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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  2009度のクリスマス小説。(年跨ぐかも知れませんが…)
  克克ものです。ちょっとダークなサンタクロースの逸話を
  軸に使っているので宜しくです。
  コミカルだけどちょっとヒヤっとする記述がある雰囲気の
話に仕上げる予定~。

  白と黒のサンタ   

 ―克哉が通話ボタンを押すと、其処からは予想もつかなかった
声が聞こえてきた。

『こんばんは~! 一日早いですがメリークリスマス! ですね…。
お久しぶりです、お元気でしたか?』

「…っ? Mr.R! ど、どうして…?」

『おやおやせっかく久しぶりに再会したというのに実につれない返事ですね。
私はこうして貴方に出会えて、心から嬉しいというのに…』
 
 克哉がこうしてMr.Rと電話で会話するのは初めての経験だったが、
こういう形でも相手の芝居がかった口調や内容は一切変わらなかったのに
驚きだった。

(どうしてこの人…こんなにも存在のすべtが胡散臭いんだろう…?)

 心の底から思って、そう突っ込みたかったが話の流れを根本から
崩すような気がして、辛うじてその言葉を飲み込んでいった。

「…それで、オレに一体何の用ですか…?」

『明日はクリスマスですからね。…せっかくこうして貴方と再会出来た
お祝いに本日はささやかなサプライズをお部屋に用意させて頂きました。
 何も通知しないでおいたら…貴方が警察なんて無粋なものに連絡をして
私が立てたお膳立てを全てダメにされてしまう可能性があると思ったので
こうして伝えさせて貰いました…』

「…サプライズ…?」

『えぇ、必ず貴方に驚いて貰える事は確信しています…』

 自信たっぷりに相手がそう口にしたのを聞いて…申し訳ないが克哉は
猛烈な不安を感じていった。

(Mr.Rからのサプライズ…ううっ、一体どんなとんでもない物を
今度は用意してくるっていうんだよ…!)

 克哉はそんな心の叫びを、ギリギリの処で飲み込んでいった。
 限りなく不安だ。
 嬉しさよりもそっちの方が先立つのが本音だったが、それでも周りの
人間の空気や機微を読み取る性格の克哉にとっては、やはり正直に
口に出すことは出来なかった。

「…一体、何を用意したんですか…?」

『おや…それを予め貴方に教えてしまったらサプライズになりませんでしょう?
心配しなくても貴方に危害を加えるようなものは用意していないとだけ伝えて
おきましょう…。それだけでも少しは違いますでしょう…?』

「えぇ…まあ…」

 克哉は曖昧に頷いて、言葉を濁していった。
 相手が口を開けば開くだけ黒いインクの染みのようなものが克哉の
心の中に広がっていったのだが、それを声には出さないように努めた。

「さあ…私との長話はこれくらいにして、そろそろ…ご自分の部屋へと
向かって下さい。貴方が私からの贈り物に満足することを祈って
いますよ…」

「あ、ちょっと待って下さい! もう一つだけ聞かせて…あっ!」

 克哉がふと浮かんだ疑問を相手に問いただそうとした矢先には
通話は唐突に途切れていった。
 克哉はその場で呆然となるが…すぐに気を取り直していった。

「あぁ…一方的に掛けて語り捲くって、こちらから質問をしようとした
途端に切るんだもんな…。電話の仕方まで神出鬼没でなくって良いじゃないか…。
さて、どうしようかな…」

 克哉は半ば途方に暮れながらも…どうにか気を取り直して改めて
自分の部屋を見ていった。
 もしかして自分の部屋から見えた先程の人影はMr.Rで…
部屋からこちらの携帯に掛けて来たのだろうか?
 泥棒とかが勝手に入られたら大変だが、あの男性の場合は本当に
何でもない顔をしてこっちの部屋に入ってくるぐらいの芸当は朝飯前に
こなしてしまう印象がある。

「…部屋にいるのはMr.Rなのか…? それなら、警察に通報しないで
部屋に上がっても…平気、かな…・?」

 自信なさげに克哉は呟いていくが…その瞬間、冷たい夜風が住宅街を
勢い良く吹き抜けていったので猛烈な寒さを覚えていく。

「寒っ…! ううっ、いつまでも悩んでいても仕方ない…! こんな処で
迷い続けて風邪を引くのも何かバカらしいし…! そろそろ行こう!」

 今の冷たい風を受けて、ようやく克哉は決心していった。
 そうして恐る恐るながら自分の部屋の方に向かって足を進めていった。
 階段を使用して自分の部屋があるフロアまで辿り着くと、自然と克哉の
顔も強張っていく。

「ううっ…一体何が用意されているんだろ…」

 部屋の鍵をカバンから取り出しながら、克哉は不安そうに呟いていく。
 だが、ここにいつまでも突っ立っていても身体が冷えるだけだ。
 キュッと唇を噛み締めて、決心して…克哉は鍵を使って開錠して
ドアノブに手を掛けていった。
 カチャリ、と小さな音が耳に届いていく。

「よし、行こう!」

 そうして克哉はゆっくりと自分の部屋の扉を開いて、慎重な足取りでリビングの
方へと向かっていったのだった―
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 ※ちょっと最近プレイしたゲームの中に
白と黒のサンタという話題が出たのでつい
克克に当てはめて思いついた話です。
 やっぱり白と黒! と言ったらコントラストも
あるし…この二人だろ! という感じのクリスマスネタです。
 たまには克克書かんと調子が狂うので始めます。
 そんな感じですが、宜しく!!

―なあ、知っているか? サンタクロースに纏わる話の中には
とても悲しいものがあるって…例えば…

 クリスマスを前日に控えたある夜、克哉はトボトボと一人…
帰路についていた。

(あ~あ、明日にはクリスマスか…。今年ももうじき終わりだよな…。
今年も一人で過ごすのかな…オレって…)

 大学時代に最後の彼女と別れてから、一人ぼっちでクリスマスと
大晦日を過ごすことなんて慣れっこになっていた筈なのに
今年に関しては若干の寂しさを覚えてしまっていた。
 当然、そんなのは感傷であるという事は自分でも判っているが…
人肌に何度か久しぶりに触れてしまったことで、侘しさはひとしおだった。

(今年は本当に…色々あったよなぁ…)

 先月末には無事にプロトファイバーの営業が終わって、状況も
落ち着いているから…振り返る余裕もあるが、今年の秋の初めから
つい最近まではそれこそ克哉にとって天地がひっくり返るような
出来事が目白押しだった。
 Mr.Rと出会い奇妙な眼鏡を渡されてからの数ヶ月間は
本当に色々なことがあった。
 秋紀という少年と目覚めたら一夜を過ごした形跡があったり…
長年親友だと思っていた本多に迫られたり、太一に思いがけず告白
じみた発言を言われたり、片桐に妙に意識されてるっぽい態度を取られたり、
御堂に執着されている? と思われるような発言をされたりと…
どうして今まで色事に殆ど縁がなかったのに同性の相手とばかり
微妙なことになっていた。

(まあ…その原因の殆どはあいつのせいなんだけどな…)

 つい、もう一人の自分の顔が不意に浮かんで…克哉は軽い苛立ちと
羞恥を覚えていった。
 この微妙な状況は、もう一人の自分が周囲にいる人間にチョッカイを
掛けたからというのは判っているのだが…やはり、ちょっと腹立たしかった。
 本気でどうしようと思うのは…何故か克哉自身も相手の毒牙に
掛かって…同一人物同士であるにも関わらず、抱かれてしまったのだ。
 しかも二度もだ。
 だから相手の顔を思い浮かぶとどうしても克哉は羞恥を覚えてしまうのだ。
 あの生々しく、おかしくなりそうなセックスを思い出すだけで…頬が
火照って心臓が壊れてしまいそうだった。
 思い出した瞬間、閑散としている住宅街を歩いているにも関わらず
カッカっとなるようだった。

(あいつの事なんて考えたって仕方ないのに…。そもそもまともな
関係じゃないし…クリスマスにわざわざあいつが来てくれるなんて…)

 そんな事、ある訳がない。
 あいつにそんな甘ったるい行動は似合わないと心から思った。
 歩きながら色んなことを逡巡している内に…いつの間にか克哉は
自宅のマンションの前に辿り着いていた。
 そして自分の部屋を、半分諦めモードで眺めていくと…。

「っ…?」

 その瞬間、克哉は信じられないものを見た。
 自分の部屋に明かりが灯り、しかも…人影らしきものがフっと
横切っていくのを確かに目撃してしまったのだ。
 克哉はパニックになりかけていく。
 確かにオートロック式のマンションのようにセキュリティが
万全な処に住んでいる訳ではない。
 だが克哉は今朝は間違いなく電気を消して、鍵をキチンと掛けて
家を出ていった筈だ。
 その記憶に間違いはない。
 それなのにこうして…誰かが部屋に入り込んでいる事実に
驚愕を覚えていた。

「だ、誰が勝手に上がりこんでいるんだよ…!もしかして、空き巣か
何かかな…! それだったら携帯電話を取り出さないと…!」

 もし空き巣だった場合は克哉一人で手が負えない可能性がある。
 万が一の事を考えて警察に一声掛けておいた方が良いだろうと
判断して慌てて携帯を手に取ろうとした瞬間、着信音が聞こえた。

「どわわわっ!」

 タイミングがタイミングなだけに克哉は素っ頓狂な声を出していく。
 だが、自分の部屋から着信がある事実に気づいていくと、恐怖すら
覚えていきながら…克哉は暫く悩んでいった。

(一体オレの部屋から誰から…電話が掛かっているんだ…?)

 その事に暫く悩み、十回程度コール音が夜の住宅街に響き渡っていく。
 正直、出るのが怖いという想いがあったが…このままでは埒が明かない。

「いいや! とりあえず出よう。まずどうするか考えるのはそれからだ…!」

 そうして克哉は勇気を振り絞って…通話ボタンにそっと押して、
電話に応対していったのだった―
 この記事は姉に等しい人の結婚式を前に
スーツ買ったら入らなくて、ダイエットするのを決めた
香坂の近況を軽く報告している内容です。
 どうでも良い! という方はスルーして下さい。
 読んでやっても良いという方だけ「つづきはこちら」を
クリックしてやって下さい。

※御克前提の澤村話。テーマは桜です。
 桜の花が舞い散る中、自分という心が生まれる前のことを
探り始める克哉がメインの話です。後、鬼畜眼鏡Rではあまりに
澤村が不憫だったのでちょっと救済の為に執筆しました。
 やっと完結しました。非常にお待たせしましたが…ここまで
付き合ってくださった方、どうもありがとうございました!!

 桜の回想                      10  
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 満開の桜の花は見ていると心が華やぐ。
 だが桜が舞い散っている姿はどこかもの悲しく、同時に
儚い美しさを感じていく、
 それは散りゆく終末の美だった。
 こんなにも綺麗な花なのに年に一回しか咲かない上に、十日前後で
あっという間に全て花を散らしてしまうからこそ…この花はこんなにも
人の心を捉えていくのだろう。
 風が吹き抜ける度に、大量の花びらが舞っていく。
 桜の時期も、もう終わりだと告げている合図だ。
 明日にはきっと、この辺りの桜の木も寂しい佇まいになるだろうし…
数日後には花の姿は完全に消えてしまうだろう。
 そうなれば来年まで、この鮮やかな光景は見納め担ってしまう。
そう感じて佐伯克哉は網膜に焼き付けようと…河川敷に規則正しく
植えられている桜並木を眺めていった。
 
―その瞬間、ブワっと涙が再び溢れて来そうだった
 
 脳裏に浮かぶのは卒業式の日に袂を分かった二人の少年の情景。
 悲しいすれ違いの果てに二人は決別するしかなかった。
 その中に自分の存在がいたから、という思いが再び生まれてくるのと同時に、
頭の中に鮮明に一つの声が響いていった。
 
―いいや、それは違うぞ。これは俺と紀次との間に起こったことであり、
お前は関係ない…
 
「っ…!」
 
 その声が久しぶりに頭の中で響いた瞬間、克哉はカミナリに
打ち抜かれたぐらいの衝撃を覚えていった。
 
「『俺』っ…! お前の声が、どうして…」
 
―今日はたまたま、調子が良いみたいだな…。久しぶりに意識がはっきり
している…。だからお前と話せるだけだ…
 
「そう、なんだ…良かった…」
 
 記憶の中にある通りの不遜な物言いに克哉はまた涙腺が
緩みそうになっていく。
 かつては彼の存在に怯えていた時期もあった。
 けれど今は…ただ懐かしい想いだけが湧き上がっていく。
 溢れた涙で、視界が大きく歪んでいく。
 鮮やかな桜の花が、まるで水の中に浮かび上がっているかのようにぼやけて
…淡く見えていった。
 その瞬間、克哉は幻を見た。
 幻想だと解っていても、その光景を涙を流しながら眺めていった。
 
―大人になった澤村と眼鏡が、笑いあいながら楽しそうに過ごしている場面を…
 
 
 それはきっと、眼鏡自身も叶わぬ夢である自覚はあるのだろう。
 けれどきっと…克哉と澤村のやりとりを聞いて、それでも願ってしまったのだろう。
 
(これは…きっと、お前が叶えたかった夢なんだな…だから、こんなにも
鮮明に見えるんだ…)
 
 もう一人の自分の存在をこんなにも強く感じるのも、きっと澤村の言葉に
大きく心を揺り動かされたからだろう。
 それだけ離れていても、長い年月が過ぎても…眼鏡にとっては澤村は
大きな存在だったのだ。
 それ以上に大切な人間を作れなかったからこそ、今もまた…どれだけ
否定しようとも、もう一人の克哉にとってはあの青年は大きな位置を占めている。
 それがこの幻想に大きく現れていた。
 
「これが、お前が本当に望んでいたことだったんだな…」
 
―そうだ。だが、お前が気にしなくて良い…。俺が勝手に未練がましく
望んでいるだけの話だ…
 
「…ううん、けど…お前がこんなにも大切に想っている人とオレは決別を
する選択をしてしまった…。それで本当に…良かった、のか…?」
 
 躊躇いがちに克哉は問いかけていく。
 そして一呼吸置いてから、眼鏡はゆっくりと答えていった。
 
―前が当たり前の顔をして、紀次の親友の座に収まったらその方が
俺は怒っていただろうな…
 
「っ!」
 
 それは遠回しに、克哉の選択を容認している言葉だった。
 
―あいつは俺の、親友だった。だが、お前の親友と呼べる存在は本多と
太一、片桐の三人だろう? 心から信頼して大切の想っている関係。
だが…お前と紀次は、関わりを殆ど持っていない。言葉すら満足に
交わした事がない間柄だ。なら…こうなる事がむしろ自然だろう…? 
何を気にする事があるんだ…?
 
「そう、だね…」
 
 もう一人の自分の声は思いがけず優しく、また克哉は静かに
目から滴を零し始めていった。
 この一言で克哉は確かに、罪悪感が和らいでいくのを感じていった。
 
『ありがとう…』
 
 心の中で克哉は強くそう想っていく。
 それが眼鏡にも伝わったのだろう。少しして相手が照れたような
そんな気配がした。
 
―お前が生きていて良いんだ…
 
 たった一言の言葉が、克哉を救っていった。
 他ならぬ、この身体の本当の人格であったもう一人の自分。
 克哉が生きていることで、結果的に身体の主導権を奪って…
影に追いやってしまった存在から赦しの言葉を言われること。
 それ以外に、この苦い気持ちを消す方法は存在しなかった。
 そして相手は…与えてくれた。認めてくれた。
 
『自分が生きていても良い』
 
 それが…彼の心に巣食っていた罪悪感をゆっくりと溶かしていく。
 氷のようにそれは克哉の中で固まり、凍り付いていた…それが消えて、
ゆっくりと涙という形で表に流れ出していった。
 
「ありがとう…ありがとう…」
 
 そして克哉もまた、相手に礼を告げていった。
 お互いに感謝の気持ちを相手に伝え合うことで…心が判りあえた気がした。
 
(ああ…そうなんだ。御堂さんに認めて貰えたのはとても嬉しかったけれど…。
それ以上に『自分自身』に認められる事はこんなにも…嬉しいんだ。
自信って言葉の意味を…ようやく実感出来た気がする…。自分に信じられる、
認められない限り…本当の自信なんて、生まれる訳がなかったんだな…)
 
 かつての曖昧で、弱々しかった頃の自分が随分と遠くに感じられる。
 今、御堂と…もう一人の自分に認められた克哉は、ようやく地に足をつけて
生きているという実感を覚えていった。
 人は誰かに必要とされて、本当の意味で満たされる。
 どれだけ自己満足を繰り返そうとも、満たされるようには作られていない。
 他者と関わり、心を通わせ…血と心の通った関係を生み出すことが
本当の意味での自信に繋がっていくのだ。
 
―俺にそんな礼など言わなくて良い…。さあ、御堂が待っているんだろう…。
早く帰ってやると良い。…お前の生きるべき場所は其処なのだから…。
だから過去を振り返らなくて良い…前を見て、生きろ…
 
「うん…判っているよ…『俺』…」
 
―そう、それで良い…
 
 その瞬間、克哉は見た。
 強風が吹きぬけて大量の桜が舞い散る中…一瞬だけ、もう一人の
自分の残影が見えた。
 懐かしくて見ているだけで…胸が潰れそうだった。
 瞳が潤みそうになる。
 だが、泣きそうになった瞬間…相手ははっきりと告げた。
 
『笑えよ…お前の泣き顔など、辛気臭くて見たくない…』
 
 そう憎まれ口を叩いた相手が妙に愛しく感じられて、克哉は泣き笑いに
感じになったが…それでもどうにか口角を上げて笑っていく。
 瞬間、もう一人の自分も瞳を細めて笑っていった。
 これ以上、何を伝えば良いか判らなかった。
 胸が詰まって言葉が上手く出てくれない。だからせめて笑い続けて
相手を見つめていった。
 そして…桜の花が一斉に散ったのとほぼ同時に…相手の残影は、
完全に消えていく。
 だがその時には克哉の胸には火が灯ったかのように暖かい想いで満ちていった。
 
『ありがとう…』
 
 そして姿と気配を消した相手に向かって、最後に呟いた瞬間…着信音が
聞こえていった。
 
「っ…! 孝典さんからだ!」
 
 克哉はその音に一気に現実に引き戻されて慌てて上着から携帯電話を
取り出して…通話ボタンを押して対応していった。
 
「もしもし、孝典さん! すみません…連絡が遅れてしまって…」
 
『いや、別に良い。私もついさっきまで仕事をしていたからな…。それよりも
今日は八時には自宅に帰れそうだ…。君に手間を掛けさせてしまうが、先に
帰宅して簡単なもので良いから夕食を用意しておいて貰えるだろうか…?』
 
「えぇ、大丈夫です。今日は直帰の予定ですから…ここから真っ直ぐに電車で
帰れば八時には確実に間に合わせますから…。美味しい物を作って待っています。
孝典さんも…もう少し仕事頑張って下さいね」
 
『うむ、君の愛情のこもった手料理を楽しみにさせて貰おう。それでは
失礼するぞ…』
 
「はい…」
 
 その瞬間、克哉は幸せそうに微笑みながら頷いて…余韻を残しながら
通話を切っていった。
 今の自分には帰るべき場所がある。
 この世で一番愛しく、そしてこちらを愛してくれている存在がいる。
 その人とこれからも手を取り合って自分は生きていくだろう。
 もう一人の自分が言った通り、過去に囚われて生きても何も生み出さない。
 だから…前を向いていくのが正解なのだ。
 そう考えたが…それでも、鮮やかな桜並木を眺めていきながらフっと
瞳を細めていった。
 
(それでも…オレは桜を見る度、お前と…澤村さんの事を思い出し、
回想するだろう…。過去ばかりを見つめて生きることはいけない事だけど、
お前のことも…今まで生きてきて体験したことも全て、オレの生きてきた証であり…
軌跡だから。…回想するぐらいは、許してくれな…)
 
 そうして克哉は一つの季節が過ぎ去っていくのを感じ取っていった。
 これからもきっと何度も春が巡るのを体験していくだろう。
 
―その度にきっと克哉は思い出していく。もう一人の自分と…親友だった
少年との出来事を…懐かしさと切なさを覚えていきながら…
 
 
 
 ※この記事は先日購入したDSのアドベンチャーソフト
「極限脱出 9時間9人9の扉」の感想記事です。
 興味ない方はスルーどうぞ。

 読んでも良いよ~という方だけ
「つづきはこちら」をクリックして
やって下さいませ。

 雑記記事は基本的にこのスタイルで掲載します。
 読みたい方だけ、本文を読み進められる形です。

 ※これは先日、購入することに決めた
「極限脱出 9時間9人9の扉」の販促PVを
紹介している記事です。

 ゲームの紹介記事等に興味ない方、
香坂と兄のやりとりなんてどうでも良いと
いう方はスルーして下さい。

 目を通しても構わないという方だけ
「つづきはこちら」をクリックしてやって
下さいませ~(ペコリ)

 2009年度 御堂誕生日祝い小説
(Mr.Rから渡された謎の鍵を使う空間に眼鏡と御堂の二人が
迷い込む話です。ちょっとファンタジーっぽい描写が出て来ます)

  魔法の鍵  
              7



 貪るように続けて御堂を認めて、二度目の行為を終えていくと…
二人はそのまま気だるい余韻に浸っていきながら、眠りについていった。
 深海を思わせる部屋の中で、ウォーターベッドの上に横たわって
眠っていると…本当に心地良い水の中に浸りながらまどろんでいるような
気分になった。
 水槽の向こうに広がるのは黒と藍色、そして新緑が折り重なった世界。
 しかし完全に深い眠りについている訳ではなく、浅い所で意識は留まり…
半分現実に意識を留めつつ夢の世界をさまよっているような奇妙な感覚だった。
 その時、克哉の脳裏に蘇ったのは御堂と出会ったばかりの頃だった。
 
―二年前、あんたと出会ったばかりの頃は誕生日なんて意識していなかったな…
 
 御堂との出会いは、二年前の秋の初めだった。
 その時の自分と御堂はこうやって誕生日を祝い合う間柄になど
到底なれそうになかった。
 むしろ険悪と言った方が良く…御堂は強引にプロトファイバーの
営業権を勝ち取った克哉を良く思っていなくて、順調に営業が行っている
最中に目標値をとんでもない数字に引き上げるという行動に出て来た。
 其処から、歪な関係が始まった。
 克哉が御堂を強引に犯し、その光景をビデオカメラに収めて脅迫する事で
心が伴わない肉体関係は暫く続けられていった。
 克哉はあの時期はともかく御堂を屈服させて自分の下に来させることしか
考えなかったし、御堂もまた必死に抗って…決して自尊心だけは
失わないと足掻いていた。
 決して屈しない御堂に焦れて、一度は長期間監禁までした。
 克哉のその行動によって御堂は十年掛けて築いた部長職を失うことになり、
一時は廃人になりかけた。
 ギリギリの所で克哉が己の過ちに気づいた事で…致命的な事態は避けられた。
 決別した後、御堂は自力で社会復帰を果たして…そして決別してから一年後、
再会して…こうして恋人という関係になれた。
 だが、克哉の中ではどこかですっきりしない感情が燻っていた。
 
―あんたは本当に…俺を、許してくれているのか…?
 
 アクワイヤ・アソシエーションを設立してから…御堂は仕事上でも
かけがえのないパートナーとなってくれている。
 同じ目標を抱きながら、会社の発展の為に努力している日々は心に
張りを与えてくれている。
 心の底から、この人と一緒に働けて良かったと思っている。
 だからこそ余計に…今の克哉の中では、かつてあんな行為をした自分が
この人の傍にいて果たして良いのだろうかという思いが…黒い染みのように
広がり続けて、苦しめ続けていた。
 寝返りを打って、自分の傍らに眠っている御堂の顔をそっと見つめていった。
 愛しい存在はこちらと違って…ぐっすりと眠りに就いているようだった。
 その無防備な姿を見れて…信頼されているのだと嬉しく思う反面、かつての
罪が鋭いトゲとなってチクチクと克哉を刺激してきた。
 
「孝典…あんたは本当に…俺を許してくれているのか…?」
 
 それは良く耳を澄まさなければ決して聞こえないぐらいの微かな声音だった。
 無意識の内に手を伸ばして…その頬を撫ぜていく。
 男性にしては…そして睡眠を削って連日働き尽くめになっている割には
手触りの良い肌だった。
 その瞬間…克哉の脳裏に、監禁していた頃の御堂の絶望に染まった顔と…
荒れた肌触りを思い出していった。
 
(あの頃のあんたは…本当に酷い有様だったな…。其処まで追い込んだのが…
俺だった訳だが、あの時の肌はこんな風に良い手触りではなかった…。
もっと荒れてて…乾いた感じがしていた…)
 
 人間の肌は、精神や栄養状態を表す一つの目安となる。
 これだけ多忙の状態でも今の御堂の肌の状態が良いのは…心に張りを
持って働いてくれている何よりの証だ。
 それに安堵を覚えていきながら…同時に、愛しいと思う気持ちが増せば
増すだけ…この人に以前してしまった過ちが本当に悔やまれて仕方なくて。
 こうして共にいられる事自体が一種の奇跡だと思った。
 相手の寝顔を見て嬉しいと思う反面…過去を思い出してしまった以上、
いたたまれない気がして…直視出来なくなる。
 頬をそっと撫ぜて唇を小さくついばんでいきながら…そっと身体を反転させて
起こしていくと…克哉は身繕いを整え始めていった。
 
「…眠れそうにないな…。少しこの辺りを歩いてみるか…。こんな奇妙な場所に
来ることも二度となさそうだしな…」
 
 それに一つ、克哉の中で気がかりになっている事があった。
 御堂が最初に開いた扉の事だった。
 愛し合っている最中は綺麗に頭の中から吹き飛んでいたが…何故、
御堂はあんな反応をしていたのかずっと心の底では引っかかり続けていた。
 だが…御堂の目がある状態では、間違っても勝手に開いて見る
訳にはいかなかった。
 しかし…こうして相手がぐっすりと眠っているのなら、こっそりと見に
行っても恐らく大丈夫だろう。
 
(何故…あの部屋の事が俺はこんなに気になるんだ…?)
 
 自分でも不思議だった。
 だが…どうして御堂があんな顔をしたのか知りたいという気持ちの
方が勝っていった。
 ベッドから立ち上がる寸前、御堂の方を振り向いていった。
 相手は連日の激務で疲れ果てているのだろう。
 こちらがゴソゴソやっても起きる気配を見せなかった。
 それが…克哉に小さく決意をさせる要因になっていく。
 
「…悪いな孝典。中を覗いて何があるのか確認したら…すぐにあんたの
元に戻ってくるから…」
 
 そう一言謝罪していきながら…克哉は部屋を出て、無数に並ぶ扉の中から…
御堂が最初に開いた扉を探し出していく。
 基本的に鍵を使用した扉以外はビクともしないので…幾つかドアノブを
回して確認している内にようやく…探し当てることに成功した。
 
「…恐らく、この扉だな。さて…この部屋に一体何があるんだ…?」
 
 緊張しつつ…克哉はゆっくりとドアを開いていく。
 部屋の中は薄暗く…チラっと見たぐらいでは何があるのかまったく
伺うことは出来ない。
 そうしてギイ…と軋み音を立てていきながら扉は開け放たれていき…
克哉はその奥に広がる光景を眺めて、目を見開き…そして息もとっさに
出来なくなるぐらいに驚愕を覚えていったのだった―
 二日ぶりの記事投稿です。
 本日は朝に「魔法の鍵」を一本書き進めようかな~と
早起きしたらブログメンテナンスにぶち当たって更新等は
一切出来ない状況だったので遅くなりました。

 とりあえず金曜日の朝か夜に、出来れば魔法の鍵を
一作書き進めて投下するのを目標にしています。
 ちょっとお待ち下さいませ。
 
 この記事は本日、ネットで購入手続きをしたニンテンドウDSの
新作ソフトに纏わる記事です。
 結構良い感じそうな雰囲気のアドベンチャーゲームっぽいので
紹介してみたり。
 興味ない方はスルーしてやって下され。

 目を通してやっても良い方のみ「つづきはこちら」を
クリックして下さいませ~!
  かなりお待たせしました。
  結局一話ではラストエピソードは収まり切らなかったので
2~3回に分けて掲載する形にしました。
  37とか38で終わるのキリが悪いけれど、ここで妥協するよりも
キチっと書きたいことを書いて終わりたいので決断しました。
 
  御克前提の澤村話。テーマは桜です。
  桜の花が舞い散る中、自分という心が生まれる前のことを
探り始める克哉がメインの話です。後、鬼畜眼鏡Rではあまりに
澤村が不憫だったのでちょっと救済の為に執筆しました。

 桜の回想                      10  
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         31  32  33 34   35

 もう一人の自と佐伯克哉が統合してから一年の月日が過ぎた。
 そして克哉が御堂と交際してから三年目を迎えていった。
 今では同居して一緒に暮らすようにもなり…この世でもっとも
愛しい人との関係は安定していた。
 仕事上も順調で、本多、片桐、太一、藤田、川出等…周囲にいる人達との
関係も良好だ。
 これ以上を望んだらきっとバチが当たるだろうと思えるぐらいに今、克哉は
恵まれた環境にある。
 その事に深く感謝しつつ…三月の下旬のある昼下がり。
 克哉はその日は少し遠くの会社に営業に回っていた。
 そしてようやく商談が終わった頃には午後四時を回っていて…一度会社に
戻るとかなり遅くなってしまうので、克哉は連絡して直帰をする事に
決めていった。
 御堂の方は本日は遅くまで社に残って業務をこなす予定だと連絡が
あったので…クタクタになって帰宅してくるであろう恋人に、手料理の
一つでも作って出迎えようと考えたからだった。
 
(さ~て、今夜のおかずは何を作ろうかな…。孝典さん、きっと疲れて帰ってくる
だろうからあっさりしていて…身体に優しい料理を幾つか作ろうかな…)
 
 上機嫌でそんな事をあれこれを考えながら帰路についていくと…たまたま
通りかかった河川敷の付近に見事な桜並木が並んでいるのが見えた。
 それを見た途端、克哉は一瞬怯みかけたがすぐに気を取り直して
それを眺めていった。
 
「ん、大丈夫…。うん、以前よりも桜は大丈夫になってきたな…」
 
 ドクドクと乱れる鼓動を深呼吸して落ち着かせていきながら…克哉は
改めてその淡い花びらをつけた桜の木の群集を眺めていった。
 まだ苦手意識が完全に消えたとは言い難い。
 それでも一時に比べれば随分と改善していた。
 かつては見る度に訳も判らない焦燥感を覚えていき、不快な想いや
怖いという感情が桜を見る度に湧き上がっていた。
 だが、今の克哉が感じるのは…もう一人の自分とその親友だった
少年の悲しいすれ違いを切なく思う感情が主だった。
 小さな歯車の狂いから決別する事になった二人。
 それを悲しく思うと同時に…自分という人間は、その体験があったからこそ
生まれて…今、こうして生きているという矛盾した感情が桜を見ると
嫌でも実感してしまう。
 
「欺瞞、だな…。本当にあの二人を想うならオレは消えなきゃいけないのに…
今は絶対に生きる事を手放したくない…。孝典さんを、みんなを…泣かせたくないから…」
 
 
 かつての何もない頃の自分だったら、もしかしたら全てを手放して
あの二人の為に消える事を選択してしまったかも知れない。
 けれど今の克哉にはそれは絶対に出来なかった。
 きっと自分が消えてしまったら、御堂を悲しませて絶望させてしまうだろうから。
 その想いが克哉を現実に引き留める楔となっていた。
 そして克哉もまた…寿命が訪れてしまった時は仕方ないが、それまでは…
命ある限りは御堂孝典という愛しい人の傍に寄り添って生きていきたい。
 その強い願いがあるからこそ、もうその道を選ぶことが出来ない事を
克哉は実感していった。
 その気持ちだけはどれだけ長い年月が過ぎても決して変わる事はなかった。
 
「ごめんな…」
 
 それは自分の中にとけこんでしまったもう一人の自分に対して
向けられた言葉だった。
 けれど言葉が返ってくる事はない。
 それは判りきった事だった。 
 自分の中に彼は溶けて、完全に一部となっている。
 かつて自分たちを隔てていた境界線のようなものが今は完全に
消えてあるべき形に戻っている。
 判っていてもその事実に克哉は胸が締め付けられるようだった。
 そして遠い目になっていきながら、満開の桜並木を眺めていく。
 その時、背後から呼びかける声が聞こえていった。
 
「克哉君…」
 
「っ…!」
 
 その声を聞いた時、心臓がとっさに止まるかと思った。
 弾かれたようにその方向を振り返っていくと…其処には予想通りの
人物が立っていた。
 顔を合わせるのは丁度一年ぶりだった。
 もう一人の自分が消えた時期を境にこの男性もまた接触をして
来なくなったから殆ど忘れかけていた部分があった。
 澤村紀次、もう一人の自分にとって親友だと信じていて手酷く裏切られた存在。
 そして克哉にとっては…今の自分が生まれるキッカケになった人物でもあった。
 彼があのような行為をしなければ、もし二人が親友のままであったなら
きっと今の克哉の人格は存在していなかっただろう。
 
「澤村、さん…どうして、此処に…」
 
「…心配しなくて良いよ。単なる偶然だ。この付近の会社に面接でちょっと
足を向けて…この辺りで桜をぼんやり眺めていたら、たまたま君が
ここに訪れたからね…」
 
「面接…? あれ、確か澤村さんってクリスタルトラストに勤めていたんじゃ…」
 
「ああ、先月辞表を出してね。今月一杯で辞めるつもりなんだ…。今は
再就職先を探している真っ最中かな…」
 
「このご時世に転職ですか…? それってかなり大変なんじゃ…」
 
「ああ、正直言うとこうやって就職活動をする度に今は本当に景気が
悪いんだなって肌身で実感していくよ。けど、後悔はしていないんだよね。
最悪…半年ぐらいは貯金とか失業保険で食いつなげるし、どっか一カ所
ぐらいは受け入れてくれる会社も必ず見つかる筈だからね…」
 
「…はい、そうですね…」
 
 相手の言葉に相槌を打ちながらも、克哉は妙な違和感を覚えていた。
 目の前にいるのは間違いなく澤村本人だ。
 だが、一年前に顔を合わせた時とはまるで別人のように穏やかな顔を
浮かべて前向きな発言を繰り返していた。
 そのせいか会話している印象も以前とはまったく異なって感じられた。
 
(澤村さん…以前よりも柔らかい雰囲気になっていないか…?)
 
 それに以前の彼だったらクリスタルトラストを辞めてなんて新しい所に
転職するなんて発言は決して口に出す事はなかっただろう。
 だが目の前に立っている澤村にはその事に対しての迷いや後悔の
ようなものはまったく感じられない。
 自分で考え抜いた末に選んだ。
 そういう潔さのようなものが態度に染み出していたのだ。
 だからどうしても突っぱねるような態度を取る事が出来ず、曖昧に
微笑んで相槌を打つことしか出来なかった。
 その態度に相手も引っかかりを覚えたのだろう。
 少し経ってから、澤村は怪訝そうに呟いていった。
 
「…ねえ、君と…僕が良く知っている克哉君とは別人格だっていうのは…
本当の話かい?」
 
「えっ…?」
 
 いきなり、予想もしていなかった話題を振られて克哉は言葉を失いかける。
 何故、この男性が自分たちの事を知っているのだろうかと疑問に思った瞬間。
 
ー唐突にもう一人の自分と澤村との間に起こった、桜が舞う中での出来事が
…回想が克哉の中に流れ込んで来た
 
 それは克哉にとっては知らない体験。
 もう一人の自分の記憶であり、思い出だった。
 そして彼の最後の場面でもあるその事実がゆっくりと伝わってくると
同時に克哉は知らず、目元が潤み始めていった。
 
(これは…お前の最後の記憶…なの、か…?)
 
 鮮やかに桜の花が咲き誇る光景の中、もう一人の自分がかつて
親友だった存在を許して消える運命を受け入れていく場面が
脳裏に浮かび上がっていく。
 
―そう、か…お前はこの人を…許した、のか…
 
 そしてもう一つの強い願いを感じ取っていく。
 彼もまた、自分の最愛の人を…御堂を想い、そして配慮
してくれていたのだ。
 だから親友と和解しても、自らが消える運命を享受したことを知って…
再び克哉は切ない気分になっていった。
 本当に桜の花のように潔い引き際だと感じた。
 桜の花が強く印象に残るのは美しいのと同時に、その花が咲く期間は
短くあっと言う間に散りゆくからだろう。
 それは時間にすれは本当に瞬く間の出来事だった。
 そして逡巡し、若干間を空けてから返答していった。
 
「えぇ、その通りです。貴方の親友であった佐伯克哉と…
今、目の前に存在するオレは…同じ身体を共有していても感じ方も考え方も、
持っている記憶もそれぞれ異なります…」
 
 自分の恋人である御堂にすらまだ打ち明けていない事実を
目の前の相手に告げていった。
 だが、澤村はその言葉をいっさい疑う様子を見せなかった。
 そっと目を伏せていき、克哉の言葉を受け入れていく。
 
「そっか…なら、もう一人の克哉君は…本当に消えてしまったのかな…?」
 
「いいえ、オレの中にいます…。今は完全に溶けてしまいましたが…
ちゃんと此処に存在しています…」
 
 そして克哉は無意識の内に己の胸元に手を当てていった。
 そう、もう一人の自分は今は言葉を交わせなくても…対面する事が
叶わなくても、ここにいてくれる。
 確信しているから、はっきりした口調で克哉は口にしていった。
 
「そっか…やはり、もう二度と…あちらの克哉君と僕は会えないんだね…」
 
「はい…」
 
 相手の悲しそうな表情を見て、僅かに残っていた相手への警戒心や
敵愾心が静かに溶けていった。
 克哉と同じようにもう一人の自分が消えてしまった事に対して
切なそうにしている態度が、共感を呼んだからかも知れなかった。
 そのまま澤村は口を閉ざして、何かいいたそうな眼差しを浮かべて
こちらを見つめてきた。
 克哉も無言で、相手を見つめ返していく。
 お互いの瞳に浮かぶ感情は複雑で、これ以上何を口にすれば良いのか
二人とも判断しかねた。
 
( …例え同じ佐伯克哉であっても、この人はオレにとっては親友でも、
友人でもどちらでもない…)
 
 もう一人の自分の存在を惜しんでくれている相手に対して残された
克哉はどんな言葉を掛ければ良いのか判らない。
 それは克哉の中には「澤村」は眼鏡の方の親友だったという想いが
存在するからだ。
 今の自分と深く関わった訳でも、友人として繋がった事がある訳でもない。
 この人と自分は「知り合い」や「顔見知り」以上の関係ではないのだから…
だから、何も言えないまま無言の時が過ぎていった。
 そして長い沈黙の後、先に口を開いたのは澤村の方だった。
 
「…これは僕の勝手な気持ちなんだけど…君に、聞いて欲しいんだけど…
良いかな…?」
 
「えっ…はい、オレで良ければ構いませんよ…」
 
 そう男が問いかけて来た時、以前からは考えられないぐらいに穏やかな
瞳をしていたから克哉は少し身構えながらも了承していく。
 その返答を聞いて、澤村もまた優しい表情を浮かべていった。
 
「…ありがとう。感謝するよ…。さっき出会い頭に言った通り、今…僕は
クリスタルトラストを辞める決意をして…再就職先を探している最中なんだけど…
そうしようと思ったキッカケを作ったのは、もう一人の克哉君との間に
起こった事が一番の理由なんだ…」
 
「…そう、なんですか…?」
 
「…うん。上手く言葉に出来ない…。君の方に、どう伝えれば良いのか
判らないんだけど…僕はいつの間にか人を貶めるような事を何度も
繰り返して来た。クリスタルトラストという会社自体がそういう事を生業に
しているような企業だ。其処にいても僕は克哉君との一件以前は何も
感じなかった。むしろ僕にもっとも適している会社に勤務出来ていると
すら思っていたんだ…」
 
「………」
 
 相手の言葉は更に続いていく。
 克哉は余計な口を挟まずに、澤村の言葉に真剣に耳を傾けていった。
 纏っている雰囲気も以前とは異なり、優しいものに変わっているからだろう。
 かつて相手に感じていた嫌な感じは綺麗に払拭されていたからこそ…
克哉も相手の独白に付き合う気持ちになっていた。
 
「けどね…克哉君が僕の目の前で鮮やかに、と言えば良いのかな…まるで
桜の花が散るみたいに綺麗に消えてしまってから、初めて…僕は自分の仕事が
汚いって。胸を晴れるような事をやっていなかったって…そんな事に気づいたんだ。
それでも認められてそれなりの地位を得た会社をこの年で辞めるのは
結構な迷いがあった。…だけど、僕はもしもう一度…僕の親友だった方の
克哉君に会える事があったなら、胸を張って彼に会いたいと…信じたくないけど、
そんな気持ちが芽生えてしまったんだ。だから僕は…生きる場所を
変える決意をしたんだよ…」
 
「澤村、さん…」
 
「僕は…彼の傍にいたかった…。肩を並べて、生きたかったんだ…。
今、君と…君の隣にいる人との関係のように…切磋琢磨して、お互いに
高めあって刺激しあえるような…そんな関係を作りたかったんだと…
今更ながらに、思ったから…」
 
 その瞬間、澤村は顔を少し歪めて僅かに涙を浮かべていった。
 克哉はその表情を目の当たりにして…何も、言葉を掛けれなかった。
 小さな罪悪感のようなものが芽生えていく。
 だが、それに囚われる訳にはいかなかった。
 自分が生きる、という事はこの人に寂しさと痛みを与えることが判っていても…
今の克哉には決して手放したくない存在がいるから。
 だから…少し考えた後、しっかりとした口調で克哉は告げていった。
 
「…なら、その痛みをしっかりと受け止めて生きて下さい…。あいつが
貴方に残した想いをどうか無駄にしないで下さい…」
 
「うん、そのつもりだよ…」
 
「そして…もう一つ。オレは決して、もう一人の『俺』の代わりにはなりません…。
貴方は以前の俺の親友という存在であっても、オレにとって貴方は…ただの
顔見知りや百歩譲って友人という存在でしかありません。だから…あいつを
本当に大事に想っているのなら、オレとは必要以上に関わらず、その気持ちを
大切に抱いていて下さい…。オレと貴方は、決して親友にはなれません。
貴方はオレの中に…いえ、オレの向こうに必ずあいつの影を求めてしまう
でしょうから…。『オレ』を必要としない、見てくれない相手の友人や
親友には決してなれません…」
 
「っ…!」
 
 それは痛烈に、もう一人の佐伯克哉を求める今の澤村紀次に
とっては死刑宣告にも等しい言葉だった。
 だが、克哉は決して譲るつもりはなかった。
 澤村が眼鏡の方を求めて、その夢を追い求めて…今の自分と
繋がりたいと望むならばそれを決して受け入れる訳にはいかなかった。
 自分は、あいつじゃない。
 例え同じ身体を共有していて…佐伯克哉と呼ばれる存在であっても、
その心のあり方は大きく異なる存在同士なのだから。
 もう一人の自分の心を御堂が恋人とみなす事がなかったように…
澤村紀次にとっても、今の佐伯克哉が親友の座に収まる訳にはいかない。
 克哉はそう確信して、残酷だと承知しながらも…その言葉を告げていった。
 その瞬間、澤村は泣きそうな顔を浮かべていた。
 けれど断腸の思いで、克哉は相手に決して手を伸ばさなかった。
 相手の瞳の奥に宿る想いを…薄々とは察していく。
 だが、敢えて気づかない振りをしてそっと…目を伏せていった。
 直視しないようにしながら…克哉はそっと言葉を紡いでいく。
 
「…ごめんなさい。貴方にとって残酷な言葉であると承知しています…。
けれど中途半端にオレと関わることはあいつの最後の想いを無下に
する事に繋がると思いますから…。あいつを大切に思うのならば、
その面影を大事にして下さい…。もう一度言います、オレはその代わりには
なれませんから…」
 
「そうだね…判ったよ。御免ね…未練がましい態度を取ってしまって…。
僕はもう、行くよ…。けど、最後にこれだけ言わせて欲しい…。僕は、
もう一人の克哉君と再会出来て…最後に長い間わだかまっていた事を
ぶつけて解り合うことが出来て本当に良かったと思っているよ…」
 
 そうして澤村は寂しそうな笑みを浮かべながら、克哉から
背を向けていった。
 その立ち去っていく姿は切ないものが感じられた。
 後ろ髪を引かれる想いを感じても、それでも克哉はグっと堪えて
澤村を見送っていく。
 
「…さようなら、佐伯君。君の未来に幸いがある事を心から祈っているよ…」
 
「えぇ、さよなら…澤村さん。オレの方からも貴方が幸せになる事を
祈らせて頂きます…」
 
 どこまでも他人行事な別れの挨拶だった。
 けれど、これが今の佐伯克哉と澤村紀次との正しい距離間なのだ。
 最後だけ澤村はこちらを「佐伯」と呼んだ。
 それは今、ここにいる佐伯克哉を自分の親友だった少年と違うという
事実を受け入れた何よりの証だった。
 桜が舞い散る中、澤村の姿が遠くなっていく。
 あっという間にその姿は遠くなり、そして…花吹雪の中に紛れて
消えていこうとしていた。
 そして完全に消える寸前、一度だけ澤村は振り返って…離れていても
しっかりと聞こえるようにこう告げていった。
 
―ありがとう。どんな形でも…もう一度君に出会えて、僕は
嬉しかったよ…克哉君…
 
 そして最後に、『もう一人の佐伯克哉』に向かって別れの言葉を
告げながら…精一杯の笑顔を見せて…彼はその場を立ち去っていった。
 その瞬間、克哉の涙腺は緩んでいった。
 視界が歪んで、頬に涙が伝い始める。
 
「あれ…オレ、どうして…涙、が…」
 
 自分の意思と関係なく、熱い涙が後から後から溢れてくる。
 その瞬間克哉は…自分の中にいる眼鏡の心が、泣いているのだと実感していく。
 
(…やっぱり…お前も、澤村さんの事を今でも大切に想っているんだな…)
 
 再び切なさと罪悪感を覚えていくが…克哉はこれで良かったのだと
自分に言い聞かせていく。
 澤村の中に潜んでいた想いは、きっと恋に近いものだ。
 本人に自覚はなかったようだが…克哉は今日のやりとりの最中、
その事を確信していた。
 それまでの自分の生き方を変えようと想うぐらいにもう一人の自分が
澤村にとって大きな存在になっているからこそ…克哉は自分が、
彼と関わる訳にはいかないと思ったから…。
 
(これで良いんだ…。あの人とオレが交流を持っても、あの人はオレを
あいつの代わりとしか見ない…。それにオレには孝典さんが…最愛の人がいる。
だから…こうするしかなかったんだ…)
 
 自分が傍にいれば、きっと澤村を縛ってしまうから。
 いつまでもいつまでも叶わぬ想いを胸に秘めて…苦しめてしまうから。
 彼の中にある佐伯克哉への想いに、ピリオドを打つ為には克哉はそういうしかなかった。
 けれど…このやりきれない思いは、どこに向ければ良いのだろう。
 自分の存在が二人を引き裂いた事実に、克哉は胸が潰れそうになった…。
 その瞬間、突風が吹きぬけていき…大量の花びらが周囲に舞い散っていったのだった―
 
 
 
 


  後書き
(興味ある方だけつづきはこちらをクリックして読んでやって下さい)
 桜の回想36、現在8~9P目ぐらい。
 それでもまだ終わる気配ありません。
 12P以上のボリュームになるかもなので…もうちょい
時間下さい。
 最悪、二回に分けての掲載になるかもな勢いです。
 今朝までにそんな理由で間に合わないで本気で
すみません~!
 今夜か、明日の朝までには出来るだけ仕上げます!!
 お待たせして本当にすみません!
 けど、ここが締めなので全力で書かせて下さいませ!
 ではでは!
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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