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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                         10 11  12 13   14 15
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―あの不思議な世界は、本多と克哉の意識が重なって生まれていた場所だった

 だから…すでに世界を隔ててしまっていても、僅かにまだ繋がっている
リンクを辿る形で…克哉の意識は、本多の精神と繋がり…そういう形で
彼の目覚めを体験し、知る形となった。
 長く暗いトンネルから抜けて、ようやく光を見たような気分だった。
 身体全体が鉛のように重く、指先一本動かす事すら億劫だった。
 克哉には何も干渉する事は許されない。
 本多の目を通して、かつていた世界にて…彼の目覚めた直後の場面を、
そしてその心中を伺い知る事になっていた。

「うっ…」

 本多の唇から、微かなうめき声が漏れていく。
 自分の身体じゃないような、猛烈な違和感を覚えつつも…どうにか瞼を
開けていくと、其処には誰かが傍にいた。
 部屋の電灯は、消されている。
 漆黒の闇に覆われている夜の病室…視界が満足に効かないままで
指先をどうにか伸ばして、上に上げていくと悲鳴が聞こえた。

「…本多! お前…もしかして目覚めたのか?」

 二年間、寝たきりになっていた本多が指先を挙げた事を暗闇の中、
微かに浮かんでいたシルエットで察したらしい。
 慌てて誰かが、部屋の電灯を点けていくと…一瞬、蛍光灯の光で
目が焼かれるかと思うぐらい眩しく感じた。
 瞼を閉じて、その状態で光に目が慣れるまで静かに待っていく。
 そしてゆっくりと瞳を開けていけば…其処には松浦宏明が立っていた。

「本多…まさか、本当に…目覚めて、くれた…の、か…?」

「ああ、そうだ…。一体、どれくらい…寝ちまっていたのか、正直…
判らないんだがな…」

「二年、だ…。二年も…お前は、眠って…いたんだ、ぞ…ぅ…」

「宏明…?」

 みるみる内に、松浦の瞳が涙で滲んでいく。
 ようやく、待ち望んでいた目覚めの時を迎えて…胸の奥に秘めていた感情が
堰を切ったように溢れていった。

「良かった…本当に、お前が…目覚めてくれて、良かった…!」

「………そっか、俺は…二年も、眠ったまま、だったのか…。
なあ、お前…どうして、俺がこんなに長い間眠るようになったのか…
その原因を、知っているのか…?」

「えっ…?」

 心から、そう実感して松浦が言葉を紡いでいく。
 佐伯克哉に嫉妬をして、彼を強制的に排除しようとした事によって…自分に
とって大切な人間を刺して、二年も昏睡状態に陥らせてしまった。
 その罪の意識が…ようやく、本多の目覚めを持って少し軽くなった気がした。
 だが、彼が呟いた言葉に松浦は怪訝そうな言葉を漏らしていく。

「…わりぃ、何か…良く、思い出せねぇんだよ…。俺に何があったのかも…
どうして、二年も眠る事になったのか、そのキッカケがイマイチ思い出せない…。
何か、知っているんだったら…教えて、くれないか…?」

「っ! …その話、本当…なのか…? お前は、あの日の事を…
忘れて…しまっているのか…?」

「…お前、何があったか知っているのか…?」

 本多は、真剣な目をしながら松浦に問いかけていった。
 きっと、外から見たら…本多は本気で言っているように見えるだろう。
 だが…彼の精神にシンクロしている克哉は、それが本来腹芸など出来ない
本多の精一杯の演技であり、ハッタリである事を感じ取っていった。
 しかし本多が問いかけた瞬間、松浦は苦悶の表情を浮かべていった。
 他ならぬ犯人である松浦に、事実をありのままに話す勇気などいきなり
持てる訳がない。
 しかし考え抜いた末で…相手は、こう返してきたのだった。

「…すまない。俺は…詳細は良く、知らない…。ただ、お前が公園で刺されて
病院に搬送されたという話だけを知っているだけだ…」

 それが、松浦にとって答えられるギリギリのラインだった。
 雨の降りしきる公園で本多を刺したあの日の事を忘れてくれているのなら…
むしろその方が松浦にとっては望んでいた事だったから。
 怯えたような、縋るような顔を向けていきながら…松浦は小刻みに
肩を震わせていた。

「…そっか…。俺は…それで、眠っちまったんだな…」

「ああ、そうだ…」

 そして、暫く沈黙が二人の間に落ちていった。
 本多は少しの間、口を閉ざして考えていってから言葉を紡いでいく。

「…なあ、正直…二年も眠っちまって…俺は、どうして良いのか…判らないんだ…。
イマイチ、意識を失う前の記憶も曖昧だしな…。けど、お前さえ良ければ…少し
力を貸して貰えないか…? どんな出来ごとが俺が眠っている間にあったのかとか
教えて貰えるとすっげぇ助かるんだけど、良いか…?」

「と、当然だ…。それくらいなら…幾らでもしてやる!」

 松浦は、本多の言葉に即答していった。
 それこそ、彼が何よりも望んでいた事だったから。
 本多が自分を許してくれるかどうか判らなかった。
 けど…許されるなら、償いとして精一杯の事をしたい気持ちが強くあったから。
 だから力強くそう答えていくと、本多は…小さく笑って答えていった。

「ああ、頼むよ…。正直、俺は細かい事とか良く判らないから…しっかりしている
宏明に手助けして貰えると…すげぇ、有り難いからな…」

「…あぁ、お前がそういう煩雑とした事が苦手な性分だって判っている。そういう
フォローは慣れているから…心配するな」

「ん、サンキュ…」

 そして本多は笑みを浮かべていくと…松浦は、堰を切ったように涙を
溢れさせていった。
 其れは安堵と、喜びの入り混じったものだった。
 
「本当に…本当に…お前が、起きてくれて…良かった…!」

 そして松浦は、そう言葉を漏らしていった。
 変わらぬ態度で本多が接してくれている事に、感謝してそう漏らしていった。

(そう、俺は忘れる…。あの日の出来ごとを忘れて…一からやり直すんだ。
克哉が…俺の事を忘れて、新しい一歩を踏み出したように…俺も、「あの日の
出来事」は何もなかった事にして、生きていくんだ…。じゃなきゃ…宏明は
きっと、罪の意識を抱えたまま生きる事になっちまうからな…)

 松浦のその言葉を聞いた瞬間、本多のその強い思いを克哉は感じ取っていった。
 そう…忘れた、というのはウソだった。
 本多は二年前のあの日の事も、克哉がすでに別の世界で生きる事になって
いる事実も全て把握していた。
 けれど…友人を少しでも楽にする為に、精一杯の嘘をついていったのだ。
 人は…一日の間に起こった事の97%は意識して記憶を留めるように
しなければ自然に忘れていくという。
 忘れる、という事が出来るから人は立ち直る事が出来るし…やり直し、
再起の道を歩むことが可能になるのだ。
 お互いを縛り、苦しみだけを与える記憶なら意識して忘れるようにして
しまえば良い。
 始めからなかった事にしてしまえば、お互いに楽になれる。
 そう判断したからこそ…松浦を案じて、本多はそうする事にしたのだ。
 
―其れを感じ取って、克哉はただ…本多という男の器の大きさに…
尊敬すら覚えていった

 そして本多と松浦の間に沈黙が落ちていった。
 それはとても優しい空気が流れている時間だった。
 ゆるやかに克哉のリンクが解けて、意識が再び遠くなっていく。
 一時の、夢から醒めていく最中…最後に、克哉は強い思いの声を
聞いていった。

『克哉…どうか、幸せにな…。俺は、もう会えないけれど…こっちで
精一杯やっていくから。どうか…お前も、新しい道を歩んでくれ…』

 其れが、最後に聞いた本多の声。
 リンクが途切れて遠くなっていく自分に宛てて言っているような
言葉だった。
 
 そして、克哉の意識は徐々に現実に引き戻されていった。

―彼が、新たに生きる世界の方にと…
  
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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