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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                         10 11 12 13   14 15
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 本多と会話をした後、眼鏡は真っすぐに自分達が生活していた
建物の方に向かっていった。
 迷いない足取りで、自分達が昨晩抱き合ったベッドが置かれている
部屋の方まで向かっていく。
 そして様子を伺うようにドアをそっと開いていくと…淡い光が窓から差し込む中、
克哉は白いシーツの上に穏やかな顔をして眠っていた。

(まるでおとぎ話の中の眠り姫みたいだな…。こいつはれっきとした男だが…)

 フっと微笑みながら、眠る克哉の元に静かに歩み寄る。
 その瞬間、窓の外の空が不安定に揺れていった。

(夢の終焉は近い…か…)

 今までこの世界の空はプリズムやオーロラのように様々な色合いを
内包していたが…基本的に安定して穏やかな感じだった。
 それに大きな変化が訪れた事と、克哉の記憶がよみがえった事は
恐らく連動している。
 そして…克哉がどちらの手を取る事を選択するのか、畏れる気持ちはあった。
 だが、決断する時はすでに迫っているのだと察して…深呼吸を何度かした後、
緩やかに克哉の肩を掴んで軽く揺すりあげていった。

「おい…起きろ…『オレ』…」

 この世界に来てから、こういう風に克哉を呼ぶ事はしなかった。
 記憶を失っている状態の時に、お互いを『俺』『オレ』と呼び合う事は本多に
関係する記憶を呼び覚ますキッカケになる可能性があったから。
 けれど今は、克哉は殆どの記憶を思い出してしまった以上…これ以上、
隠す為の工作の類はする必要はなかった。
 その事実に多少、複雑な気持ちを抱きながら克哉の覚醒を促していった。

「…ん…」

「…起きたか…?」

「…うん…」

 甘えるように、はにかむように克哉が笑う。
 その表情に愛しさを感じて、眼鏡はそっと髪と頬を撫ぜて…目元や瞼に
柔らかく口づけていく。
 以前の自分だったら、克哉にこんな甘ったるい事をする事は考えられなかった。
 数カ月間ここで二人きりで暮らしている間に…きっと、大きな心境の変化が
知らない内に訪れていたのだろう。
 そうしていると…克哉の方もまた、こちらの首元に向かって両腕を伸ばして
そっと抱きついてくる。
 ほんのりと、相手の匂いがフワリ…と鼻腔を突いていく。
 口を開く前に、ほんの少しその触れ合う時間を惜しむように二人は無言の
まま…過ごしていく。

(…この時を、覚えておこう…。これがこいつと過ごす最後の思い出になったとしても…
こいつが選んだ事なら、仕方がない…)

 先程、対話した本多は覚悟を決めているようだった。
 恋敵でもある彼がそのように腹を括っているのなら…自分もまた、
素直に克哉の決断の結果を受け入れようと思った。
 その事に強烈な不安を覚えているのは事実だ。
 けれど…これは、代償が存在する代わりに未来が開ける道でもある。
 克哉が、眼鏡か本多かを選び…選ばれなかった方とは、『二度と会えない』と
いう代価が存在するからこそ…それを糧に、本多を目覚めさせる事が出来る。
 それだけが、唯一の救いでもあった。
 あのまま…きっと、何もしないままでいたら本多の覚醒は…十年先になっても
保証される事はなかったのだから…。
 そう覚悟した瞬間、この世界に来る直前の…あの運命の日の記憶が
眼鏡の中に蘇っていった。

―オレと一緒に死んでよ…! もう、嫌だよ…待てないよ…辛くて、もう…
オレは、駄目だよ…!

 大きな過ちを犯そうとしたあの日の克哉の声が、脳裏に蘇っていく。
 あの日、本多が眠る病室に足を踏み入れた時に…克哉は、松浦が
眠っている本多に口づけている場面を目撃してしまった。
 そして、松浦と口論になり…その後、克哉一人が病室に残った時に
あの出来ごとは起こった。
 果物ナイフで、克哉は衝動的に己の手首を大きく切り裂いた。
 ボロボロと泣きながら…今まで必死に堪えて何かが堰を切って溢れて
来たように叫び声を挙げていた。
 今まで抑え込んでいた不安や、ドロドロした感情が強烈な嫉妬をキッカケに
溢れだし、克哉は暫し正気を失った。
 自分の手首を切った後、そのナイフで本多の頸動脈を切ろうとした。
 泣きながら、もうこの膠着状態から抜け出す為に…『お互いの死』で持って
ケリをつけようとした。
 眠っている本多に、他の男が…自分の見てない内に、口づける事など
許す事が出来なかったから。
 あの時の克哉の心には、本多しかいなかった。
 一途に愛しているからこそ、起こった悲劇だった。

『止めろ…!』

 そして眼鏡は、その直前で叫んだ。
 その時…本多が意識を失った日のように…眼鏡は、現実に姿を現した。
 克哉と対峙したのは、実に二年ぶりの事で。
 其れにより、克哉は凶刃を止めて…泣き腫らした顔でこちらを見ていた。
 しばしの睨みあいの後…唐突に、Mr.Rの姿が現れて…克哉は唐突に
昏睡状態になり、そして…この世界を紡ぎ、一時忘れさせる事で克哉の心を
癒す事を提案されたのだ。
 そして、こちらにその為の協力をしてくれと言われて…頷いた事が、
全てのキッカケだった。

(だが…その夢も、もう終わる…)

 克哉が身体を軽く起こしていけば、背中に腕を回してギュっと
こちらからも抱き締めていった。
 そして…ついに、この言葉を発していく。

「…お前は、どちらの手を取るか…決まったのか…」

「うん…決まったよ…」

 切なそうに、克哉は答える。
 其れを聞いて…眼鏡もまた、覚悟を決めていった。

―俺もまた、どんな結果になっても受け入れよう…

 どれだけ辛くても寂しくても、愛する者に選択肢を与える事。
 自分の思いで、相手を縛らない事。
 其れはとてつもない痛みを伴う事であるけれど…相手に意思を委ねる事もまた、
愛なのだ。
 本多がそうしたのなら…自分も其れに習おう。
 そう覚悟を決めて…ギュっと目を閉じていく。

「なら教えてくれ…。お前が選んだのはどちらの手なのかを…」

「うん…それは…」

 そうして、克哉は今にも泣きそうな顔を浮かべていきながら…選んだ方の
名前を静かに告げていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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