める人間に届く訳ではない。
 それくらいの事は判っていても、この想いを押しとどめる事は出来なかった。
 
「君に、会いたい…」
 
 そして御堂が真摯な想いを込めて、そう呟いた瞬間…唐突に視界が
歪んでいったような気がした。
 
「…? 何だ、今のは…?」
 
 御堂は一瞬、自分は酔いでも回ったのだろうかと思った。
 しかし今夜はアルコールの類は一滴も口にしていない。
 元々ワインを愛飲する習慣があった御堂だが、克哉がいなくなってから一人で
飲むとヤケ酒に近くなり、通常よりも多く飲んでしまう事に気づいたから近頃は
控えるようにしていた。
 だが気になって目を凝らしてもう一度、空間が歪んで見えた方を見つめていくと
不意に声が聞こえていった。
 
―御堂さん…
 
 その声を聞いた時、最初は幻聴かと疑った。
 だがとっさに御堂は叫んでしまっていた。
 
「克哉…!」
 
―嗚呼、やっと貴方にオレの声が届いたんですね…! 御堂さん、オレを
呼んで下さい…もっと…!
 
「ああ、判った…克哉、克哉…!」
 
 御堂が名前を呼ぶ度に、目の前の空間に光の粒子が集まっていく。
 最初の頃は儚かった輝きが、御堂が克哉の名前を呼ぶ度に力強いものへと
変わっていった。
 そうしてついに成人男性程の大きさになり、少しずつ輪郭がはっきりしたものに
なっていく。
 まるで映画の中にある特撮場面か何かのようだ。
 目の前の空間がどんどん歪んで、ついに人影が生まれていく。
 
(これは一体…どういう帰り方なんだ…!)
 
 心の中でそう突っ込んでしまったが、そうしている内に目の前に一人の
男性が現れていく。
 その姿は間違いなく…御堂が待ちこがれている存在、そのものだった。
 
「克哉…!」
 
 そうして、はっきりと具現化していくと同時に力一杯御堂は彼の体を
引き寄せていく。
 腕の中には紛れもないしっかりとした質感があった。
 今、抱きしめている克哉は幻ではなく…確かにその体は暖かく質量を
持って存在していた。
 
「克哉、克哉…」
 
「随分と長く待たせてしまってすみませんでした…」
 
「…嗚呼、随分と待ったぞ。けど君がこうして帰って来てくれたのなら
それで良い…」
 
 そうして御堂はそっと克哉に向かって顔を寄せていく。
 彼の方もまたそれに逆らわなかった。
 心の中では彼に聞きたい事が渦巻いていた。
 けれど今は…純粋に彼が自分の元に帰って来たその喜びを噛みしめようと思った。
 
(やっと…君をこうして抱きしめられる…!)
 
 そうしみじみと感じていきながら…ごく自然に唇が重なり、柔らかい弾力と
かすかな温もりがそこから伝わってくる。
 そして克哉は泣きそうな表情を浮かべながら、うれしそうにこう呟いていく。
 
―ただいま、御堂さん…
 
 その一言を聞いた御堂は、愛しい存在を骨が軋むぐらい強く抱きしめて
応えていったのだった―
 
 
 




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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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