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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  御克前提の澤村話。テーマは桜です。
  桜の花が舞い散る中、自分という心が生まれる前のことを
探り始める克哉がメインの話です。後、鬼畜眼鏡Rではあまりに
澤村が不憫だったのでちょっと救済の為に執筆しました。

 桜の回想                      10  
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 ―克哉が目覚めた場所は、MGNからそう遠くない位置にある桜が
満開の中央公園だった。
 どうやら芝生の上に倒れていたようだった。
 柔らかい草の感触を覚えて、どこかくすぐったいものを感じていった。
 夢から覚めてすぐに、御堂の腕の中に包み込まれている事に気づいた。
 長い夢から目覚めて、身体が鉛のように重くて…少し動かすだけでも
億劫だった。
 
「克哉、目が覚めたか…?」
 
「孝典さん…? 本当の、孝典さんですか…?」
 
「…? 君は何を言っている? 本当の私も何も…この世界に私という人間は
一人しか存在しない。判りきった事だろう…」
 
「ぷっ…ははっ…」
 
「む、何がおかしんだ君は…! 君が目覚めない間、どれだけ心配していたと
思っているんだ…!」
 
「はっ、ははは…! すみません、あまりにも貴方らしい物言いだったので、つい…」
 
 そうして克哉は腹の底から笑っていく。
 今度こそ、自分は現実に帰って来れたのだと実感していった。
 
(これはさっきまでの違和感を覚える御堂さんじゃない…。紛れもなくオレが
心から愛した人に間違いない…)
 
 そう確信してきながら克哉は心の底から笑っていった。
 愛しい人の胸元に顔を擦りつけていくと、御堂のフレグランスの匂いが
鼻孔を突いていった。
 嗅ぎ慣れた愛しい人の匂いを感じて、ジワジワと帰って来たんだと強く実感出来た。
 
「まったく君という奴は…。だが、目が覚めてくれて良かった…。そしてすぐに
見つけられた事もな…。私も先程、目が覚めたらここの芝生に倒れていたからな。
そして長い夢を…悪夢を見せられていたからな…」
 
「えっ…」
 
 その呟きに克哉はドクン、と脈動を早くしていった。
 
(もしかして御堂さんも…Mr.Rの手に掛かって、罠にはめられようと
していたのか…?)
 
 そう思い至って、ゾっとなった。
 けれど目の前の御堂の顔を見ている内にジワジワっと嬉しさが
湧き上がって来た。
 現実にこうして戻って来れた事、そして自分も御堂もあの黒衣の男が
仕掛けた罠に陥落する事なくはねのけられた事、それが本当に泣きたい
ぐらいの喜びを克哉に与えていた。
 
「どんな夢だったんですか…?」
 
「…最初は光も何もない真の暗闇の中をさまよっていた。だが怪しい男に
色々言われている内に、隙を突かれてしまったようでな…。気づいたら
何も考えられない状態になって、ただ君を貪るように犯し続けていた…」
 
 ドックン!
 
 それは先程まで見ていた克哉の夢に重なる内容だった。
 なら、あれは御堂の幻ではなく…紛れもなく本物の御堂自身で、きっと心を
操られていた状態だったのだ。
 克哉の直感は正しかったのだ。
 あれは本物の御堂であると。偽物ではなかったのだ…ただ、きっと正気を
失っていただけだったのだ。
 克哉はその瞬間、後一歩で本当に取り返しがつかなかったかも知れない事を
自覚していった。
 あの時…もう一人の自分が正気に戻してくれなかったら、きっと自分たちは
こうして現実に戻って来る事なくMr.Rが作り出した「楽園」という檻の中に
永遠に閉じこめられ続けていたかも知れなかったのだ。
 
(今回ばかりは…本当に、危なかったんだ…)
 
 その事実を思い知って、克哉は安堵の息をついていった。
 けれど今、自分達はこうして無事にあの幻想の世界から戻ってくることが出来た。
 その事実がただ嬉しくて…克哉は無意識の内に恋人の頬に指を伸ばしていた。
 
「…オレも同じ夢を見ていました孝典さん…」
 
「なん、だと…」
 
「…貴方に抱かれている内に何も考えられなくなって、貴方だけで満たされて
…次第に、孝典さんさえいてくれれば何もいらない…そんな心境になりました。
だから…後もう少しで『楽園』で共に生きようという貴方の問いかけに
頷いてしまいそうでした…」
 
「克哉…」
 
 どこか潤んだ瞳で、克哉は相手を見つめていきながら言葉を続けていく。
 御堂の手が、こちらの頬を撫ぜている指先をそっと握り締めていった。
 
「…私も、本来ならばそんな誘惑に負けるべきではなかったのに…あの時は
まともに頭が働かなくなって…負けてしまいそうだった。君があの時…
土壇場で私に訴えかけてくれなかったら…馬鹿げた話と笑われてしまうかも
知れないが、私達はあのまま…戻って来れなかったかもな…」
 
「そう、ですね…」
 
 そうして克哉は自然にそっと目を閉じていった。
 御堂の顔が寄せられてくる気配を感じていく。それを静かに
受け止めていった。
 優しく唇が重ねられて、温もりと想いがじんわりと伝わって来た。
 そして…暫く触れ合わせていきながら、キスが解かれていくと克哉は
しみじみと呟いていった。
 
「…貴方と、こうして戻って来れて…本当に良かった…」
 
「…私も、同じ気持ちだ…」
 
 そうして、お互いに抱き合っていく。
 どこかで楽園に対しての未練というか…名残惜しいという気持ちがあった。
 二人で永遠に生きることが出来たらもしかしたらそれは本当の意味の「楽園」で
あったかも知れない。
 けれど…今、自分達が担っている役割や仕事を、そして関わっている全ての
人達を捨ててまで閉ざされた世界に生きることはどうしても抵抗があった。
 御堂も同じ心境なのだろう…。こちらを抱きしめる腕の強さから、その口に
出さない想いが伝わってくるようだった。
 
「…貴方と抱き合っている時間はとても好きだけれど…。俺にとって、貴方と
過ごす時間の全てが愛しいんです。仕事上の厳しい姿や、日常の中の
寛いでいる顔とか…様々な場面の色んな貴方が、オレは好きですから…」
 
「ククッ…随分と可愛い事を言う。そんな事を聞かされたらここが往来の
公園の敷地内だと判っていても押し倒したくなってしまうな…?」
 
「えっ、ちょっと待って下さい…孝典、さ…むぐっ!」
 
 不意に御堂が雄の表情になってこちらに顔を寄せて来たものだから
克哉の心臓は大きく跳ねていった。
 荒々しく唇を奪われただけで理性が吹っ飛んでしまいそうだった。
 
(ヤバイ…! このままじゃ場所とかそういうのが全てどうでも良くなって…
流されて、受け入れてしまいそうだ…!)
 
 ただでさえ御堂とのキスやセックスは半端じゃなく気持ちが良いのに、
今はMr.Rの仕掛けた罠から無事に逃れられた安堵と、場所のスリルと
いう要素も加わっているから威力が増大してしまっていた。
 克哉は身体を捩って控えめに抵抗していったが、そんなものは
あっという間に御堂の勢いの前では向こうにされてしまいそうだった。
 
「はっ…あっ…や、孝典さん…。ここで、は…」
 
「…夜の公園で愛し合うというのも、スリルがあると思わないか…?
 まだ三月の終わりだから肌寒いとは思うけどな…。何、心配するな。
そんなものすぐに気にならなくなるぐらいに君を熱くしよう…」
 
「あ、だから…ダメ、です…」
 
 不覚にもその御堂の表情と言葉にゾクっとして感じてしまった。
 本気でこのままでは危険だ、と思った瞬間…遠くから救いの声が聞こえていった。
 
「克哉~! どこにいるんだ~!」
 
「かっつやさ~ん! どこにいるんすか~! おっかしいなぁ…俺らに
メールしてここに来るように指示したの克哉さんだから、そろそろ
いたって良い筈なのに…」
 
「まあまあ…僕も遅れて来てしまった訳ですし…。もう少しすれば
必ず現れると思いますよ。佐伯君を信じましょう…」
 
 公園の外れの方から本多、太一、片桐の三人の声が聞こえてくる。
 其処で一気に御堂と克哉は現実に引き戻されていく。
 盛り上がりかけた気持ちが一気に下がっていった。
 
「ど、どうしましょうか…孝典さん…」
 
「…残念だがこうなっては諦める他ないだろう。幾ら私たちが付き合って
いると知っている人間たちでも、まさか君の艶っぽい声やあられもない
姿までは見せる訳にはいかないからな…」
 
「も、もう…そういう事は言わないで下さい…」
 
 ボソボソ、と小声でやりとりを交わしつつ…二人は乱しかけた衣類を
整えていく。
 こうして自分の姿を探している以上、幾らメールを出して彼らをここに
来るように指示を出したのがもう一人の自分だからといって無視する
訳にはいかないだろう。
 そう考えて克哉は名残惜しげに御堂から身体を離して、立ち上がっていった。
 その時、上着のポケットに携帯電話が入っているのに気づいて何となく
着信やメールがその間に来ていないか確認していった。
 
「あっ…」
 
 そして本多や太一の問いかけメールがズラっと並んでいる中に一通だけ、
違うものが紛れ込んでいた。
 
ー『オレ』へ
 
 そのメールの題名はそうつけられていた。
 克哉はそれを見た瞬間、心臓が荒くなっていくのを自覚していった。
 こんな題名をつける存在は、もう一人の自分以外は決してありえない。
 深呼吸をして心を鎮めていってからその内容を開いて確認していくと、
簡潔にこう記されていた。
 
ーお前がどこで目覚めるかは判らないが、お前の仲間を中央公園に
集めておいた。起きたらすぐに顔を出してやれ。
お前と御堂ならあの男の罠などはね飛ばす事を信じてこのメールを
送っておく。じゃあな…。
 
 それは最後の言葉にしてはあまりに素っ気ない文面だった。
 だが、克哉には相手の不器用な優しさが感じられて思わず泣きそうになった。
 克哉は今、自分の中にもう一人の自分が融けているのを感じている。
 それで薄々と判ってしまっていた。
 自分たちは本来あるべき形へと収まったのだと。二つに分かれていた
佐伯克哉の人格は、分裂するトラウマを乗り越えた事で…一つに戻っていったのだ。
 それは恐らく…眼鏡と現実に顔を二度と合わせることが出来なくなるのに繋がっていた。
 いつでも彼は自分の中にいる。けれど、もう言葉を交わしたり対面する
事は出来ないのだと、克哉は直感で悟っていたのだ。
 そしてそれは事実、その通りだったのだ。
 
(お前は…本当に最後まで不器用な奴だったよな…)
 
 克哉は無意識の内に、涙をこぼしていた。
 もう一人の自分の心遣いに感謝しながら、同時に…二度と彼と顔を
合わせる事も、姿を見ることも出来なくなってしまった事に寂寥感を
覚えていきながら…。
 
「克哉、どうしたんだ…? 泣いているのか…?」
 
「いえ、大丈夫…って、孝典さん…?」
 
 振り向いた瞬間、いきなり御堂に強く抱きしめられてしまったので
克哉は面食らっていった。
 しかし相手の腕の中に包み込まれている内に堪えようとしていた
涙が溢れ始めていく。
 涙腺が緩んで、大粒の涙が頬を伝い始めていった。
 
「あっ…は、離して、下さい…」
 
「断る。今、君は泣きたい気分なのだろう…? なら胸ぐらいは貸そう…。
君は私にとって大事な存在だからな…」
 
「ふっ…くっ…あり、がとう…ございます…」
 
 そうして相手の体に軽く凭れ掛かりながら…克哉は素直に
御堂の胸の中で涙を零していった。
 その時、克哉は心からこの人と出会えたことを。そうしてこうして相手の
傍にいられることを感謝していった。
 本来の人格が消えて、仮初の心だった筈の自分がこうして残ることに
なったのは…自分には御堂という存在がいたからだ。
 そしてもう一人の自分が静かに消えることを選択したのも、きっとその事を
配慮してくれたからだろう。
 …長い道筋を経てようやく一つに…本来あるべき姿に心が戻った今だからこそ、
相手の心を理解出来た。
 そして暖かさに、優しさに切なさを覚えて…こんな心を知ってしまってから
相手ともう二度と会えなく事実が悲しくて…やり切れなくて、克哉は泣き続けていった。
 
―もう一回だけでも、会いたいよ…なあ、聞こえているか…『俺』…。お前が
オレに生きることを許してくれたから、オレはこうしてこの人の胸で泣くことが
出来ているんだぞ…?
 
 届くかどうか判らなくても、心の中でそうもう一人の自分に語りかけていく。
 どうか伝わるようにと強く願いながら…克哉はぎゅうと抱きついて、御堂の
身体に縋り付いていった。
 
「克哉…悲しいことでもあったのか…?」
 
「はい…」
 
 御堂にとってはきっと今、克哉がどうして泣いているのか判らないだろう。
 きっと話しても理解されない。
 もう一人の自分などが存在していて、その相手に会えなくなったから
泣いているなど…まともに話したら、おかしい人間扱いされるのは必死だろう。
 しかもこんなに感情が荒れている状態では上手く話せる自信もなかった。
 だから今は克哉は黙って涙を流し続ける。
 
(けど…いつか、孝典さんにもあいつの事を話せる日が来るのかな…。
判ってもらえる日が…理解して貰える時が、訪れるかな…)
 
 今の自分という存在を御堂は丸ごと受け止めてくれている。
 なのにもう一つの心の事まで受容して欲しいと願うのはきっと我侭だ。
 けれど克哉は強く願っていった。
 
―たった一人だけでも良い。例え消えてしまっても…自分以外の人間に、
あいつを受け止めて欲しいと確かに思ったから…
 
 そして涙が収まり、顔を上げた時…再び本多や太一の声がこの付近
から聞こえていった。
 
「克哉~! くそ~マジでどこにいるんだよ~!」
 
「おっかしいな~! そろそろいたっておかしくないのに~! 克哉さ~ん! 
克哉さ~ん! かっつやさ~~ん!!」
 
「佐伯君~! どこにいるんですか~! もし聞こえていたら…返事して下さい~!」
 
 段々、三人の声が大きくなっているのが聞こえて、これ以上は流石に
隠れていたら申し訳ないという気持ちが生じていく。
 御堂とそっと顔を合わせるとごく自然に微笑んでしまっていた。
 
「…そろそろいかないと皆に心配掛けるな…」
 
「えぇ、そうですね…。行きましょうか…孝典さん…」
 
 そうしてようやく二人でそっと目配せをしながら、茂みの中から出て行って
…三人の前に姿を現していった。
 克哉の姿を見せた途端に、彼らは安堵の表情を浮かべてくれていた。
 それを見て克哉は実感していく。
 
―今、自分は…本当に大切にしてくれている人達に囲まれていることを…
 
 その人達の下に帰ってくれたことに感謝して、微笑んでいった。
 そして克哉はごく自然にこう呟いていた。
 
『待たせてしまって御免。けど…オレを探してくれて、待っていてくれて
本当にみんなありがとう…!』
 
 力強くそう言いながら、克哉は皆に感謝の気持ちを口に出して伝えていったのだった―
 
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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