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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                         10 11 12 13   14 15
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―オレは、お前を選ぶよ…。もう、本多の手を取る資格はないから…

 泣きそうな顔をしながら、克哉がそう告げていく。
 うっすらと透明な涙が瞳に浮かんで、宝石のように輝いていた。
 克哉が縋るように、眼鏡の方に指先を伸ばしていく。
 それをそっと握っていってやりながら…続きの言葉に耳を傾けていった。

「そう、か…」

 眼鏡は安堵を覚えつつも、克哉の言い回しに複雑な気持ちも
同時に抱いていた。
 資格がない、という言葉に…強い引っかかりを覚えていく。

(もしかして…あいつは、あの日の事をはっきりと思い出してしまったのか…?)

 そう危惧した瞬間、その疑問を肯定する言葉が克哉の口から零れていった。

「だって…本多はあんなに、松浦と仲直りが出来た事を喜んでいたのに…
オレの嫉妬から出た行動のせいで、全てが壊れてしまって…二年以上も
昏睡状態にさせてしまったんだよ? そんなオレが…どうして、あいつの
傍にいられるんだよ…」

「…そうか、お前は其処まで思い出したのか…」

「うん、本多もMr.Rも繰り返し…その事は忘れろ、と言ってくれて
いたけれど…其れは、オレが犯してしまった過ちだから。
そしてしまいにはその罪悪感に耐えられなくて…消えてしまいたくなって、
死にたくなって、其れに本多を巻きこもうとした…。そんなオレに、
どうしてそれ以上…傍にいたいと言う資格があるんだよ…」

「………」

 克哉は、殆どの記憶を思い出したのだろう。
 そして事の詳細を全て辿れば、自分が原因であの事件が起こった事を…
その事で二年以上、自分を責め続けて心が弱り切っていたからこそ…
耐えきれず、本多を巻き込んで心中しようとするまで…追い詰められてしまった。
 眼鏡は、知っている。
 克哉の内側に存在する彼だからこそ、どれだけ克哉がその事で罪悪感を
抱き続けていたか、苦悩していたかを。
 …だから、土壇場でどちらの件でも自分は介入してしまった。
 こんな面倒な事は沢山だ、と思う気持ちもあったけれど…結局、克哉は
自分にとっては鏡の裏のような存在で。
 
―見てられなくて、放っておけなかった…

 結局、その気持ちが勝って…こんな酔狂な真似さえしてしまったのだ。
 泣いてベッドの上に横たわっている克哉を上から覆いかぶさるようにして
抱き締めていってやる。
 そして、静かな声でこう告げていった。
 
「もう良い…それ以上、自分を責めるな。俺だけは…お前がどれだけその一件で
苦しんでいたか、自分を責め続けていたか知っているから…」

「ふっ…うううっ…」

 けれど、その労わりの言葉を聞くと同時に…克哉の双眸からは更に
大量の涙が、堰を切ったように溢れてくる。
 ずっと胸の底に抱えていた罪悪感や、痛みを洗い流して浄化する為に…
ただ、子供のように克哉は泣きじゃくっていった。

「ゴメン、今は…泣かせてくれよ…。涙が、止まらないんだ…」

「…仕方ない。もう少し我慢しておいてやる…」

「…うん、ありがとう…」

 そうして眼鏡の胸に額を擦りつけていきながら、礼を告げて…
嗚咽を殺して、泣き続ける。
 きっと…こうやって誰かに頼って甘える事が出来れば、克哉は心中未遂の方の
事件は起こさなかったのかも知れない。
 けれど元々、人付き合いが苦手な方の克哉には…そうやって甘えられる存在は
本多以外に存在せず、その唯一の相手が二年間も植物人間状態になってしまって
いた事で…追い詰められてしまったのだ。
 労わるように、克哉の身体をベッドから上半身だけ起こさせるようにして…
ポンポンと背中を叩いていってやる。

「…この三カ月で、お前のお守はもう慣れた…」

「そう、だね…。オレはずっと…記憶を失っている間…お前に甘えてばかりだった…。
けど、その時間があったから…オレは、救われたんだ…。本当にありがとう…」

 そうやりとりをしている間に、世界が淡く輝き始めていく。 
 少しずつ、周りの景色が輪郭を失い…光に溶けていくようだった。

(夢の終わりを迎えているんだな…)

 眼鏡は、そう悟った。
 恐らく克哉の方も…其れを感じている事だろう。
 だが、最後にこれだけは聞いておかなければならなかった。
 本多の方を自分は選ぶ資格がない…という理由だけで選ばれたのは
どうしても納得いかなかったから。
 この不思議な世界が終る間際、眼鏡はそっと問いかけていく。

「…最後に一つ聞く。お前は、俺の事をどう思っているんだ…?」

「…大好き、だよ…。お前を選んだのは、それが一番の理由…」

「…判った、なら良い…」

 そうしてこのゆりかごのような世界が終る直前、光に包まれながら
二人はそっと口づけを交わし合っていく。
 そして…相手を見失わない為に、お互いに強く抱きあいながら…
夢の世界は静かに終焉を迎えていったのだった―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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