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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 最近掲載ペースが遅めですが、それでも付き合って下さっている方
どうもありがとうございます(ペコリ)
 やっとどの場面を出していくか決まったのでエピローグ行かせて頂きます~。

 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                             10
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 ―御堂が事故に遭った日は奇しくも、もう一つの世界から彼らが
帰還した日と同じだった

 その朝に、御堂が自動車事故に遭って意識不明状態になっていると
報を聞かされた時…克哉はその場で卒倒し兼ねない程のショックを受けていた。
 だが自分の上司である御堂が抜けた穴を、自分が埋めなければいけない。
 幸いにも命に関わる怪我はしていない。
 その事実だけを頼りに、彼はその日…御堂の元に駆けつけたい衝動を
必死に抑えつけて、普段の二倍も三倍も働き続けた。
 そして…彼が朝から無我夢中で昼食すら返上して働き続けて…
全てが落ち着いたのは夜八時を過ぎてからだった。

 病院を面会出来る時間はとっくの昔に過ぎている。だが…日中に
藤田に使いを出したおかげで、克哉は御堂が現在…どこの病室に入っているか
その情報を知っていた。
 意識不明状態であるが、大きな怪我はないので…今は個室に
移されて様子を見ている段階らしい。
 午後七時の時点で、面会時間ギリギリに駆けつけた藤田の情報から…
彼は其処までは把握して、そして…病院に忍び込んでいった。
 
―深夜の病院は薄暗く、異様に重苦しい雰囲気を纏っていた

 それでも病院内を定期的に巡回している夜勤の職員に見つからない
ように気を付けていきながら、彼は車椅子を使用している人間用の
避難スロープを用いて、忍び込んでいった。
 病院の裏手という隠された位置にあるせいか、もしくは職員が
こっそりと抜け出すように使っているせいか不明だが…人目につきにくそうな
場所で、入口が開かれている扉があるのは幸運だった。
  それでも…藤田から聞かされた情報だけでは、不安でこのままでは
眠れそうになかった。
 よりにもよって1年前、自分たちが帰ってきた日に御堂が事故に遭った。
 それは…向こうの世界で、御堂を目の前で失ってしまった経験を持つ
克哉にとっては耐え難い程に衝撃的な出来事だったのだ。

(御堂、あんたが無事なのを確認するまでは…今夜は、寝れそうにない…)

 自分がやっている事が褒められたことでないという自覚はあった。
 けれど…胸の中がざわめいて、どうしても止まらなかった。
 足音を忍ばせていきながらどうにか目的の病室へと辿りつき、
慎重に扉を開けて中に滑り込んでいく。
 窓際からは透明な月光が注いでいて…ベッドの上に横たわっている
御堂の怜悧な寝顔を、そっと照らし出していた。
 その硬質な美貌を確認して、やっと克哉は安堵の息を吐いていく。

「…無事、だったか…」

 藤田から、外傷は殆どないとすでに報告は受けていた。
 本来ならここまで不安を感じる必要はないと知っていても、やはり…
この人を一度失った体験は自分にとって大きなトラウマになっていたのだ。
 だからこの目で見るまで、どうしても…安心出来なかった。
 愚かな心配だという自覚はあった。けれど…この人が、大きな外傷もなく
こうして生きていてくれた事…それだけでも、泣きそうなぐらいに嬉しかった。
 まるで夢遊病者のように、眠っている御堂に引き寄せられて彼は枕元へと
歩み寄っていった。
 自分が近づいても、傍らに立っても相手が目覚める気配はない。

(…そういえば藤田の報告だと、朝に事故に遭って…強く全身を打ちつけてから
ずっと…御堂は意識がないままだと言っていたな…)

 朝から一度も、御堂は目覚めていない。
 昏睡状態が続いていると思いだして…ふと、邪な想いが湧きだしていった。
 …藤田も傍らに立って何度か呼びかけたが、まったく御堂が目覚める気配は
なかったという。それならば…自分が口づけても、この場限りのこととして終わるのでは
ないかと…卑怯な考えが過ぎっていく。
 無防備な寝顔を見て…普段は押し込めている想いが溢れてくる。
 …想いを自覚してから、二度とこの人を傷つけまいと殺し続けてきた欲望が…
ゆっくりと競り上がって来る。
 それ以上は望まない。せめて…一度だけでもキスをしたい。
 意識のない相手に向かって望んではいけない筈の想いが、彼の心の中に
満ちていった。

「…一度だけ、許してくれ…御堂…」

 そして、散々葛藤した上で…決断を下して相手の傍らに立ち…ベッドの上に
手をついていきながら顔を伏せて…相手の唇に、己のそれを重ねていった。
 触れるだけの口づけでも、脳髄が痺れそうになるぐらいに甘美に感じられた。
 かつて欲望を満たすためだけに…何度も深く口づけた。
 けれど…今、こうして触れるだけのキスをしている方が心は何倍も満ちていた。
 
「御堂…」

 そして、愛しげに相手の名を呟いていく。
 そう…自分にとって、この人が生きているだけで良いのだ。それを感じられれば
充分なのだ。触れるだけの口づけでも、相手の温もりと吐息を強く感じられる。
 彼は生きているのだと、そう強く実感して幸福で眩暈がしそうだった。
 月光が静かに差し込む室内で…暫く二人のシルエットは重なり続けていく。
 名残惜しげに唇を離して…そっと相手の顔を覗き込む。
 しかしその時、予想もしていなかった反応が相手の顔に現われる。

「…………」

 ゆっくりとその長い睫毛が揺れて…相手の意識が覚醒していく。
 最初は焦点が合わない、虚ろな眼差しだったが…すぐに力強いものへと
変化していく。

「さ、えき…か…?」

 そして相手はどこか困惑した様子で…声を掛けていく。
 一体これはどんなおとぎ話なんだ、と思った。
 恐らく彼が昏睡状態になって…多くの人間が目覚めてくれることを願って
声を掛け続けていた事だろう。
 それが…よりにもよって、彼をかつて廃人寸前まで追い詰めた自分のキスが
この人を目覚めさせるなんて、一体どんな性質の悪い冗談なのだろうか。
 お互いに驚愕の表情を浮かべていきながら、無言のまま見つめ合っていく。

(どうして、今…あんたが、目覚めるんだ…)

 たった一度きりの、自分だけが知っていれば良い。
 そういう意図のキスの筈だった。
 なのにその間に相手が目覚めてしまったのならば…それで通らなくなってしまう。
 けれどこちらを見つめる御堂の瞳は、真摯で力強いものだった。
 その輝きからは恐れていた嫌悪や憎しみの感情は感じられない。
 それが余計に、彼の混乱を強めていく一番の理由となっていった。

「怒らない、のか…?」

「…どうして、君を怒る必要が…あるんだ…?」

「…俺は今、あんたの意識がない間に…勝手に…」

 それ以上は、言いづらくて口に出来なかった。
 けれど御堂は微かに微笑みながら、続きを言葉にしていく。

「…君が私に、キスをした事か…?」

「っ…!」

 相手にストレートに言われて、何も言えなくなる。
 だが予想していた反応は、御堂からは返って来なかった。
 克哉の表情に、怯えたような色が滲む。腫れものに触れたような口づけは
相手の意識がないからこそ出来た行為だった。
  それを相手に知られてしまったら、居たたまれなくて仕方なく…身の置き場すら
なくなってしまいそうだ。
 そしてまた、二人とも沈黙していく。何を言えば、問いかければ良いのか
まったく判らない。頭の中がグルグルして、混乱していた。
 どれくらいの長い間、自分たちはそうして口を閉ざしたまま睨み合って
いったのだろうか。重い沈黙を破ったのは御堂の方からだった。

「…佐伯、私は…君との事を全て…思い出した…」

「…っ! 何、だって…」

 それは、この一年間…佐伯克哉が恐れつづけていた出来事だった。
 失っていた記憶を彼が取り戻せば、二度と自分はこの人の傍には
いられなくなるから。

「…君に凌辱された事、その場面を撮影されて脅迫された事…MGNで
長年掛けて積み重ねていったことを全て打ち砕かれそうになった事…
全てを、思い出した…そして、君をこの手に掛けようとした事もな…」

「そ、んな…嘘、だろう…?」

 克哉は認めたくなくて、否定の言葉を口にする。
 しかしその時、猛烈な違和感を覚えた。
 その事を告げる御堂の表情は何故か…優しかったのだ。
 どうしてこの人はこんな顔をしているのか判らなかった。
 自分のした事を考えれば、憎らしげに睨まれる方が相応しいのに…
何故かベッドに横たわり続ける御堂の瞳は、驚くほど穏やかだった。

「…事実だ。私は、君を刺した日の事を鮮明に思い出せる。この手が
真っ赤に染まり…鈍い感触を掌に感じた事を…」

「は、ははは…」

 その言葉を聞いた途端、全てが終わりだと思った。
 もう…自分はこの人の傍にいられる資格を永遠に失ってしまったのだと
実感していった。
 まるで壊れた人形のように力なく笑いが零れ続ける。
 いっそ正気など完全に失ってしまった方が楽だった。
 けれど…この日はいつ訪れても本来おかしくなかったのだ。だから
どうにかギリギリの処で踏みとどまって、その日が訪れたら言おうと
考え続けていた一言を口に登らせていった。

「…なら、俺はもう…貴方の傍にいられませんね…。仕事の引き継ぎが
出来次第…退職します。それまで、我慢して下さるよう…お願いします」

「…退職、だと。どうして…そんな事を君は言うんだ?」

「どうしてって…俺はあんたに、許されないことをしたんだ…。それなのに、
何故これ以上…傍にいることが出来るんだ…?」

「…なら、逆に問おう。それならどうして…私に刺されて重傷を負っていながら…
君は私の傍に居続けた。私は君を一度は殺そうとした人間だぞ…」

「それ、は…俺があんたを追い詰めて、その原因を作ったからだろう…」

 そう、あの事件の発端は全て自分が作った。
 その自覚があったからはっきりと彼は答えていく。
 だが…次の瞬間、御堂はきっぱりと言い切っていった。

「なら、逆に…言い返そう。追い詰められた果てに、そこから逃げる為に
殺人を犯そうとしたのいうのならば…脅迫よりも凌辱よりも、人を殺める方が
罪は重い。何故なら…殺したら、死んだらもうやり直せないからだ」

「っ…」

 御堂がその一言を放った瞬間、自分が殺してしまった向こうの世界の
彼の事を思い出していった。
 そうして竦んでいると、御堂の手がこちらの方に伸ばされていく。
 そして…ぎこちない動きで身体を起こし、克哉の頬に触れていった。
 指先は温かくて優しくて、それだけで涙が零れてしまいそうだった。

「…私は、君を殺そうとした。…なら、君も…私を詰り、その罪を
糾弾する資格はある…。自分ばかりが加害者だと思うな。
私も、君の前では…咎人、だ…」

「…そんな、事はない。俺は…あんたを…」

 そうして、脳裏に…ずっとこの一年間消えることがなかった向こうの世界の
御堂の死に顔が蘇っていく。
 けれどこの世界では御堂は生きている。
 こちら側で起こった、自分の刺殺未遂事件だって…今ではなかった事に
なっている。
 けれどどれだけなかった事になっても、記憶に刻まれたお互いの罪は
決して消えることはない。
 御堂に頬を撫ぜられてそれ以上、何も言えなかった。
 そんな克哉の方へ彼はそっと顔を寄せて…唇を重ねていった。

「っ…な、ぜ…?」

「…これ以上…自分を、責めるな…君がどれだけ…この一年、私に対して…
償おうとしてくれていたか…もう、知っているから…」

 その瞬間、克哉は耐え切れず…涙を零していった。
 こんなの不意打ち以外の何物でもなかった。
 ずっと誰にも言えなかった胸の底に秘めていた想いが溢れて来る。
 それが泪の結晶となって、彼の頬を濡らし続ける。

「嘘、だ…こんなのは、俺の…都合の良い…夢…だ…」

「違う。…私は、君を許したんだ。…この一年間、君は…誰よりも私の仕事を支えて
必死に働いてくれた。…そう、思い出すまで私は…君を心から信頼していた。
だから…思い出して腸が煮えくりかえるような想いだってある。…だが、それ以上に
今の私は…君を、失いたくないんだ…。どんな形でもな…」

「あんたが、俺を信頼…それこそ、何の冗談なんだ…?」

「事実だ。私は君以上に有能で…こちらの意図を的確に読み取って
動き続けてくれた部下…いや、仕事上のパートナーは存在しなかった」

 真っ直ぐに清冽に見つめられて、魂まで捉えられそうだった。
 だが相手は真剣な顔で、こちらに伝えてくる。
 心臓が破裂しそうなぐらい暴れ始めているような気がした。
 この誰よりも全てに厳しくて、有能で輝いていた人に認められる言葉を
告げられるだけで昇天してそのまま逝ってしまいそうなくらいだ。

「…むしろ、全てを思い出して…怯えているのは私の方だ。私は…
君を右腕として失いたくないんだ…。例え君が、かつて私に対して
非道な行いをした人間だと判ってもな…」

「嘘、だろ…。そんな都合の良い話が…ある訳が、ない…」

 御堂の唇から零れる言葉の一つ一つが、信じられないものだった。
 紡がれる度に彼はショックで茫然となっていく。
 嬉しさよりも信じられないという想いの方が強く、克哉は動揺の色を
どんどん濃くしていった。

「…私は本心を言っている。これは全て事実だ。信じてくれ…」

 そういって御堂がこちらの背中に腕を回していく。
 強い力で抱き締められて、目頭が再び熱くなるようだった。
 けれどこうしてこちらを抱きしめる御堂の腕は熱くて…これは夢ではないと
はっきり克哉に教えてくれていた。
 その瞬間、堰を切ったように克哉はその身体を抱きしめ返していく。

「御堂…!」

「佐伯…許して、くれ…」

「違う、それは…俺の方こそ、あんたに言わなければいけない…事だ…」

 お互いに後悔の気持ちを持ちながら、強く抱きあい…謝罪の言葉を
口にしていく。
 そう、どちらが加害者で被害者という関係ではない。
 …両者とも、相手に対して罪を犯しているのは事実なのだ。
 後一歩で取り返しがつかない事態を招きかねなかった罪であり、咎。
 そう…記憶を失った上で、御堂に献身的に尽くして支えたことが…再び記憶が
蘇った時、克哉を許す最大の理由となったのだ。
 そして元来、公正な性格をした御堂は…己の咎をも認めた。
 自分ばかりが被害者ではないのだと、過ちを犯しているのだと自覚して…その上で
克哉だけを責めるのは筋違いだと考え、相殺する事に決めたのだ。
 人は誰でも過ちを犯す。人を傷つけて泣かせたり、どうしようもなく追い詰めて
取り返しのつかない事態を招いてしまうこともなる。

 生きている限り、時に加害者となることは決して避けられない。
 罪を犯さずに生きられる存在など、生きてきた年数を何十年と重ねていたら
決して不可能なのだから。
 罪悪感は人を縛って、人を過去に雁字搦めにしていく。
 けれど…罪を自らが長い年月を掛けて認めて受け入れていくか、傷つけた相手に
許されるかした時…人はようやく解放されるのだ。
 長らく自分を縛りつけていた罪から解き放たれるには…酷く困難で、償うのは
並大抵のことではない。
 けれど…この一年の、克哉の何も望まない献身的な行為こそが…御堂にとって
彼を許すキッカケとなった。
 だから全てを思い出した御堂の瞳に、憎しみの色がなかったのは…この一年を
共に過ごした信頼が生まれていたからだったのだ。

「…私が事故を起こしたのは…一年前のことを全て思いだして、その頭痛で
運転中に数秒…意識を失ってしまったからだ。そして意識を失っている間…
私は怒涛のように、忘れていた記憶の奔流を感じていた。
 それで君に対しての怒りと憎しみを、そして…君を刺してしまった罪を
ようやく思い出したんだ…」

「そう、か…やっぱり数日前のあの頭痛は…その予兆、だったんだな…」

「あぁ、その通りだ…」

「けれど…俺を刺したことは気にしなくて良い。俺はそうされるだけの事を
あんたに対してしたんだ。だからあれは自業自得で…あんたを
責めることじゃない…」

 その言葉を心から信じて、男は口にしていく。
 御堂は彼の一言を聞いて、はっきりと告げていった。

「君は…強いな。殺されかけても…私を責めもせずに…
許す、とはな…」

「…そんな、大したことじゃない」

「良いや、大した事だ。だから…君が私の罪を責めないのならば…
私だけが恨みに思う道理はない。それが私の出した…結論だ…」

「そう、か…」

 全てが信じられなかった。
 けれどこうやって触れ合っているのは事実で。
 本当にこれは現実に起こった事なのかと頬を抓りたくさえなった。
 けれど静かな瞳でこちらを見つめて、そっと抱き締めてくれている
御堂の温もりは現実だった。
 何も、望まないつもりだった。二度とこの人から何も奪わない。
 そう決めたつもりだったのに…こんな結末が待っているなんて
予想もしていなかった。
 嬉しくて、先程とは違った意味で涙が頬を伝っていく。
 その瞬間、彼はもう一人の自分が最後に言った言葉を…何があっても
御堂の傍から離れるなと告げた時の事を思い出していく。

(…あの時、罪悪感に負けて…御堂の元から去るのを選択していたら…
この日を迎えることも、なかったんだな…)

 いつだっていつ壊れるか判らない現実に怯えていた。
 けれど彼は贖う為に苦しくても、彼の傍に居続けて支え続けた。
 そう、憎しみは晴れるのだ。罪を犯した者が、傷つけた者に向き合い
贖う事によって。
 けれど大半の人間は己の罪に向き合うよりも…苦痛から逃げる方を
選択するものだ。けれど逃げた人間は一時楽になったとしても…
その罪を浄化するのに長い年月を掛けなければならない。
 これだけ早く、相手の心の憎しみが晴れたのは…彼が己の胸の痛みよりも
彼を支える事を迷いなく選んだ…結果なのだ。
 暫し様々な複雑な思いを抱きながら、彼らは抱き合い続けた。
 そして先に口を開いたのは、克哉の方からだった。
 
「…なら、お互いの罪を流そう。そして…一から、あんたとの関係を
再びやり直させてくれ…。それが俺の願いだ…」

「本当にそれで、良いのか…?」

「あぁ、それ以上の望みなんて、存在しない…」

 一度は彼を失ったことを思えば、必要とされて傍にいることを許される以上の
幸せなど存在しない。
 今なら、言えると思った。決して口にすまいと思っていた言葉を。
 けれどそれ以上に伝えたくて仕方なかった一言を彼はやっと喉の奥から
絞り出して告げていった。

「俺は…あんたを愛しているんだ。あんたの傍にいることを許される
以上の喜びなんて、存在しない…」

「さ、えき…」

 そう伝えた時、御堂は微笑んでくれた。嫌悪しないでくれていた。
 それだけで…自分にとっては僥倖なのだ。
 嬉しくて彼はもう一度、自分から顔を寄せていく。
 御堂はそれを拒まず、静かに瞳を伏せて克哉からの口づけを
受け入れていった。

―この瞬間に全てが一度終わり、そして始まっていった

 これから先、自分たちの関係がどうなるかなどまだ判らない。
 けれど御堂は、克哉の存在を…想いを否定せずに受け入れた事、それは
紛れもない事実だった。
 そして強くその身体を抱きしめながら、克哉は告げていく。

『あんたがこの世界に存在してくれれば、それで良い…』

 それは一度、喪失を味わった人間だから零す一言。
 御堂はそれを困惑した表情を浮かべながらも…受容していった。
 あまりにストレートすぎる一言に、御堂の方は絶句して耳まで赤く
染まっていった。
 ついには照れ隠しに、コホンと咳ばらいをして彼の方からも伝えていく。

「…君が、こんなに熱烈な言葉を平然と口にする男だとは思ってもみなかった…」

「俺は、自分が思ったことを正直に口にしただけだぞ…?」

 相手の照れた顔がまた可愛くて、克哉は強気に微笑んでみせる。
 二人の間に初めて、甘い空気が満ち始める。
 そうして頬を染めて俯いている御堂の顎を捉えて、そっとこちらの方を
向かせていくと…彼は決意を伝えるように、はっきりと宣言していった。

「あんたが俺が傍にいることを許してくれている限り、俺からは絶対に…
あんたの傍から、離れない…」

「あぁ、そうして…くれ…。罪悪に囚われて、勝手に離れたりしたら…
本気で怒るからな…」

「その言葉、あんたにそっくり返すよ。…愛しているぞ…御堂…」

「…っ!」

 そうして反論しようとした御堂の唇を、克哉は塞いでいく。
 そして…口づけている間に、ようやくこの人を腕の中に収めることが出来たのだと
永遠に叶わないと思っていた夢が叶ったことを思い知っていく。
 この想いが成就することは、咎を犯した自分にとっては永遠に見果てぬ夢の
筈だった。それが叶うなどどれほどの幸せなのだろうか。
 彼はその幸せを噛みしめながら、抱きしめ続ける。この幸福が、儚いもので
終わらないように、一日でも長く続くように願いながら…。
 その瞬間、運命の日は終わりを告げていく。
 そして一瞬だけ…病室の鏡が眩く輝き、世界に白い光が満ちていった。

「っ!」

 その時、彼は束の間…二度と会えないと決別した存在の面影を
鏡の中に見ていく。
 だがすぐに気を取り直して、相手に口の動きで判るように短い一言だけ
告げていった。
 そして彼はただ強く、御堂の身体を強く抱きしめ続けていった。

―その鏡に映っている存在に、今…自分は幸せだと確かに伝えていく為に…



   
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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