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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。
忘却の彼方に 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
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―佐伯克哉は夢と記憶の狭間に落ちていた
まず夢の世界に落ちた克哉が一番最初に思い出した記憶は…
一連の事態の発端、本多と付き合い始めて、数ヶ月が経過した頃の
出来事だった。
その前日、克哉は恋人から真剣な相談を受けていた。
夕方、約束をしていたので合鍵を使って本多の自宅に足を向けて…
台所に立って夕食を作り始めていく。
だが、調理をしている間…ずっと胸の中には複雑な思いが
グルグルと回り続けていた。
(もうじき、本多が帰って来るな…結果はどうだったんだろう…?)
今日、本多はそのまま直帰になる扱いで…あるデパートの営業に
向かっている。
午後三時から、大学時代に一緒にバレーボールをやっていた
松浦と三度目の交渉をやっている筈だ。
その仕事上のやりとり自体は成功したと、さっきメールで一言報告が
来たから問題ない。
しかしその後、本多は上手く行ったら松浦と一杯飲んでくると
言っていた。それが克哉の心を大きく乱していた。
「…あ~あ、オレって本当に心が狭いな…。本多が、オレ以外の男と
二人で飲みに行くってだけで、こんなにモヤモヤしちゃうなんてさ…」
トントントン、とリズミカルに包丁を叩いていきながら…ついぼやきを
漏らしてしまう。
昨晩、本多に真剣な顔をして…仕事上で繋がりを偶然持って再会した
松浦と出来れば以前のように一緒にバレーがしたいと。
その為にはどうしたら良いかと相談を受けた。
克哉にとって、松浦はあまり親しいと言える間柄の人間ではなかった。
特に途中で克哉の方はバレー部を中退してしまった訳だし、そんなに深く
接点を持っている訳ではない。
けれど…親しくなくても、克哉は人間観察を…その人間の特徴や行動を
注意深く見て、ある程度の性格の傾向自体は掴んでいたから。
本多が犯しそうな失敗を考慮した上で…的確なアドバイスを返したつもり、だった。
(だからオレのアドバイス通りにやっていれば…二人はどうにか仲直りを
済ませて、一緒に楽しく飲んでいる筈…だけどな…)
けれど、その間…克哉の心はずっと晴れないままだった。
自分の中にあるドロドロしたどうしようもない独占欲。
本多から告白されて、暫くの間…友人として、親友としての距離を保とうと
していた頃には感じなかった強い嫉妬の感情が…その事を素直に歓迎
出来なくさせていた。
一緒に背中を合わせながら飲み、お互いの心情を語った夜に…どれだけ
本多がバレー部でかつて一緒に活動していた仲間達を強く思っていたか、
八百長試合を持ちかけられて、本多の独断で突っぱねたことで仲間達から
うらまれたことを苦しんでいるか知っている筈なのに。
その中の仲間の一人でも、戻って来てくれる事を切望しているのを
判っているのに…感情がどうしてもついて来てくれなかった。
(オレ…どうしようもなく、嫌な奴だな…)
半分自己嫌悪に陥りながら、チラリと時計を眺めていく。
本多は20時までにはこの家に戻ってくると言っていた。
なのに…少し過ぎているのに、まだ帰って来ていないことに真剣に
不安を覚えていく。
それでもご飯の支度を黙々とやって、約束の時間を10分程度超えた頃…
丁度タイミングよくご飯の準備を全て終えようとした頃に、玄関の扉が
勢い良く開いていった。
「克哉! 聞いてくれよ! お前にアドバイスして貰ったとおりに言ってみたら
宏明の奴、一杯付き合ってくれたぜ! 本当に良かったぜ!」
「あ、ああ…そうなんだ。良かったね!」
本多は半端じゃなく上機嫌で、ついでに言うと顔を軽く上気させて
非常にご機嫌な様子だった。
この様子では普段よりKYな気質がある彼の事だ。
克哉のこの微妙そうな顔をして応対している事実に決して気づいてなど
くれないだろう。
(やっぱり、上手く行ってしまったんだ…)
冷静に考えてみれば、その八百長試合の一件が起こるまでは
本多はバレー部のキャプテンを務めて、仲間達と本当に上手くやっていた。
其れを傍から見ていた克哉からしたら、疎外感をつい覚えてしまう程。
だからこちらが昨晩言った通り、今…本多を恨んでいるメンバーは潜在的には
好意を抱いている筈だから、八百長試合の条件を呑まなかった事については
謝らなくても、自分の独断で決めてしまったこと、相談せずに事を進めてしまった
事に対してはキチンと謝ったほうが良いとアドバイスした。
克哉はきっと、八百長試合の件もそうだが…本多が相談せずに一人で
抱え込んで決めてしまった事で怒りを抱いているだろうからと推測したからだ。
その克哉の読みは正しくて、長かったわだかまりを溶かすことに成功した。
けれど…克哉の心中は極めて複雑なままだった。
自分の心の狭さに、独占欲の強さに嫌気すら覚えてしまう。
どこか口の端に引きつった笑みが浮かんでしまう。
しかし…今、旧友と仲直りを果たしたばかりの本多はこちらのそんな
微妙な心中を決して判ってくれなかった。
「あ、約束の時間…10分も遅れてしまってわりぃな。けど…やっぱり
不安だったからよ。其れにお前に真っ先に報告したかったし…。
だから呑みに行っても食べるのは程々にして、少しで切り上げたけどよ。
…それでも、久しぶりに宏明と飲みに行けて。他愛無い話しかしなかったけど…
マジで嬉しかった。本当に、お前のおかげだぜ克哉…。独断で事を
進めてしまったことに対しては確かに俺の非だったもんな…。その事を
指摘してくれて助かった…」
「うん、本当に…良かったね。本多…バレーボール部のメンバーと
出来れば仲直りをしたいってずっと思っていた訳だしな…」
「ああ、ずっと思っていた。あの八百長試合の事は俺は間違っていないと
今でも思っているけれど。…その為に、仲間だった奴らにそっぽ向かれて
しまったのは本当にきつかったからな…」
「うん、その気持ち…オレは知っているから。だから…良かったね…」
「おう、ありがとうな!」
そうして、克哉はやっとどうにか自然に微笑んでいく。
恋人になったこの男にとって、どれだけ仲間が大事だったかを
知っているから…その事を祝福していく。
心の中にチリリ、と焼けるような気持ちがあっても。
その醜い気持ちを悟られてしまいたくなかったから。
だから純粋に喜んでいる振りをしてしまった。
そんな克哉の心中など気づかないまま、本多は強い力を込めて
こちらを抱きしめていく。
その腕の強さが、今の彼の歓喜の感情の強さが感じられて…
また胸の中にドロリ、と黒い染みのようなものが広がっていくのを
感じていく。
(…信じろよ、オレ…。本多はオレだけを見てくれているって…。
愛してくれているって…。だから松浦と仲直りをしても、簡単にオレ達の
仲は壊れたりしないんだって…信じよう…!)
そう自分に言い聞かせながら、克哉はオズオズと本多に自分からも
抱きついていく。
この腕の温もりに包み込まれている間はいつだって安堵を覚えて
いたはずなのに…今夜は全く、嬉しくなかった。
複雑な思いばかりがジワリジワリと湧き上がって、取り繕うのが
大変だったのを良く覚えている。
「…本当に、良かったね…」
そして、本心とは裏腹の言葉を、相手にそっと与え続けていく。
本多はそんな言葉に対して、嬉しそうに笑っていた。
其れが余計に…その晩、克哉を苦しめていたなど…この快活な性格をした
恋人はきっと察することなどなかっただろう。
―そうだ、思い出した…。全ては、この日が発端だったんだ…
本多が、松浦と仲直りをした事。
交流を復活させた事がきっと…あの忌まわしい事件を起こす引き金を
生み出してしまったのだと今は確信出来る。
そして克哉は次の記憶を思い出していったのだった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。