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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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現在連載中のお話のログ

  ※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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 ―昔の、この世界に来る前の夢を見ていた
 
 御堂の腕の中に抱かれ、安堵したからだろうか。
 それは今まで見たかつての世界の夢の中で一番穏やかで
優しいものだった。
 二人で作った会社のオフィスの上に存在する、もう一人の自分の部屋の中で
彼らは革張りのソファの上でくつろいでいた。
 御堂が端っこに腰を掛けて、眼鏡がその太股の辺りに仰向けで横たわっている。
 そして克哉はそんな二人の様子を少し離れた位置から眺めていた。
 まるで、幽霊のように自分の存在は知覚される事なく…傍観者の立場でその様子を
眺めている形になった。
 
「…疲れているんだな、克哉…」
 
「んっ…」
 
 御堂の膝の上で、もう一人の克哉は穏やかな笑みを浮かべてまどろんでいた。
 そこには無条件の、傍らにいる存在への信頼感が滲んでいた。
 仕事中の彼はいつだって張りつめていて…側に人を寄せ付けない雰囲気を纏っているが、
今…御堂の膝の上で寝そべっている彼は安堵しきっていた。
 無防備な恋人の姿を見て、御堂は呆れたように…けれど優しい笑みを浮かべていく。
 
「…まったく、君にも困ったものだな…。こんなデカい図体をして人の膝の上に堂々と
寝ているものだから…いい加減、足が痺れて来ているんだぞ…」
 
「んっ…うっ…」
 
 まるで動物を撫でてやるように…優しく眼鏡のくせっ毛を梳いていってやる。
 その表情と動作の一つ一つに、慈愛が満ち溢れていた。
 かつては二人のその様子を見てて心が痛んだが…今は、平常心に近い心境で
克哉は眺めていく。
 幸せそうな二人、そこには自分が付け入る隙などこれっぽっちも存在していない。
 かつてその膝に抱いている男の中に、克哉という人格が存在していた事など…きっと
こちらの世界の御堂は知らないままだろう。
 それが以前は途方もなく悲しかったけれど…今は新たな世界の方で御堂に
必要とされている。
 そのおかげで心はひどく穏やかだった。
 
(あ~あ、御堂さんの前で安心しきっちゃって…。本当にこの人の前で無防備な姿を
晒すようになったな…)
 
 これは彼らが恋人同士になってどれくらいの時間が過ぎた頃の光景なのか
克哉には判らない。
 けれど克哉はずっと彼らの様子を傍観者の立場で見守り続けていた。
 澤村と再会したばかりの頃はまだ恋人同士になってから日が浅く…興したばかりの
会社も軌道に乗る以前のことだった。
 あの頃の彼らはまだお互いに遠慮があって、こんな風に過ごせることはなかった。
 御堂は呆れながら、其れでも膨大な仕事をこなしている克哉を自分の膝の上で
休ませていってやる。
 その様子を見届けながら、克哉は心の中でそっと呟いていった。
 
―さようなら、御堂さん…
 
 本来いた世界の、愛しい人に向かってそう告げていくと少し近づいて…眠りこけている
もう一人の自分の顔を覗き込んでいった。
 かつての半身の安らいだ顔を見て、克哉は愛しさを覚えていく。
 
―今思い返せば、きっと自分は…彼のことも好きだったことを思い出していく
 
 其れは御堂への恋慕の想いとは違う感情だったけど、確かに克哉は…御堂と
再会し愛を育んだ彼をいつしか大切に想うようになった。
 最初は嫌いだったし、自分のもう一つの姿であることを認めたくなかった。
 けれど愛しい人の為に変わり続けていくことを選び、理想に向かって共に
歩んでいる姿を見て…克哉は応援したくなったのだ。
 
(オレが亡霊である立場を受け入れたのは…もしかしたら、オレもお前の事が
好きだったからかも知れないな…)
 
 其れはもしかしたら肉親を想うような感情だったのかも知れない。
 兄弟を案じるような気持ちがもしかしたら一番近いのだろうか。
 彼と御堂と再会するようになってから、克哉は一度も表に出ることはなかった。
 その行動の真意は…今思い返せば、彼の恋の邪魔をしたくないという気持ちが
あったからだろう。
 
―どうか幸せにね、俺…
 
 そして初めて、心からそう想って相手の幸福を願っていく
 
 かつては嫉妬や反発心に駆られて、決して言う事ができなかった一言。
 けれど今の自分には、自分を愛してくれる御堂が傍らにいるから。
 だから克哉は過去を振り切り、憎しみや嫉妬から自分を解き放つ為にそう
祝福していった。
 彼らの幸せそうな顔を見ても、今は胸が痛む事はなかった。
 かつては自分だけが置いてけぼりにされているような、仲間はずれにされて
しまっているような疎外感を覚えていた。
 だから見ているのが辛かったのだが…今は、凄く穏やかな心境でその様子を眺めていく。
 無防備な姿で御堂の傍で寝ている眼鏡を、克哉は愛しげに眺めていった。
 
(お前は…本当に変わったよな…)
 
 其れは自分の半身であり、共に生きていた眼鏡に向かってしみじみと
そう感じていく。
 御堂を廃人寸前まで追い詰めた頃とは本当に別人で…憑き物が取れたかのように、
今の彼は柔らかくなっていた。
 陽だまりの中、二人は優しい時間を紡ぎあっていく。
 今の克哉は其れを見て…心から良かったと、小さく微笑んでいた。
 
(きっとオレがいまいる世界の『俺』と、御堂さんを凌辱していた頃のお前は同じような
ものだったのかも知れない…。けど、お前は其処で過ちに気付いてこの人を
解放した…。それがきっと、大きな違いになったんだ…)

 克哉は、思い出していく。
 クラブRに残る事を選択して、心を潰されるような行為を強要されていた時…
最後に支えたのはきっと御堂への想いと、そして…この世界のもう一人の自分に
憧れる気持ちだったのだと。

―目の前の俺は、こちらの世界の俺とは違うのだ…

 その境界性を引いていた。
 それがギリギリの処で克哉を護る防波堤となった。
 優しくなった眼鏡の為なら自分が消えても良いと思った。
 この二人の恋を邪魔したくなかったから。
 けれど…鬼畜王として君臨して人の心を思いやらなくなった彼の為に
自分は決して消えてやろうとは思えなかった。
 其れを思い出し…克哉はそっと目を伏せていく。
 
「バイバイ…」

 小さくそう呟いた途端に、世界はゆっくりと白く染まり…光の中に
消えていった。
 過去にしがみついても、何も生み出さないから。
 だから祝福を最後に与えて、克哉は彼らと決別していく。
 その時、自分を呼んでくれる声にやっと気づいた。

『克哉…克哉…』

 これは、自分が愛しいと思っている御堂の声だ。
 その声を便りに、克哉はゆっくりと意識を浮上させていった。
 深海の底から海面に上がったような気分を味わいながら、静かに瞼を開けば
其処には先程まで激しく抱き合った御堂の優しい顔が存在していた。

「あっ…」

「おはよう克哉…やっと目覚めたか…?」

「はい…おはようございます、孝典さん…」

 そうして朝の挨拶を交わし合いながら、そっとおはようのキスをお互いに交わし合っていく。
 しみじみとこの人と結ばれる事が出来た喜びを噛みしめて、愛しい人を見つめていった。

「…どうした? そんなに私をジっと見て…」

「いえ、夢みたいだなって思いまして…。こうして、本当に貴方の元に帰って来て…
こんな一時を過ごす事が出来る事がこんなにも幸せなんだって噛みしめているんです…」

「そうか、だが…これは夢じゃない。これは確かに現実で…そして君はこれからも
ずっと私の傍にいるんだ。良いな…」

「はい、孝典さん…」

 そうして力を込めて抱きしめられていく。
 その抱擁にあまりに熱が込められていた為に軽く痛みを覚えたが…今の克哉には
その感覚すら愛おしかった。

(ここが…今のオレの世界。そして…これからもずっとこの人の傍で生きていくんだ…)

 そう実感した途端、かつての頼りなかった頃の自分が凄く遠いものに感じられた。
 もう自分は亡霊なんかなじゃない。
 御堂の傍らで生きる事を許された一人の人間なのだ。
 
「良い返事だ。…だからその言葉を決して忘れるな。…もう二度と、いなくなったり
するんじゃないぞ…」

「はい、約束します…。これからもずっと貴方の傍にいます…。死が二人を分かつ
その時まで…」

 そうして克哉は愛しい人の頬を優しく撫ぜていく。
 お互いの視線がぶつかりあい、吐息すら感じられる距離で…二人は戯れのように
相手の肌に触れ合っていた。
 今、確かに存在している事を…目の前の出来事が夢でない事を確認しあう為に。
 そして克哉は、ずっと言いたくて言えないでいた一言を言う決意を固めていく。
 心から幸せそうな笑みを浮かべていきながら…誓いの言葉のように恭しく…
その言葉をやっと紡いでいく。

『心から貴方を愛しています…孝典さん…』

 その一言を聞いた途端、御堂からきつく抱きしめられる。
 そして同じ言葉を返されていく。

『ああ、私も同じ気持ちだ。君を愛している…克哉…』

 紆余曲折を得て、やっと大切な人からその一言を聞く事が出来た時…克哉は
感涙の余り、涙をこぼしていく。
 この瞬間に命が終わっても悔いがないぐらいの充足感を覚えた。

―そしてこの朝より、彼らの新しい関係は始まっていく

 様々な試練を経た事で、彼らの間には絆と言われるぐらいに強固な関係が
確かに築かれていったのだった―

 
 
 
 
 



 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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