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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                         10 11  12 13   14 15
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 ―その時の克哉は、精神的にすでに静かに追い詰められていた

 元々、人に深く関わろうとしない性格だった。
 唯一甘えられる、本音を吐き出して寄りかかる事が出来る存在は
恋人である本多ぐらいだった。
 けれど…二年間、克哉は誰にも甘えたりも、愚痴も吐き出す事もせず
自分一人で抱えて、貯め込んでいた。
 それでも同じ職場の人間達や、たまに連絡してくる実家の家族達に
心配を掛けまいと…今までと変わらないように努めて過ごすようにしていた。

―だから水面下で、静かに狂気が育まれてしまっていたのだ

 …本多の病室に、他の人間がいて…恋人に触れたり、キスをしている
人物がいる事実を知った時、克哉の心の中に一気に闇が広がっていった。

『本多…お前はまだ、目覚めないのか…?』

 その声を聞くのは二年ぶりだった。
 其れで認めたくないが…克哉は暗闇の中で本多の傍に立っている人物が
松浦である事を確信していった。
 胸の奥がドクンドクン…と荒く脈動しているのが判る。
 今すぐにでも飛びかかって、殴りつけたい気分だった。 
 むしろ殺してやりたいぐらいだった。

(オレの本多に…松浦が、勝手に…!)

 強烈な独占欲が広がっていく。
 きっと部屋に入って声を掛けたら…自分は松浦を本当に殺しかねないぐらいに
凶暴な感情が溢れてくるようだった。

『…お前が目覚めてくれない限り、俺はあの日の罪を償いようがない…。
お願いだから、早く目覚めてくれ…。お前にちゃんと、謝らせてくれ…。
お前の大事な人間を嫉妬に駆られて殺そうとした…あの日の俺の、
愚か過ぎる罪を…許してくれとは、決して言えないけどな…』

「えっ…?」

 病室は暗かったから、そう告げた松浦の表情を見る事は出来なかった。
 けれどその声音はどこまでも悲痛で、あの日の事を悔いている事だけは
切実に伝わって来た。
 其れで、克哉は一瞬放心仕掛ける。
 自分を殺そうとして、そして本多を二年間も植物人間状態に追い込んだ
元凶であり…憎いだけの存在だった。
 だが、その男の後悔の言葉を聞いて…辛うじて克哉は病室に
飛び込んでいくのを抑えていく。
 とっさに病室から離れて、男子トイレに飛び込んで…自分の腕に爪を
立てて痛みで…凶暴な感情を無理やり抑え込んでいった。

「くっ…うううううっ!」

 克哉は、苦しくてもその感情を無理やり抑え込もうとした。
 けれど胸の中にドロドロドロドロ…と嫌な感情が広がっていく。
 二年という月日の中では知らない内に育まれてしまっていた負の
感情が…堰を切ったように溢れだして、どうしても収まってくれない。

「ふっ…ううううっ…あ、う…!」

 そして感情を抑えるために、克哉は泣き続けた。
 涙が溢れて、止まらなかった。
 この狂気の感情を少しでも鎮めるために…冷却水になってくれる事を
願いながら克哉はともかく己の身体に爪を立てて痛みを与える事で
その衝動をやり過ごそうとした。

(ダメだ…どれだけ憎くても…松浦は本多にとって、大切な友達なんだ…!
だから感情的になって傷つけたり、殺そうとしたり…そういう真似を決して
してはいけないんだ…!)

 自分も同じ感情を抱いた。
 あの日の松浦は、自分の鏡のような存在でもあった。
 けれど彼がその衝動にしたがった末に…本多は、自分を庇って凶刃に
倒れて…二年間目覚めない事態を招いてしまった。
 だから、同じ真似は決してしてはいけないと理性をギリギリの処で
働かせた。
 そして涙が止まる頃…どうにか、松浦に対しての殺意や凶暴な
感情だけは抑制する事に成功した。
 その頃には、どれぐらいの時間が過ぎているのか時間感覚もすでに
判らなくなってしまっていた。
 その頃にふと、克哉は暗い感情に支配されてしまった。

(本多が目覚めるまで…後、どれぐらい待てば良いのかな…?)

 殺意は、押さえこめた。
 代わりに…疲弊しきった心が静かに浮かび上がっていく。

(オレはいつまで…待てば良いのかな…? あの日、オレがあんな罠に簡単に
引っかからなければ…せめて本多からの電話に気づいてさえいれば…
あんな事態にならなかったのに…。松浦だけが悪いんじゃない。あの日の
事はオレにだって非があるんだ…)

 加害者である松浦を理性で、憎む事を止めた反動に…自分自身を
責める気持ちが一気に生まれていく。
 それの侵食速度は信じられないぐらいだった。
 自分を許せなくなり…生きている事すら、許せなくなっていく。

「本多、ゴメン…こんなオレが、恋人のせいで…こんなに長い時間…
昏睡状態にしてしまって、ゴメンな…」

 せめて、本多以外に本音を吐き出せる人間がいれば。
 この感情を誰かに聞いて貰えればせめてここまで克哉は
追い詰められずに済んでいたのかも知れない。
 けれどもう…二年間、耐え続けた心は嫉妬と事故を責める心で
ギリギリの状態を迎えてしまっていた。
 そして克哉はついに…異常な笑い声を挙げてしまっていた。

「あひゃはははひゃ…はひゃひゃあっ…」

 尋常じゃない、笑い方だった。
 その笑いを堪えようとしたが、留まってくれなかった。
 助けて欲しいと、この状況を終わらせたいという気持ちが恐ろしい
勢いで広がって、克哉の理性を飲みこんでいく。

「…オレ、なんて…生きている価値ないんだ…。それに、本多に…オレが
いない間に勝手に触れている奴がいるのも許せない…。それに、本多だって
話す事も身体も動かすことも出来ない状態で生かされ続けているの…
辛いよね…? なら、もう…終わりにしたって、良い、よな…?」

 そして、克哉は一時…己の闇に、狂気に支配される。
 前向きな考えではなく、限りなく後ろ向きで死に向かっていくような
思考回路が…追い詰められた果てに、顔を覗かせていった。
 人間は感情をストレートに出さず、理性で押しとどめる事で…その反動で
間違った考えに支配される事がある。
 松浦を憎いなら、憎めば良かったのだ。
 殺すまでいかなくても、その怒りや憎しみの感情をせめて松浦に向かって
吐き出していれば…もしくは、其れを別の方法で表に出す事さえ
出来ていれば、また結果は違っていただろう。
 だが、もうこの時の克哉は限界だった。

「もう、終わりにしよう…良いよね、本多…。オレ、もう疲れたよ…
全てから、解放されたい…。こんな嫌な感情とも、現実とも…」

 そして克哉は幽鬼のような足取りで、病室に向かっていく。
 その右手には…己のカバンの中に入っていた、本多のお見舞い用の果物を
カットする為に持参してあった…果物ナイフが不気味に輝いていたのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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