忍者ブログ
鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
[52]  [53]  [54]  [55]  [56]  [57]  [58]  [59]  [60]  [61]  [62
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

御克前提の澤村話。テーマは桜です。
  桜の花が舞い散る中、自分という心が生まれる前のことを
探り始める克哉がメインの話です。後、鬼畜眼鏡Rではあまりに
澤村が不憫だったのでちょっと救済の為に執筆しました。

 桜の回想                      10  
         11  12  13  14 15  16  17   18 19  20
         21     22  23 24  25  26  27 28 29  30
         31


 
―あの日から一日だって忘れたことがない存在だった。
 澤村紀次。
 自分にとっては幼い頃から小学校卒業の日まで一番の親友だと
信じ続けていた相手。
 
―そういえば決別した日も、こんな風に桜が満開だった事を思い出していく。
 
 ヒラヒラと淡い色の花弁が空中でダンスを舞っているかのように
鮮やかに舞い散る。
 その様を遠い目で見つめていく。
 
「克哉、君…?」
 
 目の前の相手が、こちらを信じられないという眼差しで見つめてくる。
 あれから15年が経つが、少年だった頃の面影は目の前の青年に
確かに残っている。
 お互いに相手の成長過程を横で眺める事はなかった。
 中学、高校時代と思春期に一度だって言葉を交わすことすらなかった。
 その存在自体を重い蓋で封じてしまったかのように。
 彼の事は極力考えないようにしてきたし、思い出してもすぐに振り払うようにしてきた。
 それだけ澤村という存在は、佐伯克哉にとっては深い傷に関わる…トラウマを
与えた人間だったから。
 それなのに実際にこうして対峙してみると、思ったよりも平静な態度で望めている
自分が少し不思議だった。
 
(思っていたよりも…胸の痛みも、何も感じないものだな…)
 
 憎しみも、怒りも時間と共に風化するものだ。
 その当時は心が引き裂かれてしまいそうな痛みや傷だって時の流れが
ある程度は癒してくれる。
 こうして顔を合わせれば、耐えきれないほどに苦しい気持ちになると予想
していただけに、自分でも少し拍子抜けだった。
 
「…久しぶり、だな…」
 
「ああ、そうだね…本当に久しぶりだね。ちゃんと僕に反応する君と顔を
合わせるのは…。僕の事など知らない、と散々繰り返していた君とは…
まるで別人だね、克哉君…」
 
 痛烈な皮肉を込めていきながら相手がそう答えていく。
 両者の間にある感情は、好意や友情、懐かしさといったプラスの
ものではなかった。
 むしろ宿命のライバルや、天敵と顔を合わせた時のような鋭さや警戒心が
二人の間には存在していた。
 
「あぁ、実際に別人だと言ったらお前は信じるか…?」
 
「はは、良く似たそっくりさんが二人いるとか、君は実は双子だったとかそんな
オチでも言うつもりかい? そういう冗談を口にするようになったとは…ちょっとは
君は以前とは変わったのかな?」
 
 そういって、目は鋭いまま…口元だけ軽く上げている冷笑の表情を澤村は
浮かべていった。
 そんな荒唐無稽な言い訳、頭から信じる気はないという強固な態度だった。
 だが眼鏡は相手をねめつけるように見つめていきながら、相手にとっては
予想外の言葉を放っていく。
 
「あぁ、お前の言う通りだ。お前のことを知らない、覚えていないと繰り返している
『オレ 』は、俺の別人格。俺であって、俺でないものだと言ったら…お前は果たして
どんな反応をするんだろうな?」
 
「なっ…!」
 
 まさか眼鏡が肯定するとは思ってもみなかったのだろう。その発言に対して
澤村は完全に虚を突かれた形になっていった。
 因縁深い相手から、素の驚きの感情を引き出したことで眼鏡は若干…
優位に立てた気がした。
 
(…どうやら先手は俺の方が打てたみたいだな…。さあ、ここが本当の
正念場の始まりだな…!)
 
「き、君ってさ…暫く見ない間に頭とか考えが随分とおかしくなってしまったんじゃ
ないの? 僕の知っている君だったら絶対にそんな世迷い事は言わなかった筈だよ?」
 
「…あれからどれくらいの時間が経過していると思っている? 15年も
過ぎているんだ。…いつまでもお前の知っているままの俺とは決して思うなよ。
…それとも何か、それだけの月日が流れていても、お前はまったく自分は
変わっていないというつもりか?」
 
 そうして哀れみと嘲りの表情を込めて、かつて自分を消そうとまで思った原因を
作った存在を見つめていく。
 
「…そんな目で、僕を見るな!」
 
 その視線が自分を見下す感情がマジ手炒るものと本能的に察したのだろう。
 澤村が弾かれたように顔を上げて…こちらを睨み付けてくる。
 
「…本当にお前、変わっていないな…。あんな子供じみた真似をした時のままだ…」
 
「何を! 僕がいつ子供じみた真似をしたというんだ?」
 
「…ガキらしい行動だろう? 自分の傍にいる人間に妬んで、その人間を
嫉妬して貶めて…周囲の人間に悪口を振りまいているなど。責任転嫁と、
身勝手に富んだ行為だ。そんなにそいつが目障りだったら、実力で勝って
打ち負かすという手段だってあるのに…安易な行動を取っているだけじゃないか」
 
「どこが安易な行動だっていうんだ! 君に気づかれないように人をコントロール
するのって相当に大変なんだよ? どれだけあの頃の僕が細心の注意を計って
いたと思っているんだよ…!」
 
「なら、お前に問おう…。もっとも親しかった俺に対して、そんな行為をしたお前に…
あれから本当に、心から信頼出来る存在は出来たのか…?」
 
「っ…!」
 
 その一言を問いかけた瞬間、澤村の瞳がギロっと怒りに燃えていった。
 正鵠を突く、とはまさにこの事だった。
 
「そ、それがどうしたって言うんだよ! 君には関係ないだろう!!」
 
 その瞬間、憎くてしょうがなかった存在は…駄々っ子のように感情を
露にし始めていく。
 
「…いいや、関係あるな。俺はお前の裏切りに傷つけられた当事者だ。あの時の
行為に対してお前を詰り…責める権利ぐらいはあるんじゃないか?」
 
 そう言葉を続けながら、頭の中に浮かぶのは御堂ともう一人の自分との
関係のことばかりだった。
 そしてそんな彼らの傍にいてくれる信頼できる友人達の顔だった。
 15年前、あの裏切りを受けた直後は自分は誰との間にも本当の信頼関係
というものを築けていなかった。
 だから基本となるものを知らなかったから、判らなかった。
 信頼とは、本当に大事にしなければならない人間とは…親友と呼ぶに値する
存在というのはどういったものであったのか。
 
(俺は…お前に、本当に負けてしまったんだな…。お前は御堂という存在を得て、
俺の傍には…俺が改めて生きたあの短い期間に…俺は、誰とも絆を
作り出せなかった…。だから、俺の生は…じきに終わる。これからは…
お前の影となって、ただひっそりと融合していくのみだ…)
 
 トラウマの主である澤村と対峙しながら、少しずつ憎しみも何もかもが
風化していくのを感じていく。
 自分の輪郭が、一瞬消えていくのが見えた。
 眼鏡は、ただ…透明な表情を浮かべながら…相手を見つめていった。
 
―澤村紀次は、親友と呼ぶに値する人間では元々なかった。それが彼の
導き出した最終的な結論だった
 
 切磋琢磨し、お互いに高めあっていく姿勢を崩さない御堂と克哉。
 それに比べて…相手の心の痛みに気づかず盲目的に信じ続けていた自分と、
影でこちらを嘲笑いながら裏切り続けた澤村は何とレベルが低いことだろう。
 自分の実力を高めていくよりも、人を貶めることの方が遥かに容易い。
 知識を増やし、出来ることを増やしていって…新たな場所に飛び出していったり、
見識を広めたり豊かな人間関係を作り上げていくには、向上していく意思や強い心を
養っていくのが不可欠だ。
 あの二人を内側から見続けて、やっとそれが判った。嫌でも知ってしまった。
 明確な基準を、物差しとなるものが傍にあったからこそ…長い年月を経て振り返り、
やっとそんなシンプルな回答に辿り着いた。
 心の中で少しずつ、何もかもが整理させて遠くなっていく。
 長い沈黙の後、澤村は小さく問いかけていく。
 
「…なら君は、今更僕をどう責めるというんだよ…。あれから15年も過ぎて
いるんだよ…昔の事をほじくり返して、ネチネチと責めるなんて少し幼稚
なんじゃないのか…?」
 
「ククッ…お前の口から幼稚という単語が出るとは、な…。まあ良い…一つ
言ってやるよ…お前はもう、憎むに値しない。俺は小学校の卒業の時に告白した
お前の罪を許そう。いつまでもそんな瑣末の事に関わっているだけ時間の無駄だ…」
 
「っ! 何だって…!」
 
 その一言を放った瞬間、澤村の顔色が変わっていった。
 明らかに、ショックを受けているようだった。
 
「ちょっと待ってよ…克哉君、それは正気で言っている事なの…?」
 
 明らかに今の彼の一言に大きな狼狽を隠せない様子だった。
 だが、眼鏡の方は決して撤回をする事はなかった。
 
「ああ、もう15年も経っている。そして…俺はいつまでもガキのままではない。
…あんな子供の頃に起こった事に拘り続けて、囚われているなど御免だ。
だから全てを水に流してやる…。だからお前もとっとと忘れろ…」
 
「そ、んな…」
 
 それはかなり投げやりであったが、一応は許しの言葉の筈だった。
 だが、眼鏡の発言を聞いた瞬間…見る見る内に、澤村の表情が大きく歪んで…
涙さえ滲ませ始めていった。
 
「な、んだよ…それ。どうして、今更…そん、な…」
 
 明らかに動揺を隠せず、途方に暮れた表情を浮かべて…澤村は
立ち尽くしていった。
 それは決して二十七歳の大人の男の姿ではない。
 あの頃と同じ…小学生の少年を思わせる、幼い顔だった。
 
「…どうした? お前のした事を許してやると言ったんだ…? もう少し
嬉しそうな顔を浮かべても良いんじゃないのか…?」
 
「そ、んなの…喜べる筈、ないだろう…? 僕の存在は、そんなに…君にとって、
どうでも良くなって…しまったのか…?」
 
 澤村の声が、だんだん絶望の色に染まり…涙声に近くなっていく。
 仮面が、剥がれていく。
 彼を影で裏切り始めた頃からゆっくりと形成されていった偽りの顔が。
 そして…長年覆い隠されていた、本当の気持ちが…ゆっくりとかつての
親友の口から零れ始めていった。
 
「…嫌だよ、僕を忘れないでよ…克哉君。君が、君が遠くの中学校に行くなんて…
僕には追いかけることが出来ないぐらいに偏差値とか高くて、遠い処にある
私立中学に進学するつもりだって、そんな事を打ち明けるから…だから、僕は…」
 
「…澤村?」
 
 相手の豹変振りに、眼鏡の方が面食らっていく。
 確かに小学校五年の終わり頃、自分は上を目指したくて相手にそう
打ち明けた事があった。
 この近くの中学では学べることは限られていると。
 あの頃の佐伯克哉は何もかもが出来る有能な少年だった。
 だから上を目指して、そう発言した記憶はあった。だが…相手の口からその
一言が漏れて、眼鏡はようやく…全ての発端がどこから始まっていたのか、
その始発を見つけた気がした。
 
「僕は、君の傍にいたかったんだ…なのに、君は僕から離れようとする…。だから、
一生忘れることが出来ないように、君の中に…僕を、刻みつけようとしたんだ…!
 それなのに、どうして許すなんていうんだよ! そうして僕の存在を君は
遠いものにするつもりなのかよ!」
 
 澤村はついに、長年秘め続けた思いを口に上らせていった。
 それを聞きながら…眼鏡はある種の哀れみの感情を浮かべていった。
 
(これが…俺が信じていた者の、正体か…)
 
 本当に、幼稚だった。
 けれどその奥に…歪んでいながらも、確かな好意や執着もまた存在していた。
 恐らく…まだ小学生だった頃の澤村なりに必死に考えたことだったのだろう。
 必死に努力しても追いつけない、何一つ勝ることが出来なかった幼馴染み。
 彼に追いつこうとしても決して手が届かず、顔を合わせれば賞賛していたが…
心の奥底では嫉妬の感情が静かに降り積もっていた。
 そして彼は…自分の元から相手が離れていく、その一言を聞いた時に…
暗い衝動に負けてしまったのだろう。
 それが、全ての発端。幼い澤村を裏切りへと走らせた動機。
 
―そして澤村は泣いていた。あの日のように…こちらを見つめていきながら、
顔をクシャクシャにして、無理に笑う…あの顔を、浮かべていた。
 
 それはまるで、小学校の卒業の日を15年の歳月を経て再現しているような…
そんな錯覚を覚えていった。
 そしてもう一度、謎の男が設えた舞台の上で…自分が眠り、もう一つの人格が
生まれた因縁の日が再生されていく。
 あの頃よりも沢山のものを見て、学んで来た。
 その上で…眼鏡はギュっと唇を噛み締めて口を閉ざしていきながら…自分の
考えを纏めていき、最良と思われる答えを自分の中から導き出そうと試みていく。
 
―そうして、もうじき…この舞台も終幕の時を迎えようとしていたのだった―
 
 
 
 


PR
 という訳でもないですが、出勤中とか休みの日に
ボチボチ本を読んでおります。

 それで心理学とか、精神分析や…自己啓発系の本も
改めて目を通しているのが多かったっす。
 んで…ま、水面下でここ数ヶ月色々あったんですが
最近知り合った人とちょっと会話してて思ったこと。

 人ってさ、一人ぼっちを実感している時って寂しいから
人に迎合してしまうけれど。
 自分押し殺して、本音殺して合わせて…思っている事を
言えないで人に好かれて何になるのかな~と
最近思うようになった。

 沢山の人に囲まれても、本当の事を言えないのは悲しい。
 自分が自分のままでいることで、相手を傷つけて劣等感を
与えてしまうのは辛い。
 本当の事を言えなくて。
 本当の自分を隠して。
 そうしなければ付き合えない相手が「友人」であり
「親友」と呼べるんだろうかって。
 桜の回想を書いているからでしょうか?
 佐伯克哉と澤村紀次の事を深く掘り下げて考えているからでしょうか?
 最近良く、本を読みながらこの二人の事を考えます。

 …とりあえず32話は、そんな自分の想いが出た話になります。
 そしてメッチャ、長くなるねん(汗)
 けど32と33話はこの長い連載の主軸になる話なので頑張ります!
 一話書くのに2~3日掛かる程度のスピードですみませんが
完結までお付き合い頂けたらと思います。では…!
     御克前提の澤村話。テーマは桜です。
  桜の花が舞い散る中、自分という心が生まれる前のことを
探り始める克哉がメインの話です。後、鬼畜眼鏡Rではあまりに
澤村が不憫だったのでちょっと救済の為に執筆しました。
 現在終盤真っ最中です。

 桜の回想                      10  
         11  12  13  14 15  16  17   18 19  20
         21     22  23 24  25  26  27 28 29  30

 佐伯克哉は気づけば、漆黒の空間に横たわっていた。
 一切の光源が存在しない程の暗闇。
 今、自分がどこにいるのかさえ方角を見いだす事すら困難な場所だった。
 
「…ここは一体、どこなんだ…?」
 
 前後の記憶がはっきりせず、どんな経緯でこの場に自分が倒れていたのかが
まったく思い出せなかった。
 身体が鉛のように重くて、満足に動かせない。
 四肢にも5キロぐらいの重しがつけられているかのようだった。
 泥の中から這い上がって、地上に出たかのような感覚だった。
 何もかもが面倒で、かったるくて…何か考えたり、身体を動かすのも
億劫なくらいだった。
 寒いとも暖かいとも感じられない。
 空気の動きすら、殆どない状態だった。
 
「それに、御堂さんも『俺』も…一体、どこにいるんだよ! 
話が違うぞ! Mr.R!」
 
 周囲に何も、誰も存在しない事を確信していくと大声で黒衣の男に向かって
そう訴えかけていく。
 あの男は間違いなく、これから始まる舞台に…滑稽な一幕にこちらを招くと
言っていた筈なのに…。
 しかし克哉の声は空しくエコーを繰り返して、ゆっくりと遠くなっていくのみだ。
 この世界で自分一人しかいないような、そんな恐怖がジワリと湧き上がってくる。
 
「誰も、いない…のか…?」
 
 そして暫く何の反応もないままなので、空虚感を覚えて克哉はその場で
うなだれていく。
 
「御堂さん…『俺』…! 一体、どこにいるんだよぉ!」
 
 耐えきれずに克哉は絶叫しながら、安否が気になる二人に訴えかけていく。
 また無駄に終わるかも知れないと分かっていても、それでも叫ばずには
いられなかった。
 彼らがどうしているか知りたい、顔を見て確認したいと願う気持ちが急速に
湧き上がっていった。
 
―私は、ここにいるぞ…克哉…
 
 ふいに、背後から気配を感じて…克哉はぎょっとなっていく。
 相手の声がした方角にとっさに振り返ろうとした瞬間に…克哉はいきなり、
四つん這いの格好にさせられて地面に転がされていった。
 
「っ! 何が…うあっ!」
 
 いきなり下着ごとスーツのズボンを引き下ろされて…臀部が外気に
晒されていった。
 ぎょっとなった瞬間、ペニスに骨ばった指先が絡みついて的確にこちらの
快楽を引き出していった。
 
「な、何をするんですか! 孝典、さん…!」
 
 辺りは真っ暗なのと背後から触れられているせいで、今…自分に淫らな
行為を仕掛けて来ている人物の顔は見えない。
 けれど愛撫の仕方や、息づかい…そしてその体臭から、御堂に間違いないと
克哉は確信している。
 だが、こんな場所で見境なくこちらに襲いかかってくるような事をあの人が
果たしてやるだろうか。
 
(俺に触れているのは間違いなく、御堂さん本人に間違いない…! けど、
どうしてこんな事を…?)
 
 確かに時に御堂は獣のようにこちらを犯してくる事がある。
 だが、いつだって状況とか克哉の反応を読んだ上でだ。
 こんな風に一方的に、まるでレイプをするかのように強引には暫く仕掛けられて
いなかった為に、胸の中には困惑だけが広がっていった。
 
「孝典、さん…どうし、て…! うぁ、ああっ…!!」
 
 克哉が逡巡している間に、御堂の性器がこちらの隘路を割り開いて
奥まで侵入してくる。
 正式に付き合いだしてから、数え切れないぐらい御堂に抱かれ続けてきた
身体は唐突な挿入でもあっという間にそれを飲み込んでいってしまう。
 ズンズンと激しく腰を突き上げてくる。
 激しいリズムに、まともに呼吸すら出来なくなってしまう。
 
「やっ…あっ…そんな、に…激しく…んあっ!」
 
 躊躇うように何度も腰を捩らせていくが、背後にいる御堂は一切容赦しなかった。
 激しい律動に一方的に付き合わされている状態で、服の隙間に両手を
忍び入れられて…すっかり尖りきった胸の突起を執拗にイジられ続けていった。
 それだけで頭の芯が痺れて、おかしくなってしまいそうだった。
 そうだ、いつだって御堂とのセックスは気持ちが良すぎて…こうして抱かれて
しまったら、他の事など何もかもどうでも良くなってしまう。
 この快楽をいつまでも味わっていたくなる。
 仕事も、他の人間の事も頭の中から吹っ飛んで、ただ御堂とその与えられる
感覚以外は考えられなくなる。
 接合部からはグチュグチュという淫猥な水音が激しく響き続けて、聴覚までも
犯されているようだった。
 
「お願、いです…孝典、さん…何か、何か言って…下さい…! どうして、
こんな一方的に…んはっ!」
 
 懇願の声を挙げていくが、背後の御堂は何も応えない。
 状況を詳しく知ろうにも辺りが暗すぎて、何も分からない。
 しかもこんなバックから貫かれたら、相手がどんな表情をしているのか…
それすらも見る事が叶わなかった。
 
「ん、んんん…せめて、お願い、ですから…何か…言って、下さい!」
 
 もう一度、心から相手に訴えかけていく。
 その瞬間…激しかった律動がピタリと止んで、呻くような声が静かに漏れていった。
 
「克哉…私の、克哉…」
 
「っ…!」
 
 そうしてようやく聞こえたその声は、どこかか細くて切ないものだった。
 まるで迷子のような、どこか弱々しい口調に急速に克哉の心に哀れみの
心が広がっていく。
 
「孝典、さん…」
 
 克哉は相手の顔を見ようと、必死に身体を捩って相手の方に顔を
向けようとした。
 殆ど視界が効かない中、それでも相手の目元だけは辛うじて確認できた。
 大いに迷って、混乱しているような…そんな色合いを帯びていた。
 こんな弱々しい御堂を見たことなど、付き合い初めて二年以上になるが
今までに殆どなかった。
 
「離れない、でくれ…私には、君だけ…なんだ…」
 
「どう、したんですか…一体…?」
 
 先程まで、あれだけ荒々しくこちらを犯していた相手ととても同一人物に
など見えない。
 まったくの別人のようだった。
 
「君がいなければ…私、は…」
 
「大丈夫、です…オレは、貴方の傍に…ずっと、いますから…」
 
 そうして克哉は四つん這いにさせられてバックから深々と貫かれている
苦しい体制で、必死になって相手の方に向き直っている。
 はっきりと相手の顔を見ることは出来ない。
 けれど、相手が泣いている事だけは流れている空気で伝わってくる。
 
「ずっと、私の傍にいて…くれるのか…?」
 
「えぇ、オレは貴方から…絶対に、離れません…」
 
 そう克哉が呟いた時、こちらの手に御堂の手が重ねられていくのが分かった。
 その瞬間、視界が突然目映く輝き始める。
 それは白の統一された豪奢な部屋だった。
 室内に流れる空気はどこか甘い花の香りが漂っていて、調度品の一つ一つは
溜息が出る程立派なものばかりだった。
 真っ白い革製のソファに、王侯貴族が使用しているかのような豪奢な
天蓋付きのキングサイズのベット。
 そして壁と柱は、良く磨かれた大理石で作られ…地面にはフカフカと柔らかく暖かなカーペットが敷き詰められていた。
 
 
「こ、の部屋は…? っ…これは…!」
 
 突然、情景が変わった事に呆然となっていると…いつの間にか首元に
長い鎖に繋がれた首輪がつけられている事に気づいていった。
 御堂は全裸ではなく、ボタンを全部外した状態でYシャツだけを羽織り…
スーツのズボンを身に纏っていた。
 だが髪が軽くほつれている状態で、衣類が乱れている御堂の姿は思わず
息を呑むぐらいに強烈な男の色香が漂っていて…愛しい男性の姿に釘付けになっていく。
 
「克哉…君は私の傍に、ずっといてくれると言ったな…。なら、私とこの楽園で
二人で永遠に生きよう…。君さえ望んでくれれば、私たちの楽園は成立する…」
 
「孝典、さん…? 一体、何を言っているんですか…?」
 
 完璧な現実主義者である御堂の口から漏れたとは思えない言葉だった。
 確かに克哉の中に、御堂と二人だけで生きていきたいという願望は
存在している。
 仕事もその他の人間関係の全てが、この人と愛し合っている時だけは
煩わしく思う事さえある。
 克哉にとって御堂孝典という存在はそれだけ愛おしく、ここまで惚れ抜いた
人は後にも先にもきっと存在しないと言い切れる程だ。
 
(二人だけの楽園だなんて、そんなの…成立する訳が、ない。そんな
夢物語を、どうして…)
 
―いいえ、夢物語ではありません。貴方達二人の意志と…私の力が
あれば実現可能ですよ…
 
「っ…!」
 
 ふいに脳裏にMr.Rの声が鮮明に聞こえてくる。
 
「克哉…私と、共に…生きよう。ずっと…二人、だけで…」
 
 そして黒衣の男の声と、愛しい人の声が重なり…克哉を夢幻の中でしか
存在しない楽園へと誘おうとしていた。
 
「…孝典、さん…Mr.R…。本当に、そんなものが存在する筈がないのに、
どうして…」
 
―いいえ、実現出来ます。愛しい方と二人きりだけでいつまでも生きられる世界は…
貴方が、今望みさえすれば…もう手に届く範囲に存在しているのですよ…
 
 必死になって否定して、その誘惑から逃れようとした。
 だが、男はそれを許さないというように更に言葉を重ねていく。
 
「オレ、は…」
 
 そして克哉はついに心がグラつき始める。
 その瞬間、Mr.Rは愉快そうにほくそ笑んだ。
 
―さあ、楽園の扉は目の前に存在していますよ…?
 
 それは男の望みを叶える為に用意された最大の罠でもあった。
 この御堂もまた、この男が生み出した偽りだった。
 真実を見抜かない限り、このまま楽園という名の奈落に落とされてる
瀬戸際に今…克哉は立たされていた。
 
(御堂さんと二人で、他の事を一切考えずに二人で生きられる…)
 
 そう考えた瞬間、甘美な想いが克哉の中に満ちていく。
 この世で一番愛しい、大切な人。
 日々の業務と与えられた役職に満足している。
 公私ともに御堂のパートナーとして隣に立っている事に誇りを抱いている。
 だが、その奥に貪欲な心は常に隠されていて…心の奥底では、御堂だけを
求めて止まない部分がある。
 この人の事だけを考えて生きたいと、そして自分だけを見ていて欲しいと望む
…貪婪な欲望が男からの問いかけで、ジワリと浮き彫りになった。
 
―さあ、佐伯克哉さん…どうなさいますか? この好機は生涯に一度…
この瞬間にだけ存在するもの。断れば二度と開かれることはありませんよ…?
 
「オレは…オレは…」
 
 どこまでも芳しく、甘い誘惑だった。
 そして克哉はきつく背後の御堂に抱きしめられていく。
 その瞬間、身体の中に収めた御堂の剛直が…的確に克哉の中を
刺激していった。
 
「うあっ…あっ…!」
 
 そして御堂と、この快楽の事以外は考えられなくなり…甘ったるい嬌声が
口から零れだしていく。
 思考が、停止していく。
 何も満足に考えられなくなり…判断力も失いかけていく。
 
―そうして、Mr.Rが仕掛けた最大の策略は静かに幕を開けて…克哉は、
今…最大の岐路に立たされようとしていたのだった―

  

 現在、31話執筆中。
 後もう少しで書き上がるので…明日の朝までくらいには
アップ致します。

 とりあえずラストをどうするのか、自分の中で組みあがったので
別ジャンルに関連するイベントも無事終わりましたし…こちらに専念して、
この随分と長い期間に跨ってしまった連載をまずは近日中に完結させます。
 後、もう少しだけお付き合い頂ければと思います。
 では、今夜はこれだけですが失礼致しますね。
 おやすみなさいませ(ペコリ)
※本来の予定より若干遅れての掲載になります。
 御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
                    10  
         11  12  13  14 15  16  17   18 19  20
         21     22  23 24  25  26  27 28   29


 ―見れば見るだけ、この空間はあの忌まわしい小学校とそっくりすぎて、
確認の為に敷地内を歩いているだけで不快感が湧き上がってくる。
 校舎も、体育館もグラウンドも…周囲に見える光景ですら何もかもが同じだった。
 しかも、目の前には桜の花が見事に咲き誇っている。
 今の時期なら、まだ咲き始めでしかない筈なのに…こんな所までがあの日と
同じである事に、眼鏡は軽い憤りを覚えていった。
 
「何故…あの男はこんな舞台を用意したんだ…。あまりにもこれは手が込み
過ぎている…」
 
 あの男が何を意図して、画策しているのかがまったく読めない。
 だからこそ眼鏡は酷く苛立ちを覚えていた。
 あの満開の桜が舞う日…自分は消えたくなる程の衝撃を覚えた。
 その出来事を鮮明に思いだし、克哉は遠い目を浮かべていった。
 
「紀次…」
 
 瞼の裏に無理矢理笑いながら、顔をクシャクシャに歪ませて泣いていた
親友の面影を思い出す。
 あんな風に知らないうちに彼を苦しませていた事に気づかなかった
自分を許せなかった。
 自分が傍にいたことで、ありのままの自分でいる事にあんな風に苦痛を
覚えさせていたというのなら、いっそ自分などこの世からいなくなって
しまえば良いと願った。
 
「お前があの日、泣かなければ…あんな風に苦しそうに事実を告げたり
しなければ…俺はお前を、憎めたのにな…」
 
 そう、笑いながらあの事実を告げただけならば…自分はきっと相手を
憎んで報復するだけで終わった。
 自分を消そうとまでは、もう一つの心を生み出すまでには
至らなかっただろう。
 無条件で信じていた期間が長かったからこそ、あの涙を見た時…憎しみよりも、
罪悪感の方が勝ってしまった。
 
―だから、消えたいと思った。自分がいる事で…彼を苦しませるぐらいなら、
痕跡もなく消えたいと願った。その心がきっと…あの弱くて情けない自分を
生み出したのだろう…
 
 目の前で桜が舞い散っていく。
 その風景を眺めていきながら…今から15年前に起こった忌まわしい
出来事を振り返っていった。
 煙草を口にくわえていきながら、眼鏡は物思いに耽っていった。
 
「感傷、だな…」
 
 あれから長い年月が流れている。
 Mr.Rが解放の為の眼鏡を携えてもう一人の自分の前に現れ…そして
目覚めてから、二年余り。
 あの当初に胸の中に宿っていた黒い衝動や、この世の全てを憎んでいるような…
そんな闇は、いつの間にか自分の中から失せていた。
 自分はもう、そんなに長く保っていられない。
 本来は仮面だった方の人格がこの世界に居場所と、大切な人間を得て…
本人格であった自分が、影となって消えていく。
 それなのに…今の自分には、その現実に怒りすら覚えなかった。
 一種の達観と諦念にも似た想いが胸の中に去来していく。
 自分の居場所は、どこにもない。
 愛する人間も、大切だと思える場も…あの眼鏡を得て解放された短い期間で、
自分は何も得ることは出来なかった。
 
(正直…俺はお前を、見下していた…。情けなくて弱い奴だと、甘くて軟弱な
性格をしていて何も成す事が出来ない性格だと…。だが実際は、逆だった…。
俺が甘さと見下していたものは…お前の優しさであり、それがきっと…
お前の周りに多くの人間を惹きつけていった…)
 
 認めたくなかった事実が、何故か今なら素直に受け入れられた。
 自分になくて、もう一人の佐伯克哉にあったもの。
 それはきっと情けや、情と呼ばれるものだ。
 確かにそれが度を過ぎればズルい人間につけ込まれたり
優柔不断などに繋がるが…傷ついて弱った時に優しくして貰ったり、
労られる事で人はその人間を信頼する。
 人の痛みに共感して、耳を傾けながら相槌を打つ。
 本当に苦しんでいる時、傷ついた者が求めているのはそんな単純な行為だ。
 そして自分にはそれが出来ず、もう一人の自分には当然のように行える。
 それが、自分とあいつの差なのだろうか…? そう考えた瞬間、
子供の頃の自分が…胸の中で泣いているような気がした。
 
―もし、あの日の自分が…誰かに傷を打ち明ける事が出来たら、もしくは…
あいつみたいなお人好しが、こちらの傷を労ってくれていたら…これだけ長い期間、
自分は眠り続けていたのだろうか…と思った。
 
 馬鹿馬鹿しい、と思った。
 けれど…長い年月がすでに過ぎ去った今は何もかもが遠くて…憎しみの
感情すら、輪郭を失いつつある。
 自分を消したいとすら思った後悔の念も、相手を殺したいとすら思った
憎悪すらも…15年という年月を経れば塵芥へと変わっていくのだろうか。
 
「なあ、どうして…俺達はこんな結末を迎えてしまったんだ…?」
 
 そして自分の心の中で、あの日の痛みがすでに鈍くしか感じられなくなり…
遠いものになったからこそ、眼鏡は一つの疑問を覚えていく。
 自分を殺せば良かったのだろうか?
 出来るのに出来な振りをして何か一つぐらい相手に優位に立たせるように
していけば、あの別れは起こらないで済んだというのか…?
 そう考え始めた瞬間、もう一人の自分と御堂の関係が鮮明に頭の中に
浮かんでいった。
 
―その瞬間に、自分の中で一つの答えが導き出されていく
 
 バラバラだったパズルのピースが、あの二人の在り方を思い出しただけで
一瞬にして自分の中で組み上がっていく。
 その瞬間、喉の奥から笑いが漏れていった。
 滑稽だったし、痛烈なものすら感じた。
 自分と、澤村の関係。
 もう一人の自分と御堂との関係。
 それはまるで鮮やかなコントラストのように真逆で、正反対のものだった。
 
「…そうか、そうだったんだな…。だからあいつが生きて、俺は…今、こんな
有様になった訳か…」
 
 胸の中に悔しさのようが浮かんでいくが、同時に納得しつつあった。
 今まではどこかで認めたくない気持ちがあった。 
 受け入れたくない、反発する気持ちが存在していたからこそ…あがき
続けていた部分もあった。
 だが、見えてしまった以上は何もかもがどうでも良くなった。
 
「…はは、無様だな。何て事はない…あの頃の俺は人を見抜く目も、傍に
置くべき人間の選択もどちらも、間違えていただけか…」
 
 何もかもを享受してそう呟いた瞬間に、大量の桜の花びらが鮮烈に
風に舞っていく。
 それは花吹雪と形容するに相応しい光景だった。
 そのせいで一瞬、全ての視界が霞んで何もかもが覆い隠されていく。
 眼鏡は目に埃や花びらが入らないように庇う為に腕を眼前に翳して庇っていった。
 そしてその花の吹雪が収まった後、其処に立っていたのは…。
 
「紀、次…」
 
 視界の向こうに一人の男が立っていく。
 因縁深き存在が、一日たりとも忘れることの出来なかった苦い思い出の
主が其処にいた。
 
「何で、君がこんな所に…?」
 
 相手はどうしてこんな場所に自分がいるのか、目の前に克哉が立って
いるのか理解出来ないといった顔だった。
 
(丁度、良い…全ての因縁を…ここで終わらせよう…)
 
 そう決意して、眼鏡はトラウマの主と対峙していく。
 謎多き男が誂えた舞台の上で、そうして最後の一幕が開始しようとしていたー

 本来なら寄せ鍋パニックを2日分、
それで三日の一日休みの間に桜の回想の30話を
執筆してアップする予定でしたけど…何か昨日
書いた分は納得いかなかったので結局ボツにしました。

 もう数日、時間下さいませ。
 代わりに魔法の鍵や、よせ鍋☆パニックを合間に片付けて
行きます。
 何か相当長期にわたっての連載になっていますけど…
後、もう少しで終わりの予定なのでお待ち下さい。
 一話書くのにこれからは恐らく一時間半から二時間前後は
掛かっていくし、テンション高めないと書けないでしょうから。
 そして脳みそも、王レベ→鬼畜眼鏡にギアチェンジしていきます。
 では…早ければ今夜か、明日の朝までには何かしら一本上げれるなら
上げたいと思います。
 それでは、仕事に行ってきま~す。

※この作品は普段お世話になっているHよさんの
誕生日プレゼントであり、リクエストで執筆した本多×片桐な話です。
 ほのぼの系で、9割以上は彼女の好みや希望を
反映して作ってあります。
 それを承知の上でお読み下さい。

 よせ鍋☆パニック  

 予想もしていなかった御堂の登場により、本多が思い描いていた
情景は見事に散っていった。
 移籍した親会社の直属の上司である御堂を克哉が連れて来た事に対して
片桐は優しく微笑みながら受け入れていったのもまた、彼にとっては
泣きそうな事態だった。
 
―あぁ、御堂部長…こんな狭苦しい所にわざわざ来て下さって恐縮です。
大したもてなしは出来ませんが、どうかくつろいで下さいませ…
 
 と、穏やかに微笑みながら家主であり、今夜の鍋パーティーの主催でもある
片桐が御堂を歓迎してしまったことで本多も強固に相手を拒む訳には
いかなくなった。
 社内ではMr.KY…空気読めない男の代名詞とまで唱われている本多だが、
それなりに有能な営業マンでもある。
 多少は状況を読む能力ぐらいは持ち合わせている。
 だが、鍋から立ち上る湯気は美味しそうな匂いを伴っていて早々と用意されていた
コタツの中に入れば非常に温い。
 その上で御堂がおらず、三人だけでこの鍋を囲んでいればどれだけ至福の
自分になっただろうか…とつくづく惜しくなる。
 
(だからと言って、みんなのその和気藹々とした空気は一体何なんだよ~~!)
 
 目の前には片桐が用意した鍋が携帯ガスコンロの上に置かれて、新鮮な
カキやタラの切り身や白子、、鮭などの漁魚介類に鳥の肉団子…それとくずきり、
豆腐、ネギ、白菜、櫛形にカットされたタマネギ、エノキダケなど実に
具沢山に浮かべられている。
 そんな大量の具材が浮かんでいても片桐がマメに水を少量差したり、
アクを掬ったりしているので鍋の中のスープは非常に良く澄んでいた。
 
「さあ、そろそろどの具材も火が通って食べ頃ですよ。今夜は一応、ポン酢と
出汁醤油の二種類のタレと大根下ろしと紅葉下ろし、カボスをカットしたものを
用意しておきましたから各人の好みで組み合わせて食べて下さいね」
 
「片桐さん、色んなものを用意しておいてくれたんですね。これだけ組み
合わせるものがあると少し迷いますね…」
 
「ふむ、確かにな。大根下ろしと紅葉下ろし…どちらを選ぶか確かに迷って
しまいそうだが…私は出汁醤油と紅葉下ろし、それにカボスの汁を組み
合わせたもので頂かせてもらおうか…」
 
「ああ、御堂部長…結構通ですね。僕もその組み合わせは美味しいんじゃ
ないかって思っていましたから」
 
「たか…いや、御堂さんが選んだ組み合わせも美味しそうですが、オレは
ポン酢に大根下ろし、それでカボスの汁を少々で食べますね。けど、どれも
本当に美味しそうです…準備して下さってありがとうございます、片桐さん」
 
 片桐、御堂、克哉の三人はまるで一家団欒をしているかのごとくごく自然に
談笑を交わしている。
 本多はその様子を本心では苦虫を噛みつぶしたような気持ちで見守っていたが、
この場の空気を壊す訳にはいかない。
 ぎこちなくだがどうにか笑顔を浮かべていって…どうにか皆に合わせていく。
 
(ううう…何でみんな、こんなに和やかそうに話しているんだ…。俺たち、
プロトファイバーの営業を担当していた時代…どれだけこいつにきつい言葉や
冷たい仕打ちをされたか忘れているんじゃ…)
 
 特にあの期間中、克哉はいつだって青ざめていて…今にも
倒れそうな様子だった。
 当時の本多はその様子の変化に気づいて以来、それが御堂が大きく関わって
いる事に気づいていた。
 だが結局、克哉に詳細を打ち明けられる事はなく…やきもちしている間に状況が
変わって、克哉は御堂に認められる形で親会社であるMGNに引き抜かれる事になった。
 密かに克哉を意識するようになっていた本多はそれだけで一層、御堂に
対しての敵意を強めていった。
 だから楽しみにしていた鍋パーティーに御堂の姿があった事に心底
不快感を抱いた。
 なのに目の前では他の人間は楽しそうに鍋を囲んでいるせいで…本心を
表に出す訳にはいかなくなってしまった。
 
(しかも克哉、何だよその満面の笑顔は…。大学時代からの付き合いだけど…
俺は今までお前のそんな幸せような顔は殆ど見た記憶ないぞ…。何で御堂
なんかの隣にいて、そんな表情を浮かべているんだよ~)
 
 本多の心を大きく掻き乱している要因の一つに、克哉のその笑顔があった。
 大学時代の四年間と、キクチ・マーケティングの営業八課で過ごした三年間…
計七年間を共に過ごしている。
 しかし一緒にいた期間の殆どは克哉は常に自分を押さえつけているというか、
本音も感情もあまり見せない人間だった。
 正直昔の克哉は何を考えているか判らなかったし、笑った所すら殆ど
見た事はない。
 なのに、自分以外の人間が克哉の心からの笑顔を引き出している現実に…
本多は軽く打ちのめされていた。
 
(…俺、こんなに器が小さい奴だったのかよ…! 克哉が嬉しそうに笑っている
ならそれで良いだろ! 何で俺はこんなに辛いんだよ…!)
 
 心の中で激しく葛藤しているせいで、皆の会話の流れに入る事も目の前の
鍋を食べる喜びも感じられないでいる。
 こんなのせっかくこちらを招いてくれて、美味しそうな鍋を用意してくれた片桐に
対して失礼だって判っている。
 だが、本心はどうやっても偽れなかった。
 
「本多君…どうしたんですか? さっきからあまり箸が進んでいない
みたいですが…?」
 
「えっ…あっ! すみません! 俺もちょっと…どの組み合わせにするか
迷っちまいまして…。それだけなので気にしないで下さい!」
 
 上ずった声を悟られないように、大きな声を挙げて誤魔化していく。
 しかしすでに行動が不審なものになってしまっているのは自分でも判っていた。
 けれど片桐は穏やかに微笑みながら、それ以上追及して来なかった。
 
「あぁ…確かに結構こういうのって迷ってしまいますからね。僕のお薦めとしては…
ポン酢と紅葉下ろしの組み合わせに、カボスの汁を少々香り付けに落とした奴
なんですけどね。良かったらこれで試してみませんか…?」
 
「あ、はい! お言葉に甘えます!」
 
 そういって本多は、片桐の提案に乗っかっていった。
 そうして丁寧な手つきで片桐は…本多の分のつけダレを作って、その小鉢を
柔和な笑顔を浮かべながら手渡していく。
 
「はい、本多君…どうぞ?」
 
「あ、ありがとうございます…」
 
 一瞬、片桐の背中に後光すら見えてしまった。
 今の本多にはそれが少しだけ救いになっていく。
 さっきまで嫉妬やら葛藤やらで頭がいっぱいになっていたが…こうしてこちらに
配慮して優しくされていくと、スっと胸の中のつっかえが取れていく。
 
「いいえ、まだまだ具材は沢山ありますから…たっぷりと食べて下さいね。
本多君はきっといっぱい食べるでしょうから…魚介類も野菜類も多めに
買い込んでおいたんですし」
 
「はい! たっぷりと食わせて貰います!」
 
 その瞬間、ようやく御堂が訪れてから初めて作り笑いではない笑顔を
本多は浮かべていった。それで箸を動かして、猛烈な勢いで魚介類から
口に運んでいく。
 凄く旨かったし、心までポカポカとあったまっていくような気がした。
 
(う、旨い…! 何か心に染み入る味だ…!)
 
 そういって一瞬涙ぐみそうになりながら、他の三人の会話が耳に入っていく。
 
「そういえば佐伯君…MGNに移籍してからは…最近はどんな感じですか?」
 
「えぇ、御堂さんに大変良くしてもらっています。…まだ正直、仕事に慣れて
いなくて足を引っ張ってばかりですけどね…」
 
「いいや、佐伯君は正直言うと…あっという間に仕事を覚えてくれているし、
失敗しても必ずそれを生かして同じ間違いをしない…その努力を常にしてくれている。
だから…有能な人材を得られてこちらは非常に助かっている。本当に、こちらの
引き抜きの件に関して…快く受けてくれたキクチ側にも私は感謝している」
 
「いいえ、佐伯君は実際に非常に有能ですから…。そちらで活躍してくれて
いるなら…僕は充分ですよ。頭を上げて下さい…御堂部長」
 
(…何か気のせいかも知れないけど…このやりとりって、嫁を貰った旦那が…
嫁の親に頭を下げて感謝している図のように見えるの…俺の気のせいだろうか…?)
 
 この妙にあったかい、アットホームな空気は一体何だというのだろうか。
 
「ふふっ…いつもありがとうございます、片桐さん。前に伺った時も美味しい
夕食をご馳走になりましたし…。何かオレにとってもう一つの実家のように
さえ感じられます…」
 
「うむ、片桐さんが作ってくれたほうれんそうの胡麻和えや…肉じゃがは
確かに絶品だったな。あぁいう和風の味には飢えている部分があるから…
ほっと出来た」
 
(つか…お前らいつの間に片桐さんに夕食までご馳走になっているんだよ! 
俺の知らない間にどうしてそんなに仲良くなっているんだよ!)
 
 心の中で盛大に突っ込みつつ、この和やかな空気を壊したくない一心で
余計なことをいう前に豪快に鍋の具を自分の口に放り込み続けていく。
 
「うぉ! うめえっすよ! 片桐さん! マジで最高っす!」
 
 そうしていつもの自分のキャラを崩さないように頑張っていって、猛烈な
勢いでご飯と鍋の具を掻き込んでいく。
 そんな本多に対して、暖かい眼差しを浮かべていきながら…片桐はおかわりを
そっと差し出して、鍋の具を注ぎ足していく。
 それでどうにか終止…その暖かい空気を壊さぬよう本多が努力し続けたおかげで、
片桐の家でのささやかな鍋パーティーは無事に終わりを迎えていったのだった―
 

 先週末から今週初めに掛けては前ジャンルの方の
活動と準備に追われていたので連載が止まって
しまってすみませんでした。
 無事に王レベのプチオンリーの方は終わりましたので
ボチボチ、こちらの運営を再開致しますね。

 まあ、ネタとして香坂のボケの数々をちょこっと。

・友人達とお泊まり会中、夕食は買出しして室内で食べることが
決まった際、買出し係だった癖に財布を部屋に忘れてくる(バカ)

・部屋を出て会場に向かう際、友人に「忘れ物はない?」と聞かれて
力いっぱい頷いた癖に、部屋を出る際に靴を履き忘れて
出ていきそうになった(汗)

・ホテルの部屋で製本することになったのですが、その時に
ホッチキスだけ持ってきて芯の箱を力いっぱい忘れてくる。

・今回、買い物をすると福引券や福引補助券(三枚集めると一回引ける)を
配布して、香坂は6回引いたのに…全部五等賞引いた。
しかも券がない状態で二回試しに引かせてもらったら、その時に4等と
1等賞を引き当ててしまった。(そして無効になった)

・新幹線で帰る友人に合わせて東京駅構内で夕食を探してグルグルと
彷徨った後、一軒の店に入りました。行きが20分以上掛かった為に
早めに店を出て新幹線の乗り口に向かったら、歩いて三分で
着いてしまって皆で、「こんな処でオチがついた!!」と大笑い
する羽目になった。
(どうやらグルグルしている間に方向感覚が麻痺してしまい、結局
スタート地点から近い場所を知らずに選んでしまった模様)

 …その他にも、まあ細かいボケは沢山ありますが…これくらいに
しておきます。
 …香坂は基本的に相当天然というか、何かが抜け落ちている子なので
傍にいるとこれくらいは日常茶飯事です。
 …まあ、現在のこちらのジャンルの友人達はこれを笑って見逃して
くれているので長く付き合いさせて頂いているんですけどね。
 鬼畜眼鏡の知り合いの方にもちょこっと挨拶に回って、ポッキーを
押し付けて逃走していたりもしておりました。
 非常に楽しい一日でした。

 …そして11月1日は帰宅早々、ソファの上で力尽きて眠りこけて
しまったので、とりあえず1日分に簡単なレポを。
 二日分は通勤時間中に一本でも書き上げられたら、夜にアップ
させて頂きますね。
 それでは一旦、これにて!

 正直に言います。

 まったく余裕なんぞありませぬ!!!

 ん~と、ここ数日合同誌の連絡だの打ち合わせ、編集や
不測事態の対応に追われているんですが、三つか四つぐらい
トラブルが立て続けてに起こったのでマジで時間押しているよ。
おおお~い!!  って感じです。
 …とりあえずそれでも31日の14時時点で印刷だけは
どうにか終わったけれど…後、一時間で家を出るんですが
これからお泊り&明日のイベント参加準備です。
 …何か書き下ろす余裕、ありません。

 ちなみに起こったトラブルは以下の通り

 ・自分と組んでいる子が表紙カラーで仕上げてお願いした筈なのに
モノクロ原稿で仕上げてしまった→香坂が線画貰って、一から塗り直す
形で対応

・指定しておいたファイル送信サイトが、丁度相手が原稿送信
してきた時間帯、エラー起こしていた。→急いで電話して、別の
ファイル送信サービスの案内をする形で対応

・もう一人の友人からの添付されたメールが送信されていない
→このタイミングでヤフーアドレスが何か激しいタイムラグを起こして
送信されるバグ発生。大急ぎで絵茶に入ってそこで転送URLとパスワードを
やりとりする形で対応

…4~5年の付き合いになる友人達との初めての合同誌で、作業自体は
しんどいけど楽しいから良いんですが…いや~人数多いとトラブルも起こる起こる。
 何かもう、笑って良いですかレベルで昨日からオイラ、忙しかったっす。
 とりあえず軽いインフォメーションしておきます。
 明日、2009年11月1日に COMIC CITY SPARK4 内で開催いたします、
アリスブルー作品プチオンリーイベント
「BlueGarden ぷち ~ちっさくなってもういっかい!~」 に香坂、参加します。

 明日のスパーク、何かプチオンリーイベント113個とか開催されているそうで…
はい、別ジャンルですがその中にまぎれて参加します。
 告知サイトはこちらです。

 「BlueGarden ぷち ~ちっさくなってもういっかい!~」

 とりあえず記念アンソロジーの方にもこっそりと参加しております。
 王レベですが、興味ある方はチラっとでも見てくれると嬉しいです。
 んで、とりあえず…明日の新刊の表紙は以下の通り。

 友人の線画に香坂が色塗った奴(タイトル ムーン・ファンタジア)

 

 
 もう一人の絵師さんが描いてくれた表紙
(今回、二人の絵を組み合わせて表紙作成してます)




 今回の新刊は、小説書き二名…絵師二名がそれぞれタッグを組んで
二本の小説に、絵師が挿絵を一枚つける形式になっております。
 菊月夢女&ゆきしろ  香坂&遥南の4名が執筆したのを香坂が
編集してコピーで印刷しております。わっしょ~い!!
 ゆきしろさんは同人活動殆どしたことないし、遥南さんは今月に入って
PCを買ってネット環境整ったばかりだ~! という状態だったので
原稿の作り方の説明だの、どうやれば良いのかアドバイスするのに打ち合わせや
連絡を重ねたので大変だったけど、完成までこぎつけられたのでその分
すっごく達成感あります。

 …香坂、こっちのジャンルでは九年目になるのと…王レベは本当に
オンリーイベント等が年に一回しか開催されていない状況なので、
この期間だけはこっち優先になります。
 ご了承下さいませ。

 ちなみにテーマは香坂&遥南さん側は「野外でお風呂」
 菊月さん&ゆきしろさん側は「秋のススキ野原でエッチ」です。
 とりあえず初めて両A面になるコピー本作りにもチャレンジしました。
 …ま、こちらのジャンルも興味あったら手にとって下さい。
 明日、夜に帰宅後に…何か一本仕上がっていたらアップ致します。
 それではそろそろ家を出る時間なので失礼しますね。

 プチオンリー終わり次第、ちょっと保留になっている鬼畜眼鏡の
連載作品に本腰を入れます。では…。

 本日はちょっと一本書き下ろし出来そうにないです。
 …本当に、別ジャンルの原稿の件でこちらに支障が出て
恐縮ですが。

 今回、友人に初めてフォトショップで作業をしてもらって
原稿作成したら幾つか問題点が発生して、カラー予定だった表紙原稿を
相手がモノクロ原稿で作成してしまった上に、時間的に相手はやり直しが
利かない状況なので…線画だけ貰って、こっちが色塗りするという
素敵事態が発生した関係で、ちょっと今状況カッツカツやねん~!

 まあ、今回…別ジャンルの原稿は長年の付き合いである友人
4人との合同誌で、その内二人は同人関係未経験者なので、まあ…
最初はそういう事もありますな~ぐらいに構えていますけどね。

 …印刷出来る段階にまで持っていければ、余裕出来るので
明日…書けそうなら今抱えている連載の内、一本は書き下ろさせて
頂きます。
 今日から明日の朝までに掛けてはちょっと佳境の上、今日は
出勤なので状況報告だけして、本日は連載休ませて頂きます。
 11月1日過ぎれば状況は落ち着くので少々お待ち下さいませ。
 ではでは!
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[03/16 ほのぼな]
[02/25 みかん]
[11/11 らんか]
[08/09 mgn]
[08/09 mgn]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

 当ブログサイトへのリンク方法


URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/

リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ * [PR]