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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                         10 11  12 13   14 15
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 ―それから二年間は本多がいない、という事を覗けば
ほぼ平穏無事に過ぎていた

 だが、日常の喪失は二年という年月を経て少しずつ克哉の心に
ダメージを与えていた。
 本多は確かに命は助かった。
 しかし長い時間出血し続けた事が、医者が言っていた通り心理的に大きな
ダメージを負った事が理由なのかは判らなかったが、本多はあの日以降
一度も目覚める事なく昏睡状態に陥っていた。
 克哉も、職場の同僚たちも、本多の友人達も家族もすぐに彼が目覚めて
くれるだろうと信じていた。
 一日も早くその日が訪れてくれる日を待ち望んでいた。

―だが皆のそんな願いもむなしく、本多は眠り続けていた

 そして二年間、克哉は余程仕事が忙しくない日以外は出来るだけ
本多の元に通い続けた。
 言葉を掛けたり、ただ傍らにいるだけのお見舞いにしかならなかったけれど
それでも自分の思いを伝える為に…目覚めてくれる事を祈り続けて
せっせと彼の元に訪れていた。
 本多が昏睡状態になっている理由は特定出来なかった。
 ただ肉体的に致命的な損傷は受けていない筈だ、とその言葉に縋って
克哉は奇跡が起こってくれる日を願い続けていた。
 けれど無情にも…その日は訪れる事なく、これだけ長い年月が過ぎて
しまい…克哉の精神は、静かに疲弊しきってしまっていた。

(今日も…本多は起きてくれないのかな…。オレは待っているのに…
こんなに起きてくれるのを待ち望んでいるのに…)

 本多の眠る病室に続く、リノリウムの床を歩いていきながら
克哉は深く溜息を吐いていった。
 今は大変忙しい時期を迎えていて、いつもなら18時半から19時半までの
間にお見舞いに来るように心掛けていたが、この日は面会終了時間間際…
20時より少し前に訪れていた。
 キクチの営業八課は、エースの一人であった本多がいなくても
今は問題なく回るようになっていた。
 その事実が克哉の胸の中に何とも形容しがたい寂寥感を
生み出していく。

「…今日は随分と遅くなってしまったせいか、いつもよりも病院
全体が寂しい印象があるな…」

 今は節電対策の為か、病院全体が必要最小限の照明しか
使用しないように心掛けているせいで…この時間になるとある種の
不気味さすら感じさせた。
 薄暗い廊下を一人で歩いていると、不吉な予感が胸の中に
ジワリと競り上がってくる。
 自分以外の微かに遠くから聞こえる足音が、死神の足音のようにすら
ふと感じられる気がして…ブルリと肩を震わせていく。

(バカバカしい…ホラー映画の世界じゃあるまいし…)

 そしてすぐに首を横に振って、自分の馬鹿げた考えを否定
していった。
 コツコツという克哉の革靴が反響する音だけが異様に響いて
耳に届いていく。
 こんなに人気のない廊下を一人で歩いていると…すぐに暗い思考に
囚われていってしまう。
 本多が眠ったままでいる分だけ、克哉の中であの日の後悔が重く
圧し掛かってくる。

(あの日…本多からの電話に気づいてさえいれば…)

 そう、たったそれだけであの悲劇は回避出来ていた筈なのだ。
 自分が大きな鍵を握っていた事を自覚すればするだけ…克哉の中で
己を責める気持ちが大きくなっていく。
 松浦の罠の電話に踊らされていなければ、それに引っかかってあっさりと
行かなければ、すぐ後ろをついてきていた本多に気づいていれば…
幾つも、救われる為の道は存在していたのだ。
 其れを焦っていて周りが見えなかった自分は全て見逃して、
最悪の結果を招いてしまった。
 其れが月日が過ぎれば過ぎるだけ思い知らされる分だけ…
克哉にとっては後悔が募るばかりだった。
 一日も早く目覚めてくれれば、きっと解放される。 
 また本多と笑いあって過ごせる日が来る。
 その微かな希望だけが克哉を正気に繋ぎ止めていたが…実際の処、
この時点で精神は限界近くまで参ってしまっていた。

(またオレ…弱気になってしまっている…ダメだな、こんなんじゃ…
本多が目覚めた時、呆れられちゃうよな…)

 そういって己を叱咤激励しながら階段を使って、本多が眠っている
病室のあるフロアに向かっていく。
 何となくエレベーターを使う気になれなかった。
 すでに時刻は20時を回っていたけれど…本当に今日は仕事で気持ちが
疲れきってしまっていて頭がまともに働いていなかったし何もかもが億劫な
気分だった。
 
(疲れた…早く目覚めてよ、本多…。オレをその腕の中で甘えさせてよ…)

 そしてジワリ、と本多が目覚めてくれる事を祈った。
 日増しに強くなり…病室に来る度に打ち砕かれる希望。 
 愛しい人間だからこそ、諦める事など克哉にとっては出来なくて…。
 今日もまた眠ったままでいる彼を見て静かに絶望を感じていくのだろうけど…
其れをせめて顔に出さないようにしながら病室に向かっていく。
 瞬間、本多が眠っている部屋に誰かがいるような気配がした。

「えっ…?」

 扉を少しだけ開けて中を確認すると、電気をつけないままで…
誰かが本多の傍らに立っているのに気づいていった。
 窓から差し込む僅かな月明かりだけが、その人影を浮かび上がらせていく。
 
(一体誰がこんな時間に…?)

 その事に疑問を覚えていくと同時に…その人影は、ベッドに眠っている本多の
元に静かに顔を寄せていき、克哉はその様子を息を飲んで見守る結果と
なってしまっていた―


 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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