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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克前提の澤村話。テーマは桜です。
 桜の花が舞い散る中、自分という心が生まれる前のことを
探り始める克哉がメインの話です。後、鬼畜眼鏡Rではあまりに
澤村が不憫だったのでちょっと救済の為に執筆しました。
 この話は渾身の力を込めて書いたので間が空いてすみません。
 とりあえず、これが現段階での香坂の目一杯です。

 桜の回想                      10  
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 ―目の前にあの日と同じように泣いている一人の男がいた
 
「僕を、忘れないでよ…克哉、君…!」
 
 そして相手が15年間も自分の心の奥底に隠していた想いを
衝動的に口にしていく。
 許されたら、憎まれることすらなくなったら自分という人間が相手の中から
消えると思ったのだろう。
 其処で初めて、本音が漏れていくのを聞いて…眼鏡は深く溜息を突いていた。
 
(その一言を15年前のあの日に聞いていたのならば…俺たちの関係はきっと、
途切れなかったんだろうな…)
 
 その発言を聞いてやっと佐伯克哉は親友だった少年があの日泣きながら
裏側の事情を打ち明けたことに納得がいった。
 全ては、好意の裏返しだったのだ。
 澤村紀次は本当ならずっと佐伯克哉の傍にいたかったのだ。
 だが実力が及ばず、克哉がこれから進学しようとする学校は彼の手の届く
レベルではなかった。
 
「言いたい、事はそれだけか…?」
 
 そう問い返した瞬間、目の前に立っていた青年はゆっくりと12歳の頃の
姿へと変わっていく。
 赤いオシャレ眼鏡も、ブランドもののスーツも纏っていない小学校高学年の少年。
 
「どうして、僕を置いて行ったんだよ! どうしてみんなと一緒にあの中学に
進学してくれなかったんだよ! 遠くの学校に行くなんて、どうして…!」
 
「紀次…」
 
 その時、眼鏡の脳裏にその時の出来事が鮮明に蘇っていく。
 それは佐伯克哉側にとっては些細な、大した事のない思い出に過ぎなかった。
 
―紀次、俺…母さんが望んでいるから遠くの学校に行く事になるかも知れない…
 
 そうだ、最高学年に進級する前に母から私立の中学校に進学しないか、
と言われて…少し迷っていたから、澤村に自分は相談した事があった。
 その時点ではまだいじめは始まっておらず、迷っている部分があった。
 あの当時の佐伯克哉はクラスの中心人物だった。
 成績優秀、そして運動神経も優れている彼に多くの人間が頼ってきていた。
 澤村もその一人だった。
 
―克哉君、遠くに行ってしまうの…?
 
 そういえば相談ごとを口にした時、澤村はこんな風に泣きそうな顔を浮かべていた。
 
―あぁ、母さんが望んでいるからな。親の希望は出来れば叶えたいから
どうしようかって迷っているんだ…
 
―そう、なんだ…
 
 その瞬間、澤村の顔が一瞬だけ大きく歪んだ気がした。
 酷くひきつっていて、強い敵意をその視線から感じていった。
 それは時間にすれば本当に僅かな、瞬く間だけ現れた相手の本心。
 その時は気づかずに見逃していた兆候が、もう一度振り返る事で眼鏡の
頭の中で組み上がって一つの回答を導き出していく。
 少年は泣いている。
 その時は笑顔を浮かべて押し殺した本心を、やっと解放して相手に叩きつけていった。
 
「君を追いかけたくても、あの当時の僕には絶対に受かる見込みのない
場所だった。そんな場所に…君は当然のように進学すると口にして
『自分が落ちる可能性』なんてこれっぽっちも考えていなかった! 
それがどれだけ…僕にとっては悔しくて辛い事だったのか、君は
考えた事もなかったんだろう!」
 
 小学生の時の澤村は、この本音をずっと佐伯克哉に伝えずにいた。
 口にしたら自分があまりにみじめになるって事が初めから判っていたからだ。
 
「ちっちゃい頃から、君は僕の憧れだったのに…! 傍にさえいられれば
それで良かったのに…! 君は自らの意志で僕が追いかける事が出来ない
場所に行こうとしていた。だから、僕は…僕は…!」
 
 桜の花びらが舞い散る中で、ずっと過去に囚われ続けていた少年が慟哭していく。
 それは彼の中で眠り続けていた本心。
 プライドや意地が邪魔をして、口にすることもなく秘められ続けて…
いつの間にか澱んでしまった想い。
 それを聞いた瞬間、眼鏡は…相手への憎しみがゆっくりと
消えていくのを感じていった。
 
「お前は、俺の事を…好きで、いてくれたんだな…」
 
 当時、気づかなかった。
 彼のそんな本心を。
 母が望んだ私立の中学に進学する、そう打ち明けた事がこんなにも
親友を追いつめる事になるなんて考えもしなかった。
 彼の涙をみて、ゆっくりとかつて信じていた頃の想いを…彼を誰よりも
大切だったと、そう思っていた頃の自分の感情が蘇っていく。
 
「…そう、だよ。僕は…君を、好き…だった。追いつくことが出来なくて、悔しくて…
歯がゆかったけれど…それでも僕にとって、君は…憧れだったんだ…。
一緒に…いたかったんだよ…」
 
 ポロポロポロ、と少年の目元から涙が溢れ続ける。
 心の壁が、自分たち二人を大きく隔てていた障壁がゆっくりと
消えていくのを感じていく。
 もしその本心を先に伝えてくれていたのならば、自分たちは一緒に
歩めていたかも知れなかった。
 人と人との関わりあいの中では、良くそういう事がある。
 お互いに両想いであったとしても、その気持ち故に真実を時に歪めて
受け取ってしまったり、ささいなすれ違いが重なって決別をしてしまう事がある。
 
「なら、どうしてそれをあの時…言わなかったんだ…?」
 
「言って何になるんだよ…! 君の気持ちはもう決まっていたんだろう!」
 
 澤村が激昂して叫んでいく。
 だが、その瞬間…眼鏡はそっと目を伏せていって静かな声で呟いていった。
 
「いいや、お前にその事を告げた時には…迷っていた。母の望みを叶えたいって
気持ちと…お前と一緒にいたいという願いが、交差してな…」
 
「えっ…」
 
 その瞬間、信じられないという目でこちらを見つめていく。長いすれ違いと
平行線が再び交わった瞬間だった。
 
「…俺は、お前と一緒にいたかった。だから…引き留めてくれれば私立中学に
進学するのは止めようと、そう思って…お前に真っ先に、相談したんだ…」
 
「う、そだ…そんな、の…。けど、結局…君は私立中学を受験して
そっちに進学したじゃないか!」
 
「あぁ…お前が影で裏切ってくれたおかげでな。いきなりクラスで孤立して
いじめを食らうようになって…心が決まったんだ。それでも…卒業式の日までは、
お前とだけは別れるのは寂しいと…それだけが唯一の心残りだった」
 
「そ、んな…じゃあ、僕がした事は…」
 
「そうだ。本当に願っている事と逆の現実を招く事を…お前はやって
しまっていたんだ…」
 
「う、うぁぁぁぁ!」
 
 澤村は佐伯克哉に本当に傍にいて欲しかったならば…私立中学に
進学して欲しくないと己の本心を訴えるか、もしくは彼と同じ学校に進学する
為に死ぬもの狂いで勉強をするかどちらかをするべきだったのだ。
 だが、彼は自分と袂を分かつ選択をしようとしている相手に報復
するような行動しか取らなかった。
 そして間違った方法で自分の存在を相手の中に刻みつける事を
選択してしまっていたのだ。
 その愚かさを、過ちを十五年の年月を経て改めて突きつけられてしまったのだ。
 その瞬間に、堰を切ったように叫んで号泣していった。 
(そう、か…俺たちはただ、すれ違っていただけだったんだな…。こんなにも
長い年月が過ぎて、やっと判るなんてどれだけ皮肉なんだ…)
 
 世の中にはどれだけ本当は両想いであったにも関わらず些細な出来事が
キッカケで壊れてしまう関係があるのだろうか。
 伝え損ねていた言葉や気持ち。
 ほんの少し素直になったり、意地を捨てる事さえ出来れば残っていた筈の
関係が存在するのだろうか。
 恐らくあの一件も、佐伯克哉側が親友だった少年に「一緒にいたい」という
想いをキチンと伝える事が出来ていたならば澤村紀次は必死になって努力して
彼に追いつこうと努力するか、もしくは他の学校に進学しようとする克哉を
説得していたかも知れない。
 澤村紀次も、いじめという手段で自分の胸の痛みを相手にぶつける行為
ではなく、必死になって努力して親友に追いついていればこんなにも長い期間…
自分たちは離れて生きずに済んだのかも知れなかった。
 
―崩壊のキッカケは本当に些末な事で、見落としてしまうぐらいに当たり前の
日常の中に紛れていた
 
 だからこんなのも長い期間、気づかなかった。
 だが相手の言葉を聞いてやっと佐伯克哉は真実に辿り着いていった。
 
「何で、そういってくれなかったんだよ…! その一言を君の口から聞いていたら、
僕は…僕はあんな事、しなかったのに…」
 
「そう、だな…お前に本心を口にして伝えようと努力しなかった。それこそが…
俺の犯した罪、だったのかもな…」
 
 呟きながら、彼はごく自然に…自分が知らない間に犯していた
もう一つの罪状を察していく。
 無条件に相手を盲目的に信じているだけだった。
 一緒にいる間、澤村が何を想い考えているのか聞き出す努力も、理解
しようという努力を怠っていた。
 自分が好きなのだから、相手も好きでいてくれると思い込んでいたのだ。
 その姿勢があの出来事を引き起こしていったのだろう。
 相手を信じることは決して悪いことではない。
 疑う気持ちが強すぎれば、どんな人間関係でも亀裂が生じていく。
 けれど100%常に相手を信じて、一片も疑うことのない姿勢もまた大きな
歪みを生み出してしまうのだ。
 6~7割は相手を信じて肯定し、2~3割程度は相手が本当に
「自分が思っているように」感じているのか疑う心を持つようにすることが
一番良いバランスなのかも知れない。
 もしあの時の自分に彼の心を知ろうとする姿勢があったのならばもしかしたら
ずっと親友のままでいられたのかも知れない。
 だが、そう甘い夢想を抱いた瞬間…眼鏡の脳裏に再び浮かんでいったのは
もう一人の自分と、その周囲にいる人間たちの事だった。
 
(まさか…この段階になってお前の事が浮かぶなんてな…)
 
 克哉の傍にいる人間たち、特に恋人である御堂はスタートは憎しみと
敵意から始まっていた。
 だが、もう一人の自分は彼ととことんまで向き合い、ぶつかりあって…最初は
マイナスのベクトルにあった感情をプラスのものへと転じて、そして今となっては
絆と呼べるものすらその相手と築いていった。
 それに比べて自分は何なのだろうか。
 あいつを認めたくなどなかった。
 今だって反発している部分がある。
 なのに…その気持ちに反して、己の唇は素直な心情が零れていった。
 
「あの時、お前と本音をぶつけあって…ケンカでもしていたら、もしかしたら
今と違う結果が生まれていたかもな…」
 
「そう、だね…。今、思うと…君の本心っていつも見えなかった。それが…
僕には余計に不安だったのかも知れないね…」
 
 長い時間、確かに自分たちは一緒に過ごしていた。
 けれど思い返してみるとケンカをした事があっただろうか。
 本当の気持ちを、感じているままの想いを素直に口にして相手に
接していただろうか。
 御堂と克哉、あの二人を内側で見ていたからこそ自分と澤村の
問題点も見えてくる。
 自分にとって彼は大切な人間だった。
 心から信じるただ一人の存在であった。
 相手に依存しているからこそ、時に意見を違えることがあればあっさり
折れて相手に合わせる事が多くなかっただろうか?
 本音を口にしたら、相手に嫌われると思って言わないで過ごしていた事
ばかりではなかっただろうか?
 そうして顔色を伺って本当の意味で心を触れあわせる事なく上辺だけの
笑顔を浮かべて接している。
 それが自分たちの関係ではなかったのだろうか…と振り返ってようやく
気づいていった。
 気づいたら、眼鏡の目元にも静かに涙が浮かんでいく。
 それは押し殺していた感情が、心が解放された瞬間でもあった。
 
―あぁ、俺は…やっと、泣けたんだな…。この件で、ようやく…素直に…
 
 凍っていた心がゆっくりと氷解していった。
 お互いに泣いて、悔やんで…振り返って、ようやくあの当時は気づけなかった
色んな真実が判ってくる。
 気づいたら眼鏡の姿もまた子供の姿に…12歳の時の容姿に戻っていた。
 
「克哉、君…本当に、ごめんなさい…!」
 
「………………」
 
 心から悔やみながらかつて親友だった少年が必死にしがみついて…眼鏡に
抱きついて謝罪していく。
 嗚咽を必死に噛み殺して、背中を小刻みに震わせているその仕草が
演技だとはとても思えなかった。
 眼鏡はそっと目を伏せてその抱擁を受け入れていくと…自分からも
抱きしめ返していった。
 
「もう、いい…。お前の本心も、それを心から悔いているのも判った。そして
俺は…お前を決して忘れない。だから…もう、前に進め…紀次…」
 
 そして、その状態で相手を赦す言葉をもう一度口にしていく。
 相手が心からの謝罪をするならば、こちらもまた…相手を罪の意識から
解き放つ為にそう告げていった。
 その瞬間、眼鏡の身体がゆっくりと透け始めて…大気へととけ込んでいった。
 淡い花弁が風に舞い散る中、少年の姿は柔らかい光を放ちながらその
輪郭を失っていった。
 光が、満ちる。自分の中の憎しみの感情は消えていくのを感じていった。
 
「克哉君っ…?」
 
「気に、するな…。これは自然な事だからだ…」
 
「け、けど…君の身体が消えて…! 嫌だよ、せっかく分かり合えたのに
どうして消えちゃうんだよ! いなくならないでよ克哉君! 僕には君が
必要なんだ! もう一度…僕は君との関係をやり直したいんだ! 親友として…
君の傍にいたいんだよ!」
 
「あり、がとう…」
 
 そう言われた瞬間、嬉しさが満ちていくのが判った。
 けれどそれはもう果たせない。
 彼と一緒にいられたらどれだけ良かったのだろうか。
 きっともう少し早ければ…もう一人の自分と御堂と出会う前にこうして
澤村と和解することが出来たならきっと自分はこの手を取っていただろう。
 けれど…今はその願いを叶えることは出来なかった。
 今、現実に生きている佐伯克哉はもう一人の自分の方だから。
 自分は結局は光を得られなかった人格に過ぎない。
 澤村と親友としてやり直す為には、克哉の人格を閉じ込めて…自分の
人格を表に出して生きていくしかない。
 その事を考えた瞬間に脳裏を過ぎったのは…御堂の顔だった。
 
(あんたは俺の事など想っていないだろう。あんたにとっては佐伯克哉は
あいつであり…俺ではない。俺が生きることを選択すれば悲しませることに
なるから…だから、俺はこのまま静かに消え去ろうと思う…)
 
 そう、御堂が自分の事など好きじゃなくても…もう一人の自分が愛した
人間ならば、眼鏡にとっても彼は大切な人なのだ。
 違う人格同士と言っても根っこは繋がっている。
 そして意識していない領域でその感情は影響を与えている。
 澤村の事を大切に想う感情に嘘はない。けれどそれ以上に…今の眼鏡は、
あの二人を不幸にしたくなかった。 
 自分の我侭で引き裂きたくなどなかったのだ。
 こんな想いを抱く日が来るなんて考えたこともなかったが…それが
彼の正直な気持ちだったのだ。
 
「さようなら…紀次。次は、もう…間違えるなよ…」
 
「克哉君! いかないで! うあぁぁぁ!!」
 
 透明な笑顔を浮かべていきながら、少年の姿をした佐伯克哉は
ゆっくりと光の中へと溶けていった。
 その瞬間、澤村紀次の絶叫がその場に轟いていく。
 涙を伴う、悲しい別れでもあった。
 けれど人は…本当に大切な人を失った、その痛みを伴わなければ
己を省みて…そして変えていこうとまではなかなか思えないものだ。
 別れは辛くて悲しいけれど、人の意識を変えるキッカケにもなりうるものだ。
 そして…眼鏡は、最後に相手を赦して罪の意識から解放していきながら…
静かに消えていった。
 
―あの日と同じ、桜が舞い散る光景の中で…

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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