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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※本来の予定より若干遅れての掲載になります。
 御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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 ―片桐は無事だ、ともう一人の自分からメールを受けた克哉はその後…
御堂や太一、本多など他の親しい人達がどうなったのか一人一人、
連絡して回っていた。
 
 本多と太一は何故か合流していたらしく、こちらがコールしようと思った直前に
向こうから掛かってきて、安否の確認をすぐに取る事は出来た。
 だが二人から電話で事情を聞いている内に、二人が合流して難を逃れる事が
出来たのも…どうやらもう一人の自分のおかげであった事が判って、
克哉は胸が熱くなった。
 
(ありがとう…『俺』…。皆を助けてくれて…)
 
 電話を切った後、克哉はしみじみと眼鏡に対して感謝していった。
 片桐も本多も太一も、普段は離れて暮らしているが克哉にとっては今では
とても大切な人達だ。
 澤村の企みや、彼と自分との確執によって身近な人々に迷惑を掛けてしまう
なんて冗談ではなかっただけに、もう一人の自分がそれを阻止してくれた事は
本当に嬉しかった。
 だが、其処で克哉は一つの事実に気づいていく。
 
「…そういえば、御堂さんはどうなっているんだろう…?」
 
 普段離れているあの三人にまで魔の手が迫っていたというのならば、
同棲までしている恋人である御堂に何も手を出さないとは考えられなかった。
 確かに御堂は他の三人と比べて責任や社会的地位も高い。そしてMGNは
重役の執務室などは外部の人間が簡単に足を踏み入れられないように
警備も比較的しっかりしている。
 見知らぬ人間や、怪しい人物が容易に入り込んで部長クラスの存在を浚う事は
決して簡単な事ではない。
 だが、同時に警備の穴は幾つか存在している事…問題点もあった事を
この大会社に一年以上勤務しているおかげで克哉は知っている。
 
(御堂さんも…執務室の方でオレと一緒に残業している筈だし、会社の中に
いて部長クラスの人を簡単に浚ったり出来る訳じゃないけど…確認して、みよう…!)
 
 そうして克哉は自分のプライベートの携帯電話から、御堂の携帯へと
コールしていく。
 だが、何度呼び出し音が鳴り響いても御堂が出る気配はなかった。
 慌てて克哉は執務室の方に赴いたが、部屋は酷く荒らされている上に
御堂の姿はどこにも見えなかった。
 だが奇妙だった。
 
―怪しい男たちが三人も、執務室で意識を失っていたからだ
 
 御堂の姿はどこにも見えず、足取りの手掛かりになりそうなものを克哉は
探したが、何も残されていない。 
 その事実に気づいた時、克哉は愕然とした。
 
「孝典、さん…一体、どこに…?」
 
 
 御堂と連絡が取れない上に行方不明になっている事実に克哉は
現実を認めたくなかった。
 その時、ヒラリと宙から一枚の紙が現れた。
 
「うわっ…一体、この紙はどこから出て来たんだ?」
 
 さっきまでは何もなかった空間部屋には流暢な文字で書かれた
一通の手紙が残されていた。
 御堂の姿と、少しでも手がかりを得ようと必死になって部屋中に
目を凝らしていたのだ。
 この紙を見落としているなどある訳がなかった。
 手のひらにじっとりと嫌な汗が滲んでいく。
 緊張した面もちで克哉がその文面を目で追っていくと…以下のような
内容が記されていた。
 
『貴方の大切な御堂孝典様は無事です。
 ですがこれから始まる愉快なショウの観客の一人として
一足先にお招きしてあります。
 この手紙は私から贈らせて頂く、貴方宛のチケットとなります。
 この手紙を貴方がお読みになった直後から、私からもそちらに
お迎えに上がらせて頂きます。
 安心してこちらをお待ち下さいませ…
Mr.Rより愛を込めて』
 
 手紙に目を通し終わった終わった瞬間、安堵と不安がブワッと
湧き上がってくるのを感じ取っていく。
 御堂が無事なのは嬉しかったが同時にあの男にどこかに招かれている
事実を知って複雑な心境になっていく。
 これで御堂、本多、片桐、太一…今の自分にとって大切な人達
全員の安否が判った。
 それなのにどうして、こんなにも激しく胸がざわつくのだろうか…?
 
「御堂さんが無事だった…それは、嬉しい事の筈なのに…どうして、
こんなにも胸騒ぎがするんだろう…?」
 
 無意識の内に己の胸元を抑えていきながら、小さくそう呟いていく。
 克哉がそう逡巡を開始した瞬間、周囲に濃霧のような白い煙が大量に…
しかも唐突に発生していった。
 その煙はあっという間に部屋中に広がり、視界が満足に効かなくなっていく。
 
「うわっ…何だよこの白い煙! 一体どこから発生したんだよ…!」
 
 不可解な現象が立て続けに起こって、克哉は半ばパニックに陥っていく。
 だが…周囲は完全に真っ白に染まってしまい…何一つ、満足に見えなくなる。
 御堂のディスクも、散乱した書類も…倒れていた男たちも全てが視界から
消えて…白い煙だけが支配していく。
 Mr.Rと出会って以来、不可解な現象等には慣れたつもりだったが…
やはり久しぶりに遭遇すると動揺してしまう。
 
―お迎えに上がりました…佐伯克哉さん
 
 唐突に男の声が聞こえる。
 声がした方に慌てて振り向いていくと…煙で他のものが殆ど見えなくなっている
状況にも関わらず…男の姿だけは鮮明にその場に浮かび上がっていった。
 現実では起こりえない、奇妙な現象。
 けれどこの黒衣の男にはそれぐらいは朝飯前の事なのだという事を克哉は
改めて実感させられていく。
 
「Mr.R! この煙は一体何なんですか! それに…本当に御堂さんは
無事なんですか! それが嘘だったら…オレは貴方を許しません!」
 
 心配と不安と緊張の余りに…克哉は珍しく怒りを露にしていた。
 御堂は今の彼にとってこの世で一番大切な存在だ。
 その人に何かあったら…絶対に自分は許すことなど出来ない。
 アイスブルーの双眸に強い憤りを宿していきながら…克哉は目の前の
男を睨み付けていった。
 だが男は克哉のそんな様子を見て愉快そうに微笑むのみだった。
 
「良い目ですね…流石、あの方の半身。対なる存在…貴方にそんな目で
見られていると思うと、こちらもゾクゾクしますね…」
 
「…御託はそれくらいまでにしておいて下さい。…そしてオレを迎えに来たと
いうのならばさっさと連れて行って下さい。其処に御堂さんが先に
いるのでしたら…の話ですけど…」
 
「えぇ、確かにいらっしゃいますよ…。心より歓迎してもてなしをして…
もう一つの可能性を提示して差し上げたのですが、流石は貴方が
選ばれた方は…心も強いご様子。
 簡単に自分の意思を曲げることはありませんでしたね…」
 
「…っ! 御堂さんに何をしたんですか!」
 
「…ですから、お連れして…軽くお言葉を掛けさせて頂いた事以上は
何もしていませんし…こちらも危害を加えるつもりもありません。
それだけは信じて下さいませ…」
 
「…判りました。危害を加えていないという部分だけは信用します…。
ですから、早くオレもあの人のいる所に連れていって下さい…。この目で
あの人の安否を確認しない限りは安心が出来ませんから…!」
 
 克哉は強い口調でそう言い放っていく。
 普段の彼ならばここまで他者に対して強気に出ることは滅多にない。
 だが…御堂を案じる気持ち、早く無事である事を確認したいという想いの
一心で…怪しい男に対して一歩も引かない態度で応じていく。
 
「えぇ…それなら、貴方をお連れしましょう…これより始まる、かつて
親友同士だった方達の因縁の決着の瞬間を…。そして本来あるべき形へと
貴方たち二人が収められる為に…その為に私が用意した舞台へと…
お連れする事に致しましょう…! さあ、とくと堪能して下さいませ…
愉快で、滑稽な一幕を…!」
 
 男はまるで、舞台の上で観客を盛り上げる為に大げさな身振りや
口調で宣言する…道化のような態度で、大きく右手を掲げていく。
 その瞬間…白い煙と共に、世界の全てが歪んでいくのを実感していった。
 
「うわっ…!」
 
 まるで大量のアルコールを飲んで酩酊して、世界がグルグル回って
いるように感じている時のような感覚を覚えて、克哉は大声を上げていく。
 そうしている内に意識はどんどん遠のいていき…まともに立っていられなくなる。
 
(ダメだ…意識が遠くなって、いく…!)
 
 必死になって踏ん張ろうとしたが…もう自分の身体を支えていられなくなる。
 そうして克哉は…グラっとバランスを崩して、執務室の床に倒れこもうと
したその瞬間…黒衣の男と煙と共に、彼の身体はこの部屋の中から
忽然と姿を消していったのだった―

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 桜の回想29話を半分ぐらい書き上げてあったので、日曜日か月曜日の更新分は
これを完成させてアップさせようと思っていたのに…。

 あたいったらPOMERAを忘れていたのさ!!(涙)

 …そのせいで日曜日から月曜日の朝はニッチもサッチも
行きませんでした。
 本日は贈ると約束しているSSと、11月1日のイベント用の原稿も
平行してやっていたので(る~るる~)

 あまりに切ないので、ウチのクロちゃん(愛猫)とちょっと戯れて
切ない心を癒していました。
 ちなみにクロちゃんも最近は慣れてくれたのでこんな可愛い顔も
写真で撮影出来るようになりましたよ(気分は親ばか)

 クロちゃん↓

 

  …いや、どうにか体制立て直しましたけどね。
  とりあえず月曜日の夜に、出来ればアップしますね。

 まだもう一本原稿残っているけど、出来るだけサイトも更新
していくように頑張ります。ではん…おやすみなさいませ。
 
 
※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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―堂孝典の意識は、気づけば深い闇の中に囚われていた
 
 謎めいた男が突然現れて、こちらを助けられた後に意識を失ってから、
次に目覚めると…目の前には漆黒の空間が広がっていた。
 まるで暗い海の中に浮かびながら当てもなくさまよっているような
奇妙な感覚だった。
 地に足がついているようないないような…フワフワと宙に浮いているような
はっきりしない不思議な浮遊感を覚えていく。
 光らしきものは何も存在しないのに、周囲のものは何も見えないのに…
自分の身体だけは輪郭も何もかもがはっきりと見える。
 実に奇妙な現象だった。
 
「…ここは一体、どこなんだ…?」
 
 周囲を見渡していくが、何も見えない。
 永遠に続いていくかのような暗闇だけが広がっている。
 これでは此処がどこなのかまったく情報を得る事が出来ない。
 思考がぼんやりとした状態のまま御堂は困惑していった。音も光も何も
存在しない空間というのを生まれて初めて経験した。
 
「…どうして、私はこんな所にいるんだ…? いつの間に連れて
来られたんだ…?」
 
 御堂は辛うじてその場から身体を起こしていきながらそう呟いていく。
 闇というのは人間の心に、本能的な恐怖を与えていく。
 夜があるからこそ人は心身の休息を十分に得られるが…古来、明かりを
得るのが困難だった時代には、闇は人間にとって危険な猛獣達に生命の
危険に晒される時間帯でもあった。
 夜、闇を畏れるのは視界が利かず…その中に紛れて何者かが息を潜めて
近づいても知覚し辛いからだ。
 今の御堂とて、その例外ではなかった。
 そして心の中に恐怖がゆっくりと広がっていく中で…無意識の内に御堂は
ただ一人の存在を求めていた。
 
「…克哉」
 
 御堂にとってはこの世で一番愛おしく…同時に心の拠り所にしている存在。
 ただ彼の面影を脳裏に描いて、自らの心を奮い立たせようとしているだけなのに…
唐突に聞こえたたった一声のおかげで歪な方向に変化し始める。
 
―さあ、そのまま愛しい方を欲望のままに翻弄している時の事を心行くままに
思い浮かべて下さいませ…
 
 其れは御堂が先程、意識を失う直前まで側に立っていたあの怪しい男の声だった。
 その声を聞いた瞬間、妄想の中で克哉が乱れ始めていく。
 
―ん、あぁ…孝典さぁん…
 
 こちらがヒクついた後蕾に激しく振動しているローターを挿入しながら、
フェラをするように命じた時の悩ましい表情が生々しく脳裏に再生されていく
 
―はっ……熱いです…! もっと、貴方のモノで俺をグチャグチャに、して…下さい…!
 
 今にも泣きそうな顔を浮かべながら対面座位で深々と克哉を貫いた時の
息も絶え絶えの様子を思い出す。
 そう、いつだって克哉は自分にとっては最高に可愛らしくて
素晴らしく淫らな恋人だった。
 最初は屈服させ、屈辱を与える為に接待という名目で彼を辱める
目的で関係を持った。
 だが、その時の克哉があまりに魅力的で…こちらの欲情を酷く刺激していて、
耐えきれずに身体を繋げてしまったらもう駄目だった。
 あの肉体の持つ魅力に、そして与えられる強い快楽にいつの間にか心は
深く捉えられ…気づけば本気になっていた。
 
―あっ、ああっ…孝典さん! 孝典、さぁん…!
 
 瞼の裏で克哉が乱れて、縋りついてくる。
 この一瞬にいつだって胸が締め付けられそうになる。
 いつから自分の中にこんな感情が芽生えたのか御堂自身
にも良く判らない。
 だが、ふと気づいた時には佐伯克哉という存在が自分の中で大きくなっていた。 
 そして欲しいと、自分の傍にずっと繋ぎ止めておきたいという思いが
徐々に膨らんでいった。
 更に瞼の裏で、克哉が乱れてあられもない姿を晒していく。
 
―んっ…ああっ…! はっ…凄くイイです、孝典、さん…!
 
 蕩けるような眼差しを浮かべていきながら、こちらを甘く見つめてくる。
 その瞬間に男としての支配欲が強く満たされて、背筋がゾクゾクする程の
歓喜が湧き上がる。
 お互いの身体の間に挟まれているペニスはヒクヒクと震えて甘い蜜をしとどに
溢れさせている様が酷く扇情的だった。
 抱く度に喜びが湧き起こり、愛しさが増してくる。
 御堂自身は男女を問わず良くモテたし、何人もの人間と交際してきた。
 だが、自ら同棲を申し出るぐらいに執着した相手は克哉ただ一人だけだった。
 
(おかしい…何でセックスをしている時の事ばかり、克哉の事を考えると
頭の中から出てくるんだ…?)
 
 克哉と過ごしている時間は、恋人としてではない。
 仕事上のパートナーとして、自分の片腕として共に過ごしている時間も
たくさん過ごしている筈なのに、今…幾ら考えても日常の彼の姿がまったく
思い浮かんで来ない。
 普段、ふとした瞬間に見える彼のはにかむような笑顔にいつだって御堂は
心を癒されている筈なのに…今は、ぼんやりとしかその表情を思い出せなくなっていた。
 
―それは此処は貴方の深層意識が…普段、押し殺している願望が正直に
現れる場所…。ここでは貴方が望んでいる事を正直に思い浮かべて構いませんよ…
 
 あの怪しい男の声がねっとりと辺りに響き渡っていく。
 
「これが…私の願望、だと…?」
 
―えぇ、貴方は胸の奥にいつだって己の欲望を押し殺している筈です。本来なら
仕事など面倒だと。佐伯克哉さんただ一人が己の傍にいてくれれば、地位も
名誉も富も何もいらない。そして克哉さんと二人で自分たちだけが存在する
閉ざされた世界で生き、獣のように求め合いたいと…そう心の奥底では
願っているのではないですか…?
 
「…中高生ではあるまいし、そんな願いなど持つなどないだろう。大人になれば
相応の責任や、社会性を持って相手と付き合うのが常識だ。適当な事を言って
こちらを惑わすのは止めて貰えないだろうか…?」
 
―ククッ、体裁など無理に取り繕わなくて結構ですよ。それならどうして…貴方は
先程からこんなに淫らな光景ばかりを思い浮かべているのですか? それこそが…
貴方が胸の底に浅ましい願いを抱いている何よりの証拠。この場では…
偽りは通用しませんよ?
 
「うるさい…黙れ。例えさっきの光景が私の秘められた願望だったとしても…
お前にそれをとやかく言われる筋合いはない。それが何か悪いとでも言うのか?」
 
―いいえ逆ですよ。人生をより味わい深くするには、欲望や快楽は欠かせぬ
ものでしょう…。この世界は煩わしい事は一切考えず、己の欲望を満たす事だけを
考えていても良い世界…。望むならば、克哉さんといつまでも老いる事すらなく、
二人きりで生き続ける事だって可能ですから…
 
「はっ…不老不死でも与えてくれるというのか? 映画や小説では良く聞く
話だがな…。しかしそんなものが現実に叶う訳がない。そんなのは空想や
おとぎ話、物語の世界にしか存在しない。…私がそんな愚かしいものを
信じて、全てを捨てるとでも思ったか…?」
 
 相手の姿が見えぬまま、ゆっくりと深い水底に沈んでいくような錯覚すら
覚えながら奇妙な会話は続いていく。
 Rの声も耳ではなく、こちらの心に直接響いてくるように感じられた。
 体中がぬるま湯に浸かって浮いているようだ。
 心地よいような、暖かいような…ずっとそのまま感じていたいような
奇妙な快感だった。
 緩やかに深い闇の中に引きずり込まれているみたいだ。
 それに本能的な恐怖すら覚えていきながら…御堂は暫し、逡巡して
押し黙っていく。
 
―ですがそれが実際に得られるとしたら…貴方はどのような反応をされますか?
 
 その一言は妙な説得力を感じられた。
 不覚にも、この男ならばそれぐらいの事は平然とやってのけそうな…
そんな気になってしまう。
 そして御堂のその直感は正しかった。
 この男は彼が望みさえすれば、たやすくその奇跡のような願望を
叶えてくれるだろう。
 本当に愛しくて仕方ない人間とずっと変わらずに二人きりで生きていける
楽園を与えて…そして愛し合い、欲望を満たす事だけを考えて生きていける。
 その誘惑に、瞬間…グラリと揺らぎ始める自分がいた。
 
(何を考えているんだ…。そんな事、出来る訳がないのに…。この男の甘言に
何を惑わされているんだ…!)
 
 だが寸前でそう思い直して、即答は避けていく。
 口を完全に閉ざして黙る事で相手の提案を退けようとした。
 
―ふふ、やはり貴方は簡単には流されないようですね。用心深いことは決して
悪い事ではありませんよ…。こちらはもう少し考える時間を差し上げても
構いませんから…
 
「…時間を与えられても、私の答えは変わらない。お前の言葉に踊らされる
事は有り得ない…」
 
 そうきっぱりと宣言すると、次第に意識が遠くなっていくのを感じていった。
 甘い言葉に簡単に流されることのない、強固な意志と信念が感じられる。
 それにMr.Rは感服しつつも、同時に軽い苛立ちを覚えていった。
 
―流石は克哉さんが選ばれた方ですね。なかなかの強い意志を感じられます…。
ですが、私はどうしてももう一人の克哉さんに…あの人の本質の人格の方に
生きて頂きたい。その為には貴方がいるのは邪魔になる…。ですから、
今生きている克哉さんの心と共に眠って頂きますよ…。何としてでもね…
 
 そう、男は眼鏡の方の人格を現実で生きさせる為に…甘い罠を持って
御堂と、今生きている克哉の人格を堕とそうと試みていたのだ。
 だから御堂の前に現れて、この空間に拉致していった。
 もう少しの間だけここに引き止めて説得を試みてみよう。 
 この後に控えている演目に、数少ない観客としてその場に立ち会って
欲しいという願いもあるが…男の本題は御堂を陥落させる方にこそあるのだから。
 そうして、深い闇の中で…Mr.Rは自らの願いを成就させる為に…妖しく
微笑みながら様々な策を巡らし始めていったのだった―
 
 本日はちょっとメールのフォルダー整理を
していたらひょっこりと出て来た克克話を
アップしておきます。
 メールで即興で書いたものだったので
アップし損ねていた模様。
 良かったら読んでやって下さい。
 ちょっと短めの…本当にSSって感じの
お話です。


 仕事が丁度終わった直後、もう一人の自分から突然のメールが来た。
 最初はとても驚いたけど…嬉しくて。
 慌ててあいつが指定したバーへとオレは足を向けていった。
 
 其処はとてもシックで落ち着いた雰囲気のバーだった。
 スツールに腰を掛けて、あいつがグラスを傾けている。
 その様は正直、悔しいぐらいに様になっていた。
 
―来たか。待ちくたびれたぞ
 
 傲岸不遜な口調であいつがオレの方を見つめてくる。
 冷たい綺麗なアイスブルーの双眸。
 それについ、視線が釘付けになった
 
―何の用だよ…。こんな、突然呼び出して…
 
 不満そうにオレが問いかけると、あいつは喉の奥で
愉快そうに笑った
 
―俺がお前を呼び出す理由なんか、たった一つだろう…? ついて来い。
この近くに部屋は取ってある…
 
 あいつは、オレがついてくる事は当然のことのようにサラリと
そう言い放っていった。
 一瞬、ムっと来たけれど…そもそも、こいつはいつだって気まぐれに
しかオレの前に姿を現さなくて。
 ここで袖になんてしたら、それこそきっと…次に会えるのはいつになるか
まったくわからないから…
 
―判ったよ
 
 オレは素直に頷くしかなかった
 
 指定されたホテルは、そのバーの本当に近くにあった
 部屋に入った瞬間、あいつは玄関先でいきなりオレを抱こうと仕掛けて
来たけれど、せめてベッドで抱かれたいと思って自分からそっちに
向かっていった
 
―随分と積極的だな
 
 オレと同じ顔の造作をした男が、愉快そうに笑った
 
―オレをそんなに、からかってばかりだと…死ぬよ?
 
 こいつはきっと、オレの中にある熱い想いに気づかない
 …放っておけば、こいつもオレも纏めて焼き尽くすぐらいに激しい
炎のような感情。
 
 ―こんなに、オレはお前のことを好きなんだよ?
 
 ベッドの上にうつ伏せになりながら、鋭い視線であいつを見つめた
 やっぱり睨んだぐらいじゃ、『俺』の余裕たっぷりな態度は解けない
 
―強い目だな。言いたい事があるのなら…はっきりと口に出して
伝えたらどうなんだ?
 
 そう言いながらシュル、と音を立ててあいつが酷く色っぽい仕草で
ネクタイを外して、ベッドに乗り上げて来た。
 
―口に出したら、茶化されたり安っぽい想いになりそうだから…
言わないよ…
 
 そう答えて、あいつの首筋に腕を回していく。
 言葉なんて、とても儚くて安っぽい。
 そしてどれだけ期待したって、オレが望んでいる言葉を優しく
囁いてくれるような奴でもない事は良く判っている。
 
―その分、オレを激しく抱いて…愛して…
 
 だから遠まわしに、そんな言葉で気持ちを伝えていく。
 
―あぁ、お前を存分に愛してやるよ。今夜もな…
 
 そうして深く深く、唇を重ねられていく。
 …こういう言い回しでしか「愛してる」と言ってくれない酷い男。
 けれど、何故だろう。
 それでもオレにとっては…こいつに強く惹かれてしまっている
 
―だから、何も考えられないぐらいに今夜もお前でいっぱいにして欲しい
 
 そんな気持ちを伝えるように、オレはベッドの上で…『俺』にそっと
身を委ねていったのだった―
 
 
※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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 ―御堂が黒衣の男に仮初の世界に招かれたのとほぼ同時刻、
澤村紀次もまた突然室内で大量の白い煙に包み込まれていた。
 
「な、何なんだ…! これは…!」
 
 自分は先程まで執務室で部下たちからの連絡の電話を待っていた筈だ。
 それなのにどうしてこんな煙が突如発生したのか彼には理解出来なかった。
 こんなのは誰かが部屋の中で大量のドライアイスを水の中に投入して、
スモークを発生させない限りは起こり得ない事だった。
 完全に面食らって殆ど視界が利かない中で、原因を究明しようと
手を伸ばして周囲を探り始めていった。
 
「くそっ…! 一体誰なんだ…! こんな時に悪ふざけをしてくるなんて…!」
 
―いいえ、悪ふざけではありませんよ…? 私はただ…これから
開かれる演目のもう一人の主役である貴方を…お迎えに上がっただけですよ…?
 
「っ…! 其処にいるのは…誰だ!」
 
 唐突に霧の中から、誰かの声が聞こえて澤村は狼狽していく。
 まったく聞き覚えのない人物の声が、自分の執務室内に響いている
事実に怒りと畏れの感情を同時に覚えていった。
 
―こんにちは、貴方の前にこうして顔を出すのは初めてですね…私は
Mr.Rと申します。どうか以後、お見知り置きを…」
 
「…お見知り置きを、ではないだろ! ここはクリスタル・トラスト内に
僕に与えられた執務室だ。部外者が無断で入って来れる訳がないだろうう!」
 
―ふふ、万全と呼ばれるセキュリティも私にとっては穴だらけの代物でしか
ありません。それよりも澤村様…貴方の親友であった佐伯克哉さんが
お待ちですよ。一足先にあの方には現地に行って貰っています…」
 
「へぇ、君は克哉君の知り合いなんだ。道理でうさんくさい雰囲気の人だと思った。
それで、僕に何の用? それにこの白い煙もそちらのせいかな…?
 視界が利かなくなって非常に迷惑だからさっさとどうにかして欲しいんだけど…」
 
―嗚呼、この煙をどうにかするのは私には無理ですね。これはこれから
私が作った世界に貴方を招く為にはどうしても発生してしまうものですからね…。
現実と、仮初めの世界を繋ぐための触媒のようなものですし…
 
 
「はぁ…? あの、そちらが何を言っているのか僕には理解出来ないんだけど…?」
 
 黒衣の男が口にした言葉は、澤村の理解の範疇を越えていて
呆然となるしかなかった。
 しかしRの方はすでに相手のその反応は予測済みだったらしくまったく
動じる気配すら見せなかった。
 
―えぇ、理解などしなくて結構ですよ。ただ一つ…私がこれからの余興の
主役の一人として、私が作り出した舞台の上に貴方を招く。その事だけ
理解して下されば結構ですから…
 
 男が艶然と微笑みながらそう告げた瞬間、澤村は背筋に冷たい汗が
伝うのを感じ取っていった。
 もの凄く嫌な予感がして、本能的にこの男はヤバイ存在である事を…
危険を感じ取っていく。
 
「じょ、冗談じゃないよ! どうして僕がお前なんかに付き合わないと
いけないんだか…! 僕には招かれる義理も必要性もまったく感じて
いないんだ! 断らせて貰うよ!」
 
―へぇ、それが佐伯克哉さんに纏わる事でも、ですか…?
 
「な、んだって…?」
 
 佐伯克哉の名前を浮かべた瞬間、澤村の顔色が一気に変わっていく。
 頬が僅かに紅潮して、瞳に強い怒りの色が浮かんでいった。
  その反応を見て黒衣の男は愉快そうに喉の奥で笑っていく。
 
「ねえ、そちらは克哉君とどういった知り合いなのかな
?」
 
「…そうですねぇ。貴方と同じく、小学校の時のあの人を知っている友人…
とでも申しておきましょうか…?」
 
「っ…! 嘘を言うなよ…! 小学校の時までの克哉君の交友関係はほぼ
僕が把握している。彼の幼なじみで…長い付き合いだった僕が言うんだから
間違いはない。デタラメを言うのはそれくらいまでにしてくれるかな?」
 
 剣呑、と言い換える事が出来るぐらいに不穏な空気をまとっていきながら
澤村は目の前の男を見つめていった。
 室内には相変わらずドライアイスを水に浸けた時に発生するような
白い煙に満たされている。
 霞掛かったような視界の中で、相手と自分の姿だけが鮮明に浮かび上がる。
 
「いいえ、嘘ではありませんよ…。小学校の卒業式の日に初めてお会い
したのならば…十分に『小学校の時の知り合い』や、『友人』に数えられるでしょう…?」
 
「…小学校の、卒業の日…だって…?」
 
 澤村にとってその日は、十数年が経過した今も決して忘れることが出来ない
一日で…心に強く引っかかり続けている事でもあった。
 
―えぇ、貴方が親友を…いえ、佐伯克哉さんに重大な裏切りを告げた直後。
それが私と克哉さんが初めて出会った日ですよ…
 
「っ…! どうして、お前がそれを知っているんだよ…!」
 
 澤村は言葉を激昂して、叫んでいく。
 何故こんな胡散臭い男が、自分と克哉との間に起こった事をここまで
はっきりと把握しているのか不気味で仕方なかった。
 本気の怒りを込めて男を睨み付けていくが、一向に動じる様子すら見せない。
 それが余計に青年の気に障っていった。
 
―さあ、どうしてでしょうかね…? それだけ私は昔から…佐伯克哉さんに
関心を持って注意深く見守っていたからかも知れませんね…。ですから
私は貴方の事も良く存しておりますよ…。ニコニコと笑いながら、少年だった
克哉さんを裏切り続けた…元親友の方としてね…
 
「うるさい、黙れ…! その件をお前にどうこう言われる筋合いは僕にはない…!」
 
―おやおや、それならどうなさるおつもりなんでしょうか…? 口封じに私に
対して何をされますか? 直接面向かって本心を言う事すら出来なかった
臆病な性格の貴方がね…
 
「黙れと言っているだろう!」
 
―えぇ、そうですね。なら黙らせて頂きましょうか…
 
 男は嘲るような口調と態度で、こちらを挑発していく。
 それに澤村の心は激しく乱され、動揺させられていった。
 その様は恐らく…蜘蛛の巣に捉えられて、ジワジワと追い詰められて
いるような様だった。
 知らぬ間に澤村は…男の土俵に立たされ、翻弄させられていた。
 男はそれ以後、何も言わず…ただ愉快そうに瞳を細めて、こちらを
見つめてくるのみだった。
 それが余計に澤村の心を苛立たせていった。
 白い煙に包み込まれていきながら…二人は黙って対峙しあう。
 その緊迫感に耐えられず…先に口を開いたのは澤村の方だった。
 
「…一つ聞かせてもらおうかな。一体どこで…僕と克哉君のことを知ったんだい?」
 
―正直にお答えしたばかりですよ。私と克哉さんが初めて出会ったのは…
小学校の卒業の日。貴方があの人に裏切りの事実を告げた直後だと…
 
「嘘だ! 見てきたような事を平然と言うな…!」
 
 その次の瞬間、澤村はゾっとなった。
 
『えぇ、私はあの日…全てを見ていましたよ…。貴方たち二人の間に起こった
出来事を…一部始終、ね…』
 
「っ…!」
 
 その瞬間、澤村は全身が総毛立つのを感じ取っていった。
 本能的な危険を感じ取ったのかも知れない。
ともかく…その一言を口にした瞬間、Mr.Rに澤村は恐怖を覚えていった。
 
「…見て、いる…訳が、ない…。あの日、克哉君に僕がその事実を告げた
時には…絶対に、周囲に誰も…いなかった、筈だ…」
 
 力なく澤村が呟いていく。
 そう、その点に関しては絶対に自分は配慮してあった筈だ。
 遠くの私立中学に進学予定だった克哉と違い…自分は大半の小学校の
知り合いと同じ地元の中学に進学するのだ。
 誰かに聞かれたり目撃されて…評判が悪くなったり、妙な噂や憶測を
されては堪ったものではないと思って…克哉に告げた瞬間、周囲に人が
いないかは特に気を配っていた記憶がある。
 その点に関しては間違いがない筈だった。
 あの場にこんな怪しい男が…自分たちのやりとりをはっきりと聞き取れる
ぐらいに近くにいた筈ならば気づかない筈がない。
 だから途切れ途切れの言葉になっても、確信を込めて澤村はそう告げていく。
 
―えぇ、貴方たち二人以外…誰もいませんでしたよ。『人』はね…
 
「っ…!」
 
 その言い回しで今度こそ澤村は恐怖を覚えていった。
 今の言葉で、この男は自分は人間ではないと認めたに等しかった。
 澤村の心の中で畏れの感情が更に広がって冷静さが急速に失われていく。
 一刻も早くこんな得体の知れない相手の前から立ち去りたいと…根っからの
小心者である彼は願い続けていく。
 だが、硬直した時間は唐突に終わりを迎えていく。
 黒衣の男が手を大きく掲げて行った瞬間、周囲に立ち昇った白い煙が
一層濃くなっていき…自分たち二人を激しくうねりながら包み込み始めていく。
 
「うわっ…! 煙が…!」
 
―そろそろ、舞台の幕が開く時刻が迫って来ましたので…私が紡ぎ出した
仮初の世界へとお連れさせて頂きますね…。それは貴方たち二人が決着を
つけるのに相応しい場所…。あの出来事が起こった小学校を再現させて頂きましたから…
 
「な、んだって…そんな、事…出来る訳が…!」
 
 澤村が驚愕に叫ぶと同時に、視界が真っ白いものに完全に覆われていく。
 同時に意識が遠のき始めていった。
 青年はそれに抗うことが出来ず…煙の中で跪いていった。
 
―それでは貴方をお連れしましょう…。主役の一人として…丁寧に
もてなして差し上げましょう…
 
 そうして、男が恭しく呟いていくのをぼんやりと聞いていきながら…澤村の
意識は完全に途切れていき、その場から静かに連れさらわれていったのであった―
 

 「魔法の鍵2」を昨晩中にはアップする予定でしたが、作業中にPC画面
開いたまま朝まで力尽きておりましたので遅れました(汗)
 まだ新しい職場に身体が慣れていないので、初めてやる作業が
入る日は今後も予定より掲載が遅れたり間が空くことも出て来るかと。

 けど、連載は出来ればこれ以上間は空けたくないし…桜の回想も
今月中にはどうにか終わらせたいのでその気持ちだけ
ちょこっとここに記しておきます。
 魔法の鍵はサクサクっと書けるけど、桜の回想は魂を込めてこれからの
話は書かないとアカンので一話一話が長く、書き上げるのも時間が
掛かります。
 だから暫くは魔法の鍵と交互に掲載という形になりますが
ご了承下さいませ。

 とりあえず軽い注意書き。
 本日は桜の回想の方に取り掛かります。
 明日の朝までに出来れば掲載出来るように執筆しますので
もうちょいお待ち下さいませ(ペコリ)
 ※この話は2009年度の眼鏡×御堂の誕生日話となります。
 カレンダーの日付等も2009年のを使用しています。
 そしてややファンタジーというか、不思議な要素が入り混じるお話ですが
この三点をご了承の上でお読み下さいませ~(ペコリ)

 魔法の鍵  

―Mr.Rから渡された鍵を使用するか否か、必死になって考えている内に
あっという間に一週間が過ぎ、ついに克哉は恋人の誕生日当日を迎えてしまっていた。
 
(ついにこの日が来てしまったか…)
 
 アクワイヤ・アソシエーションのオフィスで、御堂と二人で就業時間後も業務を
こなしている内に…どっぷりと日は暮れてしまい、代わりの物を手配出来ずじまいに
なってしまっていた。
 本命であった御堂の生まれ年のヴァンテージワインは、結局水準を超える物が
オークションには出ず、諦めるしかなかった。
 贈る以上は絶対に御堂に喜んで貰える物を、という気持ちがあるせいか中途半端な
物を選ぶ気にはとてもなれず…完璧にこだわってしまったせいで、逆に何も用意
できてない状況に陥ってしまった。
 
(さて、どうするかな…。せめてこの近くの貴金属店にでも行って、ネクタイピンや
カフス、腕時計の類でも選んで購入するか…?)
 
 かなり間に合わせになってしまう事は否めないが、このまま大切な人間の誕生日を
黙ってスルーしてしまうよりはマシだろう。
 そう考えて、克哉は仕方なく妥協をする事を決心した。
 今夜、これから急いで駆け込めば明日、当日には確実に御堂に
手渡す事が出来る。
 そう考えて、克哉は顔を上げて…隣のディスクで熱心に書類に向き合っている
御堂に声を掛けていく。
 
「御堂…これから、30分くらい席を外す。出来るだけすぐに戻ってくる
予定だから…待っててくれ」
 
「…この時間から用事か? 珍しいな…そんなに時間の都合がつかない
クライアントでもいたのか?」
 
「いや、ちょっとした俺個人の私用だ。今夜中に済ませておきたい事が
出来たのでね…」
 
「そうか、判った。私の方は君が戻って来るまでここで待っている。もう少し
この件を整理しておきたいからな…」
 
「すまないな。それじゃあ行ってくる…」
 
 御堂に対して柔らかく微笑みながら克哉はそっと椅子から
立ち上がっていった。
 春の一件を経てから、自分たちの関係は随分と安定してきていた。
 その前までは薄氷の上にギリギリ成り立っているような危うい部分が自分たちの
間にはあったが…雨降って地、固まるとは良く言ったものだ。
 澤村の一件は本気で腹を立てたが、それを乗り越えた事で自分たちは相手に
対して信頼出来るようになった。
 それが自分たちの間にあった危ういものを払拭出来たと克哉は感じていた。
 
(…こういうやりとりも、悪くないものだな…)
 
 この忙しい中で30分抜けると言っても、特に細かく詮索せずに送り出して
くれることが嬉しかった。
 軽くほくそ笑みながらオフィスを後にして、エレベーターに乗り込んで下に降りて
ビルを出ようとした矢先に、克哉はぎょっとなった。
 漆黒のコートに目にも鮮やかな長い金髪。
 そして独特の空気を感じ取って克哉は確信していた。
 
「貴様…どうして、ここにいる…」
 
「おや、克哉さん。一週間前に例の鍵を渡した時にお伝えしたでしょう…? 
当日にお迎えに上がりますと…」
 
「…俺はこの件でお前に協力を仰ぐつもりはない。お引き取り願おうか…」
 
 この男相手にはともかく強気で応対しなくてはならない。そう直感的に察して
克哉はきっぱりと相手の申し出を拒絶していく。
 だが男はそんな彼の様子を愉快そうに眺めてきた。
 
「…強がりを言っても私の前では無駄ですよ…。貴方がちゃんと御堂様に
相応しいプレゼントを用意されていたのならばこんなに差し出がましい真似を
しませんでしたけどね…。愛しくて堪らない方と恋人同士になり、初めて迎える
御堂様の生誕日…。それを適当な物で妥協されて貴方は本当に後悔しませんか…?」
 
「くっ…!」
 
 その一言を言われると、こちらはそれ以上反論が出来なくなってしまった。
 相手の言う通りだった。ワインをメインに扱っているオークションサイトの
品ぞろえの悪い時期に当たってしまって、求めていた物をこちらが
得られなかったのは確かだからだ。
 
「…貴方に一週間前に渡した鍵を使えば、少なくとも一生の思い出になるとは
思いますよ。滅多に出来る経験ではないですしね。遊園地のアトラクションの
一つ程度に据えれば良いんですよ…」
 
「アトラクション、か…」
 
 本能的にこんな怪しい男の言葉に乗ったら確実にろくでもないことになりそうなのに…
そういわれてしまうと心が動き始めている自分がいた。
 こちらの心が動き始めているのが判ったのだろう。
 克哉が沈黙していくと…対照的にMr.Rは愉快そうに微笑み始めていく。
 
「…ふふ、心は揺れ動き始めているみたいですね…」
 
「…本当に御堂を楽しませたり、驚かしたり出きるんだろうな…?」
 
「えぇ私はそういうことでは嘘は言いませんよ。少なくとも確実に御堂様を
びっくりさせることだけは出来ます。それは保障しますよ…」
 
 そう言われて…スーツの上着ポケットの中にひっそりと忍ばせていた例の鍵を
無意識のうちに握り締めていく。
 その冷たさと金属特有の冷たさを指先で感じて…克哉は決心していく。
 
「本当に…大丈夫なんだろうな?」
 
「えぇ…私を信じて下さい」
 
「…さりげなく困難なことをこちらに要求してくるな」
 
 黒衣の男からの友好的な笑みと言葉を克哉はばっさりと断ち切りながら、
言葉を続けていく。
 
「…なら、この鍵を使う場所にはどうやって連れていくつもりだ…?」
 
「…そうですね。後、一時間もしたら御堂様の仕事の方も片付くでしょうし…その頃を
見計らってお迎えに上がります。お二人はオフィスにいて下されば結構ですよ…」
 
「…そうか。なら待っている事にしよう」
 
「はい、期待して待ってて下さいませ…」
 
 男の物言いに物凄い不安を覚えていくが、一度決めた以上…これ以上
疑ったり、ガタガタ文句を言っても仕方がない。
 克哉がうなずいていくと恭しく黒衣の男は頭を下げていき…そして踵を返して、
悠然とその場を立ち去っていった。
 
「…本当に、大丈夫なんだろうな…」
 
 克哉は一抹の不安を覚えつつ…どうしてあの男の口車に乗って頷いて
しまったのだろうかと早くも後悔し始める。
 だが、一度決めた以上ジタバタするのは情けなかった。
 
「腹を括るしかないな…」
 
 そして暫く時間が経過してから、短くそう呟きながら…克哉は
覚悟を決めていったのだった―
 
  こんにちは、昨日のスプレーオンリー…参加された方、
足を向けた一般の方…どうもお疲れ様でしたv
  今年に入って、更新速度も落ち着いてしまったサークルに
足を向けて下さったお客様、本気で感謝ですv
  こちらの新刊を手にとって下さってありがとうございます。
 …今回、印刷機の関係で非常に色ムラが酷い新刊になって
しまいましたが、購入して下さってどうもありがとうございます。
 値段を予定より100円下げたのは、私の良心ですが…。
 すみません、今後はこういう事が起こらないようにしますね(;;)

 うちのスペースの売り子をして下さったRさん。
 いつも色々とお世話になっているEさん。別ジャンルの本も
楽しみに読ませて貰いますよ~。
 通りすがりにこちらが声掛けて引き止めて、POMERAに
眼鏡への愛を叫んで立ち去ったMさんとKさん(笑)
 背後霊(マッサージ)をやらせて頂いたKさんに、軽く
話をさせて頂いたAさんにDさん。
 色々と話をさせて貰ったYさんに、ガムテープを貸して
下さったAさん。
 
 そしてイベント後に6時間余りも色々としゃべくって、楽しい
一時を下さったHさん、Nさん、Eさんの三人!
 何か香坂、やたらと自分から話しかける性質なのでもしかしたら
迷惑掛けてしまっている時もあるかもですが、こちらに構って
下さってどうもありがとうございます。

 とりあえず色々と熱い妄想が繰り広げられている中で…
飲み会の終わり辺りに4人とも冬コミに申し込んでいたので
「もし受かっていたら、受からなかった人間の本を委託で
引き受けよう」という話や、お泊り会とかもしようね~という
話が出たので、冬コミも今から楽しみですv
 4人中、2サークルは絶対に受かって欲しいものです(祈り)

 当落は本気で、毎回ドッキドキですけどね。
 とりあえずこっちが受かったら、約束通り引き受けますし…
落ちた場合も冬コミ新刊ぐらいは置かせて貰える可能性があると
心の保険が出来ただけでもありがたかったです。

 シールラリーの景品に「御克マグネット」もちゃっかり
貰って記念品も出来ましたし。
 充分、イベントを満喫出来ました。
 …ただ新刊製作で、ちょっとここ数日無理をしていたせいで
本日、ちょっとヘタばりまして…日付変更辺りから、間に数時間は
起きていたけど…16時までずっと眠り続けておりました。
 トータルで13~4時間ぐらい眠ってました。おかげで体調も
回復しましたが。

 そんな訳で今夜から明日に掛けて一本連載の続きは書けたら
書かせて頂きます。
 今夜は…ちょっと別ジャンルの方での打ち合わせが予定に
入っているので…明日の朝になるかもですが、イベントも終わりましたので
更新ペースも少し戻していきます。
 先週からイベントまでの期間、アンソロジー原稿6P&新刊の原稿を
やっていた為に…サイトの更新が停滞気味になっててすみません。
 今日明日からボチボチ直していきますね!
 それでは、そろそろ失礼します。

 夜までに上がって来れそうだったら連載をアップしますね。
 ではでは~!
 
 イベント当日、午前三時の時点でこの記事アップして
当日参加する方が読んでいるか微妙ですが…
ちょっとお知らせしたいことがあるので書かせて頂きます。

 えっと現在、新刊の印刷作業やっているんですが…
ノズルが詰まりまして、始めの方に印刷した物が
通常黒に刷り上る筈のものが緑っぽくなったり黄色っぽく
なったり色合いが変化してしまいました。
 チョコチョコ弄りつつ、それでも印刷作業を続けていたんですが
本文の色がせめて変わったまま統一されていれば良かったんですが
時間と共に徐々に変わってしまって、本文の文字が
グラデーション状態になってしまっています。
 …読めるレベルの文字の濃さではありますが、売り物として
これは300円頂く代物ではないとこちらも判断しまして、
このグラデーションになってしまっている本文が混ざっている分、
明日の販売分は100円値段を下げた形で販売させて頂きます。

 本来なら色が変化してしまった分は取り除いて販売するのが
筋でしょうが…ギリギリの印刷になってしまったので
今から刷り直す時間は正直ありません。
 表紙も似たような状態になって、色合いが三パターンほど
変化してしまいました。
 …まあ、自動的に色違いバージョンが出来たと見れば
良いんでしょうけどね。なかなか複雑です(汗)
 
 明日、イベントに来る予定の人が見ているかどうか本気で
微妙なんですけどね。
 このプリンターで、こういうエラーは初めてだったので…
直すのに手間取り、不手際をしてしまいました。
 どうも申し訳ないです(汗)
 それでは作業にまた戻らせて頂きますね。
 おやすみなさいませ(ペコリ)
 
 こんにちは香坂です。
 現在、新刊は表紙は完成…本文も60~70%程度完成といった
製作状況です。
 とりあえず本日、出勤中に頑張って打ち込めば十分
完成圏内までには行きました。
 明日には笑って参加出来ると思います。

 そして前日になってやっとイベント・インフォメーションです。
 ここら辺、毎度のことながら遅い奴ですみません(ゴホゴホ)
 ちなみに今回の新刊表紙はこんな感じに仕上がりました。
 帰宅したら最終調整をもう少し掛けますが。

 

 新刊は『SIREN』
 エロ度は高い話ですが(二場面あります)、エロだけではなくそれなりの
ストーリーはある構成です。
 眼鏡の方は鬼畜覚醒している設定なので、かな~り濃いです。
 ただ書いてみたら8~9割じゃなく、6~7割程度のエロ率になりました。
 それでも充分高いですね。イヤン。
 値段は300円です。
 宜しければお手に取って見てやって下さい。

 その他の販売物は以下の通りです。

 Innocent blue(克克新婚本1) 1000円
 luna soleil(克克新婚本2)   1000円
 幻花繚乱(御克前提澤村本)   500円
 胡蝶の夢(克克)          500円
 夜桜幻想(眼鏡×御堂)      300円
 『聖 痕』(眼鏡×御堂)       300円

   コピーの方は前回のイベントで太克一種類、克克二種類は
完売しましたので…当日販売するのは新刊含めてこの6種類となります。
 それと別に、8月30日発行の克克、『スィート☆バナナ』を
無料配布に持っていく予定です。
 スペースは…。

 眼鏡4-08 

 になりますので克克スペースを見て回る方とかはどうぞ
宜しくお願いします。
 んじゃ、最後の追い込み&出勤して参ります。
 意地でも間に合わせるぞ~! エイエイオー!


 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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