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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

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―激しい行為の果てに克哉は意識を手放し、次に目覚めた頃には
窓の外は白く輝き始めていた
 
 その清冽で淡い光を感じていきながら、克哉は覚醒していく。
 瞼を開けばすぐに愛しい人の体温と、優しい人の眼差しにぶつかっていく。
 夜の藍色の帳が静かに開いて、太陽が再び空に上がり始めた直後の柔らかい光は、
世界を暖かく包み込んでくれているようにすら感じられる。
 すでに夜明けの頃を迎えているのに気づいて、克哉はゆっくりと目を開いていった。
 
(夢、じゃない…オレは確かにここに帰って来れたんだ…)
 
 その事に心から感謝していくと、自分の身体が思ったよりもさっぱりしている
事に気づく。
 さっきまでの激しい行為でお互いの汗と体液まみれになっていた筈なのに、
寝起きは案外爽やかだった。
 もしかしたら意識を失っている間に御堂が身体を拭いて清めてくれたのかも…
と思い当たるとまた顔が赤らむ思いがした。
 
「嗚呼、やっと目覚めたのか…激しく抱きすぎてしまったな。身体は大丈夫か…?」
 
「あ、はい…何とか平気です。それに…ずっと貴方にこうされる事をオレも強く
望んでいましたから…」
 
「そうか、随分と可愛い事をいうな。そんな事を言われたらあれだけ君を抱いた
ばかりなのに…また欲しくなってしまうな…」
 
「えっ、あ…えっと、みど、いや…孝典さんが望むなら構いませんけど…」
 
 御堂からサラリと挑発的な言葉を投げかけられて、克哉はカァっと顔を赤くしながら…
しどろもどろになって返答していく。
 その様子が妙に可愛らしく感じられて、御堂は軽く吹き出していく。
 さっきまでまるでベッドの上では娼婦のように淫らになってこちらのあらゆる要求に
応えていた癖に…素に戻ればこんな一面も見せるのだから、本当に観察してて
飽きなかった。
 
「…まったく、これ以上私を煽らないでくれ。それに…君が欲しくて堪らないという
気持ちはどうにか落ち着いた。今は…君に聴きたい事がある。それに対して…
答えてくれるか?」
 
「っ…! そう、ですね…。貴方からしたらオレが現れて以来…訳の判らないこと
ばかり続いていたんですから。判りました、聞いて下さい…。今なら、大抵のことは
隠さずに答えられますから…」
 
 先程までのどこか気だるげで甘い空気は一瞬にして消えて、代わりに張りつめた
ような緊張感が生まれ始めていく。
 目の前の御堂の瞳が柔らかい色から、真摯なものへと変化していった。
 そして御堂はずっと疑問に思っていた事を幾つか克哉に問いかけていった。
 其れに克哉も包み隠さず、正直に答えていった。
 
 もう一人の自分と行っていたゲームが、御堂の心をどちらが手に入れるかを
競った内容である事も。
 佐伯克哉は二つの心を持っていて、本来なら傲慢で自信に満ちあふれた心と、
自信がなく控えめに生きている人格が一つの身体に宿っている事を。
 そして御堂の元に身を寄せてから四日目の夜、この部屋に侵入して克哉を犯したのは
もう一人の自分である事を。
 Mr.Rが手引きをした為にこのマンションのセキュリティなど一切関係なく忍び込む
事が可能であった事を。
 自分が別の世界から…本来いた世界は、眼鏡を掛けた方の佐伯克哉と、
御堂孝典が結ばれていた事を…。
 そして自分が今、御堂の側にいられるのは…そのゲーム盤に上がる事を
選択したからだと。
 そうしなければ自分たちがこうして出会う事がなかった事実を克哉は静かな
口調で伝えていった。
 一通りの事を説明し終えるのにあっという間に一時間以上が経過してしまい…
気づけば窓の外ではすっかり陽は昇りきってしまっていた。
 そして大体の事情を聞き終える頃には御堂の顔には困惑が浮かんでいた。
 克哉自身もこれらの話が荒唐無稽極まりないという自覚があったから
苦笑するしかなかった。
 
「…これが、大体の事情です。以前…貴方の側にいた間に語らなかったのはきっと…
あの場所に招かれる前の段階で話していてもきっと信じて貰えないだろうと
思いましたから…」
 
「そう、だな。確かに…あの場所に突然招かれた事と、眼鏡を掛けた方の
佐伯克哉と君が一緒に存在しているのをこの目で見ていなかったら…
きっと信じられなかっただろう…」
 
 御堂もまた、何故克哉が今まで詳細を語らなかったのかようやく
得心がいった。
 確かに幾つかの奇妙な体験をする以前なら御堂はきっと頭から彼の言葉を
否定していただろう。
 克哉はそれが判っていたから…だから御堂には正直に言わずに言葉を
濁しているしかなかった。
 だから今の御堂の答えは予想通りのものであり…苦笑を浮かべていく。
 
「…えぇ、オレも信じてもらえると思っていませんでしたから…。だからズルイと
判っていても…色々な事情は伏せた状態で貴方の元に身を寄せるしか
ありませんでした…。下手に本当の事を言って、それで頭がおかしいとか
疑われてしまったら…貴方の傍にいられなくなったらオレは負けるしか
ありませんでしたからね…」
 
「…ゲーム、か。君と私が出会ったキッカケが…彼らにとっての遊戯の一環で
しかなかったというのは…確かに衝撃だった。確かに其れを最初の頃に
聞かされていたら…君を私は受け入れなかったかも知れないな…」
 
「…でしょうね。正直、プレイヤーであるオレでさえも…そういう形で貴方の心を
もう一人の俺と奪い合うのに抵抗がありましたから…。けど、オレには…とりあえず
そのゲーム盤に乗らない事には…可能性は何も存在しなかった。自己弁護しても
みっともないだけですが…その事で貴方が怒りを覚えているのなら、オレは甘んじて
其れを受けますから…」
 
 御堂がゲームの内容を知ったのは、クラブRに招かれてからの事だ。
 その時点でもかなりの不快感を覚えた。
 そしてそんなのは嘘だと必死に否定しようとした。
 あの奇妙な場所での一連の出来事が津波のように御堂の脳裏に鮮明に蘇っていく。
 
―必ず勝って貴方の元に戻りますから…!
 
 その最後の言葉が不意に思い出されていく。
 御堂は其れを思い出した時…ずっと心の中に引っ掛かっていた最後の疑問を
思い出していった。
 そうだ…ゲームをしていたのならば…いつ、そのゲームは終わったのか。
 勝敗はどういう形でついたのか、いつ…彼の勝ちは確定したのか…その事に
気づいて御堂は目を瞠っていく。
 
「…克哉、君にいくつか聞いて良いか…?」
 
「はい…オレに答えられる事でしたら正直に包み隠さずに言います」
 
「…君と、もう一人の君は私の心を奪い合うゲームをしていると確か言ったな…。
それなら、そのゲームの勝敗はいつ…どのタイミングでついたんだ。其れに
どうして…君はあの時、自信満々そうでいられたんだ…。今、思い返せば…君は、
あのタイミングですでに勝つ事を確信していただろう…? それはどうしてなんだ…?」
 
 其れは最大の謎だった。
 一体どのような形で勝敗が決まり、克哉はあの時点で確信出来たのか。
 ようやく自分の胸につかえていた最大の疑問を思い出して…御堂は険しい顔を
浮かべていく。
 その時、克哉は柔らかく微笑みながら答えていった。
 
『答えは簡単ですよ…。このゲームの勝敗は、どんな形でも良いから…貴方の心を
満たした方が勝利になる訳です。…なら、あの場面でオレが残れば強烈に…オレの事を
刻みつける事が出来る。不安や後悔、そういった負の感情であっても…もう一人の
俺の事など考えられないぐらいに満たされたなら…オレは勝利条件を満たした
事になるでしょう…?』
 
「っ…!」
 
 その答えを聞いた瞬間、御堂は底知れぬ畏れのようなものを目の前の
存在に抱いていった。
 あの時、Rが告げた残酷な選択。
 すぐ眼前に出口があるのに…片方だけしか抜ける事が許されない現実に
御堂は打ちのめされていた。
 だから彼はどこかにあるかも知れないもう一つの出口を探そうとしていた。
 どちらか片方だけが取り残されるなんて耐えられなかったから。
 どうしても二人一緒に帰りたかったからそうしようとしていた。
 否、それ以外の考えなど浮かばないていた時に…彼はそこまで考えていたのだ。
 御堂が言葉を失っていれば…克哉は自嘲的に笑みを浮かべていきながら…
更に言葉を続けていった。
 
「…あの時、Mr.Rはオレと御堂さんがすでに両思いである事を思い知っていました。
だからあの人は…オレ達が相手を置いて自分だけ逃げるような真似は出来ないと
思ったからあのような条件を急遽、付け足したんですよ。そしてオレは其れを
見逃さなかったんです。アレは御堂さんにとっては絶望を与えたかも知れないけれど…
オレはあの人が驕っていた為にやった過ちを見逃さなかった。だから勝つ事が
出来たんですよ…」
 
「ちょ、ちょっと待ってくれ…その過ちというのは一体なんなんだ…っ!」
 
「…あの扉を潜って脱出した方には彼らは手を出さないという条件です。即ち、
あの条件を出した時に…貴方を脱出させる事が…唯一、オレ達が勝利条件を
満たす最大のチャンスだった訳です…。Rはオレたちが相手を置いて自分だけ
脱出するような利己的な真似は愛し合っているから出来ないと踏んで…あぁいう事を
言ってきたんです。だからほかの出口を探そうと、二人で出れる場所を探すという
決断を下すと思いこんでいたから…あんな条件を出した訳です。そして…あの場で
決断せずに、他の出口を探していたら…オレ達は二人とも捕まり、ゲームに
負けるしかなかったんです…。そう、クラブRには…あの人が言った通り、
あの出口一つしか存在しませんでしたから…」
 
「何っ…! そ、それは…本当なのか。なら…私が他の出口を探していたら
確実に負けていたという事なのか…?」
 
「…残念ながら、その通りです…」
 
「っ…!」
 
 こうして説明されて、御堂はあの時の甘い考えの通りに実際に行動を
起こしていたら…と想像したらゾっとした。
 今思い返せば…あの時の御堂は見知らぬ場所に招かれて、異常な体験を幾つか
重ねていたおかげでとても冷静とは言い難い状態だった。
 克哉を誰にも渡したくなかった。その気持ちに囚われていたからこそ…視野が狭くなり、
物事の裏側までは判らなかった。
 否、御堂は事情もまったく知らない状態であの場に突然招かれたせいで…静かに
混乱していたのだ。
 だからこそ真実を明かされれば己の愚かさを悔やむ気持ちが生まれていく。
 唇から血がうっすらと滲むぐらい噛みしめて、爪が掌に食い込むぐらいに
強く握りしめた。
 だが克哉はそんな愛しい人を優しい眼差しで見つめていき…その拳にフワリと
己の指先を重ねていった。
 
「…御堂さん、どうか自分を責めないで下さい…貴方はオレと違って、あの時点では
裏側の事情を何も知らなかった。Mr.Rやもう一人の俺がどんな性格をしているのか…
そういった情報すらない状態で、正しい判断なんて出来る訳がないんですから…」
 
「…判っている。あの時点の私はあまりに無知で…後、もう少しで負けるしかない道を
選ぼうとしていたんだからな。こうして…再会出来たなら、君の判断が正しかった事の
証明になる事は判っている。だが…」
 
 それでも、克哉が他の男に…例えもう一人の佐伯克哉だとしても他の人間に
抱かせてしまった事が悔しかった。
 それ以外の道はなかったと判った今でも…理性では判っていても感情が
ついていかない。
 だが克哉はそんな愛しい人の心情を見透かしていきながら…優しく穏やかな声で
御堂が言おうとしていた内容を代弁していく。
 
「…貴方が、きっと…その事でやり切れない思いに満たされるのはオレは最初から
判っていました…。オレがいつ戻ってくるかの不安、どうなっているかの心配…
そして全てを聞かされた時の嫉妬と後悔…オレは其れで貴方の心が徐々に
いっぱいになり、『もう一人の俺』の事など最終的に吹っ飛んでしまう事を…
読んだ上であの行動に出ました。貴方が責めるべきは自分ではない…オレを、
責めるべきなんです。そんな貴方が苦しむと判っている手段を躊躇せずに
取ったオレを…貴方は責める権利があるんですから…」
 
「そんな、事…出来る訳がない…」
 
 全てを聞かされて、どんな想いで克哉がこちらを必死に突き飛ばしたのを
知った今は…何故、彼を責める事が出来ようか。
 振り返ればもしかしたら別の手段や道が存在していたと思うかも知れない。
 だが…現実に決断を迫られた時に、最良の判断をとっさに出来る人間は
そういない。
 そう御堂は判っているのだ。
 
―克哉は勝つ為に最良の行動を迷わず取った事を…
 
 だから今、こうして自分たちは再会する事が出来たのだと…最終的に二人揃って、
こうしてこの部屋に戻ってくる事が達成出来た事も判っている。
 なのに…何故、こんなにも胸の中に…御堂の心をも焼きつくしかねない嫉妬の
炎が渦巻いているのだろう。
 息を吐くだけでジリジリと胸が焦げそうなぐらいのどす黒い感情が
宿っているのが判る。
 
「君がどれだけ、苦しい想いをして決断したのか…それが判るのに、何故…君を
責める事が出来るんだ。あの状況で、自分が残ると言う事がどういう事なのか…
この身体に残った痕を見れば、充分に伝わってくるのに…」
 
「…御免なさい。こんなにも貴方を苦しませてしまって…。オレと出会わなければ、
こんな想いをさせなくて済んだのに…」
 
「そんな、事はない…! 君と出会わなかったら良かったなんて私は少しも思わない…! 
こんな風に嫉妬を覚えた事も、誰かを欲しいと願ったのも…帰って来て欲しいと
切に願ったのも…今まで、君以外に誰一人だっていなかったのだから…!」
 
 克哉の目には、いつしか涙が浮かんでいた。
 御堂のこの苦しみは、自分と出会った為に…Rともう一人の自分とのゲームに
巻き込んでしまったが為に起こった事だと思うと…申し訳なくて、静かに頬に
冷たいものが伝い始めていった。
 克哉は愛しい人の背中に腕を回して縋りついていく。
 そして呪文か何かのように…幾度も『ごめんなさい』と繰り返していく。
 謝った処で自分の罪が消せる訳ではない。
 御堂の心を得る為に、自己犠牲めいた事をした。そうやって…自分はこの
ゲームに勝利をした。
 其れはきっとこの人の心を抉り、深く傷つけた事だけは…決して忘れては
いけないのだと思った。
 
「君を…君を、私は…本当にいつしか…愛しいと思うようになった。こんなにも一人の
人間を手放したくないと、誰にも渡したくないと独占欲を抱いた事すら…君が初めてだ。
だから…今、私はどうしてもやりきれない…。徐々に自分の中で折り合いをつけて
いくしかないって判っているがな…」
 
 御堂が疲れたように微笑んでいく。
 そんな大切な人に向かって、克哉はそっと頬を撫ぜていった。
 指が触れた個所から…御堂の体温と頬の感触が伝わってくる。
 こうしてお互いに一緒にいられる事、それがどれだけ幸福な事か…其れを得る為に、
どれだけこの一カ月…この人を苦しませてしまったのだろう。
 大粒の涙が、ポロポロと溢れていった。
 泣いてどうにかなる訳じゃないって判っていても…どうしても止まらなかった。
 
「…ごめん、なさい…それでも、どんな事をしてでも…オレは、貴方の傍にいたかった。
愛されたかったんです…。其れが、我儘だと判っていても…その願いを…オレは、
叶えたかった…」
 
「…其れは、どうしてだ…?」
 
「…本来、オレがいた世界では…もう一人の俺と貴方が結ばれて、一つの会社を
興していました…。お互いに信じあい、理想に向かって真っすぐと歩んでいく姿が
眩しくて…そんな二人にオレは憧れていた…。そして…オレもいつしか…貴方に恋を
していたんです。けれど…本来いた世界では、貴方の目は…もう一人の俺だけに
注がれていたから。オレの存在は邪魔でしかなく…静かに消えゆくのが最良だと
判っていても…愛されたいと強く願い続けていた。貴方に、オレだけを見て欲しかった…。
他の世界で…まだ、あいつと恋に落ちていない貴方と実際に…望むような関係に
なれるかなんて保証はなかったけれど…オレは何もしないままで、諦めたくなかった…!
 亡霊のように消えてしまいたくなかった…! たった一度で良い! 真剣に想い想われる
関係を…貴方と、どうしても築きたかった…! その欲をどうしても抑えられなかったんです…!」
 
 そして堰を切ったように克哉は己の想いを口に出していった。
 身勝手極まりない、エゴの塊のような心情の吐露。
 綺麗事など全てかなぐり捨てた本音を、正直に口に出していく。
 瞬間、御堂は克哉の身体を強く抱き寄せて…噛みつくような口づけを落としていった。
 その荒々しさに眩暈すら覚えて…その熱さに、陶然となる。
 先程聞いた彼が…こうして御堂の元に来た経緯と、そして…彼が初めて自分の
前に現れた日に…拒絶しようとした途端に半透明になった事を思い出していく。
 
―オレは亡霊に過ぎませんから…
 
 あの日、自嘲的に言った克哉の姿を思い出していく。
 どんな想いを抱いて、彼が自分の元に来たのか…知った今となっては、ただ…
切なさと愛しさといじらしさだけを覚えていく。
 
「君は…もう、亡霊じゃない…! 二度と、そんなものに戻さない…! 私の腕の中で
こんなにも君は温かく…確かに存在している。君は、生きている…そしてこれからも
私の傍にいて一緒に過ごしていくんだ…良いな!」
 
「孝典、さん…」
 
 その一言を聞いた時、また新たな涙が伝い始めていった。
 けれど其れは先程とは違い、嬉しくて感極まって流したものだった。
 歓喜の滴が溢れて止まらない。
 愛しい人にこうして自分の存在を認めて貰える事…其れは何て、心を
満たす事なのだろうか。
 
「ありがとう…ありがとうございます…孝典、さん…オレを、受け入れてくれて…
本当に、…」
 
「…そんな事は礼を言う事じゃない。もう…君は私のものだ。だから二度と…
私の元から離れるな。死が二人を分かつその時までな…」
 
「は、はい…!」
 
 その言葉は西洋風の結婚式の誓いの言葉の常套句だった。
 其れを聞いた瞬間、克哉の胸に熱いものが込み上げていく。
 
「…二度と、他の人間に肌を許すな。例えもう一人の君であったとしても…
これ以後はどんな事情であっても許すつもりはない。良いな…」
 
「はい、誓います…。もう二度と、貴方以外に抱かれません…全身全霊を掛けて、
貴方だけを…愛します…」
 
「良い返事だ…その言葉、決して忘れるな…」
 
「はい…」
 
 御堂の表情に、剣呑なものが宿っているのが見てとれた。
 だが…克哉は決して目を逸らさず、真摯に見つめ返していった。
 そうして…目を焼くような真っ白い光が満ちる中…二人の唇は重なり合っていく。
 神聖な誓いを交わしあっているかのように…儚い口づけを交わしあい、
強く抱き合っていった。
 其れは仮初の誓いであったが…離れている間、ずっと抱えていた不安を解きほぐす
だけの力があった。
 ようやく…ずっと胸に重石のようにあった負の感情が氷解していく。
 張りつめていたものが緩んでいくと…やっと二人の間に安らかな眠りを得たいという
欲求が生まれ始めていった。
 抱き合っていると…ゆっくりとまどろみ始めていき。
 
「…すみません、安心したら…何か、眠気が…」
 
「…心配するな、私もだ。けど…やっと、これで眠れそうだ。…さっき君が意識を
失っている間は私はとても寝れそうになかったから。寝たら君が消えてしまうような
気がして…だからずっと起きていたんだがな。もう君は…何処にも行かないだろう…?」
 
「はい、これからもずっと貴方の傍にいます…」
 
「ああ…」
 
 その瞬間、御堂は本当に嬉しそうに微笑んでいった。
 克哉は其れを眩しそうに見つめていきながら…そっと瞼を閉じていき、愛しい人の
腕の中で深い眠りへと落ちていったのだった―
 
 
 



  

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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