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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                         10 11  12 13   14 15
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―フードが落ちて現れた顔は、克哉にとっては見知った人物のものだった

 否、薄々と予想はしていた。
 だが…まさかという気持ちも同時に存在していたが、茫然とした様子で
雨に濡れた地面に膝をついている様子を見て…克哉は胸の奥にチリリと
した痛みが走るのを感じていった。

(やはり…オレをここに呼び出したのは松浦だったんだ…)

 恐らく、今の状況下で其処まで人に憎まれていると心当たりがあるのは
彼ぐらいしか存在しなかったから。
 かつて大学に在籍していた頃、本多の傍らにずっと松浦は存在していた。
 当時の二人は克哉にとっては眩しく見える事すらあった。
 好きなものに全力で打ちこんでいる当時のバレーボール部のメンバー達と
接していると、温度が違う事を嫌って程実感させられた。
 バレーボール自体は、克哉は好きだった。
 けれど…高校時代と変わらず、自分はどうしても人に対して深入りを避けて
しまう傾向にあったから誰とも打ち解ける事はなかった。
 其れが結局…大学のバレーボール部のメンバー達とも大きな壁を作る
原因になってしまい…結局、二年の始めぐらいで克哉は退部して…
松浦と接点を持つ事はなかった。

(オレ、のせいだ…。一か月前、きっとオレがあんな事をしたから…)

 自分と松浦は、友人ですらない。
 顔見知りではあったが、親しく会話した事も腹を割って話した事もない。
 だから相手がどんな考えをしているか知らなかった。
 知らないからこそ…不安が強まり、本多を取られてしまっているような
気持ちが拭えなくて…結果、感情的にあのような行動に出て…松浦を
追い詰めてしまったのだろう。
 松浦は今、冷たい雨に打たれて…放心状態になっていた。
 そうする事で目の前の現実を信じたくないと、必死に否定している風でもあった。

「ど、うして…こんな、事に…」

 そしてもう一人の自分が電話を掛けて救急車を手配している最中…
ようやく松浦が口を開いていった。

「何で、本多が…こんな場所に…。俺は…佐伯しか呼び出していない
筈だったのに、どうして…」

「………」

 松浦の目は危うく揺れて焦点が定まっていなかった。
 必死に目の前の現実を否定しようと心の中であがいているのが
見てるだけで判ってしまった。

「どうして、どうして…こんな事に、なってしまったんだ…! 俺は、佐伯さえ
いなくなってくれればと思っただけなのに…どうして…!」

「………っ!」

 例え親しくない間柄の人間であったとしても、誰かに「いなくなってくれれば」と
言われれば胸の奥に痛みが走る。
 自分も、同じ事を二人が飲みに言っている間に何度も思っていた。
 松浦なんかいなくなってしまえ、自分が本多と一緒に過ごす時間を取らないでくれ、
これ以上…仲良くなんてならないでくれ、と嫌な感情はいつだって胸の中に
グルグルと渦巻いていた。
 だから…松浦の事を責められない。
 自分だって、ずっと…同じような想いを胸に抱いていたのだから。
 だから本音を打ち明けた時、本多が…自分を優先して一緒にいる時間を
多く取るように配慮してくれた事で満足していた。
 それによって…踏みにじられる気持ちがある事から目をそらして…
そして幸せに溺れていた。
 克哉は今、その罪を突きつけられているような気分だった。

「やっと大学時代のように…こいつの一番傍にいられる…その状態に
戻ったと思っていたのに…。いつの間にか佐伯がその場所にいるように
なっていたのが許せなかった…! 一緒に過ごせる時間すら奪った事が
許せなかった…だから、俺は…」

「………」

 それはまるで、一か月前の自分を見ているような気分だった。
 同じ想いを克哉は松浦に対して抱いた。
 自分が本多の恋人で、一番傍にいる存在の筈なのに…例え過去の
仲間であったとしてもそれを奪われるのは許せなかった。
 あの夜はそれが爆発して、訴えて…本多から友人と一緒に過ごす時間を
奪ってしまった。

―自分の気持ちしか見えなかったせいで…!

 それを思い知らされて、耐えようのない痛みを覚えた瞬間…誰かが
自分の肩に手を置いた。
 もう一人の自分のものだった。

「…甘ったれた事を言うな。それで刃物まで持ち出した事が正当化されると
思っているのか…?」

「っ…!」

 松浦は目の前の光景に言葉を失っていった。
 印象こそ全く違うが…其処には佐伯克哉が確かに二人同時に存在
していた事を…眼鏡を掛けた方が言葉を発した事でようやく気付いたからだ。

「…何で、お前が二人…?」

「そんなのどうだって良いだろう…。それで何か? 俺を呼びだして殺して…
そして完全犯罪でもして、それで何食わぬ顔をして本多の一番として
ちゃっかり居座るつもりだったのか…? 本多が<オレ>をどれだけ大切に
思っているのかも判らずに…? そんな浅はかな考えを実際に実行に移す
つもりだったのか…?」

「うるさい…! お前に何が判る…!」

「…何も理解するつもりはない。少なくとも…人を殺してまで排除しようとする
考えそのものについてはな…」

「くっ…!」

 茫然としている克哉をよそに、松浦と眼鏡は言葉のやりとりを続けていく。
 その間…克哉は幽鬼のように頼りない足取りで、フラフラと本多の元に
向かっていた。
 冷たい雨が、本多から体温と血を容赦なく奪っていく。
 救急車はもう一人の自分が手配してくれた。
 けれど間に合わなかったら…その不安が猛烈に胸に広がって
いても立ってもいられなくなる。
 もう一人の自分と松浦の言い争いは尚続いていたが…本多の元に
近づき、その大きな手を必死になって握る頃には克哉の耳には殆ど
届かなくなっていた。
 松浦が、胸の中に溜まっていた毒を吐き出し続ける。
 どれだけ佐伯克哉を恨んでいるか、疎ましく思っていたか怨嗟の言葉が
紡がれ続ける。
 けれど今…愛する人間が死にそうになっている現実だけで心は
充分に壊れそうになっているのに、これ以上…自分の心を痛めつける
言葉など耳に入れたくなかった。
 だから、もう…本多の事だけに意識を集中して、嫌な言葉は全て
無意識のうちにシャットアウトし続けた。

「本多…お願いだよ、どうか…死なないで。…本多が死んだら、嫌だよ…!
オレだけ残されるなんて…お前のいない世界なんかで生きていたくないよ…!」

「…バカ、野郎…! そ、んな…よ、わ…きな…事…言う…ん、じゃ
ね…ぇ…よ…」

「そんな事、言われたって…本多が、死ぬなんて…嫌だ…嫌だよ…!
オレ、なんか…を庇った、せいで…ゴメン…本当に…ゴメンな…」

「…オレ、なん、か…なんて、言うなよ…俺に…と、って…克哉、は…
世界で…一番、大、切…な…存…在な、ん、だ…ぜ…」

 雨に混じって涙が目から溢れ続ける。
 神様、どうかどうか…この優しく愛しい男の命を奪うような真似だけは
しないでくださいと…切に克哉は祈り続ける。

(オレなんてどうなっても良いから…だから、本多を助けて下さい…!)

 ポロポロと泣きつづけながら、克哉は必死に祈り続ける。
 本多はこちらに視線を向けていたが…まともに見えていないようだった。
 焦点がうつろになって、視線が確かに泳いでいる。
 克哉の事をまともに見えていない可能性があるのは明白だった。
 その瞬間、ドサっという音とバシャン…という何かが倒れて水が跳ねる音が
耳に届いていった。
 あの二人から目をそらしていたので…克哉にはどちらが倒れたのか
とっさに判らなかった。
 そして一人がこちらの方角に歩いてくるような気配がした。

(どっちが、近づいてきているんだ…?)

 その事に一瞬、ヒヤリと背筋が冷たくなったが…すぐにどうでも良くなった。
 松浦がこちらに歩み寄って、またこちらに危害を加えようとしているのなら
好きにすれば良いと自暴自棄な心が湧き上がってくる。
 けれど…その人物が傍らに立った瞬間…こちらの肩にそっと手を
置いていった。
 それだけで一瞬、また涙ぐみそうになる。
 顔が見えなくてもそれだけで、どちらが倒れて…どちらがこちらの元に
来たのか充分に判ってしまったから。

「な、あ…其処…に、克哉、の他に…誰、か…いる…の、か…?」

 そして本多は危うい眼差しをしながら、背後にいる人物の気配を
感じてそう声を掛けていく。
 勢い良く冷たい雨が降り注ぐ中…そうして、三人は確かに対峙の
瞬間を迎えようとしていたのだった―


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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