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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 現在、一話の投下が三日に一度ぐらいのペースに落ちて
しまっていてすみません(汗)

 現在、右手の腱鞘炎が悪化しておりまして…ちょっとキーボードを
打つのにも気をつけないとアカン状況なので打つ速度が遅くなって
おります。
 …使えない訳じゃなく、右手の角度を一定に固定していないと痛む
状況なので…ちょっと、そういう意味で捗っておりません(汗)

 右手を捻って一カ月以上、痛いままなのでおかしいな~と
思って症状を調べてみたら、どうも捻挫じゃなく…腱鞘炎の一種である
可能性が高くて。
 其れで暫く気をつけていたら、うっかりミスりまして…右手に大きな
ダメージ与えてしまってアタタ、な感じになっております。
 これ以上悪くしたくないので、今は気をつけながら…キーボードを
打っているんで遅くなりがちになっています。
 それでも近日中に仕上げますのでちょっとお待ち下さいませ~。
  34話は10日の夜にはアップ出来るように頑張ります!(ムン!)
 
…ちなみに一時的に悪化した理由は落ちたものをとっさに拾おうとしたら、
勢い余って台車に自分の右腕を思いっきりぶつけたという非常に
マヌケな理由だったりします。シクシク~。
PR
 先日、自分のサイトから繋がっているリンク先さんを巡ったら
半数近くがすでに閉鎖をされていたようなので…すでに運営を
止められている方々のリンクの解除をさせて頂きました。

 …皆さん、個人的に交流があった方なのでちょっと寂しい思いが
しましたが…流石に半分、リンク飛んだらすでに閉鎖されているというのは
ちょっと…と思いましたので心苦しいですが、整理させて頂きました。

 縁があってリンクを繋いでいた訳ですから…大好きでした。
 ですから、皆さまがサイトを止めても暫くは残しておりましたが…
その数が多くなってしまったが故の処置です。
 理解して頂ければ幸いです。

 皆さま、本当にお疲れさまでした。

※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―激しい行為の果てに克哉は意識を手放し、次に目覚めた頃には
窓の外は白く輝き始めていた
 
 その清冽で淡い光を感じていきながら、克哉は覚醒していく。
 瞼を開けばすぐに愛しい人の体温と、優しい人の眼差しにぶつかっていく。
 夜の藍色の帳が静かに開いて、太陽が再び空に上がり始めた直後の柔らかい光は、
世界を暖かく包み込んでくれているようにすら感じられる。
 すでに夜明けの頃を迎えているのに気づいて、克哉はゆっくりと目を開いていった。
 
(夢、じゃない…オレは確かにここに帰って来れたんだ…)
 
 その事に心から感謝していくと、自分の身体が思ったよりもさっぱりしている
事に気づく。
 さっきまでの激しい行為でお互いの汗と体液まみれになっていた筈なのに、
寝起きは案外爽やかだった。
 もしかしたら意識を失っている間に御堂が身体を拭いて清めてくれたのかも…
と思い当たるとまた顔が赤らむ思いがした。
 
「嗚呼、やっと目覚めたのか…激しく抱きすぎてしまったな。身体は大丈夫か…?」
 
「あ、はい…何とか平気です。それに…ずっと貴方にこうされる事をオレも強く
望んでいましたから…」
 
「そうか、随分と可愛い事をいうな。そんな事を言われたらあれだけ君を抱いた
ばかりなのに…また欲しくなってしまうな…」
 
「えっ、あ…えっと、みど、いや…孝典さんが望むなら構いませんけど…」
 
 御堂からサラリと挑発的な言葉を投げかけられて、克哉はカァっと顔を赤くしながら…
しどろもどろになって返答していく。
 その様子が妙に可愛らしく感じられて、御堂は軽く吹き出していく。
 さっきまでまるでベッドの上では娼婦のように淫らになってこちらのあらゆる要求に
応えていた癖に…素に戻ればこんな一面も見せるのだから、本当に観察してて
飽きなかった。
 
「…まったく、これ以上私を煽らないでくれ。それに…君が欲しくて堪らないという
気持ちはどうにか落ち着いた。今は…君に聴きたい事がある。それに対して…
答えてくれるか?」
 
「っ…! そう、ですね…。貴方からしたらオレが現れて以来…訳の判らないこと
ばかり続いていたんですから。判りました、聞いて下さい…。今なら、大抵のことは
隠さずに答えられますから…」
 
 先程までのどこか気だるげで甘い空気は一瞬にして消えて、代わりに張りつめた
ような緊張感が生まれ始めていく。
 目の前の御堂の瞳が柔らかい色から、真摯なものへと変化していった。
 そして御堂はずっと疑問に思っていた事を幾つか克哉に問いかけていった。
 其れに克哉も包み隠さず、正直に答えていった。
 
 もう一人の自分と行っていたゲームが、御堂の心をどちらが手に入れるかを
競った内容である事も。
 佐伯克哉は二つの心を持っていて、本来なら傲慢で自信に満ちあふれた心と、
自信がなく控えめに生きている人格が一つの身体に宿っている事を。
 そして御堂の元に身を寄せてから四日目の夜、この部屋に侵入して克哉を犯したのは
もう一人の自分である事を。
 Mr.Rが手引きをした為にこのマンションのセキュリティなど一切関係なく忍び込む
事が可能であった事を。
 自分が別の世界から…本来いた世界は、眼鏡を掛けた方の佐伯克哉と、
御堂孝典が結ばれていた事を…。
 そして自分が今、御堂の側にいられるのは…そのゲーム盤に上がる事を
選択したからだと。
 そうしなければ自分たちがこうして出会う事がなかった事実を克哉は静かな
口調で伝えていった。
 一通りの事を説明し終えるのにあっという間に一時間以上が経過してしまい…
気づけば窓の外ではすっかり陽は昇りきってしまっていた。
 そして大体の事情を聞き終える頃には御堂の顔には困惑が浮かんでいた。
 克哉自身もこれらの話が荒唐無稽極まりないという自覚があったから
苦笑するしかなかった。
 
「…これが、大体の事情です。以前…貴方の側にいた間に語らなかったのはきっと…
あの場所に招かれる前の段階で話していてもきっと信じて貰えないだろうと
思いましたから…」
 
「そう、だな。確かに…あの場所に突然招かれた事と、眼鏡を掛けた方の
佐伯克哉と君が一緒に存在しているのをこの目で見ていなかったら…
きっと信じられなかっただろう…」
 
 御堂もまた、何故克哉が今まで詳細を語らなかったのかようやく
得心がいった。
 確かに幾つかの奇妙な体験をする以前なら御堂はきっと頭から彼の言葉を
否定していただろう。
 克哉はそれが判っていたから…だから御堂には正直に言わずに言葉を
濁しているしかなかった。
 だから今の御堂の答えは予想通りのものであり…苦笑を浮かべていく。
 
「…えぇ、オレも信じてもらえると思っていませんでしたから…。だからズルイと
判っていても…色々な事情は伏せた状態で貴方の元に身を寄せるしか
ありませんでした…。下手に本当の事を言って、それで頭がおかしいとか
疑われてしまったら…貴方の傍にいられなくなったらオレは負けるしか
ありませんでしたからね…」
 
「…ゲーム、か。君と私が出会ったキッカケが…彼らにとっての遊戯の一環で
しかなかったというのは…確かに衝撃だった。確かに其れを最初の頃に
聞かされていたら…君を私は受け入れなかったかも知れないな…」
 
「…でしょうね。正直、プレイヤーであるオレでさえも…そういう形で貴方の心を
もう一人の俺と奪い合うのに抵抗がありましたから…。けど、オレには…とりあえず
そのゲーム盤に乗らない事には…可能性は何も存在しなかった。自己弁護しても
みっともないだけですが…その事で貴方が怒りを覚えているのなら、オレは甘んじて
其れを受けますから…」
 
 御堂がゲームの内容を知ったのは、クラブRに招かれてからの事だ。
 その時点でもかなりの不快感を覚えた。
 そしてそんなのは嘘だと必死に否定しようとした。
 あの奇妙な場所での一連の出来事が津波のように御堂の脳裏に鮮明に蘇っていく。
 
―必ず勝って貴方の元に戻りますから…!
 
 その最後の言葉が不意に思い出されていく。
 御堂は其れを思い出した時…ずっと心の中に引っ掛かっていた最後の疑問を
思い出していった。
 そうだ…ゲームをしていたのならば…いつ、そのゲームは終わったのか。
 勝敗はどういう形でついたのか、いつ…彼の勝ちは確定したのか…その事に
気づいて御堂は目を瞠っていく。
 
「…克哉、君にいくつか聞いて良いか…?」
 
「はい…オレに答えられる事でしたら正直に包み隠さずに言います」
 
「…君と、もう一人の君は私の心を奪い合うゲームをしていると確か言ったな…。
それなら、そのゲームの勝敗はいつ…どのタイミングでついたんだ。其れに
どうして…君はあの時、自信満々そうでいられたんだ…。今、思い返せば…君は、
あのタイミングですでに勝つ事を確信していただろう…? それはどうしてなんだ…?」
 
 其れは最大の謎だった。
 一体どのような形で勝敗が決まり、克哉はあの時点で確信出来たのか。
 ようやく自分の胸につかえていた最大の疑問を思い出して…御堂は険しい顔を
浮かべていく。
 その時、克哉は柔らかく微笑みながら答えていった。
 
『答えは簡単ですよ…。このゲームの勝敗は、どんな形でも良いから…貴方の心を
満たした方が勝利になる訳です。…なら、あの場面でオレが残れば強烈に…オレの事を
刻みつける事が出来る。不安や後悔、そういった負の感情であっても…もう一人の
俺の事など考えられないぐらいに満たされたなら…オレは勝利条件を満たした
事になるでしょう…?』
 
「っ…!」
 
 その答えを聞いた瞬間、御堂は底知れぬ畏れのようなものを目の前の
存在に抱いていった。
 あの時、Rが告げた残酷な選択。
 すぐ眼前に出口があるのに…片方だけしか抜ける事が許されない現実に
御堂は打ちのめされていた。
 だから彼はどこかにあるかも知れないもう一つの出口を探そうとしていた。
 どちらか片方だけが取り残されるなんて耐えられなかったから。
 どうしても二人一緒に帰りたかったからそうしようとしていた。
 否、それ以外の考えなど浮かばないていた時に…彼はそこまで考えていたのだ。
 御堂が言葉を失っていれば…克哉は自嘲的に笑みを浮かべていきながら…
更に言葉を続けていった。
 
「…あの時、Mr.Rはオレと御堂さんがすでに両思いである事を思い知っていました。
だからあの人は…オレ達が相手を置いて自分だけ逃げるような真似は出来ないと
思ったからあのような条件を急遽、付け足したんですよ。そしてオレは其れを
見逃さなかったんです。アレは御堂さんにとっては絶望を与えたかも知れないけれど…
オレはあの人が驕っていた為にやった過ちを見逃さなかった。だから勝つ事が
出来たんですよ…」
 
「ちょ、ちょっと待ってくれ…その過ちというのは一体なんなんだ…っ!」
 
「…あの扉を潜って脱出した方には彼らは手を出さないという条件です。即ち、
あの条件を出した時に…貴方を脱出させる事が…唯一、オレ達が勝利条件を
満たす最大のチャンスだった訳です…。Rはオレたちが相手を置いて自分だけ
脱出するような利己的な真似は愛し合っているから出来ないと踏んで…あぁいう事を
言ってきたんです。だからほかの出口を探そうと、二人で出れる場所を探すという
決断を下すと思いこんでいたから…あんな条件を出した訳です。そして…あの場で
決断せずに、他の出口を探していたら…オレ達は二人とも捕まり、ゲームに
負けるしかなかったんです…。そう、クラブRには…あの人が言った通り、
あの出口一つしか存在しませんでしたから…」
 
「何っ…! そ、それは…本当なのか。なら…私が他の出口を探していたら
確実に負けていたという事なのか…?」
 
「…残念ながら、その通りです…」
 
「っ…!」
 
 こうして説明されて、御堂はあの時の甘い考えの通りに実際に行動を
起こしていたら…と想像したらゾっとした。
 今思い返せば…あの時の御堂は見知らぬ場所に招かれて、異常な体験を幾つか
重ねていたおかげでとても冷静とは言い難い状態だった。
 克哉を誰にも渡したくなかった。その気持ちに囚われていたからこそ…視野が狭くなり、
物事の裏側までは判らなかった。
 否、御堂は事情もまったく知らない状態であの場に突然招かれたせいで…静かに
混乱していたのだ。
 だからこそ真実を明かされれば己の愚かさを悔やむ気持ちが生まれていく。
 唇から血がうっすらと滲むぐらい噛みしめて、爪が掌に食い込むぐらいに
強く握りしめた。
 だが克哉はそんな愛しい人を優しい眼差しで見つめていき…その拳にフワリと
己の指先を重ねていった。
 
「…御堂さん、どうか自分を責めないで下さい…貴方はオレと違って、あの時点では
裏側の事情を何も知らなかった。Mr.Rやもう一人の俺がどんな性格をしているのか…
そういった情報すらない状態で、正しい判断なんて出来る訳がないんですから…」
 
「…判っている。あの時点の私はあまりに無知で…後、もう少しで負けるしかない道を
選ぼうとしていたんだからな。こうして…再会出来たなら、君の判断が正しかった事の
証明になる事は判っている。だが…」
 
 それでも、克哉が他の男に…例えもう一人の佐伯克哉だとしても他の人間に
抱かせてしまった事が悔しかった。
 それ以外の道はなかったと判った今でも…理性では判っていても感情が
ついていかない。
 だが克哉はそんな愛しい人の心情を見透かしていきながら…優しく穏やかな声で
御堂が言おうとしていた内容を代弁していく。
 
「…貴方が、きっと…その事でやり切れない思いに満たされるのはオレは最初から
判っていました…。オレがいつ戻ってくるかの不安、どうなっているかの心配…
そして全てを聞かされた時の嫉妬と後悔…オレは其れで貴方の心が徐々に
いっぱいになり、『もう一人の俺』の事など最終的に吹っ飛んでしまう事を…
読んだ上であの行動に出ました。貴方が責めるべきは自分ではない…オレを、
責めるべきなんです。そんな貴方が苦しむと判っている手段を躊躇せずに
取ったオレを…貴方は責める権利があるんですから…」
 
「そんな、事…出来る訳がない…」
 
 全てを聞かされて、どんな想いで克哉がこちらを必死に突き飛ばしたのを
知った今は…何故、彼を責める事が出来ようか。
 振り返ればもしかしたら別の手段や道が存在していたと思うかも知れない。
 だが…現実に決断を迫られた時に、最良の判断をとっさに出来る人間は
そういない。
 そう御堂は判っているのだ。
 
―克哉は勝つ為に最良の行動を迷わず取った事を…
 
 だから今、こうして自分たちは再会する事が出来たのだと…最終的に二人揃って、
こうしてこの部屋に戻ってくる事が達成出来た事も判っている。
 なのに…何故、こんなにも胸の中に…御堂の心をも焼きつくしかねない嫉妬の
炎が渦巻いているのだろう。
 息を吐くだけでジリジリと胸が焦げそうなぐらいのどす黒い感情が
宿っているのが判る。
 
「君がどれだけ、苦しい想いをして決断したのか…それが判るのに、何故…君を
責める事が出来るんだ。あの状況で、自分が残ると言う事がどういう事なのか…
この身体に残った痕を見れば、充分に伝わってくるのに…」
 
「…御免なさい。こんなにも貴方を苦しませてしまって…。オレと出会わなければ、
こんな想いをさせなくて済んだのに…」
 
「そんな、事はない…! 君と出会わなかったら良かったなんて私は少しも思わない…! 
こんな風に嫉妬を覚えた事も、誰かを欲しいと願ったのも…帰って来て欲しいと
切に願ったのも…今まで、君以外に誰一人だっていなかったのだから…!」
 
 克哉の目には、いつしか涙が浮かんでいた。
 御堂のこの苦しみは、自分と出会った為に…Rともう一人の自分とのゲームに
巻き込んでしまったが為に起こった事だと思うと…申し訳なくて、静かに頬に
冷たいものが伝い始めていった。
 克哉は愛しい人の背中に腕を回して縋りついていく。
 そして呪文か何かのように…幾度も『ごめんなさい』と繰り返していく。
 謝った処で自分の罪が消せる訳ではない。
 御堂の心を得る為に、自己犠牲めいた事をした。そうやって…自分はこの
ゲームに勝利をした。
 其れはきっとこの人の心を抉り、深く傷つけた事だけは…決して忘れては
いけないのだと思った。
 
「君を…君を、私は…本当にいつしか…愛しいと思うようになった。こんなにも一人の
人間を手放したくないと、誰にも渡したくないと独占欲を抱いた事すら…君が初めてだ。
だから…今、私はどうしてもやりきれない…。徐々に自分の中で折り合いをつけて
いくしかないって判っているがな…」
 
 御堂が疲れたように微笑んでいく。
 そんな大切な人に向かって、克哉はそっと頬を撫ぜていった。
 指が触れた個所から…御堂の体温と頬の感触が伝わってくる。
 こうしてお互いに一緒にいられる事、それがどれだけ幸福な事か…其れを得る為に、
どれだけこの一カ月…この人を苦しませてしまったのだろう。
 大粒の涙が、ポロポロと溢れていった。
 泣いてどうにかなる訳じゃないって判っていても…どうしても止まらなかった。
 
「…ごめん、なさい…それでも、どんな事をしてでも…オレは、貴方の傍にいたかった。
愛されたかったんです…。其れが、我儘だと判っていても…その願いを…オレは、
叶えたかった…」
 
「…其れは、どうしてだ…?」
 
「…本来、オレがいた世界では…もう一人の俺と貴方が結ばれて、一つの会社を
興していました…。お互いに信じあい、理想に向かって真っすぐと歩んでいく姿が
眩しくて…そんな二人にオレは憧れていた…。そして…オレもいつしか…貴方に恋を
していたんです。けれど…本来いた世界では、貴方の目は…もう一人の俺だけに
注がれていたから。オレの存在は邪魔でしかなく…静かに消えゆくのが最良だと
判っていても…愛されたいと強く願い続けていた。貴方に、オレだけを見て欲しかった…。
他の世界で…まだ、あいつと恋に落ちていない貴方と実際に…望むような関係に
なれるかなんて保証はなかったけれど…オレは何もしないままで、諦めたくなかった…!
 亡霊のように消えてしまいたくなかった…! たった一度で良い! 真剣に想い想われる
関係を…貴方と、どうしても築きたかった…! その欲をどうしても抑えられなかったんです…!」
 
 そして堰を切ったように克哉は己の想いを口に出していった。
 身勝手極まりない、エゴの塊のような心情の吐露。
 綺麗事など全てかなぐり捨てた本音を、正直に口に出していく。
 瞬間、御堂は克哉の身体を強く抱き寄せて…噛みつくような口づけを落としていった。
 その荒々しさに眩暈すら覚えて…その熱さに、陶然となる。
 先程聞いた彼が…こうして御堂の元に来た経緯と、そして…彼が初めて自分の
前に現れた日に…拒絶しようとした途端に半透明になった事を思い出していく。
 
―オレは亡霊に過ぎませんから…
 
 あの日、自嘲的に言った克哉の姿を思い出していく。
 どんな想いを抱いて、彼が自分の元に来たのか…知った今となっては、ただ…
切なさと愛しさといじらしさだけを覚えていく。
 
「君は…もう、亡霊じゃない…! 二度と、そんなものに戻さない…! 私の腕の中で
こんなにも君は温かく…確かに存在している。君は、生きている…そしてこれからも
私の傍にいて一緒に過ごしていくんだ…良いな!」
 
「孝典、さん…」
 
 その一言を聞いた時、また新たな涙が伝い始めていった。
 けれど其れは先程とは違い、嬉しくて感極まって流したものだった。
 歓喜の滴が溢れて止まらない。
 愛しい人にこうして自分の存在を認めて貰える事…其れは何て、心を
満たす事なのだろうか。
 
「ありがとう…ありがとうございます…孝典、さん…オレを、受け入れてくれて…
本当に、…」
 
「…そんな事は礼を言う事じゃない。もう…君は私のものだ。だから二度と…
私の元から離れるな。死が二人を分かつその時までな…」
 
「は、はい…!」
 
 その言葉は西洋風の結婚式の誓いの言葉の常套句だった。
 其れを聞いた瞬間、克哉の胸に熱いものが込み上げていく。
 
「…二度と、他の人間に肌を許すな。例えもう一人の君であったとしても…
これ以後はどんな事情であっても許すつもりはない。良いな…」
 
「はい、誓います…。もう二度と、貴方以外に抱かれません…全身全霊を掛けて、
貴方だけを…愛します…」
 
「良い返事だ…その言葉、決して忘れるな…」
 
「はい…」
 
 御堂の表情に、剣呑なものが宿っているのが見てとれた。
 だが…克哉は決して目を逸らさず、真摯に見つめ返していった。
 そうして…目を焼くような真っ白い光が満ちる中…二人の唇は重なり合っていく。
 神聖な誓いを交わしあっているかのように…儚い口づけを交わしあい、
強く抱き合っていった。
 其れは仮初の誓いであったが…離れている間、ずっと抱えていた不安を解きほぐす
だけの力があった。
 ようやく…ずっと胸に重石のようにあった負の感情が氷解していく。
 張りつめていたものが緩んでいくと…やっと二人の間に安らかな眠りを得たいという
欲求が生まれ始めていった。
 抱き合っていると…ゆっくりとまどろみ始めていき。
 
「…すみません、安心したら…何か、眠気が…」
 
「…心配するな、私もだ。けど…やっと、これで眠れそうだ。…さっき君が意識を
失っている間は私はとても寝れそうになかったから。寝たら君が消えてしまうような
気がして…だからずっと起きていたんだがな。もう君は…何処にも行かないだろう…?」
 
「はい、これからもずっと貴方の傍にいます…」
 
「ああ…」
 
 その瞬間、御堂は本当に嬉しそうに微笑んでいった。
 克哉は其れを眩しそうに見つめていきながら…そっと瞼を閉じていき、愛しい人の
腕の中で深い眠りへと落ちていったのだった―
 
 
 



  

 

 こんにちは香坂です。
 今年の夏も潔く落ちました。
 本当、このジャンルになってから私…当選率があまりに悪くて
一回しか受かっておりません。
 嗚呼、でも今回で三回連続で落選して…しっかりと受付番号は
74の時から控えているので今年の冬は書類不備を出さない限りは
確実に受かっていると思います。
 …つか、それぐらいしか救いはないんですけどね。
 という訳で。

 今回も見事に落ちたZE!!

 と力一杯叫ばせて貰います。
 確かに去年、軽く事故を起こしてその時に親にした借金を地道に
返している状況なので同人関係にあまりお金を使えない訳ですし。
 此れは今はお金をあまりそっち方面に使いなさんな…と天が言って
くれているのだと割り切ります。
 つー訳でちょっとショックは受けたけど、今は浮上しました。

 後、33話は金曜日から合間にカタカタ書いているんですが…また長くなっているので
ちょっと時間掛かっています。
 7日の夜までにはどうにかアップ出来るように頑張ります。
 もうちょっとだけ待ってやって下さいませ。

 今年の鬼畜眼鏡の方でのオフラインの活動は、GO GO HEAVEN6と冬コミ…
どちらも受かっていた場合は参加すると思います。
(申し込み予定です)
 …とりあえず去年から地道に返していって、先月辺りから親に返す額が少し
減ったのでこれから貯金も徐々に出来る状況に戻って来たので…冬に
向けて時間掛けて準備するようにします。

…いや、暫くオフラインを控えた理由は一番は其れです。
去年親から借りた車を壊してしまった事で修理代と、親の保険料を
引き上げてしまったので…修理代は即金で支払い、保険料を上げてしまった分は
毎月の食費+一万五千円を上乗せしてずっと返していたので
金銭的な余裕がマジでなかったんですよね。
 自分で「保険料を上げた分は払います」と言ったからその責任は
取らないといかんので…。
 同人に金と情熱を注ぐのは、自分の責任を果たしてからだろ…と密かに
考えていたのでこっそりとしておりました。
 とりあえずこちらのサークルの運営状態はそんな感じです。

 GHOSTも近日中に完結出来るように頑張ります。
 全部で35話、6月10日前後には書きあげられるのを目標に頑張ります。
 では…。
 

 ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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 ―克哉の方から積極的に唇を重ねられて、息苦しくなるぐらいに情熱的な
口づけを交わされていく

「ふっ…」

「はっ…ぁ…」

 口づけを解いた頃にはお互いの口元から銀糸が伝い、
悩ましい吐息が零れていった。
 明るい蛍光灯の下、革張りのソファの上に横たえられている克哉の…
無数の情事の痕跡に嫉妬を覚えていく。
 
(まだ私が君を一度だってキチンと抱いていないのに…例えもう一人の君とはいえ、
他の男がこんな風にしたなんて…許せない。許したく、ない…!)

 御堂の胸に焦がすような想いが湧き上がってくる。
 それは猛烈な独占欲であり、克哉への恋慕だった。
 キスと抱擁だけしかまだしていない段階なのに、すでに克哉の胸の
突起は赤く色づいている。
 其れに指を這わせていきながら御堂は大きく足を開かせていって…己の身体を
割り込ませていった。

「…もうこんなに此処を堅くさせているとはな…。やはり私の予想通り、君の感度は
かなり良い方みたいだな…」

「やっ…そんな、事…言わないで下さい…」

 散々、他の男に好き放題にされていた筈なのに…そんな一言とこちらの
視線だけで克哉の顔は耳まで真っ赤に染まっていく。
 その生娘のような反応に、御堂は更に嗜虐心を煽られて執拗に胸の
尖りを責め立て始めていく。

「何をそんなに恥ずかしがる…? 私は先程から事実を言っているだけだぞ? 
ほら、さっきまで指に吸いつくようだった此処が今では私の指を弾かん

ばかりになっているぞ…?」

「ん、ふっ…」

 目の前で克哉が感じている姿を見ている内に、嫉妬よりも情欲の方が
徐々に勝り始めていく。

(正直、君に聞きたい事は山のようにある…。だが、今は君を抱きたい…。
いや、征服して私の痕跡を刻みつけたい…。他の人間がつけた痕なんて、
完全にそうやって消してしまいたい…)

 だから御堂は、今は様々な疑問を克哉にぶつけて問い質すよりも
彼を抱く方を優先していく。
 そうしなければまた腕の中にいる存在が遠くに行ってしまうような焦燥感を
覚えているかも知れない。
 御堂の愛撫は次第に大胆さを増していき…薄い胸板全体を揉みしだくような

動きに変わっていく。

「んんっ…うぁ…御堂、さん…」

「…孝典、と呼べ…。私はさっきから、すでに君を…克哉と呼んでいる…」

「ん、は…はい、孝典、さん…」

 御堂の手によって確かに快感を覚えている中、愛しい人から下の名前で呼ぶ
許可を貰えた事によって…克哉は綻ぶように笑みを浮かべていく。
 その表情の変化はまるで…長い間蕾のままだった美しい花が徐々に
咲き始めるかのようだった。
 御堂はこの時、克哉のここまで柔らかい笑顔を始めて見たせいで…余計に
情欲が強まっていくのを感じていった。

「…君、この体制で…その顔は…反則だぞ…」

「えっ、そんな…自分ではどんな顔をしているかなんて判りませんから…んぁ!」

 御堂の言葉に羞恥の顔を浮かべていきながら、克哉は身悶えていく。
 こちらの痴態に相手も興奮しているのか、御堂の吐息が荒く忙しいものへと

変わっていく。
 そうしている間に一旦愛撫の手を止めていき、勢い良く自らのシャツを脱ぎ去り、御堂は上半身を晒していく。
 その姿に克哉もまた強い情欲を煽られ、下半身のモノがズボン生地の下で一層
張りつめていくのを自覚していく。

(御堂さんがまだ…オレが乱れる姿を見て欲情してくれている…)

 その事実に克哉は安堵と歓喜を覚えていった。
 一ヶ月前のあの時、ああすればほぼこちらが勝利する事に克哉はいち早く
気づいて、実行に移した。
 けれどその事に一抹の不安も覚えていない訳ではなかった。
 あの場に残れば、必然的に他の人間と関係する事になる事は最初から
覚悟の上だった。
 それが判っていたからこそ、絶対に御堂を置いて自分一人だけがあの場所から
逃げ出すという選択肢だけは存在しなかった。
 けれどそれでも、他の人間に抱かれた事で御堂に愛想を尽かされてしまったら…
という恐れがまったくなかった訳ではないのだ。
 目の前の御堂の表情に複雑な色が浮かんでいるのが判った。
 克哉の肉体には至る処に、クラブRにいた頃に行われた様々な行為の痕跡が
色濃く残っている。
 きっと、それが完全に癒えて消えてくれるまでにはそれなりの時間が掛かってしまうだろう。

「くっ…ここにも、残っているのか…!」

「ごめん、なさい…」

 そして御堂の手が克哉のズボンに掛かり、下着ごと引きずり下ろしていくと
無数のキスマークや、赤黒い痣、そして鞭で打たれたり引っかかれたような傷跡も現れていく。
 性器もまた先端部分が赤く腫れ上がり、散々弄られた証が色濃く残っている。
 一枚、一枚衣類を剥いで余計なものを取り去っていく度に…この一ヶ月、

克哉が酷い目に遭っていた痕跡ばかりが現れていく。
 それを見て御堂は悔しくて苦しくて…泣きたくなった。
 克哉の目の前で愛しい人の顔が歪んでいく。
 だから少しでもそれを和らげたいと願いながら克哉はぎゅっと御堂の

背中を抱きしめていく。
 そして静かな声で告げていく。

「…体の傷は必ず癒えます。ですから、これから…オレの身体に貴方を
刻みつけて下さい…。今、身体に残っている痕を上書きして無くしてしまうぐらいに…」

「ああ、そうさせてもらおう…」

 克哉がそう口にした途端に御堂の瞳に嗜虐的な色が濃くなっていく。
 そうしてまだ赤黒い首筋のキスマークに己の唇を這わせて強烈に吸い上げていく。
 その瞬間、かなりの痛みが伴ったが克哉は御堂の身体にきつく抱きついたままだった。

「はっ…ううっ…!」

 それは確かに苦痛であったけれど、同時に甘い陶酔感を確実に呼び起こしていた。
 そうして御堂は克哉に己の所有の証を刻みつけていきながらついに
下半身の衣類を全て脱がせ、大きく足を開かせていく。
 眼前に晒されたペニスもアヌスも…散々弄られたせいで赤く腫れていた。
 だが御堂は胸に湧き上がる嫉妬心を敢えて押さえず、枕元のローションを
手に取ると、克哉の下肢にたっぷりと冷たい液を落としていった。

「冷たっ…!」

「我慢しろ、直に熱くなる…」

 そうして克哉の蕾に指を挿入していくと、内部を軽く解すように蠢かして…

感じるポイントを的確に刺激し始めていった。

「ふっ…うっ…あっ…」

 前立腺を擦りあげられる度に、克哉の唇から甘い声音が零れ始めていく。
 その姿に酷く煽られて、御堂の瞳に再び剣呑な光が宿り始めていく。

(一ヶ月前、抱いた時よりも…妙に艶っぽくなっている気がする…)

 あの晩、腕の中に抱いた克哉の反応はどこかぎこちなくて

初々しいものだった。
 だが今、ベッドの上に組み敷いている彼の反応はどこかこなれた
ものに変わっていた。
 挿入間際に唐突に意識を失い、そして気づけばあんな奇妙な場所に
招かれてしまっていた。
 今夜はもう、邪魔されたくなかった。キチンと克哉を抱いてしっかりと感じたかった。
 だから少し性急に愛撫を施し、そして指を引き抜いていくと…正常位の
体制になり、己の剛直を相手の菊座に当てがい、グイっと腰を沈めていく。

「くっ…きつい、な…」

「ん、すみません…けど、オレは大丈夫ですから…今夜は最後まで…」

「ああ、そのつもりだ…。今度こそ、君をキチンと抱く…途中で止めて
やる気などまったくない…!」

「ああっ!」

 そうして御堂は一気に己のモノを克哉の中に収めていった。
 瞬間、繋がった箇所から引きつれたような痛みを覚えていったがそれ以上に…
克哉の胸の中は幸福感で満たされていった。

(やっと御堂さんと…繋がる事が出来た…!)

 この時をどれだけ待ちわびた事だろう。
 克哉の目にうっすらと歓喜の涙が浮かび始めていく。
 お互いに加減する余裕などまったくなかった。
 こうやって繋がり合い、確かに結ばれる事をずっと願い続けていたのだから。
 突き上げる御堂の腰使いも、其れを受け入れる克哉の動きも双方、
息もつかせないぐらい早く激しいものだった。
 お互いの荒い呼吸と肉を打ちあう音がリビング内に響き渡る。
 
「んあっ…はっ…ううっ…んんっ…!」

「克哉…! 克哉…!」

 双方ともに狂おしい気持ちを抱いていきながら、夢中で相手を
求めあっていく。
 いつしか二人の肌にはびっしょりと汗が浮かび上がり、体中が
赤く染まり始めていく。
 体中が敏感になっているせいか、御堂も克哉も直ぐに登りつめていく。
 一度目の解放は、すぐに訪れていった。

「っ…くっ…!」

「ああっ…うぁっ…!」

 そうして、全身を強張らせていきながらお互いに一度達していく。
 しかしまだ二人の飢えが満たされる事はなかった。

―こんなものでは全然足りない…!

 其れは二人共、強烈に感じていた。
 達した後、直ぐに御堂自身が硬さを取り戻していくのを見て…
克哉はゴクリと息を呑んでいく。
 そして淫蕩な笑みを浮かべながら、強請っていった。

『今夜は…オレを壊すぐらい、激しく抱いて下さい…!』

 その言葉を聞いた時、御堂は満足げに微笑みながら…
再び行為を開始していき。
 そして夜明けまで二人は激しくお互いを貪り合って
いったのだった―


 


※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―やっと貴方の元に帰って来れました… 
 
 御堂の力強い腕に包まれながら克哉は、その喜びを深く噛み締めていた。
 どれだけこの一ヶ月間、此処に帰って来れることを待ち望んでいた事だろう。
 
(御堂さん、御堂さん…御堂さん…! 貴方にもう一度会いたいってどれだけ
オレが想っていた事か…! 絶対に貴方にもう一度会いたい。その気持ちが…
ずっと、挫けそうになった時にオレを支え続けてくれたんです…! やっと、
貴方の元に帰って来れたんですね…オレは…!)
 
 ただ抱き締められているだけで感慨深いものが湧き上がり…同時にジワっと
涙が溢れてしまいそうになる。
 克哉はどれくらいの期間、自分がクラブR内で過ごしていたのか時間の
経過をまったく知らない。
 あの場所にはカレンダーも、時間の概念も存在しなかったから。
 一日がいつ終わっていたのかも克哉には知る術がなかったし、御堂と離れてから
どれくらい経過したのか克哉には判らなかった。
 けれど永遠に続くのではないかと、何度も絶望に陥ったことがあった。
 望まぬ行為を強要されて心が折れそうになってしまった事だって
数え切れないぐらいあった。
 けれど克哉は、絶対にこの腕の中に帰りたかった。
 その想いを…息が詰まるぐらいにきつく御堂に抱きしめられていきながら
思い出していく。
 
「御堂さん、御堂さん…! ああ、どれだけ貴方に会いたいとオレが想っていたか
判りますか…。再びこの腕の中に抱き締められる日を夢見て、やっと…叶う日が
来てくれたんですね…」
 
「ああ、そうだ克哉…私も君が帰って来てくれる日をどれだけ願っていた事か…。
これが夢ならどうか、醒めないでくれ…!」
 
「んんっ…。!」
 
 そうして二人は互いの歯がぶつかりあってしまうような不器用で、勢いに
任せたキスを交わしていく。
 カチっと小さく音が立ったが…すぐに御堂はキスの角度を変えて深く唇を重
ね合わせて…熱い舌先を絡ませあっていく。
 お互いの呼吸すら奪い尽くしてしまいそうな情熱的なキスに、すぐに体温が
上がって…身体の奥に生まれた欲望が煽られていくのが判った。
 そうして御堂が克哉を押し倒すと同時に二人分の体重が掛かって、ソファが
ギシっと軋み音を立てていく。
 蛍光灯の明かりが灯る中、鮮明にお互いの姿が照らし出されいるが…強く
正面から抱き合っている格好のせいで表情は良く見えなかった。
 
(貴方の元にこうして帰れるまで、本当に長く感じられました…。けど、オレは
信じていましたから…。貴方の元に必ず帰れると…。ああする事で確実に、
勝利を得ることが出来ると言い聞かせていたから…どんな事をされても
耐えられたんです…)
 
 この腕を、克哉も離したくなかった。
 だから強くこちらからも御堂の体を抱きしめ返していく。
 ドクンドクンとお互いの鼓動が早くなっているのを実感していく。
 ただ抱き合っているだけでお互いの息遣いが荒くなり、体温がジワっと
上がってくるのが判った。
 
「御堂、さん…」
 
「克哉…」
 
 お互いに語りたい事、聞きたい事はいっぱいあった。
 だが今は言葉すら邪魔だった。
 息が出来なくなるぐらいに力を込めて相手の体をきつく抱きしめ合う。
 革張りのソファの上に押し倒されると、身長180cmを越える大の男の体重が
掛かったせいだろうか。
 先程よりも更に大きな音を立てた事で克哉は少しヒヤっとなりつい案じて
いきながら問いかけていく。
 
「あの…寝室に、行きますか…?」
 
「いや、ここで良い。ベッドに移動する時間すら…今は惜しい…」
 
「あっ…」
 
 そうしている間にワイシャツのボタンを外されて裸の胸を露出させられていく。
 途端に克哉の顔に狼狽が生まれていく。
 
「あ、あの…」
 
「っ…!」
 
 克哉が慌てて隠そうとしたがすでに遅かった。
 肌蹴たシャツから見える肌…そう、首筋から鎖骨に掛けて無数の
痕跡が刻まれていた。
 キスマークの他に、鞭で打たれたようなミミズ腫れや細かい裂傷まで
ある事に気づいて、御堂が息を飲んでいく。
 
(その、痕は…! 君が、あいつに好き放題された証なのか…! やはり、
君は…この一カ月、決して平和に過ごしていた訳では…なかったのか…!)
 
 先程まで熱に浮かされてきた想いが、一気に現実に引き戻されていく。
 克哉が姿を消していた一ヶ月間、果たしてどのような行為を繰り返しされて
きたのか想像するだけで…憤死しそうになる。
 憤りによって御堂の拳は、全身はワナワナと震えて…強く握りこんだ手の甲
からは血管すら浮かびあがっていた。
 その様子を見て克哉は、己の迂闊さを心から後悔していた。
 
(…しまった…この身体の痕を見て、御堂さんがどう思うか…それを失念
してしまっていた…。本当に馬鹿だ、オレは…!)
 
 克哉もまた、御堂のその反応を見て…苦い顔を浮かべていった。
 明かりが消えた状態ならば、気づかれずに済んでいたかも知れない。
 克哉もまた、御堂の元にやっと帰る事が出来た喜びが強すぎてその事を
まったく考慮していなかった。
 クラブRで過ごした日々の痕跡がこの肉体に色濃く刻まれている事を。
 其れを見て御堂がどう思うか、その事を失念していた己を呪いたくなった。
 
「克哉、それは…」
 
「………貴方の想像した通りです。けど、他の男にされたものではなく…もう一人の
俺に刻まれたもの。それならオナニーをしているのと何も変わらない。オレは、
そう思って過ごしていました…」
 
「そうかも、知れないが…くっ…!」
 
 目の前で御堂の顔が苦悩で歪んでいく。
 その痕は紛れもなく、克哉がこの一ヶ月決して平穏に過ごした訳
ではない証だった。
 きっと何度も抱かれて、痛めつけられるような行為を繰り返されたのだろう。
 身体に刻まれた傷や、その痕が何よりも雄弁に事実を物語っていた。
 けれど克哉は其れを、もう一人の自分だけにつけられたときっぱり嘘を言った。
 本当は他の四人とも絡まされた。
 時に本多や太一に貫かれる事があった。
 片桐や秋紀を抱かされながら、もう一人の自分に貫かれる事すらあった。
 
(けど、御堂さんに本当の事なんて言わなくて良い。抱かれたのはあいつ…
もう一人の俺だけなのだと。その嘘を信じてくれた方がきっと、御堂さんの
心の負担は軽くなる筈だから…)
 
 この身体に刻まれたものが存在する限り、何もなかったと嘘を言う事は出来ない。
 そんな事を言ったところで何の意味もない。
 だから克哉は少しでも負担にならないように嘘をつく。
 御堂はきっと、あの場所に招かれてもう一人の自分と対峙した時点で…
御堂の元に来て四日目の夜に、克哉を犯したのが彼だという事実を知った筈だ。
 それならすでにこちらをを犯していると判っている相手だけにされていたの
だと言った方が良い。
 
(真実は俺だけが知っていれば良い…貴方には一生涯、あの場所で起こった事の
詳細は言わない…。だからこの嘘を真実と思っていて下さい…)
 
 愛しい人を傷つけるだけの真実などいらない。
 ならせめて貴方の心が少しでも軽くなるように、この嘘を突き通そう。
 もう克哉は御堂の手を離さない。
 その為に、どんな陵辱も恥辱も代わりに受けても構わないと思った。
 だから克哉は歪んだ笑みを浮かべていきながら…静かに告げていく。
 
―その顔は、一ヶ月前に最後に御堂が見た暗いものを感じさせる笑みと
酷似したものだった
 
 その顔を思い出して御堂は言葉を失っていく。
 そして彼は思い知る。克哉の深すぎる情念を…。
 
「…この傷の事は気にしなくて良いです。これは…貴方を他の人間に
触れさせたくないって思ったからやった事ですから…」
 
「克、哉…」
 
 そう告げた克哉の瞳に深い闇が宿っている事に、狂おしいまでの強い感情を
感じ取って御堂は思わず息を詰めてその視線に釘付けになっていく。
 そして克哉はそんな彼から余計な考えと言葉を奪うように、再び何もかも
奪うような深い口づけを交わしていった―
 

※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―黒衣の男は主の頭を己の膝の上に乗せながら小さく溜息をついていた

 赤い天幕で覆われた部屋の中は、今は甘い香りに満たされていた。
 特殊な香を焚いたおかげだろうか、Mr.Rを除いて全ての者が深い眠りについていた。
 
(まさか…眼鏡を掛けていない克哉さんの方にここまでして
やられてしまうとはね…)

 少し苦々しく思いながらも、どうにか気持ちを切り替えて男は
事後処理に入っていた。
 この空間には一ヶ月あまり、この場に残っていた眼鏡を掛けていない方の
佐伯克哉が存在していた。
 その期間内、眼鏡とその性奴隷となった四人は全力で克哉の心を懐柔したり、
打ち砕く為に尽力し続けた。
 だが決して克哉の意志を曲げる事は出来ず、ついに今日…完全にこのゲームの
勝利条件を満たされてしまったので、Rは彼を解放したのだ。
 難癖をつけて無理矢理引き留める事は可能だった。
 だが男は…他ならぬ最愛の主君の為にそうしなかった。
 何故なら…。

「嗚呼、こんなに深く心を傷つけられてしまって…。貴方は他の者に悟られないように
していましたけど、私には判ります。あれだけの情熱を注いでももう一人の貴方の心を
手に入れる事も曲げる事も出来なかった事でどれだけ自尊心が痛めつけられて
しまったのか…。けれどそんな事で貴方が歪められてしまうのならば今は
お眠りになって下さい…。貴方が目覚める頃には苦い思い出は綺麗に消えていますから…」

 そうあやすように言葉を紡ぎ、愛しげに主たる存在の髪を優しく梳いていく。
 その場に倒れている本多、片桐、太一、秋紀の四人も軽く一瞥していきながら…
男は洗脳する為の言葉を、歌うように紡ぎ続けていく。

―此処は貴方が君臨する場所。四人の愛しい奴隷が貴方を心から慕って
おります…。そして貴方の欠けた御心は必ずもうじき埋められます…。
ですから今は眠っていて下さい…。貴方を脅かす苦い記憶が消えるまで…

 そうして主の額に優しく口づけていった。

(そう…もうじき、別の世界とこの場所を繋げて…もっと弱々しい眼鏡を
掛けていない貴方と、御堂孝典さんを連れて来ます…。それならば貴方に
屈して、そして永遠に明けない夜を貴方と紡いでくれるでしょうから…)

 Rは克哉が、勝利条件を満たした事…一ヶ月も前に宣言した事が決して
はったりではなかった事を今は痛感させられていた。
 結果、捕獲対象だった御堂の心からは一欠片も…眼鏡を掛けた方の彼は
介入することが叶わなくなった。
 其れを悟ったからこそ、脆い部分を併せ持つ主の精神に必要以上に深い傷跡を
残さない為に…あの克哉を解放したのだ。
 
―これ以上手元に残していても、最愛の主君の心は傷つけられるだけだと
悟ったからだ…

 だからMr.Rは彼を眠らせる。
 まるでギリシャ神話の中に出てくる眠りの神、ヒュプノスのように…この場にいる
全ての者にあの佐伯克哉の存在を忘却させるための深い眠りを与えていたのだ。

「忘れて下さい…全てを。あの強情な眼鏡を掛けていない佐伯克哉さんの事を
いつまでも覚えていても…貴方の心は辛くなるだけですから…」 

 何度も何度も、諭すように優しく言葉を伝えていく。
 まるで幼子をあやすように、子守唄でも聞かせてやるかのように…穏やかな
声音で、辛い記憶を手放すように促し続けていく。

「うっ…ううっ…」

 そして何度も、主は額に汗を浮かべていきながら呻き続ける。
 それは彼なりの抵抗の証だった。
 忘れろ、とやんわりと諭すRの言葉を素直に聞き入れてくれていないのだろう。
 だからこそ、延々と男は伝え続けていく。

(…判っていますよ…。貴方なりにもう一人のご自分に愛着を持って接して
おられた事は…。だからこそ、最後まで相手の心を得られなかった事は深い
傷を与えている事を…。けど、もうあの佐伯克哉さんと御堂孝典さんの間に
入り込む事はかなり厳しいでしょう…。そんな無駄な努力をさせてこれ以上
貴方を苦しませるぐらいなら…私は貴方に忘れ去らせる方を選びます…)

 其れは主君への労りであると同時に、この佐伯克哉をRが望む者へと
在り続けさせる為に必要な事だった。
 純粋な愛など、一種の暴力行為に等しいのではないだろうか。
 あの佐伯克哉は…その姿勢を見せ続ける事で、愛しい主を大きく変革させて
しまった。その影響はあまりに大きすぎて、こんな事をしなければならない
ぐらいだった。

「忘れなさい…全てを。辛い記憶など、抱いていても貴方が歪められるだけ…。
あの時のように私の手を取って、平穏を取り戻して下さい。いつまでも手に入れられなかった
存在に心を残しても…辛いだけですよ…」

 そうして男は、考えを巡らせていく。
 必ず無数に存在する可能性の中には、あっさりと陥落する眼鏡を掛けていない
佐伯克哉と御堂孝典も存在する筈だ。
 嗚呼、それと…自分が彼に介入するキッカケを作った、彼の親友辺りも
此処に招いても良いかも知れない。
 喪失など気にならなくなるぐらい、新たな存在を与えて彼をこの場に君臨
させれば良いのだ。
 そうして…Rは邪な笑みを浮かべていく。

―貴方は私の望む者にもっとも近くなった存在。貴方を誰にも渡しはしません…。
此処に繋ぎ止める為なら、私は何でもいたしましょう…

 そうして彼への強い執着を垣間見せていく。
 記憶操作や、洗脳する事にだって何の躊躇いも見せない。
 この明けない夜の中にずっと留まってくれるならば…それで良いのだ。

『貴方は永遠に私のモノです。私が貴方という存在を貪り尽くすまで…。
飽きてもういらないという日が来ない限りは…決して私は貴方を
手放す事はありませんよ…我が主…』

 そうして、誓いの口づけのように恭しく…己の膝に頭を乗せている佐伯克哉の
唇にキスを落としていく。
 愛しさと、呪縛の両方の意味を込めながら…。

―貴方を繋ぎ止める為なら、私は何でも致しましょう…

 そう呟いていくと…再び彼に呪文のように、優しく言葉を紡いでいく。
 そのRの表情は慈愛に満ちていると同時に、酷く禍々しく…天使と悪魔の要素を
両方併せ持つような…不思議な笑みをたたえていたのだった―

 

 31日の朝までには30話をアップする予定でしたが、
昨日の夜から何かに当たったらしく体調がすぐれないので
今朝は無理しない事にします。

 というかお腹壊して、かなり気持ち悪い状態が続いているので
ちょっと落ち着くまで話を書くの厳しそうです。
 …夜までに体調が落ち着いていたら、夜にアップします。
 本当に待たせてしまってすみません~(汗)
 

※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―彼と過ごしたたった十一日間が、まるで夢のようにすら
今の御堂には感じられていた。
 
 本日も日付変更間際に御堂は帰宅していた。
 克哉がいなくなった日から、失ってしまった何かを埋めるように御堂は
仕事に熱を入れて余計な事を考えないようにした。
 彼と出会うまではそうすれば、大抵の事はどうでも良くなった。
 しかし…今はそれだけ仕事に熱中するようにしても何かが虚しかった。
 胸の中に空虚なものがあることを感じていきながらカードキーを自分の部屋の
前のカードスロットに通していく。
 
(あの日から今日で丁度…一ヶ月が経ってしまったな…)
 
 ふとそんな考えが過ぎりながら…御堂は自分の家の扉を潜っていった。
 室内の明かりは全て落とされていて真っ暗だった。
 一人暮らしをしているのだから以前は当たり前だと思っていた光景。
 しかし今の御堂は帰宅した時に…明かりが灯っていないか密かに期待
するように変わってしまっていた。
 
―おかえりなさい御堂さん…
 
 一瞬、そんな幻聴が聞こえて…御堂は自嘲的な笑みを浮かべていく。
 もしくはただいま、でも良い。
 毎日のように帰宅した時に、克哉の姿がないか期待しては裏切られ
続けている。
 
「…ふっ、本当に私らしくないな…。彼と過ごしたのはたった十一日間だというのに…
こんなに、私は弱くなってしまったのか…?」
 
 御堂は苦笑しながらソファに腰を掛けて、ネクタイを緩めていく。
 深く溜息を吐きながら…ただ克哉の事だけを考え続けていく。
 
―必ず、貴方の元に帰ります…!
 
 そう、叫ぶように彼は何度も訴えていた。
 あの出来事を思い出す度に、胸が潰れそうに苦しくなった。
 アレは何度も夢だと思いこもうとした。
 だが間違いなく御堂が目覚めた時には傍らにいる筈の…その前の晩に
抱き合って傍らにいる筈の克哉の姿は跡形もなく消えてしまっていた。
 まるで最初からいなかった人間のように…煙のようにその存在を消してしまった。
 
―オレは亡霊のようなものですから…
 
 彼は何度も、自嘲的に御堂の前で呟いていた。
 これでは本当に幽霊みたいではないか。
 自分が拒絶すれば消えてしまうと言っていた。
そうやって強引にこちらの生活に踏み込んできて…心の中に入り込んできて、
それでこんなにも自分が必要とする頃になって消えてしまうなんて卑怯
過ぎると思った。
 
「克哉…克哉…」
 
 あの出来事があってから、御堂は無意識の内に彼の名前を呼ぶ時…佐伯君
ではなく、下の名で呼ぶように変わっていた。
 彼を想っているのだと自覚した時から、自然とそうなっていた。
 あんな別れ方はズル過ぎる。
 こうなっては絶対に…克哉の事を忘れる事など出来ない。
 あんな奇妙な場所に一人で残されて、果たしてどんな目に遭わされているのかと
考えるだけで『不安』で胸がいっぱいになり…気が苦しそうだった。
 
「…こんなに、私の中はいつの間にか君の事でいっぱいになってしまっている…。
今。どうしているんだ…。それだけでも、知りたい…。君に、逢いたいんだ…」
 
 その事を考えるだけで目元が潤んでいくのが判る。
 こんな事で泣きそうになるなんて自分でも女々しいと思う。
 だが…御堂の中ではそれだけ佐伯克哉という存在は特別なものに
なってしまった。
 彼にまつわる事だけはすでに冷静に受け止める事が出来ない。
 仕事をしている間だけは意識の外に追い出す事が辛うじて成功しているが…
一人になれば考えるのは彼の安否と、いつ帰って来てくれるのか…
その事だけが占めていた。
 
―御堂さん…
 
 はにかむような克哉の笑顔が、脳裏に鮮明に蘇っていく。
 嗚呼、あの表情を愛しいと感じるようになったのはいつの頃からだろうか。
 
―貴方が好きです…
 
 はっきりと口に出して言われた訳ではなかった。
 けれど傍にいた時にその想いを、肌でずっと感じ続けていた。
 結局強引に転がり込んだ克哉に対して強く出れず、追い出す事が叶わなかったのは…
彼からこちらへの強い好意が伝わってきたからだ。
 朝食を必死に作ってくれている姿。
 おかえりなさい、と笑顔で迎えてくれた時の事を思い出し、それだけで切なくなる。
 
(私はいつの間にか…こんなにも、君の事を…)
 
 傍にいた時は気付けなかった。
 あの生活がどれだけ脆い基盤の上に成り立っていたのかを。
 こんなにもあっけなく砕け散り、御堂の日常はまた以前のものに戻ってしまった。
 だが…克哉に出会ってしまったせいで彼の意識は大きく変化してしまった。
 
―君のいない生活がひどく虚しく感じられるんだ…
 
 どれだけ心の中で願っても、求める人間に届く訳ではない。
 それくらいの事は判っていても、この想いを押しとどめる事は出来なかった。
 
「君に、会いたい…」
 
 そして御堂が真摯な想いを込めて、そう呟いた瞬間…唐突に視界が
歪んでいったような気がした。
 
「…? 何だ、今のは…?」
 
 御堂は一瞬、自分は酔いでも回ったのだろうかと思った。
 しかし今夜はアルコールの類は一滴も口にしていない。
 元々ワインを愛飲する習慣があった御堂だが、克哉がいなくなってから一人で
飲むとヤケ酒に近くなり、通常よりも多く飲んでしまう事に気づいたから近頃は
控えるようにしていた。
 だが気になって目を凝らしてもう一度、空間が歪んで見えた方を見つめていくと
不意に声が聞こえていった。
 
―御堂さん…
 
 その声を聞いた時、最初は幻聴かと疑った。
 だがとっさに御堂は叫んでしまっていた。
 
「克哉…!」
 
―嗚呼、やっと貴方にオレの声が届いたんですね…! 御堂さん、オレを
呼んで下さい…もっと…!
 
「ああ、判った…克哉、克哉…!」
 
 御堂が名前を呼ぶ度に、目の前の空間に光の粒子が集まっていく。
 最初の頃は儚かった輝きが、御堂が克哉の名前を呼ぶ度に力強いものへと
変わっていった。
 そうしてついに成人男性程の大きさになり、少しずつ輪郭がはっきりしたものに
なっていく。
 まるで映画の中にある特撮場面か何かのようだ。
 目の前の空間がどんどん歪んで、ついに人影が生まれていく。
 
(これは一体…どういう帰り方なんだ…!)
 
 心の中でそう突っ込んでしまったが、そうしている内に目の前に一人の
男性が現れていく。
 その姿は間違いなく…御堂が待ちこがれている存在、そのものだった。
 
「克哉…!」
 
 そうして、はっきりと具現化していくと同時に力一杯御堂は彼の体を
引き寄せていく。
 腕の中には紛れもないしっかりとした質感があった。
 今、抱きしめている克哉は幻ではなく…確かにその体は暖かく質量を
持って存在していた。
 
「克哉、克哉…」
 
「随分と長く待たせてしまってすみませんでした…」
 
「…嗚呼、随分と待ったぞ。けど君がこうして帰って来てくれたのなら
それで良い…」
 
 そうして御堂はそっと克哉に向かって顔を寄せていく。
 彼の方もまたそれに逆らわなかった。
 心の中では彼に聞きたい事が渦巻いていた。
 けれど今は…純粋に彼が自分の元に帰って来たその喜びを噛みしめようと思った。
 
(やっと…君をこうして抱きしめられる…!)
 
 そうしみじみと感じていきながら…ごく自然に唇が重なり、柔らかい弾力と
かすかな温もりがそこから伝わってくる。
 そして克哉は泣きそうな表情を浮かべながら、うれしそうにこう呟いていく。
 
―ただいま、御堂さん…
 
 その一言を聞いた御堂は、愛しい存在を骨が軋むぐらい強く抱きしめて
応えていったのだった―
 
 
 




 何というか、ここの処連載掲載遅れがちですみません。
 POMERAが壊れた影響出しまくりでした。
 だってこれでかなり補助していたから、ないのきびしかったです。
 久しぶりに携帯電話のメール機能で合間に書いて補助しました。
 パソコンでなら30分打てば3~4P打てるのに、携帯だと
その半分も行かないからかなりもどかしかったです。

 過去に良く携帯のメール機能使って本一冊書いたよなとか
すげー突っ込みたいです。今の私には無理だよ…(涙)

 とりあえず先代POMERAのご臨終が確認されてから速攻で
新しいバージョンの購入を踏み切りましたので水曜日には
新しい子が届きました。
 これでちょっと更新状況を戻していけると思います。

 新しいPOMERAは以前より画面表示がデカくなって…色々と
改良されていました。
 一番大きな変化は本体容量が比べ物にならないぐらいに増えたのと…
ミニSDカードから呼び出せるファイルが以前は『POMERA』と名付けられた
フォルダーだけだったのに、カード内に入っている別のフォルダーも呼び出せる
ようになっていた事かな。
 当然、ワード文書は使用が違うのでそのままでは使えないんですが…
香坂、『POMERA2』というフォルダーを作って、当面使わないファイルは
そっちにボンボン放りこんで整理していたんですよ。 
 今までの機種ではそっちの2の方は呼び出せなかったんですが…新しい方では
普通に使えるようになっておりました。
 これは地味に使い勝手が良くなっているな~と感心しました。

 後は…今までの機種だと、電池がなくなれば本体のボタン電池の電力を
使用して使えたんですが今回からは乾電池の電力が無くなった時点で
立ち上がらなくなる模様。
 こうする事でボタン電池の電力を無駄に消費する事がなくなって…日付設定
その他が残りやすくなっているっぽいです。
 結構頻繁に日付と時間設定をやり直していたのでこれも地味に
改良されていますね。その分、乾電池の残り電力にちゃんと気を配ったり替えを
用意しておかないと場合によって泣かされそうですが。

 ちょっと本日、試しに使用してみて気付いた変更点はこんな処です。
 これでまた更新状況をもう少し改善していけるので…頑張ります。
 今月中にせめてGHOSTは30話までアップするのが当面の目標です。
 ではでは~!

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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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