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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。
 今回でこの話も完結です。
 四ヶ月間、お付き合いして下さった方々ありがとうございました(ペコリ)

 恋人の条件                        10 
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―恋人の条件とは、果たして何だろう。
 それは一人の相手を誠実に想い、その信頼に応えることなのではないだろうか
 唯一の人と向き合い…その人と未来を歩いていく為に必要な事
 其れは恋愛感情の他にきっと…信頼もまた、大切なものなのだから…

 克哉は無事にキクチ・マーケティングを退社していくと…その日は真っすぐに
自宅に直行していった
 マンションに辿りつけば自然と心が高揚し、早く中に入りたい気持ちが
溢れてくるようだった。
 そして玄関の扉を開ければ、其処に立っていたのは今では克哉の恋人に
なったもう一人の自分が待ち構えていてくれた。

「…ただいま、俺! 言われた通り、ちゃんと今日でキクチ・マーケティングを
退社してきたよ!」

「ああ、お疲れ様。それなら…明日からは俺が働きに出る。…これからは
お前が家に入る訳だが、宜しく頼むぞ…」

「うん…判っている。お前がちゃんと…仕事に専念出来るように、家の事は
オレが引き受けるからな…明日から、頑張ってな…」

「当然だ。お前を養わないといけない訳だからな…。一家の大黒柱になる為に
精一杯働いてくるさ。すぐにこんなボロいマンションから引っ越して…もっと
広い家に越す事が出来るぐらい稼いでな…」

「…オレはこのマンションでも二人で生きていくなら充分だと思っているけどね。
けど…楽しみにしているから…」

 そうしてもう一人の自分の腕の中に飛び込んでいけば、二人はごく自然に
お互いの唇を啄むように口づけていた。
 一緒に暮らすようになって、そろそろ一カ月近くが経過したおかげか…
二人は以前よりもごく自然に共にいられるように変わっていた。
 そして克哉は…相手の肩に顔を埋めていきながらその体温と鼓動を
しっかりと感じ取っていく。
 こうして…共にずっといられるようになるなんて、考えた事がなかった。
 眩暈がするぐらい…それは幸せで、克哉の心を満たしてくれている。

(…まさか、こんな風に…『俺』と一緒にずっといられる日が来るなんて…
想像する事、出来なかったよな…)

 克哉は、一か月前の例の三日間の事を思い出していく。
 御堂の事を諦めてでも、もう一人の自分を選んだその翌日…もう一人の
自分が熟睡して眠っている最中、Mr.Rは彼らが泊っていたホテルの一室に
突然現れると…克哉に向かって、恭しくこう告げていった。

―私の出した課題は…ギリギリですが克哉さん、貴方は合格致しました…。
その事に免じて、一つだけ貴方が幸福になる為に必要な事をして差し上げましょう…

 そういって、Rは…もう一人の自分がずっと現実にいられるように
してくれたのだ。
 そして彼は、明かしたのだ。
 その三日間自体が…克哉に課した試練であり、眼鏡を掛けた方の佐伯克哉が
ずっと存在する為に必要な儀式であった事を。
 例の薬は、多くの人間に好意を示されて迫られても…貞節を守ったり、断ってでも
眼鏡に誠実を貫けるか…克哉の気持ちを計る為に行われた事だったのだ。
 正直、その事実を打ち明けられた時には怒りすら覚えた。
 …けれど一通り説明した後で、黒衣の男は悠然と微笑みながらこう告げたのだ

―貴方がお怒りになるのはごもっともだと思います。しかし…常にあの方を
現実に存在させるには私にもかなりの負担が掛かる事なのです。ですから…
貴方のあの人への想いがしっかりと確かなものであるか…せめて確認をしてからで
なければ、私としてもそれだけの代価を支払う訳にはいきませんからね…。
それでも貴方はこの辛い…こちらが用意した試練を越えたのです。それに
敬意を表して…貴方と、もう一人の克哉さんがずっと一緒にいられるように
しておきましょう…。その気持ちが、通い合っている間は…ね…

 そうして、その翌日から…もう一人の自分と一緒にいられるようになった。
 この一カ月は眼鏡の方は極力人目に触れないように、主に自宅で株の
取引をインターネットを通じて行う事で稼いでいたようだった。
 その稼いだお金でバンバン、高価な調度品やブランドスーツを購入するのは
困ったものだが…あくまで其れはもう一人の自分が稼いだお金の範囲で
やっているので克哉も文句はあまり言えなかったのだが。

(…けれど、その試練を超えたからこそ…今、オレはこうしてこいつと
一緒にいられるようになった…。本当にMr.Rには振りまわされたけど…
確かに、最大の幸福を運んで来てくれたのもまた確かなんだからな…)

 そうして克哉はギュっともう一人の自分を強く抱きしめていった。
 するとすぐに相手もまた同じ強さで抱きしめ返してくれている。
 たったそれだけの事でジイン、と全身が痺れて甘い感情が心の中に
湧き上がってくるのを感じていった。

「…凄く、今…幸せだな…オレ…。お前とこうして一緒にいられる事が出来て…」

「そうか。だがこれしきの幸せで満足して貰っては困るな。俺はもっと…
お前と一緒に幸福になる予定なのだからな…」

「ふふ、凄く欲張りだねお前は…。けど、オレもお前と一緒にずっと幸福な
気持ちを味わいたい…。明日からお前の方が新しい会社で働く事に
なる訳だけど…浮気、しないでくれな…」

「ああ、約束しよう。代わりにお前も…貞節を守るように勤めよ?」

「うん、判っているよ…。もう、他の人間に抱かれたりしない…。オレだって…
お前を失いたくなんて、ないから…」

 其れは紛れもない克哉の本心。
 こちらに想いを寄せてくれた相手に、断りを入れるのは克哉にとって
とても辛い事だった。
 胸が引き裂かれそうな気分すら、あの時は何度も味わう事になった。
 けれどそれと引き換えにしても…もう一人の自分への強い気持ちを示したからこそ
今、こうして奇跡が起こってくれたのだ。

「…お前が俺の傍にいてくれるなら、もう他の人間はいらない…。それは
恋愛対象ではって意味だけど…それがオレの本心だから…」

「そうか…其れは、俺も同じだ。だから…二度と、あんな苦い気持ちを
俺に味あわせないでくれよ…」

「うん、約束…するよ…」

 そうしてギュっと再び抱きあっていく。
 相手の鼓動が、体温が…克哉の心をポカポカと暖かくしてくれている。
 其れは…克哉が何を犠牲にしてでも欲しいと望んだからこそ得られた…
何よりの宝でもあった。
 もう一人の自分の頬にそっと触れて唇を寄せていく。
 何度触れ合っても、未だにドキドキするし…こんなにも甘い想いが胸の中に
湧き上がっていった。
 お互いの眼差しがぶつかりあい、そしてごく自然に微笑み合っていく。
 
「…けど、俺…どうか忘れないでくれな…。確かに豪華なマンションに住める
ようになったり、高価な良い品を手に入れられるのも嬉しいけれど…オレが
何よりも一番望んでいるのは…お前と一緒に過ごす事なんだからな…」

「…ああ、判っている。ちゃんと週末はお前と長く一緒にいられるように
配慮しながら目いっぱい働く事にするさ…」

「うん、待っているから…。だから明日から、頑張ってな…俺…」

「ああ、お前もな。俺の帰りを暖かく待ちながら家庭を守ってくれな…奥さん…」

「う、うん…」

 結局、こうして一緒にいられるようになっても現実的な問題として…
佐伯克哉はどちらか一人しか、社会に出て働く事は出来ない。
 だから二人は一緒にいられるようになった日の翌日には今後どうして
いくか考えていった。
 そしてどっちも、俺とかオレで相手を呼びあうのも恋人同士になったのだから
どうだと言う結論になったので…眼鏡を掛けた方が現実で生きて、佐伯克哉を
名乗る事にして…克哉の方が、彼の妻のポジションというか…明日からは
『奥さん』と呼ばれて、生きる事に決めたのだ…。

「な、何かお前にそう言われると…恥ずかしい。それにオレの事をそう
呼ぶのは明日からだって言ったじゃんか…」

「いや、もう会社を辞めた以上…もう、俺が明日からは佐伯克哉として
生きる事が決まっている訳だからな。だからもう…すでにお前は俺の奥さんだ。
という訳でしっかりと…家を守るんだぞ…」

「もう…お前ってば。うん、判っているよ…。お前が全力で働いても…ちゃんと
家でくつろげるように、頑張って家を守る事にするから…」

「ああ、それで良い…」

 そうして眼鏡の顔がそっと寄せられていく。
 くすぐったい想いをしていきながら…克哉もまた、其れに習っていった。
 もう一人の自分の手に指を絡ませるようにしてギュっと手を握っていきながら…
静かに瞼を伏せていくと、まるで何かの誓いであるかのように…真摯な想いを
込めて二人はキスを交わしていった。

―本来なら結ばれる筈のなかった二人は、克哉が試練を乗り越えて…
恋人の条件を満たした事で、幸福を得る事が出来たのだ…

 これからもずっとこの手を繋いで歩んでいけるように。
 そう切実な願いを込めていきながら…二人は、暫くの間…相手の手を
強く強く握りしめて、祈りを込めていきながら唇を重ね続けていったのだった―
 


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 ※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

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―多くの人間がMr.Rの手で踊らされて…翻弄され、そして…様々な
想いが交錯した三日間は幕を閉じ、そして克哉には以前の日常と…
そして一つ、大きな転機を迎えながら一カ月はあっという間に過ぎていった。
 克哉は頭を下げながら、権藤部長の部屋から出て来て…深い溜息を
吐いていった。

「…ふう、やっぱり…少し緊張したな…。けど、やっと区切りをつける
事が出来たな…」

 克哉は、あの日々が終わってからすぐに辞表を提出した。
 そして明日にはキクチ・マーケティングを後にする事になる。
 その為に自分の身辺整理をしていき…今日は、各部署の今までお世話に
なった人達に挨拶に回っていた。
 克哉の担当していた仕事は一通り後任の人に、無事に引き継ぎ終わっている。

「…今日いっぱいで…ここともお別れか…」

 そう思うと凄く感慨深くなって、同時に寂しさのようなものを感じていった。
 特に本多と片桐など…八課の人々は克哉が退社するのを実に惜しんでくれて、
後ろ髪を引かれる想いがあったけれど。
 皆ともう少し一緒に過ごしたいという未練がジワリと広がっていくが…それを
頭を振って打ち消していく。

(…みんなと一緒に仕事が出来なくなるのは少し寂しいけれど…これはオレ自身が
選んだ道なんだ…。振り切って前に進まないとな…)

 そうして、今日…さっき本多や片桐が言ってくれた言葉を鮮明に思い出していく。

『克哉! お前が会社を辞めたって…いつまでもお前は俺の大事な親友だからな!』

『佐伯君…今まで本当にお疲れ様でした。君がいて頑張ってくれたから八課は
大きく変わる事が出来たし…社内のお荷物部署ではなくなったのですから。
本当にいっぱい働いてくれてありがとうございました』

 その二人の言葉を思い出して、胸が熱くなるのを感じて…瞳が潤みそうに
なっていった。
 本多や澤村もまた…Rの手によってあの三日間の記憶と…そして克哉への
恋愛感情を処理されていた。
 だから表向きは本多との関係は元に戻ったし…澤村という人も、あれから接点を
持つ事は再びなかった。
 本多や太一との友情を、例の薬に踊らされて損なわずに済んだ事を改めて
噛みしめていきながら廊下を歩いていくと…ふと、窓の外に広がる光景が
輝いているように見えて…克哉は足を止めていった。
 今朝は少しの間だけ軽く雨が降った。
 そのせいで柔らかい冬の日差しを浴びて…少しだけ輝いて見えた。

「…もう、この会社から見える風景を見る機会もなくなってしまうんだな…。
そう考えると少しさびしいな…」

 そうして少しだけ切ない表情を浮かべていくと…唐突に背後から声を
掛けられていった。

「…佐伯君か? 久しぶりだな…」

「えっ…! まさか、御堂さん?」

 克哉は予想もしていなかった人物の声を聞いて大慌てで振りかえっていく。
 其処には紛れもなく御堂孝典その人が立っていて…克哉は言葉を失っていった。
 久しぶりに相手の顔を見て、胸の奥が軽く疼くように痛み始めていった。

(あれから一カ月…御堂さんと顔を合わせる事はなかったけど…元気そうだ。
本当に…良かった…)

 なら、Mr.Rはこちらとの約束の通り…御堂からあの三日間の出来事を
消し去ってくれたのだろう。
 その事に対して若干の安堵と、一抹の寂寥感を覚えていきながら…克哉は
御堂と向き合っていった。

「ああ、そうだ。私がこちらの会社まで出向くのは相当に久しぶりの事だがな…。
先日、八課にまた新商品の営業を担当して貰おうと片桐部長に連絡を取ったら…
今日付けで君が退社すると聞いていたからな。プロトファイバーの営業を
担当してもらった時には君に大いに助けて貰ったからな…。一言、挨拶ぐらい
させて貰おうと今日…立ち寄らせて貰った。少し時間を貰えるだろうか?」

「えぇ…大丈夫です。もうすでにオレの担当していた仕事は後任の人に
引き継ぎ終わって…今日は今までお世話になった人達に挨拶に
回っている処ですから。御堂さんにも以前は大変お世話になった訳ですしね。
全然大丈夫ですよ」

 そうしてにこやかに微笑みながら克哉はそう告げていった。
 久しぶりに見た御堂の瞳からは…かつて宿っていたこちらに対しての強烈な
欲望や恋慕の色は見られなかった。
 ごく普通のかつての親会社での上役と、下会社の部下として応対していた。

(…本当にあの人は、御堂さんのあの三日間の記憶を消してくれたんだな…。
少しさびしいけれど…良かった…)

 御堂の顔を見ているだけで、チクリと良心と…以前に抱いた恋心の
芽が疼いているのが判った。
 けれど克哉は其れを表情に出さないように細心の注意を払いながら…
御堂とやりとりを続けていく。

「…わざわざオレの為に、御堂さん自身が赴いて下さるなんて…。
本当にありがとうございます…。お気持ち、凄く嬉しいです…」

「いや、プロトファイバーがあれだけ大成功を収めたのは…営業八課、及び…
君や本多君がどれだけ努力をして成果を出してくれたか…私は良く知って
いるからな…。君のような優秀な人材が辞めてしまうのは大変に惜しいが…
どうしてもやりたい事があるのだろう? それなら…快く見送りたいと
そう思ったのでな…」

「…はい、そうです。決めた事がありますから…その為に、皆と別れるのは
寂しいですが…決断させて貰った訳です。御堂さんとも今後、仕事上で縁を
持てなくなるのは寂しいですが…これからもどうかお元気で。
新たな新商品の方も成功を収められる事を心から祈っていますね」

「ああ…ありがとう。君にそう言って貰えると…凄く心強く感じるな…」

 そういって御堂が優しく微笑んでくれると、つい…引き寄せられるように
数歩、間合いを詰めてしまった。
 けれどすぐに正気になって…慌てて下がっていく。
 その時、御堂の瞳が怪訝そうに一瞬揺れたが…今の行動など、何も
なかったかのように平静な様子でこう告げていく。

「…さて、あまり長く引きとめてしまってもすまないな。私の方もこれから
片桐部長らと新商品の件について打ち合わせをしなければならないしな…。
今日、君に会えて良かった。では失礼させて貰おう…」

「あ、はい…オレも貴方に会えて本当に良かったです…。御堂さん、
どうかお幸せに…心から、そう祈らせて貰います…」

「…ああ、判った。必ず幸せになろう。だから…君、もな…」

 その言葉は、もしかしたら不審に思われるかもと思ったが克哉の本心からの
言葉だった。それを聞いて御堂も少しだけ間を空けてから頷いていく。
 一瞬だけ、御堂の瞳に炎が宿った気がした。
 だがお互いにそれを振り切るように…相手に背を向けて、少しずつ
遠ざかっていく。
 完全に御堂の足跡が遠くなったのを感じると…克哉は堰を切ったように
瞳から涙を零し始めていった。

「ふっ…ううっ…」

 御堂との出来ごとが、走馬灯のように脳裏に浮かんで駆け廻っていく。
 たった三日間だけの、短い恋だった。
 それだけでもこんなにも胸が痛くなるのを感じていった。

(けど…これで良いんだ…。これが、オレの選んだ道なのだから…。
引きとめてしまうよりも…離れてでも、あの人が幸せである事を祈る…。
オレには、あいつがいるんだから…これが正しい道なんだから…!)

 そうして、ポロポロと涙を零していきながら…克哉は祈った。
 御堂がどうかこれから先…心から幸せになってくれるようにと。
 それはかつて短い期間とはいえ恋した人に捧げる、克哉の真摯な
願いでもあった。

―どうかお幸せに…御堂さん…

 そうして、心の中で愛しげに御堂の顔を思い浮かべて…ほんの僅かな
時間でももう一度だけ顔を合わす事が出来て、その言葉を直接
伝える機会が持てた事を…克哉は心より感謝していったのだった―
※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

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 二人の唇は深く深く重なり続けていた。
 今までにだって何度も抱きあい、数えきれないぐらいの口づけを
交わして来た。
 けれど今…こうして貪り合うようにキスしているだけでイキそうなぐらいの
快楽を二人は覚えていた。
 いつまでも続けていたいと願う気持ちと、それだけでは最早収まりきらないと
いう欲望がせめぎ合って、双方を突き動かしていく。

「はっ…どうし、よう…。こうしているだけで、イキそうなぐらいに…気持ち良い…」

「…俺もだ。何でいつもよりも、こんな…凶暴な気分になるんだ…」

「…へえ、凶暴になっているんだ俺…。それなら、今日は獣のようにオレを
抱いてくれるのかな…?」

 克哉は面白そうに瞳を細めていきながら…もう一人の自分をそっと
見つめて、強く抱きついていった。
 間もなく眼鏡の手が、克哉の衣類の全てを脱がしに掛かっていき…克哉も
また相手が服を脱ぐのをさりげなく手伝っていった。
 そうして…二人は生まれたままの姿になり、二本の若木が絡まり
あうように…四肢を絡ませあっていった。
 胸の突起を執拗に攻め立てられるだけで全身に電流が走り抜けて
いくかのようだった。

「…はっ…何か、今日…いつもよりも、敏感に…んんっ…なっている気がする…。
胸を触れられているだけで、オレ…」

 眼鏡の手が少し乱暴に克哉の小さな胸の尖りを攻め立てていく。
 たったそれだけの刺激でもいつもの数倍は感じてしまっていた。

(…どうして、こんなに…気持ち良いんだろう…。やっぱり、さっき…こいつに
お前の恋人になりたいって…そう言ったのを認めて貰ったから、かな…?)

 人の快楽は、精神的なものに大きく作用される。
 感じる部位を機械的に弄り上げるだけでも…達する事は出来るし、それなりの
快感を得る事も可能だが…気持ちが通い合った相手と抱き合った時に
得られるものとは比べ物にならないのだ。
 克哉は、恋人になりたいと願い…眼鏡はそれを聞いた上で…彼を抱く行動に
移って訳だ。
 それは…言葉の上では、はっきりと好きとか愛しているとか、もしくは
付き合おうと言った訳ではないが…何よりも雄弁に、克哉の想いを
受け止めているのと同じ意味があった。
 だから…二人は、今までのセックスとは明らかに異なる部分を感じて
いながらも…性急にお互いを求めあっていく。
 
「…どうせなら、俺が胸を弄っている間…自分のモノでも弄っていろ…。
その方が、早く身体が熱くなって堪らなくなるだろう…?」

「えっ…や、そんなの…恥ずかしい、よ…やだ…」

「…今更何をカマトトぶっているんだ…? 処女でもない癖にその程度の
事を恥ずかしがるものでもないだろう…? 早く俺に抱かれたいんだろう…?
お前がそんな扇情的な姿を見せてくれれば、俺はもっと興奮するだろうしな…」

「うっ…くっ…わ、判った…」

 耳まで真っ赤に染めていきながら、甘美な誘惑に克哉は抗いきれなくなり…
躊躇いがちながら、すっかり硬く張りつめた自分のペニスに手を伸ばしていく。
 たったそれだけの事で憤死しそうになるぐらいに恥ずかしくて堪らなくなる。
 けれどその後に控えている強烈な快感に対しての期待が…克哉を
突き動かしていった。

「んっ…はっ…や、見ないでぇ…!」

「何を今さら…俺に見られた方がもっと興奮する癖に…」

「はっ…やっ、言わないで…んんっ!」

 克哉は必死に腰を捩らせていきながら、訴えかけていった。
 もう一人の自分の眼差しが執拗にこちらに注がれて、それだけでも
正気を失ってしまいそうなぐらいに心身ともに昂ぶっていった。
 自らの手で弄っているペニスはドクドクと荒く脈動を繰り返し、タラタラと
先端部分から熱い蜜を滴らせ始めていた。
 身体は断続的に震えて、頬は赤く紅潮し…そして奥まった処に存在
している蕾は浅ましくヒクヒクと震え続けていた。

「お前のいやらしい口がヒクヒクと淫らに震えているぞ…。もう俺が欲しくて
堪らないって強く訴えているみたいだ…。ここに、熱いのをブチ込んで
欲しいんだろう…」

「…うう、そ、そうだよ…! 早くお前が、欲しいんだ…! だからもう…
これ以上、焦らさないでくれよ! オレを、早く抱いてくれよ…!」

 克哉はついに堪え切れなくなって、大声で訴えかけていきながらもう一人の
自分に強く抱きついていく。
 そして唇をグイグイと押しつけて、早く欲しいという意思を明確に伝えていった。
 
「…判った、お前に俺をくれてやるよ…全部な…」

「えっ…それは、どういう…あああっ!」

 挿入を潤滑にする為に、枕元に置かれたローションを猛りきったペニスに
手早く塗りつけていけば…満足に慣らしもせずに、グイっと腰を沈められて…
犯されていった。
 その衝撃に克哉の身体は大きく跳ねて、それだけで全身の神経が焼き切れて
しまいそうなぐらい感じてしまっていた。

「もう、余計なおしゃべりは良い…今は俺を感じる事だけに…集中、しろ…」

「ふっ…あっ、わ、判った…。たっぷりと、お前を…オレに、頂戴…」

「…全く、そんな煽り文句を何処で覚えて来たんだ…? この淫乱め…」

 そうして愉快そうに笑いながら互いに正面から相手と抱き合っていく正常位の
スタイルで身体を重ねていった。
 克哉の感じる部位を的確に擦り上げて、抽送を繰り返されていく。
 
「はっ…イイ…凄く、気持ち良いよぉ…俺…! ん、はっ…!」

 相手の激しい律動に合わせて、克哉も合わせるように必死に腰をくねらせて
快楽を追い求めていった。
 パンパンとお互いの腰を打ちつけ合う音が、部屋中に響き渡っていった。
 その最中、克哉は…思ってもみなかったものを見る事になった。

「あっ…」

 思わず、驚きの声が漏れていく。
 こちらを見つめる…眼鏡の眼差しが今まで見た事がないぐらいに甘くて、
優しいものだったから。
 いつも冷たい色合いを讃えている相手のアイスブルーの双眸が…今はまるで
海のように深く柔らかい輝くを放っているのに気づいて…それだけでジワリ、と
胸が熱くなるのを感じていった。

(今…オレ、こいつに愛されているんだ…。言葉に、そんなに出してくれない
けれど…はっきりと好きとか、愛しているとか言ってくれている訳じゃないけど…
愛してくれているんだって、この目を見れば…判る。伝わってくる…)

 人の行動に、態度や仕草の中に本心は常に表に現れる。
 今までの克哉は…常にもう一人の自分の前では平静ではいられなくて
そのシグナルをちゃんと読み取れていなかった。
 けれど…今なら、想いを受け入れてくれた今なら充分に判る。

(オレは…こいつに、愛されていたんだ…。言ってくれなくても、何でも…
こんな目を向けてくれているのなら、それは間違いないんだ…。はは、
凄くバカみたいだな…。こいつも、同じ気持ちでいてくれたんだ…。
それをずっと、オレが気付かなかっただけなんだな…)

 言葉に出して伝えてくれない不器用な克哉の恋人。
 やっと結ばれた、想いが通い合っていった。
 嬉しくて嬉しくて、それだけでもう死んでも良いと思えるぐらいの幸福感を
克哉は覚えていった。
 そして…強い快楽を覚えて、ほぼ同時に二人とも頂点に達していった。
 その時、克哉はギュウっと強く相手の身体を抱きしめていった。

『大好きだよ、俺…』

 と、相手の耳元で囁いていき…あまりに強すぎる快感の為に、一度抱かれた
だけで…克哉は意識を手放し、まどろみの中に落ちていったのだった―


※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

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 克哉の瞳は涙で潤み、唇は直前の御堂との口づけで濡れていた。
 けれど…両手の拳をギュッと握りしめてもう一人の自分と向き合っていった。
 いつだって…彼は怖かった。
 眼鏡を掛けた自分といつ会えなくなってしまうのか、嫌われて
しまうかをおびえ続けていたと言っても過言ではなかった。
 けれど…御堂と太一を傷つける結果になると判っても、断りを入れた事で
ようやく腹が決まったようだった。

「…全く、お前はバカだな…。自分から寂しくなるような道を選んで…。
俺と安定して会えるのもう…今日を含めても、残り八日しか存在しない。
それが過ぎたら…またいつ現れるのか判らない日々が続くんだぞ。
…本当にそれでも構わないのか?」

「うん…構わない。だって自分で選んだ道なんだから…。それよりも
胸を張って言いたい事があるから…」

「…胸を張って言いたい事…? 何だ、言ってみろ…」

「うん、オレ…お前の恋人なんだって、胸を張って言いたいから…。オレ以外を
見ないで欲しい、抱かないで欲しいって主張するなら…そうするのが筋だって
思ったから。こんな気持ち…お前にとってはうざいだけかも知れないけどさ…。
それがまぎれもないオレの本心な訳だから…」

 本当は御堂に対しても、太一に対しても若干の未練めいた感情が
多少はあった。
 元々太一は親しい友人だったし、御堂には憧れにも似た気持ちを
潜在的に抱いていたから。
 克哉の方だって彼らを憎からず思う気持ちや、想われる事に対しての
優越感や喜びみたいなものを覚えていた。
 けれど…それ以上に、克哉が今欲しいものは…もう一人の自分の
気持ちであり、独占したいという欲だったのだ。

「…オレはお前が好きだ。だから…誰にも渡したくないし…お前に誰にも
見てほしくなんてないんだ…。ただ身体を重ねて時々会うだけの間柄じゃなくて、
お前を長く待つ事になっても良い…。その間寂しい思いをする事になったと
しても…オレはお前のものなんだと、恋人なんだと胸を張って言えるように
なりたかったんだ…!」

「…お前が、俺の意思に逆らってまで…そこまで強く主張をするなんて…
初めての事だな…。俺は御堂を引きとめて、俺と会えない間にお前が少しでも
寂しくないようにしてやるつもりだったんだがな…」

「うん、そうすればきっとオレはお前を待っている間、確かに寂しくなかったし…
御堂さんの腕に甘えていられたと思う。けれど…それに甘えてしまったら、
オレは…お前の恋人になりたいって、そのささやかな主張すら出来なくなって
しまうからね…」

 克哉はどこか達観した眼差しを浮かべていきながらそう呟いていった。
 少しずつ瞳から潤みと…怯えたような色合いが消えていった。
 こんな風にまっすぐ、もう一人の自分に向き合うことなんて初めての事だった。

「…何ていうか、たった数日の間に…お前の方は妙にたくましいというか
ふてぶてしくなったみたいだな…。数日前まで小動物のようにフルフルと
震えていたのが嘘みたいだ…」

「えっ、何だよその形容詞…! オレってそんなに怯えていたように見えていたのかよ…。
全く、お前が思っているよりもオレはずっと強いし、諦めも悪いししぶといんだよ…!
それぐらい、いい加減に判ってくれよ…!」

 そうして克哉はグっと間合いを詰めていきながら…もう一人の自分に噛みつくように
口づけていった。
 荒々しく唇が重なり合い強い力で抱きついていった。
 もう相手を離さないと、しっかりと全身で意思表示をしていくように…。
 互いの舌を深く絡ませ合う激しいキスをしばらく交わし合い…それから、
克哉は真摯な思いを込めていきながらこう告げていった。

「オレを…抱いてくれ…。オレはお前のものだって…そう実感出来るように。
お前もまた…こっちと同じ気持ちを抱いてくれているのなら…そうしてくれ…」

「…判った…」

 克哉の言葉と態度に、眼鏡もまた腹を括っていった。
 そして迷いない動作で改めて克哉の身体を再びベッドシーツの上に組み敷いて
いけば…二人の身体は折り重なり、キングサイズのベッドは大きく軋み
始めていったのだった―

現在連載中のお話のログ

 ※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

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 Mr.Rの腕の中で御堂孝典は目覚めていく。
 克哉の発言は、夢うつつにぼんやりと聞いていた。
 それを認めたくない気持ちと、何とも言えない虚しさと切なさを
御堂は覚えていた。
 頭の芯はぼうっとして…身体の自由が殆ど効かない中、それでも
少しでも伝えたくて…抗いたくて、言葉を絞りだしていった。

「…今の話は、本当なのか…。それが、君の本心…なのか…?」

「…はい、そうです。オレはそういう身勝手な奴なんですよ…御堂さん…」

「そ、んな…」

 決して認めたくない事を儚い笑顔を浮かべながら肯定されてしまって
御堂は言葉を失っていく。
 けれどそんな彼に対して…克哉は慈しみすら感じられる表情を浮かべながら
言葉を続けていった。

「…貴方にとってとても残酷な事を言っている自覚はあります。…けれど、
オレは…貴方に愛されたいと思う以上に、すでに独占して誰にも渡したくないと
思う存在がすでにいますから…。だからこんなオレの事は忘れて下さい…。
貴方の想いを真っすぐに享受出来ず、むしろ嫉妬してしまうような…そんなオレを
好きになっても、貴方はこの先不幸になるだけでしょうから…」

「…嫌だ、それでも…私は、忘れたくない…! 君を、愛しているんだ…克哉!」

「………ごめん、なさい…」

 御堂は必死になって訴えかけていく。
 そんな彼と対峙して、自然と克哉の目も潤み始めていた。
 自分で覚悟した事なのに…それでも相手に告げる事に対してどうしようも
ない痛みを覚えていった。
 
「…きっと、胸の中に誰も存在していない状態で貴方に愛されたのなら…
オレはその幸福を受け止めて、決して貴方の手を離す事はなかったでしょう…。
けれど、貴方に愛された時…オレには、すでに胸の中に想う存在がいましたから…。
そしてどれだけ愛されたとしても、オレの中で貴方の存在が一番になる日は
きっと来ないと思いますから…。一番欲しい物は決して得られない、そんな生殺しを
貴方に味あわせたくないから…。だから、この三日の事は…全て夢の中の
事だと割り切って、もう忘れて下さい…。貴方を、苦しませたくないんです…。
オレも貴方に抱かれた事で、憎からず想う気持ちが生まれてしまったから…。
好きだからこそ、楽になって欲しいし…解放されて、欲しいんです…」

 克哉は切々と、涙を流しながら訴えていった。
 そんな二人のやり取りをRと眼鏡は、今はただ黙って見守っていく。

「…君は、本当に…残酷、だな…。優しすぎて、罪なぐらいだ…」

 御堂もまた、克哉の方に手を伸ばしながらうっすらと瞳を潤ませていく。
 少しでも克哉の顔を…愛しい存在の事を、自分の心に刻み込んで運命に
抗おうとするかのように…。
 そんな伸ばされた手を克哉は両手で包み込み、優しく口づけていった。

「…御堂さん、貴方の事を好きでした。けど…愛しているからこそ、どうか…
自由になって下さい…。それが、オレの…願いです…」

「そう、か…それが、君の…答え、なのか…」

「はい…」

 其処に、愛があると判ったから。
 労わりと慈しみを込めての決断だと、ようやく認めて受け入れたから…
御堂は達観したようなそんな表情を浮かべていく。
 忘れたくなかった、胸の中にあるたった三日間とは言え…真剣に克哉を
想った事を。
 けれど…克哉は、自分はきっと一番に御堂を愛する事はないと告げた。
 其れは真摯にこちらと向き合ってくれたから出した結論なのだと…御堂は
ようやく認めたのだ。

「…判った、それが君の答えならば…受け入れよう…。ほんの少しでも、
君の中に私を想う気持ちが生まれてくれたのならばそれで良いと…
こちらも、割り切る事にする…」

 其れは御堂にとって、苦渋の決断だった。
 苦しくて胸が詰まりそうなぐらい、軋んでいった。
 けれど…御堂もまた、克哉を愛しているからこそ…身を引く決断を
固めていった。

「…せめて、最後にもう一度だけ…君と、キスしたい…。その願いだけ…
叶えて、欲しい…」

「…はい」

 そう迷いない表情で答えた後、一瞬だけ眼鏡の方を向き直っていった。
 けれど眼鏡は一回だけしっかりと頷いて行った。

―構わない。それぐらいの願いは叶えてやれ…

 そう、表情で確かに伝えていた。
 そして克哉は…御堂の方に歩み寄って、顔を寄せていく。
 Mr.Rの腕に抱かれてという不安定な状態だったが…消え入りそうな意識を
繋ぎ止めて、克哉との最後の口づけを交わしていった。
 深く、唇を重ね合い舌を絡ませあっていく。
 少しでも克哉を感じ取りたかったから。
 受ける方もまた…せめて全力で向き合って、応えていく。
 そうして長い口づけが終わっていくと…優しく御堂の頬を撫ぜて
静かに告げていった。

「…さようなら御堂さん。貴方が幸せになる事を…心から祈っていますから…。
それをどうか、忘れないで下さい…」

 ポロポロと透明な涙を零していきながら、克哉は慈愛を込めてそう
告げていった。
 とても綺麗で、胸に染みいる顔だった。
 …せめてそれだけでも忘れないように意識が途切れる寸前まで食い入るように
御堂は克哉を見つめ続けていき…そして、完全に意識を失っていった。

―克哉…

 最後に、そう一言だけ愛しい存在の名を呟いていった。
 それと同時に…部屋全体にモヤが掛かっていき、Mr.Rと御堂の二人の
姿が瞬く間に遠いものになっていく。

―私が御堂様の事は責任持って送り届けて…この三日間の事を忘れるように
暗示を掛けておきます…。暫し、お二人で話し合って下さい…。それによって…
貴方達二人が幸福になれるかどうかの可能性を与えるかどうかを決める
事に致しますから…

 最後に、そう告げて…そして、部屋の中にいるのは二人だけになった。
 そして涙を流していきながら…克哉は、真っすぐに…もう一人の自分を
見つめて対峙していったのだった―
※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
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 二人の佐伯克哉は黒衣の男が現れたことに対して、言葉を
失ってしまった。
 その人物が姿を現した瞬間、部屋の空気は一気に冷たく
凍り付いたような気がした。
 この男に今までに何度も顔を合わせて、言葉を交わして来たが…
今程、妖しい顔を浮かべているのを克哉は見たことがなかった。
 突然の来訪者の正体は、Mr.Rだった。
 だが元々神出鬼没の部分があるこの男性が来訪しただけでは二人は
さほど驚かなかっただろう。
 しかし黒衣の男の腕の中には、シーツに包まれた状態で意識を
失っている御堂が抱かれていた。
 180cmを超える体格の男を両腕に抱いていてもその重さを感じさせる
様子は全くなかった。
 それがどこか現実離れしていて…同時にこの男の得体の知れなさを
如実に現していた。
 
「Mr.R…! それに御堂、さん…! 何故、二人が此処に…!」
 
「…貴様、何のつもりで顔を見せた。それに…何故、御堂まで連れて
来たんだ…。そいつはまだ、ぐっすりと眠っている頃だろう…?」
 
「いえいえ、お二人が愉快な事を話されていたので少し興味を覚えましてね…。
お節介ながら、多少私が力を貸して…お二人に、選択肢を与えて差し上げようと
思ったものでして…」
 
「…お前に何が出来るというんだ…?」
 
 今、目の前に立っているRの表情は柔らかく微笑んでいるように見えて、
どこか底知れぬ不気味さも感じられるものだった。
 
「いえ…お二人の関係に、御堂孝典様を介入させるか否か。その事を話されていた
みたいですからね…。そちらの眼鏡を掛けていない方の克哉さんは、貴方が
御堂様を抱いた事に対して深い引っかかりを感じているみたいですからね…。
ですから、貴方に問いかけをさせて貰いに来た訳です。貴方が導き出した
答え次第によって、ほんの僅かだけハッピーエンドの可能性を残して
差し上げても良いかなと思いましたので…」
 
「ハッピーエンドの可能性、だと…?」
 
「ええ、今…この段階で、貴方たちには幸福になる可能性と…とても
不幸になる可能性が同時に存在しています。ですが今から私が出す問いに…
貴方がどう答えるかによって、私は最高の幸福に至る道を用意して
差し上げても良いと考えております…」
 
「お前の出す問いの答えによって…俺達の運命が決まるとでも言うのか…。
はっ…実に胡散臭い話だな…!」
 
「えぇ、私が胡散臭い怪しい奴だという事はもう改めて言わなくても判りきって
いる事じゃないですか。そんな事はさておき…どうですか。その可能性に
挑戦してみますか…? それとも、このまま私をこの場から退場させますか…?」
 
 黒衣の男は愉快そうに瞳を細めながら、こちらに問いかけて来た。

「はい、幸福になれる可能性があるのなら…俺は挑戦したいです…!」

 克哉はキっと男を見つめていきながらそう答えていった。
 
「…判りました。なら貴方に問わせて頂きましょう…。貴方は、御堂様と
今後…どのような関係を築き上げたいのでしょうか…?」

「えっ…それは、どういう…?」

「その言葉の通りですよ…。眼鏡を掛けた方の克哉さんが言った通り…
貴方たち二人の関係の中に入って来て貰うか…もしくは、お引取りを
願うのか…。その答えを聞かせて頂けますか…?」

「御堂さんと、どんな関係を築いていきたいのか…か…」

 その問いを出された瞬間、克哉は考え込んでいった。
 それは必死になって思い悩んでいる表情だった。
 暫く彼は黙って考え込んでいたので…眼鏡もまた特に何も言わずに
見守り続けていった。
 およそ10分程度、沈黙をした後…克哉は何かを決断したような
そんな顔を浮かべながら黒衣の男を見つめてから、言った。

「…もし可能であるならば、オレは…御堂さんにこの三日間の事を
キレイに忘れて欲しい。そして…オレへの思いなど全て忘れて…
自由に過ごして欲しいと思います…」

「っ…!」

「ほう、そのような答えを出されるのですか…。なら一つ聞かせて
頂きたいのですが…どうしてそのような結論を出されたのですか…?」

「…答えは簡単です。オレは確かに御堂さんに惹かれつつあった。
きっともう一人の俺の事がなければ、あんな風に真剣に想われて抱かれた
時点でこちらも…御堂さんの事を想うようになっていたでしょう…。
けれどオレは、もう一人の俺が御堂さんを抱いたと聞いた時…猛烈な
嫉妬を抱いてしまった。あの人への気持ちよりも、その事に対しての
憤りと強い嫉妬の方が…さっき、比重が強かったんです。それを自覚
した時…オレは、きっと…きっと御堂さんがオレ達二人の間に入って
きたら…きっと冷静でなんかいられない。嫉妬で苦しみ続けて…
この人の想いを受け取って笑顔でいる事など出来ないと…思い知った
からです。そんなオレに…この人を縛り付ける資格などありませんから…」

「………」

 眼鏡は、克哉が出した答えを傍らで黙って聞いていた。
 彼がさっき御堂を抱いたのは…まだ克哉には語っていなかったが
二つの意味合いがあったから。
 一つは御堂に抱かれてしまった克哉の罪を相殺する為。
 もう一つはさっき語ったように…自分は、この定められた十日という期限を
過ぎたら次はいつ顔を出せるか判らない身の上だということだ。
 ならいっそ、御堂を介入させて自分が出てこれない間…克哉が寂しく
空しい気持ちを抱かせないようにという気持ちもどっかで存在していた。
 だが、克哉が出した回答は…その彼の意図とは全く逆のものだったのだ。

「それが貴方の本心ですか…克哉さん」

「はい、正直…御堂さんに対して、オレも未練はあります。けれどそれ
以上に…もう一つの気持ちが強いですから…」

「…その感情とは、何なんだ…『オレ』…?」

 最後の促す言葉は、もう一人の克哉の口から発せられていった。
 すると克哉はフワリと柔らかく微笑み、迷いない様子で告げていった。

『オレは御堂さんを想う気持ちより遥かに強く…もう一人の俺の事を独占したいと
いう欲が存在している身勝手な奴です。介入させれば、オレも御堂さんに抱かれて
愛される事が出来る代わりに…もう一人の俺が、御堂さんを抱くのを容認しないと
いけなくなる…。それは嫌だという、凄く身勝手で独占欲が強い奴なんです…。
そんなオレが、御堂さんに想われてこの人を引き止める資格なんてある訳が
ありませんから…。貴方なら、それくらいの事は出来るでしょう…Mr.R。
ですから…御堂さんが余計な痛みを抱かないようにこの三日間の記憶を
静かに封じて…解放してあげて下さい…。どうか、お願いします…」

 そして克哉は深々と頭を下げて必死になって訴えかけていった。
 Mr.Rは御堂を腕に抱いた状態のまま何も答えなかった。
 そうしている間に…Mr.Rの腕の中で御堂が軽く呻き声を漏らして意識を
覚醒させていった。

「…ここは、一体…?」

 そしてまだ夢の中を彷徨っているようなそんな危うい表情を浮かべて
いきながら…ぼんやりと、御堂はその紫紺の眼差しを二人に向けて…
見つめてきたのだった―
 
 
 
 



 
※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
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 眼鏡から言われた本音という言葉が、妙に心に響いていた。
 吐息が掛かるぐらいにすぐ間近に相手の顔が存在している。
 こうしてシーツの上に組み敷かれているだけで、心臓が壊れてしまうのでは
ないかって思うぐらいにドキドキしているのが判った。

(こうして間近で顔を見ているだけで…胸が、おかしくなりそうだ…)

 同時に、思いっきり相手の頬を叩いた手がジンジンと痺れていた。
 こんな風に手のひらが痛くなるぐらいに力を込めて人を引っ叩いた事など
克哉は初めてだったのだ。
 あんな風にタガが外れてしまったかのように、泣きながら相手に感情を
ぶつけたことなど今までなかったから。
 克哉は半ば呆然となりながら、頼りない眼差しでもう一人の自分を
見つめていた。

(嗚呼、でもそうだよな…。オレ、今までこいつに嫌われるのが怖くて…
好きだって事すら言えないで…あんな風に感情をぶつけたことなんてなかった。
そんな事をしたら、嫌われてしまうと無意識の内に思っていたから…)

 眼鏡の唇が、頬や目元に静かに降ってくる。
 その感覚にくすぐったさを覚えていきながら…自分の方にもっと引き寄せたくて
懸命に首に腕を回して縋り付いていった。
 相手の肩口に顔を埋めていきながら、必死になって抱きついていく。
 お互いに無言のまま、暫く時間が流れていった。
 そして…眼鏡は、ポツリと呟いていった。

「…お前はさっき、自分以外を抱くなと言ったな…。だが、そうなればお前は
一人でずっと…俺を待つことになるぞ。次にいつ来るのか判らない状態でな…」

「えっ…?」

 思ってもみなかった事を言われて、克哉はハっと顔を上げていった。
 気のせいか…もう一人の自分の表情がとても切ないものに映って…
克哉は言葉を失いかけていった。
 そう、ここ三日間…頻繁に顔を合わせていたから、半ば忘れていた事だった。
 もう一人の自分との逢瀬は、連絡が取り合える訳ではない。
 気まぐれのように彼は姿を現し、そして抱き合ったらいつも克哉の傍らから
いなくなっている…そういう付き合い方をしていた事を思い出していった。

「…俺は今回はたまたま、十日間という時間をあの男から貰った。
 だが…その期間が過ぎれば、お前の前にいつ顔を出してやれるか判らない。
傍にずっといてやれる訳ではなく、その間に…例の薬でお前への想いを引き出された
奴らが、お前にまた迫って来て必死になってお前を口説くかも知れない。
それなら…お前も心憎からず思っている御堂をこちらに引き寄せて、俺がいない
間…一緒に過ごす事を認めれば、お前は少なくとも他の奴に流される事は
なくなると考えた訳だが…違うか?」

「えっ…あ、それって…言葉は悪いけど、御堂さんを…防波堤に使って
いるようなものじゃないのか…?」

「ああ、そうだな。けど…同時にお前と俺はこうして別々の肉体を持っていても
心のどこかでは繋がっている。だからお前が密かに御堂を想うようになった時、
俺もあいつを好きになり始めた。なら…下手に別れさせるよりも、こうした方が
良いと思った。…俺は、本来なら存在しない筈の男なんだからな…」

「そんな、事…言うなよ! 確かにずっと一緒にいてくれる奴じゃないかも
知れないけれど…今、こうしてお前はオレの傍にいるじゃないか! こうして
存在して、抱き合っているじゃないか…。なのに、そんな弱気な発言を
しないでくれよ! お前は今、ここにいるんだから!」

 眼鏡の発言に、克哉は泣きじゃくりながらそう訴えていった。
 相手の体は確かに暖かく、そして…今、克哉の傍に存在しているのだから。
 夢幻などではなく、『彼』は確かに…いるのだから。
 いつだって傲慢で自信満々な男が、そんな殊勝なことを考えていた事など
思いもよらなかった。
 
「確かに…オレは抱かれてから、御堂さんに惹かれているよ。けど…
オレの今の一番は、間違いなくお前なんだ! それだけは忘れるなよ…!
こんなに好きなのに、まだ伝わっていないのかよ! いい加減に判れよ!
このバカ…!」

「…はっきりと言ってくれたな。お前だってそんな風にきっぱりとこちらに
想いを告げたのは…今が初めてだって判っているのか?」

「えっ…?」

 そうして真摯な眼差しでもう一人の自分に見据えられていく。
 アイスブルーの瞳が、まるでこちらを射抜くかのように近距離に迫って来て
克哉は思わず、言葉を失いかけた。

(そんな目で見るなよ…見られたら、オレ…)

 胸がまた激しくドキドキして、止まらなくなる。
 相手の目に全ての意識が浚われてしまいそうだった。
 ごく自然に瞼を閉じて、唇を寄せ合っていく。
 そして静かに重なり合った途端、少し離れた処からカチャリと…
扉が開閉する音が、微かに聞こえていったのだった―



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 眼鏡から与えられた口づけは、最初は伺うような感じだった。
 だが克哉は相手ともっと近づきたくて、同時に触れ合っていたくてしがみつく
ように抱きついていけば徐々に深いものへと変わっていく。
 胸の中に湧き上がる幸福感。
 それと同時に、眼鏡以外の相手に触れられて良いようにされてしまった
自分を責める気持ちがジワリジワリと広がっていく。
 相手の舌先が口腔を弄り、官能を引き出していくと…肉体的だけでは
ない快楽が、徐々に生まれ始めていった。

(凄く、気持ち良い…。本多や、太一や…あの澤村って人に触れられた
時と全然違う…。本多や太一の事は嫌いじゃないけど、やっぱり…
『俺』や御堂さんに触られている時って…触れられている感覚が全然違う…)

 快楽には、精神的な要素も大きく作用する。
 肉体的に快感を与えられても、強引に引きずり出されても…自分が思いを
寄せている相手か、そうじゃないかによって大きな差が生まれてくるのだ。
 皮肉な話だが、他の人間に触れられたからこそ…余計に、もう一人の自分が
特別な存在である事を自覚した。
 そして強引にこちらを抱いた御堂に対しても、心を寄せつつある事実に…
胸が軋み始めていった。
 他人に触れる、関わる形で…自分の中で、相手の存在がどんな位置を占めて
いるのか…物差しを得る事が出来る事もある。
 一対一で向き合っている頃は、それが見えなかった。
 けれど今は…どれだけ、眼鏡が自分にとって特別だったのか判ってしまった。
 だからこそ…キスが解けた時、克哉は自然に呟いて…涙を零して
しまっていた。

「…ゴメン、本当にゴメンな…『俺』…」

「…何を、お前は謝っているんだ…?」

「…オレ、ここ数日…全然、貞操を守る事なんて出来なかった…。御堂さんに
抱かれて、本多や太一にも言い寄られて…そして、あの澤村って人に浚われて
良いようにまでされてしまった…。お前の事を好きだっていうのなら…オレは、
必死に抵抗しなきゃいけなかったのに…。結局、どうにか自分の意思できっちりと
断る事が出来たのは太一だけで…後は、流され続けてしまっていた…。
こんな情けないオレで、本当に…ゴメンな…」

 克哉は今にも涙を零しそうな…潤ませた瞳でそう告げていく。
 だが、すでに謝罪は一昨日に顔を合わせた時に聞いているからこそ、
眼鏡はシニカルな笑顔を浮かべて、平然と言い放っていった。

「…もう良い。それ以上、自分を責めるな。ただでさえ情けない顔が余計に
目も当てられない事になるぞ…」

「おい! 何だよその言い方! 自分だって同じ顔の造作をしている癖に…!」

「確かに認めたくないがお前と俺の基本的な顔の作りは一緒だ。だが目つきや
雰囲気によって大きく印象は異なるからな。俺はお前みたいに背中を丸めて
しょんぼりなどしないし…眉を大きく下げたり、だらしない目つきをしないように
心掛けているからな…」

「ああ、だからお前の方が何となく目つきが鋭いのか…。って、そんな話じゃなくて
茶化すなよ。特に御堂さんの件は…本気で、申し訳ないって思っているんだから…。
オレ、あの人に惹かれつつあって…全然、お前の事を一途になんて思えなくて…
それで、どうすれば良いのか…答えが見つから、なくて…」

「ああ、御堂の事は気にしなくて良い。たった今…あいつも俺のものに
してきたからな」

「…はあ?」

 さも当然と言わんばかりに、平然とそんな爆弾発言をされて克哉の思考回路は
一瞬にしてショートしようになった。
 だが…その言葉の意味を理解した途端、克哉は真剣に卒倒したくなった。
 何と言うかダラダラと全身からドっと汗が溢れてくるのが判ってきた。
 胸が何か嫌な感じに激しく脈動して、アドレナリンが分泌されているのが判る。
 克哉は真剣にその事実を認めたくないと逃避したい衝動に駆られたが…今の
言葉の真偽を確認しない事には、却ってモヤモヤしそうだったので…どうにか
覚悟を決めて尋ねてみる事にした。

「あ、あの…一つ聞いて良いかな? 俺のものにしてきたって事は…お前、もしかして
御堂さんを…?」

「ああ、お前がニ時間ばかり意識を失っている間に…御堂を抱いて来た。
今頃、隣の部屋であいつの方もぐったりしていると思うぞ。…二発は
注いでやったからな…」

 二発、という具体的な数字を聞いた瞬間、克哉はカッとなった。
 自分だって御堂に抱かれているというという引け目があった。
 けれど…胸の中に湧き上がる強烈な衝動は、紛れもなく嫉妬で。
 もう一人の自分が他の人間を、御堂を抱いたという事実によって…克哉は
本気で憤りを覚えていった。

「バカ! バカバカ!! お前…何て事をするんだよ! 信じられない!」

 そうして泣きじゃくりながら、パン! と大きな音を立ててもう一人の自分の
頬を思いっきりひっぱたいていった。
 こんな風にもう一人の自分に対して怒った事も、引っ叩いた事も初めての
経験で…終わった後、克哉は自分の行動に茫然となった。

(しまった…衝動的に『俺』に手を、出してしまった…!)

 その事実に、血の気が引く思いがしたし…その場から逃げ出したい衝動も
同時に生まれて来た。
 しかし克哉はキっと眦を上げて…もう一人の自分を見据えていく。

「…確かに、御堂さんに抱かれたオレに…こんな事を、お前に言う資格なんて
ないのかも知れないけれど…。けど、オレ…お前が他の人間を抱くなんて
嫌だ! 我儘かも知れないけれど…オレ以外を、抱いたりしないでよ…」

 それは、初めて克哉が見せた相手に対しての独占欲だった。
 こんな事を言ったら、もしかしたら嫌われるかも知れないと思っていたから
ずっと言えないでいた言葉だった。
 けれど眼鏡が御堂を抱いた、という事実が…今まで克哉を縛っていた
枷を粉々に砕いていく。

「…お前、初めて…俺の顔色を伺わないで、自分の本音を言ったな…」

「えっ…?」

 克哉のその言葉に、何故か眼鏡は微かに笑っているようにすら映った。
 相手の反応を不思議そうに克哉が見つめると同時に…力強く、もう一人の
腕の中に引き寄せられて、キツク抱きすくめられて…シーツの上に
組み敷かれていったのだった―


 

 

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 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

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―克哉が目覚めたのは、澤村に拉致された場所の隣に位置する部屋だった

 ここ数日、色々と葛藤して悩んでいた疲れもあったのだろう。
 彼を救出する為に使った強烈な眠りを誘発する香のおかげで…相当に
深い眠りに陥っていた。
 そのせいだろうか、目覚めた時の気分は極めてすっきりしていて…
この三日間で一番、晴れやかな目覚めでもあった。
 軽く身体を起こして周囲を見回していくと、内装の方は殆ど違いはなかったのだが
微妙に違和感を覚えていった。

「あれ…? ここは…?」

「目が覚めたか…。こっちは待ちくたびれたぞ…」

「えっ…? もしかして、『俺』…? どうして、此処に…」

「…随分な言い草だな。お前を助けてこの部屋まで運んで来てやったのは
俺なのにな…。あのまま俺が介入しないままだったら、もしかしたら澤村以外にも
御堂や本多辺りにも良いようにされていたかも知れないんだがな…?」

 その言葉を聞いて、克哉は瞠目していった。
 眼鏡からそう言われた事をキッカケに、意識が落ちる直前の様子をぼんやりと
思い出していった。
 澤村にバイブを挿入されて弄られている時に、御堂と本多が乱入して来て
その様を見られてしまった事。
 そして喧々諤々の展開になっていた時に、猛烈な眠気を覚えてそのまま
寝入ってしまった事を思い出していった。

(そうだ、オレ…あの赤い眼鏡を掛けた人に…良いようにされてしまったんだっけ…。
幸い、抱かれるまでは至らなかったけれど、あの人に手を出されてしまったのは
事実だ…。オレ、本当にそういう事態に陥った時は無力だよな…)

 そういえば、三日前にMr.Rから二週間程度、貞節を守る事が出来れば
もう一人の自分に会わせてくれるという条件を出された事を思い出していく。
 なのに蓋を開けてみれば、二週間どころか…たった三日の間ですら自分は
貞操を貫く事すら出来なくて。
 その事実に本当に鼻がツンと来て泣きたくなってしまった。

「あ…あの人、澤村って言うんだ…知らなかった。…オレの方には全く見覚えも
記憶もない人だったし、名前も判らなかったから正直惑っていたけれど…
そうか、たまにオレが夢に見ていた…泣きながら、こっちに向かって必死に何か
言っていたあの少年は…そういう名前、だったんだね…」

「…お前、その事を覚えているのか…?」

「あ、うん…。昔からたまに夢に見ていたから…。オレはずっと、その夢が
何なのか判らなくてモヤモヤしていたけれど…あの人に拉致されて色々と
話している内に…澤村って人が、たまにオレの夢の中に出ているあの泣いている
少年だっていうのだけは…何となく、判ったんだ。名前は今…お前に聞いて
初めて知ったけどね…」

「…そうか、お前の方にもあいつの記憶は存在していた訳か…。
其れは正直、意外だったが…元々は同じ身体を共有している訳だしな。
多少の記憶の流出や共有とかが起こっていても不思議ではないか…」

「うん、そうだね…。オレ達二人は…元々、同じ人間なんだからね…」

 克哉がぼんやりと呟いた内容に、今度は眼鏡が驚く番だった。
 其れは佐伯克哉という人間にとって、人生の中で最も痛手を負った記憶。
 そして彼らの心が二つに割れる、キッカケの出来事でもあった。
 けれど眼鏡のその後の言葉を聞いて、再び現実というのを思い知らされていく。
 自分達はRの不思議な力が左右しているから…こうして今はそれぞれの
身体を持って、言葉を交わす事が出来ている。
 けれど…其れがなかったら、自分達はこうして向かい合って話したり触れ合う
事など出来ないままだったのだ。
 その現実を改めて思い知らされて…克哉は無意識の内に唇を噛みしめていった。

(やっぱり…オレがこいつを好きな事って…許されない事なのかな…?)

 こうして向き合って話しているだけでも、胸の中にジワリと甘い感情が
広がっていくようだった。
 こんな気持ちを、抱いたのは生まれて初めてで…だからこそ余計に、
それがもう一人の自分である事に切なささえ覚えていった。
 真摯な眼差しで眼鏡を見つめていく。
 大好きで仕方なくてただ相手を見ているだけで…二人きりでいるというだけで
身体の奥が疼いていくようだった。

―コイツに、触れて欲しい…。そして、オレからも…触れたい…

 そんな気持ちが葛藤しながらも芽生えて、克哉は恐る恐る…眼鏡の
頬にそっと手を伸ばして触れていった。
 相手の頬の感触が、酷く心地良く感じた。
 それと同時にごく自然に言葉が零れていった。

「…大好きだよ…『俺』…。こうしているだけで、泣きそうになるくらい…」

 今にも泣きそうなぐらいに瞳を潤ませながら、そう呟いていく。
 一緒にいるだけで…幸せで、ドキドキして…どうかなってしまいそうだった。
 眼鏡はそんな克哉を、静かに見つめていく。

「…そうか…」

 そして眼鏡は、静かに目を伏せていきながらこちらの方に顔を
寄せて来た。
 今は…余計な言葉など、何もいらなかった。
 他の人間の事も、考えたくなかった。
 もしかしたら貞節を守れなかった事。何度も他の人間に良いようにされた事を
眼鏡は内心怒っているかも知れない。
 けれど…今だけは、こうして触れる事を…眼鏡を感じる事を許して欲しかった。

「ん…もっと、キスしたい…」

 唇が一瞬だけ重なっていけば、離れた瞬間に思わずそう呟いていってしまった。
 そしてその声が聞こえると同時に…眼鏡からの口づけは、熱のこもった
情熱的なものへと変わっていったのだった―


 



 

 ※7月25日からの新連載です。
今回は「恋人関係」について掘り下げた内容になっております。
眼鏡が意地悪で、ノマは不安定で弱々しい場面も途中出てくる
可能性が大です。
 他のカップリング要素を含む場面も展開上出てくる場合があります。
 それを承知の上で目を通して下さるよう、お願い申し上げます。

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―御堂孝典は、ゆっくりとベッドの上で目を覚ましていった

 最初に目に飛び込んで来たのは見知らぬ天井だった。
 一体此処はどこなのだろうか、とぼんやりと考えながら身体を起こして
周囲を見渡していけば…目の前に燭台と、一人の男の姿が飛び込んで来た。

「克、哉…?」

 一瞬、我が目を疑った。
 自分のすぐ傍らに腰を掛けた状態で…佐伯克哉がこちらを見つめていた。
 だが、明らかに大きな違和感があった。
 眼鏡を掛けて怜悧な眼差しを浮かべている彼の姿には見覚えがあった。
 しかしそれは初対面の時以来、見た事がないものでもあったからだ。

「…やっと目覚めたか。気分はどうだ…御堂?」

「え、今…何て?」

 再び、相手の呼び方に猛烈な違和感を覚えていく。
 彼はいつだってこちらの事を、「御堂さん」か、「御堂部長」と礼儀正しく
呼んでいたのだから。
 こんな風に傲岸不遜に、呼び捨てにするなど…とても考えられなくて、
大きく目を見開いていくと…彼は愉快そうに微笑んでいった。

「…何だ、そんな鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして。嗚呼…
そういえばあんたと俺が顔を合わすのは相当久しぶりになる訳だしな。
あいつの方とばかり接していたらまあ…それも無理はないか…」

「…おい、君は一体…さっきから何を言っているんだ…?」

 話せば話すだけ、違和感が増してくるばかりだった。
 頭がぼんやりして…上手く思考回路が纏まってくれない。
 何故、自分はベッドの上で眠ってなどいるのだろうか?
 確か直前まで…克哉は拉致をされていて、赤いおしゃれ眼鏡を掛けていた
男にホテルの部屋の中で辱められていて、その中にいきなり本多が飛び込んで
来て…それで…と、其処までが御堂の記憶だった。
 それ以後、強烈な睡魔を覚えて意識を閉ざした後の事までは判らなかった。
 しかし其処まで思い出した時…更に、大きな疑問が生まれていった。

(…あの二人は、何処に消えたんだ…? あの赤いおしゃれ眼鏡をした男と…
本多君の姿が、室内のどこにも見られないんだが…?)

 燭台の火が部屋の中心で大きく揺れている処から見ても、此処がさっきの
部屋と同じである事は疑いないだろう。
 近代的でシンプルな内装に、中世風の燭台は恐ろしくミスマッチだからだ。
 けれど…何処を見渡しても、本多と澤村の二人の姿は見つける事は出来なかった。

「…なあ、克哉…。私と一緒に部屋の中にいた二人は一体…何処に行って
しまったんだ…? 此処は、さっきの部屋と同じ筈だろう…?」

「ああ、あの二人ね。…あんたと二人きりで話すのに邪魔だから、あの男に
言って丁重に自宅に送り届けて貰った。…今頃は自分の部屋で目を覚まして
いる頃だろうよ…」

「自宅に、送り届けただと…?」

「ああ、そうだ…。俺のすぐ傍には…そういう事をあっさりとやってのける
便利で妖しい男がいるんでね…」

 あの男、と言う呼ばれ方をされて…何故かとっさに頭の中に思い浮かんだのは
先程…自分にカードキーを渡した黒衣の男の顔だった。
 何故、そう思ったのか判らない。けれど、そういう言われ方をした時に…
何となくそう感じたのだ。
 普通に考えれば一人の人間が、二人の人間を自宅に送り届けるような真似を
するのは酷く困難な事だ。
 しかし…良く思い返してみれば、この部屋の本来ありえない筈のもう一枚の
カードキーを用意して、この部屋に招き入れた事を思い出せば…あの男性なら
それくらいの事は平然と出来るような、そんな奇妙な納得も同時に感じていた。

「…その点には多少納得がいかない部分があるが…今はそれは置いておく
事にしよう。だが…どうして、私だけこの部屋に残したんだ…?」

「ああ、それは単純だ。あんたと話したい事が俺にはあったからだ…。
もう一人の『オレ』を、俺の許可なく一方的に抱いた事に関してな…」

「はっ…? もう、一人の『オレ』だと…?」

 そういう言い回しをされて、御堂は猛烈に違和感を覚えていった。
 真っ先に思い浮かんだのは眼鏡を掛けていない…儚く笑う、いつもの
克哉の姿だった。
 確かに言われてみれば…眼鏡を掛けている今の彼の姿はまさに
普段と別人と言っても過言ではなかった。
 しかしこの物言いでは…まるで、佐伯克哉という人間が二人いると言っている
ようなものではないか。

「…君はさっきから、奇妙な言い回しをするな…。あいつと言ったり、もう一人
『オレ』などと言ったり…。それではまるで、佐伯克哉という人間が二人いると
言っているようなものではないのか…?」

「ああ、その通りだ。…俺達は、今…二人で同時に存在している。眼鏡を
掛けている俺と…眼鏡を掛けていない、気弱な『オレ』とな…。そしてあいつは
俺の所有物でもある…。その所有物を、勝手に抱いたあんたに…俺はどうしても
一言いいたかったものでね…。だからこうして、あんただけはこの部屋に残させて
貰った訳だ…」

「はっ…? 君はそれを、本気で言っているのか…?」

 相手があまりに当たり前と言った感じで佐伯克哉が二人いるという事実を
認めた為に余計に御堂の混乱は強まっていった。
 だが、眼鏡の目は…正気で、強いものだった。
 そうしている間に…傍らに腰を掛けていた相手の顔がこちらに迫って
見下ろして来ているのに気づいて…何故か、本能的な危機感を覚えていった。

「おい、何故…そんな風に顔を寄せてくる…?」

「ほほう、実につれない反応だな。もう一人のオレとは何度も深く口づけたり
抱いたりした癖に…俺の方では、顔を寄せただけで拒絶反応とは…」

「…君に、そんな事をされる謂われはない。良く判らないが…君は私が心底
愛しいと思っている克哉とは違う。その事は理解している…。だからそれ以上
こっちに顔を寄せないでくれないか…?」

「いいや、これでお前がした事を帳消しにしてやるつもりだからな…。
俺のものに勝手に手を出した事に対しての罪をな、お前の身体で贖って
貰う事にする…」

「はっ…?」

 あまりに予想外の事を言われて、御堂の思考回路はショートしそうになった。
 一体相手は何を言っているのか、理解したくなかった。
 その時一瞬、もう一人の克哉は果たして何処にいるのか疑問に覚えていたが…
その件も綺麗に吹っ飛び、目の前の危機に意識が集中していった。
 だが満足に頭も体も動いてくれない。
 全身が金縛りにあったように自由が効かない身では相手を突き飛ばして
逃げ出す事すら敵わなくて…。

「…他の男が、あいつに手を出して好きなようにするのは許せんからな…。
だが、俺のものになった奴が…同じく俺のものであるあいつに手を出したなら…
それは所有物同士のじゃれあいに過ぎないからな…。だから、あんたも…
俺のものになって貰うぞ…」

「ひ、人をもの扱いするな…! ふざけるな、冗談じゃ…!」

「悪いが、俺は本気だ…。だから言っただろう…あんたに身体を持って
罪を贖ってもらうとな…」

 そうして眼鏡は、傲岸に微笑んでいった。
 御堂はそれに本能的な恐怖を覚えてベッドの上で逃げ惑っていった。
 しかし無理やり抑え込まれていき…・。
 

―其れから後は、御堂にとって実に不本意な時間が展開される羽目に
なっていったのだった―



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香坂
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職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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