[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33 34 35 36 37 38 39
―雄叫びを上げて燭台を全力で振りまわし、澤村に殴りかかった人物は…
何と本多だった
御堂の場合は静かに入室したし、具体的な行動を一切取らなかったので
澤村はその存在に気づかないままだったが、流石にこれだけ大きな事を
やられたら、嫌でも二人の存在に気づいていった。
「御堂さん! 何で邪魔をするんですか! こいつは…俺は顔も名前も
知らないけど、克哉にこんな真似をしているんですよ! どうしても…許せねぇ!
昼間っから克哉の姿が見えなくて社内は大騒ぎになって…俺も片桐さんも
みんな心配して探し回って、ようやく見つけたら…こんな場面に遭遇して、
冷静でいられる訳がないでしょう!」
「ああ、君の気持ちは痛いぐらい判る! だが…それでも、どれだけゲスな
男だろうと殺してしまったら、君の将来や希望は一切断たれてしまうんだぞ!
だから冷静になるんだ!」
「な、何なんだよ君達! この部屋にいつの間に…どうやって入って
来たんだよ! カードキーはこの部屋の中にあるままだったのに…。
一体どうして…!」
怒り狂って早口で捲し立てる本多、それをどうにか…彼が人殺しだけは
しないように必死に止めていく御堂、そして突然二人の人物が室内に現れた
事で混乱している澤村。
三者の反応はそれこそ、様々だった。
克哉もまた…本多と御堂に、こんなあられもない光景を見られる形になって
さっきまで強引に快楽を引きずり出されて否応なしに感じされられて紅潮していた
肌が一気に青ざめていった。
「や、やだ…見るな、見ないで…お願いだから…!」
蚊の泣くようなか細い声で克哉は必死になって懇願していく。
澤村の意識は辛うじて克哉から外されていたが…それでも身体の奥には
バイブレーターが淫靡に蠢いていた。
必死になって身体を捩って、その異物を取り除こうと克哉は必死に
抵抗を試みていく。
「克哉っ! 今、助けてやる! 何処の誰だか判らねぇが…マジで
許せねぇ…! 殺してやる!」
「ひいぃぃぃ! な、何なんだ君は…野蛮な事をして! 人の部屋に勝手に入り込んだ
上にそんな物を振りまわすなんて気が狂っているとしか思えないよ! それに
どうやって入ったんだよ!」
「…勝手に人の情事を撮影してビデオテープを送って来た挙句…その相手を
拉致をしてホテルに来るように指定してくる男の正気も疑うがな…。君が私を
脅迫しようとした男だろう…? 残念だったな、脅迫罪に加えて佐伯君を拉致して
強姦していた罪状も付け足される訳だ…。ふむ…クリスタル・トラスト社の
澤村紀次、か…。これで君が何処の会社に所属している何者かがようやく
判った訳だな…。はっ、これで君も終わりだな…。私は君を殺しも、直接暴力と
いう形では実行に移さないが…代わりに社会的な制裁を君に加えさせて
もらおうか…」
「あっ! 人の持ち物を勝手に見るなよ! 卑怯者! 其れに何で二人とも
この部屋に入ったんだよ…! カードキーはこの部屋の中に間違いなくあったし、
僕は扉を開けたりもしていない! それなのにどうして…!」
本多と御堂から冷たく、怒りを宿した眼差しで見つめられて元々小心者で
ある澤村はすっかり竦んでしまっていた。
一対一でも、腕力の類に自信が全くない澤村には相手にするだけで骨なのに
自分よりも遥かにガタイの良い本多に、スタンガンをバチバチと放電させている
御堂の二人を相手にしたって澤村が勝てる訳がなかった。
「さあな、私は謎の男にこの部屋のカードキーを渡された。其処に部屋番号が
書かれていたから真っすぐに来ただけだ…」
「俺は克哉から連絡が途絶えて、必死になって探していたら…何か見覚えの
ないメールアドレスから一通のメールが来て…其処にこのホテルの場所と、
この部屋の扉が、何時何分に丁度開くのか詳細が書かれたものが
送信されて…他に手掛かりがないから、ずっと外で張って待っていたんだ…。
御堂さんがこの部屋の扉を開けたのを見た時には正直、びっくりしたけどな…」
「は、はぁぁぁぁ?」
全く予想外の内容を立て続けに打ち明けられていって、澤村は混乱していく。
まさに一気に絶体絶命の状況に立たされてしまっていた。
澤村も誰か判らない相手に、見えない糸で操られているような気分をここ数日は
ずっと味わっていた。
だから話を聞いて薄々、判ってしまったのだ。
恐らくこの二人の糸を引いているのは…先日の御堂と克哉が情事をしている日時と
ビデオカメラを持ってくるように澤村に指示を出して、克哉を拉致するようにお膳立てを
してくれた…謎の人物である事を。
「こ、これ一体…何なんだよ! 訳が判らないよ! こっちに指示を出して有利に
なれるように取り計らっていた癖に…どうして、他の人間をこの部屋に招き入れる
なんて真似をしているんだよ! ど、どうして!」
「うるせぇ! 卑怯者! 一先ず…一発殴らせろ! 燭台で殴りつけるのは
勘弁してやる!」
本多も相手が狼狽しきっている姿を見て、少しずつ冷静になってきたらしい。
燭台をどうにか床の上に倒れないようにガン、と荒っぽい音を立てて置いていくと
すぐさま澤村に向かって飛びかかって…全力で殴りつけていった。
「ぐはっ! 痛いよ! 暴力反対!」
「人を拉致して、脅迫何てする人間に対して一切容赦する必要はない…。
本多君、殺さない程度に思いっきりやってやりたまえ!」
「えぇ、そうさせてもらいますよ…! コイツだけはマジで許せない
っすからね…!」
そういってスタンガンから火花をバチバチと散らせながら…般若のように
恐ろしい形相をしながら御堂が冷徹にそう言い放っていった。
こうなると小物は哀れである。
先程までの優越した勝ち誇った態度は何処へやら、すっかりと縮みあがって
ジタバタと暴れるしかなかった。
だがそんな抵抗も空しく、一発二発と本多から全力で殴りつけられただけで
早くも顔の形が変形し始めていく。
「お願いだから止めてくれぇ! 痛い…痛いよぉ! 助けて…克哉君!」
其処で澤村は縋るような眼差しを克哉に向かって投げかけていく。
その時…彼は実に魅惑的な笑顔を浮かべていきながら、きっぱりと
言い切っていった。
「…人を拉致して、こんな辱めを受けさせた人に同情する気は一切ありません。
本多、全力で制裁加えて良いよ…オレが許すから…」
「そ、そんなぁ…!」
ニッコリ笑って、許可を出していくと同時に…一気に部屋の中の空気が
グニャリ…と変質していった。
一瞬にして、部屋の中に甘い香りが充満して、むせかえりそうになっていく。
それと同時にその部屋の中にいた全員の意識が霞み始めていった。
「な、なんだこれ…!」
「これは、一体…!」
「うわっ…何だよ、この甘ったるい香りは…。すげぇ、眠く…なる…」
「眠い、眠いよ…何だよ、何で…こんな訳が、判らない事ばかり…う、ぐ…」
四人は口々に言葉を発していくが、すぐに猛烈な睡魔によって囚われて…
意識を閉ざしていく。
そして瞬く間に部屋の中にいた全員が深い眠りに落とされていった。
―そしてその直後、一人の男が部屋の中に入っていき…意識を失っている
克哉に服をざっと着せていくと抱きあげていき、部屋の外に連れ出して
いったのだった―
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33 34 35 36 37 38
震わせている克哉の姿が真っ先に視界に飛び込んでいった。
…赤くとがった乳首をチラリと覗かせていきながら…大股を大きく開かせて、
深々とバイブレーターを飲み込まされていた。
責め立てながら、傍らにハンドタイプのビデオを設置して撮影していた。
男をどうしても許せなかった。
―殺してやる
瞬間的に、そんな衝動が芽生えても…佐伯克哉という人間に対して
強い恋愛感情を抱いている以上、仕方ない事だった。
だがそれを拳に強く爪を立てて…唇を噛み切ってうっすらと血が滲むぐらい
力を込めて噛みしめる事で耐えていく。
全力で吠えて、相手を殴りつけてやりたかった。
顔の形が変わるぐらい、歯を何本もへし折ってやるぐらいに殴りつけて
この憤りをぶつけたかった。
(…この男を許せない! だがどんな相手でも…感情のままに殴りつけて
『殺してしまう』のだけは許されない事だ…)
ギリギリの処で、一呼吸をどうにか置いていく。
多分、相手に対して殺意を抱いている状況で…実際に殴るという行動を
実行に移してしまったら、歯止めが効かなくなるのを恐れてだった。
恐らくどんなに卑怯な相手でも、克哉を拉致してこうして淫具で攻め立てるような
ゲスな男でも…今の日本の法律では、情状酌量の余地など認められない。
ここで感情のままに行動をすれば相手を殺した、殺されたという事実だけが
残っている。
男は御堂が部屋の中に入って来たのに気づいていない。
明らかな敵意と、こちらに対して害を成そうとしている…それらの行動を
相手が示さない限りは、もし衝動的な行動を取れば…御堂の今まで築き上げて
来た社会的な基盤や地位を一斉に失う事になるだろう。
「…克、哉…」
全身を怒りで震わせていきながら、愛しい存在の名をそっと呟いていく。
その瞬間…目の前で信じられない事が起こった。
一瞬にして、こちらに横顔を向けている澤村達と…そして、自分との間に
人の背丈程もある大きな金属製の燭台が現れて、煌々と蝋燭の火を
揺らめかしていた。
外国の映画などに出てくる、古めかしい洋館の中にあるのならば…ごく自然に
馴染む代物だろう。
だが、近代的な内装のホテルに…突如として現れるのは流石に不自然過ぎた。
(…何故、こんな物がここに一瞬にして現れたんだ…? 私が部屋に入って
来た直後には間違いなくなかった…!)
その事に猛烈な違和感を覚えて、後ずさっていった。
まだ名前を知らない…赤いオシャレ眼鏡の男は克哉を道具で攻め立てて、
辱める事に夢中になってて…この燭台の事にも、御堂の存在にも気づいた
様子はなかった。
恐らく、今の御堂にとっては…澤村に向かって振りまわして殴りつけるのに
これ以上に適した物はなかっただろう。
目の前に、丁度良い位置に突如として現れた凶器の存在に…御堂の心は
大きく揺れていった。
きっと、これを手に持って振り翳していけば克哉を助けられる、と。
人殺しをする訳ではない、この男を殴りつけて…彼を救出する為の時間を
稼ぐ事が出来ると、そう摩り替えを行っていく。
(克哉を、助ける為だ…。それぐらいなら、許される筈だ…!)
そうして歩み寄って、御堂はその燭台を手に取ろうとしていった。
だが…寸前で、頭の中に警鐘が鳴り響いて…ギリギリの処で踏み止まっていく。
胸の中に、ジワリと黒いものが広がっていくのを感じていった。
此れは澤村に対しての強い怒りと、殺意である事を感じ取って…幾ら、捨て去ろうと
しても…切り替えようとしても、今…克哉を好きなようにしているこの男に対しての
怒りや憎しみを抑える事は出来なかった。
同時に、御堂にとってこれは今まで築き上げて来た全ての物を水泡に帰してしまう
ぐらいに悪質な罠でもあったのだ。
―お前など、殺してやりたい…! 私の克哉に、これ以上触れるな…! お前ごときに
…触れる事など、許さない!
そう強い感情を抱いていきながら、御堂は…同時に、人を殺しかねない心理状態を
恐れていった。
結局、数分の葛藤の末…出した結論は、燭台を手に取らずに…代わりに常に
護身用に持ち歩いているスタンガンを用いて相手の自由を奪う事だった。
怒りで燃えたぎるようだった眼差しが…いつもの冷静さを取り戻していった。
御堂は、感情のままに行動するよりもどうにか其れを己の中で噛み殺して…
少なくとも相手の生命に支障が出るような行動に移すのだけは食い止めていった。
スーツの上着のポケットの内側からそれを取り出していき、電源を入れていく。
バチっと、火花が散るのを感じて…鼓動が荒くなっていくのを自覚していった。
(克哉…今、君を助ける…!)
そうして御堂は静かな足取りで相手に気づかれないように息を殺していきながら…
ふと、一つの事実に気づいていった。
部屋の照明が、灯っている事に。
室内に入った直後には特に何も感じなかったが…其れに猛烈な違和感を
覚えていった。
最近のカードキーを導入しているホテルでは、入口付近にそのカードを
機械に差し込まない限り…照明の類は使えない仕様になっている構造を
している事が多い。
御堂は冷静さを取り戻して、行動に移す瞬間…その中に自分が用いた
カードキーとは別の物がその中に入っているのを確認していった。
通常、カードキーは宿泊客に対して一枚しか手渡されない。
そして何かトラブルが起これば、『マスターキー』によって対応していく。
―そう、通常は一つの客室に対して二枚のカードキーなど存在しえない筈なのだ…
その事に気付いた瞬間、何か得体の知れない恐怖を覚えていった。
そうして御堂が立ち往生して動けないままでいると…背後から、空気を切る
音が聞こえていって…誰かが、雄叫びを挙げて飛び込んでいくのを目の当たりに
していった。
「き、君は…! どうして、此処に…!」
まるで獣のような咆哮を漏らして、予想もしていなかった人物が御堂が
手に取るのを恐れた燭台を手にして大きく振り上げようとしていった。
「待て! そんな真似をしたら克哉が傷つく可能性がある…!」
そうして大急ぎで御堂は叫んでいき、その突然の闖入者の背後に回って、
その人物が燭台を手にして殴りつけていこうとするのを必死になって
止めていこうと試みたのだった―
現在連載中のお話のログ
※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33 34 35 36 37
―御堂孝典は、謎の人物からの電話で指定されたホテル内に
駆け込んでいくと…慌てた様子で周囲の様子を伺っていた
すでに時計の針は21時を回っている。
いつもなら、新商品を扱っている多忙極まりない時期ならば残業をして…
大きな時差が発生している地域にある海外の支社などに電話を
している時間帯だ。
だが、今夜はそれらの重要な業務の全てを放り出して、御堂はこの
センチュリーホテルへと車を出して向かっていたのだ。
(克哉は一体…このホテルの何処にいるんだ…!)
このホテルにいる、とだけ男は告げてすぐに電話を切ってしまった。
MGNという大企業の部長職についている御堂は…いつもならば、
悪戯や悪質な嫌がらせをする類の人間の言葉は真に受けないし、
流す習慣がついている。
だが、本日の昼間に御堂宛に届けられた一本のビデオテープには
一昨日の日付と時間が記された上で「深夜の公園にて」とラベルが
貼られていた。
その日時と場所は、克哉を強引に抱いていた時間と一致していた事で…
御堂はどうしても無視をする事が出来なかった。
人払いを徹底した上で、視聴覚室に向かって…その中身を確認したら、
かなり画像はぼやけて荒いものであったが…紛れもなく先日の自分と克哉の
情事を撮影した内容だった。
正直、画像だけなら幾らでも逃れる事が出来ただろう。
しかしその映像の中には、自分たちの言葉でのやりとりやあえぎ声まで
一緒に収められていた。
其れは自分達二人の事を知っている人間が聞けば、ほぼ特定出来てしまう
レベルでの、はっきりとした音量で入っていたのだ。
もしこれを脅迫の材料に使われてしまったら、御堂には相当の痛手になる
可能性が高かった。
いや、使われ方次第では御堂の社会的地位を脅かすだろう。
そのビデオテープを確認した後に、ボイスチェンジャーで機械的な声にしていた
…恐らく男性と思われる謎の人物からの電話が入ったのだ。
御堂とて、それを男性と特定したのは言葉の言い回しや口調が女性らしさを
一切感じられないものだったから、という程度でしかない。
性別も年齢も全く想像のつかない…謎多き脅迫者の存在に、御堂の
心の中でジワリと疑心暗鬼が広がっていく。
その瞬間、決して考えないようにしていた思考が彼の中に生まれ始めていった。
―だが、その脅迫者はどうして…自分と克哉の情事のシーンを撮影
する事など出来たのだろうか…?
周囲を必死に見回している合間に、その疑問が徐々に膨らんでいって…
御堂はふと、ホテルのエントランスの隅で足を止めていった。
(…考えれば考えるだけ、不可解だ…。あの日、克哉と顔を合わせたのは
偶然だった筈…。そして私は、以前から彼を想っていた訳ではなかった…。
確かに、最初は威圧的で生意気な態度と口調をしている姿を見たから
、反感めいたものは抱いていた…。だが、其れはプロトファイバーの営業を
一緒にやっている内に薄れて…少しずつ好感を持ち始めていたのは事実だ。
けれど、その感情は…あの日、ばったり顔を合わせるまでは決して
恋心ではなかった筈だ…)
御堂はふと、急激すぎる自分の感情の変化に…初めて疑問を覚えていった。
恋とは突然、予想もつかない形で花咲く事もあるから今までさほど
疑問に思わなかった。
しかし克哉を衝動的に抱いたその時に、誰かがその場面に居合わせて撮影し
…脅迫の道具として使用する。
…其れに、猛烈な違和感を感じ始めていった。
まるで自分があの日、克哉と出会った事自体が…誰かが巧妙に仕組んだ
罠のようにすら感じられた。
(ふっ…まさかな。考えすぎだ…。幾ら何でも、克哉がそんな真似を
する訳がない…)
以前に一緒に仕事をした時から、克哉は多少気弱で押しの弱い所があるが
…基本的に善人である事は解っている。
だから彼が…こんな悪質な筋書きを考えるとは、とても思えなかった。
けれど同時にこの二日間に御堂の身に起こった事がとても偶然の
産物とも思えなかった。
其処まで彼が気づいた次の瞬間―唐突に周囲の空気が凍り付いて、
寒気すら覚えていった。
―お見事です御堂孝典様…。其処までご自分の力だけで気づかれるとは…。
それに敬意を表して、私の方からささやかな贈り物をさせて頂きましょう…
いつの間にか、御堂の目の前に豊かで長い金色の髪を腰まで流して
伸ばしている…全身黒づくめの衣装を纏った、妖しい眼鏡の男が立っていた。
誰かが歩み寄って来た気配など全く感じなかったから御堂は面食らい
…猛烈な警戒心を抱いていった。
「だ、誰だ…! 一体いつの間に私の傍に立っていたんだ…!」
―ふふ、私がどこの誰である事など…些末な事でしかありません。それよりも
愛しい佐伯克哉さんの事が心配で仕方ないのでしょう…? これは、あの人が
囚われている部屋のカードキーです。此を使えば、克哉さんがいる部屋へと
辿り着く事が出来るでしょう…。しかし、其処でどんな光景を目の当たりに
する事になるか…保証は出来かねますけどね…
「何だとっ!」
御堂が叫び声を挙げても、周りの人間はまるで頓着していなかった。
まるで今は自分たち二人以外の人間の時間は、完全に止まってしまって
いるかのように…周囲にいる従業員も、他の宿泊客らしき人達も
何の反応を示さなかった。
其れが余計に御堂の警戒心を強めていったのだが…目の前の男に対して
恐れをを抱くよりも、今は克哉の元に向かう事を優先しなければならなかった。
(本当にこの男が差し出したカードキーを受け取って大丈夫なのか…?
だが、これ以外に何の手掛かりはない。フロントに誰が泊まっているか
確認しても絶対に答えてくれないだろうし…それ以前に、私を脅迫してきた
男の顔も名前も判らない状況では、探る方法すらない…。なら、この手掛かりに
縋る以外に…私に、選択肢は存在しないじゃないか…)
御堂は舌打ちをしながら、現状をどうにか受け入れていく。
克哉の元に向かいたいなら…自分には、このカードキーを
受け取るしかないのだ。
もしかしたらこれ自体がこの得体の知れない男からの巧妙な罠かも知れない。
だが、このカードキーを使わなければ…御堂には、他の人間が
泊まっている部屋を開く手段など何一つ存在しないのだから。
(…こんな男が差し出して来た物を受け取って使うのは凄く抵抗があるがな…。
けど、これ以外に克哉の元に向かえる可能性は存在しない…其れは、事実だ…)
御堂は無言のまま其れを受け取り、一縷の望みを賭けて…このカードキーに
記されている部屋があるフロアへと、エレベーターに乗り込んで向かい始めていく。
その様子を眺めて、Mr.Rはどこまでも愉快そうに微笑んでいった。
―ふふ、これから…最大の山場を迎えていきますね…。目の前で繰り広げられて
いる光景を見て、御堂様がどんな反応をされるのか…。今から、愉しみで
仕方ありませんね…
大部分は黒衣の男の筋書き通りに、物事が運んでいた。
だが…自分の主となる可能性を秘めた、眼鏡を掛けた方の佐伯克哉だけは…
大きな不確定要素だった。
御堂や克哉はある程度…意のままに操れても、彼だけはなかなか思うように
いかない。
もしかしたら男にとって予想もしていない展開を齎すかも知れない…そんな
奇妙な予感を抱いていきながら、ゆっくりとその場から姿を消していった。
そしてRが立ち去ると同時に…凍っていた空気が、時間が溶けていき…
周囲の人間はまるで御堂とRのやりとりなど存在していなかったかのように
元通りに動き始めていく。
―さて、この物語を観劇させて頂きましょう…。皆さん、私を少しでも
愉しませて下さいね…
そう妖しい笑みを浮かべていきながら…男もまた、次の目的地へと静かに
向かい始めていったのだった―
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33 34 35 36
した事は、言ってみれば偶然の産物に過ぎず、結果的にショックを与える事で
相手の体制を崩せただけに過ぎない。
痛手から立ち直っていってしまった。
締め切られたホテルの一室。
克哉にとって圧倒的な不利な状態だった。
時間を稼ごうとしていた。
酷薄な笑みを口元にたたえはじめていった
逆転してしまっている…!)
それは本能的な恐怖に近いものだった。
ねっとりとした厭らしいものへと変わっていく。
欲情に満ちたものだったから。
なかった事を改めて実感させられた。
人間に性的な対象として見なされるのは正直、強烈な嫌悪感が
湧き上がって来た。
歯噛みをしたくなった。
ない状態で連れ去って、手首を縛るなんて…充分、犯罪行為だって
自覚あるんですか…! もし、貴方がオレを犯したのなら…オレは、
警察に駆け込んで暴行されたという証明を立てさせて貰いますから…」
動揺を招くのに成功した。
泣き寝入りなどするつもりはなかった。
絶対に屈したくなかった。
冗談ではなかったから。
いうのなら、絶対に戦ってやる…!泣き寝入りだけは、してやるもんか…!)
安易に屈したりしないと心に誓っていた。
するつもりがなかった。
想像するだけで恥ずかしくて死にそうだ。
聞き出して…草の根を分けてでも捜し当ててやると決意を込めて…
相手を睨みつけていった。
いないんじゃないかな…? 手を縛られていて自由の利かない身で…
何が出来るっていうんだ?」
こんな卑怯な真似をして優越に浸っている相手に屈したくはありませんから…!」
君と決別する以前からずっと卑怯者とそしられるような事を続けて来た。
だって愉快じゃないか!影で人を操って人を騙したり、多くの人間を自分の
思い通りに動かすのは快感じゃないか! だから卑怯者と言われたってそれは
僕にとっては誉め言葉なんだよ、克哉君! 正直に清く正しく生きて、
一体何の特になるというんだい…?」
誇りでも抱いているかのような反応を示していった。
事実を見抜いていく。
張っているように感じられるのは気のせいなのか…?)
名前も思い出せないままだった。
凄く苦しそうな顔をしながら、オレに対して…何か、を言っていた…?」
そんな場面を、君は真っ先に思い出すんだ! ちくしょう!」
覚えた苦い記憶を…口上に出されて、カっと目を見開いていった。
…その双眸からは今にも涙が溢れそうになっていた。
媚薬を飲ませていく。
PCに送信された翌日に…いつの間にか彼の自宅に置かれていた品だった。
出来るぐらいに強烈な媚薬だという説明書きが添えられていた。
ついに澤村は其れが入った小瓶を口に押し当てて、無理やり嚥下させていった。
意のままに操れるぐらいに乱れると手紙に書いてあった…! 其れで
予定通り、御堂部長を葛藤させて交渉を有利に運べば良いんだ…!
それで良いんだ!)
克哉を押さえつけていった。
高い物らしいよ…。さあ、それを飲んでいつまで正気を保っていられるかな…
克哉君…?」
追いやられて…唇から血が滲むぐらい強く、歯を立てて噛み締めていったのだった―
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33 34 35
言われて…澤村は動揺しまくっていた。
澤村は両手が自由ですぐ傍から相手を見下ろしていた。
一言のせいで逆転してしまった。
澤村は呼び出していた。
吹き飛んでしまっていた。
本気で言っている。一体僕はどうしたら良いんだ?ウワァァァ…!
流石にここまでショックを受ける事はなかっただろう。
事はなかった。
きたのだと断言出来る。
器用さに嫉妬を覚えて…いつしか陰で彼を貶める行為をしてしまった訳だが…。
忘れる訳がないんだから! 子供の頃はいつも一緒にいたし…僕らはウンと
小さい頃からずっと傍にいたんだ! そんな僕を…君が忘れるなんて事は
記憶喪失にでもならない限り、絶対に有り得る訳がない!」
中学に入学する以前の事ってあんまりはっきり思い出せなくて…。もしかしたら
貴方はオレの小学校時代の知り合いなんでしょうか…? 名前を伺っても
構わないでしょうか…?」
する人間との会話とは思えなくなって来たが…両者とも真剣に
向き合い始めていった。
まで呼び出し…その状態で克哉を散々ナブってその喘ぎ声を聞かせて…近くに
いながら助ける事が出来ないもどかしさを与え続けて…相手から冷静な
判断力を奪い、交渉を優位に持っていく筋書きだった。
都合の良いように話を持っていく自信があった。
佐伯克哉という存在は特別な意味を持っていた。
など出来はしなかった。
言われてしまって澤村は密かにパニック状態に陥っていた。
意識をしているという事実の裏返しみたいなものなのだ。
出来ないんです…。だから名前を、どうか…教えて下さい…」
澤村はついに我慢出来なくなって項垂れていった。
どんな形であっても彼にとって今でも佐伯克哉という存在は大きな位置を
占めている存在だった。
確かに間違った事を子供時代の自分はしてしまっていた事を薄々とは気づいている。
けれど胸の奥に存在していた感情には…好意や憧憬といったプラスのものも
含まれていたのもまた事実だったのだ。
(この目は…本気で言っている。な、なら…昨日、僕を勢いよく殴った克哉君は
一体何だったんだ…? 彼の方はちゃんと僕を覚えている風だった…。
なのにどうしてたった一日で、克哉君はこんなに変わってしまっているんだ…?)
昨日の夜に遭遇した方の眼鏡を掛けた克哉の事を思い出して…強烈な
違和感を覚えていった。
眼鏡を掛けた方は、自分に対してこんな目を決して向けなかった。
ちゃんとこちらの事を覚えている風だった。
なのにどうして…今、目の前にいる顔は真剣な顔をしていきながら澤村のこと
など知らないと訴えかけてくるのだろうか。
「判らない…判らないよ…! 昨日、君に遭遇した時は…僕はちゃんとこっちのことを
覚えている風だったじゃないか! なのにたった一日でどうして…そんな風に忘れられるんだ!
僕は…僕は一日だって、君のことを完全に忘れる事なんて出来なかったのに!」
「えっ…今、何て…?」
澤村の口から予想もしていなかった言葉が漏れて、克哉は言葉を失っていく。
昨日の克哉は体調を崩して…一歩だって外に出ていない筈だ。
それなら彼と遭遇する訳じゃない。
なのに彼が紛れもなく「佐伯克哉」と顔を合わせているのなら可能性は一つしかない。
…この目の前の男性は、もう一人の自分の方と会っているという事実だ。
(もしかしてこの人は…『俺』の方の知り合いなのか…?)
澤村の発言から、ついにその考えに至っていった。
相手が動揺しているのを見て、そして両手を縛られているこの状況をどうにか
打破しようと克哉は必死になって考え始めていった。
(この状況をひっくり返すには…どうしたら良い? 今はこの人は動揺しているから
これ以上のチョッカイを出されないで済んでいる訳だけど…この人が、本気で迫って
来たりこっちに危害を及ぼすような事をしてきたら…オレには抵抗する術すらない…!)
一昨日の夜の本多と御堂を、そして昨日の夜の太一のことが脳裏に
浮かび上がっていった。
この男性のことはどうやっても思い出せない。
けれど瞳の奥に…先日の彼らと同じような情熱的なものを確かに感じられた。
今は混乱しているから手を出されないで済んでいる。
だがこの状態がいつまで保たれるかは全く未知数なのだ。
下手をすれば相手が体制を立て直した次の瞬間には組み敷かれてしまうかも
知れない危惧感を克哉は覚えていった。
こうして手を縛られてしまっている以上、ただ時間を引き延ばしても意味は
ないのかも知れない。
誰かが助けに来てくれるか、相手の気持ちを根本的にでも変えない限りは…
現状は決して改善しないだろう。
(誰も助けに来てくれないかも知れない…! オレ一人の手で切り抜けなきゃ
いけないのかも知れない…! 無駄な足掻きかも知れないけれど…オレは
本当に、もう一人の俺のことが好きなら…安易にもう、他の人間に抱かれたり
凌辱される訳にはいかないんだ…!)
そうしてキっと鋭く相手を見遣っていきながら…克哉は相手と向き直っていく。
張りつめたような重苦しく、ねっとりとした空気が二人の間から立ち昇っていった。
少しでも気を抜いて相手に踏み込まれれば、手首を拘束されている克哉には
抵抗する術がなくなる。
その緊張感を痛烈に感じていきながら…克哉は必死の形相で相手に
向き直っていったのだった―
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33 34
彼は繁華街を必死に走り続けていた。
克哉が現在拉致をされているホテルの詳しい場所をどうにか聞きだしてその
目的地に必死に向かい始めていく。
(少しでも早く行かなければ…! どうか、間に合ってくれ…!)
そう切実に願いながら…克哉が、小学校時代の自分の親友であった存在に拉致されて、
刻一刻と魔の手が伸ばされつつある状況に、眼鏡は本気の憤りを覚えていた。
彼は走った、遮二無二…夢中になって駆け続けていた。
いつもの彼だったらこんな風に服装が派手に乱れるぐらいに全力疾走をする事など
とても考えられないだろう。
おかしくなっている自覚は薄々…こうして現実にずっと存在するようになってから
感じ続けていた。
克哉に関係する事に対して、自分はどうしてこんなに取り乱してしまうのか…
冷静でいられないのか。
その事に対して舌打ちしていきながら…つい、頭の中ではもう一人の自分を
責めてしまっていた。
張り巡らされた罠にアッサリと引っ掛かる「オレ」にも問題があるな…)
御堂に犯され、今度は澤村に拉致されただと…! 何で其処まで他人に
良いようにされるんだアイツは…!)
出来る訳がないのだ。
認めたくない心理が働いてしまっていたのだ。
克哉の姿が喚起されていった。
そして…自然に、相手の名前を呟いていた。
己と同じ名であり、同一の存在である筈だった。
けれど…今は、少しずつその関係が変質しつつあった。
其れを認めざる得なかった。
(お前という存在は…どれだけ、俺の中に浸食して…俺を変えていって
しまうんだ…? 全く、俺らしくない…どうして、お前の身に危険が迫っている事に
対して…ここまで、動揺して取り乱しているんだか…)
走りながら、眼鏡は自問自答を繰り返していた。
見えてしまった本心に、困惑して混乱して…認めたくない気持ちがまた
ジワリと浮かび上がってくる。
だが、立ち止まる訳に行かなかった。
少しでも早くあいつの元に行かなければ、今はそれだけに専念して
全力で走り続ける。
「くそっ…! 車の一台でも、気を利かせて用意したらどうなんだ…!
徒歩じゃ限界がある…!」
心底苛立ちながら、思わず叫んでいってしまう。
その瞬間、一瞬だけ思ってもみなかったものに出くわしていく。
「…御堂?」
そう、今…自分が向かっている方角に向かって一台の車が走り抜けていき、
一瞬だけ運転している人物が目に入っていった。
其れに気づいて…瞬間、足を止めていってしまう。
(どうしてあいつが…俺と同じ方向に向かっているんだ…? 一体、何が
こちらの知らない処で動いているんだ…?)
Mr.Rから澤村が克哉に害を加えようとしているという大まかな事は
聞かされていたが…その詳細までは知らない。
そしてこの局面で、自分が向かっている方角に対して御堂の車が
向かっている事は…果たして偶然なのだろうか?
けれど…その光景を見て、自分も徒歩でチンタラと向かっている訳には
行かないと思い知った。
(…チッ、徒歩であいつが言っていたホテルに向かったら…それこそ、いつ
到着するか判らない…。もしかしたら、道を間違える可能性すらある…!
この辺りの地理は元々そんなに詳しくないからな…)
焦燥感を覚えていきながら、素直にその事実を認めていった。
瞬間、一台の黄色いタクシーが目に入っていく。
今の彼は自家用車こそないが…タクシーに乗って目的地に向かえる程度の
手持ちは持っている。
その瞬間、眼鏡は即座に決断していき…大急ぎで駆けよって声を
掛けてタクシーを止めていった。
「おい! 其処のタクシー…止まれ! この先にあるセンチュリーホテルまで
大急ぎで向かってくれ!」
そして形振り構わず、必死の形相で叫んでいった。
即座にタクシーの扉が開かれて、大急ぎで飛び乗っていく。
こちらの剣幕に押されたのか、タクシーの運転手は酷く強張った顔をしていたが
無言のまま車を発車して…向かい始めていってくれた。
―どうか無事でいてくれ…! 『オレ』…!
切実にそう願っていきながら、眼鏡はそうしてタクシーで急いで目的地へと
向かい始めていったのだった―
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33
とても信じられなかった
いホテルの部屋だった。
決意を固めた筈だった。
その為に本多にメールを送信して…話をする為に呼び出しをした。
其処までの記憶はあるのだが、それ以降の事が全く思い出せない。
一室みたいだけど…?)
しかもビジネスホテルの一室っぽい雰囲気が漂っていた。
ある程度の格調の高いホテルのある程度の値段の部屋ならば、置いてある
インテリアを見るだけで一線を画しているからだ。
けれど無味乾燥とも言える内装を見る範囲では、此処は…高そうな部屋とは
言える感じではなかった。
「やあ…目覚めたかい? 克哉君…?」
状況を少しでも判断しようと周囲に目を凝らしていると…唐突に
誰かに声を掛けられた。
そちらの方に克哉が視線を向けていくと…深い紺色のスーツに赤いフレームの
おしゃれ眼鏡を掛けた若い男が、近くの椅子に腰を掛けてこちらを眺めていた。
対して相手はこちらを見下すように椅子の上から見つめて来る。
その舐めるような視線が不快だったが、同時に猛烈な違和感を
覚えていった。
「…くくっ、良い格好だよ克哉君…! 昨日、僕を殴りつけて来た君には
それぐらいのお仕置きをしないと割が合わないよね…?」
「昨日、殴りつけた…?」
其れは全く、克哉にとって身に覚えのない事だった。
無理もない…もう一人の眼鏡を掛けた方の自分が、彼の預かり知らぬ
処でやった事なのだから。
しかしそれ以前に、根本的な問題があった。
「あの…すみません。状況が全く理解出来ないんですが…。一つ、
質問させて貰って良いですか?」
「嗚呼、良いよ。何でも僕の答えられる範囲だったら答えてあげよう…」
あったから…余裕たっぷりに答えていった。
だが、克哉の口から放たれた一言はそんな彼の優越感もプライドも全て
一瞬にして吹き飛ばす破壊力を持っていた。
「あの…じゃあ、貴方誰ですか? オレ…貴方の事なんて全く知らないんですけど…。
何で初対面の方にこんな仕打ちをされないといけないんでしょうか…?
ピシッ!
その言葉が耳に届いた瞬間、澤村のちっぽけなプライドや優越感は…
粉みじんになって砕け散った。
「はっ…? 君は一体、何を言っているんだ…? 僕が君の事を判らないだなんて、
そんな事がある訳…ないだろう!」
その瞬間、澤村は大いに動揺しまくっていた。
さっきまで浮かべていた余裕の表情はどこへやら、心臓はバクバクいって
全身から冷や汗を滲ませている素晴らしい状態に陥っていた。
「いいえ、すみません。オレは…貴方の事を全く知りません。…何処のどちら様なのか
出来れば教えて頂けますか?」
「はうううっ…!」
克哉が本心からそういっているのを感じ取って、澤村は心理的に多大な
ダメージを受けていった。
そう…現在の克哉の人格は、澤村と決別した小学校の卒業式の日を
境に生まれていた。
そして己の心を守る為に、当時の佐伯克哉は…親友だった少年の事を
忘れる事で正気を保ったのだ。
その為、それ以後の人生を生きる今の克哉にとっては…澤村紀次という存在は
一回も顔を合わせた事のない他人と同じ意味を持っていた。
「嘘だ、嘘だ! 君が僕の事を忘れる訳がないぃぃぃ!」
「いえ、ですから本当に知らないんです。せめて名前だけでも教えて頂けないと
オレも困るんですよ…。そちらをどう呼べば良いのか判らないから…」
「うぉぉぉぉぉ!」
ショックの余りに、澤村は取り乱していった。
そんな佐伯克哉の身に起こった事情など一切知らない事から…自分の事を
覚えていないと言われて、相当な心理的なダメージを被って叫び始めていった。
当時澤村紀次は良い意味でも悪い意味でも、佐伯克哉を意識していた。
其れが間違った方向にいったから陰湿ないじめという形で現れてしまったが…
どんな形でも、幼馴染みで親友であった佐伯克哉という存在は彼にとっては
大きな位置を占める存在だったのだ。
其れに忘れられてしまったという、しかも相手が本気で言っているのだと感じ取って…
其処から復活するのに、若干の時間を要していった。
カタカタと両肩を大きく震わせて、克哉から目を逸らして精一杯深呼吸をして…
自分の心の安定を計り始めていった。
―そして、その彼が復帰するまでに要したこの時間こそが…大きく運命を
分ける事になる事を…まだ二人とも知らないまま、克哉は澤村が混乱している
隙に必死になって状況判断をする事に、冷静に意識を傾けていったのだった―
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32
其処には後ろに手を纏められた形で両手首を縛られて猿ぐつわをされて、
茂みの中に転がされている佐伯克哉の姿が其処にあった
言いようのない高揚感を覚えていった。
僕を殴った克哉君がこんな格好で地面に転がされているとはね!
あははは! 良い気味だ!」
何もかもが吹っ飛ぶ気がした。
こんな場所に転して、こちらに其れを回収するように指示された時は
相手の正気の沙汰を疑った。
夜の公園で、御堂と克哉がセックスしている場面に遭遇出来たのだ。
最も効果的な方法で御堂様を追いつめる為の材料が手に入りますよ…?
存在する小さな公園の茂みに来るように、その際には近くまで車で
乗り付けて来るように記されていた。
僕には後は残されていない…。MGNの手を何が何でも引かさない限り…
僕はもう、クリスタル・トラストに在籍する事も出来なくなってしまう…!)
MGNが満を持した新商品として発売したビオレード。
しない事には…下手をすればその関連会社は潰れる形になるかも知れない。
文句がいえない状況に追いやられる。だからこそ…絶対に失敗する
訳にはいかないんだ…!)
強い猫に向かって噛みつく事もあるという意味の古い格言だが、今の澤村は
まさにその状態だった。
前には…モラルなんてものは見事に消し飛んでいた。
(それに…君の身体で、昨日僕を殴りつけた事に対してのツケを
存分に払って貰う事にしよう…!)
同時に、澤村の脳裏には…昨晩の御堂と克哉とのセックスがチラリと
過ぎっていった。
喘ぎ声に紛れて、はっきりとは言葉のやりとりが聞きとれない事も多かったが
御堂はあの時、しきりに彼に対して…「好きだ」と「愛している…」を繰り返していた。
今頃、あのビデオはMGNの御堂の元に届けられているかも知れない。
偽名と架空の住所を使って届けた訳だが、あれが何であるかを遠まわしに
示唆した…パソコンで打ち込んだ文書も添えてある。
それだけでも充分かも知れないが、更に御堂に追い打ちを掛ける為には…
今、転がっている克哉は充分な素材だった。
(例えば愛して止まない存在が…僕の手にとって、散々いたぶられて、
啼いている声を電話で聞かせたら…どんな反応を見せるんだろうね…)
其れは立派な犯罪行為だ。
けれど澤村はその辺の悪辣な行為に対しての嫌悪感などすでに失って
久しいし…天下のMGNの部長に、一泡吹かせられるならそれぐらいの事など
何でもないように思えてくる。
チラリ、と克哉を見る。
仄かに甘い芳香の残り香を感じた気がした。
御堂に激しく貫かれた日、克哉は潜在的に彼に対して強い感情を抱いている
存在の想いを引き出す…特殊な香りを纏っていた。
そして…セックスの場面を多少離れていたとはいえ…澤村は撮影して、
知らぬ間にその甘い毒に犯されていたのだろう。
「…くくっ、君を屈辱に震わせながら屈服させる事が出来たら…其れは
最高のエクスタシーだろうねぇ、克哉君…。今…その為のステージに
君を連れてってあげるよ…!」
そうして愉快そうに微笑みながら、彼を車まで苦労しながらも
運んでいった。
自分と同体格ぐらいの男を運ぶのは並大抵の労力ではなかったが…
この後に待ち受けているショータイムの事を考えれば、それぐらいの事は
何でもないように思えてくる。
しかも何故かオフィス街の真っただ中にあるというのに…澤村が克哉を
車に運ぶ間、一切の人通りもなく…車の通りすらなかった。
見えない何かによって、世界までも操られてしまっているような奇妙な
感覚を覚えたが…克哉をこれから存分に弄りものに出来るという高揚感が
あった為に彼は深く考える事はなかった。
そうして克哉をトランクルームに詰め込んで、澤村は公園を後にしていく。
―その口元に邪悪な笑みを讃えていきながら…
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31
―太一の告白を断った翌日の夕方から、克哉の運命は大きく動き始めていた
朝、目覚めると同時に太一と一緒に自宅で朝食を取りながら雑談してから
別れて、克哉は出社していった。
先日に休んだ事については、本当に迷惑を掛けてすまないと第八課に
いる全員に謝罪してから通常の仕事に戻った。
何故か本多は…一昨日はあんなにもこちらに熱烈に迫っていたにも関わらず
今日顔を合わせたら、腫れものを触るかのような対応になっていたのだけは
解せなかったが、昨日休んでしまった事で溜まった大量の業務をこなしている間、
何度もふとした瞬間に…こちらに想いを寄せてくれている御堂と本多に対して
どうしようかという事に考えを巡らせていた。
そうして昼休みの時間を迎えていくと…本多と顔を合わせるよりも前に
逃げるように屋上に移動して、一人で物想いに耽っていた。
本日の天気は快晴、目にも鮮やかな青空が広がっているというのに…
自分の心は暗澹たるものだった。
今、こうして眺めていると…本当に良い天気なのに、今朝の天気予報では
夕方から大きく崩れると言っていた。
とてもそうは感じられないな…とふと考えていきながら、空を眺めて…
克哉は自分の心の整理を始めていった。
(…やっぱり、二人に対してもキチンと顔を合わせて断りを入れるべきだよな…。
例えあの例の薬の力が大きいにしても…太一と同じように、あの二人も
真剣に想ってくれている…。それなのに、いつまでも曖昧に引き延ばして
いたら凄く失礼だし…残酷だと思うから…)
昨日、太一に泣きながら謝った事で…克哉は腹を括る覚悟が出来ていった。
真剣に想ってくれている相手の気持ちを断るのは、非常に胸が痛む事だ。
けれど…それ以上に、いつまでも相手の気持ちを弄ぶような真似はしたくないと
いう感情が生まれて来ていた。
(…オレは、あいつが好きなんだ…。他の人間から見たら不毛な想いかも知れない…。
いつも一緒にいられるようなそんな関係は築く事が出来ないだろうし、あいつの方が
オレをどう想ってくれているかも判らない。けど…それでも好きなんだ…)
もう自分の本心に気づいてしまったから。
だからこれ以上、問題に対しても目を逸らす事が出来ない。
なじられるかも知れない、泣かれるかも知れない、そして…下手をすればこれまで
築いて来た相手の関係を壊してしまう事になるかも知れない。
その事を考えると少し怯んでしまいそうになるが…こんな曖昧な状況を続けて
しまう事の方が罪だと考える事にした。
(…今日、本多を呼び出して…まずは本多に対して、謝ろう…。それから…御堂さんに
顔を合わせて、言おう…。想ってくれているのは嬉しいけれど…オレには本当に
好きな相手がいますから…ごめんなさいって…)
御堂に対しては一昨日に、あんなにも情熱的に抱かれてしまった部分があるから…
克哉の中にも大きく惑う部分があった。
あの激しさを、熱さを覚えているからこそ…気を抜くと後ろ髪を引かれてしまうような
気分になってしまう。
―克哉、愛している…
何度もせつなそうな声で、耳元でそう囁いてくれていた。
その声に、ゾクっとして…けれど必死に頭を振っていく。
(…どうしよう、御堂さんにも…オレ、惹かれ始めている…。けど、駄目なんだ…。
二人とも、欲しいだなんて…そんな事を、考えちゃいけない。どちらか片方を
選ぶしかないんだ…。それなら、オレは…オレは…!)
そうして、もう一人の自分の顔を必死に想い浮かべていった。
けれどすぐに御堂の顔も浮かんで来てしまう。
自分の中でせめぎ合う感情が、苦しかった。
どちらも好きなのだと、罪深い思いがジワリと広がって…片方を諦めないと
いけないという理性が…克哉を大きく責め立てていた。
「好き、だよ…『俺』…大好き、だよ…」
だから自分の想いに負けないように、勇気を振り絞っていった。
そして…迷いを断ち切る為に、本多にメールを打つことに集中していった。
『今夜、本多に大切な話がある。夕食を一緒に食べてくれないか?』
其れは余計な感情を一切交えない、簡潔な一文だった。
散々迷いながら、どんな事を書けば良いか考えて…削除を繰り返していきながら
結局、そうやって纏めて…相手に向かって送信していった。
だが、次の瞬間…フワリ、と甘い匂いが漂っていくのを感じていった。
急速な眠気が、襲い掛かってくる。
(あれ…何だろう…。どうして、こんな…眠気、が…。満足に、立って
…いられない…。この、香りは…一体…?)
克哉は、唐突に訪れる強烈な睡魔に…恐怖すら覚えていった。
この香りはどこか…覚えがあるからだ。
周囲の人間を惑わしたあの例の薬の匂いに、根底が似ている気がしたから。
瞼が重くなって、開く事すら億劫になっていく。
それでもどうにか目を開いて状況を把握しようと努めていくと…いきなり、
背後からはがい締めにされて…何か布みたいなものを押し当てられた。
「っ…!」
叫ぼうとした、だが声がすでに出てくれなかった。
何者かの気配を、体温を感じていく。
うっすらと視界に…白い手袋が、目に入った。
(オレの背後にいるのは…誰、何だ…? これは…Mr.R? それとも…
他の誰か、なのか…? どうして、こんな処に…?)
相手の着ている服の袖が、辛うじて視界に入ったけれど…其れは黒い服なのか、
または濃い色のスーツなのか…ぼやけてしまっている頭ではまともに
認識が出来ない。
そうしている間にも…其れはまるで甘い毒のように克哉の自由を奪い、そして…
意識を堕としていった。
(助けて…『俺』…御堂、さん…!)
そして、無意識の内に…心の中に強く存在している二人に向かって助けを
求めてしまう。
うっすらと涙を流しながら、必死に身体を揺すって微々たる抵抗を試みて
いきながら…。
克哉の意識はそうして完全に閉ざされていき。
―そして数時間後、彼は予想もしていない場所で目を覚ます事になったのだった―
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
恋人の条件 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
―現実に長い時間、存在し続けるのは久しぶりだった
だから眼鏡はどうやって過ごせば良いのか判らず…己を持て余して、
当てもなく街を彷徨い歩いていた。
職がある訳でもなく、友人関係を持っている訳でもない。
どちらも其れは…もう一人の自分のものであり、眼鏡自身のものでは
なかったから。
だからとある駅前にあるスターバックスのオープンテラス席に座って、
ただ無為に時間を過ごしていた。
(俺という存在は一体何なんだ…?)
そんな哲学的な事を考え始めている自分がいた。
一日を、無為に消耗する事しか出来ない身が歯がゆかった。
自分に与えられた十日という時間は、あの男はどうして与えたのだろう。
存在し続けるという事に慣れていないせいで、彼はとにかく戸惑いを
覚えながら…在り続けていった。
すでに陽の落ちるのは早くなっているせいで…午後五時を回れば
日が大きく傾き始めていた。
ふと空を眺めていくと…様々な色合いが折り重なって、空に美しい
夕暮れの景色が浮かび始めていった。
「逢魔ヶ時…か…」
朝と夜の境、夕暮れの時間帯には古来から魔と逢いやすい時間帯と
されていた。
だからこそそういった言葉が生まれた訳だが、そんな事をふと
考えて呟いた瞬間、いつの間にか自分の傍らには黒衣の男が立っていた。
「っ…!」
まるで一瞬で自分の傍らに現れたような気がして、眼鏡は言葉を
失っていく。
だが…目の前の男は、そんな様子をただ愉快そうに眺めるだけだった。
そして気づけば、自分達以外の周りの人間の時間が止まっているような
そんな奇妙な空間が生まれていく。
此処で自分達が何を話しても、行動しても周りの人間が気づく事がない…
不思議な空気を、あっという間にMr.Rは生みだしていったのだった。
「…こんにちは、いや…もう日が暮れるからこんばんはでしょうか。
残り後九日になりましたが…本日という一日を有意義に過ごされたでしょうか…?」
「ちっ…見れば判るだろう。今日という一日は無為に終わっている…。わざわざ
イヤミを言いに来たのか…?」
「おやおや…貴方様はどうして私が十日間という時間を貴方に与えたのか、
どうして昨日澤村様と出会うように仕向けたのか…その意図を全く理解されて
いないようですね…。こうしている間にも、ゆっくりと佐伯克哉さんに悪意の手が
伸ばされて来ているのに…。しかも貴方の軽率な行動がその速度を急速に
早めていってしまったのに…」
「…っ! 何だと、どういう意味だ…!」
「…言った通りの意味ですよ。今…佐伯克哉さんに危機が迫って
来ています…。貴方がこうして無駄に一日を過ごしていた間にも…
克哉さんは悪意に飲み込まれてしまいそうになっている…。
元々、佐伯克哉という人物に対して強烈な劣等感と嫉妬心を抱いていた
澤村様は…一昨日の夜の、御堂様と克哉さんの情事を偶然撮影した
事で…これまで抱いていた感情を昇華する行動に出ていたのに…
貴方はそれを止める処か、加速する行動を昨晩された訳ですからね…。
果てさて、どうされている事でしょうか…」
「…貴様っ! あの二人の事は…お前が糸を引いたようなものだろうが…。
あいつに男を惑わす香りを纏わせたのも、澤村をその場面に誘導したのも…
どうせ全て、お前が絡んでいるんだろうが…!」
「えぇ、その通りですよ…。多少、予想外の事が起こっておりますが…
今回の一連の出来事は全て、私が裏で糸を引かせて貰っております…」
「…ほう、随分と素直に認めるんだな…」
あまりに平然と笑いながら答えられてしまったので…眼鏡はむしろ
拍子抜けしていった。
だが…男の纏う不気味な空気は一層濃密さを増していく。
「…えぇ、貴方達二人があまりに不器用な恋愛をなさっているみたいですからね…。
じれったくなって、少し突かせて貰ったんですよ…。私はどのような結果になっても
構わないと思っております…。私はその翻弄する様をも愉しんでおりますから…。
貴方達二人は…私の退屈を埋めて下さる最高の素材ですからね…。
ですから、今回のシナリオもこっそりと私の方で用意させて貰った訳です…。
これだけ多くの人間が介入している中で…どのような結末が貴方達二人に
用意されているか…其れを眺めていきたいと思いましたからね…」
「…貴様、まるで人を実験動物か何かのように言うんだな…。良い根性を
しているじゃないか…」
「えぇ、否定はしませんよ…。私が今、お二人をもてあそんでいる立場なのは
事実ですからね…」
そうしてMr.Rは瞳を細めて眼鏡を見遣っていった。
其れに負けじと…彼の方も、自分たちをもてあそんでいる男を鋭い眼差しで
見つめていった。
(あいつに一体何が起こっているんだ…?)
正直、怒鳴り散らしたい衝動に…不快だから早く立ち去れと言いたい気分
だったが…最初の方に言われた、克哉に悪意の手が迫っているという言葉が
引っかかったのでどうにか抑えていく。
恐らくその行動を取ってしまったら、手遅れになる予感がしたから…大きく
乱され続ある自分の感情をどうにか抑えていきながら、眼鏡は一先ず…Rから
詳しい情報をもう少し引き出していく事に専念していったのだった―
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。