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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※原稿の関係で予定より掲載遅れましたが、ここまで
この話に付き合って下さった方…ありがとうございます。
 二か月余り掛かりましたが、どうにか完結です。
 ここまで読んで下さった方に対して感謝の気持ちをここに
記しておきますね。
 それでは最終話。どうぞ読んでやって下さいませ。


 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                             10
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―克哉ともう一人の自分が、別々の肉体を持って隔てられた日から
今日で一年が経過しようとしていた。
 幽霊となった御堂と肉体を共有して生きることにも慣れて来て…
奇妙な日常も、ごく自然に受け入れられるようになった頃。
 …克哉は鏡を通して、向こう側の自分と…御堂が抱き合っている光景を
目撃する形となった。

「…もしかして、これは…俺と、御堂さん…」

 鏡とは本来、本来あるべきものを真逆の状態にしてそっくりと
そのまま映し出すもの。
 だが…今、克哉の部屋の壁に掛けられている鏡にはどうやら病室
らしい風景が映し出されている。
 そしてベッドの上から上半身を起こしている御堂と、スーツ姿をした
眼鏡を掛けた自分がきつく抱き合っていた。
 声までは聞こえない。けれど二人の様子から、想いが通じ合って抱擁しあって
いるように見えた。
 
(あぁ…お前は、御堂さんと…両想いに、なれたんだな…)

 その事に、喜びと安堵をおぼえていく。
 けれど…胸の中に、何かチリリとしたものを覚えたのも確かだった。
 幸せそうに寄り添い、口づけを交わす二人。
 この一年で…彼らがどんな風に時を過ごして来たのか詳細は知らない。
 それでも…見ているだけで、今の二人の間には温かな心が通っている
ことだけは伝わってきた。
 
「…そうか、お前も…ちゃんと御堂さんと…結ばれることが、出来たんだな…」

 結局は、自分も彼も…人格は違うとは言え同じ人間で。
 …だから、きっと同じ御堂孝典という人に惹かれるのは当然の事だ。
 自分だって霊体であっても、厳しくも優しいあの人に接している内に次第に
好きになってしまったのだから。
 彼がちゃんと幸せになってくれることを願って、一年前のあの日…自分は彼の背中を
押したのだから。
 だから心から喜ぶべきなのに…口元に笑みが浮かぶのと同時に…うっすらと
涙が頬を伝い始めていった。

「…何で、オレ…涙が…?」

 もう一人の自分が幸せをちゃんと掴んでいたことに対して…嬉しさを
覚えている筈なのに、それ以外の感情が胸の中にゆっくりと競り上がってくる。
 認めたくなかった。この光景を見て、喜び以外の感情が…自分の中に
生まれてしまっているのが。
 どれだけ克哉がその感情を押しとどめようとしても…後から、後から
溢れてくる。
 実体を伴った御堂と、しっかりと抱き合っているもう一人の自分を見て…
克哉はこの一年間、ずっと目を逸らし続けていた自分の本心に気づいていく。

「…幸せに、なれて…本当に、良かったね…『俺』…」

 自分が鏡を通して、相手が見えているように…その逆もあり得るかも知れない。
 そう思って、精一杯の笑みをどうにか浮かべていった。
 オレは、幸せだよ…と相手に伝えるように。
 けれど…涙が静かに伝ってしまっているせいでどこかぎこちない笑みに
なってしまっていた。
 けれど、それでも克哉は微笑む。
 どんな力が働いてこうして鏡を通して、お互いの姿が映されているかまでは
彼には判らない。
 しかしもう一人の自分が、最後に見るこちらの顔がクシャクシャの泣き顔に
なるのだけは…気持ち的に嫌だったから。

―オレは、幸せだよ…

 そう、相手がこちらに伝えるように…御堂を強く抱きしめているのに応える
ように…笑い続けていく。
 そうしている間に、午前0時が訪れていく。
 そして日付が変わったのとほぼ同時に…鏡の向こうの景色はゆっくりと
歪んでいき、そして…普段通りの佇まいを取り戻していった。
 今のは恐らく、Mr.R辺りが気まぐれで起こした奇跡の類だったのだろうか。
 もう二度と会えないと、様子を知ることも叶わないと諦めていたもう一人の
自分と御堂のその後を、十分程度という短い時間であったけれど確かに
克哉に伝えてくれていた。
 だが、もう一人の自分の姿が見えなくなった瞬間…自分の目元から
溢れんばかりの涙が流れ始めた。
 克哉は無意識のうちに…自分の口元を押さえていく。
 
「はっ…うぅ…」

 その瞬間に…克哉は、自分の本心を知ってしまった。
 すでに肉体を失ってしまった御堂と…それでも恋に落ちてしまった時から
決して気づかないようにしていた。
 けれど…もう一人の自分が向こうの世界の御堂と、生身を持っている彼と
抱き合っている姿を見た時についに隠せなくなってしまった。

―自分も、生身のあの人に一度でも良いから抱かれたかった事を…
あんな風に、抱き合いたかったのだと…

 その本心に気づいた時、小さな罪悪感を覚えた。
 例え魂だけになっても、好きな人と両想いになれただけ幸せだと
そう思っていた。満たされていると信じていた。
 だが、もうその誤魔化しも聴かない。
 自分の中には、それ以上を確かに望んでいる気持ちが潜んでいた。
 現状では、足りないと…浅ましい心が、叫んでいる。
 その荒れ狂う、胸に秘めた激情こそが…涙の正体だ。
 御堂を愛しているからこそ、現状では埋められない飢餓が自分の中に
存在している。

 望んだって、叶えられることではないのならば…あの人を苦しめるだけ
ならばそれは言ってはいけない言葉だった。
 …肉体を共有して、相手にこちらの感情が伝わってしまうこともあるのだから
考えることも禁じていた。
 けど、もうダメだ。自分は知ってしまった。
 自分の中の、醜い心を。赤裸々な欲望を…。
 そうして泣き続けていると…ふいに、フワリと大気に包み込まれているような
そんな感覚がしていった。

「御堂、さん…?」

 それで気づく。彼の魂が今…自分を包み込んでくれている事に。
 決して叶えられない願いを、今の御堂の負担にしかならない事を
望んでいる自分を労わるように…温かいものを感じていく。
 相手の方から、何も言わない。
 けれど…こちらを気遣ってくれているのだというその感情だけは
確かに伝わってくる。
 だが、今は…そんな優しさが逆に痛かった。

「御堂、さん…止めて、下さい…。オレは…貴方を困らせることを…
考えている、のに…」

―構わない。それでも…私は君を抱きしめたいんだ…。我が身が
ないことが本当に歯痒いがな…

「…お願いです、こんなオレに…優しくなんて、しないで下さい…」

 懇願するように、克哉は訴えていく。
 けれど相手の気配は…どこまでも包み込むような雰囲気は
決して離れる気配はない。
 大好きで、誰よりも尊敬をしている人。
 何度、こういう形でしか出会えなかったことを心の奥底では本当は
悲しく思っていたことだろう。
 同じ身体を共有して生きている以上、しっかりと考えてしまったことに
関しては御堂に伝わってしまう。 
 良くも悪くも嘘や偽りが出来ない環境だった。
 だから相手にどうしても知られたくないことは…意識の底に沈める他
なかったのだ。

「…オレは、貴方に…何度も『今のままでも充分幸せだ』と言っていた癖に…
心の底では、御堂さんの負担にしかならないことばかりを強く
願っていたんです…。そんなオレに、貴方に優しくされる資格なんて…
ないです、から…」

 何度も、自分は幸せだと…今のままでも満ちていると御堂に
伝えて来た。
 けれど…向こうの世界の二人を見て、克哉はずっとこの一年…
覆い隠していた本心を、ついに意識に登らせてしまった。
 本心から言っているつもりだった。この人に…身体がないことを引け目を
与えたくなかったから。
 肉体がなくても、それでもこの人を愛している…その気持ちだけは
自分にとっては真実だったから。
 けれど…本心を覆い隠せば隠すだけ、心の中に澱んだものが
広がってジワリジワリと広がって侵食していくようだった。
 だから、気づいた時…堰を切ったように自分は涙を零してしまったのだ。
 ずっと覆い隠していた感情が、ようやく出口を見出して…溢れだして
しまっていた。
 
(こんな事で泣いたら…御堂さんを、困らせるだけなのに…)

 なのに、止めようと頑張ってみても涙線は完全に壊れてしまったみたいで
熱い涙が零れ続けていく。
 
―貴方を凄い、好きです…御堂、さん…

 好きだから、困らせたくない。
 けれど好き過ぎるが故に…一度でもこの人の熱を、愛情をこの身で…
しっかりと感じ取りたかった。
 お互いに愛情を確認し合う為に…抱き合いたかった。
 この人と生身の身体を持って、愛し合いたかったのだ…自分は!

「御堂さん、御堂さん…御免、なさい…!」

 こんな事を望んでしまって御免なさい。
 絶対に叶えることが出来ない願いなど、相手にとっては負担にしか
ならないだろう。
 だから一生、覆い隠すつもりだった。
 もう一人の自分の事だって、あちらの御堂と上手くいったのならば心から
祝福するつもりだった。
 いや、祝う気持ちに嘘はない。幸せになって欲しいと心から願っていた。
 けれどその感情と同じ強さで…嫉妬をしてしまった。
 御堂が生きていること、触れあって確認できること。強く抱き合いながら
しっかりとキスを交わせること。
 それは…自分にとっては叶わないことだから。
 だからみっともないぐらいに…相手を羨んでしまったのに…こんな自分を
それでも愛しい人が気遣ってくれるのが余計に辛く感じられてしまった。

―謝る事じゃない。それに…私だって同じ気持ちだ…。君をいつしか
想うようになってから、君をしっかりと一度でも抱いて感じ取りたかったと…
だから、あんな形であっても…私は君を抱き続けたのだから…
 
 自分たちには、あんな形でしか一つになれない。
 セックスに近くても、御堂に生身の肉体が存在しない以上…あくまで
あの行為は疑似的なものでしかない。
 だから、一時的に満たされて誤魔化せても…胸の奥では、何かが
足りないと少しずつ何かが積もって来ていた。
 魂を重ねて、相手の身体を乗っ取って…脳を弄って快感を引き出して…
セックスに近づけても、熱い肉体を持って抱き合うことには決して叶わないのだ。

―そもそも死者が、生きている人間に執着して愛してしまうこと自体が…
罪だったのかも知れない。君の献身的な気持ちに惹かれて、いつしか
想うようになってしまった。けれど…私は本当に君と肉体を共有してこれから
長い人生を共に生きて良いのだろうかな…?

「そんな、事は言わないで下さい…。幽霊であっても…俺は、貴方が必要なんです!
どんな形でも、これから先も…貴方といたいんです!」

―克、哉…

 克哉は泣きながら、叫んでいた。
 御堂と生きる限り、克哉は他者と…生きている人間と抱き合えない。
 今までは眼を逸らして触れないようにしていたが…この恋は、克哉をその
深い業へと落としていく。
 温もりを与えることも、抱いて本当の意味でのセックスの快楽を与えられる
訳ではない。

 死者と生者との恋は、お互いに目を逸らしていたから…この一年はぬるま湯に
浸かっているように穏やかに過ぎていた。
 だがどうしても埋められないもの、満たせないものにお互いが気づいた時…
その欺瞞が明かされていく。
 克哉は其れが暴かれた瞬間、心の限りに叫んで訴えた。
 この恋は手を離したらそれで終わりなのだ。別れはイコール、御堂の成仏を
意味するのだから。
 眼鏡を掛けた方の佐伯克哉への憎しみは、今の克哉が献身的に仕えることに
よって晴れていった。
 本来、克哉と恋に落ちさえしなければ…御堂を現世に留めている未練はすでに
なくなっている筈なのだ。
 
―私がいる限り、君は…誰とも温もりを共有出来ない…。私のもので
ある限り、私は決して…君が他の誰かと抱き合うことなど許せないからな…

「えぇ、構いません。オレはその覚悟で、貴方に傍にいて欲しいんです…!」

 泣き晴らしながら、それでも克哉ははっきりと言い切っていく。
 愚かだと誰に詰られても良い。自分が馬鹿だという自覚もある。
 一生、自分の願いが果たされることは望めない。
 時に、それで悲しくても切なくなっても、愛しい人とは離れたくない。
 それが克哉の真実だった。 
 その覚悟に充ちた言葉を聞いて…御堂が苦笑したのを感じていった。
 お互いに何度、もう少し早く出会えていればと思った事だろう。
 克哉があの眼鏡に頼らず、自分の足で生きて…御堂と接していたのならば
真っ当な幸せが自分たちにも訪れていたのだろうか。
 過去を振り返って、もしも…と考えても仕方ないことだと判っている。
 それでも自分たちは、こんな状態でも恋をしてしまったのだ。
 ならば…この人が自分の傍にいてくれる限りは克哉から決して
手を放したくなどなかった。

―君には敵わないな。その真っ直ぐな気持ちが…私の心をこんなにも
変えてしまったんだな…

「…すみません、我儘で。けど…オレは、それでも…」

―判っている。君の気持ちは…共に生きている私が誰よりも知っている…

「御堂、さん…」

 そして、唇にキスを落とされていく。
 フワリ、と何かが触れたようなあやふやな感触だけど…それでもこちらに
口づけてくれている事は気配で感じ取っていた。
 そして泣きながら…克哉は告げた。精一杯の想いを。気持ちを…
この人を罪だと知っていても、自分の傍で…この地上に縛りつける一言を。

『貴方を愛しています…。本当なら、貴方を天国に旅立たせるのが…一番
良い方法だって判っていても、俺は一生…傍にいて欲しい。体を伴って
愛し合えなくても…それでも、一緒に…生きたいんです…』

 涙をポロポロと零しながら…覚悟を決めて伝えていく。
 もう…甘ったるい夢や日常で誤魔化せないなら、相手を縛りつけると
判っていても本心を伝えるしかない。

―克哉、君は本当に…バカだな…

「えぇ、自覚はあります…」

 泣きじゃくってクシャクシャの顔で、それでもどうにか笑おうとする。
 見ているだけで胸が詰まるような光景だった。
 御堂はその時、心から思った。
 本当に一度だけで良い。身体を持ってを彼に触れたいと、抱きたいと…
熱い肉を持って繋がりたいと。
 生々しいまでの欲望。けれど…心からの願いだった。

『君に触れたい…』

 御堂はその時、心からそれを願った。
 自分に対して愚かしいまでに一途な想いを向けてくれる存在と
ただ一度でも血の通った身体でもって抱き合えたならば…地獄に
堕ちても構わないとすら思った。

―其処まで望まれるならば…一度だけ貴方の願いを叶えて差し上げましょうか…?

 ふいに、御堂は一人の男の声を聞いた。
 聞き覚えがある声だ、確か…妖しいことや、現実とは思わないような
発言ばかりを繰り返していた謎の多い存在だった。
 何故、こんな時にそんな男の言葉が聞こえるのだろうか…? 

―願いを叶えるだと、どうやって…?

―今宵、一度だけ貴方に肉体を差し上げましょう…。そして身も心も
永遠に捕らえるように…克哉さんを抱いて下さい。地獄の業火に共に
焼き尽くされる日が訪れる日まで…この方を決して離さないようにね…

 それはまるで、悪魔の誘いの言葉のようだった。
 けれど…今の御堂は、それでも構わなかった。
 この男の手を取れば、後でどんな代価を請求されるのか判らない…
そんな得体の知れなさが滲んでいた。
 だが、本当にそれで一時でも肉体が持てるなら。
 克哉をこの腕に抱けるならば…構わないと思った。

―それが本当に出来るというのならば、すぐにやってみせろ…

―えぇ、滑稽なまでに貴方を思い続ける克哉さんに免じて。そして…
狂おしいまでの情熱に焼き焦がれている貴方に敬意を表して。
 ただ一度だけ、貴方達に夢を見せましょう…。その事によって
生じる葛藤や苦しみも、私にとっては極上のスパイスなのです。
 …愚かなまでに純粋で、真っ直ぐなその恋の顛末をどうか…貴方達の
生のある限り、眺めさせて下さいませ。
 …其処まで愚鈍に求めるというのならば、見守るのもそれなりに
楽しめそうですからね・・・

 そう、妖しい男は其れによって克哉が葛藤することを。
 ただの一度でも感じ取れば生ある限り、御堂の元を離れることがないと…
その鎖を与える為に気まぐれに力を貸すことを提案したのだ。
 純粋な好意だけではない、あくまで…見届けるのが楽しそうだと判断して、
その見世物に深みを与える為だけににこう切り出していったのだ。
 それを承知の上で…御堂は頷いていく。

―あぁ、好きにすれば良い…。早く、身体を与えてくれ…

 そう願った瞬間…ゆっくりと御堂の身体は具現し始めた。
 久しぶりに感じる五感が、身体の感覚が…最初は信じられなかった。
 しかしそれがはっきりと実感できるようになると同時に、克哉の顔がみるみる
内に驚愕に見開いていく。

「御堂、さん…嘘、で、しょう…?」
 
「…良いや、現実だ。…今夜だけ、だがな…一度だけでも、こうして…
君と確かに、触れあえるんだ…」

「本当、ですか…? 本当に、貴方と…」

「あぁ、そうだ。君を、身体を伴って…抱けるんだ…」

「あぁ…! 御堂、さん…御堂さん…!」

 それが現実だと、最初は信じられなかった。けれど克哉は…
御堂が身体を持って存在しているのはMr.Rが気まぐれを見せてくれたからと
いうことをすぐに察していった。
 あの男性が絡めば、そんな奇跡や魔法めいたことも実行に移せる筈だから。
 もう一人の自分と実際に顔を合わせたことがあったり、二つの世界を
交差させたり…そんな事が出来る存在なのだ。
 けれど最後に顔を合わせた時、自分はすでに相手に見切られてしまった様子
だったから期待しなかった。
 けれど…この瞬間ほど、あの男性が気まぐれを起こして…こうして御堂に
実体を与えてくれた事を心から感謝していった。

「凄く、嬉しいです…貴方と、こうして抱き合えるなんて…!」

「私、もだ…ずっと、君をこうして…抱き締めたかった…」

 それはいつ覚めるか判らない、束の間の夢。
 けれどこの夜だけで良い。
 身体を伴って、御堂と一度でも熱く抱き合えるならば…その願いが叶えられるならば
どんな代価を支払っても構わないとさえ思えた。
 初めて、想いを交わした状態で深く御堂と口づけていった。
 そのまま背骨が軋みそうなぐらいに激しく、腕の中に掻き抱かれていった。

「凄く、嬉しいです…御堂さん…御堂、さん…」

 克哉はその温もりを感触を、一生覚えておこうと思った。
 いつかまたこの恋に迷った時、この奇跡のような一日をはっきり
思い出しておけるようにする為に。
 愛する人とただ一度でも想いを交わし合い、深く繋がることが出来たなら
その人生は幸運なのだ。
 克哉は、その記憶だけで…これから先も迷いなく生きていける。
 彼の想いは、御堂の魂を、地上に縛りつける罪と繋がっていた。
 御堂の気持ちは、克哉を他の生者と抱き合う事を許さない罪へと
繋がっていた。
 恋をする事自体が、罪へと繋がっているのは事実だった。
 だが…その罪を含めた上で、お互いに納得ずくでその道を選ぶならば…
それは二人にとっては至上の夢へと繋がっていく。
 罪を犯しても共にいたいと願うぐらいに愛し合っているのならば…
全うしてこれから先も生きていけば良い。

―この夜の記憶さえあれば、きっと長い人生も…笑顔で歩んで
いけると…克哉はそう確信していたから…

 そうして克哉は、己の身を御堂に完全に委ねていく。
 そして…一度だけ、肉体を伴って…二人の心と体は深く繋がり合った。
 これが罪だと判っていても、離すことが出来ないならば…
これから先もずっと生きて行こう。

 狂気と正気の狭間のような危うい恋を。
 幾つもの咎の上に成立している自分たちの夢を。
 それでも、誰も愛さずに生きるよりは…例え苦しくて泣きたくても、
壊れそうになっても…誰も愛さないで生を終えるよりかはきっと
豊かな人生を送れると思うから―

―オレを一生、離さないで下さい…御堂さん…

 そして、達する寸前…克哉は心から祈りながら、御堂に告げていく

―あぁ、これからもずっと一緒だ…絶対に、君を離すものか…

 それは呪詛にも等しい、克哉の魂を縛りつける一言。
 けれどそれをやっと聞くことが出来て、克哉はどこまでも妖艶に…
そして美しく微笑んでいく。

―死者の魂すらも、地上に留めるぐらいに美しく…一つの儚い
夢のような花が咲いていく

 其れは咎という土壌の上に咲いた、どこまでも艶やかで…
華やかな幻想(ユメ)
 そして彼らの夢はこれからも続いていく。

 ―お互いに罪を犯し続けて、恋に苦しみ葛藤して生き続ける限り、ずっと―
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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