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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 最近掲載ペースが遅めですが、それでも付き合って下さっている方
どうもありがとうございます(ペコリ)

 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                             10
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 ―彼が目覚めた場所は、例の公園の外れにある草むらの中だった

 強制的に元の世界に帰らされて、眼鏡と御堂が横たわっていたのは…
例の事件が起こった地点の程近い場所だった。
 周囲を見回すと、大きな街灯が見える。
 それを見て…あの街灯の光が届く位置で、最初の事件が起こったことを
思い出して…佐伯克哉は、遠い目になっていった。
 
「…俺は、戻って来た…のか…?」

 時間にすれば二日間足らずの間に起こった出来事だった。
 彼は意識を失っている時間の方が長かったせいで、その30時間の間に
起こった出来事の終盤しか知らない。
 けれどそれだけでも…始めと終わりしか体験しない状態でも、十分に
それは密度の濃いものだった。

(昨晩に…俺は、御堂にこの公園で刺された。そして…この世界では
午後辺りから、俺と御堂は失踪していることになっている…あいつの
話を総合すると、確かそういう事になっていた筈だな…)

 まだ、目覚めたばかりで身体の自由はあまり効かなかった。
 頭の中も混乱していて、情報が整理し切れていない。
 そして眼鏡が倒れているすぐ傍らには、御堂が草むらの中で仰向けで
横たわっていた。
 時々苦しそうな表情を浮かべる時もあるが、微かな寝息を立てながら
目の前で意識を失っている御堂を見て…克哉は泣きそうになった。

「生きて、いる…」

 そう、その事実だけでも…目の前で御堂を失ってしまった体験を
すでにしている彼には…涙が出るくらいに、嬉しいことだった。
 当然、先程の…向こうの世界の御堂とのやりとりを忘れた訳ではない。
 だが、あの人の亡骸を目の当たりにした時の衝撃。
 それが生々しく脳裏に刻まれてしまった彼からしたら…こうして、生きている
御堂の姿を見るだけでも…充分な救いだったのだ。

「あんたが、生きている…」

 目の前に倒れているのは、この世界の御堂。
 こちらの世界では…御堂の方が佐伯克哉を刺してしまっているという。
 そしてその事件の目撃者が多く存在しているからこそ、このような事態に
なってしまったのだと…もう一人の自分から聞いた。
 丁寧に説明された今も、ややこしくて…本気で混乱しそうな話だった。
 しかしその結果、彼の目の前には…「自分が犯した過ちを全てを忘れた御堂」が
存在する事となった。
 御堂が生きていることを確認するように、頬にそっと手を伸ばしていく。
 温かくて滑らかなその肌触りを指先で感じるだけで、この世の全てに
感謝したくなるような心境など…今まで味わったことがなかった。

(…好きだの、愛しているだの…そんな言葉は下らないと今まで思っていたが…
今のこの心境は、恐らくそういった類の感情なんだろうな…)

 そう考えると苦笑したくなったが、それでも…御堂に確認するように
触れることは止められなかった。
 この手触りが、愛おしくて仕方なかった。
 ただ触れているだけで満たされるようなこんな感情など知らなかった。
 けれどその幸せを感じれば感じるだけ、この人に本当に自分は惹かれていたのだと
自覚すればするだけ…かつて、自分がやった行為の愚かさを気づかされた。

「…俺は、こうなって…初めて、気づけたんだな…」

 力なく呟きながら、彼は…瞼を閉じていった。
 人は間違えなくては、気づけない時もある。
 己の力を過信している時、万能だと思い込んで人を思う通りに操作
しようとする時、優位に立とうと躍起になっている時…大抵は踏み躙られる
側の心の痛みに気づかない。
 一方的に相手の心をこちらに従うしかないように追い詰めれば、それは
いつか自分の身に跳ねかえってくるものだ。
 誰にだって心がある。自分の意思というものがある。
 それを無視して、己の欲望や欲求を叶えることしか考えなくなった時…
人はそう遠くない内に、そのしっぺ返しを食らうものなのだと…。

―結局、自分が御堂に待ち伏せされて刺されたのは彼の心を
踏み躙り続けた結果に過ぎなかった

 過ちに気付いた時には、向こうの世界では手遅れだった。
 この人を愛しているのだと気づいた時には、本来ならば
永遠に失ってその想いは二度と届かない筈だった。
 それでも、言えた。そして謝罪の言葉を辛うじて言えた。
 そして…目の前に、御堂がいてくれる。全てを忘れた御堂が…。

(俺は…あんたの傍にいて…良いのか…? あんたを
追い詰めて向こうの世界ではあんたを殺し…この世界では、
あんたを殺人者にさせてしまった俺が…本当に…)

 …こんな事を迷っているなんて、自分らしくないと思う。
 けれど彼の心は、確かに今…弱ってしまっていた。
 人をもっとも苦しめる感情は、後悔と罪悪感だ。
 強い罪の意識は、時にその人間の本性すら大きく歪めてしまう。
 今の眼鏡はまさに…その状態だった。
 問いかけるように、眠り続ける御堂に触れ続けて…迷い続ける。
 その刹那、相手の目がほんの短い間だけ…ゆっくりと開かれた。

「さ、えき…?」

 それは、何の感情も含まれていない…誰何の言葉に等しい
呼びかけだった。
 意識が覚醒したばかりで、現状を把握していない無防備な表情。
 それから徐々に相手の瞳に力が戻り…短い間だけ、こちらをはっきりと
視界に捉えていく。
 そしてすぐに惑いの色を帯びて…彼は問いかけて来た。

「…どうして、私は…こんな処で、寝ていたんだ…? 君は…何かを、
知っているのか…?」

 惑う彼の瞳には、克哉に対しての嫌悪も憎しみも含まれていない。
 知人や、仕事仲間の一人に対して…質問を投げかけているだけに
過ぎない反応だった。
 けれど…彼に一生憎まれても仕方ないとすら思っている眼鏡からしたら…
その反応こそ、救いだった。

「…あぁ、あんたは悪い夢を見ていただけだ。それで…やっと、ここで
目覚めただけ…ただ、それだけの事だ…」

「…何だか、要領を得ない答え…だな…。だが、そうか…あれは…
悪い…夢…だったの、だろうか…?」

 そうして、彼らしくない困惑した表情を浮かべていく。
 そういえばこちらの世界の御堂は、記憶を操作されている筈だった。
 昨晩の記憶と今まで彼がやってきた行為の数々は、辛うじて封じられている。
 そんな彼を見て、ふと…眼鏡は思った。

―もう一人のオレが最後に言っていたように、こちらの世界の御堂と…
自分は一から、やり直せるだろうかと…

 彼に対して自分がしてしまった事を考えれば、虫の良過ぎる考えだった。
 けれど彼がこちらの罪を忘れているのならば。
 この30時間余りの出来事を夢で済まして、それ以前の自分との間にあった
出来事を忘れてくれているのならば…。

(一から…御堂と、関係をやり直せる…チャンスなのか…?)

 その事に気づいた時、どうしてあいつがあそこまで必死になって
自分に対して、「御堂から離れるな」と訴えたのかやっと理解していく。
 それは大きな罪を犯してしまった、咎人の都合の良い夢なのかも知れない。
 けれど…この人の夢が覚めるまでの間で良い。
 傍にいたいと思った。一緒にいる時間を重ねたいと思った。
 いつか夢から醒めて、御堂は自分の罪を思い出してしまうかも知れない。
 もしくは昨晩の佐伯克哉という人間を殺そうとした忌わしい記憶が
いつか蘇ってしまう可能性もあるかも知れない。
 その危険を考えたら、自分はこの人の傍から離れた方が絶対に良い。
 そう考えて、深く葛藤した瞬間…何故か、もう一人の自分の声が
脳裏に響いていった。

―過去ばかり振り返って、悔やんでいたって仕方ないだろ…?
罪の意識に囚われて、本当に大切なものを手放してしまったら…
一生、後悔するよ…ねえ、俺…

 その声だけは嫌になるぐらいにはっきりと聞こえた。
 罪の意識に竦んでいる自分を、その声が背中を押していく。
 これはチャンスなのだ、と。
 一つの世界で、自分が殺されて御堂が犯罪者となる結末が起こった。
 片方の世界では自分が御堂を結果的に殺してしまった。
 どちらにしても救いようのない筈の結末を辿るしかない筈の自分たちの
前に…今、一つのか細い可能性が示されている。
 それはまさにクモの糸のように儚く脆い希望なのかも知れない。
 それでも…。

(俺は…あんたの傍に、それでもいたいんだ…)
 
 目の前の御堂は、無防備な寝顔を自分の前に晒して意識を
失っていた。
 Mr.Rのせいで、この30時間余りは翻弄され通しだったのだから
無理もない話だった。
 克哉は、彼の頬を撫ぜていく。
 今度は眠りも深くなっているらしく、その程度の刺激では目覚める気配がなかった。
 
「…この夢が覚めるまでで良い…どうか、あんたの傍にいさせてくれ…」

 彼は心からの祈りを込めていきながら、御堂の唇に口づけていく。
 奪うような、服従を強いるようなキスなら今まで何度もしてきた。
 けれど…こんな触れるだけの儚い接吻を相手にしたのは、これが初めての
ような気がした。
 懇願するように口づけながら、祈っていく。

 ―この夢が覚める日までで良い。この人の傍にいさせてくれと…

 御堂が全ての記憶を取り戻した時。
 それが…この仮初の夢が壊れる時。
 彼がこちらの罪を思い出し、再び憎しみの感情を思い出したら…その時は
逃げもせずに、それは当然の報いと受け止めることとしよう。
 こんな殊勝なことを考える自分が信じられなかった。
 けれど紛れもなく、それは真実の気持ち。
 恋人に、伴侶になりたいなど…そんな我儘は言わない。
 ただ、自分は…あんたと肩を並べられるような、そんな男になりたいと。
 あんたと同じ高みを登れるそうな、そんな存在になりたいと…間違えまくった末に
ようやく本心に気づいていく。
 夢が覚める日までで良い、と。

『咎人はただ、一日でも長く…愛しい人間の傍らにいられる事を願った』
 
 深夜を迎えているせいで、公園の敷地内の空気は冴え渡り
寒いぐらいだった。
 漆黒の闇の中、ただ月だけが静かに輝いている。
 そんな夜に…彼はただ、真摯に願い続ける。
 
―ようやく愛していると気づけた人とやり直して、夢が終わるその日まで
せめて共に過ごせることを…

 そう祈りながら…御堂に肩を貸して、せめて彼の自宅のマンションまで送って
行こうとして…佐伯克哉は公園から後にしていく。
 そんな彼の後姿を、黒衣の男は物陰から眺めて、小さく呟いていく。

「…この世界の貴方も、愛などという惰弱な感情に目覚めて…大いなる
可能性を潰してしまわれましたか…」

 心から残念そうに言いながら、男の姿もまた…闇の中に紛れていく。
 この世界の彼でダメだったら、別の世界の彼の可能性に掛けるしかない。
 今回の一件で示されたように、佐伯克哉には無数の未来が広がっている。
 ならばその中に…真に、男の願望を満たしている彼だっているだろう。
 完成された彼に出会えるその日まで、男もまた…新たな可能性を模索していく。

「…まあ良いでしょう。次の世界で…またお会い出来ることを祈っていますよ…。
佐伯克哉さん…」

 そう呟きながら、彼はゆっくりとその場から立ち去っていった。
 そうして…公園の中には、誰もいなくなり…静寂だけがその場を支配
していったのだった―


 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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