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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                       10 11 12 13   14 15
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 眼鏡にはどうして今、自分の目の前に本多の姿が存在しているのか
理由が判らなかった。
 けれど不思議な色合いを帯びた空の下に立っている人物は紛れもなく…
本多の姿だった。
 だが其れはどこか透けていて、ホログラフのようにすら見えた。

「どうして、お前が此処にいるんだ…?」

 共学を隠せない様子で眼鏡が呟いていくと、本多は…どこか弱々しい笑みを
浮かべていった。
 其れに強烈な違和感を覚えざるを得なかった。

(コイツは…こんな顔を浮かべる男だったか…?)

 眼鏡の中にある本多という男の人物像は、豪放磊落と形容するに相応しかった。
 いつだって慣れ慣れしくて、豪快で…例えていうなら、太陽や大地などどっしりと
構えていたり…力強い輝きを放つものがぴったりくるような、そういう性格をしていた。
 だから…こんな顔は、この男には似合わない。
 そう感じながら眼鏡は本多と対峙していく。

「何か、答えたらどうだ…?」

 眼鏡は真っすぐに見つめながら問いかけていく。
 本多はそれに応えるように、口を開いていった。

―克哉を、宜しく頼む…

「っ!」

 その言葉を聞いた途端、眼鏡はカっとなった。

「…お前は本当に、それで良いのか…?」

―ああ…

 ただそれだけ、短く本多は答えて頷いていった。
 見ているだけでこっちすら胸が切なくなりそうな顔を浮かべていた。

―これ以上、俺を待ち続けて…あんなに苦しそうにしているあいつの姿を
見ていたくないからな…。俺にはもう、あいつに何もしてやれない…。
温かい言葉を掛ける事もこの腕に抱く事も…このバカげた賭けに乗らない限りは
俺には二度と出来ない事だったんだからな…

「馬鹿げた賭け、か…そうだな…。選ばれなかった方は二度とあいつに会う事は
出来なくなる…か。確かに、馬鹿げた賭けだな…。けど、あの得体の知れない男の
申し出を受けない限りは…お前は、いつ目覚める事になるか判らないままだった。
それが五年先か、十年先か…それとも一生目覚める事もないまま生き続ける事に
なるか誰にも判らないからな…」

―俺は、家族にも克哉にも…宏明にも、生きている事でそんなに負担掛けているなら
いっそ死にたいとすら思うようになっていたぜ…。けど、頑丈なせいで生き延びちまって…
そのまま死ぬ自由すら与えられないまま、二年が過ぎちまった…。本当に、
歯がゆいったらなかったぜ…

「やはりお前に微かな意識は、存在していたんだな…」

―ああ、ずっと心は存在していたぜ。うっすらとだが俺が眠っている間に何が起こって
いたか…あの病室であった範囲では、把握している…。けど、俺にはそれを他の人間に
伝える術はずっと存在していなかった…。指の一本すら、動かす自由を与えられないまま…
俺はただ、生きていただけだったよ…

 言葉を交わせば交わすだけ、本多は苦しそうだった。
 けれど同時に…恨みごとでも愚痴でも、本心を語る事が出来る自由が与えられた事に
対しての強烈な喜びも覚えているのだろう。
 しゃべることも食べる事も排泄する事も身体を動かす事も…自分の意思では
する事が出来ず、生かされ続けている事は肉体という檻に囚われているに等しい。
 
―正直、俺の恋人だった克哉にこれから先…二度と会えなくなるっていうのは辛いぜ…。
けど、俺はあいつに自由になって欲しいんだ…。俺の事を忘れている間だけでも笑顔を
取り戻して、他に愛する人間が出来たなら…幸せになって欲しい…。
俺の元に縛り付ける事で、あんなに辛そうな姿を見せ続ける事になるなら…その方が
ずっと良いからな…

「…本当に、後悔しないのか…?」

―ああ、構わない。それであいつが笑ってくれるなら…其れで、良い…

 そうして、何処か悲しそうに本多は笑った。
 その顔を見て、一層眼鏡は…胸が締め付けられる。
 この男がもっと嫌な奴なら良かったのに。
 そうしたらきっと、克哉を奪う事に何の痛みも感じずに済んだ。
 けれどこの男はどこまでも恋人を想いながら…断腸の思いで、恋人の幸せを
願い…執着を断ち切ろうとしているのが見て取れて、知らず…眼鏡は苦しくなった。

「判った…なら、遠慮なくあいつをお前から奪わせて貰おう…。せいぜい、
俺を憎むんだな…本多…」

 だからせめて、悪役を買って出る事を選ぼうとした。
 自分を憎むように仕向けようと、そんな言葉を吐いたが…本多はこう続けていった。

―憎む訳ねぇよ。お前だって…俺が愛した、佐伯克哉なんだからな…

 そう最後に告げて、本多の姿は幻のように消えていく。
 その瞬間…眼鏡は悟った。
 きっと今のが、本多と自分が話す最後の機会だったのだと。
 其れを理解した瞬間、眼鏡は泣いた。
 みっともないのが判っていたが、一筋の涙が目から溢れ出てしまっていた。

「バカが…」

 そう呟いた瞬間、世界が何もかもが遠くなっていく。
 今度は、眼鏡の身体の輪郭が透け始めていった。

「…っ!」

 本多の痛みを理解した瞬間、束の間…眼鏡の意識は相手と繋がっていく。
 この世界は、元々佐伯克哉と本多憲二の二人の意識が繋がった形で
形成されて生まれたものだから。
 けれど今、本多の事を想って眼鏡が涙を流した事で…境界線が暫し
曖昧になり、今までは知る事が出来なかった事実がゆっくりと流れ込み
始めていた。
 そして…暫し、夢を見ていく。

―眠っている間の、本多の記憶を垣間見る形で…

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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