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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                         10 11  12 13   14 15
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―潮騒の音を聞きながら目覚めると、さっきまで確かにしっかりと繋がれて
いた筈の手が、なくなっているのに気づいた

 克哉は目覚めると、何処かの海岸にいた。
 見覚えの全くない場所だった。
 どうして自分がこんな処にいるのか、最初は全く判らなかった。

「ここ、は…一体…? 其れに、オレは…?」

 さっきまで、過去の出来事を回想する形で垣間見ていた。
 そしてその直前までは確かに夢の世界にいた事はぼんやりと
覚えている。

(此処は、もう…現実なのか…?)

 これが夢の続きなのか…それとも現実なのか、克哉にはとっさに
判断がつかなかった。
 周囲を見回していくと、厳かと形容出来るぐらいに力強く輝いている
朝日が目に飛び込んできた。
 眩いばかりの光が、こちらの網膜すら焼きつくしてしまいそうな
錯覚すら覚える。
 不思議なものだ、長い夜が明けて朝を迎えると人は無条件に…
希望のようなものを感じ取ってしまう。
 もう一人の自分の姿が見えなくて不安なのに…その朝日を眺めている
間だけは、何となく克哉は力強いものを感じ取っていった。

「お目覚めですか…克哉さん…?」

「…Mr.R! 此処は一体何処何ですか! それに…『俺』は…!
もう一人の俺は、何処にいるんですか!」

 どれだけ胡散臭くても、見知った顔を見た途端に…克哉は若干
取り乱しながらもう一人の自分の事を尋ねていく。
 しかし黒衣の男は諭すような口調で、残酷なまでの事実を告げていった。

「…もう一人の克哉さんは、暫くは貴方の傍には戻らないでしょう…。
この新しく始める世界では、最初は自分が傍にいない方が…貴方が
早く自分の足で立てるようになるだろうと…そういう判断を下しました」

「えっ…? そんな、まさか…嘘、だろ…?」

 その事実は、克哉を強く打ちのめした。
 夢の終わりに…もう一人の自分の手か、本多とやり直すかという
残酷な決断を迫られて、克哉は彼を選んだ。
 辛くても苦しくても…彼がずっと傍にいてくれるならこれからも
やっていけると思ったから。
 その甘い期待が早くも裏切られてしまって…克哉は途方に暮れた顔を
浮かべていった。

「…そんな顔をなさらないで下さい。これは…あの人なりの、貴方を想って
選んだ事なのですから…」

「嘘だ! 本当に想っているのなら…どうして傍にいてくれないんだ!
夢から覚めたら一人だなんて…そんな残酷な事、どうして出来るんだよ!」

「…ほら、すでにその発言だけで…今の貴方がどれだけあの人に依存しているか。
甘え切ってしまっているか判るでしょう…? 私は植物人間状態になった本多様を
目覚めさせて…貴方に、やり直す為のゆりかごのような世界すら与えました。
それなのに何の痛みもなく現実に戻ってやっていけると…そんな甘い事を
考えていらしたんですか…?」

「っ…!」

 一瞬、Rが酷薄とも形容出来るような冷たい笑みを浮かべた。
 途端に克哉の背筋に冷たいものが伝っていく。
 その瞬間…克哉は思い出した。
 この得体の知れない男性は…時に、克哉は破滅させかねないような
甘い罠を這って待ち構えている事がある事実を。

「…ここは、貴方の為に用意した新しい世界です。この世界に存在していた
佐伯克哉は、とある理由で失踪しております。…ですから色々と住民票や
銀行の通帳の凍結を解除したり面倒な手続きをする必要はありますが…
その辺を片付ければ、貴方にとっては住みやすい世界だと思いますよ。
貴方のアパートはすでにありませんが…荷物は実家の方に引き取られて
いますから必要なものは取りにいけば良いですし。暫くは其処を生活の
拠点にすれば再起の道は歩いていけるでしょう…」

「この世界のオレが…失踪している? どうして…?」

「…そんな瑣末な事はどうでも宜しいでしょう…? 此処は、本多様と二度と
会えなくても新しい一歩を踏み出す決意をした貴方の為に用意した世界。
この世界に、本多様は存在しますが…其れは、貴方の恋人であった本多様ではなく…
あくまで親友という立場を貫かれて、恋人関係になるに至らなかった…
そういう間柄です。…簡単に言えば、此処は貴方が目覚める前までいた世界とは
同一であり…微妙に異なる世界。SF的な単語で言えばパラレルワールドと
言われるものですよ。時間軸も、人間関係も微妙な誤差があります。
…ですが、貴方が知っている人間はほぼ同じように存在しています。
ただ、姿を消す前の佐伯克哉さんは…ここでは誰とも絆を結ぶ事が
出来なかった。それだけの話です…」

「………」

 充分、荒唐無稽としか言いようのない事実をベラベラしゃべられて
克哉は話についていく事が出来なかった。
 他の人間に話されたのなら、到底信じる事など出来ない内容だ。
 だがこの男性が絡む以上は…決して不可能な事ではないと、すぐに
思い直す事にした。
 ついさっきまで自分がいた世界そのものだって…現実的に考えれば
有り得ない筈の場所だったのだから。
 Rが絡む事は、現実から離れた事が怒っても何の不思議ではない。
 深く溜息を吐きながらその歴然とした事実をどうにか受け入れて…
克哉は言葉を紡いでいった。

「…状況は、大体判りました。けど…どうして『俺』はいないんですか…?」

「貴方は暫く、実家を拠点にしてやっていかないといけない状況です。
ここで貴方達二人が生きていけるだけの十分なお金と、住居を用意するのは
そんなに難しい事ではありませんが…あの人は、貴方が自分の足で暫く
生きていかれる事を…精神的に、自立する事を望まれましたから…。
もう一人の貴方からの伝言です。『お前がこの世界で、自分と一緒に暮らせる
だけの基盤を築いたら必ず迎えに行く。それまで浮気せずに待っていろ』と
言う事です…」

「そ、んな…けど、それは…あいつらしい、話だな…」

「ええ、そうですね。いつまでも甘やかしていたら…人間は前に
進めませんからね…」

 克哉は、潮騒の音を聞きながら…もう一人の自分からの伝言を
聞いて静かに考え始めた。
 確かに、今の自分は…彼に依存しきっている。
 最初、彼の姿が見えなかっただけで取り乱してしまったぐらいだ。
 正直…本多と決別して、その直後にもう一人の自分が傍にいてくれない事に
強烈な不安を覚えている。
 けれど、必ず迎えに行くという言葉に…辛うじて希望を持っていった。

(オレが…一人で、ちゃんとやっていけるようになったら…また、
一緒にいられるようになるんだよな…。信じても、良いんだよな…?)

 ギュっと拳を握りしめていきながら、克哉は覚悟を決めていく。
 弱り切った時、誰かが傍にいて支えて貰う事は…人は誰だって弱くなる時期が
あるのだから必要な事だ。
 けれどいつまでもその人物に甘えてしまっては、自分の足で立つ事が
出来なくなる。
 何となく其れを憂いて…もう一人の自分は、一旦離れる事を選択したような
気がした。

「…オレが、この世界でちゃんと生きていければ…必ず、会えるんですよね…」

「ええ、それは保証致します」

「なら…オレは、やります。…絶対に、あいつと一緒に生きていきたいから…!」

 そして、克哉はやっと…自分の足で立つ覚悟を固めていった。

「…良い顔をなさっていますね…。なら、そんな貴方の為に…一つ、お見せしたい
光景があります…」

「えっ…?」

 そして、砂浜を踏みしめて…Mr.Rがこちらに歩み寄ってくる。
 瞬間、黒い革手袋で覆われた手が…克哉の額にそっと伸ばされていくと
同時に意識が遠くなった。

―これは、本多様が目覚めたばかりの頃の場面です…。もう、貴方が決して
見る事も確認することも出来ない遠い世界での出来ごとですが…最後に、
これを貴方に見せてさしあげましょう…

 そう、夢うつつに聞いていきながら…克哉は、もう決して見られない筈だった
本多が目覚める場面を…見る事となったのだった。
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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