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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                       10 11 12 13   14 15
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 続きの記憶が、蘇る。
 そして自分達は三人で翌週、飲みに行った。
 その冒頭までは克哉は過去を辿っていく形で思い出していった。
 本当は気が進まなかった。
 確かに自分達は同じ大学のバレーボール部に所属していたという
繋がりは確かにあったけれど。
 本多は、自分の方とも…松浦とも交流を持っていた。
 だが、克哉と松浦は殆ど接点を持たないままだった。
 むしろ、松浦にこちらは良く思われていなかったようにさえ思う。
 
―その日、酷く気が進まなかった。それだけは鮮明に覚えているが…
その続きが唐突に途切れて思い出せなくなってしまう

 黒いモヤに一気に包まれて、夢が閉ざされる。

(…この日、一体何があったんだ?)

 其れはいきなり芝居が重い幕に閉ざされてしまって、唐突に中断を
させられてしまったような心境だった。
 何かがあった事だけは薄々判る。
 けれど…其れ以上、克哉に探る事は突然不可能になってしまった。

―そしていきなり、克哉は意識を引きもどされていった

 それまで、順序良く思い出していた記憶が再び、ノイズが
混じって…克哉にとって思い出したくない場面を
真っ先に再生させていく。

―嫌だ、こんなの…嘘だ…現実だって、認めたくない…!

 血まみれになって倒れている本多。
 狂ったように哄笑し続ける松浦。
 彼ら二人は、自分のアドバイスによって関係を修復して…毎週の
ように飲みに行く間柄になった筈ではなかったのか。

(どうして、こんな結末を招いてしまっているんだよ…! あの二人が
仲直りした事に対して、オレはこんなに苦しい思いをしていて…。
嫉妬していたぐらいだったのに、どうして…!)

 間の記憶が、思い出せない。
 彼ら二人の親交の復活から、この結末に至るまでの過程の記憶が…
ザアザアザア、とノイズが混じってしまってこれ以上は無理だった。
 そしてもう一つの場面を思い出す。
 いつまでも目覚めない本多を待ち続けて、憔悴しきった自分。
 苦しくて、胸を掻きむしりたいぐらい辛くて仕方なくて。
 だから、自分は…その後にとんでもないことをしでかそうとしている
場面が一瞬だけ過ぎって、克哉は息を詰めていった。

―止めろ! 止めるんだ! オレ!

 これ以上、自分がやろうとしていた過ちを見たくなかった。
 だから必死に叫ぶことで其れを止めようとした。
 その瞬間、溢れんばかりの光が飛び込んでくる。

『起きろ…起きるんだ…!』

 そして、懸命な声に無理やり夢は中断させられて…克哉の意識は
覚醒していく。
 何度もパシパシと軽く頬を叩かれて、揺さぶられ続けていた。
 体中が鉛のように重くなり、まともに思考とロレツが回らない。

「あ、れ…? ここは…?」

「…やっと、目が覚めたか…お前、凄くうなされていたぞ…。凄い汗だな…」

「えっ…あ、うん…。凄く、嫌な夢を見ていたから…」

「…記憶を思い出してしまったのなら、仕方ない。…どこまで、思い出した?」

 そういえば先程、自分の方から彼に添い寝をした事を思い出した。
 あまりに不安そうで…今にも壊れそうなぐらい眼鏡は、脆い表情をしていたから。
 こちらを案じているようでいて、その癖…自分の方がよっぽど大きな不安を
抱えている風だった。

「…まだ、全部を思い出した訳じゃないんだ…。所々、抜け落ちてしまっている。
…最初にこの世界で目覚めた時、チラリと過ぎった…雨の中で倒れている誰かと
刃物を持って立ちつくしている人が…本多と、松浦だった事までは思い出せたけれど。
…どうして、あの二人がそんな結末を辿ってしまったのか、その過程が全く
思い出せないんだ…。どうして、どうしてなんだよ! あの二人は仲直りを
した筈じゃなかったのかよ! アドバイスしたオレが嫉妬をするぐらい…毎週の
ように一緒に飲みに行くようになって、修復した筈じゃなかったのかよ!
何で…あんな事が起こってしまったんだよ!」

 克哉は、感情のままに叫んでしまった。
 二人がどうしてあんな事になってしまったのか、そのキッカケとなった事。
 起承転結で言えば、起と結の部分だけを思い出して真ん中の部分がスッポリ
抜け落ちてしまっているようなものだ。
 だから克哉は判らず、混乱するしかなかった。
 そんな彼を、眼鏡はしっかりと抱きとめていく。

「…今は無理に思い出そうとするな…」

「無理、だよ…どうしたって、気になる…気にせざるを得ないだろ…!」

「それでも、思い出そうとするな…。お前が全てを思い出したら、その時は…
この世界もまた、消えるのだから…」

「えっ…?」

 その一言に、克哉は衝撃を覚えざるを得なかった。
 混乱してさざ波が立っている中に、また一つ大きな石を水面に投げ込まれて
しまったようなものだ。

(オレが全てを思い出したら…此処が、消えてしまう…?)

 その言葉に、またショックを受けていく。

「この世界が消えるって…そうなったら、オレ達はどうなるんだ…?」

「判らない。俺もまだ其処までは聞かされていない…! だから焦るな…。
焦って全てを思い出そうとするな…! この後、どうなるか判らないのだから!」

 そうして、懇願するような眼差しを浮かべていきながら眼鏡は訴えかけていく。
 相手のこんな脆そうな顔など、今日になるまで見た事がなかった。
 こんなにも不安そうな表情を浮かべているのを見ると…記憶を取り戻す事すら
強い罪悪を覚えてしまう。
 本音を言えば、空白を埋めたい気分がある。
 自分の中で欠けてしまっている記憶のピースを、満たしたい欲求が
不安だからこそ強まってしまっている。
 けれど思い出せばきっと…彼は不安にさせてしまうと思うと…
積極的に空白の記憶を得ようとする気持ちが萎えていくのを感じていった。

(…今は、焦るべきじゃないのかな…。知りたいけれど、知ってしまったら…
コイツを傷つけてしまうような、そんな気がする…)

 その気持ちが芽生えた瞬間、克哉は…ギュっと目を閉じていった。
 確かに焦るべきじゃないのかも知れない。
 自分の中でも次から次に明かされる事実に、ついていけてない部分があるから。
 だから…今は克哉は、本音と真相を追究しようとする気持ちに鍵を掛ける事にした。

―お前を、傷つけたくないから…そんな顔をさせたくないから…

 もう、きっとパンドラの箱は開けられてしまっている。
 きっと一度開いてしまったものを無理やり閉じたとしても…開く以前に
戻す事は不可能なのだと、薄々克哉は察していた。
 けれどせめて心の準備をする時間程度は、相手に与えたいと思ったから…
だから深い溜息を吐く事で、本音を誤魔化していく。
 強い力を相手を抱き締め、克哉は口を閉ざす事にした。

―そんな彼に向かって、眼鏡は噛みつくような口づけを強引に
与えていったのだった―

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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