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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

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 御堂のある一日は、電話の向こうで克哉の喘ぎ声を聞いたせいで
本当にグチャグチャになってしまっていた。
 同じ日に、あれだけ激しく求めたにも関わらず…克哉が他の
相手に抱かれていたという事実は、御堂を打ちのめして…結果
その日の仕事内容は散々なものになってしまっていた。
 当然、他の人間が見ても表面上は其処までガタガタとは思わないだろうし、
仕事に大きな穴が空いてしまう程、大きなミスの類は犯していない。
 当然、御堂とて機械的にこなしたと言っても…大きな不備の類を出しては
いなかったが、普段ならこなしている間に大体の事を頭の中に入れて
今後、どのように対処していくか。
 次の手を意識しながら業務を常にこなすようにしているのに…本日に
限っていえば、その次の手を考えるだけの心の余裕を失っていた。

「くそっ…私とした事が…!」

 御堂はその夜も、夜遅くまで会社に残って大量の仕事を片づけていた。
 正直、克哉の元にすぐにでも駆けつけて事の真偽を確かめたかったが…
あの後、キクチ本社に問い合わせてみたところ…本日は佐伯克哉は体調不良で
欠勤していると言われて…二の足を踏む結果になってしまっていた。
 営業八課の方に問い合わせたのは克哉の自宅の住所を聞く為だったが、
彼がいるかどうかを尋ねた時、即座に欠勤している事実を片桐から
告げられてしまった事と…さしたる理由もなく、一時同じ仕事をしていたぐらいの
間柄の人間が自宅を聞くという行為をするのに、他の人間と会話して
理性が戻って出来なくなってしまったのだ。

―結果、御堂は悶々としながら夜を迎えていた

 午後十時を回れば、社内に残っている人間など一握りしかいない。
 御堂が現在手掛けているプロジェクトに関わっている人間以外はとっくに
帰宅をしている頃だろう。
 事実、自分の部下である藤田もすでに帰ってしまっている。
 克哉の事を頭の中から追い払いたくて、必死になって業務をこなしていたが…
そろそろ良い時間であるし、区切りもついたので帰った方が良さそうだった。

(だが今日は帰った処で…恐らく、寝酒でも煽らなければ眠れないだろうがな…)

 その事実に苦笑していきながら、御堂は苦り切った息を吐いていく。
 この感情を自覚したのは、昨晩克哉とバッタリ顔を合わせた時からだ。
 なのにたった一日でその恋の芽は大きく育って…御堂の心の中を猛烈な
勢いで浸食し始めていた。
 狂おしい想いが、ただ息をしているだけでも溢れてくるのが判る。
 何故、こんなにも激しい感情がたった一日にして芽生えてしまったのか
彼にも判らない。
 昨日、克哉を前にした時…脳髄が蕩けてしまうぐらいに甘い匂いを
感じていき。
 それから自分は、かなりおかしくなってしまっているようだった。

(克哉…君の事を考えるだけで、気が狂いそうになる…!)

 あの電話の向こうから聞こえた、克哉の甘い声が気を抜くと頭の
中で再生されて、強い焦燥感を覚えていった。
 仕事をしている間は必死になって追い払っていた事実が…
ジワジワと彼の心を蝕んでいった。

―一体君は誰と、ベッドを共にしていたんだ…?

 あの通話からは、克哉の声しか聞こえなかった。
 こちらが聞いているとは克哉は露ほども気づいている様子はなかった。
 その点で、あの時…短い時間だけ通話ボタンを押した人物には明らかな
意図が感じられた。
 まるでこちらの事など見透かしているように…『こいつは俺のものだ』と
自己主張をしているように御堂には受け取られた。
 声も聞こえないその相手に対しての強烈な嫉妬が、御堂の中に
湧き上がっていく。
 せめてどこの誰なのか、それだけでも判ったら。もしくは特定するヒント
さえあれば良いのにそれすらもない事実が…更に御堂を追いこんでいく。
 胸の中に湧き上がる嫉妬の感情の矛先をどこに向ければいいのか、
正直持て余している。
 克哉にぶつける事も、その相手に叩きつけることもできない事が…
大きな苛立ちと憤怒を生み出すキッカケになった。

「今夜は我ながら…荒れているな…」

 小さく呟きながら、胸の中のモヤモヤを少しでも追い出す為に
深い溜息を吐いていった。
 このままでは帰った処で眠れはしない。
 そのせいで一瞬、帰宅することを躊躇った御堂の元に一本の
電話が掛けられていった。

ジリリリリリン、ジリリリリリン…

 それが静寂をたたえた御堂の執務室に不気味なぐらい木霊していった。
 
(こんな時間に、電話が…?)

 御堂は一瞬、今関係しているプロジェクトに海外の企業があったか
どうかを考えていった。
 海外とは基本的に時差がある。
 だから相当におかしな時間帯に電話があっても海外と密接に連絡を
取り合っている時期は当たり前のことなのだが、今はそういうのも落ち着いている
時期の筈だ。
 怪訝に思いながら手に取っていくと…御堂は通話ボタンを押して応対
していった。
 いつも通り、自分の肩書きを相手に伝えていった途端…御堂の顔色は
急速に変わっていった。

「なっ…君は、一体…!」

 開口一番に言われた発言に、御堂は虚を突かれて…動揺を
示してしまっていた。 
 それが、御堂にとっては地獄の釜を開いてしまったに等しい
致命的なミスだった。

―そして相手は、電話の向こうでほくそ笑んでいく

 緩やかに今…佐伯克哉を中心に、彼を取り巻く男たちの間で
大きな嵐が吹き荒れようとしていたのだった―
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※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
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 御堂が嫉妬に苦しみ、克哉がもう一人の自分との甘い時間に
浸っているのと同じ日の夜。
 澤村紀次は、自室にて…昨晩撮影した映像を確認する為に
眺めていた。
 大画面のワイドTVを見ながらソファの上で寛ぎながら…其れを
確認している男の口元には、邪悪な笑みが刻み込まれていた。

(全く…良く分からない電話に呼び出されて半信半疑だったが、
まさかこんな画が撮れるとは予想外だったよ…)

 昨晩、彼の元に謎のメールが送信されていた。
 最初は迷惑メールか、悪戯のどちらかと思いさっさと
削除しようとした。
 だが、そのメールのタイトルが「MGNのある重役について」と
いうものであった為に、好奇心に負けて…中身だけ確認して
しまったのだ。
 現在、澤村はMGNの子会社の一つをターゲットに定めて
ここ数カ月、情報収集をしていた。
 だが、その会社の実権を握る為の有力な手札になりそうなものが
殆ど得られていない事から…多少の焦りを覚えている時期でもあった。
 クリスタルトラストは、相手先の会社の弱みを握る事で操作したり、
脅したりして…自社に取って都合の良い条件を作り出していく。
 そういう違法スレスレの行為をする事で成り立っている会社だった。
 どんな処でも大抵は探せば、ホコリが出てくるものだが…ターゲットに
している会社は少なくとも澤村の調査では、圧倒的優位に立てるだけの
弱みが存在していなかった。
 だからこそ…途方に暮れていた訳だが、まさかこんな形で鴨がネギを
背負ってやってくるとは予想もしていなかった。

(悪戯かも知れないと思いながらも…実際に行ってみたら、まさか…
克哉君と、MGNの部長とのあんなシーンを撮影出来るとはね…。
正直、暗視カメラで撮った訳じゃないから画像もボヤけているし…
そのままじゃ人物の特定も出来ないけれど、声だけはばっちりだし。
当人に脅す材料としてはこれでも充分過ぎるぐらいだね…)

 そう、夜でもキチンと撮影出来る用の器具までは用意していなかったので
あの公園内に設置されている街灯の明かりだけを頼りにそれは
撮影されていた。
 そのせいで顔とか細かい特徴は正直言って殆ど判らなかったが…
息遣いや、物音によって男同士が『セックス』をしているという事だけは
はっきりと伝わってくるレベルだった。

(これで動揺してくれれば…こっちの有利なように交渉を持って
いけると思うけど。…MGNの部長、御堂氏がどれほどの肝っ玉を
持った人物によるかに掛かっているね…。けど、一緒に映っている
男はやっぱり、克哉君だよね…。まさか、こんな形でかつての同級生の
濡れ場に立ち会う事になるとは考えてもみなかったけれど…)

 恐らく、メール内に御堂孝典氏と佐伯克哉氏の…という一文が
なかったら澤村自身もこのビデオで撮影した二人が、彼らだと
正直判らなかっただろう。
 同時に、そうはっきりと名指しをしていた事で…悪戯覚悟でも
足を向けてみる価値はあると判断したのだ。
 佐伯克哉は、すでに接点を失ってから13~4年程度の月日が
流れている。
 だがそれだけの時間が過ぎていても…澤村にとっては深い意味を
持つ人物だった。

(さあ…これを君に見せたら、どんな反応を見せてくれるのかな…?)

 そう想像出来るだけで、愉快だった。
 だが…その気持ちとは全くベクトルが違う感情も同時に覚えていたが、
今の彼は敢えて…それに気付かない振りをしていった。
 その感情を自覚すれば、これから彼が行おうとしている事は出来なく
なってしまうから。
 このクリスタルトラストに身を置くようになってから呼吸をするように
当然の行為となりつつある、脅迫行為。
 其れを…好意だの、情だと言った感情を抱いてしまっては…とても
出来なくなってしまうから。
 だから彼はこの画像を見て、克哉の甘い声を延々と聞いていて
湧き上がる…奇妙な疼きや衝動を自覚しないようにしていた。

「はっ…暑いな、今夜は…」

 だが、聴覚を刺激されているせいで身体は自然と熱くなってきている。
 何とも形容しがたい感情が、ゆっくりと競り上がってくるのが判る。
 しかしそれでも…澤村は自覚しないようにしていった。

―Mr.Rが克哉に飲ませた媚薬は、効果はたった一日程度しか持続しない。
だが、潜在的に佐伯克哉に対して強い感情を抱いている人間には近くにいる
だけでも強烈に作用してしまう力を持っていた

 「はっ…はっ…」

 確認の為に見ているだけだ。
 そう理性では判っている。
 だが…克哉の喘ぎ声を聞いている内に、身体はこちらの意思とは
関係なく反応してしまっている。
 そしてついに勃起をしてしまう…その瀬戸際に、ビデオの再生を止めて
大急ぎで立ちあがっていく。

「…ちっ、今夜はきっと疲れているんだね。冷たいシャワーでも浴びれば
きっと冷静になるだろう。…取引材料に使う予定のもので、こんな風に
反応してしまうとは…全く、男のサガって奴は厄介だね。男同士の
声だけしか聞き取れないものでこんな風に反応しちゃうんだから…」

 そう呟いて、大急ぎで浴室に向かって手早くシャワーを浴びていく。
 だが…この日、彼の心の奥底で宿った想いが、後に大きな騒動を巻き起こす
新たな火種になる事を…彼自身もまた、自覚することはなかったのだった―

※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
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―二回目の行為をされる頃には、克哉は後ろに両手を纏められて
手首を縛られる格好で犯されていた

 酷く抱いて欲しい、と願ったのを眼鏡は叶えてやったのだ。
 全身の衣類は完全に剥かれて全裸の格好で、こちらに腰を
突きだす格好で犯される克哉の姿は酷く艶めかしかった。
 その状態で息を付く間もない程激しく相手を犯し続けていった。
 二度目、三度目と手首を縛られながらの行為は克哉にとって
苦痛と快楽がない混ぜになっている時間だった。
 だが、相手の精が内部に放たれる度に克哉の内壁は柔らかみを
帯びて…相手の性器に一層吸いつくような動きに変わっていった。

「はぁ…んっ…あっ…あっ…」

 克哉の瞳は、蕩けて焦点を失っていた。
 今、眼鏡が与えてくれる感覚以外は意識が回らない…そんな
状態にまで陥っていく。
 だからこそ、何度もベッドサイドで携帯がバイブ状態で振動していた事に…
何度も掛かって来ていたコールに、眼鏡が通話ボタンを押して一時…
こちらの声が筒抜けになってしまっていた事に気づいていなかった。
 其れはまるで、電話の向こうにいる相手に「こいつは自分のものだ」と
暗に示すような行為に他ならなかった。
 三度目の行為が終わる頃には克哉の手首はうっすらと鬱血が
始まっていた為に…その拘束を解いていってやる。
 しかし腕に残された赤黒い痕は、すでに彼の肌に刻まれていた。
 恐らく数日は、残り続ける事だろう。

(俺は一体…何をやっている…?)

 三度目の精を克哉の中に放って、全身を汗まみれにしていきながら…
ようやく少し冷静になれた頭で自問自答していく。
 どうして自分は、こちらの提示した条件を守れなかった克哉の前に
姿を現してしまったのだろうか。
 その事に心底疑問を覚えつつ、荒い呼吸を眼鏡は整えていった。
 胸の中にドロリ、とした想いがいつの間にか宿っている。
 それを一言で説明するのが難しく…何とも言えない閉塞感を、どうにか
少しでも晴らしたくて彼は…無我夢中で克哉を犯していった。
 そうした事で肉体的にはすっきりして、多少は気が紛れた。
 しかし…眼鏡は今、自分が抱いている感情の正体に気づく事を
無意識の内に恐れてしまっていた。

(この訳の判らない感情の正体は一体なんなんだ…?)

 男は、背後から克哉の身体を掻き抱きながら、疑問を覚えていく。
 昨晩…御堂に身体を許したもう一人の自分に対して、どうしようもない
苛立ちを覚えているのは何故なのか。
 その答えに薄々と判っているが、其れは彼のプライドが許さなかった。

―自分がこんな冴えなくて情けない半身に、同じように恋をしてしまって
いた事など…この時点の眼鏡には認めがたい事だったから

 だから無言のまま、暫く小休止をせいった。
 すると…ベッドシーツの上に突いていたこちらの手に、克哉の手が
そっと重ねられていった。

「ありがとう…『俺』…。夢でも、オレの処に来てくれて…」

 こちらを振り返りながら、克哉は泣きそうな眼差しでそう呟いていった。
 その目を見て、眼鏡は何とも言えない心境に陥っていく。

(何故、こいつの目を見ていると…こんなに心が落ち着かなくなるんだ…?)

 眼鏡は、何も言えずに克哉の瞳を真っすぐに見つめ返していった。
 克哉はそんな彼を愛しげに見つめていく。
 引力がその瞬間、二人の間に発生していく。
 吸い寄せられるように顔を寄せていくと、克哉の唇にそっと重なり触れるだけの
口づけを交わしていった。
 チリリ、と胸が焦げていくような気分だった。
 何かに、心が浸食されていく。
 だが…眼鏡は、言葉を失いながら…暫し、その口づけに応じていった。

「大好きだよ…『俺』…」

 泣きながら、克哉はそう告げて…そうして意識を手放していった。
 崩れるようにその肉体がシーツの上に突っ伏していった。
 元々の体調の悪さも手伝ってか、ブレーカーが落ちるように克哉の意識も
閉ざされていく。
 其れを見つめていきながら…眼鏡はそっと呟いていった。

「お前は一体、俺にとって何なのだ…?」

 その問いの答えに、まだ彼は気づけないままだった。
 そして意識を失った克哉にそっとキスを与えていくと…眼鏡は身支度を
整えて彼の傍から立ち去っていく。

―そして数時間後、克哉が目覚める頃には…その姿はまるで幻か
何かのように完全に消えてしまっていたのだった―

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―克哉はこちらに向かって必死になってすがりついていた

 まるでその手を離したら、こちらが消えてしまうとでもいうかのように。
 自分の元に引き留める為に、強い力を込めてしがみついてきていた。

(何故、こいつを抱きしめて…こんなすっきりしない気持ちになって
しまっているんだ…?)

 眼鏡を掛けた方の克哉は自問自答していく。
 己の中にゆっくりと生まれてきているこの感情が一体なんなのか…
まだその正体に気づくことなく。
 むしろその気持ちから必死に目をそらそうと相手の身体を強引に
弄り始めていった。
 克哉のパジャマを乱暴に脱がせて、両方の胸の突起を押しつぶすように
愛撫を施していく。

「ふっ…ぅ…ぁ…」

 たったそれだけの刺激で、相手を大きく腰を揺らめかして…
悩ましい声を漏らしていく。
 触れている内に眼鏡の手の動きは更に大胆さを増していき。
 突起を指の間に挟み込んでいくような動きになれば堪らないというように、
克哉はしきりに腰をよじらせていた。

「ほう? まだ胸だけしかいじってないのにここまで顕著な反応を示すとは…
やはりお前は天性の淫乱だったということだな…」

「んんっ…やだ、そんなこと…いうなよぉ…」

 気持ちを寄せている相手からからかうようにそんなことを言われて
克哉は涙目になっていく。
 だが目の前の男は意地悪な笑みを浮かべているだけで、こちらの
懇願を聞き遂げてくれそうにはなかった。

 「…お前がイラヤシイ身体をしているのは事実だろう? 誰に
抱かれても激しくよがって乱れる癖に…」

「…っ! やだ、お前の口から…そんな事を言われ、たくない…!
やめて、くれよ…!」

「事実だろう? お前rは御堂に抱かれていた時でさえも…
あんなに感じまくって、何度も上り詰めていたのだから…」

「ううっ…お願いだよ、もうそれ以上は…言わないでくれぇ!」

 繰り返し指摘されて、克哉は耐え切れずに叫び声を上げていく。
 さっきまでもう一人の自分に触れられている喜びが胸の中に広がっていたが…
その言葉を聞いた途端、克哉は冷水を浴びせられたような心境に陥った。
 克哉は今の言葉が、昨晩お御堂との行為を指していることを瞬時に理解して、
消え去りたい心境になっていった。
 
―もう一人の自分に、昨晩の出来事を知られてしまっている

 それは彼を絶望に突き落とすには十分な事実だった。
 本当に…このまま消えることが出来たらどれだけよかっただろうか。
 胸の中にジワリ、と流されて御堂とセックスをしてしまった事実が重く
圧し掛かってくる。
 御堂の真剣な瞳に、結局抗うことが出来なかった。
 あの腕の強さと熱さに、本だの時のように全力で拒んで…絶対に
貞操を守るという強い意志を貫くことが出来なかった。
 その苦い思いが涙となって、また克哉の目元を濡らしていく。

「…お前は今日は、泣いてばかりだな。抱いていて辛気臭い気分になるから…
そんな顔はもう止めろ…」

「・・・お願いがある、んだ…オレを、酷く抱いてくれ…」

「何、だと…?」

 克哉からの唐突な申し出に、めがねは一瞬面食らっていった。
 だが…当の本人は真剣そのものの顔を浮かべて、必死になってこちらを
見つめて来ていた。

「…オレは、お前を想いながら…安易に御堂さんに抱かれたことを、オレ自身が
許せなくなっている。こんなの、甘えだって分かっているんだけど…今は
優しくなんて抱かないでくれ。むしろ、いつもよりも酷く激しく…オレに罰を
与えるように、苛め抜いてほしい…」

 そう、縋るような眼差しを浮かべていきながら…頼んでいく。
 快楽よりも、今はもっと苦しいものが欲しかった。
 息もつくことの出来ない激しさと忙しさと、そしてこちらに快楽以外の
感覚も今は彼から与えて欲しかった。
 だから克哉は、相手に強く抱きつきながら懇願していく。

「お願いだよ…そうしなきゃ、オレは…自分を許せなくなる。こんなオレに、
罰を…与えてよ。お願いだから…」

「分かった、そんなに望むなら…お前が望むものを与えてやろう…」

 そうして唐突に眼鏡の手は乱暴なものへと変わっていった。
 パジャマを藪間ばかりの荒々しさで克哉の衣類を剥ぎ取って、あっという間に
全裸になっていく。
 そしてその体を四つんばいにさせていくと…眼鏡は己の胸元を締めていた
ネクタイを外して、克哉の両手を縛り上げていった。
 両手を後ろで拘束されて、一気に自由が奪われていった。

「あっ…」

「…淫らなお前に、お仕置きをしてやろう…。お前が一体、誰のものなのか
この体に教え込んでやる為にな…」

「うん、お願い…。お前を、しっかりと刻んで…あい、…んっ…!」

―愛してくれなくてもかまわないから

 そう続けようとした途端、強引に熱いペニスを捻じ込まれて…
まともに言葉が紡げなくなっていった。
 首筋に顔を埋められて、くっきりと歯型を刻まれていくと…その痛みと
疼きに勝也は身を震わせていく。
 こちらの体を良く知り尽くしているペニスは…的確に感じる部位を探り当てて
こちらの快楽を引きずり出していった。

「あっ…あああっ…! イイ、もっと…激しく、オレを…犯して!
お前の手で、オレを…罰してくれ、よぉ…ああっ!」

「…頼まれなくても、そうしてやる…!!お仕置きに何度でも今日は…
お前を犯してやろう…!」

 そうして肉が打ち合う音が部屋中に響き渡るぐらいに激しく揺さぶられて
克哉は一度目の絶頂を迎えていった。
 相手の熱い精を感じ取って、ブルリと震えていく。

「あっ…はっ…」

 克哉は歓喜の声を漏らしていきながら、その感覚に陶然となっていく。

「…何をうっとりしている。まだ、お前へのお仕置きは終わっていないぞ…」

「ふっ…うっ…!」

 背後から手を回されて、胸の突起を弄られていくだけでキュウ…とまだ
内部に納まったままの相手のペニスを締め付けていってしまう。
 その刺激で、眼鏡のペニスは再び硬度を取り戻して自己主張を
始めていった。

「もっと…オレに、お前を刻み込んで…!」

 愛されていなくても良い。
 それでも克哉は今はもう一人の自分を感じたかった。
 彼が与えてくれる感覚を、己の体に刻み込みたかった。
 そうして再び激しい抽送が開始されていく。

―そうして克哉は、何度もその後…快楽に翻弄されながら
嬌声を上げ続けていたのだった―





 

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―克哉が夢と思って、もう一人の自分に縋りついているのと
ほぼ同時刻…御堂は、深い溜息をついていた。
 自分の執務室の椅子に座り、大量の書類に目を通し終わって
一段落がついた頃…ふと、御堂は窓の外を眺めて思案し始めていた。
 時刻はとっくの昔に昼休みを迎えていたが…心の中にモヤモヤした
想いが強烈に広がっているせいで、空腹を感じる事が出来なくなって
しまっていた。

(昨晩の私は…どうかしていたな。何故、あんなにも自分を抑える事が
出来なくなってしまったんだ…?)

 同性の相手を、無我夢中で…狂ったように抱き続ける。
 そんな行動に出た自分を、今さらながら信じられなくなっていた。
 だが…どれだけ打ち消そうとしても、こちらがシャワーを浴びている間に
克哉がいなくなってから、筆舌しがたい焦燥感が湧いていて…仕事に
集中している時ならともかく、ふと隙間時間が生じる度に…苦い
想いを噛み殺すしか出来なくなっていた。

「佐伯、克哉…。何故、私は君に対して…いきなり、こんなにも抑えがたい
感情をいきなり抱いているんだ…?」

 昨日、街中で顔をばったり合わせてから…それまでとは違う感情が
急に湧き上がった事に、御堂自身も疑問に覚えていた。
 何故、唐突に…今まで仕事上の付き合いしかなかった筈の相手を
こんな風に想うようになってしまったのか御堂自身も理由が
判らなかった。
 だが、昨日…克哉から脳が蕩けてしまいそうな甘い香りが立ち昇っていて、
其れをずっと嗅いでいる内に…気持ちが徐々に変わってしまったのは
辛うじて覚えていた。

(君から立ち昇っていた…あの甘い香りは一体、何だったんだ…?
私が知っているどんなフレグランスとも、香水とも違う…不思議な
匂いだったが…?)

 今朝、克哉が自分の傍にいた時は…『何故』や、『どうして?』を
考える間など全くなかった。
 克哉の中に己を刻みこむのに夢中で。
 彼の心をどうにかして得たくて、それ以外の事など一切考える事が
出来ないぐらいに克哉を求めてしまっていたから。
 だが…こうして仕事に忙殺される日常に戻り、彼が傍らにいない事によって
少しだけ疑問に思う余裕が生まれていった。
 冷静になってみれば、昨晩の自分がどれだけおかしかったのかを
嫌でも自覚出来る。
 それでも…急速に胸の中に生まれた感情に、ただ翻弄されるしか
今の御堂は出来ないでいた。

「…どうして、こんなにも…君が、欲しくて堪らないんだ…。一体、
私はどうなってしまったんだ…」

  昨晩公園にて…強引に連れ込んだホテル内で、克哉を衝動のままに
犯して…五回もその中に熱い精を放った。
 だが、本当ならそれでも足りないと思っていた。
 彼の意識が完全に失われて、がっくりと意識を失っていたから…
その回数で止めたのであって、克哉の意識が残っていたのならば…
昨晩の御堂はそれこそ、何度でも克哉の中に己を刻み続けていたのだろう。
 まるでこれではセックスを知ったばかりの高校生みたいではないか。
 そんな風に夢中になって、狂ったように相手を求める自分など…
御堂は信じられなくて、ふと遠い目になっていく。

―だが、昨晩の出来事は紛れもなく現実の事であった事を…
御堂自身も、認めざるを得なかった

 本当なら、克哉の事を考えて溜息をついている余裕など
御堂にはない筈だった。
 自分が情熱を注いで作り上げた製品がもうじき完成して…
これから全力を注いで、そのプロジェクトに当たらないといけない
時期である筈なのに。
 昨日までそれ以外の事など、御堂の頭の中には全く存在して
いなかった筈なのに…今は、気を抜くと克哉の事ばかり考えて
しまって…あれだけ、全力を注いで開発に当たった製品の
事さえも吹っ飛んでしまいそうになった。

「佐伯君…どうして、私は急にこんなにも君を想うようになって
しまったんだ…? 私にとって君は…一体…?」

 そう疑問に思って小さく呟いていっても、答えてくれる
者などどこにもいなかった。
 まるで…禁断の果実を口にしてしまったような気分だった。
 彼という豊潤で甘い香りを漂う果実を一度口にしてしまったら最後…
虜になって、他の事などどうでも良くなってしまう。
 そんな馬鹿げた考えがふと浮かびあがってしまい…御堂は
自嘲的に微笑んでいった。

「…ふっ…馬鹿げた考えだ…」
 
 そう思い、一旦は御堂は思考を切り替えていく。
 今は…仕事に集中しなければならない。
 そう理性を働かせた瞬間、ふと一つの考えが浮かんでいった。

(後で佐伯君に連絡してみよう…。確か彼の携帯の番号はまだ…
私のアドレス帳に登録されていた筈だから…)

 そう考えて、気持ちを仕事の方へと向けていく。
 だが…御堂のこの気まぐれのような考えが、予想もつかない
自体をまた一つ引き起こすトリガーになってしまう事を、
彼もまた…予想する事なく。

―克哉が同時刻に、どんな事をしているのか…まだ御堂は知ることなく
再び意識を仕事の方へと、今は戻していったのだった―

現在連載中のお話のログ

 ※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
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 恋人の条件                      10

―眼鏡を掛けた佐伯克哉は、ぐったりと力なく横たわるもう一人の
自分を見て複雑な想いを抱いていた

(俺はどうして…こんな奴を気にしているんだ…?)

 Mr.Rを通じて渡した伝言。
 15日、貞操を守れればお前の元に現れると言って、こいつは
一日も守る事が出来なかった。
 なら、二度と会わなければ良いのに…何故、こうして自分は
現れてしまったのか。
 その事に疑問を覚えつつ、深い眠りに陥っている克哉を
どこか冷たい目をしながら見下ろしていく。
 胸の中に何とも形容しがたい感情が渦巻いているのが判った。

(何なんだこの感情は…。どうしてこんなすっきりしない気持ちを
俺はコイツに対して抱いてしまっているんだ…?)

 憎いような、生温かいような…叩き壊してやりたい思いと、優しくして
やりたい気持ちがごちゃ混ぜになっているような感じだった。
 引き寄せられるように口づけてから、眼鏡は混乱していた。
 早くこいつの元から立ち去るべきだと思った。
 幸い、こいつは睡眠不足と強い精神的な葛藤が重なって
泥のように眠り続けている。
 この段階で姿を消せば、存在を気取られる事なく立ち去れるというのに
足がその場に縫いつけられたように動いてくれなかった。

(俺は一体、どうしてしまったんだ…?)

 そんな風に、自分の感情に戸惑いを覚えていきながらもう一度…
克哉の髪を撫ぜていく。
 一昨日の夜、抱いたばかりで…こいつは自分の出した条件を
守れなかった。
 克哉の前に姿を出してやる義理などない。
 
―もうこいつの前に二度と現れてやる義理などない…!

 強くそう思うのに、こちらの思惑を裏切った相手に対して最高の
罰を与えるとしたら…其れが最良だと判っているのに、其れを
実際に行う事に対して躊躇いを覚えている自分がいた。

「ちっ…忌々しい。お前がどうなろうともう俺の知った事ではない…!」

 そう吐き捨てて、妙な感情を断ち切ろうとした。
 だが、其れが出来ない。
 その瞬間…克哉の縋るような眼差しがぶつかってしまったから。

「あれ…『俺』…? まさか、これは…夢。夢、なのかな…?」

 克哉は迷子のような頼りない目をしていきながら…こちらを
見つめてくる。
 現実と幻想の狭間を彷徨っているような不安定な瞳。
 けれどまるで、行かないでというようにこちらの袖を強く
握りしめていく。

「………………」

 眼鏡は克哉の問いに対して、何も答えてやらなかった。
 こっちが応えてやる義理などないと、そういう冷徹な対応をしていくと
克哉は不意に…力なく笑っていく。

「…いい、俺にとって都合の良い夢でも構わない。オレは…もうあいつに
顔を合わせる資格もないんだから。せめて…夢の中でも、会えれば
充分なのだから…」

 資格を喪失した筈の自分の前に、眼鏡が現れてくれる訳がないと
ごく当たり前のように思ったようだった。
 克哉はこれを、夢の中の事と認識したようだった。
 その呟きを聞いた時、ふと…眼鏡は気まぐれな想いを抱いていった。
 強引に相手の背中を掻き抱き、一気に自分と相手との距離を
詰めていった。
 眼鏡の瞳にある強い感情に、視線がぶつかった瞬間に克哉は
覚えた目を浮かべていった。
 だがこの千載一遇のチャンスに対して、決して逃すまいとするかのように
克哉もまた少し遅れて相手の首元に強い力で、抱きついていく。

「…夢で構わない。抱いてくれ…。せめて幻想の中でも構わないから
お前のものになったという夢に浸りたい…!」

 涙を浮かべながら、克哉は縋りついてくる。
 その様子を見て…眼鏡は強く心を揺さぶられていった。
 視線がぶつかった瞬間、真珠のような涙が克哉の目元から
溢れて頬を伝っていく。

「お前は、夢で良いのか…」

 だから、眼鏡は問いかけていく。
 瞬間、克哉は眼を伏せて…慎重に答えていった。

「嗚呼、夢で良い。資格を失ったオレに…甘い夢をもつ事はきっと
許されないのだから。…だからせめて、一時の夢ぐらい見たい。
きっとあいつはもう…オレの前に現れてくれないのなら、せめて…」

 そうして、涙腺が壊れてしまったかのように克哉はポロポロと
涙を零し始めていく。
 其れを見て、眼鏡の気持ちがゆっくりと変化していった。

「…仕方ない。お前の夢に付き合ってやる…」

 そうして眼鏡は溜息を吐きながら…克哉の幻想に
一時付き合ってやる事にしたのだった―

※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

 恋人の条件                    

 謎の男性に言われた言葉があまりにショックで、帰宅している間もずっと
頭の中でグルグルしていた。
 昨晩の御堂に抱かれていた所を、他の誰かに目撃された事実が、克哉の
神経を大きく苛んでいた。
 
(あんな場面を…他の人に、見られてしまったなんて…)
 
 15日間、貞操を守ればもう一人の自分に会えるチャンスが
与えられる筈だった。
 何が何でも、死守するつもりだった。
 そうして笑顔で眼鏡を掛けた方の自分に会う筈だったのに現実は予想も
つかない出来事ばかりが連続して、彼の思惑とは全くかけ離れた方へと
動きつつあった。
 その失望感が克哉の気力を根こそぎ奪い…危うい足取りで自分のマンションに
戻った頃には、もう着替えて会社に行く事など出来なくなってしまっていた。
 
「胃が、痛い…」
 
 汗で汚れたシャツとスーツを脱ぎ去ると、克哉はパジャマに着替えて
ベッドの上に倒れ込んでいった。
 申し訳ないが、胃がキリキリ痛み…頭が割れるように痛くて、とても
会社に行けるコンディションではなかった。
 
(会社に電話、しないと…。無断欠勤をしたら社会人失格と思われても
しょうがない、しな…)

 だから何もかもが億劫になってしまっても、辛うじて電話に手を伸ばして
体調不良で本日休ませて欲しい旨を片桐に伝えていく。
 本当に消え入りそうな弱々しい声で言っていたからだろう。
 全く疑われる事なく「お大事に」と最後、優しく伝えられて電話が
切られていった。
 その瞬間、ドっと溜めこんでいたものが表に出て…指一本
動かす事すら、もう面倒くさい心境になってしまった。

(…この薬の効果、いつまで続くんだろう…)

 一度、あの銀縁眼鏡をRに返却してからは…比較的穏やかな日々が
続いていたのに、あの薬を飲まされただけで生活は再び一転して
しまった。 
 今日、休んだ理由の中に…これ以上、周りの人間の態度がこの薬の
効果によって豹変するのを見たくないという気持ちも含まれていた。
 人間の消化吸収のサイクルは、24時間が普通だ。
 丸一日経過すれば、グっと効能も落ちるかもしれない。
 そんなか細い希望を抱いていきながら…布団の中で深い溜息を
吐いていく。

「…これから、一体どうすれば良いんだろう…」

 御堂と、あんな形で身体を繋げてしまった。
 しかもそれを得体の知れない男に目撃されてしまったのと…
本多に迫られたという自分にとっての大事件が三つも重なって
しまえば…途方に暮れる以外、何も出来なかった。
 本来なら、解決策を考えなければならないって判っていた。
 けど、今はそれすらも面倒くさくて…全てを放棄したかった。

(…もう、オレはあいつに会えないのかな…)

 絶望が、ジワリと心の奥底に広がっていく。
 脳裏に何度ももう一人の自分の面影が浮かんでは消えて、
罪悪感のようなものを感じていった。
 全ての発端は、あいつに恋心を抱いたから。
 こんな気持ちなど…分、不相応だったというのだろうか?
 一昨日の夜に抱かれて気づいたばかりの想いは…御堂に
抱かれた事によって、チクチクと克哉を苛んでいく。

「…たった一日も、貞操を守れないオレって…本当に情けないよな…」

 克哉は、泥のように重い身体を引きずりながらそう呟いていった。
 あいつに会いたい、心からそう思うのに…もう二度と会えないかも
知れないという恐れが、克哉の中で引きずっていく。
 その恐怖の気持ちが彼の目元に涙を浮かばせて、ゆっくりと
泣き始めていった。

「会いたい、よ…もう、会えないなんて…嫌だよ…『俺』…」

 条件を、守れなかった。
 だからもう会えないと克哉は信じ込んでしまった。
 自分にはもう、あいつを想う資格なんてないと思い込んだ。 
 だから…絶望を抱きながら、いつの間にか泣きつかれて…
克哉は意識を手放していった。

―それからどれくらいの時間が過ぎただろうか。

 克哉は眠っていて、だから夢だと思った。
 自分にとってはあまりに都合が良すぎる夢だと。
 数時間眠ってから、夢うつつに目覚めていくと…克哉の
傍らに、もう一人の自分が立っている気がした。

(これ、夢かな…。あいつが、オレの傍にいる…。触ったら、
消えちゃうのかな…それでも…)

 恐る恐る確かめる為に手を伸ばしていくと、しっかりと触れる事が出来た。
 言葉もなく、相手の頬に触れる。
 …もう一人の自分もまた、何も言わなかった。
 鋭い目線が、こちらの心を深く抉るようだった。

「…御免、な…『俺』…」

 そして謝罪の言葉を呟いていった。
 そんな自分に対して、眼鏡は小さく返していった。

「…馬鹿が…」

 吐き捨てるように言うと、一瞬だけ触れる口づけを克哉の唇に
落としていく。
 其れを引き留めたくて、必死になって相手に抱きつこうとしたけれど…
一瞬のうちに相手の姿は幻のように消えてしまって、その場には
克哉だけが残されていった。

(今のは、夢…。夢、だったのかな…。けど、良い。それでも
一瞬だけでも、会えたなら…)

 そうして克哉は再び、夢の中に意識を落としていく。
 その光景が現実だったのか、それとも都合の良い願望だったのか
判らぬまま…この日は克哉は一日の大半を眠って過ごし、疲れ果てた
身体と心を束の間、癒していったのだった―
 
 


 
※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

 恋人の条件                  

―翌朝、克哉は強い自己嫌悪に苛まれていた

 結局あれから、屋外で二発…ホテルに入ってから三発
御堂の精を注がれてしまった。
 公園内での行為が終わった時点で、克哉に抗う気力も逃げる体力も
残されておらず…其処からズルズルとまた抱かれてしまった。
 一足先にシャワーを浴びるように促され、今は御堂の方がバスルームを
仕様している。
 それなりに高級な雰囲気の漂うビジネスホテル。
 克哉はその室内で、苦い顔をしながら…ようやく一人になって
考えを巡らす自由を与えられ、そして苦い溜息を吐いていた。

(…結局、流されて御堂さんに抱かれてしまった…。たった一日すら、
俺は貞操を守れなかったんだな…)

 その事実が克哉の胸の中に深く突き刺さっていく。
 苦しくて、自分という人間がどうしようもない存在に感じられてしまう。
 あいつに、会いたかった。
 だから15日間は絶対に誰にも抱かれないで過ごすつもりだったのに…
そんな願いはあっという間に打ち砕かれてしまった。
 これからどうすれば良いのか、克哉は途方に暮れていた。
 御堂がシャワーを浴びている水音が耳に届いていくが…今、全ての
ものがひどく遠く感じられてしまった。

「これから…どうしよう…」

 今日は、平日だった。
 しかも…昨日と同じスーツを着ている。
 幸い、激しい行為をされたが…精液の類では汚れなかったので
辛うじて着て帰れるが、汗の臭いだけはどうしようもない。
 一応、電車を使って帰る事ぐらいは出来るが、このスーツを着て
直接出社するのは社会人としてNGだろう。
 そうなると一度、帰宅するしかない訳だが…。

(そうなったら、御堂さんをどうにか振りきって自宅に帰る以外
ないよな…。きっとシャワーから出たらまた凄く執着されるに
決まっている…。なら、今…この部屋から出ていくしかない…)

 昨日、ずっと克哉を逃すまいと強い力で抱きしめ続けていた
御堂の心情を考えると少し胸が痛んだが…それ以外の道は
存在しないだろう。
 Mr.Rから飲まされた薬のせいで、御堂も本多も…恐らく太一も
潜在的に狂わされてしまっている。
 なら、チャンスはこの瞬間しかない。
 シャワーの音が止んだのに気づいて、克哉は慌ててベッドから
立ちあがって己のカバンを手に取っていった。

(御免なさい、御堂さん…)

 どれだけ激しく抱かれても、今の自分の中には…こんなにも色濃く
もう一人の自分の面影が宿っている。
 だから、今は…御堂の前から逃げる以外の選択肢が克哉の中には
存在しなかった。
 バスルームの扉が開かれると同時に克哉は入口の方まで全力で
掛けていく。
 扉を開けて出ていく瞬間、御堂の叫び声が聞こえていった。

「佐伯君! 何をしている…!」

「御堂さん、すみません! 一旦帰らないといけないのでこれで
失礼します!」

「待て、待ちたまえ!」

 御堂がバスローブを纏った格好で必死の形相でこちらを
追いかけてくる。
 だが克哉は苦しげな顔を浮かべていきながら…御堂の気持ちを
立ちきるように、全力で駆けだしていった。

(ごめんなさい…御堂さん…!)

 昨晩、御堂に抱かれた腕の熱さが鮮明に思い出せてしまうからこそ…
克哉は胸が潰れそうになってしまった。
 だが、感傷に流されてしまったら…余計に自分が許せなくなる気がした。
 もうとっくに…もう一人の自分に会える資格などなくなってしまっている。
 しかしすぐに諦めて、御堂の腕の中に収まってしまえる程…克哉は
諦めが良くなかった。

(今、御堂さんの腕の中から逃げたって…何にもなる訳じゃない。けど…
今は一人になって少し考えたいんだ…!)

 だから、克哉は御堂から逃げるようにともかく走りまくった。
 御堂がバスローブを着てくれていたのが幸いした。
 其れに対して克哉はスーツにすぐに着替えたから…少しだけ逃げる為の
時間が確保されていた。
 こんな処でバスローブ姿で同性の相手を追い掛けるなんて真似を生粋の
エリートである御堂が出来る訳がない。
 だからこそ生じた隙を…克哉は見逃さず、生かしていった。
 そしてホテルの入り口にさしかかった頃、突き当りを曲がっていくと
思いっきり人のぶつかっていく。

「うわっ!」

「わっ!」

 その衝撃でとっさに弾き飛ばされそうになる。
 しかしどうにか体制を整えて、ぶつかった相手を見遣っていった。

「あっ…ごめんなさい! 今、急いでいたもので…!」

 現れたのは克哉と同年代ぐらいの赤いおしゃれ眼鏡を掛けた
青年だった。
 体格的にもこちらと同じくらいだろう。
 少し神経質そうな印象が感じられるが…充分に美形と言って差し支えない
容貌をしていた。

「いや…良いよ。…昨日は、ここに泊ってお愉しみだったのかい…?」

「えっ…?」

 いきなり、見知らぬ男性にそんな事を言われて…克哉は面喰っていった。
 だが目の前の青年は邪悪な笑みを浮かべてこう告げていく。

「…昨日、公園で見させてもらったから…。クク、こんなものを公表されたら
君が築き上げた全てのものなんて吹っ飛んでしまうよね…」

「はっ…?」

 公園、という単語が出て克哉の顔は蒼白になっていく。
 心当たりは一つしか存在しなかったからだ。
 こちらの動揺を、相手はどこまでも愉快そうに見つめていた。

「…ふふ、顔色が悪いよ。…けど、僕はちょっと急ぐからこの辺で。
また…君の前に現れるからその時は宜しくね…。それじゃあ…」

「待って! 貴方は…一体!」

 不吉な事を言って立ち去る相手を必死に引き留めようとした。
 しかし男性は克哉を一瞥しただけで、あっという間にホテルの外へと
消えていく。
 克哉はその姿を追い掛ける事が出来ず、その場に立ち尽くしている。

「一体…俺は、どうしたらいいんだ…?」

 昨日からとんでもない事が連続して起こっていて、ただ混乱するしか
出来ない。
 そうして…克哉は途方にくれながら…すぐに気を取り直して、一旦
自宅に戻って着替える事にしていったのだった―
 ※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
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 恋人の条件                

―克哉は走った、遮二無二ともかく駆け続けた

 後ろからは御堂が物凄いスピードで追いかけてくる。
 風を切る音がうるさいぐらいに速度を出して逃げているにも
関わらず、相手は克哉の背後にぴったりとくっついてきていた。

(うわあああ! 御堂さんがこんなに足が速いなんて予想外だった。
それよりもあの薬の効果って一体何なんだよ! 以前から迫っていた
本多ならいざ知らず・・・御堂さんまでおかしくするなんて!)

 心の中で盛大に叫んでいったが、それで現状が変わる訳がなく。
 泣きそうな顔を浮かべながらともかく御堂から苦れようと頑張っていった。
 途中道行く人に、非常に怪訝そうな顔をされるのが胸が痛かった。

(うわああああん! 道を行く人たち…どうか俺たちをそんなに見ないで下さい!
大の男がこんな風に追走劇をやっているなんて目立つって自覚は
ありますから…!)

 と心の中で叫んでいったが、現状が変わることは絶対になく。
 結局、克哉は御堂を振り切る為にメチャクチャに逃げ回った。
 だが御堂は鬼気迫る表情でこちらに追いすがって来ていて克哉の
心は更に大きく乱されていった。
 気づけば植え込みが多い公園の敷地内に二人は迷い込んで
来ていた。上手く地形を行かせば、目をくらますことも可能だが…
残念なことに今の克哉はつかれきっていて、その状況を生かす為に
知恵を働かせる余裕はすでに残されていなかった。

「だめ、だ…もう…心臓が、張り裂けそう…!」

 そして、体力の限界は克哉のほうが一足先に来てしまった。
 息が切れて、足がもつれそうになり…バランスを崩して前のめりに
倒れこみそうになってしまった。

「っ…!」

 とっさに近くにあった電灯の柱に捕まって倒れそうな体を支えていくが
そのわずかな時間のロスが命取りだった。

「やっと…はぁ、捕まえたぞ…佐伯、君…!」

「御堂、さん…!」

 そして電灯に体を押し付けられる形になり…御堂の身体と
はさまれる形になってしまう。
 御堂の表情が、普段よりも険しい気がして…見ているだけで
息が詰まりそうになってしまう。
 瞳の奥に、さっきの本多と同じような狂おしい色を感じ取って…
克哉はとっさに言葉を失ってしまう。

(どうしよう…御堂さんから、逃げられそうに、ない…)

 全身からブワっと汗が滲んでいくのを感じ取りながら…克哉は
途方にくれるしかなかった。
 そうやって惑っているうちに、唐突に御堂の膝がこちらの下肢に
割り込んでくる。

「っ…! 御堂さん! 何を…!」

「うるさい、少し黙っているんだ…」

「ふっ…うっ…!」

 そう言われると同時に、強引に唇をふさがれて…熱い舌先が
強引に割り込んで、口腔を犯されていく。
 そうしている合間にも御堂の不埒な指先が克哉の胸の突起を
いつの間にか直接弄り始めて・・・膝で股間を刺激されているうちに
すっかり反応してしまっていた。

「やっ…あっ…御堂、さん…止めて、止めて…下さい…!」

 キスから逃れて、必死になって克哉は懇願していった。
 だが御堂は一切容赦する様子を見せず…冷たく言い放っていった。

「うるさい…私の気持ちも考えず、逃げまくる君が悪いんだ…。
容赦などしてやらない…。おとなしく、私のものになれ…」

「そ、んな…!やっ…あっ…!」

 そうして、克哉は電灯に身体を押し付けられる形になって…
腰を御堂に突き出される形になった。
 身体をとっさに支えるのに意識が向けられて、其れが隙を
突かれる形になった。
 あっという間に御堂に下肢の衣類を強引に脱がされて…臀部を
むき出しにされていく。

「やっ…御堂さん、止めて…ああっ! うぁ…!」

 そして克哉の制止の言葉も空しく、あっという間に御堂のペニスを
突き入れられていった。
 だが、先端にローションだけは塗りつけられていたらしい。
 そのせいで苦痛もなく、スルリと性器を受け入れるのに慣れた
肉体はあっさりと御堂自身を飲み込んでいく。

「あっ・・・あああっ…!」

 克哉は、絶望と歓喜を同時に覚えていった。
 貞節を、守ることが出来なかった。
 たった一日も守ることも出来ず…やすやすと御堂に犯されてしまっている
自分が情けなくて、泣きそうになってしまう。
 だが…そんな克哉の意思などおかまいなしに・…御堂はこちらの
内部をグチャグチャと掻き回して、快楽を引き出していった。
 背後から手を回されて・・・胸の突起を交互に弄りながら、右手で
突き上げのリズムに合わせるようにペニスを扱かれていくとそれだけで
快感で頭が朦朧として…いつの間にか、克哉はそのリズムに
合わせるように腰を揺らし始めていった。

「…ほう、とても初めての反応とは思えないな…。いやらしく私のリズムに
合わせて腰を振って来ているじゃないか…。なら、今は私が与える
快感を覚えこむんだ…。二度と、私から離れられないようにな…」

「あっ…ああっ…や、御堂、さん…止めて、止めて…」

 脳裏に、もう一人の自分の顔が浮かんでいく。
 だから口では、拒む言葉を吐いていった。
 だが御堂の与える快楽を享受している肉体は…克哉の意思とは
裏腹に根元まで熱いペニスを咥え込んで、歓喜を覚えている。
 相手の熱い塊が、自分の中で膨れ上がって先走りを滲ませて
いることを実感するだけで、克哉も感じ来ってしまう。

「くっ…イイ締め付けだ。もう…イクぞ…」

「ああっ…御堂、さん…ふっ…うっ…!」

 そして強引に背後から唇を奪われていきながら、御堂の精を
注ぎ込まれて…克哉も絶頂に達していった。
 とっさに崩れそうな身体を支えていくが…荒い呼吸が整い始めると
同時に己の中の御堂自身がまた、硬度を取り戻していったのを
自覚して…背筋にゾクリ、とした悪寒を覚えていった。

「やっ…御堂さん、また…」

「…もう一回、いや…何度でも今夜は君を犯してやろう…。
この身体は誰のものなのか、君に教え込む為にな…」

「そ、んな・・・ああっ! また…こんなに…!」

 そして克哉の意思などお構いなしに、御堂は二ラウンド目を
開始していく。
 その熱さに飲み込まれていきながら克哉は何度も何度も
犯されて、御堂の精を放たれていった。

―だがこの時、克哉はこの光景を予想もつかない人物に
一部始終目撃され、そして撮影までされてしまっていたことに
まったく気づくことすら出来ないでいたのだった―


※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
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 恋人の条件              

―まさかこんな道端で、御堂にばったり会うなんて予想してもいなかった

 しかも今は、例の妖しい薬の効果が出まくっているせいで…克哉は
御堂の顔をまともに見られなかった。
 相手の方はいつもと変わらず、キリっと威厳のようなものを感じさせて
背筋も真っすぐにして立っているのに、克哉の方はまさに挙動不審と
表現するに相応しい態度しか取れないでいた。

(ど、どうしよう…。御堂さんまで、本多みたいに態度が豹変してしまったら…)

 結局、喫茶店ロイドをそそくさと出て行ったのも、自宅に帰れないでいるのも
今の自分は例の薬のせいで危険な存在になっているという自覚があるからである。
 太一だって何となく目の奥に不穏な光が宿っているのを感じたから、さっさと
店を後にしていった。

(御堂さんの元も、早く退散させて貰った方が良い…)

 一応、辺りには人通りもある、決して二人きりという訳ではない。
 何か口実をつけて早く御堂の前からいなくなった方が被害がこれ以上拡大
しないで済むと結論づけて、実にぎこちない笑顔を浮かべていきながら
克哉は御堂と応対しようとしていった。
 だが克哉が口を開くよりも先に、暫くこちらが口を閉ざしてしまっていた
事を訝しげに思われてしまった。

「…佐伯君、どうした? さっきから凄く重苦しそうな顔をして黙りこんで
しまっているようだが…」

「あ、す…すみません。少し考え込んでしまっていたので…。あの、ちょっと
今夜はこれから用事があるのでこれで失礼させて貰いますね…」

 とりあえず無難な口実をつけて、克哉はさっさと御堂の前から姿を
消そうと試みていった。
 どれくらい一緒に過ごしていたら…例の薬の効能が出てしまうのか
まだ克哉にも判らなかったが、短時間で切り上げれば大丈夫な筈と
信じたかった。
 だが目の前から逃げようとしている克哉の態度に不審なものを感じ取って
いったのだろう。
 みるみる内に御堂の目が鋭いものになっていった。

「…佐伯君、この後用事があるなんて嘘だろう?」

「えっ…?」

 いきなり図星を突かれてしまったので克哉はとっさに否定をする事が
出来なくなってしまった。
 そして繁華街に立っているのに、二人の間に息が詰まるような独特の
空気が流れていった。
 
(もしかして…もう、あの薬の効能が御堂さんに出てしまっている…?)

 そう気付いた瞬間、克哉は背中に冷や汗が伝っていくのを感じていった。
 このままじゃ本多の時の二の舞になる。
 そう考えた瞬間、克哉はとっさに御堂の前から駆けだそうとした。

「いえ、嘘じゃないです! すみません急ぐので失礼します!」

「待ちたまえ!」

 だが、御堂の行動もまた早かった。
 痛みを感じるぐらいの強い力を込めて手首を握り締められて
引き留められてしまう。

「痛い…! あの、離して下さい…!」

「駄目だ。君ともう少し話していたいからな…。どうしてこんな気持ちに
なるのか私にも判らないが。おや…佐伯君、君は何か香水でもつけているのか?
仄かに甘い香りがする…」

「はっ…甘い香り、ですか…?」

 其れは克哉自身も気づいていなかった事だった。
 現在の彼は特定の条件を満たしている人間には甘い芳香を感じられる
ようになっている事に。

「そうだ、今まで嗅いだ事がない匂いだが…何となく脳髄が蕩けていくような
そんな気分になってしまう…。一体、君はどんな香水をつけているのが、
凄く興味がある…」

 そうしている内に、御堂の瞳に剣呑な輝きが宿り…次第に強いものに
なっているのに気づいていった。
 これでは本多の時と本当に同じになってしまう。
 15日間、貞操を守る事が出来たらもう一人の自分に会わせて貰えるのに
其れが破られてしまったら、会える機会を失ってしまうかも知れない。
 そう危機感を抱いた克哉は、ふいに御堂の方に顔を寄せていき。

「御堂さん、ごめんなさい!」

 ぐいっと御堂の方に顔を寄せると同時に深く懐に踏み込んでいき…
そしてその場で屈んでから勢いよく背筋を伸ばしていった。
 克哉の頭のてっぺんが、御堂の顎の部分にクリーンヒットしていった。

「ぐはっ!」

 克哉のこの大胆な行動は、御堂も予測していなかったのだろう。
 その隙に腕の力が緩んで、克哉は急いで駆けだしていく。

「本当にごめんなさい!」

「待て、待ってくれ!」

 そうして全力で逃げだしていく克哉を、御堂もまた真剣な顔をしながら
必死に追いすがっていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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