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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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御克前提の澤村話。テーマは桜です。
  桜の花が舞い散る中、自分という心が生まれる前のことを
探り始める克哉がメインの話です。後、鬼畜眼鏡Rではあまりに
澤村が不憫だったのでちょっと救済の為に執筆しました。

 桜の回想                      10  
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―あの日から一日だって忘れたことがない存在だった。
 澤村紀次。
 自分にとっては幼い頃から小学校卒業の日まで一番の親友だと
信じ続けていた相手。
 
―そういえば決別した日も、こんな風に桜が満開だった事を思い出していく。
 
 ヒラヒラと淡い色の花弁が空中でダンスを舞っているかのように
鮮やかに舞い散る。
 その様を遠い目で見つめていく。
 
「克哉、君…?」
 
 目の前の相手が、こちらを信じられないという眼差しで見つめてくる。
 あれから15年が経つが、少年だった頃の面影は目の前の青年に
確かに残っている。
 お互いに相手の成長過程を横で眺める事はなかった。
 中学、高校時代と思春期に一度だって言葉を交わすことすらなかった。
 その存在自体を重い蓋で封じてしまったかのように。
 彼の事は極力考えないようにしてきたし、思い出してもすぐに振り払うようにしてきた。
 それだけ澤村という存在は、佐伯克哉にとっては深い傷に関わる…トラウマを
与えた人間だったから。
 それなのに実際にこうして対峙してみると、思ったよりも平静な態度で望めている
自分が少し不思議だった。
 
(思っていたよりも…胸の痛みも、何も感じないものだな…)
 
 憎しみも、怒りも時間と共に風化するものだ。
 その当時は心が引き裂かれてしまいそうな痛みや傷だって時の流れが
ある程度は癒してくれる。
 こうして顔を合わせれば、耐えきれないほどに苦しい気持ちになると予想
していただけに、自分でも少し拍子抜けだった。
 
「…久しぶり、だな…」
 
「ああ、そうだね…本当に久しぶりだね。ちゃんと僕に反応する君と顔を
合わせるのは…。僕の事など知らない、と散々繰り返していた君とは…
まるで別人だね、克哉君…」
 
 痛烈な皮肉を込めていきながら相手がそう答えていく。
 両者の間にある感情は、好意や友情、懐かしさといったプラスの
ものではなかった。
 むしろ宿命のライバルや、天敵と顔を合わせた時のような鋭さや警戒心が
二人の間には存在していた。
 
「あぁ、実際に別人だと言ったらお前は信じるか…?」
 
「はは、良く似たそっくりさんが二人いるとか、君は実は双子だったとかそんな
オチでも言うつもりかい? そういう冗談を口にするようになったとは…ちょっとは
君は以前とは変わったのかな?」
 
 そういって、目は鋭いまま…口元だけ軽く上げている冷笑の表情を澤村は
浮かべていった。
 そんな荒唐無稽な言い訳、頭から信じる気はないという強固な態度だった。
 だが眼鏡は相手をねめつけるように見つめていきながら、相手にとっては
予想外の言葉を放っていく。
 
「あぁ、お前の言う通りだ。お前のことを知らない、覚えていないと繰り返している
『オレ 』は、俺の別人格。俺であって、俺でないものだと言ったら…お前は果たして
どんな反応をするんだろうな?」
 
「なっ…!」
 
 まさか眼鏡が肯定するとは思ってもみなかったのだろう。その発言に対して
澤村は完全に虚を突かれた形になっていった。
 因縁深い相手から、素の驚きの感情を引き出したことで眼鏡は若干…
優位に立てた気がした。
 
(…どうやら先手は俺の方が打てたみたいだな…。さあ、ここが本当の
正念場の始まりだな…!)
 
「き、君ってさ…暫く見ない間に頭とか考えが随分とおかしくなってしまったんじゃ
ないの? 僕の知っている君だったら絶対にそんな世迷い事は言わなかった筈だよ?」
 
「…あれからどれくらいの時間が経過していると思っている? 15年も
過ぎているんだ。…いつまでもお前の知っているままの俺とは決して思うなよ。
…それとも何か、それだけの月日が流れていても、お前はまったく自分は
変わっていないというつもりか?」
 
 そうして哀れみと嘲りの表情を込めて、かつて自分を消そうとまで思った原因を
作った存在を見つめていく。
 
「…そんな目で、僕を見るな!」
 
 その視線が自分を見下す感情がマジ手炒るものと本能的に察したのだろう。
 澤村が弾かれたように顔を上げて…こちらを睨み付けてくる。
 
「…本当にお前、変わっていないな…。あんな子供じみた真似をした時のままだ…」
 
「何を! 僕がいつ子供じみた真似をしたというんだ?」
 
「…ガキらしい行動だろう? 自分の傍にいる人間に妬んで、その人間を
嫉妬して貶めて…周囲の人間に悪口を振りまいているなど。責任転嫁と、
身勝手に富んだ行為だ。そんなにそいつが目障りだったら、実力で勝って
打ち負かすという手段だってあるのに…安易な行動を取っているだけじゃないか」
 
「どこが安易な行動だっていうんだ! 君に気づかれないように人をコントロール
するのって相当に大変なんだよ? どれだけあの頃の僕が細心の注意を計って
いたと思っているんだよ…!」
 
「なら、お前に問おう…。もっとも親しかった俺に対して、そんな行為をしたお前に…
あれから本当に、心から信頼出来る存在は出来たのか…?」
 
「っ…!」
 
 その一言を問いかけた瞬間、澤村の瞳がギロっと怒りに燃えていった。
 正鵠を突く、とはまさにこの事だった。
 
「そ、それがどうしたって言うんだよ! 君には関係ないだろう!!」
 
 その瞬間、憎くてしょうがなかった存在は…駄々っ子のように感情を
露にし始めていく。
 
「…いいや、関係あるな。俺はお前の裏切りに傷つけられた当事者だ。あの時の
行為に対してお前を詰り…責める権利ぐらいはあるんじゃないか?」
 
 そう言葉を続けながら、頭の中に浮かぶのは御堂ともう一人の自分との
関係のことばかりだった。
 そしてそんな彼らの傍にいてくれる信頼できる友人達の顔だった。
 15年前、あの裏切りを受けた直後は自分は誰との間にも本当の信頼関係
というものを築けていなかった。
 だから基本となるものを知らなかったから、判らなかった。
 信頼とは、本当に大事にしなければならない人間とは…親友と呼ぶに値する
存在というのはどういったものであったのか。
 
(俺は…お前に、本当に負けてしまったんだな…。お前は御堂という存在を得て、
俺の傍には…俺が改めて生きたあの短い期間に…俺は、誰とも絆を
作り出せなかった…。だから、俺の生は…じきに終わる。これからは…
お前の影となって、ただひっそりと融合していくのみだ…)
 
 トラウマの主である澤村と対峙しながら、少しずつ憎しみも何もかもが
風化していくのを感じていく。
 自分の輪郭が、一瞬消えていくのが見えた。
 眼鏡は、ただ…透明な表情を浮かべながら…相手を見つめていった。
 
―澤村紀次は、親友と呼ぶに値する人間では元々なかった。それが彼の
導き出した最終的な結論だった
 
 切磋琢磨し、お互いに高めあっていく姿勢を崩さない御堂と克哉。
 それに比べて…相手の心の痛みに気づかず盲目的に信じ続けていた自分と、
影でこちらを嘲笑いながら裏切り続けた澤村は何とレベルが低いことだろう。
 自分の実力を高めていくよりも、人を貶めることの方が遥かに容易い。
 知識を増やし、出来ることを増やしていって…新たな場所に飛び出していったり、
見識を広めたり豊かな人間関係を作り上げていくには、向上していく意思や強い心を
養っていくのが不可欠だ。
 あの二人を内側から見続けて、やっとそれが判った。嫌でも知ってしまった。
 明確な基準を、物差しとなるものが傍にあったからこそ…長い年月を経て振り返り、
やっとそんなシンプルな回答に辿り着いた。
 心の中で少しずつ、何もかもが整理させて遠くなっていく。
 長い沈黙の後、澤村は小さく問いかけていく。
 
「…なら君は、今更僕をどう責めるというんだよ…。あれから15年も過ぎて
いるんだよ…昔の事をほじくり返して、ネチネチと責めるなんて少し幼稚
なんじゃないのか…?」
 
「ククッ…お前の口から幼稚という単語が出るとは、な…。まあ良い…一つ
言ってやるよ…お前はもう、憎むに値しない。俺は小学校の卒業の時に告白した
お前の罪を許そう。いつまでもそんな瑣末の事に関わっているだけ時間の無駄だ…」
 
「っ! 何だって…!」
 
 その一言を放った瞬間、澤村の顔色が変わっていった。
 明らかに、ショックを受けているようだった。
 
「ちょっと待ってよ…克哉君、それは正気で言っている事なの…?」
 
 明らかに今の彼の一言に大きな狼狽を隠せない様子だった。
 だが、眼鏡の方は決して撤回をする事はなかった。
 
「ああ、もう15年も経っている。そして…俺はいつまでもガキのままではない。
…あんな子供の頃に起こった事に拘り続けて、囚われているなど御免だ。
だから全てを水に流してやる…。だからお前もとっとと忘れろ…」
 
「そ、んな…」
 
 それはかなり投げやりであったが、一応は許しの言葉の筈だった。
 だが、眼鏡の発言を聞いた瞬間…見る見る内に、澤村の表情が大きく歪んで…
涙さえ滲ませ始めていった。
 
「な、んだよ…それ。どうして、今更…そん、な…」
 
 明らかに動揺を隠せず、途方に暮れた表情を浮かべて…澤村は
立ち尽くしていった。
 それは決して二十七歳の大人の男の姿ではない。
 あの頃と同じ…小学生の少年を思わせる、幼い顔だった。
 
「…どうした? お前のした事を許してやると言ったんだ…? もう少し
嬉しそうな顔を浮かべても良いんじゃないのか…?」
 
「そ、んなの…喜べる筈、ないだろう…? 僕の存在は、そんなに…君にとって、
どうでも良くなって…しまったのか…?」
 
 澤村の声が、だんだん絶望の色に染まり…涙声に近くなっていく。
 仮面が、剥がれていく。
 彼を影で裏切り始めた頃からゆっくりと形成されていった偽りの顔が。
 そして…長年覆い隠されていた、本当の気持ちが…ゆっくりとかつての
親友の口から零れ始めていった。
 
「…嫌だよ、僕を忘れないでよ…克哉君。君が、君が遠くの中学校に行くなんて…
僕には追いかけることが出来ないぐらいに偏差値とか高くて、遠い処にある
私立中学に進学するつもりだって、そんな事を打ち明けるから…だから、僕は…」
 
「…澤村?」
 
 相手の豹変振りに、眼鏡の方が面食らっていく。
 確かに小学校五年の終わり頃、自分は上を目指したくて相手にそう
打ち明けた事があった。
 この近くの中学では学べることは限られていると。
 あの頃の佐伯克哉は何もかもが出来る有能な少年だった。
 だから上を目指して、そう発言した記憶はあった。だが…相手の口からその
一言が漏れて、眼鏡はようやく…全ての発端がどこから始まっていたのか、
その始発を見つけた気がした。
 
「僕は、君の傍にいたかったんだ…なのに、君は僕から離れようとする…。だから、
一生忘れることが出来ないように、君の中に…僕を、刻みつけようとしたんだ…!
 それなのに、どうして許すなんていうんだよ! そうして僕の存在を君は
遠いものにするつもりなのかよ!」
 
 澤村はついに、長年秘め続けた思いを口に上らせていった。
 それを聞きながら…眼鏡はある種の哀れみの感情を浮かべていった。
 
(これが…俺が信じていた者の、正体か…)
 
 本当に、幼稚だった。
 けれどその奥に…歪んでいながらも、確かな好意や執着もまた存在していた。
 恐らく…まだ小学生だった頃の澤村なりに必死に考えたことだったのだろう。
 必死に努力しても追いつけない、何一つ勝ることが出来なかった幼馴染み。
 彼に追いつこうとしても決して手が届かず、顔を合わせれば賞賛していたが…
心の奥底では嫉妬の感情が静かに降り積もっていた。
 そして彼は…自分の元から相手が離れていく、その一言を聞いた時に…
暗い衝動に負けてしまったのだろう。
 それが、全ての発端。幼い澤村を裏切りへと走らせた動機。
 
―そして澤村は泣いていた。あの日のように…こちらを見つめていきながら、
顔をクシャクシャにして、無理に笑う…あの顔を、浮かべていた。
 
 それはまるで、小学校の卒業の日を15年の歳月を経て再現しているような…
そんな錯覚を覚えていった。
 そしてもう一度、謎の男が設えた舞台の上で…自分が眠り、もう一つの人格が
生まれた因縁の日が再生されていく。
 あの頃よりも沢山のものを見て、学んで来た。
 その上で…眼鏡はギュっと唇を噛み締めて口を閉ざしていきながら…自分の
考えを纏めていき、最良と思われる答えを自分の中から導き出そうと試みていく。
 
―そうして、もうじき…この舞台も終幕の時を迎えようとしていたのだった―
 
 
 
 


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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