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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                       10 11 12 13   14 15
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 克哉は電灯の灯っていない自分の部屋に足を踏み入れていくと、
酷く葛藤した表情を浮かべてそのままベッドに倒れこんでいった。
 まだ明かりの灯っている携帯のディスプレイ、それを見るのも
腹立たしくて半ば投げつけるようにしながら…うつ伏せの体制で
ボスン、とシーツの上に横たわっていった。
 胸の中を掻き毟るような不快感と不安がジワリジワリと
湧き上がってくるのが判る。
 
(…凄い、イライラしている…どうして、オレってこんなに
心が狭いんだろう…)
 
 半ば自己嫌悪に陥りながら、一言だけ当たり障りのない
文面を打ち込んだ。
 
『良かったね』
 
 たった一言、本音を押し殺す為に…肯定的な一言を打ち込み、
其れ以上は何も言わない事に決めた。
 また、松浦と一緒に飲みに行く事が決まって嬉しい…という
報告メールなど、今の克哉の心を大きく乱すだけなのに、相手は
全くそれに気付いてくれないから。
 其れを口に出して、本多に嫌われたりうざったく思われたく
なかったから…だから…克哉にはそうするしか出来ないでいた。
 
―本多が喜んでいるんだから、本音なんて言ってはダメだ
 
 松浦と仲直りをしたと聞かされた日から、克哉は毎日のように
その言葉を自分に言い聞かせ続けていた。
 恋人同士になる以前から、本多とは色んな話をした。
 どれだけ今も彼がバレーボールに対して熱い情熱を抱いているのか、
かつての仲間達を大切に思っているのか克哉は嫌っていう程、
良く知っていたから。
 大切な人間が喜んでいるなら、以前の仲間とまた一緒に酒を飲んだり…
バレーの練習をするようになったとしても、手放しで喜ばなくては
ならないのに。
 最近、本多から来る報告メールの文面を思い出して深い溜息を
吐いていき…苦い気持ちを少しでも発散しようと試みていく。
 
『宏明とこの間、一緒にバレーボールの練習をやったんだよ。俺が
加わっているチームの奴らにちゃんと紹介してさ。克哉も今度、
一緒にどうだ?』
 
『この間飲みに行ったら、前回よりも近況とかそういうのを色々
話してくれてさ。まだぎこちない部分があるけど…昔に戻った
みたいで、すげぇ嬉しいよ』
 
『あいつから、また一緒に練習しないか? ってメール来たんだよ。
たったそれだけの事でも大学時代に戻ったみたいで、懐かしく
なっちまったんだ』
 
 最近、一緒にいても松浦の話ばかりをされていて…克哉の嫉妬心は、
日増しに強くなってしまっていた。
 きっと、親友だって線引きしていた頃に松浦と復縁したと聞いたなら
心から自分はその事を祝福出来ていただろう。
 
―本多、本当に良かったね!
 
 と心から口に出し、手放しでその事実を喜ぶ事が出来ただろう。
 けれど…恋人という関係では、とても無理だった。
 自分以外の存在が、本多と親しくする事を…一緒に過ごす時間を
大きく削られてしまう事に対して大きく苛立ってしまっていて。
 だから…最近、自分の部屋に帰る度に、モヤモヤしていた。
 男同士でのセックスは身体の負担が大きいから、だから付き合って
いても本多の部屋に平日は行く事も…抱き合う事も滅多にない。
 けれど他の男と過ごしたり、やりとりする機会が多くなっていると…
今までは当たり前のように仕事後に自分の部屋に帰る、それだけで
無性に寂しさを覚えるようになってしまった。
 週末は一緒に自分と過ごしてくれているのに。
 確かに日曜日の昼から、アマチュアのバレーボールチームの練習に欠かさず
参加しているからずっと一緒に過ごしている訳ではない。
 けれど今まではその事を当たり前のように受け入れられていたのに…
克哉はその事にだって寂しさを覚え始めてしまっていた。
 しっかりと抱き合って、愛してもらっているのに…金曜日の夜だけは、
先週と先々週は松浦とまた飲みに行かれてしまったので…過ごす事が
出来なかったせいだろう。
 そんな自分にまた、強烈な自己嫌悪を覚えざる得なかった。
 
(今までは金曜日の夜からずっと…付き合い始めてから、本多と
過ごす事が当たり前になっていた筈なのにな…)
 
 本多が松浦と友人づきあいをしている限り、これからもずっと…
金曜日の夜の方は、取られ続けてしまうのかな…と思うと非常に
憤りを覚えてしまった。
 本当にみっともないと自分でも思う。
本多は自分だけの為に生きている訳じゃない。
 克哉以外の人間と一緒に過ごしたり、楽しく笑う機会を持ったと
しても文句をいう筋合いじゃない事ぐらい判っている。
 なのに…松浦とこうして飲みに行かれて、本多が嬉しいとか
楽しいとメールで報告をする度に…心の中に黒い染みが
広がっていくのが判る。
 
「…自分で、背中を押した筈なのに…何をやっているんだろ、オレって…」
 
 本多に松浦と仕事上で偶然再会した事を報告された時。
 真剣な顔で、相談を受けた。
 その時…一通りの事情を知っていた克哉は、ほぼ仲が修復出来るであろう
方法を提示した。
 本多の真っすぐな性格を考慮した上で、彼が妥協出来る範囲で…松浦とか
かつての仲間達と修復する為には八百長ではなく、独断で決定した事の方を
キチンと謝れと。
 仲間だったのなら、相談せずに重大な事を決定した事自体は本多の
間違いだったんだよ、と自分は諭して…解決法を提示した。
 そして自分の読みは正しく、本多は大切だった自分の仲間達の内の一人と
こうして交流を再開出来たのだ。
 
(なのに…どうして、オレは…こんなに…寂しいし、気持ちが暗く
なってしまっているんだろう…)
 
 元々、克哉にとって大学のバレーボールチームのメンバーとは
ソリの合わない存在だった。
 いや、克哉は競技自体は好きでも…高校でも大学でも、仲間達とあまり
上手くいかなかった。
 自分の役割というのをいつも忠実にこなすようにしていたけれど。
 克哉からは的確なトスやパスをするように心がけていても、相手から
同じように返してもらった試しは殆どなかった。
 いつだって自分は浮き上がり…心の其処から受け入れられる事など
殆ど皆無だったように思う。
 その中で唯一、必死になって声を掛けて練習しようだとか、一緒に
やろうと働きかけていた存在こそが本多だったのだ。
 だから…仲間を大切に思う気持ちというのが、かつて所属していた
バレーボール部のメンバーを大切に思う気持ちを克哉は共有出来ない。
 …営業八課にいる、今の仕事仲間達は大切に思っている。
 けれど…受け入れられる事なく大学二年の時、途中で退部をしてしまった
克哉にとっては松浦が仲間という感覚は、決して共有出来ないものだった。
 
「…それに、何だか凄い胸騒ぎがするんだ…。これからとても
厄介な事が起こるんじゃないかって…」
 
 きっと、本多に言ったら笑われてしまいそうな気がする。
 だが…松浦と交流を復活させた日から克哉の胸の中には大きな不安と
嫌な予感が決して消えてくれなかった。
 胸を強く掻き毟るようにしながら…克哉は幾度も深呼吸を繰り返して
己の胸の中のどす黒いものを吐き出していく。
 
―だが、皮肉にも克哉が抱いていた予感は…それからしばらくして
最悪の形で的中してしまう事になってしまったのだった―
 
 
 


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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